著者
三浦 久美子 堀部 奈都香 齋藤 美穂
出版者
一般社団法人日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.74-84, 2008-06-01
被引用文献数
4

本研究では、色彩の持つ印象及び気分の作用を整理し、色彩に対する調和香を検討することを目的とした。実験は、100名(男性42名/女性58名)の対象者に、18色のカラーカード(3トーン、5色相の有彩色及び3色の無彩色)の印象評定(SD法)及び気分評定を課すと同時に、各色彩に対する8種の香り(シナモン、ペパーミント、バニラ、ローズマリー、レモン、アニス、ペッパー、 ローズ)の調和度を評定させる(4件法)という手続きによって行われた。色彩の印象評定及び気分評定、各々の結果に対しクラスタ分析を施し、18色を分類した結果PALE系(ペールピンク、ペールイエローなど)、COOL系(ペールスカイ、ビビッドグリーンなど)、VIVID系(ビビッドレッド、ビビッドイエロー)、DARK系(ダークレッド、オリーブなど)、MONOTONOE系(ダークブルー、ブラックなど)の5クラスタに分類された。これらの各クラスタに対する調和香を検討した。その結果、概して、PALE系にはバニラ、COOL系にはペパーミントやローズマリー、VIVID系にはレモン、DARK系にはシナモンやローズ、MONOTONOE系にはペッパーやアニスが調和する傾向が得られた。
著者
木村 滋子 久住 武
出版者
日本心身健康科学会
雑誌
心身健康科学 (ISSN:18826881)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.1-12, 2019 (Released:2019-04-19)
参考文献数
35

本研究は「切る」「手でこねる」の2種類の料理作業に着目し,各料理作業が作業者の不安と気分に及ぼす影響を明らかにすることを目的に,大学1年生男女延べ25名を対象に,「切る」(11名)と「手でこねる」(14名)の作業について,新版STAIと日本語版POMS短縮版を指標として,各作業あり・なしの料理前後で比較した.その結果,特性・状態不安(STAI)と総合得点TMD(POMS)は,「切る」「手でこねる」どちらの作業においても,作業あり・なしに関わらず有意に低下した.POMS下位尺度は,「手でこねる」作業の場合,作業ありのみで「怒り-敵意」が有意に低下し「活気」が有意に上昇した.「疲労」「抑うつ-落込み」「緊張-不安」は作業あり・なしともに有意に低下し,「混乱」はともに有意な変化を認めなかった.「切る」作業の場合,作業ありのみで「抑うつ-落込み」「緊張-不安」「混乱」が有意に低下し,「疲労」は作業あり・なしともに有意に低下し,「怒り-敵意」「活気」はともに有意な変化を認めなかった(p<0.05).2種類の料理作業の各々の場合において,作業あり・なしでPOMS下位尺度に異なる影響を見出すことができた.この違いは,食材に直接触れるか否かによる料理作業中の触感の違いが影響した可能性がある.作業内容を一部変えることで,作業者の不安や気分に異なる影響を及ぼすことをより詳細に明らかにすることができた.このことから,料理作業と心身相関の関係を明らかにすることができた.
著者
呂 建輝
出版者
環太平洋大学
雑誌
環太平洋大学研究紀要 = BULLETIN OF INTERNATIONAL PACIFIC UNIVERSITY (ISSN:1882479X)
巻号頁・発行日
no.16, pp.57-63, 2020-03-31

和語は基本的に連濁が起こりやすいとされている。しかし,連濁が起こらない和語もある。本稿では,連濁しない和語を中心に考察した。結論として,語構成上「語の並置」によりできた複合語は連濁しにくいことが分かった。「語の並置」とは,複合語の前部要素と後部要素に助詞を入れたり 活用形にしたりしても意味に大差が生じない語構成のことである。これに対して,連濁が起こりやすい「修飾関係」は,前部要素,後部要素のもつ意味以上に,さらに語彙的意味が,加われている場合が多い。
著者
渡邉 修 秋元 秀昭 福井 遼太 池田 久美 本田 有正 安保 雅博
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.3-8, 2019 (Released:2020-09-30)
参考文献数
11

