著者
熊野 智之
出版者
神戸市立工業高等専門学校
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、製鉄プロセス等で排出される熱ふく射から電力を得る波長変換/発電モジュールの開発を目的とし、波長変換ふく射輸送を担う希土類酸化物膜エミッターについて構造の最適化を検討した。具体的には、アルミナ表面に石灰釉をベースとするEr酸化物膜をコーティングし、膜の組成と1000℃における近赤外放射率との関係を調べた。その結果、Er2O3の割合が50wt%の場合にバルクの石灰釉中に含まれるEr量が最大となり、Erの放射ピークである1.55μmにおける放射率が最大となることが明らかとなった。また、希土類元素をYbに変更した場合には、反応生成物の違いから最適な組成条件が異なることが示唆された。
著者
小川 久雄
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

最近、不安定狭心症患者の末梢血中のリンパ球や単球が活性化していることが報告された。冠攣縮は不安定狭心症および急性心筋梗塞などのような虚血性心疾患の病態において重要な意義をもつ。一方、nitric oxideは冠攣縮において重要な役割を果たす。以前に、我々は冠攣縮性狭心症患者の冠動脈においてnitric oxideの欠乏があることを報告した。また、nitric oxideは免疫応答に影響をおよぼすことが報告されている。本研究では、Th1 cellが産生するinterferon-gammaとTh2 cellが産生するinterleukin-4といった細胞内サイトカインを測定することで虚血性心疾患患者の循環血液中のT helper cellのTh1 cellとTh2 cellへの活性化について検討した。50人の冠攣縮性狭心症患者、23人の不安定狭心症患者、36人の安定狭心症患者、21人の対照患者から採血を行った。その血液をphorbol myristate acetateとionomycinを用いて活性化させた。そしてフローサイトメーターを用いて患者の血液中のT細胞のinterferon-gammaの産生とinterleukin-4の産生を検討した。冠攣縮性狭心症と不安定狭心症の患者のT細胞では対照者に比べinterleukin-4の産生亢進はなくinterferon-gammaの産生亢進状態が認められた。すなわち、これらの患者ではT細胞のTh1 cellへの活性化があることが明らかとなった。また、安定狭心症患者のT細胞では冠動脈病変の多少によるinterferon-gamma産生の差は認めなかった。最近、nitric oxideがTh1・Th2のサイトカイン産生に関与することが報告された。そこで患者血液をnitric oxideとともに培養してみたが、T細胞のinterferon-gammaの産生はnitric oxideにより抑制されることが分かった。これらにより冠攣縮性狭心症および不安定狭心症の患者においてT細胞のTh1 cellへの活性化があることおよびTh1 cellへの活性化はnitric oxideの作用にて減じることが証明された(Circulation 2003 in press)。
著者
額田 彰
出版者
東京工業大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2010

NVIDIA社製のCUDA対応GPU向けの自動チューニングFFTライブラリであるNukadaFFTライブラリを開発した.その性能は多くの場合にNVIDIA社のCUFFTライブラリを上回る.また複数GPU版についても複数GPUを搭載するシングルノードと複数ノード版を実装し,さらなる速度向上を達成した.
著者
黒羽 雅子
出版者
山梨県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究は、米国と日本の産業革命期における金融機関行動を象徴する「インサイダー・レンディング」と「機関銀行論」に係る既存研究の論点整理・再検証をするとともに、それぞれの地域の金融機関行動の特質や類似点を析出する比較史的試みである。対象とした主な地域は、米国ニュー・イングランド地域と日本の山梨県である。これに加えて、独特の州法銀行制度の発展を見た米国ネブラスカ州についても、その経済的な発展における銀行等金融機関の役割と州法銀行制度の変遷を中心に分析を加えた。とくに、海外調査により膨大な一次資料の収集が実現したので、所蔵元との調整をしつつ、徐々に公開を進めているところである。
著者
本間 禎一
出版者
千葉工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本申請者(本間)が先に行なった「極高真空用材料の高度化に関する開発研究」の成果として、新しい表面改質法である、ステンレス鋼の表面に六方晶-BNを配向析出させる処理法は、表面からのガス放出率の低減をもたらすだけではなく、放出されるガス分圧の制御にもとづく“真空の室"の制御をも可能にし、ベ-キングの不要な表面の実現を可能にする。そこで本研究では、この表面の吸着不活性特性を利用するとともに、内部からの溶解気体原子(水素など)の拡散、放出へのバリヤ-ともなるBN層の最適析出条件を見出すことを目的として、研究を行なった。とくに、表面析出プロセスを、超平滑表面の平滑度および加工変質層の評価・制御と結びつけて解析する点に学術的特色がある。つぎの成果が得られた。1.BN析出のような表面付加加工において、加工変質層形成の影響を解明する目的で、各種の表面平滑加工(バフ研磨(BP)、電解研磨(EP)、電解複合研磨(ECB)、フロート・ポリッシュ(EP)を施したステンレス鋼(含B,N)の各加工面表層に生じる金属組織的変質の解析を電子チヤンネリングパターン法などで行なった。加工変質層の導入が少ない表面(EP,FP)に、強く配向したBNが析出することが明らかにされた。2.六方晶-BNの底面が表面に強く配向して析出した表面(EP,FP)は、昇温脱離法によるガス(H_2Oなど)の吸着・脱離特性の評価からガス吸着が極めて少ないことが示された。3.新しい真空用構造材料として注目されているチタンについても、H_2Oのガス放出特性が加工変質層と強く相関していることが明らかにされた。
著者
本間 禎一 本保 元次郎
出版者
千葉工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

