著者
板倉 安正 稲葉 宏幸 澤田 豊明
出版者
滋賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究の目的は、毎年多くの被害を出している土砂災害を軽減・防止するために音響法と映像法を組み合わせた新しい監視システムの開発を目指して、その可能性を検討し実用化への見通しを着けることである。3年間の研究を通して次の点を明らかにすることができた。(1)音響法としては、土砂移動に伴って発生する地中振動をマイクロフォン型音響センサによって捉える方式を提案し、これが他の振動センサに比べてS/N比が優れていることを明らかにした。さらに、これをオイル浸タイプにすると検知範囲が約2倍向上することを示し、その改良に努めた。(2)映像法としては、土石流のビデオ映像から市販のMPEGソフトを用いて画像の動ベクトルを抽出し、その変化の大きさから土石流の近接を知る方式を提案した。同じビデオ映像に計算機対話型空間フィルタ速度計測法を適用して土石流の流下速度を計測することに成功した。また、他の画像処理法として時空間勾配空間法や相関法を適用して、土石流表面速度の2次元速度ベクトルの推定にも成功し、精度の点で相関法の方が優れていることを示した。(3)音響法と映像法を組み合わせることによって、濃霧や豪雨で見えにくくなった映像法を音響法が補い、また、音響法では実体が明確でない点を映像法が補うという利点を生かすことができると期待される。実際の土石流によってこの利点を確認するまでには至らなかったが、具体的なシステムを提案することによって次の研究を展望することができた。(4)これらの成果を、海外調査結果と併せて、2001年11月スイスベルン市郊外のスイス国立水理・地理調査所で開催された土石流モニタリング技術のワークショップで発表して評価を得るとともに、これからの研究の見通しを得ることができた。
著者
片岡 幹雄 郷 信広 上久保 裕生 徳永 史生 SMITH Jeremy ZACCAI Josep
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

黄色ブドウ球菌核酸分解酵素(SNase)を用いて、室温及び25Kでの中性子非弾性散乱スペクトルを広いエネルギー範囲で観測した。蛋白質の非弾性散乱スペクトルとしては、世界最高精度のデータを得ることができた。25Kスペクトルは、定性的に基準振動解析により説明することができ、ピークの帰属が行われた。理論的に予想される振動モードの実在が証明された。しかし、定量的な一致度はよくなく、理論計算に用いられているポテンシャル関数に改善の余地があることを示した。また、室温のスペクトルは分子動力学シミュレーションにより説明されることが示された。SNase野生型とフラグメント(折畳まれていない)についての中性子非弾性・準弾性散乱測定から、折畳まれることによって獲得される特異的な運動は、ガラス転移以上の温度で出現する水によって活性化される非調和的な運動であることが示唆された。蛋白質におけるボソンピークは分子量依存性を示唆し、ボソンピークの起源となる低エネルギー励起は二次構造などに局在したものではなく、分子全体に広がっているモードによることが推測された。また、この性質は、蛋白質を含めソフトマターに共通の性質であると考えられる。蛋白質動力学の不均一性を評価する方法が考察され、バクテリオロドプシンについては、機能との関係が議論された。膜蛋白質と水溶性蛋白質とで不均一性には差があることも示された。ガラス転移は、蛋白質の部位により起きる温度が変わることが、重水素ラベルを用いて示された。これも動力学の不均一性の現れであることが示唆された。
著者
内山 晴夫 十文字 正憲
出版者
八戸工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

