著者
永田 一郎 加藤 宏一
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.29-38, 1986-01-01
被引用文献数
2

子宮脱の修復にあたり,十分な長さの腟を保存し,しかもつねに確実な修復効果を得ることはなかなか難しい.この目的のために,腟上端を仙棘靱帯に固定する手法を従来の腟式手術に組み合わせてみた.対象は1983年4月から1984年4月までの間に,当科で行つた手術例11例(腟式子宮全摘術+前後腟壁整形術9例,Manchester手術1例,前後腟壁整形術のみ1例)であつた.仙棘靱帯固定術は前方操作,子宮操作終了後に行う.後腟壁を逆丁字切開し,通常右の直腸側腔を展開し,坐骨棘を指標として仙棘靱帯を露出する.2本の糸をこれに通し,後腟壁右上端に結合させて腟を挙上固定する.ついで肛門挙筋縫合などを含む後腟壁整形術をかるく行う.術前術後の腟の脱垂状況の評価に部位別の腟scoreを用いた.すなわち尿道脱,膀胱脱,子宮または腟上端の脱,小腸脱,直腸脱の5部位について,脱垂の程度を0〜4点で表し,この順に並べて記載する.術前すべての部位で4点を示した高度子宮脱も本法施行後のscoreは全て良好で,とくに腟上方から後方にかけての修復状況は全例0点を示していた.また術後の腟の変位と移動方向をみるために,subtraction腟重複造影法を試みた.腟に造影剤をつめ,腹圧の前後で側面像を2枚撮り,1枚のフィルムの白黒を逆転し2枚重ね合わせてプリントする方法である.仙棘靱帯固定術を行つた例では腟が背足方に変位しており,腹圧にて腟はその長軸に平行に足方に移動した.一方仙棘靱帯固定術を行わない例では,腟の位置は正常例と同じであつたが,腹圧にて腟は長軸に沿つて前足方に移動した.
著者
高柳 長直
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.135-148, 1998-05-31
被引用文献数
2

かぼちゃは, 近年急速に輸入が増大している野菜である. 本稿は, かぼちや産地を事例として, 国際的な産地間競争が激化していく中で, 国内産地がどのように存続していくのか, その際の課題点について考察を行った. 大都市近郊産地(江戸崎町)では, 夏場に高品質のかぼちやを高価格で販売することによって存続し, 比較的高い所得を獲得してきた. 輸入かぼちやとは品質的に競合せず, 出荷時期もほとんど重ならず, 輸入増加の影響はみられない. むしろ, 担い手の高齢化や流通構造変化への対応のほうがより重要な課題である. 一方, 北海道輸送園芸産地(和寒町)では, 水稲転作作物としてかぼちやが導入され, 不利な立地条件を貯蔵技術の進展によって補い産地が形成されてきた. 和寒産地の場合, 品質的な対抗が難しく価格は低迷している. それに加えて, 出荷経費をはじめとするコストはある程度必要であり, 所得率は低い. 11〜12月は輸入物と競合することになり, 年によって市場価格が低下することによる影響は少なくない. しかしながら, 和寒産地では, 輸入増加の影響をそれほど深刻に受け止めてはいない. かぼちやは, 輪作体系の一つの作目にすぎず, 依然として水稲が農家経営の基幹であるからである.
著者
川村 秀憲 大内 東
出版者
公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
日本オペレーションズ・リサーチ学会和文論文誌 (ISSN:04534514)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.48-65, 2005-12
被引用文献数
6

本論文では, ネットワーク外部性の働く製品市場のモデル化とプレゼント戦略の評価を行う.エージェントベースモデルを用いることにより, 消費者間の相互作用ネットワークを明示的にモデルに取り込むことが可能である.本モデルは, 消費者間のネットワークの構造とネットワーク外部性の効果の関係について明らかにすることが出来る点に特徴がある.シミュレーションでは, 企業の視点に立つことにより, 競争が重要な意味を持つネットワーク外部性を有する製品の市場において, 企業が独立に操作可能なマーケティング変数であるプレゼント戦略を導入し, その有効性の検証を行う.実験結果より, ネットワークの構造と有効なプレゼント戦略には密接な関係があり, 同じ数のプレゼントを行っても構造に応じて効果的な戦略が存在することを示す.
著者
加藤 誠巳 青山 ゆき
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.46, pp.399-400, 1993-03-01