【はじめに】交通事故や転倒転落を主な原因とする外傷性脳損傷(traumatic brain injury;TBI)は、とくに中等度から重度の場合、後遺する身体障害および高次脳機能障害により、介護する家族の負担は深刻である。しかし、外傷後の経過とともに、これらの障害は、改善していくことから、家族の介護負担感も軽減していくと考えられる。本研究は、TBI後、10年以上が経過した事例について、その家族の介護負担感を調査した。【対象および方法】TBI後、10年以上が経過した344例の患者の家族に、質問紙によるアンケート調査を行った。344例(男性289例、女性55例)は、受傷時平均年齢は24.0±13.3歳、現在の平均年齢は、43.6±12.3歳、TBIからの平均経過年数は、19.6±7.5歳であった。【結果】現在、296例(86.0%)が家族と同居していた。このうち、34例(全体の9.9%)が配偶者と同居していた。単身者は48例であった。バーセルインデックス(barthel index;BI)は、平均89.3±19.3で、日常生活が自立しているとされる85点以上は、270例(78.5%)であった。認知行動障害とZarit介護負担尺度は正の相関を認めた。一方、BIとZarit介護負担尺度には相関は認められなかった。就労群の受傷時年齢は非就労群に比し若年であった。そして、現在の年齢も、就労群のほうが若年であった。一方、介護負担感は、有意に就労群のほうが低かった。外出頻度別に介護負担感を比較すると、高頻度外出群のほうが、介護負担感は低かった。【結語および考察】受傷後、10年が経過しても介護する両親(あるいは主に妻)の負担感が大きい。介護負担感と認知行動面の障害には正の相関があり、さらに介護負担感には有意に就労の有無、外出頻度が関連していた。社会性の確立こそがTBIで表れやすい認知行動障害を改善に導く。患者ごとにそれぞれの目標に沿って、地域リハビリテーション、職業リハビリテーションを提供していくことが、家族の介護負担感を軽減することになると考えられる。
著者
金子 龍司
出版者
公益財団法人 史学会
雑誌
史学雑誌 (ISSN:00182478)
巻号頁・発行日
vol.125, no.12, pp.25-46, 2016

本稿は、太平洋戦争末期の娯楽政策について考察する。具体的にはサイパンが陥落した一九四四年七月に発足した小磯国昭内閣期以降終戦までの政策に注目する。小磯内閣期の思想・文化統制については、先行研究により、東條内閣期の言論弾圧が見直されて言論暢達政策が採用され、思想・言論統制の緩和によって戦意昂揚を目指したことが指摘されている。娯楽統制についてもこの枠組みで語られ、従来強化一方だった統制がサイパン陥落・同内閣の成立を契機として一転して緩和されたと整理され、その画期性が指摘されている。しかし、この統制緩和は小磯内閣が娯楽に対して講じた措置のひとつに過ぎないし、画期といっても、この統制緩和に限らなければ、娯楽への積極的な措置は小磯内閣発足以前からすでに講じられていた。つまり先行研究は、統制緩和の画期性を重視するあまり、小磯内閣の娯楽政策の全容を明らかにしておらず、しかも従前の政策との連続性も見過ごしているきらいがある。したがって本稿は、小磯内閣期の娯楽政策をできるだけ詳しく分析することで右の二点を明らかにし、同政策を歴史的に位置づける試みを行う。具体的には、当事者たちの問題認識や政策決定過程や政策の実効性を検討材料とする。本稿が明らかにするのは以下の事柄である。第一に、娯楽統制史上、小磯内閣期の統制緩和は個別の措置としてはたしかに画期的であったが、娯楽に対する積極的な姿勢や問題認識に関してはむしろ前内閣との連続性が目立っていたこと。第二に、政策の実効性といった観点からは、個別具体的な措置については一定の成果が見られ、戦争末期にあっても興行の機会は確保され盛況も珍しくなかったこと。第三に、それにもかかわらず、政策全体の評価としては、絶望化する戦況下で観客や興行者たちが娯楽を供給・享受して戦意昂揚に結びつけるだけの精神的余裕を失っていたため、失敗に終わったと結論せざるを得ないことである。
著者
住岡 敏弘
出版者
宮崎公立大学
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.89-103, 2009-03-06

