著者
MA Bruce Yong 川嵜 敏祐
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、糖鎖シグナルを介する免疫応答の調節機構の解明及び関連疾患に対する分子標的治療法の基礎開発を目指しており、具体的には、T細胞、マクロファージ、樹状細胞などの活性化や分化における、様々な細胞表面抗原やシグナル伝達受容体の糖鎖による調節の仕組みの研究を進め、以下のことを明らかにした。1.樹状細胞に発現されるC型レクチンDC-SIGNが結腸がん関連血液型糖鎖抗原Le^a/Le^bとの結合を介して、がん細胞と正常細胞を識別し、腫瘍免疫の制御に関わることを初めて示した。また、DC-SIGNを介する結腸がん細胞への結合により、樹状細胞からのIL-6、IL-10の分泌が促進され、樹状細胞の成熟およびナイーブT細胞のTh1細胞への分化が抑制されることが明らかとなった。これらの結果は、DC-SIGNが腫瘍免疫に対して抑制的に機能することを意味し、がん細胞が免疫監視機構から逃避するメカニズムとして働くことを示すものである。2.Gal、GlcNAcを特異的に認識するレクチンマクロファージアシアロ糖タンパク質結合タンパク質(M-ASGP-BP)は、外来異物の除去を仲介するエンドサイトーシスレセプターとして働く。LPSがmRNAレベルでM-ASGP-BPの発現を抑制することをラット及びマウスのチオグリコレート誘導腹腔マクロファージを用いて明らかにした。M-ASGP-BPの発現が、LPSで誘導されるTLR4、NF-κBを介したシグナルにより負に調節されていることを見出した。3.CD26が樹状細胞C型レクチンDC-SIGNのT細胞上の新たな糖鎖リガンドであることを見出した。また、CD45とADAも共沈してくるタンパク質複合体から同定された。このことは、糖鎖認識を介したDC-SIGNとCD26・ADA・CD45複合体との結合による免疫シナプスの形成によりT細胞の補助シグナルとして機能している可能性を示唆している。4.ブタ血清中にはホスホマンナンに特異性をもつ新規レクチンPMBLを見出し、その遺伝子クローニングに成功した。また、PMBLはリガンド糖鎖を認識した後、レクチン経路を介して補体系を活性化することが明らかとなった。
著者
佐々木 浩雄
出版者
龍谷大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、15年戦争下に数多く創出され、国家的に奨励された集団体操に着目し、国民の体力向上や身体の規律化が、なぜ体操で、どのように行われようとしたかについて検討することを目的とした。研究を通じて、この時期に創案・実施された種々の体操を網羅的に示し、工場、農村、各種団体における体操普及の実相を、体操を普及・指導した人々の言説編成や文部省、厚生省および関係諸団体を中心とした戦時体制への動きとともに論じた。
著者
田原 誉敏
出版者
鳥取大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

前立腺の照射部位における直腸体積を減じることは放射線治療後の有害事象である直腸出血を減じることが出来るとされており、本研究は漢方薬により前立腺癌の放射線治療による直腸障害を減じる可能性に言及した初めての研究である。前立腺癌における強度変調放射線治療患者で同意を得た症例に対し、大建中湯投与群と、大建中湯非投与群に分けて放射線治療前のCT撮像を行っ た。最終的に30症例、1170回のCTデータを集積した。研究結果は、大建中湯投与群の直腸体積は、非投与群の直腸体積に比較し有意に小さく(P < 0.0001 )、大建中湯により前立腺癌の強度変調放射線治療による直腸障害を 減じる可能性が示唆された。
著者
深田 淳太郎
出版者
三重大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では第二次大戦において海外に残された遺骨の収容活動の変遷と現在の状況を、フィールドワークを通して明らかにした。この変遷は、戦没者が「個人」と「集合的戦没者」の二つの側面の間を揺れ動いてきたものとして理解できた。戦没者を直接見知った世代が遺骨収集活動において求めたのは、自分の家族や友人という「個人」であった。一方で1990年代以降、直接の関係が無い世代が収集活動に関わるようになると、戦没者は集合的にあるいは「数字」として取り扱われる傾向が強くなった。近年DNA鑑定が導入され、再び「個人化」への揺り戻しが起こっているが、これはかつての誰かの家族や友人としての「個人」とは異なってきている。
著者
丸山 徹
出版者
南山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

