著者
近藤 光博
出版者
東京大学文学部宗教学研究室
雑誌
東京大学宗教学年報 (ISSN:02896400)
巻号頁・発行日
no.12, pp.p87-100, 1994

「マハトマ」の尊称で名高いMohandas Karamchand Gandhi(1869-1948)をして世界にその名を知らしめているのは,徹底した非暴力による政治運動,<サティアグラハ>である。彼は,<サティア>すなわち「真理」と呼ぶものを,自分の生きる時空において実現せしめんと,生涯にわたって真摯な努力を重ねた。そうした努力のうち,彼にとって最も重要だったものの一つが,虐げられた者の具体的救済であり,また別のものが,<アヒンサー>すなわち「非暴力」であった。そこから彼の<サティアグラハ>は生まれている。これに比すれば,ガンディーがきわめて厳格な禁欲主義者であったことは,広く知られているとは言えない。彼は,衣食住すべての生活領域にわたって,最も貧しく質素な生活をこそ最高のものとみなした。仕草や話しぶりも,非常に抑制された穏やかなものだったと伝えられている。彼の目指していたものは,あらゆる欲望と情動を意思のコントロール下においてしまうことであった。そして,こうした禁欲の諸実践もまた,彼にとっては<サティア>実現のために欠かすことのできない課題として認識されていたのである。なかでも性欲は,制御されるべき最も深刻な課題とみなされた。幼児婚の風習によって13才で結婚していたガンディーは,37才のとき,妻カストゥルバーイとの性交渉の断念に踏みきる。これが<ブラフマチャリア>の誓いである。その後の生涯,ガンディーは,この誓いを全うするため試行錯誤を重ね,比較的早い段階において,性欲の制御のためには全面的な禁欲の実践が必要だとの結論を得ている。すなわち,この誓いを境に,味覚と食欲の制御に始まって,彼のセルフ・コントロールの努力は次第に生活の隅々にまで及んでいくのである。こうした意味で,彼の<ブラフマチャリア>は,単に"性的禁欲"という伝統的な意味でばかりとらえられるべきではない。彼にとっての性欲の問題とは,彼の禁欲的ライフ・スタイル全体にとっての出発点・焦点としてのみ把握可能なものである。しかし,ガンディーの禁欲の全体像を論ずるのはこの小稿では足りない。本稿では,性的禁欲としての<ブラフマチャリア>に限定して議論を進めたいと思う。そして特に,彼がそこにかけた情熱,あるいは動機・目的を論じてみたいと思う。
著者
野口 孝俊 渡部 要一 鈴木 弘之 堺谷 常廣 梯 浩一郎 小倉 勝利 水野 健太
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集C(地圏工学) (ISSN:21856516)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.150-162, 2012 (Released:2012-02-20)
参考文献数
16
被引用文献数
1

東京国際空港(羽田空港)は,日本の国内航空ネットワークのハブ空港となっている.増加する旅客数に対して発着能力が限界に達していることに加え,国際線発着枠の拡大に対する要請も強い.そこで,新たな離発着能力を創出するために,沖合に4本目の滑走路を新設する羽田空港再拡張事業が2007年3月末に着工され,2010年10月末に供用開始した.羽田空港D滑走路の建設事業は,軟弱地盤が厚く堆積する地盤上の建設であること,河口部に位置するため,洪水時の河川流量を確保する観点から,一部に桟橋構造が採用されていること,短い工事期間が設定されたことなどから,最新の土木技術を集結し,さまざまな設計・施工上の工夫をした.本稿は,当該事業について,主に地盤工学の立場から,事業内容,地盤調査,人工島設計の概要をとりまとめたものである.
著者
佐々木 香織
出版者
新潟国際情報大学
雑誌
新潟国際情報大学情報文化学部紀要 (ISSN:1343490X)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.15-24, 2012-04
被引用文献数
1

本研究は、今後の方言調査のための基礎的データを提供するために、県内で使われている2 チームに分けるためのジャンケンの掛け声を取り上げ、その地理的分布を記述する。全国的に散見できる掌と手甲を使ったウラオモテ系の掛け声の県内の分布状況についても探る。調査データから作成した分布図から、県内の広い範囲で、グートッパー系の掛け声が分布していたところに、新方言として新潟市東部ではグーロ系が、西部ではグーパー( ハー) 系が、そして新潟市をとりまく周辺地域ではグーとチョキを使うグットッチ( ョ) 系などが進出してきたと考えられる。各語形の伝播の経路や時期を明らかにするには、新潟市周辺地域( 出雲崎、燕市、三条市、加茂市、五泉市など) の年代別データが特に重要であることがわかった。また、ウラオモテ系については旧吉田町、上越市で使用例があったが少数だったため、詳細な分布状況や伝播経路などについては今後の課題である。
著者
藤井 廉 今井 亮太 西 祐樹 田中 慎一郎 佐藤 剛介 森岡 周
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11694, (Released:2020-08-06)
参考文献数
36