東北地方の太平洋沿岸で頻発するヤマセは濃霧を伴い冷害の元凶として恐れられている。また、霧による視界不良は、陸海空すべての交通機関にとって安全運行の障害となっている。我々はコロナ放電を応用した静電式霧消去ネットを考案し、その実用化試験を繰り返し実施した。その過程で、霧の粒径が100ミクロン以上になると急速に消霧性能が低下する、ということが問題点として浮上した。本研究の目的は、この装置を線対ロッド電極構造へと改良し、こうした問題点を解決することにあり、研究成果および残された検討課題は以下の通りである。1.静電式霧消去装置の性能評価に関する実験的検討これまでは、静電式ネットの効率評価を単に霧の液化率だけに注目して行い、消費電力を考慮していなかった。そこで消費電力も視野にいれた“液化指数"の導入を提案し、実験例を示した。2.超音波式霧発生器の試作多数の小孔を穿ったステンレス薄板をド-ナツ状の円環振動子に貼りつけ、約29kHzで振動させた。その結果、円環の中心部に近い小孔ほど大粒径の霧を発生し得ることを見出した。霧の連続大量発生が課題で、そのためには、キャビティの改良と水圧の微妙な調整が必要である。3.線対ロッド電極構造の霧消去装置試作線対ロッド電極構造が有効であることは既に確認済みである。試作装置では、これらの電極をインラインあるいはジグザグに配した場合について実験し、後者が優れているという知見を得た。4.線対ロッド電極構造の理論解析インラインおよびジグザグに配した線対ロッド電極構造の静電界解析とイオン風を考慮した霧の消去メカニズムに関する理論検討を行い、後者の優越性を定性的に解析した。
著者
佐藤 彰治
出版者
釧路工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本報告書は、夏期に濃霧が多発し低温・高湿となり、冬期には豊富な日射が得られる北海道東部太平洋沿岸地域と対象として、サンルームの調温調湿効果を明らかにするための実態調査と実測・実験を行い、それらから得た知見をまとめている。第一章は、研究に至る背景、申請研究の目的、研究対象地域について述べている。第二章では、釧路市西部地区のサンルーム付住宅居住者を対象として、特に熱環境に関わる項目を中心としたアンケート調査の結果を報告している。当地域におけるサンルーム付設の満足度は全体的に高いことが分かった。特に、サンルームの間口が広い場合、冬期の暖房燃料削減、居間温度の低下抑制の効果とともに、夏期の濃霧による不快感の軽減効果を生活体験として実感している住戸が多かった。第三章では、既存付設温室付き住宅の夏期および冬期の温湿度実測結果に基づき、サンルームによって居間空間にもたらされた熱環境的な効果についての検討結果を報告している。釧路地域における大型サンルーム付き住戸の濃霧期の測定結果から、サンルームの設置によって、隣接する居室の温湿度環境に好影響を及ぼすことが分かった。冬期の快晴日の簡易型および大型サンルーム内の温度は外気温よりピーク時で20度以上上回っており、隣接居室への熱的好影響が期待できるものと推察された。第四章では、実験用サンルーム(ビニルハウス)を作製して行った温湿度実測の結果と、そこで確認された結果に基づいて行った調湿のための追加実験の結果について報告した。遮光屋根が居室の温度上昇に及ぼす弊害や、地盤面の露出によるサンルーム内の過度の湿度上昇が明確になり、地盤面の防湿・調湿実験によって相対湿度の低減や水蒸気量上昇の抑制効果を明らかにすることができた。
著者
鈴木 義則 早川 誠而
出版者
山口大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

盆地、傾斜農地などの複雑地形で発現する局地的低温は、放射冷却条件の下で卓越するとともに、温度の垂直分布が逆転層で特徴づけられるものとなる。このとき下降してくる気流の熱的特性の解釈が異なり、凍霜害の恒久的対策方法に対する考え方が正反対となる混乱が現存する。筆者らは「斜面下降気流の低地部に対する熱的作用の性格は時刻によって変わり、日没前後は冷気流として、夜半以降は放射による冷却を抑制する作用を果たすことが多い」という仮説をたてている。そこで仮説の検証と低温発現機構を解明するために、主観測対象地として宇部市の傾斜茶園、副対象地として学内の山地を選び,現地に下降気流の動きや地中熱流を人為に方化させる種々の実験装置もセットした上で、赤外放射温度計(熱映像装置)と通常のデ-タロガ-により気象観測を行った。これまでの解析結果は我々の仮説を裏付けるデ-タが多く出ており、特に重要な点である夜半の下降気流が低地部に対しては冷却緩和に作用している場合が多いことを見いだした。次に、地被の構造がモザイク的である場所の表面の冷却について実験とシミュレ-ション解析から、熱容量と熱拡散係数の差が冷却に寄与することが大であることを明らかにした。そこでは、植物、例えば蒲鉾状の茶株の存在は地中から熱補給を遮断するため、とくに表層部の冷却が進み、冷熱源となることが示された。また、斜面を上下に直線的に結ぶ裸地面の道と水平方向に茶株の間を抜ける道との上で、気温の垂直分布を測定した結果、下降気流の強い方が高温であった。風速が弱まる所の冷却の強まりが確認された。初年度に表面温度分布の中に「ゆらぎ現象(ロ-ル状対流)」を世界で初めて検出したが、今年も再確認できた。ただし、この興味ある事実をさらに詳細かつ定量化するには、新たな測器の準備と研究の展開が必要である。
著者
澤野 弘明
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

