著者
中島 正 千木 昌人
出版者
金沢大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

本研究では,アシルシランシリルエノールエーテル(I)とアセタール類との反応による3-アルコキシアシルシラン誘導体の立体選択的生成と,これを利用する3または4連続不斉中心の選択的構築法について検討した。カルボニル基のα位にメチレン基を有するアシルシランをエノール化させ,生じたエノラートを塩化シランで捕捉してIを良好な収率で得た。エノール化剤としてのLDAの使用はZおよびE-Iの混合物を,ホスホニウムジイリドではE-Iを立体選択的に得た。E-またはZ-Iとアルデヒドジメチルアセタール類のアルドール反応ではいずれのIからも2,3-anti-3-メトキシ-1-シリル-1-アルカノン(II)が優先的に生じた。また,エーテル炭素置換基がフェニル及び直鎖アルキル基のIとベンズアルデヒドアセタールとの反応で最も高い立体選択性(d.e=92-96%)が認められた。E-Iとd,1-フエニルプロピオンアルデヒドジメチルアセタールアルドールとの反応では,3連続不斉中心を有する2,3-syn-3,4-syn-3-メトキシアシルシラン(V)が高立体選択的に生成し,3,4位炭素の相対配置とともに2,3位炭素のそれも規制されることが明らかとなった。IIおよびVにアルキルまたはフェニルリチウムを反応させ,対応する3および4連続不斉中心を持つ3-メトキシ-1-シリル-1-アルカノール(IIIおよびVI)を定量的かつ高ジアステレオ選択的に得た(d.e=80-99%)。IIIおよびVIのフッ素アニオン試薬による脱シリルプロトン化は,2,3位炭素間の相対立体配置に関係なく,定量的かつ立体特異的に進み対応する1,2-anti-3-メトキシ-1-アルカノール(IVおよびVII)を生じた(d.e=>99%)。
著者
神橋 一彦
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

国や地方公共団体の設置する公共施設は、日常社会における私人の表現や集会の場として重要な存在となっている。もっとも、そのような公共施設の使用をめぐっては、単なる施設管理にとどまらない、当該施設において行われる表現・集会の内容や事実上の波及効果などをめぐって、使用不許可などの規制がどこまで許容されるかといった法的問題が生じ、現に紛争も起きているところである。本研究は、かかる問題を検討するにあたっては、行政法における公物法・営造物法と憲法における人権論との間の理論的架橋が必要であるとの認識の下、比較法的な研究をも踏まえ、この両法分野を総合した統一的な公共施設法の構築を試みるものである。
著者
岡本 浩二
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

ミトコンドリアは独自の遺伝情報(ゲノム)を有しているが、酸化ストレスによる変異を蓄積し、難治疾患であるミトコンドリア病や老化を引き起こすと考えられている。本研究では、ミトコンドリアゲノムにコードされた遺伝子を核へ移管し、発現することを目的とした。具体的には、①ミトコンドリア遺伝子を核遺伝子化するためのコドン改変、②細胞質リボソームによるタンパク質合成効率を上げるためのコドン最適化、③プレ配列付加によるミトコンドリア標的化、を目指した。
著者
小松崎 民樹 藤田 克昌 Li Chun Biu Taylor James Nicholas 寺本 央
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

有限の計測点数による数揺らぎを含めた誤差を考慮に入れたファジークラスタリングと機械学習手法に基づいて、1細胞ラマン分光イメージングデータによる高次元特徴量空間から細胞状態を識別する情報解析手法を開発した。通常の病理組織学では困難とされている甲状腺濾胞癌の識別、ラット肝モデルの非アルコール性脂肪肝疾患の線維症予測に応用し、その有用性を示すことに成功した。また、リーダー・フォロアー細胞仮説を模倣する数理モデリングを行い、情報理論における因果推論によるリーダー分類の可能性を示した。この他、植物器官の構造均一性と細胞単位のランダム性の補償現象に関する研究等を実施した。
著者
伊藤 伸泰
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

