著者
冨田 晃
出版者
日本・美術による学び学会
雑誌
美術による学び (ISSN:24356573)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.1-20, 2022-10-05 (Released:2022-10-07)

小学校における刃物の扱いに関するアンケート調査をおこない1,196人から回答を得た。集計、分析の結果、小学校における刃物の扱いの実態に特段の地域差は認められないこと。戦後時代とともに変化してきたこと。その変化は、社会の変化と強く関係している一方で、学習指導要領とはあまり関係していないこと。刃物によるケガの発生頻度は、児童の日常から刃物を遠ざけたことに伴って高くなったこと。刃物によるケガが図画工作嫌いの児童を生じさせる一因になっていること。刃物によるケガの一因に教科書が示す「おかしな教え」があることなどが明らかになった。今後の課題は、安全指導の適切化と、刃物への責任感を育む教育をいかにおこなうかである。
著者
Myungjoon Kim Saho Osone Taesung Kim Hidenori Higashi Takafumi Seto
出版者
Hosokawa Powder Technology Foundation
雑誌
KONA Powder and Particle Journal (ISSN:02884534)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.80-90, 2017 (Released:2017-02-28)
参考文献数
48
被引用文献数
146 230

Laser ablation is a method for fabricating various kinds of nanoparticles including semiconductor quantum dots, carbon nanotubes, nanowires, and core shell nanoparticles. In this method, nanoparticles are generated by nucleation and growth of laser-vaporized species in a background gas. The extremely rapid quenching of vapor is advantageous in producing high purity nanoparticles in the quantum size range (< 10 nm). In this review, the formation mechanism of nanoparticles by laser ablation is summarized. Recent progress on the control of nanoparticle size and the challenges for functional nanoparticle synthesis by advanced laser ablation technology are then discussed.
著者
Lorrae MYNARD 春原 るみ 杉田 美歌
出版者
日本作業科学研究会
雑誌
作業科学研究 (ISSN:18824234)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.10-20, 2023 (Released:2023-07-06)
参考文献数
16

新型コロナウィルスは世界的な作業の混乱を招き,日常生活に広範囲な変化をもたらし,健康や Well-being に対する挑戦を与えている.この状況は作業療法士に作業療法のアートとサイエンスを実践する機会を与えてくれる.作業療法理論と作業科学の知識を,日常生活の混乱に対する支援での実践的スキルに統合することで,作業療法士はこのパンデミックへの対応においてクライアントと同僚の両方,そして広く地域を支援するのに適切な立場にいる.本稿ではパンデミックの状況における市民レベルでの介入の事例を紹介し,新たな機会の提示として考察の重要性と混乱に対する考え方を検討する.
著者
神谷 浩夫 池谷 江理子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.15-35, 1994-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
11
被引用文献数
6 6

本稿の目的は,各地域における就業する女子と就業していない女子の比率(すなわち就業率ないし労働力率)が,他の地域と比較してどれほど差があるかを考察することにある。そのためにまず,第二次大戦後から現在に至る女子就業率の推移を市郡別データを基に概観して都市部と農村部における女子就業率の動向を明らかにし,これを受けて都道府県別の女子労働力率の差異の分析を行なった。なお,時系列の考察では就業率,地域差の考察では労働力率という異なった指標を用いた。本来,労働力率という単独の指標で分析を統一することが望ましいが,産業別・年齢別の労働力データが得られないため,就業率を用いることとした。 1955年から1985年の間の女子就業率の変動を,市部と郡部に分けて考察した結果, 1955年には市部の女子就業率は郡部に比べてかなり低かったが, 1985年の両地域の差異はかなり縮小したことが明らかとなった。年齢別女子就業率の特徴としては,いわゆるM字型プロフィールが1955年から1985年の間にかなり鮮明となると同時に,市部と郡部でプロフィールの形状に差がなくなりつつある点が明らかとなった。これは,市部で中年層の就業率が大幅に上昇し,郡部では中年層以外の年齢層の就業率が低下したことに起因する。産業分野別の就業者割合の変化をみると,卸・小売業,サービス業従業者の比率が上昇した点は郡部・市部ともに共通しているが,製造業従業者比率の増大は製造業が地方へ分散したたあに市部よりも郡部で大きかった。年齢別には,市部・郡部ともに15~19歳の年齢層で女子就業率が大幅に低下したが,これは,高校・大学進学率の上昇に原因があると推測された。また,パートタイム・アルバイト就業が女子就業のかなりの部分を占めていることも,データから裏付けられた。 次に, 1985年における女子労働力の地域的変動を説明するために,都道府県別女子労働力率を従属変数,女子労働力の需要と供給に関する11変数を独立変数としてステップワイズ重回帰分析を行なった。その結果得られた回帰方程式では, 15~24歳の年齢層と他の年齢層とでは女子就業率の地域的変動を説明する要因が大きく異なっていた。また,35~44歳や45~54歳の年齢層では,農家世帯比率が女子労働力率の地域差を説明する最大の要因であったが,15~24歳の年齢層ではとび抜けて寄与率の高い要因は見い出せなかった。既往の研究と比較すると,回帰式の決定係数が低い結果となった。その理由は,日本の国全体でみて1985年には農業就業者がかなりの水準まで低下したたあと推測される。また,若年層と高年齢層では供給要因以外にも労働市場の需要要因が地域の女子労働力率の高低に対して影響を及ぼしていることも明らかとなった。今後,さらに女子就業の地域的変動を詳しく分析するためには,パートタイム就業者やアルバイト就業者といった就業形態の違いも考慮に入れた分析も必要だろう。
著者
戸田 宏文 古垣内 美智子 江口 香織 山口 逸弘 吉長 尚美 森田 泰慶 上硲 俊法 田中 裕滋 吉田 耕一郎
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.93, no.3, pp.326-329, 2019-05-20 (Released:2019-12-15)
参考文献数
19

