著者
乾 順子 イヌイ ジュンコ Inui Junko
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
no.34, pp.39-54, 2013

本稿の目的は、既婚女性の人生満足度に着目し、過去における性別分業意識と働き方が、既婚女性の中高年期の人生満足度にどのような影響を与えるかを明らかにすることである。一時点における生活満足度と従業上の地位・性別役割分業意識との関連については、意識と働き方が一致しているもの、つまり分業賛成と無職、分業反対とフルタイムであるものの生活満足度が高いという分析結果がある。しかし、パートという分業意識と一致しているかどうかが不明確な就業形態については、その関連が明らかにされてはいなかった。また、人生後期の人生を振り返っての満足感と、変更不可能な過去の意識と働き方の関連についての分析もこれまでなされてこなかった。これらは、日本における既婚女性のパート就業率の高さやその多様さを鑑みても、今後の女性就業や雇用政策、家族政策などを考える上でも重要な課題であると考えられる。そこで本稿では、1982 年と 2006 年の2 時点で実施されたパネル調査データを使用し、過去の分業意識と働き方がその後の中高年期の人生満足度に対して影響を与えるかについての分析を行った。その結果、過去の分業意識をコントロールしても、「パート型」のものの人生満足度が最も低かった。さらに、分業意識と職業経歴の交互作用を検討したところ、平等志向の強い「パート型」のものにおいてさらに人生満足度が低くなることが明らかとなった。This study clari es how married women's gender role attitudes and career patterns in the past affect their life satisfaction in their middle and advanced ages. It has been found that when working styles are consistent with their gender role attitudes, their degrees of life satisfaction increase. For example, housewives who have traditional gender role attitudes and full-time working wives who have non-traditional gender role attitudes tend to be satis ed with their lives. However, the relationship between gender role attitudes and part-time workers' life satisfaction has not been clari ed. Meanwhile, cross-sectional data does not clarify the causal relationship between gender role attitudes and work status. In order to explore their relationships, the present study uses longitudinal data from a sample of 152 wives who were interviewed both in 1982 and 2006. Using multiple regression analysis, the author states that the degree of retrospective life satisfaction of "part-time type career pattern workers" is lowest during the second wave, controlling for their gender role attitudes during the rst wave and other socio-economic variables. Furthermore, "part-time type career pattern workers" who have more egalitarian gender role attitudes are the least satis ed with their lives.
著者
小林 敏生 影山 隆之 金子 信也 田中 正敏
出版者
山口県立大学
雑誌
山口県立大学看護学部紀要 (ISSN:13430904)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.21-27, 2002-03
被引用文献数
3

夜勤を含む複数の交代制勤務形態を有する電子部品製造業における技術系男性職員の不眠症の有症率および抑うつ状況について調べるために,日勤,2交代勤務,固定夜勤に従事する男性従業員を対象にして横断的な質問紙調査を行い,256名の回答について検討した。不眠症の定義は「入眠困難」,「中途覚醒」,「早期覚醒」,「熟眠困難」のうち1つ以上の不眠症状が最近1カ月以上持続して週1日以上あるために,二次的に生活上の支障を生じて困っている者とした。また抑うつ度の判定にはCES-D日本語版を用い,16点以上の者を「抑うつ傾向あり」と判定した。不眠症の有症率は日勤群10.4%,2交代勤務群34.5%,夜勤群15.9%と2交代勤務群で最高値,日勤群で最低値を示した。CES-D得点は2交代勤務群で最高値,夜勤群で最低値を示し,日勤群ではその中間値を示した。また抑うつ傾向の有症率は日勤群31.2%,2交代勤務群48.3%,夜勤群29.5%で,2交代勤務群で日勤群,夜勤群と比べて有意に高率となったが,日勤群と夜勤群の間には有意差を認めなかった。またすべての勤務形態において「不眠症有り」の者のCES-D得点平均は「不眠症無し」の者のCES-D得点平均より有意に高かつた。以上の結果より,本職場においては睡眠および精神衛生状況は2交代勤務群で最も悪化していることが示唆され,今後の本職場における交代勤務体制のあり方を検討するうえで重要な知見であると考えられた。
著者
平井 雄介 田畑 泉
出版者
日本体力医学会
雑誌
体力科学 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.495-502, 1996-10-01
参考文献数
22
被引用文献数
1 6

