著者
遠藤 哲也
出版者
北海道医療大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

和歌山県で販売されていた鯨内臓食品の水銀濃度は著しく高く、肝臓から最高で2000ppmの総水銀が検出された(Sci. Total Environ.,300,15-22,2002).この肝臓食品をラットに1回経口投与したところ、無機水銀による急性腎毒性が認められた(Arch. Environ. Comtam. Toxcol.,44,412-416,2003).最も一般的な鯨食品である赤身肉の水銀汚染度は鯨種により大きく異なること,また捕獲地域でも異なることを明らかにした(Endo et al., Environ. Sci.Tech.,37,2681-2685,2003).PCBなどの有機塩素系化合物の汚染度にも顕著な種差があることを示した(J.Toxicol. Environ.Health A,65,1211-1235,2002).市販されていた赤身肉のなかで最も汚染度が高かったものには,81ppmの総水銀と26.2ppmのメチル水銀が含まれていた(Chemosphere,54,1653-1662).この鯨肉をラットに1週間連続経口投与したところ,急性毒性症状は認められなかったが,メチル水銀による特徴的な体内水銀分布が認められ,頻繁に摂取すれば慢性中毒になることが示されたChemosphere, in press).鯨脂肪食品からの抽出物は催奇性を有することをラット胎児培養を用いて明らかにした(Organohalogen Compounds,55,421-423,2002).マグロの水銀汚染にも明らかな種差が認められ,その汚染度は魚体の大きさと関係すると思われる(食品衛生学発表,東京,2004).
著者
中田 和義
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究の目的は,希少種を含む在来生物に対して深刻な悪影響を与えるとともに,巣穴を掘って水田漏水を引き起こすなどの農業被害をもたらしている外来種アメリカザリガニについて,効率的な管理・駆除手法を検討することである。アメリカザリガニは,環境省と農林水産省によって2015年に公表された「生態系被害防止外来種リスト」で,緊急対策外来種に選定されており,被害が生じている水域では早急な駆除対策が求められている。令和元年度の研究では,平成30年度の研究においてアメリカザリガニが掘る巣穴長が長くなると水田漏水が発生する可能性が高くなると考えられた結果をふまえて,本種が巣穴を掘削できる土壌硬度の限界値を明らかにすることを目的とした室内実験を行った。この実験では,ワグネルポットに水田土壌を満たして土壌硬度の異なる模擬耕盤層を作製し,アメリカザリガニが巣穴を掘削できるかを観察した。模擬耕盤層の土壌硬度については,1 mm刻みで4~9 mm(計6実験区)となるように調整した。本実験によって得られた主要な結果は以下のとおりである。1)アメリカザリガニは土壌硬度7 mm以下の模擬耕盤層には巣穴を掘削できた。2)土壌硬度4 mm以下では,アメリカザリガニは模擬耕盤層内に長い巣穴を掘り進めることができた。3)土壌硬度8 mm以上の模擬耕盤層では,アメリカザリガニは巣穴を掘削できなかった。以上の研究成果については,現場の水田管理においてアメリカザリガニの巣穴による水田漏水対策を検討するうえで有用な知見になると考えられる。
著者
佐藤 寛之
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013

ユークリッド空間における制約条件なしの最適化手法の一つである共役勾配法をリーマン多様体ヒに拡張し, 収束性の証明を行った, ユークリッド空間における共役勾配法では, 各反復において次の探索方向として, 最急降下方向と, 前回の探索方向にBを乗じたものの和を用いる. FletcherReevesのβを用いたアルゴリズムの多様体版の大域的収束性を調べるとともに, 収束性を高める工夫を加えた新しいアルゴリズムを提案した. この結果は論文"A new, globally convergent Riemannian conjugate gradient method"にて発表された.また, リーマン多様体上の最適化問題として定式化される具体的な応用問題として, 行列の固有値問題や特異値分解問題を扱った. 具体的には, 固有値問題をグラスマン多様体上の最適化問題として定式化し、その最適化アルゴリズムを導出することで, 固有値分解の新たなアルゴリズムを提案した, この結果は論文"Optimization algorithms on the Grassmann manifold with application to matrix eigenvalue problems"として発表した. また, 特異値分解については, 実行列の場合に2つのシュティーフェル多様体の積からなる多様体上の最適化問題として定式化して議論した研究代表者らの以前の論文を, 複素行列の場合に適用できるよう拡張し, 論文"A complex singular valuei decomposition algorithm based on the Riemannian Newton method"として発表した.当該年度では多様体上の一般的な最適化問題に対して新たな解法アルゴリズムを導出したり, 具体的な行列の問題に対する新たなアルゴリズムを導出し, 応用的な観点から有意義な成果が得られたと言える.
著者
荻田 武史 尾崎 克久
出版者
東京女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