首都圏道路網の交通状況は、年々悪化の一途をたどっている。しかし、未来の道路状況を事前の交通流データより予測しうるならば、迂回路をドライバに指示したり、最適信号制御を行ったりすることにより、渋滞を回避することが可能となる。また、目的地までの旅行時間を予めドライバに知らせることも出来る。従来、予測の手法として、(1)多項式の当てはめ、(2)上流の交通量からの推定(上流で測った交通量が走行時間だけ遅れて現れると考える方式)、(3)交通現象の周期性の利用(曜日や時刻の関数として、過去のデータから統計的に求めておく方式)等、様々な方式が提案されてきた。本稿では、時間的、空間的な種々の予測因子を統合した処理及び統計的な処理を行うことが出来ると考えられるニューラルネットワークを用いて、道路に設置されている車両感知器より得られる交通量及び速度データをもとに、未来の交通量を予測する手法を述べる。
著者
品川 恭子
出版者
関西外国語大学
雑誌
関西外国語大学留学生別科日本語教育論集
巻号頁・発行日
vol.17, pp.113-129, 2007

カリフォルニア大学サンタバーバラの日本語プログラムでは、日本語学習歴のある学生に毎学期プレースメントテストを実施している。しかし、過去いろいろな問題点があり、今年度秋学期よりSPOT.をプレースメントテストの要として試用することになった。それに先立ち、春学期の終わりに日本語のクラスの学生を対象にSPOT.を実施した。本稿では、まず、現行のプレースメントテストの問題点、SPOT.試用に至った過程報告をする。続けて、現学生に実施したSPOT.の結果から見えてきた当日本語プログラムでの学生の到達度に関する考察を報告する。
著者
藤原 貞朗
出版者
美学会
雑誌
美学 (ISSN:05200962)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.15-28, 2001

Entre 1910 et 1927, Henri Focillon etudie intensement l'art asiatique, publiant trois livres et cinq articles en la matiere. Les ouvrages doivent beaucoup a la pensee de Tenshin Okakura, dont Les Ideaux de l'Orient a ete traduit en francais en 1917, quatorze ans apres la publication de la version originale. La lenteur de cette traduction fait surgir dans les annees 1920 et 1930 en France, la conception inattendue de l'histoire de l'art asiatique, ce qu'il convient d'appeler "l'histoire universelle de l'art". Le livre d'Okakura a deja perdu de son autorite dans les annees 1910. L'aspect ideologique de son idee "pan-asianiste" a ete stigmatise du point de vue scientifique. Mais Focillon n'hesite pas a admirer sa perspective historique, bien structuree, parce qu'il y devine la possibilite de degager l'universalite de l'art. Okakura, pronant son idee de "l'unite de l'Asie", opposait l'art asiatique a l'art occidental. Focillon, a son tour, utilise la notion d' "unite", tout en l'extrapolant au dela de "l'antinomie Orient-Occident". Il envisage de remplacer "l'unite de l'Asie" par un concept plus megalomane de "l'unite de l'Eurasie". Reflechissant a la fois sur l'ideal d'Okakura et sur le probleme politique d'apres-guerre, Focillon en arrive a etablir une espece d' "histoire universelle de l'art".
著者
高木 元 タカギ ゲン
出版者
高木, 元

鶯という鳥は不思議な鳥である。万葉の時代から「我がやどの梅の下枝に遊びつつうぐひす鳴くも散らまく惜しみ」(『万葉集』八四六、巻五「梅花の歌三十二首」中の薩摩目高氏海人。)などと詠まれ、古代から長い時を通じて人々が親近感を持ち続けた鳥の一種であった。この鶯には「春鳥」「春告鳥」などという異名が備わっていることから了解できるように(『和漢三才図会』の鶯の項には「正二月に至て鳴くを春起と曰ふ。二三月に至て鳴を止む。春去と曰ふ。茶を採るの候なり。呼て報春鳥と為す。」とある。)、梅花と併せて早春という季節の到来を告げる存在でもあった。さらに「歌詠鳥」とも呼ばれ、その美しい鳴き声を愛されて飼育されるようになり、「鶯(鳴)合」と呼ばれる鳴声の優劣を競う遊戯が流行した。「ホーホケキョ」という鳴声から法華経が連想されて「経読鳥」などという異称も与えられ、同時に「鶯の谷渡り」という言葉もその声に由来したものであった。「法華経」の他にも三光(月日星)を啼くなどという見方もあり、これらは鳥の囀りを人間が勝手に解釈した結果に過ぎないのではあるが、「聴き耳」型の話とは違って、鳥類の発する音声に意味を見出すのに特殊な能力を必要としていない点に注意が惹かれる。「國文学」1999年2月号(學燈社)〈特集・ジャンルを横断する近世文学の新局面〉所収
著者
中井 未生 三石 大
出版者
東北大学
雑誌
教育情報学研究 (ISSN:13481983)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.111-118, 2004-03

