著者
船津 和夫 山下 毅 斗米 馨 影山 洋子 和田 哲夫 近藤 修二 横山 雅子 高橋 直人 水野 杏一
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.572-580, 2019 (Released:2020-04-01)
参考文献数
38

目的:コーヒー飲用の肝障害に対する改善効果は,これまで国内外から報告されてきた.今回は,10年間にわたる長期縦断的調査で,コーヒー飲用の脂肪肝ならびに臨床検査値への影響を検討した.対象と方法:腹部超音波検査で脂肪肝を認めない男性のなかで慢性肝障害,高血圧,脂質異常症,糖尿病で治療中の人を除いた対象者について,10年後の脂肪肝発生の有無で調査終了時の年齢,BMI,運動量をマッチした無脂肪肝群(404名)と脂肪肝群(202名)のペアを作成し,両群におけるコーヒー飲量の推移と臨床検査値の変動を比較した.また,脂肪肝発生に影響する可能性のある諸因子を調整し,コーヒー飲用の脂肪肝発生への影響を検討した.次に,10年間のコーヒー飲量の推移によりコーヒー飲量減少群(233名),同等群(213名),増加群(151名)の3群に分け,各群の脂肪肝発生頻度と臨床検査値への影響を検討した.結果:脂肪肝の発生別に分けた2群ならびにコーヒー飲量の推移別に分けた3群の検討から,コーヒー飲用が脂肪肝の発生を抑制し,メタボ関連項目の臨床検査値の改善をもたらす可能性が示唆された.結論:コーヒー飲用は脂肪肝の発生を抑制し,生活習慣病関連因子の改善をもたらす可能性があることから,生活習慣病の予防に有用であることが示唆された.
著者
大江 朋子 高田 剛志 小川 充洋 古徳 純一
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2022-04-01

人は自らの身体と環境の状態を監視し,その時々で処理した情報を瞬時に統合させている。この情報統合において身体や環境の温度が社会的反応を導く可能性や,それに体温調節システムが関与している可能性はすでに論じられてきたものの,体温調節システムが社会的反応に影響するかは直接検討されないままであった。本研究では,身体の深部温や皮膚表面温の測定によりこれを可能にするとともに,温度情報が統合される過程で情報処理モード(攻撃と親和)の切り替えが生じるとするモデルを提案し,唾液中ホルモン(テストステロン,オキシトシン)などの生理的反応の測定とVR(virtual reality)技術を用いた実験を通してモデルの実証を試みる。
著者
酒井 弘憲
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.8, pp.790-791, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
2

