著者
Sam S Baskegtt
出版者
神戸女学院大学
雑誌
女性学評論 (ISSN:09136630)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.31-42, 1989-03

H.G.ウェルズの『海の女』(The Sea Lady)(1902)はエリオットの最初の重要な詩、「J.アルフレッド・プルフロックの恋の歌」("The Love Song of J.Alfred Prufrock")に重大な影響を与えた。『海の女』は英国の礼儀正しい(proper)若い芸術愛好家(ディレッタント)と彼の愛をもとめて海からやってきた人魚とのファンタジーである。優柔不断に苦しんだ後、彼は彼女と共に海に消えていく。プルフロックの葛藤も本質的には同じで、社会的因習のしがらみと人魚に象徴される無意識への渇望との間の逡巡である。ウェルズの主人公、シャタリス(Chatteris)の持つ多くの特長はプルフロックも共有する。さらに、主題や言語表現上の共鳴がみられる。もちろん、その主なものは人魚の比喩である。ウェルズの人魚の魅力は明らかにセクシュアルなものだがそれ以上のものでもある。シャタリスにとって、彼女は自然美、自由、夢(脅威を伴うが)であって、義務、調和の世界からの逃避を表わす。なによりも重要なのは、ウェルズが、シティーとディオニュシオスの間の、因習的秩序と神秘の世界との間の"根源的な闘い"を提供していることで、エリオットがウェルズのこの小品にひかれた理由がこの点にあろう。以上、3つの関連あるモチーフは若い詩人のこころの琴線に触れた。エリオットは、シャタリスのように、セクシャリティに関しては優柔不断であった。さらに広く言えば、シャタリスを苦しめる優柔不断はエリオットが自己診断をした"aboulie"(どのようなレベルにおいても決断する能力がない)と似ている。しかし、もっとも注目すべきことは、「J.アルフレッド・プルフロックの恋の歌」だけでなく、かれのすべての作品に見られる審美的重要性を左右する政治的、哲学的、性的衝動の単純な扱い方をエリオットはウェルズの『海の女』の中に見つけたのである。シャタリスとプルフロックの両者は、またその著者たちも、1980年代の視点からは不徹底とはいえ、今世紀はじめの新しい"性の自由"の問題を扱おうとした。エリオットは、多分自己防衛の偽装として、彼自身が恐れた衝撃的な失敗者の肖像(恐ろしいが魅力ある人魚が彼に歌わないかもしれないということ)をウェルズの材料の「流用」によってつくりだしたといえよう。
著者
東 典幸
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.43-50, 1997-02-10

口語自由詩の形成に決定的な役割を演じた人魚詩社の詩人の作品には共通して宗教的な主題が扱われている。そのうち、山村暮鳥と萩原朔太郎、特に前者は聖公会の伝道師であっただけに作品の宗教性をキリスト教の文脈で解釈されることが多かった。だが、二人の詩には仏教的な発想の影響が見られることを見逃すべきでない。このことを「魚」「罪」「懺悔」等のイメージを聖書や仏典と比較し分析することによって検証した。
著者
岡 昌男 上村 訓右 足立 幸志
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集 (ISSN:21879761)
巻号頁・発行日
vol.83, no.850, pp.17-00036-17-00036, 2017 (Released:2017-06-25)
参考文献数
13

Necessary conditions for usage of DLC coated mechanical seals were investigated by using ring on ring type sliding tests under various contact pressures and sliding speeds in dry and wet nitrogen. The wear mode of DLC coated SiC mechanical seal can be classified into two types by surface morphology of wear surface called ModeI with smooth surface that is useful as a seal and ModeII with relatively rough surface. The transition condition from ModeI to II is given by a critical μ2PV value, and show 0.025 under dry nitrogen and 0.070 under wet nitrogen. With the increase in PV value, arithmetic average roughness Ra decreases from 0.06 μm to 0.04 μm, and it leads to reduction of friction coefficient from 1.4 to 0.4. On the other hand, structural change of DLC films was not obtained within the condition of Mode I, and the friction was high. ModeI possibly has the desirable condition to DLC films for mechanical seal use. As a conclusion, the operation within critical μ2PV value range which depends on various conditions, and in addition, reduction of the friction coefficient in this range, achieve the increase of operating condition.
著者
川端 季雄
出版者
日本繊維機械学会
雑誌
繊維機械学会誌 (ISSN:03710580)
巻号頁・発行日
vol.39, no.12, pp.T184-T186, 1986-12-25 (Released:2009-10-27)
参考文献数
3
被引用文献数
9 23
著者
斉藤 雅人
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雑誌 (ISSN:18847110)
巻号頁・発行日
vol.82, no.4, pp.637-644, 1991

