著者
大島 信子
出版者
藤田医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究では、これまでの研究によって得られたインフルエンザ中和抗体を利用し、様々なタイプのインフルエンザウイルスに幅広く交差反応する抗体を血清中から検出する方法を検討している。昨年度よりA型インフルエンザグループ1に属するウイルス株に対し幅広く中和能を持つ抗体を検出することを目標とし、競合ELISAにより検討している。2009年パンデミックワクチン接種前後のヒト血清のウイルス株への結合活性を指標に、グループ1ウイルス株中和抗体存在下における活性減少での検出を目指していたが、ワクチン接種後の血清においても、大きな活性減少は見られなかった。そこで、方法論を再考し、血清共存下におけるグループ1中和抗体の結合活性減少率を検討することとした。その際、検出に使用する中和抗体をビオチン化して、ストレプトアビジン-HRPでの検出系を構築し、ワクチン株に対する結合活性を検討したところ、結合活性の検出が可能であった。そこでワクチン株濃度、ビオチン化抗体、およびストレプトアビジン-HRPの濃度を検討し、ビオチン化していない中和抗体共存下におけるビオチン化抗体の活性を検出したところ、十分な結合活性の減少が検出できた。その条件下で、ワクチン接種前後の血清を50倍、200倍希釈濃度で共存させたところ、ワクチン接種後の血清共存下では、血清濃度依存的に中和抗体結合活性が減少した。さらに、同一ドナーによる季節性ワクチン接種前後の血清を用いた場合でも同様の良好な結果が得られた。本検出法では、グループ1ウイルス株を幅広く、さらに将来にわたって中和可能な抗体の血清中における存在を確認できる。季節性ウイルス株であるA型H1N1型は、将来パンデミックが予想されているH5N1型もグループ1ウイルスに属しており、予防対策として有用である。
著者
嶋 秀明
出版者
横浜市立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究は新規粘膜ワクチンの創出を最終目的とし、ドラッグデリバリーの標的分子として腸管粘膜において抗原取り込みに特化したM細胞上に存在している事が示唆されているSIgA受容体の探索を行うものであった。初年度、次年度において、いくつかの試験方法を試みた結果、適切にSIgA受容体を探索することが困難であり、また、新たにM細胞上にはIgGと結合する分子の存在が示唆された。本研究が新規粘膜ワクチンの創出であるため、同時期に同定されたM細胞特異的な抗原取り込み受容体「GP2」を標的としたワクチン創出を行った。ビオチンと特異的に結合するストレプトアビジンと抗GP2抗体の可変領域を繋いだ融合タンパク質をドラッグデリバリーツールとして用いた。当該タンパク質をanti-GP2-SAと名付け、精製度やGP2に対する結合能、糞便中抗原特異的IgA量および誘導されたlgAによる感染防御の評価をマウス組織や、マウスに対する投与試験によって確認した。その結果、anti-GP2-SAは抗体の可変領域とストレプトアビジン領域を同時に持ち、GP2に対する結合能も損傷を受けていないことが示された。さらに、anti-GP2-SAをマウスに経口投与した結果、抗原特異的な分泌型IgAの力価が、対照群に比べ有意に増加している事が示された。抗原を異なるタンパク質、且つ、複数のタンパク質を同時に結合させたものを投与した場合においても、抗原特異的な糞便中IgAの力価が上昇している事が示された。新規粘膜ワクチンanti-GP2-SAによって誘導された抗原特異的なIgAは、致死性のSalmonellaを感染させた場合に、有意に生存率を上げることが出来ることが示された。また、生存率と誘導された糞便中IgA量との間には有意な相関があろうことが示唆された。なお、これらの結果をまとめた論文は英語論文誌へ投稿されている。本研究結果は、腸管に存在するM細胞を標的とした粘膜ワクチンが、これまで経口粘膜ワクチンが実用化されてこなかった原因となるいくつかの課題をクリアし、さらに、腸管免疫の研究をより詳細に解析することの出来る有用なシステムとなる。
著者
関川 綾乃 高木 俊一 磯崎 健一
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.291-295, 2018-05-15 (Released:2018-06-23)

病的肥満患者に対する意識下挿管を同一症例で短期間に3回経験した.57歳,男性.身長173cm,体重150kg,BMI 50kg/m2.左上腕骨骨折に対し観血的骨接合術を予定した.マスク換気困難・挿管困難が予想され,意識下挿管を選択した.鎮静薬投与後,局所麻酔薬を散布しMcGRATH(McG)で気管挿管を試みたが,声門の同定に難渋し約30分かかった.33日後,右大腿骨骨折に対し観血的骨接合術を予定した.エアウェイスコープ(AWS)による声門の同定は容易で,約10分で挿管できた.初回手術から42日後,両上腕骨骨折に対する観血的骨接合術を予定した.AWSによる声門の同定は容易で,約15分で挿管できた.AWSは病的肥満患者の意識下挿管に有用である可能性が示唆された.