本研究の目的は、音楽の印象評価に基づく特徴とその印象に対する個人差の関係を明らかにすることである。本研究では、音楽の印象を表す言葉による楽曲フレーズの印象評価実験を行った。分析の結果、「明るい」、「優しい」といった印象の曲は、その印象について明確な評価が可能であり、評価の個人差も少なかった。これに対して、「暗い」、「重い」といった印象の曲は、その曲を特徴付ける「暗い」や「重い」に関しても印象の個人差が大きいことが明らかになった。また、被験者の音楽経験と曲の認知度の違いによる印象評価の差はあまり大きくなかったが、差が見られた印象は、その曲の特徴をあまり示さない印象であり、経験や認知度が少ない被験者が多い被験者よりも高く得点する項目が確認された。
著者
溝口 正
出版者
大手前大学・大手前短期大学
雑誌
大手前大学論集 (ISSN:1882644X)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.A157-A170, 2007

春季から夏季にかけて大手前大学の学生にアンケート調査を実施し摂取した野菜をその種類と共に集計した。実施期間は4月から7月に及ぶ78日間、調査に参加した学生数は延べ759名である。朝食、昼食、夕食の食事の際、1週間のすべての日数、または6日間野菜を摂取した学生は9L9%であった。摂取された植物、きのこおよび藻類は多岐にわたり、lll種類あって、その中には18種の葉類、6種の茎葉、4種の根類、12種の根茎(若茎、若芽、リン茎を含む)、6種のいも類、12種の豆類(種実を含む)、4種の花序(花穂、花らいを含む)、35種の果実(さやを含む)、9種のきのこ、5種の藻類が含まれている。最も摂食頻度の多かった野菜(頻度数)は順にレタス(1281)、トマト(1213)、ニンジン(1121)、キャベツ(1015)、かぼちゃ(625)、ねぎ(620)であった。野菜ジュースも摂取頻度が986であり多かった。上述の野菜はほとんどが両季節に区別なく摂取されているが、たまねぎ、ねぎなどは夏季に多食されていた。大手前大学学生の大部分は健康への配慮から野菜の摂取意識が非常に高く、かつ、実際に多種多用な野菜を摂取していることが明らかになった。
著者
尾立 純子 大柴 恵一
出版者
一般社団法人日本調理科学会
雑誌
調理科学 (ISSN:09105360)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.228-232, 1992-08-20
被引用文献数
1

減塩及び普通しょうゆを使用し、油使用、油不使用の条件でかぼちゃを煮た時のナトリウムとカリウム含量の変動を検討した。1.水分量は、生鮮品では、油の使用の有無による差は認められなかった。冷凍品では、油不使用で明らかに高くなった。2.ナトリウムの煮物中への浸透量は、各調味液で生鮮品に比べ、冷凍品で高くなった。油の使用によって生鮮品では、浸透量が高まり冷凍品では、逆に低下した。煮物をする時にナトリウムの量を減らす事を考えると、生鮮品では、炒め煮をしない。ナトリウム濃度の低い調味料を使う方が良い。3.生鮮品では、煮物中へのカリウムの浸透はなく、逆に煮汁中への移行が認められた。煮物と煮汁中のカリウム含量の比は、どの調味液中でもほぼ1:1となった。冷凍品でも同じような比率となった。
著者
日本特殊農薬製造株式会社開発本部技術部
出版者
日本農薬学会
雑誌
日本農薬学会誌 (ISSN:03851559)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.775-779, 1987-11-20