第1報で膀胱壁のシミュレーションモデルとして, 2個のバネと1個のダッシュポットで構成される Glantz の粘弾性模型 (メカニカルモデル) が優れていることを明らかにし, そのメカニカルモデルの応力―歪み曲線を導く構成方程式を求めた. 第2報ではその構成方程式から, 物理学的計算式により膀胱内圧曲線を求める構成方程式を導き出した.<br>実際にイヌの実験によって得られた, 正常膀胱, 摘出膀胱, 骨盤神経切断膀胱の内圧曲線に, この構成方程式より得られる内圧曲線を fitting させて物性を検討したところ, 第1報で応力―歪み曲線より求めたそれによく一致していた. したがって, 膀胱内圧曲線から膀胱壁の材料強度学的性質を正しく求められることがわかった.<br>つぎに, 新たに開発した経尿管的膀胱内圧測定により得られたヒトの排尿時膀胱内圧曲線に, 構成方程式より得られる内圧曲線の除荷曲線を fitting させて, 排尿時膀胱の物性を求めた. すると蓄尿時に比べて粘弾性のうちの弾性が数値にして10倍ほど強くなっていた.<br>このようにして膀胱の蓄尿と排尿のメカニズムを膀胱壁のメカニカルモデルから説明できた.
著者
善積 京子
出版者
社会学研究会
雑誌
ソシオロジ (ISSN:05841380)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.45-73,145, 1983-01-31 (Released:2017-02-18)

This paper is an attempt to study how illegitimate children were born and reared. The investigation deals with 396 illegitimate children entrusted to one child guidance clinic. Firstly these cases were classified into three groups, according to the mothers' feelings for their children at birth, and then the backgrounds of the illegitimate births were examined. The first group contains those who wanted neither to bear nor to rear their children; the second group those who wanted to bear them legitimately, and the third group, those who dared to bear their child illegitimately. In the first group, illegitimacy is caused partly by social factors, such as condonation of rape and the lack of sexual education, and partly by in dividual factors such as ignorance, lack of intelligence, poverty, and unconscious needs. In the second group, illegitimacy is directly caused by the prevention of marriage by, for example, the irresponsible behaviour of the mother's partner, disruptive intervention by relatives or over-expectation of marriage system in Japan and the norm of legitimacy has a great deal to do with causing illegitimacy. Secondly four fostering patterns were introduced regarding the others' intention to foster their children and their actual behaviour. Factors affecting the rearing of illegitimate children can be divided on three levels: first, social structure-the norm of legitimacy and social resources : second, social relationships such as those with the child, father, kin, and the new partner; and capacity to foster, and her health.
著者
久武 綾子
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
家政学雑誌 (ISSN:04499069)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.281-286, 1961-08-15 (Released:2010-03-09)
参考文献数
13

1) 婚姻届出日より第一子出生日のへだたりの統計結果から、妻の妊娠又は出産を契機として入籍するという、事実婚より法律婚への転機の一原因が実証された。2) 1) の件数は戦前戦中は特に多く、戦後も25年位までは相当多い。3) 婚姻の届出が第一子出生後2週間以内でなされる件数は戦前戦中は特に多く14%位をしめ、戦後25年位までは13%であるがそれ以後は次第に減少する傾向がみられる。4) 2) の2週間以内というのは出生の届出の期限と一致し、これは内縁期間に出生した場合に非嫡出子として一旦、母の戸籍に入るのを未然に防ぐためと推察される。5) 婚姻成立後即ち、婚姻届出後9~10ヵ月で第一子の出生をみる傾向は最近になってようやくあらわれた。6) 古い時代には特に法制的には内縁期間中の懐胎が相当多い。これは挙式後婚姻の届出をすぐに行なわなかったためである。7) 挙式日と出生日のへだたりは時代の推移にかかわらず10ヵ月にピークがある。8) 子の出生日から逆算すると式以前の同棲期間中の懐胎件数は法制上の内縁期間中の懐胎にくらべると少ないことがわかった。9) 社会生活上、挙式そのものは重大な規範でありながら、その反面、制度としての婚姻の届出はおくれがちであることが判明した。10) 婚姻届出に関する社会的経済的背景としての職業は、俸給生活者はその届出が早く、その中、教員、公務員は届出は特に早い傾向がみられる。
著者
土志田 実
出版者
The Laser Society of Japan
雑誌
レーザー研究 (ISSN:03870200)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.35-40, 1997

Research and development on 2μm eyesafe fiber lasers have been reviewed. The excellent laser performance of the high slope efficiency, low launched threshold power, and widely tunable range has been demonstrated in the rare-earth doped 2μm fiber lasers at room temperature.
著者
棚橋 光彦 大田 親義 則元 京
出版者
岐阜大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1992

