著者
新田 孝行
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
vol.101, pp.61-85, 2022-09-30

あるインタヴューでジャン=クロード・ビエットは,批評家としては一義的な関心の対象である演出が自ら映画を監督する際は二次的な問題になったと述べている。ヌーヴェル・ヴァーグ以後の批評における特権的な価値基準だった演出よりも重要になったのは俳優と人物(役柄)の関係だった。俳優が役を演じることを嫌ったロッセリーニやブレッソン,ゴダールらに対し,ビエットは,パゾリーニとともに,誰もが日常生活でつねにすでに演じているという前提から出発し,その「ドラマ性」を映画に取り込んだ。彼は親しい仲間でもある俳優を観察し,私的な会話での発言を台詞として採用して役を当て書きした。こうした撮影以前の段階が擬似的な演技指導の役割を果たすことで,ビエットの映画では俳優本人の過去の生が人物に反映され,映画内の物語に先行する時間が表現される。
著者
藤長 かおる 伊藤 由希子 湯本 かほり 岩本 雅子 羽吹 幸 磯村 一弘
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 = The Japan Foundation Japanese-Language Education Bulletin (ISSN:24359750)
巻号頁・発行日
no.18, pp.33-48, 2022-03

『いろどり 生活の日本語』は、主に就労目的で来日し日本で生活する人を対象とし、基礎的な日本語のコミュニケーション力を身につけるための教材として開発された。生活ですぐに役立つ日本語を身につけるために、①「JF 生活日本語 Can-do」を参照して生活場面に必要な課題遂行226項目を目標とし、②会話理解では日常生活で遭遇する可能性の高い口語表現を取り入れ、読解素材ではレアリアを活用する等、日本で生活する人にとっての真正性を重視した。③文法や語彙など言語知識の学習では、理解できればいい日本語と使える日本語を区別して考え、④自律学習をサポートするために「文法ノート」「漢字のことば」「日本の生活 TIPS」を設けた。また、『いろどり』は著作権フリーの教材としてウェブサイト上で公開することにより、各国教師による副教材の作成・共有が進み、日本国内・国外を問わず、教師同士の連携を促進する教材となっている。
著者
池田 久美子
出版者
信州豊南短期大学
雑誌
信州豊南短期大学紀要 = Bulletin of Shinshu Honan Junior College (ISSN:1346034X)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.105-122, 2001-03-03

本を読ませ、「疑問・分からないことを書きなさい。」と指示する。それに応えて学生は、自分が分からないと感じる事柄を書く。この、学生が分からないと感じる事柄は、多様である。だから、それぞれの分からなさに対してどう指導すべきかも、多様でありうる。どう指導すべきかを考えるためには、学生の分からなさの実態を知らなければならない。分からなさの実態=症状に基づいて、どこでどうつまずいているかを診断しなければ、的確に指導=治療することは出来ない。学生の思考の実態を診断する診断学が必要である。本稿では、学生が分からないと感じる事柄を分類する。分類してみると、そこに複数の型を見出すことが出来る。この型は、指導方法の違いに対応する。型が違えば、指導方法はそれに併せて変わる。型は、的確な指導方法を構想するための手がかりである。
著者
道端 良秀
出版者
大谷学会
雑誌
大谷学報 = THE OTANI GAKUHO (ISSN:02876027)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.49-62, 1966-09
著者
野口 芳子
出版者
梅花女子大学・大学院児童文学会
雑誌
梅花児童文学 = The Baika Journal of Children's Literature (ISSN:13403192)
巻号頁・発行日
no.30, pp.11-25, 2023-03-15

子どもの純性を保全し開発するために創刊された『赤い鳥』(1918-1936)のなかには、グリム童話に由来する話が9 話存在する。しかし、それらはグリム童話の原典に忠実な翻訳ではなく、大幅に改変した再話である。鈴木三重吉が言う「子ども」に視点を当てた再話とはどういうものなのか、グリム版の原本と比較して、その内容を具体的に把握することが本論の目的である。再話の際に忌避された要素は、残酷な表現、悪い姑の存在、礼儀作法に反する言動、教訓などである。重視された要素は罪人を厳罰に処さずに許すこと、服装の色彩を鮮やかにすること、男の子の啓発に主眼を置くことなどである。空想を重視すると公言しながら、空想が掻き立てられる小人や死神などの異界の存在は題名から外され、「幸福になる」という表現は、「金に困ることはなくなる」という現実的で具体的な表現に改変される。『赤い鳥』に収録されたグリム童話の再話を読むと、子どもたちは本当に美しい空想や感情を養うことができるのであろうか。不明であると言わざるを得ない。
著者
庄司 真理子 Mariko Shoji 千葉敬愛短期大学初等教育科 Chiba Keiai Junior College
雑誌
国際教養学論集 = Journal of International Liberal Arts
巻号頁・発行日
no.2, pp.21-56, 1992-10-01