著者
梅垣 雄心 中村 雅俊 武野 陽平 小林 拓也 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101963, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】臨床現場において、ハムストリングスのストレッチングは多くの場面で用いられている。近年、ストレッチングの効果に関して多く報告されているが、ストレッチング法について検討した報告は少なく、特に内外側ハムストリングスの選択的なストレッチング法について、科学的根拠は示されていない。理論的に筋のストレッチングは筋の作用と逆方向へ伸張すべきであり、ハムストリングスは股関節伸展・膝関節屈曲作用に加え、内側は股関節内旋、外側は外旋作用を有していることから、内側は股関節屈曲・外旋位から膝関節伸展、外側は股関節屈曲・内旋位から膝関節伸展の他動運動が効果的なストレッチングになると考えられる。その一方で股関節屈曲・膝関節伸展に股関節外旋を加えることで外側を、内旋を加えることで内側を選択的に伸張できるという報告もあり、統一された見解は得られていない。そこで、本研究では筋は伸張されると硬くなるという先行研究に基づき、超音波診断装置と弾力評価装置を用いて筋硬度を測定し、筋の伸張量の指標とした。本研究の目的は股関節屈曲・膝関節伸展に股関節の内旋と外旋を加えることが、内・外側ハムストリングスの伸張量に与える影響を明確にすることである。【方法】対象は下肢に神経学的及び整形外科的疾患を有さない健常男性17名(平均年齢24±3.4歳)の利き脚(ボールを蹴る)側の大腿二頭筋(以下:BF)及び半腱様筋(以下:ST)とした。ストレッチング肢位は、背臥位でベッド側方から非利き脚をたらし、ベルトで骨盤を固定した。試行は股関節90°屈曲、膝関節90°屈曲位(以下Rest)、股関節 90°屈曲・最大内旋からの膝関節伸展(以下IR)、股関節90°屈曲からの膝関節伸展(以下NOR)、股関節90°屈曲・最大外旋からの膝関節伸展(以下ER)の4試行とし,IR、NOR、ERでは痛みを訴えず、最大限伸張する角度まで他動的関節運動を行い、その時の膝関節伸展角度と筋硬度を測定した。 筋硬度の評価はテック技販製弾力評価装置(弾力計)と、SuperSonic Imagine社製超音波診断装置の剪断波エラストグラフィ機能 (以下:エラスト)を用いた。弾力計では圧力20NでRestのみ2回測定し、その平均値を算出した。IR、NOR、ERは1回の測定値を使用した。エラストでは全て1回の測定値を使用した。測定位置は,坐骨結節と外側上顆を結ぶ線の中点の位置でBFを、坐骨結節と内側上顆を結ぶ線の中点の位置でSTを触診しながら測定を行った。統計学的解析では、BFとSTにおける筋硬度値と膝関節伸展角度をそれぞれ各条件間でWilcoxon検定を用いて比較し、Bonferroni補正を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には研究の内容を説明し、研究に参加することの同意を得た。【結果】BFでは、弾力計の値はRestに比べ、IR,NOR,ERが有意に減少し、エラストの値はRestに比べ、IR、NOR、ERが有意に増加しが、両筋硬度ともIR、NOR、ERの間に有意な差は認められなかった。STでは、弾力計の値はRestに比べ、IR、NOR、ERが有意に減少し、ERに比べ、IR、 NORが有意に減少したが、IRとNORには有意な差は認められなかった。エラストの値はRestに比べ,IR,NOR,ERが有意に増加し、ERに比べIR、NORが有意に増加したが、IRとNORには有意な差は認められなかった。膝関節伸展角度は、NORで-21.5±12.2、IRは-31.5±7.2、ERは-36.5±8.8であり、NORはIR,ERに比べ有意に高値を示し、IRはERに比べ有意に高値を示した。【考察】本研究では、 BFはIR,NOR,ERの間で伸張量に変化がなかったことから、BFの伸張量を股関節内外旋の動きにより、コントロールすることは困難であることが示唆された。一方、STはERに比べIR、NORの方が有意に伸張されたことから、大きな外旋の動きを加えた場合より、股関節内外旋の動きを加えない場合や大きな内旋の動きを加えた場合の方が、STは伸張されやすいことが示唆された。この理由として、内側ハムストリングスの股関節内旋作用、外側ハムストリングスの外旋作用というのは解剖学的肢位での作用であり、股関節屈曲や最大内外旋することによって作用が変化している可能性が考えられる。また、ERにおいて、NORやIRと比較して膝関節伸展角度が有意に小さく、BFが伸張されていないことから、ERではハムストリングス以外の要素が優先的に膝関節伸展を妨害しており、その結果としてBFが伸張されなかった可能性も考えられる。【理学療法学研究としての意義】ハムストリングスのストレッチングにおいて、股関節内外旋の動きを加えることでより伸張することは難しいことが考えられ、ハムストリングスのストレッチングにおいては股関節内外旋の動きを大きく加える必要はないことが考えられる。
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
VIRUS (ISSN:18843425)
巻号頁・発行日
vol.7, no.6, pp.430-448, 1957-12-25 (Released:2010-03-16)
著者
Felipe F. NASCIMENTO Vírginia I. MARQUES Giulianne C. CROCIOLLI Gabriel M. NICÁCIO Isabela P. A. G. NICÁCIO Renata N. CASSU
出版者
JAPANESE SOCIETY OF VETERINARY SCIENCE
雑誌