カーナビゲーションシステムやPDAなどを用いた経路案内システムの需要が年々高まっている。これらのシステムにはあらかじめ用意された地図情報に基づいて、現在位置および案内経路を計算している。しかし日々変化する道路に対応した柔軟な経路案内をすることは極めて難しい。そこでシステムから得られるマルチモーダル情報を集約し、道路環境情報をリアルタイムに収集することで、ユーザ周辺の道路環境を考慮した経路案内を提示する戦を提案した。ここでマルチモーダル情報として、カメラ、GPSやジャイロセンサなどの検出装置や二次記憶媒体から得られる実写動画像、位置、姿勢、地図情報を想定している。また道路環境情報とは道路、道路標識、歩行者などの障害物、といった交通に関する情報である。本手法では道路環境情報の収集・解析による、詳細な地図情報の収集作業の削減や障害物回避などの注意喚起が可能な点であるため、社会的異議がある。そして現実のシステムとして実装するための課題を列挙した。さて、これまでに提案した道路環境認識のひとつである道路エッジ追跡法では、実写動画像中に障害物が存在する場合、追跡精度が低下する。そのため動画像中に存在する静的・動的物体を抽出し、抽出形状に基づいて隠蔽された領域を補正する手法の検討を行った。実験の結果、提案手法の有効性が示された。経路案内に対して、ユーザ固有の視認性が存在する。そこでユーザの好みを考慮した経路案内について考察した。視認性に関する要素をパラメータ化することにより、できるだけ多くのユーザに対応できる経路案内の可能性が見いだされた。
著者
遠藤 和昭 小谷 善行
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告ゲーム情報学(GI) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.1999, no.53, pp.63-70, 1999-06-24

環境の変化が急速な場合、組織のリーダーのリーダーシップが問題になる。また、リアクティブプランニングを用いたエージェントの行動は、そのエージェントが得る情報によって大きく左右される。通信を行うエージェントの行動は、その通信の内容に行動が左右される。そのため、情報を発するエージェントは、集団に対して大きな影響力を持ち、集団の中で特別な役割を演じていると考えられる。さらに、情報を発する者が相応しくない場合、集団の性能に対して悪い影響を与えると考えられる。本論文では、情報を発し集団をある状態に導く者をリーダーと呼び、RoboCupシミュレーション部門のサッカークライアント(エージェント)を対象としてリーダーの統制によるシステムを作った。その結果、勝率の向上、得点の増加、失点の減少など、集団の性能を向上されることができた。A leadership of the leader in the company is important in dynamic environment. The action of the agent with a reactive planning depends on the messages in the communication. So the agent who sends the message has much influence on the agents who get the information and have a special role in the group. If the agent who sends a message is not suitable, he may give bad influence on the agents. In this paper, we call the agent who leads the agents with the information "Leader" and discuss his role on the RoboCup Soccer client in the simulation league.
著者
志久 修
出版者
佐世保工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

