著者
亀田 晃尚
出版者
法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会
雑誌
公共政策志林 = 公共政策志林 (ISSN:21875790)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.133-146, 2018-03-24

中華人民共和国(以下「中国」という。)にとって,エネルギー不足は大きな問題となっている。国連海洋法条約上,中国は尖閣諸島周辺の石油資源の主権的権利を確保するためには,尖閣諸島の領有権を主張しなければならない。中国が経済的・安全保障的な高いリスクを背負ってまで,尖閣諸島に対する領土的野心を露わにすることは考えがたく,中国の尖閣諸島に関する領有権主張は石油資源を確保することを主眼としたものであると考えられる。中国は尖閣諸島周辺を含む東シナ海に800億バレルという莫大な石油埋蔵量を見込んでいる。米国防総省も中国の見方を裏付ける。一方,日本は32億バレルの埋蔵量しか見込んでいない。日本が中国の石油埋蔵量の認識についてどう捉えるかは,日本が中国に対してどのように対応していくかに直接関わってくる。尖閣諸島をめぐって,中国を相手に力で対抗しようとするリアリズム的対応を行えば,安全保障のジレンマに陥り,不測の事態を招きかねない。中国は尖閣諸島の領有権を棚上げしての共同開発を提唱しているが,日中双方の信頼関係が十分に醸成されていることが前提となる。したがって,いま必要なのは,中国が尖閣諸島周辺を含む東シナ海に莫大な石油資源を期待しているという現実を認識した対応であり,エスカレーション・ラダーを上げないための対話による中国への自制呼びかけや海上保安機関による冷静な現場対応に加えて,経済関係や人的・文化的交流の拡大といったリベラリズム的な不断の努力である。そうした努力の積み重ねによって日中の信頼関係は深く醸成されていくに違いない。その先に,尖閣諸島をめぐる問題の解決が見えてくるであろう。
著者
茅野 恒秀
出版者
信州大学人文学部
雑誌
信州大学人文科学論集 = Shinshu studies in humanities (ISSN:24238910)
巻号頁・発行日
no.7, pp.99-123, 2020-03

日本各地に再生可能エネルギーが急拡大するとともに「メガソーラー」の存在が定着しつつある。しかし、とりわけ山林開発を伴う事業をめぐって社会紛争が増え、推進側と反対側、そして土地所有者との間での社会的亀裂を生じさせている事業も少なくない。 本稿は、全国のメガソーラー問題の多くが、共有地の性格を有してきた土地に外来型開発として計画・建設されていることに着目し、地租改正や農地改革など近代的土地所有制度の確立過程、そして高度成長期・バブル経済期の国土開発など、土地問題を規定する政策や動向の連続線上にメガソーラー問題を位置づける。そのための方法として、まず立地地域における人と自然との関係を規定してきた環境史・開発史を明らかにし、その知見をもとに問題を分析した。 長野県諏訪市四賀に計画されている長野県下最大級のメガソーラー事業は、近世以来の入会林野・牧野を戦後に分割解放した土地に計画された。この事業を事例に、土地所有者である地元牧野農業協同組合を取り巻く社会的状況の分析を行い、牧野から林野へ、そして観光開発へと資源利用の転換が起こる中で旧来より山元として有していた地位がことごとく裏目に出た結果として、メガソーラー事業への土地売却が企図されたことが推論できた。
著者
上原 哲太郎
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.231-233, 2020-02-15

2019年12月,神奈川県が使用していたHDDがリサイクル業者から持ち出され,オークションにおいて転売されていたことが判明した.この事件を機にHDD等の記憶媒体の廃棄のあり方について大きな議論が巻き起こった.HDD等の確実な消去のためには物理破壊が確実ではあるが,リース等の契約形態によっては利用者による物理的破壊が困難な場合も少なくない.そこでHDDの論理的消去としてNIST SP800-88rev.1に基づく論理的消去の普及が望まれる.しかし我が国ではCryptographic Eraseに関する技術的検討が未だに不十分であることや,論理消去されたことをどのように証明し履歴を残すべきかの標準化された手順がないことなどに課題を残している.
著者
佐藤 翔 伊藤 弘道
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.55-68, 2020 (Released:2020-06-30)
参考文献数
17