昨年は年末に任期の半分というタイミングで衆院選挙が行われ,つい先日も統一地方選挙が行われたが,開票があまり進んでいないにもかかわらず,選挙速報で「当選確実」のクレジットが出るのを不思議に思われている方もいるのではないだろうか? 選挙では,よく出口調査をやっているのにお気付きだろう.結論を先に言えば,選挙速報での当確情報は,実際の開票状況と出口調査の結果に基づいている.そもそも,調べたい対象の全てのデータを得ることは,多くの場合,不可能である.そのため一部のデータ,つまり抽出サンプルから,全体の母集団を推定することが必要になる.一部から全体を予測する統計的方法として,「推定」という考えがある.推定の良さは,一致性や不偏性などによって決まってくる.一致性とは,データの数が多くなればなるほど,1つの値に収れんしていく性質のことである.つまり,少ないサンプルよりは多数のサンプルを集めた方が,良い推定が可能になるということである.不偏性とは,偏りのないことであり,推定値の期待値が真の値に限りなく一致してくるということである.説明を簡単にするために,出口調査で,ある候補者Aの得票率を推定することを考えてみよう.例えば,投票を済ませた任意の100人の有権者に投票した候補者を聞いたところ,そのうち45人がAに投票したと答えたとしよう.この場合,注目するAの得票率は45/100=0.45である.この値は一点決め打ちの推定値なので点推定値と呼ぶ.この値に基づいて,Aの真の得票率(これは全部の票を開票してみないと分からない)に対する区間推定,つまり,上で調査した0.45という得票率がどのくらいの信頼性を持っているのかということを調べてみる.ここでは,Aが立候補した選挙区で投票した有権者全体が母集団ということになり,出口調査の対象となった100人が標本ということになる.標本が100人で,調査結果としてAに投票した人数が45であるとすると,得票率45%の信頼度95%の信頼区間は,0.3525~0.5475となる(簡単な式なので提示しておくと,p±1.96√(p(1-p)/n)で計算できる).いま,Aに対立するB候補がいるとしよう.Bに投票したと答えた人数が100人中35人であったとする.そうすると,Aに投票したとする人よりも10%少ない.したがって,かなりの確率でAの方がBよりも得票率が高いと言えそうであるが,本当にそうだろうか? 実際にBの得票率について同じく95%信頼区間を計算してみると,0.2565~0.4435となる.これは,Aの信頼区間とかなり重なっている.つまり,Aの得票率は低ければ40%を切る可能性もあり,Bの得票率は高ければ40%を超えることも考えられる.したがって,この出口調査からだけでは,AがBを抑えて当選するとは言い切れない.これは出口調査の対象人数が少ないためである.もし,全投票者を出口調査対象とすれば答えは簡単であるが,そのような調査は不可能である.そうすると,どのくらいの人数が標本として適当なのかということになるが,出口調査の対象者を増やしてn人にしたとしよう.その場合でもAとBの得票率はそれぞれ45%,35%としておく.このとき,95%の確率で両候補の真の得票率に差があると言うためには,2つの信頼区間が重なり合わなければよいことになる.つまり,「Aの信頼区間の下端」>「Bの信頼区間の上端」であればよい訳である.信頼区間の公式に当てはめて計算すると,この場合,n>364.8となる.したがって,出口調査でAとBの得票率の差45-35=10%が信頼度95%で有意な差であると言うためには,365人以上の人に回答してもらう必要があるということになる.このように標本抽出して得られた結果を用いて,選挙速報で当選確実が出ている訳である(当然,本連載の去年の第1回に紹介したギャロップ調査のように,地域差,性別,年齢構成なども考慮して出口調査する投票所も選ばれているはずである).もし,接戦でB候補者の得票率が43%であったとすると,僅か2%の得票率の差を見いだすためには調査対象として9,462人が必要になってくる.読者の皆さんは論文などで,この「95%信頼区間」という記述を目にされたことがあるだろう.95%信頼区間であれば,その区間内にその推定値が存在する確率が95%であることを示していることになる.さらに,その区間幅はサンプルサイズ,臨床研究や治験で言えば症例数が増えれば,狭くなる.つまり推定精度が高まる訳である.医薬の世界では,5%有意であるか否かという二者択一の「検定」偏重のきらいがあるが,検定の弱点は,具体的にどのくらいの差があるのかとか,その試験がどのくらいの精度で実施されたのかというようなことが分からないことである.「推定」は,「検定」の弱点を補強する情報を提示してくれる方法なのである.
著者
冨菜 雄介 Daniel A. WAGENAAR
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.168-177, 2018-12-25 (Released:2019-01-21)
参考文献数
16

本技術ノートでは,2台の蛍光顕微鏡を上下に組み合わせて作製した両側型顕微鏡を利用することで可能となった網羅的膜電位イメージング法を紹介する。材料はチスイビル類(医用ビル; Hirudo verbana)の体節神経節である。ヒルの体節神経節はその背腹表面の2層に総計約400個のニューロンの細胞体が分布する。単離した神経節の背側と腹側に分布するニューロン群を膜電位感受性色素で染色し,この2層から同時に膜電位イメージングする手法(両側膜電位イメージング法)を適用した。また,新規な膜電位感受性色素VoltageFluorを用いることで,カルシウムイメージングでは検出の困難な閾値下脱分極性シグナルや過分極性シグナルを良好なS/N比で記録することが可能となった。今後の課題は,褪色を避けながら長時間イメージングを行うこと,セミインタクト標本において膜電位イメージングを行うこと等である。
著者
清水 聡
出版者
ロシア・東欧学会
雑誌
ロシア・東欧研究 (ISSN:13486497)
巻号頁・発行日
vol.2008, no.37, pp.58-68, 2008 (Released:2010-05-31)
被引用文献数
1

