著者
白田 志保 石川 清宏
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.38-45, 2013-01-15 (Released:2017-10-11)
参考文献数
2

食品の味覚とにおいが密接な関係にあることは知られている.しかし,その味覚・においを特徴付けている化学物質を明確にするためには,感覚的な分析手法と化学的な分析手法を組み合わせる必要がある.感覚的な指標をもとにした分析手法としては,におい識別センサーや味覚センサーなどが使用されているが,それらでは味覚・においを特徴付けている化学物質を特定することはできない.一方で,アミノ酸分析機や質量分析計を用いる化学分析手法では,化学物質の特定はできるものの,感覚的な指標との関連を議論することは難しい.今回,アミノ酸分析装置とガスクロマトグラフ質量分析計(以下GC-MS) に官能分析の一手法であるスニッフィング機能を組み合わせた,スニッフィング-GC/MSを用いて,数種類の市販チーズをそれぞれ分析することにより,感覚的な指標とその背後にある化学物質の同定を試みた結果,いくつかの知見が得られたので以下に報告する.
著者
稲田 利徳
出版者
岡山大学教育学部
雑誌
岡山大学教育学部研究集録 (ISSN:04714008)
巻号頁・発行日
no.89, pp.p1-15, 1992-03

「道行きぶり」は今川了俊(貞世)(嘉暦元年―応永二十一年頃)の紀行文である。その冒頭は、「きさらぎ廿日夜ふかく、かすみつつ山のはちかき月影に、中なる川うちわたすほど」とだけあり、旅立ちの年時は明示されていないが、渡辺世祐氏は内容から判断して、了俊が応安四年(一三七一)、九州探題となって、大宰府に赴くときのものと考証された。このことは、後に紹介する書陵部蔵桂宮本「道行觸」の傍注によっても確認できる。二月二十日に京都を出発、播磨、備前、備中、備後、と山陽道を西下した了俊一行は、やがて安芸国に入り、厳島に参詣、さらに十一月二十九日、長門国の赤間関に到り、平家一門の霊を弔っているところでこの紀行文は閉じられている。その間、約九か月の旅程を六十首の和歌を縷めながら、簡潔な文章で記述する。
著者
柴田 知薫子 SHIBATA Chikako
出版者
群馬大学教育学部
雑誌
群馬大学教育学部紀要. 人文・社会科学編 = Annual reports of the Faculty of Education, Gunma University. Cultural science series (ISSN:03864294)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.101-109, 2020

Phonological system of a particular language could change in thirty years of one generation. The Japanese language has undergone phonological evolution of its consonant system and prosodic system in these thirty years of the Heisei period: the distinctive feature of voiced plosives has changed from voicing to tenseness; the prosodic unit is changing from mora to syllable; the culminative function has predominated the distinctive function of word accent. These phonological changes are reflected on several cases of phonetic change among Japanese speakers of the Heisei generation.
著者
柏倉 裕志 大森 司
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.17-25, 2021 (Released:2021-02-20)
参考文献数
12

血友病は,F8(血友病A)あるいはF9(血友病B)遺伝子変異が原因となる先天性出血性疾患である.出血に対して凝固因子製剤が用いられるが,凝固因子の半減期が短く頻回の投与が必要なことが患者QOLを阻害する.血友病は古くから遺伝子治療に適した疾患と考えられ,様々な研究がなされてきた.この10年間で飛躍的に遺伝子治療に対する基礎研究が進み,実際にアデノ随伴ウイルス(adeno-associated virus: AAV)ベクターを用いたヒト臨床試験において,一回の投与で長期にわたって血中凝固因子が維持され,製剤投与の必要性がなくなる結果が得られている.現在の遺伝子治療の弱点として,中和抗体陽性患者に適応がないこと,小児に適応がないことなどが指摘されている.これらを克服するために,染色体DNAにアプローチするゲノム編集治療や,レンチウイルスベクターで治療遺伝子を導入した自己造血幹細胞移植治療も進行している.血友病に対する遺伝子治療が日常診療において利用できる日も近いが,長期的な有効性・安全性の観察に加え,高額な医療費に対する議論が必須である.
著者
下方 浩史 安藤 富士子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.721-725, 2012 (Released:2013-07-24)
参考文献数
16
被引用文献数
8 8