稀釈合金系の磁性のモデルとして研究が始まったスピングラスモデルは、競合する相互作用を原因として複雑で興味深い振舞いを示すさまざまな系の研究の際にも重要なモデルとなっている。その重要性は今日、物性物理に留まらず、最適化問題、神経網、蛋白質ほかの分野でも認識されている。このようなスピングラス系に対して、相転移の研究に際して有効な場合が多いことが本研究代表者により明らかとなった「非平衡緩和法」を応用し、解明することが本研究の目的である。2年間に渡る研究の結果、次のような成果が得られた:正方格子および立方格子上のスピングラスモデルについて、常磁性強磁性相転移を精密に調べた。その結果、相境界がこれまで以上の精度で解明された。強磁性相互作用の濃度を変化させると、磁化や相関長などの静的な物理量の指数や動的指数は普遍的ではないことが明らかとなった。さらに静的な指数に対しては弱い普遍性が成り立つ一方、動的指数では弱い普遍性は成り立たないことが明らかとなった。この静的指数の弱い普遍性はスピングラス相との3重臨界点では、破れていることも明らかとなった。立方格子上のスピングラスモデルのスピングラス転移、スピングラス相でのクローン相関関数の非平衡緩和の様子が明らかとなり、グラス転移に対する非平衡緩和法による研究手法が確立した。現在、この手法によるゲージグラスモデルの研究も進められている。強磁性相の近くでは、スピングラス相中に強磁性秩序状態をもつ熱力学的状態が存在することが明らかとなった。このような状態は、ランダムな相互作用分布に対して測度0で存在すると解釈されるが、このような相を捉えることができたのは、非平衡緩和法ならではの発見である。このことから、3次元スピングラス相がこれまでに考えられていた以上に複雑な多重谷構造を持つことが示唆される。
著者
瀬山 淳一郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

人工物(画像)の写実性(本物らしさ)が人間の判断に影響を与えうることはよく知られており、そのような影響に言及した仮説に「不気味の谷」がある。この仮説は、高い写実性を持つロボットや人形が、観察者に不快感を与えるであろうと主張している。本研究では不気味の谷の検討を出発点として、より広い意味での写実性判断に関わる心的プロセスの解明を目指した。心理実験の結果、写実性の判断のために視覚系が利用している情報は、「本物らしさ」よりもむしろ「作りものらしさ」であることを示すデータが得られた。
著者
河野 達郎
出版者
新潟大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

アセトアミノフェンは解熱鎮痛薬として臨床で使用されている薬物でありながら、作用機序は明らかでない。近年、代謝物のAM404が脳のTRPV1受容体やCB1受容体に作用することで鎮痛作用を発揮していることが報告された。しかし、脊髄後角での作用は明らかではない。アセトアミノフェンの全身投与はin vivo脊髄標本での末梢からの痛み刺激に対する反応を抑制した。さらに、in vitro脊髄標本でのAM404はC線維終末のTRPV1受容体に作用し、興奮性伝達を抑制した。アセトアミノフェンはAM404へ代謝され、脊髄後角ニューロンのC線維終末のTRPV1受容体に作用し鎮痛効果を示すことが明らかになった。
著者
冨樫 剛
出版者
フェリス女学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

Carpe diem(今日の花を摘もう=今という時間を楽しもう)という古代ローマ以来の思想・文学的主題が16-17世紀のイギリスにおいて受容され、流行した際の政治・社会的背景を明らかにした。その背景とは、宗教改革以降英語聖書・祈祷書の広まりとともに厳格化したキリスト教信仰、カルヴァンらの予定神学とともに広まった来世に対する関心や不安、ローマ・カトリック教会を悪と見なす黙示録的終末論であり、またこれらを手段としてなされた社会論争・闘争であった。詩人たちは、来世でなく現世の、正しさではなく楽しみの重要性を説くべく、カルペ・ディエム詩を書いたのである。
著者
植村 玄輝 吉川 孝 八重樫 徹 竹島 あゆみ 鈴木 崇志
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、現象学の創始者エトムント・フッサール(Edmund Husserl)が1922年から1923年にかけて日本の雑誌『改造』に寄稿した5編の論文(うち2編は当時未刊)、通称「『改造』論文」について、フッサールの思想の発展・同時代の現象学的な社会哲学の系譜・より広範な社会哲学史の系譜という三つの文脈に位置づけ、現象学的な社会哲学の可能性についてひとつの見通しを与えることを目指すものである。
著者
藤井 正徳
出版者
京都薬科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の目的は,脳ニューロステロイドであるアロプレグナノロン(ALLO)とアトピー性皮膚炎における痒みとの関係を明らかにし,新規掻痒治療薬ターゲットを創出することである。特殊飼料給餌によりアトピー性皮膚炎様症状を発症したマウスにALLOを全身投与すると掻痒様行動が顕著に増加した。このALLO誘発掻痒には,脳内GABAA受容体機能亢進作用が関与することを明らかにした。また,ALLO合成酵素阻害薬finarsterideの投与によりエタノール誘発性掻痒が抑制されたことから,内因性に産生されたALLOが痒みを誘発する可能性が示された。
著者
伊藤 加奈子 佐立 治人 氏岡 真士
出版者
信州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