ザビエルが来朝した1549年より約100年間の「キリシタン時代」、日本の布教に携ったカトリック宣教師たちは日本語ポルトガル語辞書、日本語文法書、文学書、宗教書などを精力的に編纂した。こうしたキリシタン文献はこれまで何人もの国語学者がキリシタン資料の研究に携り、数々の成果をあげてきた。語学書の中ではとりわけロドリゲスの文法書と日葡辞書が邦訳も公にされここ数十年で研究が大きく進んだ。一方でこうした語学書が、同時代のヨーロッパにおける語学書の構成に倣って(世界各地の現地語について)書かれているからには、研究にグローバルな観点を導入することは不可欠である。ブラジル・トゥピ語文献、インド・コンカニ語文献などとの対比の中で、日本の「キリシタン文献」に光を当てることが重要となる。インド・コンカニ語文献の場合、日本におけるロドリゲス日本語文法書に対応する同時代のコンカニ語文法書(1640年)や同じぐ日本におけるドチリナキリシタンにあたる同時代のコンカニ語ドチリナ(1622年)はインドに印刷に付されたものが現存するが、上で述べた日葡辞書に相当するコンカニ語・ポルトガル語辞書は印刷に付されたものがなく、写本の形でしか存在しない(Goa Central Library、Biblioteca Nacional deLisboa、Arquivo Historico Ultrainarino(Lisboa)所蔵の三つの関連する写本-いずれもDiogo Ribeiro神父の手になると思われるもの-が注目される)。本研究の主たる目的は写本の形で残る17世紀コンカニ語・ポルトガル語辞書の翻刻とコンピュータ入力、印刷、公表、および関連する三写本についての考察をもとに、それら写本成立の背景を探ろうとするものであった。期間内に次の二つのことを遂行した。1.1626年書写コンカニ語・ポルトガル語辞書の翻刻とコンピュータ入力、印刷、公表( ⇒ 当該科学研究費補助金研究成果報告書A4・400ページを参照)2.上記辞書写本翻刻の世界の研究者、国公立図書館への送付
著者
五百籏頭 真 品田 裕 久米 郁男 伊藤 光利 中西 寛 福永 文夫
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究は、宏池会(自民党池田派の系譜)に関する資料収集・インタビューを行い基礎資料を整備すると共に、分担者による研究、報告および議論、論文の執筆を行ってきた。1 資料収集およびインタビュー 宏池会研究の基礎的データの最終的な整理完成が本年度の第1の成果である。宏池会所属議員の役職、経歴、選挙などのデータを収集し、利用可能な形にデータベース化した。このデータに基づき、宏池会という派閥がいかなる特性を持つものかが分析された。また、前年度までに収集された宏池会機関誌「進路」の記事データを整理し解題を行った。また宏池会を解明するためのインタビューを行った。本研究代表である五百籏頭教授は、宮沢喜一元総理に対するインタビューに加えて、非宏池会政治家である中曽根康弘、橋本龍太郎両元総理などへのインタビューを行い、その結果を研究会でメンバーと共有することを行った。また、伊藤昌哉氏、神谷克己氏、桑田弘一郎氏、田勢康弘氏、松崎哲久氏、長富祐一郎氏、畠山元氏、森田一氏らを研究会に招いて聞き取りを行った。また中村隆英先生からは経済史に関し貴重なお話しをいただいた。2 研究報告 分担者である品田、福永が、宏池会系政治家の特性を解明する分析を行った。そこでは、宏池会系議員の部会所属が池田時代以降徐々に変化してきたことが明らかにされた。村田は、宏池会系政治家から防衛庁長官が輩出しているという事態の政治的意味を分析した。中西、久米は、宏池会の経済政策の分析を行った。中西の分析は、池田内閣の政策的ブレーンであった下村治の経済思想を政治学的に分析するものである。久米は、池田内閣期と佐藤内閣期の経済財政政策の策定を実証的に検討し、アイデアの政治という観点から分析を行った。五百旗頭は、これらの分析をふまえつつ、宏池会という政策色の強い派閥が戦後日本にとっていかなる意味を持ったのかを考察した。3 成果発表 以上の研究成果は、PHP出版から年内に研究書として公刊される予定である。
著者
田邊 優貴子
出版者
国立極地研究所
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

・試料分析とデータ解析(平成30年4月-6月)平成28年12月から平成30年2月にかけて南極湖沼で採取した湖水試料および湖底生物群集試料を国内に持ち帰った。これらの試料について、元素分析計(スミグラフNCH-22)で炭素・窒素・リン濃度の分析、HPLC(Shimadzu社)で植物色素の分析、湖水・間隙水試料は栄養塩オートアナライザー(Bran +Luebbe社製)を用いて溶存無機栄養塩(リン酸・アンモニウム・硝酸・亜硝酸・ケイ酸)の分析、TOC分析計(Sievers 500)を用いて全有機炭素・溶存有機炭素の分析、蛍光分光光度計(FluoroMax-4、堀場製作所)を用いた分析による溶存有機物の詳細解析、次世代シーケンサー(MiSeq)で一次生産者(シアノバクテリア・藻類)と分解者(菌類・バクテリア)の遺伝子解析を実施した。また、UC Davis安定同位体分析サービスに炭素・窒素の安定同位体比の分析を依頼した。・カナダ高緯度北極調査(平成30年7月-8月)北緯83度にあるワードハント島でカナダと共同で野外調査を行った。湖内の湖沼学的パラメーターの鉛直分布を測定し、湖底から深度毎に生物群集試料を採取した。また、平成28年7月にワードハント湖に設置した係留システムを回収し、2年分の水中環境データ(クロロフィル、溶存酸素、光、水温)の取得に成功した。カナダチームが長年取得しているこのエリアの気象・湖氷データと合わせてデータ解析し、水中環境と植物プランクトンの動態を明らかにし、国際誌に論文として投稿した。・試料分析と総合解析(平成30年8月-平成31年3月)現場および分析により得られた情報を統合することにより、エリア毎の一次生産者の環境応答と系内の生物多様性および物質循環プロセス、および、過去の環境変動パターンの違いから湖沼生態系の遷移プロセスとの関係について解析を開始した。
著者
宇都宮 由佳
出版者
大妻女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

