著者
内田 学 山口 育子 月岡 鈴奈
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C-107_1, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】パーキンソン病(Parkinson disease:以下PD)は中脳黒質のドパミン作動性有色素神経細胞が脱落し,線条体でのドパミン消失によって安静時振戦・筋固縮・無動・姿勢反射障害等の症状が現れる.PD患者の嚥下障害は予後に関係する重要な因子であり,経過中90〜100%に出現し死因の25%は肺炎で,肺炎の発症のリスク因子として誤嚥は重要である.PD患者の嚥下障害に対する治療法としては薬物療法が選択され,L-dopaなどが代表的に用いられている.治療効果として口腔期の異常は改善させるが食物移送に関与する咽頭期の異常に対して効果が不十分である.間接的介入として摂食・嚥下リハビリテーションが併用されているが代表的な治療法はShaker exerciseである.この介入効果は舌骨上筋に対する筋力増強が目的であり主として顎二腹筋などの筋萎縮に対して実施される.PD患者の嚥下障害はドパミン欠乏による咽頭や喉頭筋群の固縮によって咀嚼や嚥下,喉頭蓋の閉鎖不全が起こるにも関わらず嚥下筋の筋力を焦点にした介入が実施されている.我々は,第27回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会にて舌骨下筋に対する超音波療法(Ultra sound:以下US)が嚥下クリアランスを改善させることを報告した.その検討は温熱効果の介入効果のみであることから,プラセボ群との対比を用いることでUSの効果を明確にすることを本研究の目的とした.【方法】対象は, PDと診断され日常的に嚥下障害を呈している者19名とした.Head dropping testが陽性を示し頸部筋の固縮を認め嚥下障害の指標となる相対的喉頭位置が49%以上であることを統制条件とした.乱数表を用いてUS介入群10名、プラセボ群9名をそれぞれ割り付けた。US介入群は甲状舌骨筋を対象筋としてUSを実施した.出力周波数は3MHZ,照射時間率は,照射時間/(照射時間+休止時間)で設定し50%,BNRは3.5±30%,治療頻度は3回/週×2セット(合計6回)とし10分間実施した.プラセボ群はUSの出力をOFFにした状態で同一筋に対して同条件下の時間頻度で回転法を実施した.測定項目としては,嚥下機能を評価するために改訂水飲みテスト(modified water swallow test : 以下MWST),相対的喉頭位置,嚥下時における嚥下関連筋の表面筋電図(振幅,活動時間),食事摂取時に出現する顕性誤嚥の回数を測定した.両群共に全ての測定を介入前に実施し,2週間の介入後に再測定を実施した.統計的手法としては,群内におけるMWST,相対的喉頭位置,筋電図学的解析,顕性誤嚥回数の介入前後の差についてMann-Whitney's U testを実施した.【結果】US群では,MWST,嚥下筋活動の振幅,活動時間,相対的喉頭位置,誤嚥回数が介入後に有意な改善を認めた.一方でプラセボ群では全ての項目に統計学的な差は認めなかった。【結論】PDの誤嚥に対するUSは,固縮による異常な筋緊張を抑制し咽頭部における活動性をより改善させた.プラセボ群では変化を認めないことから,舌骨下筋に対するUSは誤嚥の予防効果として有効であることが示された。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は東京医療学院大学研究倫理委員会の承認(17‐37H)を得たのちに実施した.すべての対象者には視覚材料を用いて研究内容を十分に説明し,書面にて同意を得た後に測定および介入を実施した.
著者
末次 南月 後藤 公文 川久保 洋晴 曲淵 裕樹 前田 泰宏 松永 和雄
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.149-152, 2019 (Released:2019-03-28)
参考文献数
14

パーキンソン病(Parkinson disease; PD)の73歳女性が誤嚥性肺炎のため入院し,食事中に嚥下を誘因として徐脈を伴う意識消失が生じた.上部消化管内視鏡検査では食道に器質的病変をみとめず,頸部食道におけるバルーン拡張にて意識消失に至る洞停止と徐脈が生じた.PDに伴う食道蠕動障害による頸部食道の拡張が迷走神経反射を惹起し嚥下性失神(swallow syncope; SS)が生じたと考えた.本例はhead-up tilt試験にて起立性低血圧をみとめ,心電図R-R間隔の変動とHolter心電図検査におけるRR50は正常であった.PDに由来する交感神経機能が低下し副交感神経機能は維持されている心血管系自律神経障害が,本例のSS発症に関与した可能性がある.
著者
清水 雅代
出版者
一般社団法人 日本糖尿病教育・看護学会
雑誌
日本糖尿病教育・看護学会誌 (ISSN:13428497)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.1-6, 2018 (Released:2018-05-22)
参考文献数
5