This study examined the effects of (1) an intermittent training using a mechanically braked cycle ergometer and (2) resistance training using free weight on the maximal oxygen deficit and VO<SUB>2</SUB>max. For the first 6 weeks, six subjects trained using an intermittent training protocol five days per week. The exhaustive intermittent training consisted of seven to eight sets of 20 s exercise at anintensity of about 170% of VO<SUB>2</SUB>max with a 10 s rest between each bout. After the training, the maximal oxygen deficit increased significantly from 64.3&plusmn;5.0 ml&sdot;kg<SUP>-1</SUP> to 75.1&plusmn;5.7 ml&sdot;kg<SUP>-1</SUP> (p<0.01), while VO<SUB>2</SUB>max increased from 52.0&plusmn;2.7 ml&sdot;kg<SUP>-1</SUP>&sdot;min<SUP>-1</SUP> to 57.6&plusmn;2.9 ml&sdot;kg<SUP>-1</SUP>&sdot;min<SUP>-1</SUP> (p<0.05) . For the following 6 weeks, the subjects used the same intermittent training for 3 days per week and a resistance training for the other 3 days per week. The resistance training consisted of (1) 4 sets of 12 bouts of squat and leg curl exercise at 12 repetition maximum (RM) . (2) 2 sets of maximal bouts of the same exercise with a load of 90%, 80%, and 70% of 1 RM. After the training period, the maximal oxygen deficit increased further to the value of 86.8&plusmn;5.9 ml&sdot;kg<SUP>-1</SUP>which was significantly higher than the value attained at the end of the intermittent training. On the other hand, VO<SUB>2</SUB>max did not increase significantly from the value observed at the end of the 6 weeks of intermittent training. Body weight was not significantly changed throughout the 12-week training period. Maximal circumference of the thigh did not changed during the first 6-week of the intermittent training period (pre-training: 57.1&plusmn;1.2 cm, after 6-week training: 57.3&plusmn;1.1 cm), while it increased significantly after the last 6-week combined training (59.0&plusmn;0.8 cm, p<0.05) . In conclusion, this study showed that (1) high intensity intermittent training improves both the anaerobic and aerobic energy supplying systems, (2) additional resistance training with the intermittent training further increases the anaerobic energy supplying system, probably through increased muscle mass.
著者
古賀 敬太 コガ ケイタ Keita Koga
出版者
大阪国際大学
雑誌
国際研究論叢 = OIU journal of international studies : 大阪国際大学・大阪国際大学短期大学部紀要 (ISSN:09153586)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.77-96, 2015-01

Tadao Yanaihara(1893-1961) was a pious Christian, a follower of Kannzo Uchimura. On the basis of his Christian faith, he fought against the imperialistic war and the exclusive hyper-nationalism which oppressed freedom of thought and conscience from 1932 to the end of the war. This article attempts to make clear the character of his conception of pacifism, nationalism, and the Emperor system. He regarded himself as a prophet for Japan and felt a responsibility and mission to warn against the militaristic government and nationalistic people, as Isaiah and Jeremaiah did in the Old Testament.
著者
土田 幸男 室橋 春光
出版者
The Japanese Society for Cognitive Psychology
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.67-73, 2009

本研究は自閉症スペクトラム指数(AQ)とワーキングメモリの各コンポーネントが関わる記憶容量との関係を検討した.自閉症スペクトラムとは,自閉性障害の症状は社会的・コミュニケーション障害の連続体上にあり,アスペルガー症候群は定型発達者と自閉性障害者の中間に位置するという仮説である.自閉性障害者においては音韻的ワーキングメモリには問題が見られないが,視空間的ワーキングメモリには問題が見られるという報告がある.高い自閉性障害傾向を持つ定型発達の成人のワーキングメモリ容量においても,同様の傾向が見られる可能性がある.そこで本研究では定型発達の成人において音韻的ワーキングメモリ容量,視空間ワーキングメモリ容量,そして中央実行系が関わるリーディングスパンテストにより査定される実行系ワーキングメモリ容量とAQの関係を検討した.その結果,AQ高群では低群よりも視空間ワーキングメモリ容量が小さかった.全参加者による相関係数でも,AQと視空間ワーキングメモリ容量の間には負の相関が認められた.しかし,音韻,実行系ワーキングメモリ容量とAQの間には関係が見られなかった.これらの結果は,自閉性障害者で見られる認知特性が,定型発達の成人の自閉性障害傾向でも同様に関わっていることを示唆している.
著者
納富 信留
出版者
岩波書店
雑誌
思想 (ISSN:03862755)
巻号頁・発行日
no.948, pp.37-57, 2003-04
著者
高橋 有里 桐田 隆博
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. HIP, ヒューマン情報処理 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.106, no.410, pp.69-74, 2006-11-30

