著者
八杉 滿利子
出版者
科学基礎論学会
雑誌
科学基礎論研究 (ISSN:00227668)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1-2, pp.17-30, 2016-03-30 (Released:2017-08-31)
参考文献数
17

In the early volumes of this journal, there are many articles in which the authors present their viewpoints on formalism, that is, on formal systems of mathematics and their relations to practices of mathematics. Their discussions may be condensed into the philosophical matters of substance and form, epistemology and ontology, for taking the stand of formalism must necessarily admit the substance behind it. I will take up some of the old articles which are concerned with formalism and formal systems and review them from my present standpoint, in order to excavate fresh and honest thoughts of our seniors and to see how the views on formalism and formal systems of mathematics in this journal have changed with the passage of time.
著者
平野 悠一郎
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.105, no.3, pp.76-86, 2023-03-01 (Released:2023-03-29)
参考文献数
44

第二次世界大戦後の日本では,1950~70年代の各部門に跨る制度基盤の構築等を背景に,1980~90年代に森林内でもキャンプ場が次々に設置され,幅広い社会的承認に基づく森林利用としての地位が確立された。2000年代以降は,経済不況等を受けてキャンプ場経営が悪化し,その中から民間を中心とした再生の動きが見られてきた。この動きは,近年,キャンプ場を通じた森林利用を多様化させる方向性を示している。すなわち,森林内での教育・体験を掲げる組織キャンプ,滞在を主目的としたソロキャンプ,グランピング,ワーケーション,或いは,レジャーの充実等の利用者ニーズに対応した施設整備がなされてきた。また,この多様化の結果,キャンプ場運営を通じた様々な森林の有効活用と地域活性化への可能性が生まれている。各地のキャンプ場では,林地,立木,森林空間が活用され,利用者向けの薪生産が,森林管理・経営の担い手確保を含む地域の林業経営の再編・発展を促した事例も見られる。また,それらがもたらす雇用の確保に加え,利用者のニーズを地域の経済効果,交流・関係人口の増加,地域資源の総合的・持続的な利用に結びつける形で,地域活性化が促されつつある。
著者
高村 優作 大松 聡子 今西 麻帆 田中 幸平 万治 淳史 生野 公貴 加辺 憲人 富永 孝紀 阿部 浩明 森岡 周 河島 則天
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0985, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】近年の研究成果の蓄積により,脳卒中後に生じる半側空間無視(Unilateral spatial neglect,以下,USN)の病態が,視覚情報処理プロセスにおける受動的注意の停滞を基盤として生じていることが明らかにされてきた。BIT行動性無視検査(Behavioral inattention test,以下,BIT)は,包括的かつ詳細な無視症状の把握が可能である一方で,能動的注意による課題実施の配分が多く,上記の受動的注意の要素を把握・評価することに困難がある。本研究では,PCディスプレイ上に配置されたオブジェクトを,①能動的(任意順序の選択),②受動的(点滅による反応選択)に選択する課題を作成し,双方の成績の対比的評価から無視症状の特徴を捉えるとともに,受動課題における選択反応時間の空間分布特性から無視症状と注意障害の関連性を捉える新たな評価方法の考案を試みた。【方法】発症後180日以内の右半球損傷患者66名を対象とし,BIT通常検査のカットオフ値(131点)を基準にUSN群(n=32),USNのない右半球損傷RHD群(n=34)の2群に分類した。対象者はPCディスプレイ上に配置した縦7×横5行,計35個のオブジェクトに右示指にてタッチし選択する課題を実施した。能動的選択課題として,任意順序によるオブジェクト選択を実施し,非選択数(count of miss-selection:cMS)を能動的注意機能の評価変数として用いた。受動的選択課題として,ランダムな順序で点滅するオブジェクトに対する選択反応時間(RT)を計測し,平均反応時間(RTmean)と左右比(L/Rratio)を,それぞれ全般的注意機能および受動的注意機能の評価変数として用いた。【結果】cMSおよびL/RratioはRHD群と比較してUSN群で有意に高値を示した。一方で,両変数間には相関関係は認められず,USN群における両変数の分布特性をみると,①cMSが少ないにも関わらずL/Rratioが大きい症例,②cMSが多いにも関わらずL/Rratioが小さい症例などが特徴的に分布していることが明らかとなった。①に該当する症例は,代償戦略により能動探索が可能であるが,受動課題では無視の残存が明確となるケースと考えられる。また,RHD群にはBIT通常検査のカットオフ値を上回るものの,無視症状が残存している症例が複数含まれているが,これら症例群は,上記①と同様にcMSは他のRHD群と同様に少ない一方で,L/Rratioが大きい傾向を認めた。②に該当する症例ではcMSの増加に加えてRTmeanの遅延を認め,無視症状に加えて全般性注意障害の影響が随伴しているものと考えられた。【結論】今回考案した評価方法では,能動的/受動的選択課題の対比的評価から,無視症状の特性把握が可能であり,加えて受動課題で得られる反応時間の空間分布の結果から,全般性注意機能と無視症状の関係性を捉えることが可能性であった。
著者
舟越 光彦 田村 昭彦 垰田 和史 辻村 裕次 西山 勝夫
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.45, no.6, pp.235-247, 2003 (Released:2004-09-10)
参考文献数
34
被引用文献数
9 8