配向組織をもつ結晶性金属材料の3次元配向情報を、高い空間分解能(目標≦1mm)で非破壊的に求める解析・評価法を開発するための基礎研究が行なわれ、つぎの成果を得た。1. 3次元結晶配向X線トポグラフ測定装置の開発先端材料の一つである一方向凝固共晶合金を対象として、その凝固組織の非破壊測定法を開発するために、金属単結晶の凝固一次組織の評価に応用された長隙ラウエ法による3次元結晶配向X線トポグラフ測定装置を改良して、新しい機能をもつ測定システムを試作した。長隙スリット[(1段)長さ200mm,幅10mm,厚さ5mm,(2段)長さ100mm,幅1mm,厚さ5mm]により近似的に平行に絞られた長隙白色X線平板ビームを試料に照射して、得られる回折像を写真フィルムに記録した。透過に加え反射像も得られた。2. 結晶配向組織情報の非破壊収集凝固速度を制御した条件(100,300,500mm/min)下で、大野式 Strip Casting(OSC)法で作成した、凝固組織の制御された板状アルミニウムを試料として用いた。凝固速度が遅い(100mm/min),強く配向した試料からは、凝固方向に平行にのびたラウエ線条が明瞭に観察され、凝固速度の増大に伴い、配向性の低下に対応する像の変化が観察された。これは、内部の金属組織情報(破壊法による)と一致する結果であった。
著者
本間 禎一 藤田 大介
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1986

1.アルミニウムの表層構造--放射光による圧力上昇が見出された加速器真空系の主要構造材料であるアルミニウム合金について表層構造の調査を行い以下の結果を得た. (1)電解研摩を施したアルミニウム合金(含マグネシウム合金)の表面に形成する初期酸化層は非晶質の水和酸化物であり, 真空中加熱で脱水して欠陥を含む非晶質構造となる. その構造はγ-AL_2O_3またはそれにほぼ相当するものでることが電子線回折による既約動径分布関数解析から推定された. (2)加熱に伴い, Mgはこの非晶質酸化層中の不整合領域を介して短回路拡散機構などにより輸送され, MgO外層の形成をもたらす. (3)MgOの外層形成はベーキング温度相当の150°Cにおいても進行する.2.ガス放出における表層構造の影響--表面からの気体放出特性およびベーク・アウト効果に及ぼす表層構造の影響を明らかにする目的で昇温脱離実験を行い以下の結果を得た. (1)電解研摩を施した表面は, 加熱に伴って, 100°Cを超えると表層の熱分解によると思われる急激なガス放出現象がすべての気体種(H_2O, H_2, CO, CO_2)で見られる. (2)AL-2.3%Mg合金の酸化表面は, 大気露出に際してCOガスを除く他の気体種(H_2O, H_2, CO_2の化学吸着が見られる. (3)ガス放出特性と表層構造との間に相関が見られた. 3.光照射に伴うガス放出と表層構造の役割--光照射に伴うガス放出の機構と表層構造の影響を明らかにする目的で, 表層構造の異なるアルミニウム材料について光照射実験を行い以下の結果を得た. (1)陽極酸化, 電解研摩, 高温酸化(500°C, 10Torr, 純酸素中1h)をそれぞれ施した表面に, 高エネルギ物理学研究所の放射光を照射して放出ガス量を測定した. 光子数で規格化した脱離係数値は, 陽極酸化>電解研摩>高温酸化であった. (2)光照射に伴うガス放出が表層の構造と化学的性質(水和度)の影響を受けることを実験的に見出した.
著者
本間 禎一 木原 諄二 小林 正典 岡野 達雄 藤田 大介
出版者
東京大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1988

