著者
謝旭珍 柳浦睦憲 小野 孝夫 平田 富夫
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告アルゴリズム(AL) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2007, no.66, pp.31-38, 2007-07-03

グラフの均等辺彩色とは,多重無向グラフと色数が与えれたとき,任意の頂点と任意の2色に対して,その頂点に接続する辺のうちそれぞれの色で塗られているものの本数の差が高々2であるような辺彩色である.与えられたグラフの頂点数を$n$,辺数を$m$とし,色数を$k$とする.謝らは,任意の多重グラフを$O(m2/k)$時間で均等辺彩色するアルゴリズムを提案した.本論文では,彼らのアルゴリズムに変更を加え,初期辺彩色をランダムに与える場合の実行時間を解析する.そして,任意の定数$\varepsilon >0$に対し,実行時間が高い確率で$O(n^{1/2} m^{3/2+\varepsilon })$となることを示す.それは,グラフが密で$k$が小さいときには,既存のアルゴリズムよりも速くグラフを均等辺彩色できることを示す結果である.Given a multigraph $G=(V,E)$ with $n$ vertices and $m$ edges and a color set${\cal C}=\{1,2,\ldots,k\}$, the nearly equitable edge coloring is an assignment of given colors to edges in $G$ such that, among the edges incident to each vertex, the numbers of edges colored with any two colors differ by at most two. Xie~et~al. presented an algorithm to solve this problem in $O(m2/k)$ time. In this paper, we investigate the running time of a modified version of their algorithm in which the initial edge coloring is generated randomly. The new time complexity is proved to be $O(n^{1/2} m^{3/2+\varepsilon })$for arbitrarily small constant $\varepsilon >0$with high probability for sufficiently large $n$,which is better than Xie at al.'s original algorithm when the graph is dense and $k$ is small.
著者
斉藤 修三
出版者
青山学院女子短期大学
雑誌
青山学院女子短期大学総合文化研究所年報 (ISSN:09195939)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.155-175, 2001-12-25

「人はなぜ差別するのか?」振り返ると,ここ数年わたしはこの問いばかりを追いかけてきたようだ。聖書に「あなたは寄留(きりゅう)の他国人をしえたげてはならない。あなた方はエジプトの国で寄留の他国人であったので,寄留の他国人の心を知っているからだ」(出エジプト記)とあるが,問題はこの言葉に集約されると思う。自他を分ける壁を絶対視し,自己のなかに他者を,他者のなかに自己を見る想像力をなくしたとき,差別はしのびよる。元来人はみな「寄留の他国人/よそ者」だった。なぜなら一回限りの<出来事(いのち)>である以上,反復可能なカテゴリーでしかない「何者か」という言葉が再現できない余剰,語りえずしたがって不可知の<よそもの性>こそが「固有のわたし」の正体だからだ。取り替えのきく「何者か」ではなく,唯一無二の「よそ者=究極の少数派(マイノリティ)」だからこそ<個>は壊れやすく希少なはずなのに,孤独を怖れるあまり自己の異質性を認められないわたしたちが「同じ何者か」という表象の虚妄にしがみつき,固定された主体や帰属意識(アイデンティティ)でしか人を見れなくなったとき,人種民族・国籍・性別などをめぐり序列化された見えない国境線が実体化され,よそ者は被差別者となる。そのかき消された声をふたたびわたしたちに届け,内なるよそ者のつぶやきを呼び覚まし共振させる<声の運び屋>が,チカーナの詩人作家シスネロスの派遣する少女エスペランザである。
著者
小野 展嗣
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.167-174, 1986

北陸・山陰地域の自然史科学的総合研究の一環として, 1985年5月から6月にかけて, 能登半島および石川県南部の地域で, 葉上性クモ類の採集調査を行なった。採集地点はすべて標高900m 以下の平地あるいは低山地であり, 島嶼や高山帯は対象外とした。本調査で得られた約1,000個体のクモの標本のうち, フクログモ, ワシグモおよびカニグモ類の標本291個体を分類学的に研究した結果, フタホシテオノグモ Callilepis schuszteri, ハナナガトラフカニグモ Tmarus hanrasanensis, セマルトラフカニグモ T. rimosus, チクニエビスグモ Synaema chikunii, シナカニグモ Xysticus ephippiatus ならびにチシマカニグモ X. kurilensis の6種を同地域から初めて記録した。このうちとくに興味深いハナナガトラフカニグモとチシマカニグモについては若干の注釈を加え, 生殖器を図示した。また一新種ウエノフクログモ Clubiona uenoi を記載した。 以上の記録に先人の業績を整理して加えると, 同地域からフクログモ科13種, ワシグモ科5種, カニグモ科19種が知られることになる。しかし, 少なくともこの3科に関するかぎり, 同地域は本州中南部の低山地にみられる典型的なクモ相を呈し, 地域的特異性や地史との関連は見出せない。同地域のクモ相は北海道低地から九州まで広く分布するクモを中心に成り立っていて, 亜熱帯や寒帯, 高山性の分子を欠いている。 一般に葉上性のクモは広域分布を示すものが多く, その生息域はおもに気温や生物的環境に影響されるが, 本調査地点の緯度的および高度的条件を考慮すれば, 以上この内容はむしろ当然の結果というべきかも知れない。
著者
三浦 信冶 大西 重行 渡辺 創 嵩 忠雄
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. ISEC, 情報セキュリティ
巻号頁・発行日
vol.97, no.252, pp.75-85, 1997-09-12
被引用文献数
2