We report herein on two cases of bacteremia caused by daptomycin-resistant Corynebacterium striatum. In these cases, daptomycin-resistant C. striatum was detected after receiving daptomycin for the treatment of multidrug-resistant C. striatum bacteremia, and ERIC-PCR band patterns were identical among the isolates of C. striatum before and after daptomycin therapy. We performed an in vitro assay to determine whether daptomycin resistance is induced in nine clinical isolates of C. striatum, including our two cases, after exposure to daptomycin in broth culture, and seven isolates showed emergence of daptomycin resistance. To our knowledge, this is the first reported case of daptomycin-resistant C. striatum bacteremia in Japan. The use of daptomycin for the treatment of C. striatam infections should be avoided, considering the risk for rapid emergence of daptomycin resistance.
著者
松本 健作 森 勝伸 下村 通誉 小野寺 光二 南雲 洋平
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B1(水工学) (ISSN:2185467X)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.I_1117-I_1122, 2017 (Released:2018-02-28)
参考文献数
12

河川環境に生息する生物として,河川伏流水に生息する地下水生生物に着目し,地下水観測孔を用いた観測手法の有効性の検証およびその生息環境因子について考察した.通常は孔内水位や地下水流向・流速という物理因子を観測するために河川近傍に設置された地下水観測孔内では,多数の地下水生生物の観察が行える可能性が高く,観測手法として極めて有効であることを示した.また,僅か30 m離れた2つの観測孔における生息状態が大きく異なっていることから,両孔の地盤特性,孔内水の含有イオン,水温等を調査し,地下水生生物の生息実態におよぼす水質特性を示すとともに,その両孔間における水質の差異を生じさせている要因が地盤の粗密からくる地下水の流動性の差異である可能性を指摘した.
著者
渕野 航平 黒部 正孝 松原 広幸 鈴木 俊明
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.8-13, 2021-02-01 (Released:2021-02-01)
参考文献数
28

短母指外転筋に対する圧刺激強度が脊髄前角細胞の興奮性に与える影響について検討した。右利きの健常成人25名を対象とした。右短母指外転筋上の皮膚面に対して垂直に30秒間圧刺激を与え, その前後に右手関節部で正中神経を電気刺激し右短母指外転筋の筋腹上からF波を記録した。圧刺激の強度は, 圧刺激により疼痛を訴えた強度である痛覚閾値強度 (平均14.7±7.2 N) および痛覚閾値の50%強度 (平均7.6±4.1 N) の2種類とした。F波の分析項目は, F波出現頻度および振幅F/M比とした。痛覚閾値強度での圧刺激後は, 圧刺激前と比較してF波出現頻度 (刺激前: 47.3±16.7%, 刺激後: 48.1±15.9%) および振幅F/M比 (刺激前: 1.13±0.49%, 刺激後: 1.11±0.51%) に変化を認めなかった。痛覚閾値の50%強度での圧刺激後は, 圧刺激前と比較してF波出現頻度 (刺激前: 50.8±18.5%, 刺激後: 41.6±17.1%) および振幅F/M比 (刺激前: 1.21±0.61%, 刺激後: 1.02±0.48%) が低下した (p<0.05) 。本研究から, 短母指外転筋に対して痛覚閾値強度の圧刺激では脊髄前角細胞の興奮性は変化しないが, 痛覚閾値の50%強度で圧刺激を行った後, 脊髄前角細胞の興奮性が低下することが示唆された。
著者
小峯 秀雄 王 海龍 龍原 毅 園田 真帆 村田 航大
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.7, pp.23-00059, 2023 (Released:2023-07-20)
参考文献数
4