極高真空発生のための技術開発の基礎研究として進められた。到達真空度はポンプの性能と材料のガス放出によって決まるが、本研究ではポンプの具体的内容には言及せず、ポンプ構成材を含めた材料のガス放出の機構・評価・制御について扱っている。特にガス放出の定量とメカニズムの解明のために2種類の手法(昇温脱離TDS法とスル-プット法)を用い、またガス放出低減化のための手法も検討して以下の成果を得た。1.ガス放出機構を調べるためのTDS法の手法・装置試作・開発ガス放出機構を基礎的に調べる目的でTDS法を採用した。放出機構評価のためのパラメ-タ-である吸着分子の脱離の活性化エネルギ-、脱離の反応機構、拡散放出の場合の拡散係数などの信頼できる情報を得るために歪のないスペクトルを測定する最適条件、加熱方式を検討した。この考察に基づき、更に表面評価機能(低速電子線回折/オ-ジエ電子分光・光学系)を加えたTDS測定装置を試作した。2.ガス放出量評価のためのスル-プット法測定装置試作と測定スル-プット法に基づくガス放出速度測定装置を試作し、それを用いて各種表面処理(電解複合研磨、バフ研磨、TiN被覆)を施したステンレス剛製真空容器から放出されるガス放出速度を測定した。表面平滑化効果とそのベ-キング後の消失、電解複合研磨処理試料の大気暴露後の分圧(H_2O、H_2、CO、CO_2)測定による新しい知見、温度変動に追随する脱離挙動などの機構解明にもつながる情報・知見が得られた。3.表面改質ガス放出特性を向上させるための表面及び表層の改質方法について考察し、表面析出法(BNおよびグラファイト状炭素)によって低ガス放出材料が得られる可能性があることを示した。
著者
品川 森一 久保 正法 山田 明夫 古岡 秀文 中川 迪夫 堀内 基広
出版者
帯広畜産大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

本研究では、従来から行われているウエスタンブロット(WB)法の試料調整法の改良を行った。その結果、マウスモデルでは、腹腔内接種1週目から脾臓にプリオン蛋白が検出できるようになった。多数検体を検査するためには、より簡便なプリオン検出法が必要であり、マウスモデルを用いてELISA法を開発した。検出感度はウエスタンブロット法のおよそ2倍であった。中枢神経系組織からの試料調整を簡便化し、実際に羊材料に応用可能なことを確かめた上で、この方法の有用性を北海道のと蓄場から分与を受けた羊材料を用いて検証した。また、さらに検出感度を高めるために、ELISAの検出系に光化学反応試薬を導入したところ、およそ20倍ほど検出感度が上昇した。まさらに、コラーゲン中のプリオン検出のための試料調整法も検討し、前処理法としてコラーゲンの粘性を低下させ、大容量から比較的選択的にプリオン蛋白を濃縮することが可能となり、プリオン汚染の検出法に目処がついた。一方、プリオン病は宿主のプリオン蛋白の遺伝子に多型があり、その型によって感受性が異なる。国内の羊プリオン遺伝子型の出現頻度とスクレイピ-との関連を検討した。またプリオンの蓄積は主として中枢神経系であり、少量であるが細網内皮系の組織にも起きる。診断に有用な組織採取部位を決定するためにも、詳細なプリオン蛋白発現の違いを明かにする必要があり、羊体内のプリオン蛋白発現を調べた。さらに伝達性海綿状脳症のプリオン以外の危険因子の検討を人海綿状脳症に倣い、アポ蛋白Eを標的として検討した。
著者
小野寺 節 松本 芳嗣 佐伯 圭一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