【目的】運動恐怖を有する腰痛有訴者における重量物持ち上げ動作時の体幹の運動障害の特徴を明らかにすることである。【方法】腰痛がある労働者(以下,腰痛群)26 名と腰痛がない労働者(以下,非腰痛群)18 名が参加した。課題は重量物持ち上げ動作を5 回行い,動作時の体幹屈曲・伸展角速度および運動時間を計測した。運動恐怖の指標であるTSK を基に,腰痛群を低恐怖群(12 名)と高恐怖群(14 名)に群分けし,3 群間における体幹角速度,運動時間の比較および痛み関連因子との関係性を分析した。【結果】高恐怖群は非腰痛群,低恐怖群と比較して,1 試行目の体幹の伸展運動に要する時間に有意な延長と,体幹伸展角速度に有意な低下を認めた。腰痛群における1 試行目の体幹伸展角速度と運動恐怖に有意な正の相関を認めた。【結論】運動恐怖を有する腰痛有訴者は,重量物を挙上する際の体幹伸展方向への運動速度が低下することが明らかとなった。
著者
窪田 愛恵 伊藤 栄次 髙橋 直子 井上 知美 大鳥 徹 小竹 武 西内 辰也 平出 敦
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.6-13, 2019-02-28 (Released:2019-02-28)
参考文献数
13

目的:薬局・薬店もしくは薬剤師が関与し救急車が出動したケースを検討し,薬局・薬店における救急対応のニーズに関して検討した。方法:大阪市消防局の救急活動記録から,薬局・薬店もしくは薬剤師が関与した救急要請のあった事例を抽出して検討した。結果・考察:薬局・薬店が関連した事例は6年間で1,075件であった。救急要請の原因としては,774例が内因性で,全身倦怠感,失神,腹痛,痙攣,呼吸困難が多かった。このうち意識レベルに問題を生じたケースは183例あった。外因性は250件で,転倒に伴う打撲,挫創,骨折が多かった。病院外心停止の事例も10件報告されていた。結論:薬局・薬店では基礎疾患を有して複数の薬剤を常用している高齢者が数多く薬局・薬店を訪れるが,内因性の救急病態とともに,転倒に伴う損傷にも対応できる必要がある。一次救命処置ができる体制も重要である。

6 0 0 0 OA 本草図譜

著者
岩崎常正<岩崎潅園>//著
巻号頁・発行日
vol.第9冊 巻63果部山果類1,
著者
鈴木 宏子
出版者
千葉大学教育学部
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:13482084)
巻号頁・発行日
vol.68, pp.424-420, 2020-03

[要約]『土佐日記』は、五十五日間におよぶ舟旅の日記であり、旅の始まりから終わりまでの枠組みの中に五十五日分の小単位が連なるという構造を持つ。そして、それら小単位の中には、その日に起きたことや思ったことでさえあれば、どのような内容でも書き込める自由さがある。小稿では『土佐日記』の中から三つの場面を取り上げて、この作品の多彩な魅力を探りたい。一つめは二月五日条で、舟旅の困難さや、世俗の人へのシニカルな批評意識、また緊密に照応しあう言葉の連鎖が看取される。二つめは十二月二十七日条で、土佐で亡くした幼い娘に対する悲嘆と思慕が書き記される。三つめは一月二十日条で、月の出入りを通して海の広がりを捉える方法や、『古今集』撰者でもある紀貫之の文学論を読み取ることができる。
著者
勝見 久央 吉野 幸一郎 平岡 拓也 秋元 康佑 山本 風人 本浦 庄太 定政 邦彦 中村 哲
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会論文誌 (ISSN:13460714)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.DSI-D_1-12, 2020-01-01 (Released:2020-01-01)
参考文献数
28
被引用文献数
1

Argumentation-based dialogue systems, which can handle and exchange arguments through dialogue, have been widely researched. It is required that these systems have sufficient supporting information to argue their claims rationally; however, the systems do not often have enough information in realistic situations. One way to fill in the gap is acquiring such missing information from dialogue partners (information-seeking dialogue). Existing informationseeking dialogue systems were based on handcrafted dialogue strategies that exhaustively examine missing information. However, these strategies were not specialized in collecting information for constructing rational arguments. Moreover, the number of system’s inquiry candidates grows in accordance with the size of the argument set that the system deal with. In this paper, we formalize the process of information-seeking dialogue as Markov decision processes (MDPs) and apply deep reinforcement learning (DRL) for automatic optimization of a dialogue strategy. By utilizing DRL, our dialogue strategy can successfully minimize objective functions: the number of turns it takes for our system to collect necessary information in a dialogue. We also proposed another dialogue strategy optimization based on the knowledge existence. We modeled the knowledge of the dialogue partner by using Bernoulli mixture distribution. We conducted dialogue experiments using two datasets from different domains of argumentative dialogue. Experimental results show that the proposed dialogue strategy optimization outperformed existing heuristic dialogue strategies.