対称系の固有値問題に対して、ニュートン法系統の2次収束性を持つ固有ベクトルの反復改良アルゴリズムを開発した。これによって、常に最良の近似解(固有値及び固有ベクトル)を得ることが可能な数値計算アルゴリズムの開発も可能となった。対称系の固有値分解については、現在、ハウスホルダー変換による三重対角化を用いる方式が主流であり、それに基づいて様々な数値計算アルゴリズムが提案されているが、本研究における基本方針として、特定のアルゴリズムに依存しない、一般的な高精度化の方式を考え、汎用性を確保した。すなわち、解の初期値を既存の方式で求め、反復改良によって解の精度を改善する方式を考えた。また、上記と並行して、提案アルゴリズムの効率化を高めるために、行列乗算の高精度計算に関する研究も継続して推進した。特に、隣接浮動小数点丸めという性質(これは真値に対して、隣接する浮動小数点数のどちらか一方の数値結果)を満たす、非常に高信頼でかつ高速な行列積アルゴリズムを提案した。問題が良条件な場合、提案手法は近似計算の数倍程度の計算時間により結果を求められることを示した。また、連立一次方程式や固有値問題に関して、高精度計算アルゴリズムを提案した場合、その厳密な検証法が必要になる。真の解が事前にわかる連立一次方程式、真の固有値(特異値)が事前にわかる行列の生成法について研究した。提案手法は連立一次方程式においては行列・ベクトル積のみ、固有値問題については行列積1回またはそれ以下の計算コストで連立一次方程式や行列を生成可能である。連立一次方程式に対するテスト問題の研究結果は論文として採録された。さらに、上記の研究によって開発した固有値分解における新しい数値計算アルゴリズムをもとに、計算量の再定義を行った。
著者
今村 俊幸 工藤 周平 鈴木 厚 廣田 悠輔 鈴木 智博 椋木 大地
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

エクサ時代のメニイコア環境下において、システム実行効率を向上するための数値計算アルゴリズムならびにタスク技術周辺を数値線形計算の視点から研究する。将来にわたって持続可能な高性能な数値計算ソフトウェアのための開発フレームワーク実現に注力し、数値線形代数カーネル構築の経験から発想される新たなタスクスケジューリング技術(非同期・条件付き・競争的スケジューリング)を研究する。同技術要件をスケジューラプロトタイプとして試作し、既存数値線形代数ソフトウェアに取り込み高性能化・高並列化を実現する。更にエクサ時代のターゲットなる高次元データ解析向け数値計算ソフトウェアに対しても適用範囲を広げていく。
著者
荻田 武史
出版者
東京女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究の目的は、数値線形代数におけるロバストな行列分解アルゴリズムの体系を構築することである。数値線形代数は科学技術計算の基礎であり、そのための高い安定性を持つアルゴリズムを開発することは、非常に重要である。これを達成するためには、様々な行列分解に対して、個々のアルゴリズムの詳細よりもメタなレベルにおいて共通の枠組みを創造しなければならなかった。そこで、理工学の多くの分野に応用がある実対称正定値行列に対して、高い安定性を持った行列分解アルゴリズムの開発に成功した。さらに、多くの応用がある固有値問題や特異値問題に対しても、高い安定性を持った数値計算法を提案した。
著者
西本 希呼
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、マダガスカル語Tandroy方言の体系的記述を行うことである。Tandroy方言はマダガスカル南端部で話され、約50万人の話者をもつ。危機言語や書記資料の少ない言語の記述、そして口承文芸の記録・録音といった無形財産の保存の重要性が近年国際的に認識されているなか、多くのマダガスカル語方言のドキュメンテーションは従来ほとんど試みられていないといえるのが現状である。特に、マダガスカル語標準語の基盤となっているMerina方言以外のマダガスカル語方言の言語学的記述資料は、非常に少ない。そこで、本研究は、マダガスカル語Tandroy方言を、現地調査で収集した基礎語彙、口承文芸の記録・録音、自然会話の観察、母語話者からの例文の抽出などの一次資料をもとに、体系的な記述を行うことを目的としている。最終年度である本年度はTandroy方言の音声・音韻、動詞カテゴリー、文法の体系の全容を記述・分析し、博士論文として2010年12月にまとめた。また、本研究では、言語の構造的側面のみならず、5年間の研究および、現地での言語調査を通じて明らかとなった、マダガスカルの多言語社会の現状と動態、話者が属する社会の文化、自然現象に関する認識や在来技術とその応用についても取り扱っている。
著者
江角 智也
出版者
島根大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