Journal of Veterinary Medical Science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.81, no.5, pp.764-770, 2019 (Released:2019-05-31)
参考文献数
45
被引用文献数
15

The aim of this study was to compare the effects of laser acupuncture and electroacupuncture on postoperative pain and analgesic requirements in cats. In a prospective, randomized and blinded clinical study, thirty cats undergoing ovariohysterectomy were sedated with intramuscular (IM) ketamine (5 mg/kg), midazolam (0.5 mg/kg), and tramadol (2 mg/ kg). Before the induction of anesthesia, the animals were randomly distributed into three groups of ten cats each: LA: bilateral Stomach 36 (ST-36) and Spleen 6 (SP-6) acupoints were stimulated with an infrared laser; EA: bilateral ST-36 and SP-6 acupoints were stimulated with an electrical stimulus; Control: no acupuncture was applied. Postoperative analgesia was evaluated in the first 24 hr post-extubation using the Interactive Visual Analogue Scale and UNESP-Botucatu Multidimensional Composite Pain Scale. Rescue analgesia was provided with IM tramadol (2 mg/kg), and the pain scores were reassessed 30 min after the rescue intervention. If the analgesia remained insufficient, meloxicam (0.2 mg/kg IM, single dose) was administered. Data were analyzed using t-tests, the Mann-Whitney U test, and Friedman test. P<0.05 was considered significant. The pain scores did not significantly differ between the treatment groups at any time point (P>0.05). The prevalence of rescue analgesia was significantly higher in the Control group than in the LA and EA groups (P=0.033). Preoperative laser and electroacupuncture reduced the need for rescue analgesia during the first 24 hr after ovariohysterectomy.
著者
佐高 信
出版者
金曜日
雑誌
金曜日
巻号頁・発行日
vol.23, no.22, 2015-06-12
著者
釜田 史
出版者
愛知教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、戦後日本における教員養成システムの中核を担い続けている「課程認定制度」の成立過程について、国立公文書館や各大学内に所蔵されている史資料を活用し明らかにすることを目的としている。また、戦後日本の教員養成システムの中核的な人物だった玖村敏雄が残した史資料(「玖村文庫」、山口県立山口図書館所蔵)の調査・収集・整理・分析も重点的に行い、その研究成果は『「玖村文庫」目録(山口県立山口図書館所蔵)』(報告書)として、「解題」「玖村敏雄著作目録」「玖村文庫目録」「植木鉢(玖村の自叙伝)」を収録し刊行した。
著者
東 禹彦
出版者
日本皮膚科学会大阪地方会・日本皮膚科学会京滋地方会
雑誌
皮膚の科学 (ISSN:13471813)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.347-353, 2008 (Released:2010-12-06)
参考文献数
4

2004年4月からの3年間に東皮フ科医院を受診した爪甲鈎彎症患者は女性82名,男性6名であった。30歳代の女性が26名であった。爪甲を削って平坦化したのは6名で,QOLは改善した。4例の軽症例では絆創膏による牽引のみで治療したが,全例軽快あるいは治癒した。根治術としては抜爪数ヵ月後に末節骨を削って爪床を平坦化する手術を行い,爪床形成術後は絆創膏による牽引を行った。術後1年以上経過した症例は27例,35趾で,25趾では治癒あるいは略治となった。他の10趾では不成功となった。不成功の原因は,適応外の症例に行ったもの,途中で受診しなかったもの,絆創膏による牽引が不十分だったものなどである。爪甲鈎彎症は治療により正常化し得る疾患であることを強調したい。