コンピュータネットワークを通じて入手できるディジタルデータの中には有料のものなど, データのコピーが制限されているものが存在する. しかしユーザに配布されたディジタルデータは容易にコピーすることが可能である. 現在, 不正コピーの対策として電子透かしの技術を利用した様々な手法が提案されている. ただしそれらの手法ではサーバの不正行為により無実のユーザに罪を着せることが可能である. 解決案として配布時にサーバだけでなくユーザも電子透かし法に参加することでサーバの不正防止を考えた手法が提案されたが, 不正者を特定できない場合が存在するという欠点を持っていた. 本論文ではサーバの役割を分散させることでこの問題を解決し, 最小限の通信量でサーバやユーザの不正行為を特定可能な手法を提案する.
著者
West Martin L. 矢内 光一
出版者
岩波書店
雑誌
思想 (ISSN:03862755)
巻号頁・発行日
no.685, pp.p49-67, 1981-07
著者
松本 卓也 小林 聡幸 加藤 敏
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.1045-1052, 2014-12-15

はじめに 近年,わが国は世界でも類をみないほどの速度で高齢化を迎えている。精神科医療においても,高齢化は重要な懸案事項である。高齢化と関係するのは,認知症だけではない。大うつ病性障害(以下「うつ病」)の頻度は加齢とともに増加する5)ことが知られており,老年期のうつ病は重症度と致死率が高いことも指摘されている19)。また,高齢の患者は入院が長期化しやすく,わが国の医療費の増大にも拍車をかけていることが知られている。そのため,高齢者のうつ病入院患者の在院を長期化させる因子について検討することは,当該患者に対する適切な治療,および適切な医療資源の配分を考える上で重要であると考えられる。 しかし,うつ病患者の在院日数についての研究は,意外なほど少ない。大学附属病院を中心とした研究では,大うつ病性障害の平均在院日数が64〜94日13),高齢気分障害患者の在院日数の平均が112.3日18),60歳以上の高齢気分障害患者の在院日数の平均は約70日であった14)。ドイツとアメリカでのうつ病患者(全年齢)の平均在院日数はそれぞれ51日と11日であり2),日本は諸外国に比べても入院が長期に渡っていることが分かる。この理由には,国民皆保険制度によって比較的安価な医療費負担で入院治療を継続することが可能なことが挙げられるだろう。 うつ病入院患者の在院の長期化を規定する因子についての研究も,国内・海外ともに僅かしかみられない。Markowitzら15)は,大うつ病障害の入院患者(全年齢)に対して,ECTを施行することによって在院日数が平均13日間短縮されることを示している。国内のデータでは,当院での高齢気分障害患者(うつ病,および双極性障害を含む)について検討した玉川ら18)の研究では,65歳以上の患者は65歳未満の患者と比べて在院日数が約22日間長く,男性であること,合併症があること,および独居世帯に居住していることなどが在院の長期化の因子であった。高齢のうつ病入院患者の在院を長期化させる因子については,カナダのIsmailら11)の研究がある。彼らは2005〜2010年のうつ病入院患者についての検討から,高齢うつ病患者では,入院回数の多さ,独居世帯に居住していること,強制入院であることが長期在院を予測する因子であることを報告している。 先行研究をこのように概観すると,次に挙げるような諸々の点が明らかではないことが分かる。1.ライフイベントと在院日数の関係 高齢者は,本人や近親者が重大な病気を発症したり,ときには死に至ったりすることがある。事実,一般人口を対象とした研究において,死別をはじめとしたライフイベントが高齢者に多いことが知られている9)。また,死別が高齢者のうつ病の発症の重大なリスクファクターとなることは以前から知られている7)。同居家族が死去した後に発症したうつ病の場合,患者はうつ病から回復するという課題だけでなく,家族が喪失した家庭の中で新たな生活と役割を引き受けるという課題をも背負うことになる。この場合,在院が通常より長期化することは十分に考えられる。加えて,退職を契機としてそれまでの生活が一変することも,高齢のうつ病患者が生きる社会環境に大きな変化をもたらすと考えられる。しかし,これまで高齢者のうつ病におけるライフイベントと在院日数との関係は検討されていない。2.治療薬と在院日数の関係 うつ病患者がもともと居住していた自宅に退院するためには,ほとんどの場合で,薬物療法の効果によってうつ病を寛解ないし回復させる必要がある。このため,治療薬と在院日数には強い相関があると想定されるが,この論点についてもこれまでの研究では検討されていない。3.高齢初発うつ病の異種性 Ismailらが検討しているのは入院時に60歳以上であった「高齢うつ病患者」についてである。しかし,高齢うつ病患者には,若年初発群と高齢初発群が存在し,後者の高齢初発うつ病は重症度が高く,自殺既遂率が高く,予後も悪いことが知られており,両者を病因論的に区別するべきとされている21)。そのため,在院日数の研究についても,若年初発の高齢うつ病と高齢初発うつ病を区別することが必要だと思われる。 そこで我々は,対象を高齢初発うつ病入院患者に絞り,その在院を長期化させる因子を,患者背景や合併症,家庭環境,職歴,ライフイベント,うつ病の重症度と種類,薬物療法やECTなどの治療との関係から多角的な検討を行った16)。本稿では,以下にその研究から得られた10年分のデータを紹介することにしたい。
著者
小島 茂明 太田 秀
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌Venus : the Japanese journal of malacology (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.189-195, 1997-10-31
被引用文献数
12