本研究では公共図書館において,図書の書架上の位置が利用者の注視時間に与える影響を明らかにすることを目的に,視線追尾装置を用いた被験者実験を行った。実験は2017年10 ~11 月にかけ,愛知県の豊橋市中央図書館にて実施し,11 名の被験者が参加した。被験者には視線追尾装置を装着し,自身が読みたい図書を1 冊以上,館内から選択するタスクを課した。得られたデータから書架を注視している場面を抽出し,書架の高さ,注視されていた垂直位置(段),水平位置(左・中央・右)ごとの注視時間を算出した。分析結果から以下の知見が得られた。(1)書架上の垂直位置(段)は配架図書の注視時間に影響し,上段の方が下段よりも長時間見られる傾向がある。また,書架自体の高さにより垂直位置が注視時間に与える影響は異なる。(2)書架上の水平位置は図書の注視時間に影響しない。(3)書架上の垂直位置と水平位置の間に交互作用は認められない。
著者
松本 亮介 栗林 健太郎 岡部 寿男
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 B (ISSN:13444697)
巻号頁・発行日
vol.J101-B, no.1, pp.16-30, 2018-01-01

Webサービスのハードウェアコストや運用管理コストを低減するために採用される高集積マルチテナントアーキテクチャは,複数のユーザを同居させる特性上,ユーザ単位でセキュリティを担保するために,適切な権限分離を行う必要がある.そして,ホストに配置されるWebコンテンツを事業者が管理できないことを前提に,コンテンツに依存することなく基盤技術でセキュリティと性能を両立させるアーキテクチャが必要である.これまでに,実用上十分なセキュリティを担保しつつハードウェアの性能とリソース効率を最大化するための手法が数多く提案されてきた.また,マルチテナントアーキテクチャでは,ホスト間で権限分離だけでなく適切なリソース分離が行われる必要がある.リソース分離が不十分な場合,収容するホスト数が増えるにつれ,管理者により高負荷の原因となっているホストを特定し対処する作業の必要が生じ,運用管理コストが逆に増大してしまう.そのような運用上の問題の生じないリソース分離が可能なマルチテナントアーキテクチャの必要性も高まっている.更に,高集積マルチテナントアーキテクチャ採用時に,セキュリティを担保し,リソース分離を適切に行いながら,付随して生じる運用・保守に関するコストを低減させるためには,いかに運用技術を改善していくかが重要である.本論文では,Webサーバの高集積マルチテナントアーキテクチャにおいて,Webコンテンツをサービス事業者が管理できないことを前提に,高い性能とリソース効率を維持しつつハードウェアや運用管理コストを低減させるためのアーキテクチャについて,これまでの研究を概観するとともに,著者らによる最新の研究成果について紹介する.
著者
小澤 義博
出版者
獣医疫学会
雑誌
獣医疫学雑誌 (ISSN:13432583)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.72-76, 2014-07-20 (Released:2015-01-07)
参考文献数
7

African swine fever (ASF) outbreaks which originated from Africa were chronologically reviewed with emphasis on how they were spread to Europe and the other continents. In 2007, ASF suddenly appeared in the countries in the east end of the Black Sea including Russia. As the disease has been well established in Russia, the strategies for ASF should be planned to fight against its risks from two continents, Africa and Russia (Eurasia). It will be extremely difficult to prevent the entry of ASF-infected wildlife from the countries that share land borders. Special attention should be paid to the fact that more than 50% of the swine population of the world is located in China. Feasibility studies should be performed to separate them from infected boars and feral swine by reinforcing barriers such as the Great Wall of China by adding wire walls and new electro-devices.
著者
青山 夕貴子 吉村 正志 小笠原 昌子 諏訪部 真友子 エコノモ P. エヴァン
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.3-14, 2020 (Released:2020-05-21)
参考文献数
36