糖尿病合併がん患者は,化学療法時に使用するステロイド剤により血糖コントロールが悪化すると,感染や治療効果が半減するなどの問題から,糖尿病診療医と腫瘍治療医が連携して安全に化学療法を実施することの必要性が指摘されている.当院においても安全に化学療法を受けられることを目的に,化学療法をうける糖尿病合併がん患者の血糖管理基準を明確に示し,化学療法の指示を出す診療科と内分泌代謝科が連携してインスリン治療を必要とする糖尿病合併がん患者が安全に外来化学療法へ移行できるケアシステムを検討し導入した結果,安全な化学療法の推進につながることが示唆された.
著者
高橋 伸佳
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.63, no.8, pp.830-838, 2011-08-01

はじめに 「熟知している場所で道に迷う症状」を地理的障害と呼ぶ。ただし,意識障害,認知症,健忘症候群,半側空間無視など,他の神経症状や神経心理症状によって説明可能な場合は除外する。地誌的障害,地誌的失見当,地誌的見当識障害,広義の地誌的失認なども地理的障害とほぼ同義である。従来の文献にしばしば登場する「地誌的記憶障害」は,自宅付近の地図や自宅の間取りを想起して口述・描写することの障害[地理的知識の視覚表象能力の障害1)]であり,本稿でいう地理的障害とは異なる。 「熟知している場所」は,自宅付近,職場付近など発症前からよく知っていた場所(旧知の場所)だけではない。入院した病院内など発症後頻繁に行き来することによって,新たによく知るようになった場所(新規の場所)も含まれる。地理的障害では通常,旧知の場所でも新規の場所でも道に迷う。しかし,稀には新規の場所のみで症状を呈する例がある。これは健忘症候群における逆向性健忘と前向性健忘との関係に似ている。健忘症候群では通常この両者が併存するが,稀にはどちらかが孤立性に発現することがある2)。旧知の場所の中でも発症に近い時期に住んでいた場所では症状がみられ,発症から遠い時期の場所では異常がない症例3,4)の存在などは,逆向性健忘の「時間勾配」を思わせる。地理的障害では,現在まで旧知の場所のみの症例は報告されていない。しかし,理論的にはその存在が推定される。 筆者らは地理的障害を症候と病巣の違いから街並失認(agnosia for streetsまたはlandmark agnosia)と道順障害(defective root findingまたはheading disorientation)の2つに分類した5)。一言でいえば,前者は街並(建物・風景)の同定障害に基づくものであり,視覚性失認の一型と考えられる。後者は広い地域内における自己や,離れた他の地点の空間的定位障害であり,視空間失認に含まれる。 街並失認は相貌失認と合併して生ずることが多く,その存在自体は古くから知られていた6,7)。環境失認(environmental agnosia)8),場所失認(agnosia for place)などと呼ばれたこともある。筆者は多数例の検討から,その症候や病巣を整理し,地理的障害全体の中での位置づけを示したにすぎない。この症候を街並失認と呼ぶことにしたのは,物体失認,画像失認,相貌失認などと同様,「街並(建物・風景)」という視覚対象に対する失認であることを明確にするためである。最近まで,神経心理学の中で地理的障害に関する研究が後れをとっていたとすれば,孤立性の症状を呈する症例が少ない,検査方法が確立されていない,などの点とともに用語の混乱にその一因があったのではないかと思われる。 一方,道順障害は従来ほとんど注目されていなかった症候である。筆者らは街並失認の症候,病巣の分析を進める過程で,これとは異なる地理的障害の1例に出会った。街並失認での患者の訴えが「(よく知っているはずの)回りの景色が初めてみるように感じる」であるのに対し,その症例の訴えは「(よく知っている)目の前の交叉点をどの方角へ曲がればよいかわからない」というものであった。これは,私たちが道をたどる際に,現在いる地点の周囲にある建物・風景を確認するだけではなく,目的地の方角を意識していることとよく対応する。この方角定位能力が選択的に障害されている症例と考えられた。その後,さらに同様の症例を経験し,1990年9)と1993年5)に日本神経心理学会総会で発表するとともに,3例をまとめて原著論文10)とした。 本稿は街並失認と道順障害について,原著10,11)およびその後の総説12-15)や著書16)に記載した内容を総括し,さらに最近の知見を加えたものである。
著者
松田 智弘
出版者
日本道教学会
雑誌
東方宗教 (ISSN:04957180)
巻号頁・発行日
no.76, pp.p24-42, 1990-11
著者
國崎 貴嗣
出版者
[岩手大学農学部]
巻号頁・発行日
no.47, pp.49-58, 2016 (Released:2016-11-22)

単純無作為抽出法により,標本の大きさ96個(スギ79林分,アカマツ12林分,カラマツ5林分)の標本が得られた。間伐時の林齢における中央値は38年,本数間伐率における中央値は48%,間伐直後の推定相対幹距における中央値は18.6%であった。信頼度95%で母比率の信頼区間を推定すると,強度間伐実施から5~8年が経過した母集団全体のうち,下層植生被度が4以上であった林分割合は81~94%であった。また,低木層が形成された林分割合は62~80%であった。強度間伐実施後5~8年の場合,経過年数が1年増えるごとに,下層植生被度が4未満になりやすく,また,樹種がアカマツ・カラマツの場合,スギよりも低木層が形成されやすかった。
著者
原田 昭治
出版者
Japanese Society for Engineering Education
雑誌
工学教育 (ISSN:13412167)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.3_22-3_27, 2010 (Released:2010-06-08)
参考文献数
17