『杜騙新書』は中国の明朝末期に出版された、様々な詐欺事件を題材とする短編小説集であり、中国近世の庶民生活、商人の経済活動、当時に生きた人々の善悪判断といった物の考え方を具体的に生き生きと伝える書物である。日本に現存する『杜騙新書』の明刊本や江戸時代の和刻本の所蔵先を調査・資料収集を行い、書誌学的事項を調査し、訳注を作成した。平成27年3月21日『『杜騙新書』訳注稿初編』を出版、全国の主だった図書館並びに東洋学関係出版社等に寄贈した。現代日本語訳注の作成によって、我々はこの書物がより広く人々の目に触れ、中国文化について更なる新しい理解を広めることを期待するものである。
著者
柳 長門 本島 厳 高山 彰優
出版者
核融合科学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

磁場閉じ込め方式核融合炉の燃料供給のために、高温超伝導リニアカタパルトを用いた革新的なペレット射出方式を提案している。これは、真空チューブ中に敷設した永久磁石のレール上で高温超伝導薄膜を用いた超小型の「磁気浮上列車」を電磁加速し、最終的に10 km/sの射出速度を得ることをターゲットとしているものである。本課題は、その原理実証を行う研究である。これまでに、電磁加速を行うための電磁石コイルについて製作・改良を行うとともに、スイッチング回路も製作・改良して、超伝導磁気浮上列車の連続的電磁加速が安定に行えるようになった。現状、列車の浮上と加速にはREBCO系高温超伝導バルク材を用い、電磁石コイルは直径100 mm、長さ120 mmのアルミニウム製ボビンに直径1 mmの銅線を各1000ターンずつ巻いたものを合計8個製作した。直流電源から接続したIGBT半導体素子を用いた高速スイッチング回路の構築と改良を行い、レーザ・光センサとマイコンを用いた自動制御システムが完成した。これらを用いて、円形レールにおいて、長時間の連続加速が行えるようになった。一方、将来のシステムについての検討を並行して進めた結果、数百m/sに至る高速走行を実現できた際は現在の制御システムでは原理的に応答が追い付かなくなることが判明した。そこで、当初の目標とした磁場閉じ込め核融合炉のための超高速燃料ペレットの供給ではなく、慣性核融合炉のための比較的低速の燃料ペレットの供給に対して有望となるよう、速度の最終目標は100 m/s程度とするも、高精度の速度制御をめざすことに方針転換した。一方、高温超伝導薄膜に誘起される電流と磁場の空間分布に関する数値計算を進め、特に、複数の電磁石を用いた場合の連続加速が扱えるようになった。併せて、高温超伝導バルク材に誘起される遮蔽電流と電磁加速の関係も定量的に明確となった。
著者
河野 稔明
出版者
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

精神保健福祉法に基づき警察官などから通報された事例について、通報への対応や通報対象者への事後支援の振り返りと方針の検討を定期的に行っている、一政令指定都市の取り組みをベースにした研究である。記録の分析と取り扱う情報の検証を踏まえて、通報事例データベースの構築を目指す。これを活用することで、地域で精神保健の支援ニーズを抱えた人々に、自治体がより適切な支援を届けることが可能になると期待される。
著者
石山 雄貴
出版者
鳥取大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2021-04-01