ハワイにヒアリSolenopsis invictaが侵入・定着した場合の経済的損失額を推定した既存文献をもとに、沖縄県にヒアリが侵入・蔓延した場合の経済的損失額を推定した。試算は、行政による根絶や分布拡大防止のための積極的な対策が行われず、ヒアリは沖縄県の生息可能な地域全域に拡大したと仮定して行った。その結果、市民生活や農業、インフラ整備、ゴルフ・リゾート等の娯楽に係る損害と、行政による最小限の対策費用を足し合わせた直接的な経済的損失は、約192億4,800万円と算出された。またヒアリによって阻害される、地域住民および旅行者による野外活動の経済的価値は、約246億1,000万円と算出された。合計で、年間の損失額は約438億5,800万円と推定された。本試算結果は、ヒアリ対策の必要性や予算を検討するにあたって、その経済的インパクトを評価する重要性を示すものである。ただし、日米間の社会構造の違いなどのため評価しきれなかった部分も多く、日本におけるより正確な被害額の推定のためにはさらなる精査が必要である。
著者
清水 勝嘉
出版者
日本民族衛生学会
雑誌
民族衛生 (ISSN:03689395)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.72-86, 1976

In this papes, administrative orpanization for public health, tuberculosis control and prevention of venereal disease, which had been involved in the problems of public health in the early years of the Showa Era, were discribed. 1. In those days, public health administration had been centrlized to the Health Bureau and Social Bureau of the Ministry of Home Affairs, and they gave their instructions to the Public Health Section of the Prefectural Police Department. Countermeasures for the chronic infectious diseases were the most imoprtant problems at that time. 2. The mortality from tuberculosis in Japan was two or three times higher than that of Western countris, and there were poor and insufficient preventive facilites in all over the country. It was epock making in 1932 that the Health Guidance Clinic were established in every prefectures in order to prevent against tuberculosis by the subsides offered from NHK (Nihon Hoso Kyokai), but not by the national budget. 3. Licenced and unlicened prostitute, geisha, waitress and barmaid had been the major contagion source of venreal disease. Legal inspection system for the syphilis was forcibly applied only to the licenced prostitutes, but the others took the medical check only when they were arrested. Since 1928, when the original Venereal Disease Prevention Law enforced, all prostitures, streetwalkers, geishas, barmaids and waitresses have forcibly taken medical check for the venereal disease.
著者
小塩 真司 市村 美帆 汀 逸鶴 三枝 高大
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.90, no.6, pp.572-580, 2019 (Released:2020-02-25)
参考文献数
33

The present study examines changes over time in 12 traits of the Yatabe-Guilford Personality Inventory that has been commonly used in Japan. A cross-temporal meta-analysis was conducted on 245 samples (95 papers) of Japanese people who completed the scale between 1954 to 2012 (total N = 50,327). Most of the traits showed curvilinear changes with survey year. Especially in recent years, Emotional Instability traits tended to increase with time whereas Dominance and Non-reflection traits tended to decrease. Changes to Thinking Extraversion and Nervousness correlated strongly with the changes to self-esteem between 1984 and 2009. Implications of the changes in the personality traits with survey year are discussed along with future research directions.
著者
安村 誠司 中山 健夫 佐藤 理 杉田 稔 中山 千尋
出版者
福島県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

原発事故以後、福島県民が抱く放射線健康不安には、報道や情報が関連していると考え、県民2000人に対し、健康不安の程度、信用する情報源、利用するメディアについて質問紙調査を行った。健康不安の程度を目的変数、信用する情報源と利用するメディアを説明変数とした重回帰分析の結果、NGO等を信用する群、ネット・サイトを利用する群の不安が有意に高く、政府省庁、自治体を信用する群、地元民放テレビを利用する群は、不安が有意に低かった。情報源やメディアの違いによる、不安の程度の差が明らかになった。また、ヘルスリテラシー得点上位群の不安が有意に低く、放射線不安を減らす上での、ヘルスリテラシーの有効性が示唆された。