高レベル放射性廃棄物地層処分事業(以下,HLW処分事業)の社会的認知は低く,事業推進に対する国民の理解が得られにくい.HLW処分事業は,巨大な地下施設建設が主体であり,土木工学が寄与できる国家的プロジェクトである.そこで本研究は,土木工学の観点から,学生を対象としたブレインストーミングを実施し,HLW処分事業に関して若者が知的興味を持つ事項や疑問点を抽出した.そして,それらを参照しながらHLW処分事業の認知と地層処分の技術的成立性の理解に資する教育教材の作成を行った.また,市民や次世代へ伝承するための科学コミュニケーターの育成と対話方法の在り方を探求した.これらの成果を高校生を対象に試行的に実践し,HLW処分事業に対する認知の効果が認められた.
著者
安保 秀範 大澤 高浩 葛 平蘭 高橋 章 山岸 勝俊 櫻澤 裕紀
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.7, pp.22-00257, 2023 (Released:2023-07-20)
参考文献数
26

近年,人工衛星SARデータの活用については社会インフラ設備の維持管理などへの研究が進んでいるものの,恒久散乱点が得られやすいロックフィルダムにおいても,PSInSAR解析による恒久散乱点の変位の計測精度が十分に検証されているとは言い難い.本論文では,既に安定期にあるもののここ数年でも年間最大1cm程度変位しており,外部変形量を連続計測しているロックフィルダムを対象に,Sentinel-1 SARデータを活用したPSInSAR解析を実施し,測量値と解析結果を比較することにより,人工衛星SARデータから把握できる変位の精度を検証するとともに,ロックフィルダムの保守管理への適用性について考察した.ロックフィルダム外部変形の測量値と解析結果の比較により,PSInSAR解析によりmmオーダーの高い精度で計測できることが検証され,保守管理に人工衛星SARデータが活用できる可能性があることを示した.
著者
池田 順子 深田 淳
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.152, pp.46-60, 2012 (Released:2017-02-17)
参考文献数
19

Speak Everywhere(以下SE)は,インターネットの繋がる環境にいれば,どこからでもアクセスでき,学習者が個人的に口頭練習をしたり,オーラルテストを受けることができるウェブベースのシステムである。本稿では,このSEを取り入れたスピーキング重視のコース設計とその実践について報告する。SEをカリキュラムに組み込み,教室活動と密接に連動させることで以下の成果が得られた。(1)本来,個人練習であるべき基礎口頭練習が授業時間外で個人的にできるようになり,口頭練習の機会が増え,さらにそこで得られた授業時間をコミュニケーション活動の充実にあてることができた。(2)オーラルテストを,対面式に加え,SE上でも行うことによって,貴重な授業時間を確保でき,またスピーキング能力を評価する機会も増えた。(3)学習者はより快適な環境で,個人的に練習したり,オーラルテストを受けたりすることができた。(4)学習者の多くがSEのシステムに対し,肯定的な評価をした。
著者
鬼塚 哲郎
出版者
特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
雑誌
頭頸部外科 (ISSN:1349581X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.307-310, 2017-02-28 (Released:2017-03-07)
参考文献数
10
被引用文献数
1

頸部郭清術後のリハビリテーションの目的は,肩関節可動域の維持と肩周囲の関節痛,筋肉痛の予防である。肩関節可動域訓練の要点は,なるべく早期に開始し,最初は上肢の重力負荷が軽減されるような仰臥位で開始すると安全である。過負荷による関節痛や筋肉痛を生じないように留意する。近年多く行われている副神経を保存した頸部郭清術においても高率に副神経障害をきたしているためリハビリテーションが必要である。副神経を切除した頸部郭清術においても,リハビリテーションにより日常生活に支障のない上肢可動域が得られるようになる。
著者
上野 真志保 廣瀬 浩昭
出版者
関西理学療法学会
雑誌
関西理学療法 (ISSN:13469606)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.43-46, 2001 (Released:2005-06-07)
参考文献数
9
被引用文献数
5