加齢に伴って筋肉量が減少し,筋力を維持できなくなってしまうサルコペニアは高齢者の日常生活機能を低下させる.われわれは栄養摂取等の生活習慣や既往歴など,サルコペニアのリスク要因について,無作為抽出された40歳以上の地域在住男性1,783名,女性1,825名での10年間,延べ14,010回の測定の縦断的データを用いて網羅的に検討を行った.二重エネルギーX線吸収装置(DXA)での筋肉量から診断されたサルコペニアでは喫煙,運動不足,総エネルギー摂取量の不足,たんぱく質・分岐鎖アミノ酸不足,自覚的健康が良くないことなどがリスクになっていた.65歳以上のみを対象とした身体機能からの診断されたサルコペニアでもDXAでの診断の場合と同様に検討を行った.喫煙がリスクになっており,総エネルギー摂取量,ビタミンD,たんぱく質,分岐鎖アミノ酸摂取が意にリスクを下げていたが,身体活動との関連は有意ではなかった.

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著者
上司小剣 著
出版者
東洋書館
巻号頁・発行日
1941
著者
柏木 恵子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.193-202,253, 1967-12-31 (Released:2013-02-19)
参考文献数
6
被引用文献数
6 3

パースナリティーの発達, ないし社会的適応のひとつの重要な側面である性役割学習過程が, 男・女の性に対してそれぞれどのような役割特性を認知しているかの面から問題とされた。ことにとれが自我に目覚めて外的権威に反発する時期を経て社会的人間へと転じてゆく青年期にどのような変化をたどるか, また自身の性によって認知のしかたにどんな相違があるかが検討された。性役割特性を示す形容詞群から成る質問紙を用い, 男・女両性についてそれぞれの特性がどの程度望ましいかの比較・評定を求めた。そこから男.女両役割得点および両得点差が求められ, 男女をどのような差で役割分化させているかが検討された。その結果, 次の諸点が指摘された。(1) 全34項目中10項目については, 全被験者群によって同様な結果が得られ, 被験者の性・年令の差を問わず認知のしかたにある共通する面の存在することが示された。(2) 一方, 他のいずれの群とも共通性をもたず特定の1群だけが性役割の分化にあたって有効とする特徴的な点もいくつかみられた。(3) 一般に, 男性に対しては役割特性が明瞭であり, 多くの特性が付与されている。これに比べて女性役割特性はより少なく, ことに年少段階では明瞭に認知されがたい傾向がある。(4) 被験者の性によって, 中学生から大学生にいたる問の年令による変動のしかたには相違がみられた。すなわち,(a) 男子では, 男・女両役割の分化の程度に著しい年令差があり, 年少段階ではわずかな特性でしか性役割は区別されておらず未分化である。年長になるにつれて男・女役両割はこまかく明瞭な差をもって分化してゆく。(b) 女子では, 男・女両役割を識別するのに有効な項目特性数に関しては年令差はみられない。しかし内容的にみると, 何が基準となって識別されているか, 女性役割特性が明瞭に積極的に捉えられているか, などの点で, 年長段階と年少段階との問には相違がある。(5) 低年令段階では男子と女子との間に認知のしかたに差があるが, 年長段階になると性差は小さくなり, 男・女群間の相違は小さくなる傾向がみとめられた。(6) 男・女両役割得点差と評定の絶対値との関係から各群の特徴が吟味され, 今後とるべきいくつかの分析方向が示唆された。
著者
李 文平
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. TL, 思考と言語 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.112, no.339, pp.65-70, 2012-12-01

本稿では,日本語母語話者21名と中国語母語日本語学習者32名を対象として,フレーズ性判断課題を用いて「名詞+を+動詞」のコロケーション処理における頻度,MIと条件付き確率の影響を検証した.その結果,日本語母語話者と中国語母語日本語学習者の両方において,頻度の高いコロケーションがより速く,より正確に処理されることから,コロケーション処理に影響を与える要因はMIや条件付き確率よりも,コロケーションの頻度の方が強い傾向にあることが分かった.この結果より,頻度の高いコロケーションは一つのまとまった表現として処理されることで,教育上利用する価値のある項目であると考えられる.
著者
小山 裕
出版者
関東社会学会
雑誌
年報社会学論集 (ISSN:09194363)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.22, pp.44-55, 2009-07-25 (Released:2013-03-28)
参考文献数
30