タクシー運転手の腰痛の実態と腰痛に関わる労働要因を明らかにするために, 福岡市内某タクシー事業所の男性運転手を対象に1999年 (n=280名, 以下第1回調査) と2001年 (n=284名, 以下第2回調査) に腰痛と労働実態に関する質問紙調査を実施した. 調査は, 1) 第2回調査時における腰痛の有訴率と腰痛に関わる労働要因についての断面研究と, 2) 第1回調査で腰痛の既往がなく, かつ, 腰痛の訴えがなかった運転手で, 第2回調査時に「最近1年間の腰痛あり」と新規に回答した者を腰痛の罹患例とし, 腰痛の罹患率と腰痛罹患にかかわる第1回調査時点の労働要因について検討した縦断研究である. この結果, タクシー運転手の腰痛の有訴率は45.8%で, 腰痛多発が報告されている他の職業運転手と同様に高率であり, タクシー運転手にとって腰痛が重要な問題であることが示された. また, 2年間の腰痛の罹患率は25.9%と推定された. 断面研究と縦断研究の結果, 腰痛と有意な関連を認めた労働要因は, 「運転席座面 (以下, 座面) の適合性」, 「車両の延べ走行距離」, 「全身振動」, 「職務ストレス」および「タクシー運転手としての乗務経験年数」であった. さらに, 腰痛と「車両の延べ走行距離」の間には有意な量反応関係を認めた. 以上より, タクシー運転手の腰痛に「座面」の人間工学的問題と「全身振動」および「職務ストレス」が関与していることが示唆された. また, 「車両の延べ走行距離」が腰痛に関与しているとの報告例はなく, 「車両の延べ走行距離」が腰痛発症に関与する機序について今後の検討が必要であると考えられた. さらに, 「全身振動」の影響の評価のため, 実車両を対象とした曝露振動の実態把握が必要と考えられた.
著者
荘保 共子 岡部 美香
出版者
公益財団法人 日本学術協力財団
雑誌
学術の動向 (ISSN:13423363)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.6_18-6_21, 2022-06-01 (Released:2022-10-21)
参考文献数
1

本稿は、2021年10月31日開催の日本学術会議・公開シンポジウム「子ども政策の総合化について考える」における荘保共子氏のご講演とそれに対する岡部のコメントをまとめたものである。国や地方自治体が子ども政策の総合化に本格的に取り組もうとしているいま、子ども政策の総合化を推進するにあたって留意するべきポイントが三つ挙げられる。まず、「官」の制度による保障と「民」の機動性の発揮をともに活かすことのできる官民協働の体制を構築すること、次に、アウトリーチ活動の推進によって課題を発見し可視化すること、そして、課題解決の過程ではつねに当事者(子どもとその家族)の参加と当事者中心という原則を貫くことである。最後に、残されている課題として、福祉政策の基盤となっている市町村の行政区をこえて生活するようになる高校生以上の子どもや若者に対する支援がいまだ不十分であることが指摘される。
著者
跡上 史郎
出版者
日本比較文学会
雑誌
比較文学 (ISSN:04408039)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.49-62, 1999-03-31 (Released:2017-06-17)

