著者
満 都拉 藤井 敦 石川 徹也
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.47, no.8, pp.2733-2745, 2006-08-15

モンゴル語には,モンゴル文字を用いて表記する伝統的モンゴル語とキリル文字を用いて表記する現代モンゴル語の2 種類がある.伝統的モンゴル語は主に中国の内モンゴル自治区で使われており,現代モンゴル語は主にモンゴル国で使われている.両方のモンゴル語を読み書きができる人は少ないため,内モンゴル自治区とモンゴル国で情報の交換が困難である.しかし,2 つのモンゴル語は音声言語としてはほとんど同じであり,発音に基づいて文字単位の対応を付けることができる.そこで,本論文は伝統的モンゴル語と現代モンゴル語を双方向的に翻字する手法を提案する.具体的には,一方のモンゴル語で書かれたテキストを文字単位で他方のモンゴル語に変換する.また,正字法を適用し,文字単位では形式化が困難な表記上の違いに対処する.新聞記事を用いた評価実験の結果,現代モンゴル語から伝統的モンゴル語への翻字精度は80.6%,伝統的モンゴル語から現代モンゴル語への翻字精度は85.5%であった.また,本手法による自動翻字の結果に誤りが含まれてもテキストの内容理解には支障がなかった.
著者
栗山 保之
出版者
東洋文庫
雑誌
東洋学報 = The Toyo Gakuho (ISSN:03869067)
巻号頁・発行日
vol.90, no.2, pp.199-224, 2008-09

The trade conducted across the Red Sea between the Arabian Peninsula and the African continent is known to have flourished from the middle of the tenth until the late fifteenth century, at which time the Portuguese began making inroads into the Indian Ocean. The research to date on the Red Sea trade has considered it from such different viewpoints as the merchants involved, modes of trade and trade routes; however, the articles of trade, a subject of vital importance in any examination of trade, have not been adequately examined. Consequently, in this article the author considers the Red Sea trade during the thirteenth century by examining the goods that were exported from Egypt to Yemen at that time.The discussion is based on Nūr al-Maʻārif fī Nuẓum wa Qawānīn wa Aʻrāf al Yaman fī al-ʻAhd al- Muẓaffarī al-Wārif, a collection of documents pertaining to tax administration compiled during the reign of the second Rasūlid sultan, a1-Muẓaffar Yūsuf b. ʻUmar (r. 647-94/1249-95), analyzing a section entitled “Goods arriving from the regions of Egypt,” containing documents relating to the customs house at the port of ʻAdan, listing in great detail the numerous goods that were being brought to Yemen from Egypt at the time and clarifying a number of points in connection with the classification of goods, kinds of goods (extiles and non-textiles), the localities where they were produced, from where they were shipped, distribution routes, and the maritime merchants who were involved.
著者
工藤 達朗
出版者
中央ロー・ジャーナル編集委員会
雑誌
中央ロー・ジャーナル (ISSN:13496239)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.99-119, 2019-06-30

憲法保障制度としての国家緊急権と抵抗権について概説したもの。
著者
高橋 正樹
出版者
新潟国際情報大学国際学部
雑誌
新潟国際情報大学国際学部紀要 (ISSN:21895864)
巻号頁・発行日
vol.1, no.創刊号, pp.117-133, 2016-04-28

西欧植民地主義勢力は周辺国の植民地化がコスト高だと判断した場合、その主権国家化を支援した。ただし、そのような国家形成は、植民地化された国と同様にその周辺国の国家と社会との亀裂を内在化させた。タイの国家形成史はまさにこのケースに当てはまる。タイは、19世紀中期から20世紀初頭まで、英仏がバンコク王朝の宗主権を侵食しつつビルマ、マレー、インドシナを植民地化し、他方でバンコク王朝はその結果、領域主権国家としての境界を画定していった。その結果、タイ国家はとくにイギリスの支援を受けながら主権国家としての国家機構を構築した。この過程で他の政治勢力に対して圧倒的な力をもつ国家エリートがバンコクを中心に構築される一方で、地方エリート勢力は解体され、また地方エリートと民衆の関係が解体していった。さらに、1930年代から40年代にかけて、新興の国家官僚層は、英仏植民地主義体制が不安定化すると、南進政策をとる日本に接近し、領域主権国家としての強化を試みた。
著者
岩田 浩太郎
出版者
西村山地域史研究会
雑誌
西村山の歴史と文化
巻号頁・発行日
vol.3, pp.169-208, 1996-11-30