Quick globalization of human activity of economy has made English the most important international communication tool in the world past two decades. Taking the fact that the people speaking English as a mother language is less than ten percents of the total world population, into account, it is obviously to be noted that almost all the people using other language with different cultural background can basically truly be communicated not in English but in individual language. In this respect, learning multiple languages leads to be fascinated by different national culture and results in further enjoyment of one′s life. This is actually demonstrated in terms of the author′s experience in this paper.
著者
近藤 鯛貴 竹田 大将 佐藤 裕幸
雑誌
研究報告ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC) (ISSN:21888841)
巻号頁・発行日
vol.2019-HPC-172, no.15, pp.1-6, 2019-12-11

Intel HD Graphics (IHD) とは Intel 社の開発する CPU 統合 GPU である.高いグラフィック性能を必要としない安価なコンピュータ向けに作られていることから低コストかつ低消費電力である.しかし,近年ではその性能もあがり理論性能で約 1TFlops の製品も登場し,計算資源として非常に有用である.また,2018 年に Intel が公式に IHD 用 GPGPU 言語である C for Metal (CM) を公開したことにより IHD の計算資源を GPGPU 用途で活用できるようになった.そこで本研究では CM の言語仕様を調査し,いくつかの GPGPU プログラムを実装した.Flops による理論性能と実測性能の評価を行ったところ,サンプルの行列積プログラムにて 81.60 %の性能率を確認し,同 SoC 内の CPU と計算時間で比較したところ約 57 倍高速に動作し,IHD および CM の GPGPU 用途における有用性を示した.
著者
大八木 哲哉 浅田 風太 三輪 忍 八巻 隼人 本多 弘樹
雑誌
研究報告ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC) (ISSN:21888841)
巻号頁・発行日
vol.2019-HPC-172, no.24, pp.1-8, 2019-12-11

最先端のスーパーコンピュータは膨大な電力を消費しており,優れた電力管理手法が必要とされている.スーパーコンピュータの CPU やメモリには製造ばらつきに起因する消費電力のばらつきが存在することが報告されており,電力管理手法の開発においては電力ばらつきの影響を考慮した方がよいと考えられる.一方,演算アクセラレータとして多くのスーパーコンピュータに搭載されている GPU については,電力ばらつきに関する報告がほとんどない.我々は,これまでに,Reedbush-H に搭載された計 240 基の GPU には最大 16% の電力ばらつきが存在することを確認し,ばらつきの影響を考慮した電力モデルを高速に生成する手法を提案している.今回,さらに多くの GPU の電力を計測するために評価環境として T SUBAME3.0 を用い,計 256 基の GPU を対象に電力ばらつきの確認と上記手法の有効性の確認を行った.本稿ではその結果を報告する.
著者
坂口 浩三
出版者
特定非営利活動法人 日本気管食道科学会
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.68, no.5, pp.339-347, 2017-10-10 (Released:2017-10-25)
参考文献数
36

国際がん研究機関(IARC)はたばこ煙の中に70種類の発癌物質を同定している。発癌性の強い物質の代表にニトロソアミン類,多環芳香族炭化水素(PAHs)がある。日本人での喫煙によるによる肺癌の相対発生危険度は男性で4.4倍,女性で2.8倍といわれている。夫が喫煙者である場合,非喫煙者である妻の受動喫煙による肺腺癌発生リスクは2.03倍と報告されている。喫煙が扁平上皮癌,小細胞肺癌発生との関連が強いのは既知のことであるが腺癌や大細胞神経内分泌癌(LCNEC)の発生にも有意に関与していることがわかってきた。肺腺癌におけるK-ras遺伝子変異は喫煙と関連が強い。若年性肺癌ではCYP1A1多型等の代謝遺伝子的因子の関与がたばこ煙の感受性を高めている。COPD患者は非COPD患者と比べて3~4倍肺癌発生頻度が高く,肺癌を発症した場合は全生存期間が有意に悪い。IIPs合併肺癌の外科治療では術後のIIPs急性増悪(AE)のリスクがある。近年7項目よりなるリスクスコアにより適切な症例選択がなされるようになった。喫煙者の肺癌は悪性度が高い傾向があり周術期合併症の頻度も増す。同じIA期肺癌でも非喫煙者は全生存期間が長い。喫煙者でも中年以前に禁煙することによりたばこの身体への危険性はかなり回避できるといわれている。

1 0 0 0 OA 帝都

著者
喜田貞吉 著
出版者
日本学術普及会
巻号頁・発行日
1915