本研究の特徴は、「受益者負担論」を打破し「社会教育の無償性」を実現する社会教育財政の骨格を提示することである。全ての住民に社会教育の自由を保障するためには、社会教育に関わる費用が無償であることが不可欠である。一方で、全国の公民館において、使用料の有料化が進められている現状がある。本研究では、そうした有料化の実態分析を行うとともに、教育法学や地方財政論、図書館情報学における「無償性」の議論を手がかりとする包括的視点から「社会教育の無償性」を検討する。それらの作業を通して、「社会教育の無償性」の実現には、どういった社会教育財政が求められるのかを明らかにする。
著者
花村 克悟
出版者
岐阜大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本研究は流路内に充填された多孔質触媒に、メタンと水蒸気と空気を周期的に流動方向を反転させながら供給し、メタンの一部を燃焼反応させ、残りのメタンを効率良く改質(直接改質)させることを目的としている。実験装置は内径70mmの流路に流れ方向300mmの均質なセラミック多孔質触媒が充填された構造である。混合気は4つの電磁弁により周期的に流動方向が反転される。装置は、その中央流れ方向に100mm隔てて埋設された2本の電気ヒーターに通電することにより、まず、窒素ガスを用いて昇温され、150℃前後に達した後、水蒸気に切り替えてられる昇温される。所定の温度に達した後、メタンを徐々に加えて電気ヒーターによる改質を行う。さらに投入電力を増加させて温度を上昇させる。そして、空気をわずかに加えて点火させた後、電気ヒーターへの通電を止める。多孔質触媒に流入した混合気は、その内部を通過する間に予熱され、その中央近傍でメタンの一部が燃焼され、残りのメタンが改質される。生成ガスの温度はその下流側で、その顕熱が多孔質体に蓄熱されるので出口に達する前に低下する。流動方向が反転すると、この蓄熱された熱エネルギーが混合気の予熱に供される。可濃限界以上の混合気による点火が困難であったため、限界以内の混合気で点火したところ、多孔質体の耐熱温度を混合気の調節をする間もなく越えてしまい、実験不可能となったため、本年度は電気ヒーターによる改質結果に留まった。それによれば、熱損失が大きい上に、電気ヒーターの出力が小さく改質に適した温度まで達しておらず、メタンの転化率は10%程度であった。しかしながら、触媒多孔質体と不活性多孔質体との組み合わせにより、高効率直接改質器となる可能性も示唆された。
著者
花村 克悟 三松 順治 熊田 雅弥
出版者
岐阜大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

本研究は、熱可塑性高分子ポリマー微粒子の超高速溶融・凝固プロセスを解明すべく、粒子内の粘弾性流動及び伝熱のメカニズムを実験的に明らかにすることを目的としている。本年度はラジアントフラッシュ定着(溶融)過程における単一実用トナー(高分子ポリマー)微粒子のふく射吸収特性を把握することに焦点を絞って研究を進めた。直径10μmの実用トナー粒子1個を、粒子と成分が等しい直径4μmの高分子繊維の先端に静電気にて付着させ、He-Neレーザーの平行光を照射し、溶融前の不定形粒子とわずかに溶融した後の球形粒子の散乱相関数を測定した。この場合、球形粒子については粒子内部のふく射吸収過程を含めたRay-Tracing法による理論値と比較することで吸収係数が見積もられ、その値は0.18(1/μm)であり、主成分がポリスチレンに近いと考えると複素屈折率は1.592-0.009iであることがわかった。さらに表面反射による散乱現象が支配的であり、それに1次の透過光が前方散乱を助長している。また、2次以上の透過光の寄与は小さく無視していることが明らかとなった。一方、溶融前の不定形粒子については粒子の外周近傍では前方散乱が強く、それ以外では拡散反射を呈する平板の性質に近い散乱位相関数が得られた。このモデルを構築することは容易ではないので測定された位相関数そのものを用いて先のふく射輸送を解析したが、実験との良好な一致は得られず、むしろ、散乱体が一様に分散された均質モデルを仮定し、Heneyey-Greensteinの近似位相関数を用いた解析手法がよく実験結果を説明できた。すなわち、不定形粒子層では単一粒子の特徴がそれ程強く反映さないことが明らかになった。
著者
花村 克悟
出版者
岐阜大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