伝達性海綿状脳症(Transmissible spongiform Encephalopathy, TSE)は、病原体が明らかになる前は様々な名前で呼ばれていた。現在それらの病気は様々な動物およびヒトに観察される。しかし共通の発病機構(プリオンの増殖)によって起こると考えられている為にTSE、あるいはプリオン病と共通の概念で呼ばれている。この病気は、羊では1759年に報告され、スクレイピーと呼ばれていた。この病気はヒトには伝達性が無いと考えられる。自然における病原体感染は、羊・山羊(スクレイピー)、鹿、大鹿(慢性消耗性疾患、chronic wasting disease, CWD)と考えられている。羊はスクレイピー病原体を、胎盤感染、あるいは病原体で汚染されたワクチンにより、他の羊・山羊に感染させたと考えられている。また、内臓を飼料として用いることにより、ミンクや牛に伝達したのが最大の可能性として、伝達性ミンク脳症状(TME)、ウシ海綿状脳症(BSE)が発生したと考えられている白オリックスのプリオン遺伝子を、プリオン遺伝子欠損マウスに導入する事により、オリックス型プリオン遺伝子マウスを作製した。このマウスは、プリオン遺伝子を、脳、心筋、骨格筋に発現しているのが、ウエスタン・ブロッティングにより明らかにされた。スクレイピー病原体は、トランスジェニックマウス脳内で増殖する事が確認されたが、心筋、骨格筋での増殖は確認されなかった。一方、このオリックス型プリオン遺伝子マウスは、老齢において、拡張性心筋症および、骨格筋の硝子様変性を示した。したがって、これらのマウスは、病原体を感染させなくとも、心疾患のモデル動物と考えられた。現在、プリオン遺伝子欠損細胞株に、ウシ、ハムスタープリオン遺伝子を導入して、病原体高感度検出系を確立しようとしている。
著者
小野寺 節 松本 芳嗣 佐伯 圭一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

プリオン病は異常プリオン蛋白(PrPsc)が因子となり、経口的に感染するが、その取込みおよび動態は多くが不明である。腸での微量な取込みの検出が困難で、感染性研究の為にウシを用いた大型施設を要する研究は進んでいない。したがって、マウスモデルにおいて、蛋白分解酵素に抵抗性のβアミロイド蛋白と蛍光蛋白との融合蛋白(Aβ-EGFP)を作製して、体内動態を解析した。同時に、別のマウスに筑波1株をマウスに経口投与して、PrPscの動態を免疫組織化学的に検索した。Aβ-EGFPはβシート構造が45.89%と非常に豊富であった。Aβ-EGFPは乳飲み期に吸収円柱上皮細胞と一部M細胞から取り込まれた。しかし、離乳するにつれて、絨毛からの取込みは、徐々に減少した。また乳清存在下でより取込まれ、母乳内の移行抗体等に紛れて取込まれた可能性が考えられた。PrPscの経口投与後の免疫組織学的においても、PrPscは乳飲み期に吸収円柱上皮細胞より取込まれるのが観察された。したがって、プリオン病の伝達は、パイエル板が未発達な離乳時期では、腸陰窩部での蓄積後に末梢神経に伝達する可能性が示唆された。これらの研究に併せて、Aβ-EGFPを投与したウシの腸管における動態、スクレイピー感染マウス脳におけるアポトーシス、活性酸素産生関連蛋白の動態についても研究を行った。
著者
見上 彪 喜田 宏 生田 和良 小沼 操 速水 正憲 長谷川 篤彦
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1992