新しい木材の加工法として高圧水蒸気による木材の圧縮成形加工技術の発展に向けて,装置やプレス治具の開発および処理条件の検討を行った。この装置を用いることにより丸太から切削せずに直接角材に圧縮成形することを可能とした。特に軟化条件や変形を固定するための処理条件、減圧及び冷却条件などについて検討した。また処理条件を検討する際,高温高圧水蒸気下で木材を圧縮成形している時点での木材内部の温度及び応力の測定を経時的に行い、プレスによって木材中に発生した応力が水蒸気処理の過程で減少していく状況を追跡し、変形を完全に固定する条件を明らかにした。また種々の形状への圧縮成形加工についても検討し,断面が6角やロッグハウス用に組み合わせられるように凹凸のほぞ加工を施した形状への圧縮加工、立体トラス用の金属との接合部材用に1方向にのみ圧縮し、表面のみを圧密化した角材などの製作を試みた。さらに木材を種々の形状の治具でプレスすることによる木材表面の加飾性などについて検討し実用規模での応用の可能性について検討した。また木材に大変形を与えられる事を応用して、小径木や枝材などの未利用材を丸太のまま数本接着剤を用いて集成する事により大きな板材や大断面集成材の製造を試みた。樹皮を除いた場合はJIS規格を充分満たす接着強度が得られ、スギのような軟質材から硬質広葉樹のように表面硬度の硬い板材の製造が可能となった。しかし、小径木から樹皮を除去するのは手間がかかるため、樹皮付きのままで集成材に成形することを試みた。接着剤としては樹皮への浸透性の高いものが要求されるため、含浸用の接着剤を使用し、処理条件の検討を行った。樹皮付きでも集成材の製造が可能であり、おもしろい断面形状のものが得られたが、樹皮と木材との境界部分の強度が弱く、この点については今後接着剤の種類を変えて適正なものの選抜や、新しい接着剤の開発が必要である。また接着剤を使用しないで、圧縮変形を用いて物理的な接着剤による集成材の製造についても検討した。接着したい木材にドリルで孔をあけておき、細い角材を通して圧縮する事により、物理的に数本の太鼓挽きした小径木を一枚の板に成形した。これによって接着剤を使用しない簡単な集成材の製造が可能となった。このように圧縮成形技術によりこれまで利用法の無かったスギ間伐材を効率よく利用できる方法を開発でき、新しい木材工業が発展できるものと期待している。
著者
工藤 文三
巻号頁・発行日
2013-03

"学級規模が30人と40人の場合を取り上げ、児童が教室にいない状態で教師が絵本を読み上げた場合と、児童が教室に30人あるいは40人いる状態で読み上げた場合の、教室内の異なる9地点におけるSN比(注)を算出し、位置間のSN比の変化を比較した。その結果,&#61599;教師からの距離が遠い児童ほどSN比が小さくなり,かつ教室内の児童数が多いほど教師からの距離の遠さに伴うSN比の減少の程度が大きいことから,学級規模が大きいほど教師の声が聞き取りにくい児童の割合が高くなることが示唆された。"
著者
高柳 茂
出版者
日本哲学会
雑誌
哲学 (ISSN:03873358)
巻号頁・発行日
vol.1957, no.7, pp.55-61, 1957-03-31 (Released:2009-07-23)
参考文献数
27

近代的形式論理学の最近の著しい発展に刺戟されたことも一つの原因に数えられようが、唯物弁証法もその歴史的遺産を再検討し、自己の論理形式を一層発展させようとする気運が近頃高まって来たように思われる.唯物弁証法が「思惟及び現実の論理」としての力を喪わない為にも、諸科学の発展に応じた諸原則の展開が常に試みられてゆかねばならない.ところで近代的な弁証法は伝統的形式論理学の内容的空しさから脱却し、その無力を克服する為に、近代的形式論理学の方向とは異ってカテゴリーの論理的価値を重視し、その批判的考察を自らの論理的主題に大きく取り上げた点に一つの著しい論理的特性を持つと考えられよう.唯物弁証法も、このドイツ観念論特にヘーゲルが試みた課題の成果を批判しつつ、又幾多の点で基本的に継承しているが、所謂「量質転化の法則」も受け継がれた主要なものの一つである.この小論は「量質転化の法則」に対するサルトルの批判から出発し、苦干の問題点を取り出した上で二三の弁証法的思想家の見解に対比しつつ検討を加え、質と量のカテゴリーの多義牲に少しでも光を与えることを目的とする.