実環境内の文字を認識するため、(1)全方位カメラ、ステレオカメラ、通常のカメラを用いた撮影システムの開発、(2)全方位画像からの特定マーク検出方法の開発、(3)斜影ひずみを受けている文字列の認識方法の開発を行った。特に、(3)においては斜めから撮影した文字列や湾曲している文字列も認識できるように、文字列の補正法と文字の正規化法を開発した。
著者
西谷 隆夫 岩田 誠 酒居 敬一
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

携帯端末で映像から情報入力を行う際の前処理演算の効率化として多重解像度処理とそれを実現するTOPS(テラ・オペレーションズ・パー・セコンド)までスケーラブルに拡張できるマルチプロセッサのアーキテクチャについて検討した。映像からのデータを活用する前処理は従来の空間的な相関に加え、画素単位の時間的な処理に重点が移りつつある。空間的な処理としてカラー画像強調アルゴリズムの演算量削減を、また、時間的な処理に空間的な要素を加え、安定性と低演算処理を狙った混合ガウス背景モデルによる前景分離を対象に検討を行った結果、双方とも従来例に比べ大幅な演算量削減を実現できた。カラー画像強調と前景モデルを組み合わせることで逆光などの劣悪状況でも追跡が可能なことも示せた。どちらの応用もローカル処理や画素ごとの判定が多く、超並列プロセッサ向きである。また、判定処理が多く、プロセッサ自体をパイプライン化すると条件判定で無駄命令が多発することも明確になった。このため、昨年度提案した超並列DSPを発展させ、その利点を明らかにした。その結果、アルゴリズムは超並列で論じ、ハードウェアはパイプライン化しない範囲の高い周波数で動作させ、超並列アルゴリズムの一部を多重化させる方式が良いとの結論になった。また、昨年度導入したセグメントバスを有効に使うと動き補償などの空間処理で最も効率が良いとされていたシストリックアレーを凌駕するアルゴリズムを導出でることも明らかになった。このアーキテクチャを1985年ごろのパイプライン処理を行わないDSPをベースにFPGAで作ると1チップに約300個実装できることを実験的に確かめた。
著者
近藤 俊介 庄納 崇 中川 正雄
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. WBS, ワイドバンドシステム (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.106, no.415, pp.35-40, 2006-12-07
被引用文献数
1

ダウンリンクにおける次世代移動通信システムとしてOFDMAとMC-CDMAが注目を集めている.これらの技術の共通の問題点として,同一周波数帯を使用している隣接セルからの信号が干渉となり,特にセル端において性能が急激に劣化してしまうことが挙げられる.MC-CDMAでは,周辺セルからの干渉を低減するために,スクランブル符号を乗算することによって干渉を雑音化しセルを識別する.一方でOFDMAでは,周辺セルからの信号が直接干渉となり,SIRが大きく低下してしまう.そこで,セルの中心部とセル端とで使用する周波数帯を変えることによって,周辺セルからの干渉を低減する方法として提案されているFRPA技術を用いる.この技術を使用することで,FRF=1の場合に近い効率を実現でき,かつセル端で問題となる干渉の影響も周辺セルで使用している周波数帯と異なるために小さくすることができる.本稿では,FRPA技術を適用したOFDMAとスクランブル符号の使用によってセルを識別するMC-CDMAの比較を行う.比較は計算機シミュレーションを用いて行い,多重ユーザ数,所望基地局と端末との距離に対する平均BER特性によって評価を行う.
著者
野村 晃 谷本 善夫 増田 満 河野 公彦 岡 拓真
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会秋季大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.1994, no.1, 1994-09-26

国際ディジタル衛星通信方式としてのインテルサットが推奨するIBS(Intelsat Business Services)およぴ, IDR(Intemediate Data Rate)シスチムは約10年が経過し,より高機能な装置が求められている。さらに今回IDRの仕様が改定となり,回線品質向上を目的としたReed Solomon Codingが採用された。本稿では,IBSとIDRシステム共通に使用可能な変復調装置を開発し,実用化したので報告する。
著者
阿不拉 地里夏提 中島 祥夫 下山 一郎
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.77, no.5, pp.347-357, 2001-10-01