はじめに 本稿は、近世後期に出羽国村山郡松橋村(上組)沢畑の豪農堀米四郎兵衛家がおこなった紅花出荷の動向について、とくに荷数や出荷の形態などに関する基礎的な考察をおこなうことを課題とするものである。堀米四郎兵衛家に関しては、幕末期の農兵頭としての活動についての研究があり、「村山地方屈指の大地主」の一人として注目されてきた。また、今田信一氏による一連の最上紅花史の研究において、堀米家の紅花生産や取引関係の史料の一部が紹介されており、かつ、同家の家屋敷地が河北町(山形県西村山郡)に寄贈されて河北町立紅花資料館として公開されたことからも、同家が紅花荷主として活躍したことはひろく知られてきているといえる。しかし、堀米四郎兵衛家の紅花荷主としての活動をはじめ、その経営に関する実証的な研究はほとんどなされておらず、羽州村山地方における豪農の一典型として著名なわりには、その実態は未解明なままであるのが研究の現状といえよう。近世後期における堀米四郎兵衛家の経営構造は多角的な性格を有しており、その全体像を解明するためには同家の様々な社会的経済的活動に関する分析を蓄積していくことが必要である。本稿は、そうした作業の一環として位置づけられる。また、紅花荷主帳簿の史料的性格については研究者間で議論が展開しておらず、分析方法についても共通認識が形成されていないのが現状である。本稿は、以下で取り上げる「萬指引帳」の分析過程をやや子細に示すことにより、ささやかながら荷主帳簿論の前進を果たそうとするものでもある。近年、堀米四郎兵衛家文書は、河北町誌編纂委員会・河北町立中央図書館をはじめ、地域の先学の尽力により、保存・閲覧の体制が整えられるとともに史料翻刻の作業が進められた。本稿は、こうした研究条件の進展を基盤としている。また、山形大学人文学部日本経済史(岩田)ゼミナールでは堀米四郎兵衛家文書の研究を進めている。本稿は、ゼミナリステンとの議論の産物でもあることを明記しておきたい。
著者
稲垣 誠 川合 康央
雑誌
エンタテインメントコンピューティングシンポジウム論文集
巻号頁・発行日
vol.2021, pp.81-83, 2021-08-23

本研究では,ユーザーの心拍数をリアルタイムに計測し,一定時間内の心拍数をノーツの落下速度に割り当てることで毎回異なる変化をするリズムゲームを開発しました.このシステムでは,同じ曲をプレイすることで生まれる「飽き」を軽減させるため,ユーザーの心拍数の変化に応じてリアルタイムで状況を変化させ続けるリズムゲームをプレイすることが出来ます.また,曲中での心拍数の変化をグラフにし,可視化させることで練習箇所を特定し,次回プレイ時の上達を助力します.
著者
村松 晋
雑誌
聖学院大学論叢 = The Journal of Seigakuin University
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.143-158, 2017-03

本稿は柏木義円(一八六〇~一九三八)同様、上州にあって終生、非戦・平和を訴え続けた牧師・住谷天来の、特に晩年の思想・信仰の一端に迫ろうとした一試論である。具体的には老いた天来が、戦争へとひた走る状況のもと、「孤独と貧窮」に屈せずにその志を屹立させ得たのは何故なのかを問うた。ここでは天来の志を支えた世界として第一に、「悲痛」をめぐる逆説的な信仰を、第二に天来を支えた友情の交流圏の存在を指摘しておきたい。
著者
王 筱 江崎 哲也
出版者
山梨大学教育国際化推進機構
雑誌
高等教育と国際化 : 山梨大学教育国際化推進機構紀要年報 (ISSN:21893993)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.37-43, 2018-11-20

本研究では、日本語を母語とする大学生が、教員を「先生」と呼ぶ要因を解明するため、一対一で話す場面を設定し、「調査協力者の属性(性別、年齢、専攻)」、「力関係(年上/ 同年齢)」、「相手の属性(調査協力者が所属する大学の教員であるかどうか、性別)」、「親疎関係(親しい:プライベートの付き合いがある友達・親しくない:友達ではない)」、「教授されたか否か、またその内容(学問的/ 実用的)」の五つの要因を質問事項に入れ、日本語を母語とする大学生及び大学院生を対象にアンケート調査を実施した。決定木分析を用いて分析を試みた結果、「先生」という呼称選択を決定づける主な要因は「力関係(年上・同齢者)」であることがわかった。また、「相手の属性(調査協力者が所属する大学の教員であること)」と「教えられた内容(学問的・実用的)」も要因となることが示唆された。一方、所属する大学の教員であることを知っていても、「先生」と呼ばない学生が少数いることもわかった。
著者
田島 悠来 Yuki Tajima
出版者
同志社大学社会学会
雑誌
評論・社会科学 = Hyoron Shakaikagaku (Social Science Review) (ISSN:02862840)
巻号頁・発行日
no.116, pp.15-40, 2016-03-20

本稿は、NHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』(2013)が、ロケ地である岩手県久慈市においてどのように受容されていたのかを現地調査に基づいて探り、ドラマ放送やそれを機に起こったツーリズムにより地域側にどのような効果がもたらされたのか、それがどのような意味を持っていったと言えるのかを考察した。その結果、『あまちゃん』の受容によって、地域側に観光客増加等の経済的な効果がもたらされたことに加え、自らの地域に関心や愛着を持ち、文化意識を高める機会を得たと考えられる。そして、放送終了後も『あまちゃん』を生かした発展的なまちづくりを継続して行うことで、「久慈市=『あまちゃん』」というイメージを一層強化させていっている。
著者
山本 雄平 田中 成典 姜 文渊 中村 健二 田中 ちひろ 清尾 直輝
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.1334-1350, 2018-05-15

