著者
嶋本 習介 石川 忠
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.84-106, 2023-06-25 (Released:2023-06-28)
参考文献数
85

小笠原諸島のカメムシ(カメムシ目カメムシ亜目)に関しては,近年になっても相次ぐ新種の発表によって記録種数は増加しているにもかかわらず,2000年以降では昆虫目録が出版されるたびに掲載種数が減少するという齟齬が生じている.これは,各昆虫目録で種を記録した文献の見落としがあったり,種名が未定の種に対する掲載基準が異なったりすることに起因していると考えられ,結果的に種数を巡る現状は混乱していると言える.そこで,これまでに出版された文献を網羅的に精査および整理するとともに,近年追加された種の情報を盛り込んだ小笠原諸島産カメムシ亜目目録を作成した.本目録では25科87種を認めた.このうち25種が固有種であることから,昆虫のなかでは高い固有種率であることがカメムシ相の特徴と言える.15島からカメムシが記録されており,そのうち父島と母島(有人島)はそれぞれ69種と59種であったが,その他の島(無人島)は26種以下であった.グリーンアノール等の侵略的外来生物による生態系への負の影響が続くなか,小笠原諸島における種多様性の解明と保全のために網羅的な野外調査が引き続き必要である.
著者
川口 悠子 西川 可奈子 齋藤 佑樹 友利 幸之介
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.309-318, 2023-06-15 (Released:2023-06-15)
参考文献数
41

作業選択意思決定支援ソフト(以下,ADOC)に関する既存の研究や実践報告をマッピングし,今後必要な研究領域の特定を目的に,スコーピングレビューを行った.4つの文献データベースと2学会の抄録集からADOCに関する報告を検索し,最終的に178編(論文49編,学会129編)を特定した.詳細は,量的研究38編(論文19編,学会19編),事例報告140編(論文30編,学会110編)であった.これらの研究および事例報告にて,ADOCの適用範囲が多岐にわたることが示唆された.一方,今後異文化妥当性ならびに介入研究の拡充,そして事例報告(特に脊椎・脊髄疾患,悪性腫瘍,認知症)の論文化の必要性が明らかとなった.
著者
森本岩 太郎
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.97, no.2, pp.169-187, 1989 (Released:2008-02-26)
参考文献数
12
被引用文献数
2

早稲田大学古代エジプト調査隊の一員として,1983年から1986年までの3回にわたる野外調査において,エジプト•ルクソール市西岸クルナ村にあるいわゆる「貴族の墓」317号および178号両墓から発見された古代エジプト男性ミイラ18体(成人15•小児3)の外陰部を観察した。これらのミイラは新王国第18王朝時代からプトレマイオス朝時代まで,すなわち約1550~30B.C.のものであり,墓泥棒によってひそかに両墓に運び込まれ,身にまとう金銀宝飾を目当てに包帯を解かれ,ばらばらに解体されたものと思われる。18体のミイラのうち,成人3体の外陰部は布で包まれており観察できなかった。外陰部の包み方は,陰茎を他から独立させて布で覆う方法がとられていた。また成人1体の陰茎は墓泥棒により破壊されていた。外陰部を観察できた14体のうち,成人11体中3体(26.3%),小児3体中2体(66.7%)の外陰部が自然の状態に保存されていた。LECA (1980)によれば古代エジプトミイラの外陰部は保存するのが通例であるというから,今回の調査で得られた保存率は異常に低いものであると言える。小児の亀頭包皮の有無は確認できなかったが,成人3体では全例に包皮が存在しなかった。HERODOTUS(紀元前5世紀)の記載や,サソカラのアンク7ホール墓の壁画などに見られるように,エジプトではそのころ思春期の男子に広く割礼が行われたと思われる。成人5体では陰茎が切り取られていた。1体は完全切除,他の4体は部分的切除であった。成人3体と小児1体では陰茎が長く引き伸ばされていた。そのうちの2体(成人1•小児1)では陰嚢を引き伸ばして作った棒状の台の上に陰茎を乗せて支え,他の成人1体では陰嚢を圧延して作った薄板により陰茎を包んでいた.また成人1体では陰茎•陰嚢をかたどった小さな模型(樹脂製•金塗色)が外陰部の直下に置かれていた。ミイラ作りにおける陰茎切除の理由ないし起源について,LECA はどのような思案も浮かばないという。しかし,拙考によれば,ミイラ作りの際における上記の陰茎切除•陰嚢変形•外陰部模型使用などの男性外陰部に対する特別の配慮と処置は,古代エジプト神話において女神イシスが彼女の夫である男神オシリスの身体の復元を志した時,ナイル川に捨てられて蟹に食われてしまった夫の外陰部だけが発見できなかったこと,また夫の外陰部の代わりにその模型を用いて夫の身体の完全復元に成功し,ついにオシリスが永遠の生命を得た(ミイラ作りの起源と言えよう)という物語りに起因するものと思われる。
著者
齋藤 とも子 豊嶋 浩之 久保田 倍生 森 浩一 徳永 紗織 岩下 智之 安部 睦美
出版者
松江市立病院
雑誌
松江市立病院医学雑誌 (ISSN:13430866)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.89-93, 2008 (Released:2019-08-05)
参考文献数
13