母国語,外国語の認知過程における脳機能局在差異を明らかにすることを目的に,TVモニターに呈示された,1)母国語として漢字単語を外国語として英単語々黙読したとき,2) 2桁のアラビア数字を母国語と外国語で黙読したときの21チャンネル事象関連脳電位を記録し,解析した。1)での被験者は右利き健常成人9名(日本人5名,中国人4名),2)では右利き健常成人10名(日本人6名,ウイグル人4名)であった。その結果,単語認知及び数字認知の両タスクにおいて,刺激後200-300msの間で陰性電位が見られ,その振幅は外国語認知で母国語認知より大きかった。漢字と英単語を黙読したとき,漢字では両側側頭葉及び中心部に陰性電位活動が見られ,英語では左側側頭葉により大きい陰性電位活動が観察された。アラビヤ数字を母国語と外国語で黙読したときは全ての被験者で両側側頭葉及び後頭葉に陰性電位が観察された。これらの結果から,単語及び数字認知時の脳活動は母国語よりも外国語処理で強く,視覚呈示後200-300msで認知処理が最大となると考えられた。また,母国語(漢字と数字)の認知過程には右脳のイメージ処理と左脳の言語処理が同時に関わり,外国語(英語)の認知過程では従来指摘されている言語中枢との関連で左半球が優位であることが示唆された。
著者
東野 正行 熊野 雅仁 木村 昌弘 斉藤 和巳
出版者
情報処理学会
雑誌
研究報告バイオ情報学(BIO) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.51, pp.1-8, 2009-12-10

文書ストリームからホットトピック文書群を抽出する手法として,ネットワークコア抽出法である SR 法を拡張した手法を提案する.新聞記事ストリームデータ及び人工文書ストリームデータを用いた実験により,提案法は従来法よりも高精度であることを示す.We propose a method for extracting hot-topic documents in a document stream. The proposed method extends the SR-method for network-core extraction. Using real and synthetic document stream data, we experimentally demonstrate that the proposed method outperforms convetional methods.
著者
田島 誉士 大和 修
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

主に北海道地方で分離されたウシウイルス性下痢症ウイルス(BVDV)の5'非翻訳領域遺伝子(5'UTR)の塩基配列に基づき、これらの野外分離ウイルスを遺伝子型別した。その結果、青森県の発症牛から分離されたウイルスのみがBVDV2であった。この症例は下痢症状を呈しており、さらに舌・歯肉・腸管などの粘膜にビランあるいは潰瘍をともなう病変が認められるなど、典型的な粘膜病を呈していた。BVDV2感染症の特徴的な臨床症状といわれている血小板減少症、出血傾向、止血異常などは全く認められなかった。また、北海道内ではBVDV2感染は確認されなかった。青森で分離されたウイルス以外はすべて遺伝子型でBVDV1に分類され、さらにaあるいはb亜型に分属された。また、ワクチン株として使用されているBVDV(日本では1株のみ利用されている)はa亜型に属しており、同グループに属している野外分離株は少数であった。次に、BVDVの主要抗原であるE2をコードする遺伝子の塩基配列を解読し、それに基づく系統樹解析により遺伝子亜型を決定した。その結果、5'UTRの塩基配列に基づいた遺伝子亜型と同様、北海道地方で検出されたほとんどのBVDVは1aあるいは1b亜型に分類された。しかし、4例は新たに1c亜型に分類された。これら4例は5'UTRの系統樹では1aに分類されていた。さらに、これら4例は下痢症を呈しておらず、うち1例には右旋回運動を主徴とする中枢神経異常が認められた。これまでに1c亜型は野生鹿一例においてのみ確認されており、本研究において初めて牛での感染が確認された。また、糖尿病併発BVDV感染牛から検出されたBVDVはすべて1a亜型に分類され、それぞれが非常に近縁であり、小クラスターを形成していた。本研究において1aあるいは1b亜型に分類されたウイルスは、それぞれのサブグループ内で非常に近縁であり小クラスターを形成していたが、糖尿病併発BVDVは、それら以上に近縁であることが示された。