本研究は、将来の軽量耐熱合金として期待されているTi-Al系金属間化合物(特に超格子構造を有するTiAl_3を中心として)の燃焼合成における反応機構について微視的な立場から燃焼反応を凍結させ、その凝固過程も含めて反応経路を明らかにすることを目的としている。平均粒径約20μmのTiとAlの粉末をモル比1:3の割合で混合した後、ステンレスダイと圧縮試験機により圧縮し圧粉体試料とした。これを予熱ヒーターを兼ねた断熱流路に設置し、Arガスを流しながら、400〜650℃に予熱した後、試料の一端に点火する。この場合の最高温度と燃焼速度から、アレニウスプロットを描くことによってその勾配から総括活性化エネルギーを得た。その値は、347kJ/molである。また、燃焼途中で圧縮窒素ガスを吹き付けることにより反応を凍結させ、その断面を鏡面研磨した後、電子顕微鏡にて元素分析を行った。その結果、島状の断面内部中央ではTiがほぼ100%であり、その中心から同心状にTiの原子%が減少していることがわかった。したがって、融点665℃のAlが溶融しTi粒子を覆うと同時に反応が両者の界面から始まり、反応速度はTi原子とAl原子の拡散現象に支配されている。すなわち、アレニウスの拡散係数に従った燃焼現象であり、そのときの活性化エネルギーが上記の値であると言える。なお、最高温度は化合物TiAl_3やTiAlの融点より低く、Ti表面に固相の化合物が生成されると考えられるが、Al濃度が高い領域では液状に近いことが相図からわかるので、比較的容易に拡散できるものと考えられる。さらに、固相であるとしてもCuの固体中にNiやZnが拡散する際の活性化エネルギー200kJ/molとオーダー的には等しく、このような固相をAlが拡散するとの見方も、それ程物理現象から逸脱するものではないことがわかった。
著者
花村 克悟
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究は、高分子における赤外線の吸収過程および熱への緩和過程を、赤外域に拡張された温度変調分光法を用いて光学的に把握することを目的としている。水冷された銅の研磨表面に厚さ1μmのポリスチレン薄膜を付着させる。この表面にパルス状のCO_2レーザー光(波長10.6μm)を照射し、加熱すく。このパルス光は、シンクロナスモーターに取り付けられた、可変スリットを有する歯車により得られる。パルス幅は2μs、パルス間隔は14μsである。この周期で、ポリスチレン薄膜は加熱・冷却を繰り返す。これに連動して、同じ歯車でパルス光となったHe-Neレーザー光(波長3.39μm)が同じ加熱面に照射される。この反射光強度が検出器により測定される。この時、歯車に垂直に入射するCO_2レーザー光をその接線方向へ平行移動させることで、2つのパルス光の時間遅れが設定できる。この時間遅れを300ナノ秒毎にパルス間隔時間(1周期間)まで変化させた実験の結果、ある特定の時間遅れにおいてのみ反射光強度が高くなった。この立ち上がりから、完全に初期の値まで戻る時間はおよそ2μsであり、この近傍で2つのパルス光が同調していることがわかった。すなわち、温度変調分光法が赤外域においても利用できることが明らかとなった。さらに、パルス光の時間遅れに関する時間分解能は3×10^<-7>秒であり、数百ナノ秒オーダーの加熱過程が光学的に検出できることを明らかにした。なお、CO_2レーザーの振動数はポリスチレン内のベンゼン環にあるC=C-Hの面外変角振動に近い振動数であり、He-Neレーザーの振動数は2つのベンゼン環の間にあるH-C-Hの伸縮振動に一致している。本実験の時間遅れに関する時間分解能は振動の緩和時間10^<-9>〜10^<-7>秒オーダーに極めて近いことから、本実験においてレーザー光吸収後の熱への緩和過程が捉えられる可能性が示唆された。