In the present essay, Jürgen Habermas's early sociological works will be examined in two respects: on the one hand, their stratified relationships to the conceptual constructions of Carl Schmitt and Rüdiger Altmann; on the other, his understanding of historical development in eighteenth-century England. The analysis through these two subjects maintains that the core of his conceptualization of the civil/bourgeois public sphere consists in the articulation between institutionalized political powers (not only government, but also parliament) and private citizens who generally criticize political affairs. In addition, the essay will also argue that his diagnosis of modern society depends especially on his critical attitude of intermediary organizations which attempt to affect political processes without public control in the re-politicized social sphere that emerged after the disappearance of the liberal distinction between the public and private realm.
著者
峠 明杜
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第32回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.56, 2016-06-20 (Released:2016-09-21)

固着性である植物は、子を残して分布を広げるために種子を散布する。種子と果実は種子散布の様式に従ってその形態を発達させてきた。よって種子や果実の形態はその植物の種子散布様式を反映していると考えられる。本研究で対象としたミズキ属は、大半の種が小さな単果を付けることから鳥散布とされている。しかし、日本に自生するミズキ属の中でヤマボウシ(Cornus kousa)だけが集合果という特殊な果実形態をとる。ミズキ属の系統関係から単果が祖先的な形質、集合果形質は派生的な形質であることが知られており、集合果形質の獲得はサルによる種子散布が原因であると長らく考えられてきたが、そのことを実証するような研究はされていない。本研究では宮城県金華山島のニホンザル(Macaca fuscata)がヤマボウシの種子散布にどれほど寄与しているかに注目し、ヤマボウシにとっての最適な種子散布者像や集合果形質の進化的背景を明らかにしようとした。結果として、ヤマボウシの果実は熟すとすぐに木から落ちること、ニホンザルはヤマボウシ果実を樹上ではたくさん食べるが地上に落ちた果実はほとんど食べないこと、ニホンザルが未熟果でもよく食べて種子を噛み割ってしまうことなどが明らかになった。鳥類による果実食は2度あったが種子を飲み込むような行動は見られなかった。金華山島に生息する大型・中型哺乳類はニホンザルとニホンジカのみと哺乳類層が貧弱であるが、そのような環境では確かにニホンザルが最も種子散布者として貢献していると考えられる。しかしヤマボウシが熟果をすぐに落とす一方、ニホンザルが落果をほとんど食べないことから、集合果形質の進化にニホンザルが関与したとは考えにくい。集合果形質の進化に寄与した最適な種子散布者像としては地上生の哺乳類が考えられるが、本研究ではそれを実証することはできなかった。より哺乳類層の豊かな地域で調査する必要がある。
著者
矢野 史子
出版者
日本ペット栄養学会
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.135-146, 2002-10-10 (Released:2012-09-24)
参考文献数
13
著者
武井 浩樹 藤田 智史 山本 清文 中谷 有香
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

小児期では味蕾は成熟しているが,味覚情報を脳内に伝える脳神経線維や中継核はまだ発達途上である。したがって味覚を生み出す大脳皮質味覚野においても同様に発達が完了していないと考えられる。神経回路の発達が完了する「臨界期」の存在が大脳皮質視覚野で報告されているが,味覚野では未解明のまままである。そこで,脳内のニューロン活動を経過観察できるレンズをマウスに埋入し,種々の味覚物質を摂取させた際のニューロン群の発達に伴う発動パターンを数週間にわたり覚醒下にて計測する。また、視覚野の「臨界期」に重要な役割を果たすとされるBDNFの拮抗薬を投与するなどして,味覚野の「臨界期」を推定する。
著者
西浦 博
出版者
北海道大学 高等教育推進機構 オープンエデュケーションセンター 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)
雑誌
科学技術コミュニケーション (ISSN:18818390)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.101-105, 2021-08

筆者は理論疫学の専門家として,新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の傘下であるクラスター対策班で,新型コロナウイルス感染症の分析および対策に関する提言を2020年2月から7月まで行った.会見発表だけではなく,Twitter での発信も行うなかで,コミュニケーションの専門家の支援も受けた.現在の日本では,科学と政治の関係性が幼弱であり,専門家による政治への踏み越えや,政治による専門家への責任転嫁など課題が多い.このような状況を経た今,科学技術コミュニケーターが果たす役割は非常に大きなものになると思われる.科学技術コミュニケーターには,科学が発すべきメッセージの中枢のデザインにまで大きく影響を与えるような専門家になっていただきたいと希望する.