多くの植物で花成を誘導するフロリゲン遺伝子(FT)は、カキとブドウにおいては、果柄(穂軸)と果実で強く発現していた。一方、FTと拮抗する働きを示すTFL1遺伝子の発現は、結果枝に形成される芽において強く発現していた。ブドウでは、有核果を着果させた結果枝と無核果の結果枝とで、それら遺伝子の発現レベルに違いがみられた。また、隔年結果の原因シグナルとして考えられているジベレリンの合成やシグナル伝達に関与する遺伝子の発現についても、有核果の結果枝と無核果の結果枝とで、一部の器官において発現レベルの違いがみられた。果実着果、種子形成と花芽形成の関係における、花成関連遺伝子の関与について知見を得た。
著者
安達 修二 木村 幸敬
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

水溶性めビタミンC(アスコルビン酸)は,体内における吸収効率が低い.一方,炭素数6〜12の飽和脂肪酸である中鎖脂肪酸は腸管などの上皮での親水性物質の吸収を促進することが知られている.そこで,アスコルビン酸を中鎖脂肪酸によりアシル化することにより,その腸管吸収効率の向上を図るとともに,還元能を有するアスコルビン酸に疎水性を付与することによる脂溶性還元剤としての利用,並びに生成物が界面活性をもつと期待されることより還元能を具備した乳化剤(界面活性剤)としての使用を意図して本研究を行った.まず,Candida antarctica起源の固定化リパーゼがアセトニトリル中でラウリル酸とアスコルビン酸の縮合反応を効率的に触媒し,溶媒の含水率が低いほど収率が向上することを見出した.また,各種炭素鎖長の中鎖脂肪酸との縮合反応の平衡収率について検討したところ,脂肪酸の炭素鎖長は平衡収率に顕著な影響を及ぼさなかった.さらに,食品への応用を念頭において各種水可溶性有機溶媒を対象に反応溶媒の選択を行い,沸点が低く,精製過程での除去が容易と考えられるアセトン中でも本反応が効率的に進行することを見出した.また,アセトンの含水率が低いほど目的生成物の平衡収率が高かった.さらに,中鎖脂肪酸による親水性物質の腸管吸収機構などに関して小腸上皮様に分化したCaco-2培養細胞を用いた検討を行い,吸収促進効果には中鎖脂肪酸の界面活性剤としての性質が深く関与していることを示した.一方,リパーゼ触媒反応により調製したアスコルビン酸のアシル化物は比較的強い界面活性能を有していた.上述のように,酵素法を用いて中鎖脂肪酸によりビタミンCをアシル化する方法を確立するとともに,ビタミンCの腸管吸収効率の改善に関する基礎的な知見が得られ,所期の目的をほぼ達成した.
著者
桂 有加子
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、有袋類のオスがどのように遺伝的に決められるのかについて明らかにすることを目的として、これまで有袋類でのオス決定遺伝子SRYの進化・機能、オス精巣で発現する遺伝子の網羅的同定等を行ってきた。本研究の成果から、有袋類(ワラビー、コアラ等)SRYの配列は真獣類(ヒト、マウス等)のものと異なるが、有袋類SRYの機能は真獣類のものと類似していることが示唆された。以上の結果成果から、有袋類の性決定遺伝子は、SRYである可能性が高いことが示唆された。
著者
渡辺 宏久 Bagarinao E. 祖父江 元 伊藤 瑞規 前澤 聡 寳珠山 稔 森 大輔 田邊 宏樹
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では、fMRIと脳波 (EEG) を組み合わせたEEG-fMRIを用い、fMRIの有する高い空間分解能を活かした解析に加え、脳波の有する高い時間分解能生を活かした解析を組み合わせて、ヒトの高次脳機能神経回路や精神症状をサブミリセカンドで観察出来るシステムを構築した。我々の解析方法を用いることで、作業記憶課題を用いた脳活動の観察では、認知課題中に1秒未満で連続的に変化する脳活動を観察可能であった。またてんかん活動を観察しつつ同定した焦点は、手術により確認したそれと良く一致していた。我々の開発した解析手法は、高い空間分解能で1秒未満の連続的な脳活動変化を捉えられる。
著者
町田 龍一郎 BLANKE Alexander
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