本稿は、アメリカ合衆国における人格教育に対する連邦政策の背景、政策の展開の特質と課題について明らかにした。人格教育運動は、1960年代以降の道徳教育方法の変化や若者の道徳の退廃状況に対して、アメリカが建国当初から重視してきた道徳教育を復興しようとする動きと捉えられる。その動きは、連邦政策のなかで学力向上政策と結びつき、人格教育に対する補助金事業をはじめ様々な連邦施策が開始された。人格教育に対する連邦政策の展開過程をまとめると、『危機に立つ国家』以降の学力向上への模索のなかで、学力向上に際して道徳性や規律の重要性が意識されてきた。その後、クリントン政権のもとでは、大統領自らが一般教書のなかで人格教育の重要性を訴える等、人格教育を推進していく連邦政府の姿勢が明確にされた。これらを背景として、『アメリカ学校改善法』のなかでは、人格教育に対する補助金がパイロット事業として制度化された。さらに、ブッシュ政権のもとで、『落ちこぼれ防止法』が制定され、同法のもとで人格教育補助金事業は正式な事業として位置づけられ、さらに連邦教育省の戦略プランにも「強い人格と市民性」の促進が掲げられるなど、人格教育は連邦教育政策のなかで確たる地位を確立してきたといえる。
著者
Kosuke Ito Hana Ichikawa
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
SOLA (ISSN:13496476)
巻号頁・発行日
vol.17A, no.Special_Edition, pp.1-6, 2021 (Released:2021-01-01)
参考文献数
18
被引用文献数
7

One of the remarkable environmental characteristics of tropical cyclone (TC) Hagibis (2019) was the positive sea surface temperature (SST) anomaly observed in the western North Pacific Ocean. In this study, an ensemble-based sensitivity experiment was conducted with a nonhydrostatic model, focusing on the impact of SST on TC motion. The TC with the analyzed SST (warm run) moved faster near mainland Japan than with the lowered SST (cold run), as the TC in the warm run was embedded earlier in the mid-latitude westerly jet located to the north than that in the cold run. The TC displacement was consistent with the large decrease of geopotential height at 500-hPa (Z500) in the north of TC Hagibis during the warm run. Further investigation showed that the approach to the westerly jet presumably induced the low local inertial stability as well as the southwesterly vertical wind shear enhancing the upward mass flux in the north of the TC. They led the enhanced upper-tropospheric northward outflow from the TC energized by the warm SST, and it resulted in the decrease of the Z500 in the north. This study suggests that warm SST can affect TC tracks through interaction with mid-latitude westerly jets.
著者
平川 祐弘 Sukehiro HIRAKAWA
出版者
大手前大学・大手前短期大学
雑誌
大手前大学人文科学部論集 = Otemae journal of humanities (ISSN:13462105)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.107-126, 2004

平川はかねて「盆踊りの系譜-ロティ・ハーン・柳田国男」と題して文学的な連鎖反応としての盆踊りの記述をたどった (平川『オリエンタルな夢』所収) 。ロティのバンバラ族の輪舞記述に感心したハーンは、それを英訳し、さらにはロティのような目付きで山陰の盆踊りも見、記録したのである。そのような文学史的な系譜には筆者の主観的な思い入れがまぎれこむ可能性がある。ハーンに刺戟された柳田国男が陸中小子内で書きとめた盆踊りの解釈も、川田順造の調査によれば、柳田の思い入れがあるようだ。またハーンの盆踊り記述を読み、自分も盆踊りを見て書いたモラエスの「徳島の盆踊り」解釈にも観念的な先入主が混じっているのではないか。日本人が死者たちと親しい関係にあるとモラエスは信じた。ハーンもモラエスも盆祭りを festival of the dead として見た。ところでロティやフランシス・キングが盆祭りを自分の物語のセッティングとして用いた異国趣味の作家であったのに対し、モラエスにとって盆踊りは自分がその輪の中にはいることを得なかった「死者の祭り」であった。その意味ではモラエスの『徳島の盆踊り』はアンチ・クライマックスで終る作品である。その拍子抜けした読後感をハーンの作物の読後感と対比すると、ハーンの特色が逆に浮び上がる。ハーンには自分は日本人の心の世界へ入り得たという喜びがあった。ハーンの文章を文学たらしめているのは、そのようなハーンの自信と喜びの中にひそんでいるのではあるまいか。
著者
竹並 正宏
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.353-366, 2006