本研究目的は、各種動物由来レンチウイルスを分子生物学的観点から総合的に比較研究することにより、レンチウイルスに共通に見られる遺伝特性を明らかにするとともに、その生体内での病原性の発現メカニズムを分子レベルで探ることにある。代表としてネコ免疫不全ウイルス(FIV)についての研究成果を報告する。1.日本,オーストラリアおよび米国で分離されたFIVのLTRの塩基配列を比較したところ,日本の各分離株は遺伝子レベルで米国やオーストラリア各分離株から離れた位置にあり、系統学的に異なるものと考えられた。2.組換えキメラウイルスを用いてFIV株間の生物学的性状の相違を解析したところ、LTRのプロモーター活性には有意な差は認められなかったものの,CRFK細胞への感染性やMYA-1細胞での巨細胞形成能はenvおよびrev領域が決定し,ウイルス増殖の速さや細胞障害性の強さはgag,pol,vif,ORF-Aの領域が関与しているものと考えられた。3.FIVのORF-A遺伝子に変異を導入した変異株を用いてその機能を解析したところ、ORF-1遺伝子はウイルスの効率的な増殖を促進していると考えられた。4.CRFK細胞にネコCD4を発現させた後、CRFK細胞にたいして非親和性のFIV TM1株を接種してもウイルスは増殖せず、さらに可溶化CD4とFlVenvは結合しないことから、ネコCD4は、FIVのレセプターとして機能していない可能性が示唆された。
著者
辻本 元 阪口 雅弘 増田 健一 大野 耕一 平原 一樹 佐々木 伸雄 白石 明郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究においては、DNAワクチンによるアレルギー性疾患の根治的治療法を確立するため、アレルギー性疾患の自然発症犬および実験的感作犬を用いて、in vitroにおけるアレルギー反応の基礎的解析、さらにそれを応用してin vivoにおける臨床有効性の検討を行なった。最初に、スギ花粉抗原に感作されたアトピー性皮膚炎のイヌを対象としてスギ花粉抗原に対するアレルギー反応を解析した。すなわち、スギ花粉主要抗原のひとつであるCry j 1に感作された症例が多いことを明らかとし、それら症例においてはCry j 1に対するIgE産生がスギ花粉飛散時期と一致していることを解明した。さらに、これら症例においてCry j 1のオーバーラッピングペプチドを用いてT細胞エピトーブ部分を同定した。また、Cry j 1DNAワクチンの治療試験を4頭の症例を用いて実施し、治療群においてはいずれの症例もアトピー性皮層炎症状の改善とともに、スギ花粉粗抗原を用いた皮内反応の陰性化およびスギ花粉に対する末梢血リンパ球の芽球化反応の低下を認めた。一方、スギ花粉を実験的に感作した犬において、スギ花粉抗原気道内曝露によってスギ花粉特異的な気道過敏性を誘導することが可能であった。これを用いてCry j 1DNAワクチンによる治療試験を行なったところ、治療群においては、IgE値やリンパ球の芽球化反応においては顕著な変化は認められなかったが、スギ花粉抗原に対するin vivo反応性においては皮内反応の陽性閾値の上昇、気道過敏性反応の閾値の上昇が認められた。さらに、肺の組織においても、対照群と比較して肥満細胞の数が有意に低下していた。以上のことから、DNAワクチンはアレルギー性疾患の臨床症状をコントロールすることができる根治的治療法であることがわかった。
著者
阪口 雅弘 増田 健一 蔵田 圭吾 辻元 元 五十君 静信
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

犬においてアレルギー疾患が多く報告されている。その中でもスギ花粉症の犬はアレルギー全体の10%程度を占め、ダニアレルギーに次いで重要なアレルギー疾患である。アレルギー治療研究の分野において乳酸菌が注目され、乳酸菌におけるTh1誘導能およびIgE産生抑制効果が示されている。本研究においてスギ花粉症に対する抗原特異的な免疫療法として、安価に製造可能なスギ花粉アレルゲン遺伝子組換え乳酸菌を用いたワクチンを開発することを目的としている。ベクターとして、乳酸菌:Lactobacillus casei(ATCC393)を用いた。L.. caseiにおける発現に成功しているLLOとの融合タンパクとして発現されるようにデザインしたプラスミドベクターを作製し、ム.oε5θグに導入した。本研究では、 N末端から158-329番目のアミノ酸を含むスギ花粉アレルゲンであるCry j 1(Cry j 1_<158-329>;約20 kDa)を用いた。このCry j 1はヒトおよびBALB/cマウスのCD4+T細胞が認識するT細胞エピトープを含んでいる。 LLOは、Listeria monocytonegesの菌体由来タンパクであり、LLO白体にマウスの脾臓細胞からTh1サイトカインを誘導することが明らかとなっている。 LLOは溶血毒性を有するため、本研究では、溶血毒性をもたらすドメインを欠損させた変異LLOを用いた。抗LLO抗体を用いたウェスタンブロット法では、 Cry j 1_<158-329>-LLO導入株で約60kDaのバンドを、LLO導入株では約40kDaのバンドを検出した。この分子量の違いはCry j 1_<158-329>(20kDa)の分子量と一致することから、導入したCry j 1_<158-329>は発現していると予想される。また、LLOからCry j 1_<158-329>にわたるシークエンスを増幅するようにデザインされたプライマーペアを用いたRT-PCRによって、Cry j 1_<158-329>mRNAの発現も確認した。これらの結果は、この組換えL.. caseiにおけるCry j 1_<158-329>の発現を示している。このリコンビナント乳酸菌によるIL-12P70誘導能をBALB/cマウスの脾臓細胞で検討した結果、 LLOの発現によってIL-12の産生が増強されることが明らかになった。
著者
中村 裕之 人見 嘉哲 神林 康弘 日比野 由利
出版者
金沢大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