The purpose of this paper is to study the behaviors of miniinternational organizations in the face of intervention in Grenada. The four international organizations related to this case are the United Nations (UN), the Organization of American States (OAS), the Caribbean Community, the Organization of Eastern Carribean States (OECS). After World War II these two reasons to set up the mini-international organizations could be found: One was decolonization and the other was the institutionalization of international societies. In the Carribean basin, many mini-states which became independent from England could not, however, reach full independence. The various remaining colonial institutions became international organs in mini-international organizations. For example the member states of the OECS share the common organs of this international organization. Thus a political accident in one of these member states means an accident for all the member of the OECS immediately. When OECS invaded Grenada, the Caribbean Community could not take any action on it. Because some of the member states participated in invading Grenada, while the other states protested against this invasion. The OAS did not adopt any resolution, and they did not give any support to this invasion. In the UN, the majority of member states criticized this invasion, and then adopted a resolution to condemn this invasion. In the process of conflict resolution, each international organization showed different reactions. These organizations took actions based on political judgement, further they distributed their political roles. To endanger the roles of these international organizations was out of order. From the view point of a theory of International Organizations, the role of the mini-international organizations in the international conflict should be positively estimated. It would be important, however, to consider mini-international organizations in the process of conflict resolution by all the international organizations.
著者
内田 伸子
雑誌
江戸川大学 こどもコミュニケーション研究 紀要 = EDOGAWA UNIVERSITY Childhood Education and Research Center
巻号頁・発行日
vol.1, 2018-03-16

現在,我が国では学力低下が問題になっている。学力格差は家庭の世帯収入を反映するので,世帯収入の低い家庭の子どもの学力が低いのではないかと指摘されている。学力格差は幼児期から始まるのであろうか。学力基盤力となるリテラシー(読み書き能力)や語彙力,親子の会話も経済格差の影響を受けるのであろうか。本稿では現代の子育ての実態を探り,幼児期の生育環境や保育環境が子どもの学力にどのような影響を及ぼすのかについて国際比較短期縦断調査に基づいて考察する。
著者
近藤 弘幸
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
vol.94, pp.25-55, 2019-09-30

条野伝平は、今ではほぼ忘れられた作家であるが、幕末には山々亭有人の号で人情本の作者として人気を博していた。明治維新後の条野は、一旦創作活動から手を引き、新興の新聞界に身を転じる。彼が『東京日日新聞』を経て一八八六年に創刊した『やまと新聞』は、連載小説を売りにする典型的な小新聞として大成功をおさめた。同紙では条野自身も採菊散人の号で創作活動を再開し、ふたつのシェイクスピア物を残している。本論は、そのうちのひとつである『三人令嬢』(一八九〇)と題された『リア王』を読み解く試みである。幕末・維新の動乱期を経て新聞界へ転身する条野の生涯を素描したうえで、『三人令嬢』の概要を紹介し、同作が、探偵小説という当時の最先端の流行を取り入れて新しい読者への訴求を図りつつ、戊辰戦争期の諷刺錦絵的手法を援用して旧幕以来の古い読者のノスタルジーにも応える、したたかで豊かなテクストであることを明らかにする。
著者
瓜生原 葉子 Yoko Uryuhara
出版者
同志社大学商学会
雑誌
同志社商学 = Doshisha Shogaku (The Doshisha Business Review) (ISSN:03872858)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.1047-1065, 2021-11-15

本稿では,新型コロナワクチン接種戦略の効果を高めるために,大量に存在するガイダンスを咀嚼し,政府や地域機関がとるべき重要な指針を簡潔に示すことを目的としている。本稿で示す重要な点は、新型コロナコロナワクチンの入手が可能になる前に,ワクチン接種戦略を計画することの必要性である。国民の各グループがワクチンを入手する順序について合意を形成する必要があり,ワクチン接種に関連して存在する恐怖や懸念を軽減し,ワクチンに対する需要を創出することが要諦である。
著者
柏崎 礼生
雑誌
研究報告インターネットと運用技術(IOT) (ISSN:21888787)
巻号頁・発行日
vol.2017-IOT-37, no.13, pp.1-6, 2017-05-18

クラウドコンピューティングの登場により人々は強大な計算機資源を手に入れることができるようになった.クラウドコンピューティングをクラウドコンピューティングたらしめる属性の一つに従量課金がある.人々が強大な計算機資源を手に入れることと,その代償となる資本は等価交換される.一方で人々は時として意図せず強大な資源を利用し,意図しない代償の請求に苦悩することがある.本稿では意図しない利用によりクラウドコンピューティングプロバイダから 1 ヶ月で約 580 万円を請求された哀れな一個人の事例を紹介するとともに,その原因を説明し,意図と資本の齟齬を解消し得るモデルを提案する.
著者
塩田 雅弘 伊藤 毅志
雑誌
研究報告ゲーム情報学(GI) (ISSN:21888736)
巻号頁・発行日
vol.2020-GI-44, no.3, pp.1-6, 2020-06-20

本研究では,近年将棋で用いられている評価関数の機械学習の手法を 5 五将棋に適用することで,5 五将棋でもその手法が有効であるかを検証した.具体的には,オープンソースで公開されている「やねうら王」をベースに,この手法を 5 五将棋に応用したプログラムを開発した.その結果,本プログラムは,2020 年 3 月に開催された UEC 杯 5 五将棋大会において,全勝優勝した.また,有力プログラムとの対戦結果をもとにその強さを比較した.