スルプロホスの安全性評価のための各種毒性試験を実施した.スルプロホスはラットとマウスにおける急性毒性値から劇物に指定された.中毒解毒法としては, 硫酸アトロピンと2-PAMの反復投与が有効であった.ウサギを用いた刺激性試験では, 皮膚に対する刺激性はみられなかったが, 眼粘膜に対しては結膜にのみ軽度の刺激症状がみられた.神経毒性に関して, 解毒剤を前処理したニワトリにLD_<50>量を投与して試験したが, 肉眼的にも組織学的にも遅発性神経毒性作用は認められなかった.ラットとイヌの亜急性毒性試験では, 有機リン剤特有のChE活性の阻害が観察され, 高薬量群では体重増加の抑制と飼料摂取量の低下もみられた.ChE活性以外の血液生化学的検査, 血液学的検査, 剖検および病理組織学的検査においては, 一貫した薬量相関性の変化は認められなかった.ラット, マウス, イヌを用いた慢性毒性試験でも, 抗ChE活性が認められたが, 検体長期摂取による組織変化や催腫瘍性作用は認められなかった.3世代にわたるラット繁殖試験の結果, 30および120ppm投与群においてF_<1a>新生仔の離乳時の体重減少を認めたものの, その後の世代には反映されない一時的変化であり, 薬量相関性を示す繁殖能の変化はなかった.ラットとウサギにおける催奇形性試験では, ChE活性阻害に起因する母動物の一般症状の悪化や体重の減少が認められたものの, 胎仔毒性や催奇形作用は認められなかった.スルプロホスは, 昭和60年2月に野菜類のスリップス防除用の殺虫剤として登録を取得した.登録保留基準値は, ピーマン5ppm, さやいんげん2ppm, きゅうり, なす, かぼちゃ, にがうり1ppm, とうがん0.5ppmと設定された.スルプロホスは定められた使用基準を遵守すれば, 安全性の高い農薬であり, 有用な農業資材の一つであると考えられる.
著者
村上 敬宜 堤 一也 藤嶋 正博
出版者
一般社団法人日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集. A編 (ISSN:03875008)
巻号頁・発行日
vol.62, no.597, pp.1124-1131, 1996-05-25
被引用文献数
15 19

In order to investigate the effect of surface roughness on the fatigue strength, fatigue tests for maraging steel which was subjected to aging treatment and was free of residual stress, were carried out. As an artificial surface roughness, extremely shallow periodical notches with notch radii P=0 and 200μm, and notch depths a=12, 22, 40 and 65μm were introduced. In addition to the effect of surface roughness, the effect of nonmetallic inclusions was also considered. The equivalent defect size (√(area<SUB>R</SUB>)) which controls the fatigue limit of specimen containing the surface roughness is defined by the function of depth and Pitch of the roughness. The lower bound of the fatigue limit for various levels of roughness can be predicted by substituting the equivalent maximum defect size (√(area<SUB>m</SUB>axt)) to the √(area) parameter model. The value of √(area<SUB>m</SUB>axt) can be evaluated by considering the interaction effect between the maximum inclusion size and roughness. The predicted values were examined by experiments and it is shown that the method of prediction is available for practical applications.
著者
河上 栄一 佐藤 孝志 平野 太一 堀 達也 筒井 敏彦
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.495-500, 2004-05-25
被引用文献数
1 4

犬の前立腺由来の精子結合糖蛋白質と精子の受精能獲得との関連を調べる目的で,3頭の射精精液および摘出した精巣上体尾部の割面をスライド・グラスに塗抹し,7種類のFITC-レクチン(Con A, DBA, GS-1, PHA-E, PSA, UEA-1, WGA)でそれらの塗抹精子の蛍光染色を行った.その結果,精巣上体尾部精子を全く蛍光染色せず,全ての射精精子を染色したレクチンは,PHA-Eのみであった.そこで,別の犬5頭の射精精子を発情犬の子宮角または卵管を潅流した液中で4時間培養し,活力ある精子およびhyperactivated sperm(HA-精子)の割合を調べた.さらに,PHA-E結合精子の割合および蛍光Ca indicatorを用いてCaを取り込んだ精子の割合も調べた.培養開始後4時間における子宮および卵管潅流液中の活力ある精子%,HA-精子%およびCa取り込み精子%の平均値は,潅流液無添加培養液中のそれらの値に比較して,いずれも有意に高かった(P<0.05,0.01).逆に,PHA-E結合精子%は,有意に低値であった(P<0.01).また,PHA-E非結合精子%とHA-精子%の間およびCa取り込み精子%の間に,それぞれ正の相関関係が認められた(r^2=0.787, r^2=0.812).本実験成績から,犬の前立腺から分泌された糖蛋白質の精子表面からの消失が,精子内へのCa流入を促進し,それによりhyperactivationが高率に誘起されると推察された.