リポソームカプセルのリン脂質2重層にNKT細胞活性化物質「α-GalCer」を挿入し、スギ花粉T細胞エピトープを封入し、CTLエピトープを表面に結合することによってリポソームワクチンを構築した。インフルエンザウイルス感染およびスギ花粉症モデルマウスを対象に、リポソームワクチンを6日間、予防的に投与し、IFV抗体価を指標として検討した結果、新しいインフルエンザウイルスワクチンの有効性が証明された。
著者
益淵 正典 山下 優毅 田中 俊憲 林 鷹治 重田 征子 小埜 和久 佐々木 美枝子 新見 治
出版者
広島文教女子大学短期大学部
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

『ホヤ喘息』や『ダニアレルギー』の治療用抗原に関して蓄積してきた知見を基にスギ花粉症治療薬の研究を行った。まず、スギ花粉蛋白質の抽出法の検討を行った。NaHCO_3抽出(CJP-N)ではF画分にCryj1、J画分にCryj2の溶出がみられ、Crij1とCryj2の精製に適していたがPBS抽出(CJP-P)ではよりアルカリ性の弱い画分に様々にアルカリ性度の異なるCryj1,Cryj2、その分解物及び主要抗原以外の抗原の溶出がみられた。次にスギ花粉中のCryj1,Cryj2以外の抗原の存在と、アレルゲンとしての寄与を検討した。CJP-PのSDS-PAGEブロット後のIgE染色では分子量の異なる10個のバンドがみられ、これらは全てCryj1,Cryj2とは異なっていた。Cryj1,Cryj2はSDSで変性を受けてIgEと全く反応しなかった。患者血清を主要抗原で中和後、患者IgEと反応した抗原量を見積った。実験は15人のスギ花粉症患者血清すべてで、主要抗原以外の抗原と反応した。反応は患者による個人差があった。これらの結果を基に、減感作治療用抗原の検索を行い、アレルゲン性が強く、抗体IgGを作る能力が高く、粘膜反応性(結膜反応)をもたず、分子量が1万から10万の間にある抗原、CJP-PのC画分がノミネートされた。この画分は主要画分を含んでいない。今後、主要画分との混合などを検討して、さらに有用なワクチン開発の工夫が必要である。一連の抗原検索中に、イオン交換で分画したCJP-P画分のSDS-PAGE後の、蛋白質のN-末端側のシークエンスを分析した結果、Cryj1のN末端側の分解物(p15)とC末端側の分解物(p29)を発見し、p29が発症抗原である可能性を示唆した。今回我々はスギ花粉ワクチン用抗原を得るために様々な検索を行い、ノミネートされた蛋白質は出てきたがまだ特定するには至っていない。今後、これらの蛋白質の中からさらに効果的なワクチンを開発する方向に向けて研究していく予定である。
著者
岸 章治 横塚 健一
出版者
群馬大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1994

硝子体の形態の維持における網膜の役割を解明するため、有色家兎の網膜を光凝固で破壊し、それに続発する硝子体の変化を観察した。1)幼若な家兎に光凝固で網膜萎縮巣を作成すると、3か月以降に萎縮巣の前方に硝子体の液化が生じた。14か月経過すると、硝子体液化腔はさらに明瞭となり、その輪郭は網膜の萎縮巣に一致していた。このことから眼球が成長過程にある眼では、網膜が破壊されると、それに面した硝子体に続発性の液化、もしくは硝子体の無形成がおこることが示唆された。2)光凝固をび慢性におくと、幼若家兎ではび慢性の硝子体液化が網膜前方に続発した。3)成熟家兎で、同様の実験をおこなうと、やはり同様の硝子体液化が網膜前方に続発した。したがって眼球の成長が完了した成熟家兎眼でも、硝子体の形態の維持のためには、正常な網膜が必要であることが示唆された。硝子体は再生しうるか否かを知るため、家兎眼の硝子体を切除し、12か月飼育した後に眼球を摘出した。家兎では硝子体と水晶体の癒着が強いため、冷凍プローブで水晶体嚢内全摘をすると硝子体を一塊として除去できた。しかしこの群では、網膜の全剥離が続発し、眼球癆となった。組織学的には残存硝子体の器質化と色素上皮細胞の増殖による前部増殖性硝子体網膜症(PVR)であった。硝子体の再生は起こらなかった。経毛様体硝子体切除をおこなった家兎は眼球の大きさは保存された。ゲルの切除部位は空洞化したままで、硝子体の再生は起こらなかった。家兎では人工的な後部硝子体剥離の作成が困難であった。部分硝子体剥離を生じた部分では、内境界膜は硝子体と一体化して網膜から分離していた。