The purpose of this study was to determine the optimal time of stretching to increase flexibility of the hamstring muscles, as defined by measuring the degree of SLR. Nineteen subjects (ten males and nine females), ranging in age from 21 to 25 years, without known musculoskeletal impairments of their spine or lower extremities, participated. A goniometer was used to measure the range of hip flexion with knee extension (the range of SLR) during the 120-second static stretching. The degree of SLR significantly increased (p<0.05) until 75 seconds under sustained hamstring muscle stretching. No significant increase in the degree of SLR occurred during from 75 to 120 seconds. The results of this study suggest that 75-second duration is the effective amount of time to sustain hamstring muscle stretching in order to increase flexibility of the hamstring muscles.
著者
長野 友里
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.433-437, 2012-09-30 (Released:2013-10-07)
参考文献数
7
被引用文献数
3 1

高次脳機能障害者が社会復帰する際には, 高次脳機能障害の程度だけでなく, 自身の障害にどの程度気づいているかが一つの鍵となっている。しかし, 本人の認識がどの段階であるのか, またそれはどのように測ることができるのかについては, まだ十分研究されているとは言い難い。本論では, 高次脳機能障害者の awareness (気づき) の, リハビリテーション (以下リハ) の過程や, 復帰後の家庭や職場における影響, および我々が名古屋市総合リハビリテーションセンター (以下名古屋リハ) において, 高次脳機能障害者の awareness を改善するために行っているアプローチの中から, 効果的であったものについて紹介する。また, awareness の程度を社会復帰後の受診の意味づけからとらえようとした近年の研究を紹介し, 今後の awareness 研究の一つの視点を提供したい。
著者
大東 祥孝
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.293-301, 2013-09-30 (Released:2014-10-02)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

高次脳機能障害における「気づき」の障害について述べた。1)なぜ「気づきの障害」を問う必要があるのか,2)認知と意識の障害はどのような関係にあるのか,について考察したのち,エーデルマンのニューロン群選択淘汰理論とそこから導出された意識論に言及し,一方で,最近の動向から,意識関連の三つのネットワークについて述べ,こうした構想から,気づきの障害としての病態失認について考察することを試みた。
著者
坂本 嘉弘
出版者
一般社団法人 日本考古学協会
雑誌
日本考古学 (ISSN:13408488)
巻号頁・発行日
vol.13, no.21, pp.125-138, 2006-05-20 (Released:2009-02-16)
参考文献数
23

中世大友城下町跡は戦国時代「府内」と呼ばれた瀬戸内海の西端部の別府湾に注ぐ大分川の左岸の自然堤防上に立地する中世都市である。近年この「府内」が大分駅周辺総合整備事業に伴い大規模な発掘調査が実施されている。その結果,これまで古絵図からの復元や,文献史料で知られていた「府内」について,さらに都市構造や変遷・性格などが明らかになりつつあることを報告した。発掘調査にあたっては,考古学的な時間軸を明確にするために,「府内」から出土する土師質土器の編年作業を行った。その結果,14世紀初頭から16世紀末まで約300年間にわたる大まかな編年案を提示することが出来,「府内」各所での遺構の時期の並行関係をとらえることが可能になった。また,古絵図には「府内」を南北に貫く街路が四本描かれているが,これを東から,第1南北街路・第2南北街路と順に名づけ発掘調査した。大分川沿いにある第1南北街路は上市町・下市町・工座町の名称が示すように,発掘調査でも街路に沿って短冊形の地割が確認され,商工業者が居住する地域であることが裏付けられた。第2南北街路は,大友館や萬寿寺沿いに「府内」を貫く最主要街路である。この街路の大友館東側や萬寿寺西側については,町屋の状況を示す古文書も残されている。発掘調査では,その町屋の実像だけでなく,成立までの経過も明らかにすることが出来た。第4南北街路は,「府内」の西端の街路であるが,古絵図には街路西側にダイウス堂と記載された場所があり,キリシタン施設が想定されていた。発掘調査の結果,小児墓やキリシタン墓を含む13基の墓が検出され,宣教師たちが報告した墓地の南端にあたる可能性が強いと想定している。「府内」からは,多量の貿易陶磁器が出土する。特に,第1南北街路と第2南北街路を結ぶ横小路町で検出された遺構からは,中国・朝鮮のみでなく,タイ・ミャンマー・ベトナムなど東南アジアの陶磁器が集中的に出土し,中国南部と直接関わる人物の存在が指摘されている。また,キリシタンの活動に関連する遺物としてメダイがある。ヴェロニカのメダイ以外は,「府内」の第2南北街路と名ヶ小路との交差点部で検出された礎石建物付近で,分銅と共に製作された可能性が強いと考えられる。このように,16世紀後半の「府内」は海外との結びつきの強い特異な中世都市として存在する。残された史料も,古絵図,古文書,宣教師たちの報告など多彩であるが,これに考古資料が加わり,「府内」の実像がより立体的に明らかにされようとしている。