この研究内容の持つ意味を整理すると,第一に,日帝時代の社会福祉研究が足りない現時点で,本研究は当時の社会福祉の理解に寄与でき,特に,貧困政策の生成および変化の脈絡の把握に役立つという意義を持つ.第二に,社会福祉史の研究は,社会福祉の実践領域と動態的法則を把握することにより,未来の展望を予測することに意義があるように,日帝時代の貧困政策研究は,解放以後展開された貧困政策についての説明に重要な意味を示唆する.第三に,特定な時期の社会福祉政策の変化脈絡を,社会福祉制度変遷論を適用して考察することで,社会福祉制度変遷論の理論的な仮説を一般化することにも寄与できると思われる.
著者
Momona HORIGUCHI Shinsuke KUNIMURA
出版者
The Japan Society for Analytical Chemistry
雑誌
Analytical Sciences (ISSN:09106340)
巻号頁・発行日
vol.36, no.11, pp.1311-1315, 2020-11-10 (Released:2020-11-10)
参考文献数
14
被引用文献数
4

This paper describes a method for obtaining information that can contribute to individual identification from a single hair colored with a hair dye product using a combination of surface-enhanced Raman scattering (SERS) and X-ray fluorescence (XRF) analyses. SERS and XRF spectra of single hog hairs colored with several commercially available hair dye products were measured. SERS spectral patterns tended to be different depending on the hair dye products used for hair coloring. However, SERS spectral patterns of single hog hairs colored with different hair dye products that would produce similar types of dyes were similar. By performing XRF analysis, characteristic metallic elements originating from some hair dye products were detected. Therefore, XRF can contribute to identifying the difference among colored hairs that cannot be identified only by SERS. SERS and XRF analyses of a single shed hair can contribute to individual identification used in forensic science.
著者
李 青雅 古郡 鞆子
出版者
生活経済学会
雑誌
生活経済学研究 (ISSN:13417347)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.85-95, 2012-09-30 (Released:2016-11-30)

The prevalence of obesity has become a serious, worldwide public health problem. Its main cause is in the change of lifestyle having been brought by technological innovations in the fields of food production and processing, distribution systems, computer and information technologies, means of transportation, etc. Obesity raises problems in health care, medical spending, labor market, quality of life, and other areas. Using a panel data in Japan and analyzing effects of overweight and obesity on physical and mental health, we found the following: 1) obesity influences physical and mental health negatively; 2) the effect appears more on physical health than mental health; 3) men tend to be affected physically more than mentally and women mentally more than physically; and 4) the effects of overweight and obesity are noticeable more on workers than non-workers and more on employees than self-employed. Obesity is a problem of dietary habit on one hand and that of social structures on the other. There are many actual and foreseeable problems to be solved to prevent obesity and cope with obesity-related issues. Physical and mental health problem dealt with in this paper is one of them when the number of overweight especially for men in Japan shows a steady growth.
著者
松下 嘉一 今野 昭義 鎌田 慶市郎
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.15-23, 1993-07-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
7

平成1年12月から平成2年6月まで千葉大学耳鼻咽喉科外来に口内乾燥を主訴として来院したシェーグレン症候群 (SjSと略) 4例について, 同大学第1内科において, 症例によっては現代医薬を併用し漢方治療を行った。漢方方剤としてはエキス製剤および煎剤, 丸剤を用いたが同名方剤でも煎剤のほうが有効と考えられた。治療経過については唾液分泌量を指標とした。4例中1例に正常化がみられた。他4例には多少なりとも唾液分泌量の増加をみとめた。したがって口内乾燥症状に多少なりとも漢方治療が有効であったことから, QOLに幾分なりとも寄与するものと考えられる。