家庭でも汎用される防水スプレーは、直接吸入、さらには熱分解産物で毒性を増した成分の吸入により肺障害が引き起こされる。今回我々は、40+X 歳の男性が締め切った室内で防水スプレーを使用したところ呼吸困難を自覚し、約48 時間後に呼吸苦、咳嗽の悪化を認め防水スプレー吸入による化学性肺炎と診断した症例を経験した。その病態生理としては、撥水剤として用いられているフッ素樹脂により肺の表面活性物質が拮抗されて肺胞虚脱を生じ、一部が肺炎に移行する可能性が示唆されている。今回我々は暴露後数日たってから化学性肺炎を発症し、ステロイド、好中球エラスターゼ選択的阻害薬の投与、BiPAP(bi-level positive airway pressure)による呼吸管理を行うことで症状改善を得ることができた症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。初発症状が軽微でも呼吸器症状の経過を詳細に観察することが重要であると考える。
著者
浜崎 智仁 奥山 治美 大櫛 陽一
出版者
日本脂質栄養学会
雑誌
脂質栄養学 (ISSN:13434594)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.77-87, 2012 (Released:2012-04-29)
参考文献数
27
被引用文献数
1 1

ファルマシアの2011年6月号に上島弘嗣氏の話題1)が掲載されており、我々の「コレステロールは高いほうが長生きする」の理論の“誤り”について解説している(引用符号は筆者らによる).小論では、上島氏の指摘に関し、その問題点を取り上げ,反論する.なお、小論は本来2011年に発表すべく努力してきたが、ファルマシアが掲載を認めなかったため、発表が遅れた。
著者
木島 泰三
出版者
法政大学文学部
雑誌
法政大学文学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Letters, Hosei University (ISSN:04412486)
巻号頁・発行日
vol.84, pp.43-60, 2022-03-10

In previous studies, we have shown that for Spinoza, mental representation through ideas is subsidiary to divine self-predication, which is found in every divine attribute. This leads us to reconsider the status of the attribute of thought. This is the aim of this study.In the first section, we consider an internal problem of Spinoza’s theory of “infinitely many attributes.” This problem originates from Spinoza’s account, according to which the attribute of thought contains every idea of every object belonging to every other attribute. This account seems to suggest that the attribute of thought would be as enormous as the totality of every other attribute; however, such asymmetry seems inconsistent with the nature of attributes, which should express the same divine essence equally. Our construal of Spinoza’s theory of ideas solves this problem primarily because we take Spinozistic ideas for mere external signs essentially dependent on divine self-predication within every attribute, including the attribute of extension.This conclusion indicates a possibility that Spinoza’s basic worldview would be purely materialistic and his non-materialistic theory of “infinitely many attributes” would be a non-essential addition to his true system. In the second section, we evaluate this possibility by using an external-contextual approach instead of an internal-textual one and find two plausible motivations behind Spinoza’s invoking the “infinitely many attributes” theory. One is his strategic choice for refuting the Cartesian argument of substantial-dualism from “real distinction” of thought and extension. The other is his demand for a correspondence theory of truth in some adequate form, which, however, we consider to be inessential for his true system.