我が国では,2020年の東京オリンピックに向けて,スポーツに関わる政策が積極的に推し進められている.その施策の1つである「スポーツ × ICT」では,スポーツ分野における計測機器の開発やデータ計測と可視化手法の高度化,そして新サービスの提案など,最新ICTの効果的な利活用が進められている.しかし,スポーツ分野にICTを適用する試みは始まったばかりの黎明期であり,教育現場や地域クラブの指導者のみならず,高度な専門知識を保有したスタッフにおいても,自在に操ることは難しい.そこで,本研究では,「スポーツ × ICT」に関わる既存研究を調査し,現状把握と効果的な活用方法を模索するとともに,アメリカンフットボールのプレーデータの可視化システムを開発する.そして,選手にセンシング機器を適用し,統計的手法と組み合わせてプレー分析を行い,カレッジフットボールの監督・コーチなどの指導者に新たな気づきを提供できるかの観点に基づき,実用の可能性を検証する.
著者
小林 善帆
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 = NIHON KENKYŪ (ISSN:24343110)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.51-89, 2022-03-31

本稿は、明治初中期、いけ花、茶の湯が遊芸として捉えられながらも、礼儀作法とともに女子教育として高等女学校に、条件付きで取り入れることを許容された過程を考察するものである。手順としてまず教育法令の変遷を遊芸との関係から確認し、次に跡見学校、私塾に関する教育・学校史資料の再考、続いて欧米人による記録類や、欧米で開催された万国博覧会における紹介内容をもとにして、検討を加えた。 教育法令の変遷と遊芸との関係を見ると、1872年「学制」頒布においていけ花、茶の湯は遊芸と捉えられ、教育にとって有害なものであり不要とされた。このことから茶の湯研究が、1875年跡見学校で学科目として取り入れた、としていることは考え難い。いっぽう、1878年のパリ万国博覧会、1893年のシカゴ万国博覧会において、いけ花や茶の湯が女子教育として位置づけられた。それは1879年のクララ・ホイットニーの日記や1878年のイザベラ・バードの紀行からも窺えることであった。 また改正教育令が公布された1880年、「女大学」に初めていけ花、茶の湯が、余力があれば学ぶべき「遊芸」として取り上げられた。さらに1882年、官立初の女子中等教育機関の学科目「礼節」のなかに取り入れられたことは、いけ花、茶の湯が富国強兵という国策の女性役割の一端を担うことになったといえ、ここで女子の教育として認められたと考える。 そのいっぽうで1899年、高等女学校令の公布においていけ花、茶の湯は学科目及びその細目にも入れられなかった。しかし同年、福沢諭吉は『新女大学』で、いけ花や茶の湯は遊芸であっても、学問とともに女性が取り入れるものと説いた。 そして1903年、高等女学校においていけ花、茶の湯は必要な場合に限り、正科時間外に教授するのは差し支えない、との通牒が出された。遊芸を学校教育で課外といえども教えてよいかの是非が問われ、「必要な場合に限り」「正科時間外」という条件付きで是となったのであった。
著者
若月 裕樹
出版者
電気通信大学
巻号頁・発行日
2021-03-25

ゲーム人工知能の性能は人工知能研究の達成度の指標となっている.これまで,様々なゲームの人工知能が開発されてきたが,開発が未発達のゲームも多々ある.そのようなゲームの1つであり,一般的に難易度が高いゲームとして知られるローグライクゲームを題材に本研究では2つの目的で大規模ニューラルネットワークを用いた強化学習を行った.1つめは既存の人工知能が獲得する収益の期待値の推定を行う学習,2つめはランダムプレイヤを開始点とする人工知能の強化学習である.ここで既存の人工知能には著者が卒業論文執筆のときに制作した人工知能を用いた.大規模ニューラルネットワークには残差ネットワークと呼ばれる構造を用いた.多くの畳み込み層を構造に持つ深層ニューラルネットワークが様々な分野で成果をあげたことは有名だが,畳み込み層を重ねすぎると学習が安定しなくなってしまうという欠点があった.この残差ネットワークは非常に多くの畳み込み層を重ねても問題が起きにくいという画期的な手法である.また,このニューラルネットワークにはローグライクゲームの特徴ともいえる非常に多くの値を特徴として入力しており,マップなどの平面的な情報だけでなく,時間方向も考慮した3次元畳み込みなども行った. 結果として,既存人工知能が獲得する収益の期待値推定に関しては,ニューラルネットワークは学習によって高い推定精度を獲得した.推定精度を決定係数にして計測したところ,おおよそ0.97に達していた.一方で,ランダムプレイヤを開始点とする人工知能の強化学習については学習がうまくいかなかった.ランダムプレイヤよりも良いプレイヤは強化学習によりもたらされなかったが,ハイパーパラメータや学習手法の比較検討を行い,著者が試行錯誤した過程で得た大規模ニューラルネットワークやQ学習におけるいくつかの知見をまとめた.