On March 10th, 1952 the USSR sent a document called “Stalin's Note” to the representatives of the Western Powers; the USA, the UK and France. It proposed both making a “peace treaty” with Germany and unifying Germany. For seven years following the end of World War II, Germany had been divided into two states. The separate governments of West and East Germany were provisionally formed in 1949. To resolve this situation, “Stalin's Note” proposed that Germany form a Unified Government and establish a “peace treaty” on a principal of neutrality. However, the USA, the UK, France and the West German leader, Konrad Adenauer, were pursuing a policy of West European Integration of West Germany, and rejected “Stalin's Note” forthwith.Since the Western Powers didn't accept “Stalin's Note”, the real intention of the USSR has remained a big mystery in post WWII history. Academic disputes continue to this day, as to the real intentions of the Soviet Diplomacy. These disputes are roughly split into two groups. One group, the positive group, argues that “Stalin's Note” was a peaceful attempt to establish a “Neutral German State”, while the other, negative group, believes that it was an “Obstructive Operation” to disturb Western diplomacy and cut off the military connection between West Germany and the Western Powers.Following the end of the Cold War, historical materials were released in the former East Germany. Researchers had hoped to find the truth of “Stalin's Note”. Many papers have been presented by historians specializing in diplomatic history of Germany and the USSR, but the disputes have not ended between the positive and the negative groups. This paper investigates the truth of “Stalin's Note” and its relation to the Cold War through rethinking its problems from the viewpoint of the East German leaders. As a result, this investigation finds that East German leaders had formed two groups; supporters of “Stalin's Note, ” the domestic group, and dissidents, the Moscow group.
著者
大山 力 加藤 哲郎
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.18, no.5, pp.431-437, 2003-09-10 (Released:2008-12-26)
参考文献数
22

ホルモン製剤DDSの代表的薬剤として黄体形成ホルモン放出ホルモン(LH-RH)徐放性注射剤(リュープリン®)があげられる. 本剤は, 高活性LH-RH誘導体の1カ月あるいは3カ月間徐放性薬剤で, 1回の注射で長期間にわたって薬物を放出し, 前立腺癌, 乳癌, 子宮内膜症, 子宮筋腫, 中枢性思春期早発症などのホルモン依存性疾患の治療法として臨床の場で広く用いられている. 本剤の開発から臨床応用までの経緯を当初の対象疾患であった前立腺癌を中心に紹介した.
著者
阿部 芳郎
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
油化学 (ISSN:18842003)
巻号頁・発行日
vol.43, no.7, pp.594-599, 1994-07-20 (Released:2009-10-16)
参考文献数
38
著者
鵜沼 憲晴
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.13-24, 2001-03-25 (Released:2018-07-20)

昨年6月に改正された社会福祉法総則は,社会福祉事業法から大幅に改正されたにも関わらず充分検討されていない。本稿は,これを解釈・検討し,問題点の提起を目的とする。(1)対象では,「社会福祉を目的とする事業」の範囲を史的変遷を踏まえながら明らかにし,またそれに含まれる事業が改正法において明示されていないことを問題とした。(1)法目的達成手段では,新設された「福祉サービス利用者の利益の保護」について,契約制度に移行した社会福祉事業による福祉サービス利用者のみを対象とした利益保護では不充分であること,利用者の権利体系構築の必要性等について考察した。(2)理念では,「福祉サービスの基本的理念」を中心に考察し,「個の尊厳」とは「人間の尊厳」と「個の尊重」との融合概念であること,「その有する能力に応じ」た自立支援では「能力」によって自立の範囲及び支援内容が制限される危惧を示した。最後に,社会福祉法全体の評価を行うとともに,社会福祉法が「基本法」となるための法律学的検討課題として憲法13条・25条との関連の追求を提起した。

3 0 0 0 OA 官報

著者
大蔵省印刷局 [編]
出版者
日本マイクロ写真
巻号頁・発行日
vol.1928年04月07日, 1928-04-07

情報・システム研究機構国立極地研究所
著者
Akira ENDO
出版者
The Japan Academy
雑誌
Proceedings of the Japan Academy, Series B (ISSN:03862208)
巻号頁・発行日
vol.86, no.5, pp.484-493, 2010-05-11 (Released:2010-05-12)
参考文献数
82
被引用文献数
253 344