乳児の泣き声が育児中の女性に及ぼす心理生理的影響について,育児ストレスとの関連性から検討した.他人の乳児の泣き声を聴取中の母親の心拍数,皮膚コンダクタンス変化と,泣き声聴取後の拡張期血圧を測定した.その結果,他人の乳児の泣き声は母親にとってネガティブな感情を高める刺激であったが,母親は泣き声に注意を集中し,心拍数が減少した.育児ストレス度では,生理的指標に差は見られなかった.しかし,泣き声を聞いて抑鬱・不安感情が高くなった母親は拡張期血圧が上昇するなどのストレス反応が確認された.また,泣き声に対する不快度が強い母親は,皮膚コンダクタンス反応が大きいことや,心拍数が時間の経過とともに統制条件と差がなくなることから,乳児の泣き声に対する耐性が低いことが示唆された.
著者
高橋 進 中西 輝政 山口 二郎
出版者
岩波書店
雑誌
世界 (ISSN:05824532)
巻号頁・発行日
no.556, pp.p36-59, 1991-07
著者
奥村 隆
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.406-420,478*, 1989-03-31

現在、社会科学に持ち込まれている「生活世界」という概念は、いったいどのような「社会」についての構想を、新しく社会科学にもたらすのであろうか。<BR>この問いに答えるためには、まず、従来必ずしも自覚的に区別されていない「生活世界」概念のさまざまなヴァージョンの相違を吟味しなければならない。本稿では、次の三人、すなわち、日常生活の常識による主観的構成を描いたシュッツ、これを再生産する間主観的コミュニケイション過程を捉えたハバーマス、これらを基礎づける自明性の世界を抉るフッサール、それぞれの「生活世界」概念の内包が検討されていく。<BR>そのうえで、そこから「社会」の構想へと延ばされる射程が吟味しうることになる。シュッツは「社会」が日常的過程に入り込む場面を、ハバーマスは社会システムと「生活世界」の相剋を、それぞれの「生活世界」概念から新たに描き出している。しかし、彼らの構図には、「生活世界」を「社会」に位置づけようとしたための限界があり、「生活世界」という基層から「社会」が形成される相を把握しようとする、フッサールの概念から展開しうる構図ほどの射程を持ちえない。「社会」の原初的な位相を抉り出すこの構図の展開は、困難なものといわざるをえないが、「生活世界」の視座から全く新しく「社会」を捉え直す戦略として、さらなる検討を加えていくべきものである。
著者
満江 亮
出版者
山口大学大学院東アジア研究科
雑誌
東アジア研究 (ISSN:13479415)
巻号頁・発行日
no.10, pp.67-88, 2012-03

若者たちの悩みの多くは、自らの杜会的役割に関するものである。しかし、「私とは誰か」という形而上学的・存在論的問いに悩まされる若者も少なくない。この悩みは人学が学び成長することとも関わっているが、はたしてこのような形而上学的・存在論的な悩みすらも社会的役割の問題として理解されてよいのだろうか。それは、まるで全ての人間の生活が社会という舞台の上で与えられた役柄を演じることのみになりはしまいか。だが、人問は学び続けるとか選択しなおすという活動を通して、獲得した役柄を捨て去り、はっきりとは意識しないまでも、存在の根源的レベルで「私とは誰か」と問い続けながら生活しているはずである。こうした問題を巡って、本稿初盤では、まず人間の存在の根源性に関する廣松渉とジャン-ポール・サルトルそれぞれの哲学的主張をとりあげ、その異同を考察する。これは〈私〉の意識の存在の根源性を巡るものである。筆者は、人格概念に近い社会性を持った人間のあり方が根源的であるとする廣松の主張と、意識の深層に自分をも否定しうる働きをもつ人間の在り方が根源的であるとするサルトルの主張の対立の整理を試み、意識の根源に触れようとする存在論的議論を教育学で行うことの意義を確認する。また、中盤では、サルトルによりながら、現代のある大学生が旅の途中で経験した、人間の意識の深層に関わる自己欺騰の事例を扱う。さらに終盤では、サルトルによる世界の根源的選択に依りながら自分探しの旅の記録を読み取ることによって、ある大学生の世界選択の変遷を辿る。これらの考察によって、人間の意識の根源に半透明的に確認できる根源的否定を見出し、その重要性を明らかにする。こうした議論を踏まえたうえで、最終的に筆者は、人間の存在論的次元、すなわち意識の深層における根源的否定に着目することで、現代の自己形成の問題について新生面が見出せるとする。
著者
小方 直幸 高旗 浩志 小方 朋子 TAKAHATA Hiroshi 小方 朋子 OGATA Tomoko
出版者
名古屋大学高等研究教育センター
雑誌
名古屋高等教育研究 (ISSN:13482459)
巻号頁・発行日
no.18, pp.135-153, 2018-03