«Kenrô-toshi : Kunopolis» (1960) est une des rares œuvres romanesques du jeune SHIBUSAWA. L’auteur prétend que «Le Diamant» (1959) d’André Pieyre de Mandiargues fut une de sources de cette œuvre. C’est une œuvre qui vaut la peine d’être étudiée de près,car, différentes opinions s’opposent à son sujet : certains critiques la considèrent comme un chef-d’œuvre, tandis que d’autres se demandent s’il ne s’agit pas d’un plagiat. Il semble que cette question du manque d’originalité ne concerne pas seulement «Kenrô-toshi» : on trouve le même problème à travers toutes ses œuvres romanesques. Nous considérons donc que c’est une problématique fondamentale de l’écriture de SHIBUSAWA. Dans «Kenrô-toshi», déjà, nous pouvons trouver presque tous les éléments typiques de l'univers littéraire de SHIBUSAWA. Par exemple, SHIBUSAWA emprunte au «Diamant» l'épisode d'un dieu animal et d’une fille qui ont une relation sexuelle dans un diamat, c’est-à-dire un espace géométrique. Nous pouvons trouver, dans l’œuvre de Mandiargues, de nombreux motifs géométriques dans des situations fantastiques et féeriques. La fréquence et la disposition de ces motifs dans «Le Diamant» sont significatives, car ils sont disposés, semble-t-il, de façon à ce que l'ensemble du texte présente une structure. Dans «Kenrô-toshi» également, il est vrai que l'on peut trouver des motifs géométriques, mais il est difficile de considérer qu’ils forment une structure. SHIBUSAWA ne comprenait pas sans doute la structure géométrique de l’ensemble du «Diamant», ou ne s'y intéressait pas. En s'inspirant du «Diamant», il a néanmoins composé «Kenrô-toshi» comme une œuvre d’un esprit tout à fait différent. SHIBUSAWA a créé un univers bizarré et déformé, dans lequel la cause et le résultat sont circulaires : on peut trouver plusieurs niveaux de rêves, et le rêve et la réalité s’entrecroisent ainsi que dans un tableau d’illusion visuelle. SHIBUSAWA cite aussi, ouvertement ou tacitement, d'utres œuvres littéraires que «Le Diamant», pour complexifier son propre univers romanesque. Nous avons donc considéré que «Kenrô-toshi» ne trouve en aucun cas sa place dans la lignée du «Diamant». SHIBUSAWA et Pieyre de Mandiargues diffèrent de nature, bien que l’on fasse fréquemment remarquer plutôt leurs ressemblances.
著者
永谷 健
出版者
三重大学人文学部文化学科
雑誌
人文論叢 : 三重大学人文学部文化学科研究紀要 = Jinbun Ronso: Bulletin of the Faculty of Humanities, Law and Economics (ISSN:02897253)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.47-59, 2023-03-31

近代日本において殖産興業を先導した経済エリートは、多様な公職に就任するとともに特徴的なハイカルチャーを生み出すなど、政治的・文化的に独特な存在感を示した。彼らがエリート的な地位を占めた過程には、二つの差異化が重要な意味を持つ。「実業」の模範者として自己を正当化する過程、そして、エリート文化の指標となる象徴財を獲得する過程である。前者は、封建的な賤商意識からの離脱を志向するものである。明治期半ばには、勉学(とりわけ「虚学」)や学校教育とは異なり、また、非道徳的な「虚業」とも異なる実地の民業が「実業」として正当化される。彼らはそうした思想的な趨勢に倣いながら、明治後期において新聞・雑誌で自らを道徳的な「実業家」として語った。また、後者は、明治初年に上流社会で流行した能楽や茶事を自己の地位にふさわしい文化的アイテムとして彼らが積極的に取り入れ、趣味のネットワークを形成した過程である。二つの差異化の過程は、勉学・学校教育の貶価や伝統文化への傾倒という点で、プレモダンへの志向という特徴を共に持つ。次世代の実業家も反知性主義や伝統主義を表明することが多く、そのことは昭和初期という社会の変革期に至って、再び経済エリートの社会的な立ち位置を複雑なものとした可能性がある。
著者
中川 輝彦 Nakagawa Teruhiko
出版者
熊本大学大学院人文社会科学研究部(文学系)
雑誌
人文科学論叢 = Kumamoto journal of humanities (ISSN:24350052)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.83-102, 2023-03-31