昆虫類(狭義)の基部分岐に関してはいろいろな仮説が提唱されているが、説得力のあるシナリオは描かれていない。このような背景から、翅の獲得に至っていない原始的な「無翅昆虫類」の5目、そして翅を獲得した有翅昆虫類の顎部形態の厳密な比較を計画、研究分担者ブランケ博士が得意とする比較形態学的アプローチと研究代表者町田の得意とする比較発生学的アプローチを融合することで、説得力のある昆虫類の進化シナリオを構築することを本研究の目的とした。すなわち、ブランケ博士が中心となり、無翅昆虫類のカマアシムシ目、トビムシ目、コムシ目、イシノミ目、シミ目、旧翅類のカゲロウ目とトンボ目、新翅類最原始系統群カワゲラ目の顎部形態を、ドイツDESY、スイスPSI、および日本のSPring-8のシンクロトロンを用い、膨大なSR-microCT断層像データを得た。一方、町田が中心となって、各群の卵を得て、顎部形態形成を、筋付着点としての頭蓋、外胚葉陥入内骨格、筋肉系に注目し、比較発生学的に検討した。両者の比較形態、比較発生学的データを総合的に議論、整合性のある進化シナリオを構築することを目指した。この結果、昆虫類の基部分岐は「欠尾類(=カマアシムシ目+トビムシ目)+有尾類【=コムシ目+外顎類{=イシノミ目+双関節丘類(=シミ目+有翅昆虫類)}】」と理解された。また、従来の理解と異なり、1)イシノミ目ですでに双関節丘型大顎が獲得されていること、2)昆虫類の大顎は従来の理解と異なり、イシノミ目型ではなく、内顎類(カマアシムシ目、トビムシ目、コムシ目)に見られるような内顎類型であることが明らかになった。
著者
樋口 理 瀬筒 秀樹 中根 俊成 瀬筒 秀樹
出版者
独立行政法人国立病院機構長崎川棚医療センター(臨床研究部)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

神経変性疾患の1つである筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者血清中のLRP4抗体の探索を行った結果、40-50%の症例でLRP4抗体が陽性という結果を得た。マウス筋管細胞においてagrinが誘導するAChR誘導活性に対する阻害効果を調べたところ、LRP4抗体陽性重症筋無力症患者血清はその阻害効果を有していたが、LRP4抗体陽性ALS患者血清にはそれを認めなかった。今回の結果は疾患特異的なLRP4抗体のエピトープの違いを反映するものと推測される。ALS患者の血中に認められるLRP4抗体は将来的にALS発症や治療応答性を追跡可能なサロゲートマーカーとしての役割が期待できるかもしれない。
著者
大泉 宏
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

飼育下のミナミハンドウイルカ(Tursiops aduncus) 1頭に給餌し、その後の食道胃内における消化の進行を内視鏡を用いて観察した。観察では餌の種と尾数または量を変化させて、餌の消化段階と時間経過の関係、および一定量の餌が消化されて空胃に至るまでの時間を明らかにした。また、イルカにイカの顎板を給餌し、食道胃に不消化物として滞留する顎板が吐出されるまでの時間を調べた。その結果、100gから200g程度の餌一尾は約1時間半から2時間程度で消化されること、一回の満腹量に相当する餌は12時間で完全に胃内の消化が完了すること、イカの顎板の大部分は24時間で排出されることが明らかになった。さらに餌の一部を人工消化液を用いて試験管内で消化させ、餌種による消化の進行速度の違いの検証と、イルカの胃から抽出したペプシンの活性条件をpHと温度について明らかにした。これらの結果は、イルカの食道胃における餌の消化速度を明らかにしたものである。これは、野生のイルカ類から得られる胃内容物の分析を行う際に、単位時間当たりの餌摂取量を推定する手がかりとなると期待され、自然条件下におけるイルカの餌消費量やエネルギー要求量を明らかにする上で有用と考えられる。
著者
山本 武
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