Cholesterol is essential for the functioning of all human organs, but it is nevertheless the cause of coronary heart disease. Over the course of nearly a century of investigation, scientists have developed several lines of evidence that establish the causal connection between blood cholesterol, atherosclerosis, and coronary heart disease. Building on that knowledge, scientists and the pharmaceutical industry have successfully developed a remarkably effective class of drugs—the statins—that lower cholesterol levels in blood and reduce the frequency of heart attacks.(Communicated by Teruhiko BEPPU, M.J.A.)
著者
永田 彰平 高橋 侑太 足立 浩基 中谷 友樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2023年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.205, 2023 (Released:2023-04-06)

Ⅰ.研究の背景 2019年12月に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が現在まで続いており,感染拡大期には,各国でロックダウンによる感染の封じ込めが試みられた.日本においても,2020年4月に1回目の緊急事態宣言が全国で発出されて以来,各都道府県の流行状況に応じて,緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が実施され,外出の自粛や飲食店に対する休業あるいは時短営業が要請された. ロックダウンなどの非薬物的介入(NPIs: non-pharmaceutical interventions)による人流変化と感染推移の関係は各国で多く検証されており(Zhang et al. 2022),日本では,1回目の緊急事態宣言下での人流抑制と感染緩和の有意な関連が示されている(Yabe et al. 2020; Nagata et al. 2021).しかし,先行研究の多くは流行初期を対象としているため,デルタ株が流行しワクチン接種が進んだ第5波や,オミクロン株が流行した第6波以降のNPIs実施に伴う人流変化と感染推移の関連は確かめられていない. 本研究は,流行初期から第7波におけるNPIs実施の人流抑制を介した感染推移への効果を都道府県ごとに検証した. Ⅱ.方法 1. 人流変化指標の作成 まず,流行前の全国の4次メッシュを性別・年齢階級別滞留人口の時間的な変化パターンに基づき排他的な6類型(低密度住宅地区,過疎・山間地区,居住無し昼間流入地区,高密度住宅地区,職住混在地区,オフィス街・繁華街)に分類した.次に,COVID-19流行下における各都道府県の日別・地区類型別滞留人口を流行前のものと比較し,人流変化指標を作成した.滞留人口データは,株式会社ドコモ・インサイトマーケティング提供のモバイル空間統計を用いた. 2. NPIsの効果検証 感染拡大指標を被説明変数,NPIs(緊急事態宣言,まん延防止等重点措置)の実施を説明変数,各地区類型での人流変化指標を媒介変数として媒介分析を実施した.それぞれの変数は日単位の時系列データとして整理され,状態空間モデルによりパラメータ推定を行った.なお,ワクチン接種の普及や変異株の出現により,NPIsの効果が時期で異なることが想定されたため,分析期間をデルタ株流行前(第1~4波: 以下I期),デルタ株流行+ワクチン接種普及期(第5波: 以下II期),オミクロン株流行以降(第6波以降: 以下III期)に分けた. Ⅲ.結果 媒介分析の結果,I期の東京都では,NPIsの実施がオフィス街・繁華街での夜間の滞留人口を減少させ,感染抑制に寄与したことが示された.また,NPIs実施の感染抑制効果のうち,オフィス街・繁華街での人流低下による効果は19%であったと推定された(95%ベイズ信用区間: 6% - 35%).一方,II期やIII期では,NPIsの実施が人流を低下させたものの,感染抑制への効果は認められなかった. 宮城県や大阪府でも同様に,I期においてはNPIsの実施によるオフィス街・繁華街での人流低下が感染抑制に寄与したが,II期以降のNPIsの効果は認められなかった. Ⅳ.考察 流行初期はNPIsによる人流抑制が感染緩和を規定する主な要因であったが,ウイルスの伝播性の変化やワクチンの普及,自粛疲れなどにより,NPIsによる人流抑制が感染推移に及ぼす影響は小さくなったことが示唆された. 参考文献 Nagata, S., et al. 2021. Mobility change and COVID-19 in Japan: mobile data analysis of locations of infection. J. Epidemiol., 31(6), 387-391. Yabe, T., et al. 2020. Non-compulsory measures sufficiently reduced human mobility in Tokyo during the COVID-19 epidemic. Sci. Rep., 10, 18053. Zhang, M., et al. 2022. Human mobility and COVID-19 transmission: a systematic review and future directions. Ann. GIS, 28(4), 501-514.