This paper examines the formation of the concept of evidence-based medicine(EBM) in physician culture by analyzing articles on EBM published in medical journals between November 1992 and January 1996. The analysis focused on contestation over EBM. The results revealed that articles supporting and criticizing EBM, although seemingly at odds with each other, share a common view. In other words, together, the papers defending and denying EBM constituted a rhetoric that promoted the “probabilization of medicine”.
著者
宮田 哲郎
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.50, no.8, pp.860-865, 2018-08-15 (Released:2019-08-23)
参考文献数
16
著者
伊藤 理絵
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.19-37, 2020 (Released:2021-04-19)

幼児期後期における嘲笑理解の発達について、他者感情理解、心の理論および道徳性の観点から検討するため、2つの実験を行った。実験1では、年少時に調査した年長児7名(男児3名,女児4名,平均年齢6歳4か月)に対し、感情理解課題、心の理論課題、笑いの攻撃性理解課題および絵画語い発達検査(PVT-R)の追跡調査を行った。実験2では、実験1の7名を含む年長児10名(男児6名,女児4名,平均年齢6歳4か月)を対象に、笑いの攻撃性比較課題を実施した。その結果、幼児期後期の嘲笑理解の発達には、語い年齢、他者の感情理解や心の理論、失敗を笑うことに対する道徳的判断および相手を失敗させる行為か否かを判断する故意性の理解が相互に関連している可能性が示唆された。嘲笑を含む笑いの攻撃性の理解には、高次の心の理論や道徳性の発達が絡んでいることから、本研究で用いた「笑いの攻撃性理解課題」と「笑いの攻撃性比較課題」について、笑われたことが原因でネガティブな感情になることを説明することや攻撃の意図を判断することは、高度な心の理論(AToM)の観点から検討していく必要があることが示唆された。
著者
池田 知也 山内 淳一郎
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.471-473, 2017-03-31 (Released:2017-07-22)
参考文献数
7

25歳,妊娠6ヵ月の妊婦。腹部への銃撃を受け来院。搬入時,意識清明で,血圧120/60mmHg,脈拍140/minであった。心窩部に射入口と大網の脱出,左季肋下に射出口と小腸の脱出を認めた。腹部は膨隆し,広範に圧痛を認めた。腹壁下に児頭を触知し,胎児超音波検査で,胎児心拍は停止していた。腹部銃創による,子宮破裂の診断で,緊急開腹手術を行った。腹腔内には出血と子宮から脱出し死産となった胎児を認めた。腹腔内を検索すると,空腸損傷と子宮底部に完全子宮破裂が同定された。子宮の収縮は良好で,活動性の出血はなかった。小腸部分切除術と子宮破裂部の縫合閉鎖を行った。術後は順調に経過し,第7病日に退院となった。
著者
貴島 晴彦 押野 悟 吉峰 俊樹
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.229-235, 2016 (Released:2016-03-25)
参考文献数
30

非痙攣性てんかん重責 (NCSE) は, 高齢者人口の増加に伴いその発病頻度が増加していると考えられている. NCSEは治療予後が良好でないケースも多く, また致死率も高い. しかし, その症状や脳波所見は多彩であり, また原因となる疾患も神経疾患や代謝性疾患もあり幅広い. 臨床症状と脳波所見が診断の中心となるが, その定義やガイドラインは確立されていない. 本稿では, NCSEの理解を深めるため, その疫学, 原因疾患, 診断, 治療を概説するとともに, 日常診療で遭遇した1例を提示する.
著者
田代 深子
出版者
将棋と文学研究会
雑誌
将棋と文学スタディーズ
巻号頁・発行日
vol.2, pp.61-73, 2023