食物アレルギーを安全にかつ効率良く治療を行うために、抗原摂取によりアレルギー性消化器症状を発症する食物アレルギー病態モデルマウスに対して経口免疫療法を行う経口免疫療法モデルを作製し、葛根湯を併用した治療法の効果とその機序の検討を行った。経口免疫療法のみの治療よりも、葛根湯を併用した治療が腸管でFoxp3+制御性T細胞を増加させ、腸管粘膜免疫系のTh2免疫応答の過剰な亢進を改善し、食物アレルギーを有意に改善することを明らかにした。また、経口免疫療法や葛根湯併用療法によりアレルギー症状発症に関与する粘膜型マスト細胞が腸管で増加したが、葛根湯併用療法では粘膜型マスト細胞の脱顆粒によって増加する血漿中mouse mast cell protease-1量が減少した。このことから、葛根湯併用療法により粘膜型マスト細胞の脱顆粒が抑制され、食物アレルギー症状の発症が抑制されたことを明らかにした。葛根湯併用療法の治療効率改善の作用を示す葛根湯の有効成分を検討するために、葛根湯を構成する生薬の各単味エキスを経口免疫療法と併用して検討を行った。しかし、葛根湯併用療法と同様のアレルギー症状発症抑制効果は得られなかったため、葛根湯併用療法による治療効果は単独の生薬や成分による作用ではなく、複数の生薬エキスによる複数の機序を介した作用によることが示唆された。さらに、葛根湯併用療法による治療効果が長期間維持されるかを明らかにするため、治療後に抗原除去期間を経た後に抗原の投与を行いアレルギー症状の発症率について検討を行った。経口免疫療法のみでは抗原除去期間後に再びアレルギー症状を発症したが、葛根湯併用療法では治療効果が維持されアレルギー症状発症率は低かった。従って、経口免疫療法と葛根湯の併用療法による原因抗原に対する耐性獲得の可能性が示唆された。
著者
吉村 俊朗 中野 治郎 本村 政勝
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

抗アセチルコリン受容体抗体(抗AChR抗体)および抗筋特異的チロシンキナーゼ抗体(抗MuSK抗体)共に陰性で筋無力症が疑われる患者の中に筋萎縮性側索硬化症もある。誘発筋電図でもWaningが認められ、テンシロンテストも陽性と判断されることがあり、抗体陰性の重症筋無力症の鑑別に重要と結論した。運動終板に補体C3の沈着が認められ、postsynaptic foldの減少も認められた。αバンガロトキシンの減少も認められる例もある。意義付けが困難であるが、眼筋型MGでは、AChR抗体が陰性のことが多く補体の沈着があることがある。測定感度以下のAChR抗体が関与する可能性や、AChR抗体以外の抗体の関与が考えられる。補体の沈着もなく、postsynaptic foldの減少があり、臨床像は、四肢近位筋の筋力低下があり、他の抗体もしくは、先天性の可能性など、今後の検討が必要である。ヒト抗MuSK抗体は、ラットの再生筋の運動終板においてもいても、ヒト運動終板と類似の変化をもたらす。 抗MuSK抗体は Postsynaptic areaの形成に影響を及ぼす。抗ラミニン抗体は抗体陰性の筋無力症の原因でありうる可能性を否定できないが、電気生理学的な検討も含めて、今後の検討が必要である。ラミニンも運動終板の形成に関与している可能性がある。
著者
秋山 学 秋山 佳奈子
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

聖書学の「予型論」を活用した本企画では, 遠く東洋日本におけるキリスト教伝来以前の文化伝承のうちに「予型」を見出し, それを照射する「光源」としてビザンティン典礼を措定するという2段階での研究を推進した.代表者による慈雲尊者飲光の研究により, わが国の悉曇学あるいは習合神道のうちに一つの予型が, また分担者による『源氏物語』注釈史研究を通して, 四辻善成のうちに実証主義的注釈家のあり方が見出されたと考える.
著者
森 由紀恵 大島 佳代 河合 咲耶 村上 菜菜
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

日本中世成立期に編纂された真言宗小野流の教義書『覚禅鈔』は、政治史・外交史・美術史など多分野にわたり情報を含む歴史資料として注目されている。本研究では、『覚禅鈔』を歴史資料として活用するため『大正新修大蔵経』図像部所収『覚禅鈔』のデータベース(年号・書名・図像)を写真帳などによる調査・校訂を行いつつ作成し、年号データベース・図像データベースは報告書により公表した。また、データベース活用の結果明らかになった『覚禅鈔』と院政との関係・大和国における『覚禅鈔』の伝来過程に関する論文を公表した。