Shell morphology of Calyptogena soyoae-complex (Bivalvia : Vesicomyidae) was compared between the two mitochondrial haplotypes that had been revealed by the previous genetic study. Significant morphological differences between the two haplotypes were detected by an analysis of covariance of shell length-height relationship and by t-test of the average value of length-height ratio. On the basis of the molecular and morphological differences between two haplotypes, Calyptogena okutanii n. sp., a sibling species of Calyptogena soyoae, is established from the seep area off Hatsushima Island, Sagami Bay, central Honshu, Japan.

1 0 0 0 OA 秋田県公報

出版者
秋田県
巻号頁・発行日
2002-03-01
著者
砂川 武
出版者
神戸大学
雑誌
神戸大学医学部紀要 (ISSN:00756431)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.89-99, 1989-03

ラット肝ミクロゾームにおけるtestosteroneの5α-dihydrotestosteroneへの代謝と4-androsten-3-one-17β-carboxylic acid (17β-C)によるその阻害機序を検討するため,代謝物を誘導体に導くことなしに,メガボアカラムを装着したgas chromatography-mass spectrometry (GC-MS)で分析した。5α-reductaseの安定剤としてNADPHをホモジネート作成時より添加して実験を行なった。肝ミクロゾームでtestosteroneをインキュベートすることにより5α-,5β-水素還元体が得られ,他に17-ケトン体及び水酸化体も検出された。肝ミクロゾーム(雄ラット,9週齢)のtestosterone代謝速度は8μg/mg湿重量/時であった。肝ミクロゾーム中の50μgのtestosteroneは同量の17β-Cの存在により代謝阻害された。モルモット皮膚スライスを含む反応液中のステロイドも同様に分析された。Testosterone,estradiolの主代謝物は対応する17位のケトン体であった。反応系の酸化還元平衡は酸化体生成方向に傾いており,脱本素化速度は両基質とも2μg/g皮膚スライス/日であった。17β-OH化合物のtestosterone,estradiolはそれぞれ対応する17α-OH異性体より酸化されやすかった。Testosterone propionateは加水分解された後,17-ケトン体,5α還元体に代謝された。Ethinylestradiol,methyltestosterone等の17β-OHは酸化されなかった。

1 0 0 0 OA 殻 : 小説

著者
中村古峡 著
出版者
春陽堂
巻号頁・発行日
1913
著者
柴田 浩
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.22, no.12, pp.694-700, 1973-12-15 (Released:2010-09-07)
参考文献数
14
被引用文献数
3 2

生体におけるカドミウムの吸収および排泄について明らかにするために, 109CdCl2およびマウスを用い, サンプル測定およびオートラジオグラフィにより実験的に検討した。経口投与した109Cdの大部分は屎として体外に排泄され, 尿への排泄は少なく, また静脈内注射した109Cdは屎にかなり排泄されたが尿への排泄は少なく, 109Cdの体外排泄経路はおもに屎を介して行なわれることがわかった。109Cdの消化管における吸収は少なかった。109Cdの消化管内排泄は, 消化管壁を通しての排泄および胆汁を介しての排泄の両経路の排泄があった。消化管各部位における吸収および排泄を比較すると, 吸収は小腸下部が, 排泄は小腸中, 下部が比較的多かった。体内に吸収された109Cdは, 肝臓, 腎臓, 消化管壁, 膵臓, 唾液腺等に分布した。