倉島竹二郎(一九〇二〈明治三五〉年一一月九日-一九八六〈昭和六一年〉年九月二七日)は、『国民新聞』において一九三二(昭和七)年から将棋観戦記を書きはじめた(倉島 一九七一)。その後、名人戦第一期(一九三五〈昭和一〇〉年)より『東京日日新聞』(現毎日新聞)の嘱託観戦記者となり、戦中戦後の一時期を除いて一九八一(昭和五六)年(継続的には一九七六〈昭和五一〉年)まで新聞紙上に書き続けた。囲碁観戦記も手がけ、また将棋雑誌や一般雑誌にも囲碁将棋にまつわる多くの随筆を寄せている。
著者
大川 孔明
出版者
計量国語学会
雑誌
計量国語学 (ISSN:04534611)
巻号頁・発行日
vol.31, no.8, pp.555-571, 2019-03-20 (Released:2020-03-20)
参考文献数
19
被引用文献数
3

本論では,作品の文体を構成するさまざまな指標に基づいて分類を行ったとき,平安鎌倉時代の文学作品がどのような特徴を持つ文体類型に分けられるのかという点を,MVR-名詞率,文の長さ,会話文率,語種率(和語率,混種語率,漢語率),引用の「と/など」比率を指標にクラスター分析を用い考察した.その結果,平安鎌倉時代の文学作品には,和漢混淆文型,典型的和文型,初期和文型,日記文学型①,日記文学型②の5類型があることが明らかになった.さらに,和漢の対立やジャンルに基づく文体がどのような文体的特徴として表れるのかという点についても示し,複数の視点から文体を位置づけることの有効性を示した.
著者
小堀 栄子 前田 祐子 山本 太郎
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.64, no.12, pp.707-717, 2017 (Released:2018-01-05)
参考文献数
55

目的 日本在住外国人の死亡率を日本人と比較し,その特徴と傾向を明らかにする。また,日本在住外国人の健康に関する研究の意義と今後の方向性について考察する。方法 対象は日本在住外国人とした。データ(2010年)は政府統計から入手した。外国人の実際の人口により近いと考えられる法務省の登録外国人統計による外国人登録者数を用いた死亡率を新たに算出し,外国人の死亡率と日本人の死亡率を比較した。結果 死亡総数の年齢調整死亡率(人口10万対)は男性571.5,女性316.1で,日本人の値を1としたときの率比は男性1.1,女性1.0であり,日本人とほぼ同等の年齢調整死亡率であった。しかし,年齢階級別の率比は,20-34歳で0.3-0.5,35-59歳で0.6-1.0,60歳以上で1.0-1.4と,年齢階級とともに上昇していた。一般的に外国人は日本人より多くの面で不利な状況にあると思われるが,若年層から中年層の死亡率は日本人より低く,高年層では日本人より高くなっていた。同様の傾向は,主要死因別死亡率でもみられたが,不慮の事故,自殺による死亡率は中年層でも日本人より死亡率が高かった。また,高年層では主要死因別死亡率が全般的に日本人より高い中で,とくに自殺による死亡率が高かった。結論 本研究結果は,若年層および中年層の外国人は日本人より健康であり,日本でもヘルシー・マイグラント効果が存在する可能性を示している。しかし,その効果はその国での在住期間が長いと減少・収束するという報告があり,若年・中年層でみられた低い死亡率は,何もしなければやがて上昇に転じ,日本人のそれを上回ることも考えられる。死因別にみれば,中年層では外因死(不慮の事故,自殺)による死亡率が高く,また,高年層ではヘルシー・マイグラント効果の減少や収束にとどまらない高い死亡率の死因が多く,中でも自殺による死亡率はとくに高く,いずれも留意されるべきである。死亡率の算出値には,過小評価や過大評価の影響がまだ残されている。しかし,その影響の程度は小さく,算出値の妥当性が公表値のそれに比べて劣るとの根拠として十分ではない。ヘルシー・マイグラント効果に関するさらなる研究は,日本在住外国人の現在と将来の健康課題の解明とその対策に有用であると思われる。