東アジアの人々にとって,ポルトガル伝統菓子から最も影響を受けたことは菓子に卵を使用することであった.日本・タイ・ゴア(インド)には,Fios de ovos(鶏卵素麺)が共通して伝播していたことが明らかとなり,ポルトガル最初の料理書「Arte de Cozinha」(1680年)には「Fios de Letria」と記載されていた.ゴアではLetriaと呼ばれ,ポルトガル系キリスト教徒の家庭で母から娘に作り方が伝えられていた.日本では,福岡藩の御用菓子だったため,広く知られていなかったが,タイでは,宮廷から上流階級そして庶民へと広まり,さらにアレンジされたものが作られていた.
著者
荒川 友博
出版者
摂南大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

セレンは酸化ストレス防御系において重要な役割を演じている必須微量元素である。本研究では、セレンによるストレス制御がアレルギー性疾患に与える影響を検討した。その結果、食品中に多く含まれるセレン化合物であるセレノメチオニンの投与が即時型および慢性皮膚アレルギー反応を抑制することを明らかにした。また、セレン欠乏状態によって、即時型および慢性皮膚アレルギー反応が増悪化することを明らかにした。
著者
岡本 正人
出版者
金沢工業大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

昆虫のような小さな翼に作用する空気力は非常に微小であることから、レイノルズ数が10,000以下の翼の空力特性に関する実験データはほとんど得られていない。そこで、この小さな翼の空力特性を得るための専用の低圧風洞装置を開発した。その結果、レイノルズ数が1000~10,000の翼に作用する空力係数が精度よく測定できるようになった。そのため、本風洞を用いてさまざまな翼の空力特性について実験を試みたが、特にコガネムシの鞘翅に見られる大きなキャンバの円弧薄翼の空力特性で興味ある結果が得られた。このような小さな翼の空力データは、小型の冷却ファンや昆虫サイズの超小型航空機の翼の開発に役立つと考えられる。
著者
小林 道彦 森 靖夫 瀧井 一博 西田 敏宏 奈良岡 聰智 松本 浩延
出版者
北九州市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は、山県有朋および山県系官僚閥に関する内外史料の収集と整理・分析を通じて、新版『山県有朋意見書』を編集・公刊し、「日本の近代」の再検討を行おうとするものである。底本には大山梓編『山県有朋意見書』(原書房、1966年刊行、以下「大山本」と略称)を用いる。大山本は日本近代史研究などの学問分野における最も基本的な「データベース」として、長年多くの研究者に利用され、多大なる学問的恩恵をもたらしてきた。本研究は爾後半世紀あまりにわたって関係諸機関によって、収集・公開されてきた史料を中心に、新たな史料の探索にも注力しつつ、それらを整理・統合した新版『山県有朋意見書』を公刊することを目的とするものである。2年度目にあたる本年度は、研究実施計画に沿って着実に研究実績を積み重ねることができた。その概要は以下の通りである。①大山本に掲載されている意見書の典拠確認・史料原本の複写作業はほぼ完了した。ただし、10点あまりは典拠不明である。②『公爵山県有朋伝』『明治天皇紀』『明治天皇御伝記史料・明治軍事史』『陸軍省沿革史』等の刊本からの、関連箇所の複写とデータ入力作業は完了した。上記作業に関しては、松本浩延(同志社大学法学研究科博士後期課程)、徳重伸(同博士前期課程)、井本莞司(同博士前期課程)を研究協力者として作業を行った。③前年度に引き続き、大山本に収録されていない意見書の探索を、国立国会図書館憲政資料室、防衛省防衛研究所図書館、国立公文書館、奥州市立後藤新平記念館、憲政記念館、山口県文書館などで進めており、43点あまりの未刊行の新出意見書を見つけ出すことができた。また、海外での史料調査も適宜実施した。④以上の史料リストを全部統合した「統合リスト」を作成し、それを元に出版社(千倉書房)との出版交渉を行った。