18 0 0 0 OA 幕末の宮廷

著者
下橋敬長 述
出版者
図書寮
巻号頁・発行日
1922
著者
塚本 浩司
出版者
日本物理教育学会
雑誌
物理教育 (ISSN:03856992)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.291-296, 2007-12-14 (Released:2017-02-10)
参考文献数
8

マグカップでインスタントコーヒーを溶かしてかき混ぜるときに,ティースプーンとマグカップがぶつかり,音が生じる。この音は,インスタントコーヒーが完全に溶解するまでの間,音程が「くぐもった低い音」から徐々に甲高い音に変化する。周波数特性を行ってこの現象の原因を解明し,その過程を教材化した。この教材は,音波・音響や振動に入門する教材にもなりうるが,それ以上に,科学研究の手法を学び,物理学を身近に感じるために最適の教材となりうる。

18 0 0 0 OA 東京府統計書

出版者
東京府
巻号頁・発行日
vol.明治32年, 1912

18 0 0 0 OA 東京府統計書

出版者
東京府
巻号頁・発行日
vol.明治35年, 1912

18 0 0 0 OA 東京府統計書

出版者
東京府
巻号頁・発行日
vol.明治34年, 1912
著者
金居 督之 井澤 和大 久保 宏紀 野添 匡史 間瀬 教史 島田 真一
出版者
日本運動疫学会
雑誌
運動疫学研究 (ISSN:13475827)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.91-103, 2019-09-30 (Released:2019-12-21)
参考文献数
73

本稿では,先ず海外の脳卒中患者における身体活動量研究の動向を病期別に紹介した。次に,我が国における身体活動量研究について現状と今後の課題について概説した。 脳卒中を発症しやすい集団は,発症前から不活動になりやすい。また,発症後のあらゆる病期においても同様に不活動に陥りやすい。更に,身体活動量や活動強度の目標値が示されているものの,脳卒中患者の多くはこれらを満たしていない。これらの対策として,身体活動促進や座位行動減少に焦点を当てたさまざまな介入研究が実施されている。主な介入方策としては,セルフ・モニタリングの指導,目標設定,言語的説得・奨励などの行動変容技法が用いられている。また,近年では,ウェアラブル端末等を利用した遠隔指導も注目されている。 我が国における脳卒中患者の身体活動量研究は,増加傾向にある。しかし,介入研究や長期的なフォローアップに関する研究は極めて少ない。したがって,今後は,脳卒中治療ガイドラインにおいても身体活動の重要性が提示されるべく,より質の高い介入研究が待たれる。
著者
田浦 太志
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本年度は昨年度に引き続き、アグロバクテリウム法による大麻への遺伝子導入システムの確立を検討した。まず大麻成分生合成酵素であるTHCA synthase及びOLA synthaseのセンス及びアンチセンス遺伝子を有するアグロバクテリウムを大麻幼植物および培養細胞に感染させ、各種ホルモン添加によりカルスあるいは不定胚の形成を検討した。この結果、不定胚は得られなかったものの組み換えカルスを安定的に得る方法を確立した。しかしながら得られた組み換えカルスの成長速度が極めて遅く、多くがサブカルチャー中に枯死したため組み換え体を植物体として得るには至らなかった。そこで新たな方法として、細胞培養を必要としない形質転換法として近年注目を集めているFloral Dip法について検討を行った。材料として本学薬用植物園で栽培した開花時期の大麻雌株を用い、その地上部を上記アグロバクテリウムの培養液に数秒間浸すことにより感染させ、次いで、グロースチャンバー中で短日処理を行うことにより種子の成熟を検討した。しかしながら、アグロバクテリウム処理した植物体はダメージが大きく、種子を成熟させるに至らないことが判明した。Floral Dip法を行う際に、植物体をSilwet L-77などの薬剤で処理することで損傷を免れた例が報告されていることから、現在それらを含め、Floral Dip法の各種条件検討を行っており、今後、遺伝子導入を確認した種子について植物の栽培を行い、植物形態やカンナビノイド含量の変化について検討する計画である。本研究は遺伝子工学による組み換え大麻の作出とカンナビノイド含量のコントロールを目的としたが、本年度までにこれを達成するには至らなかった。しかしながら、本研究では細胞レベルで大麻を形質転換する方法の確立に成功しており、これは組み換え大麻作出に向けた重要な成果であると考えられる。