わが国の大学教育をめぐっては、3つのポリシーの整備や学位プログラム化の推進など、組織ベースから学修ベースへの制度転換が目指され、教員組織と学生の所属組織の関係についても、柔軟な形態の採用が指向されている。こうした改革をめぐる言説や動向を、実りある実践的なものとするには、個別の教育プログラムレベルにまで降りて、実証的な研究を行う必要がある。それぞれの教育プログラムがおかれた文脈が異なるからである。本稿はその一つの試みとして、教員養成に着目する。具体的には、複数教科指導という独自性を持つ小学校教員養成を取り上げ、現行の養成教育や教員研修システムが持つ「得意教科主義」を、高等教育論の視点から批判的に考察することを目的としている。教免法やカリキュラム構造が果たす顕在的養成機能よりも、大学の学科やコースという基本的な組織構造がもたらす潜在的養成機能に着目した分析から、教科のゼミに所属しその教科に関連した中高免許を取得するという現行の仕組みは、就業後の得意教科の発揮に貢献する一方で、複数教科に跨がる指導力や教科と教科を繋ぐ指導力の育成には寄与していないことを明らかにした。This study critically examined elementary schoolteachers' present training systems in college and after employment, oriented toward constructing "favorite subject of instruction," especially focusing on elementary schoolteachers' uniqueness in that they instruct plural subjects. The National Elementary Schoolteacher Survey, conducted to serve this object, sheds light on the present situation in which undergraduate students belong to a specific subject-related seminar and obtain a certificate for teaching secondary school in addition to that for elementary school. This contributes to demonstration of "favorite subject of instruction" after employment, but does not cultivate competence in course instruction straddling plural subjects or interrelating different subjects. Furthermore, post-employment training systems are not structured to build such competencies. Survey results offer a third method for training elementary schoolteachers in circumstances of a request to facilitate linkage between kindergarten and elementary school, elementary school and secondary school, or for competence in deep subject instruction.
著者
田中 牧郎 山元 啓史
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.16-31, 2014-01-01

『今昔物語集』と『宇治拾遺物語』の同文説話6話に対して、形態素解析を施し、パラレルコーパスを作成して、『今昔物語集』から『宇治拾遺物語』、『宇治拾遺物語』から『今昔物語集』の双方向で語の対応付けを行った。相互に対応付けられたデータから、異なる語が対応する比率の高い語彙を抽出することで、硬い文体的価値を持つ語彙と、軟らかい文体的価値を持つ語彙とが特定された。抽出された双方の語彙について、同文説話全体(83話)の語の対応状況を分析したところ、同語が対応するか異語が対応するかの違いが、語の意味・用法によって決まる傾向があることや、その傾向が、文体的価値の硬軟の段階差に応じて層をなすように変わっていくことが解明できた。また、異語対応の場合に、他方の説話集で対応する語が特定の語に定まる場合があり、これは文体的な対立関係にある類義語と考えられた。
著者
渋谷 勝己
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.32-46, 2005-07-01

本稿では、日本語の可能形式の文法化のありかたについて、他の言語の場合も参照しつつ、その特徴を総合的に整理することを目的とする。分析によって、以下の点を明らかにする。(a)可能形式の起源となった形式には、完遂形式と自発形式がある。いずれも他の言語と共通するが、自発形式の種類が多様である点に日本語の特徴がある(第3節)。(b)日本語可能表現の内部では、状況可能>能力可能>心情可能といった変化の方向が観察され、通言語的に指摘されている能力>状況といった方向とは異なっている(第4節)。(c)日本語の可能形式は、さらに、行為指示形式や生起可能性を表すモダリティ形式に変化する場合があるが、前者はおもに禁止表現に、後者はわずかな形式に観察されるだけである(第5節)。まとめれば、日本語の可能形式の文法化は、可能形式以外の表現領域から可能形式化し、可能表現内部でさらに意味変化を起こすことはよくあるが、ときに禁止表現化する以外には可能形式の段階にとどまったまま、次の新たな可能形式に道を譲るといったケースが多い。