著者
清水 幸丸
出版者
三重大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

魚と水力発電用水車の関係は我が国においてはあまり関心がなく、これまでほとんど研究されていない。河川にダムを建設し、既存の水車発電装置を設置すると河川は寸断され、河川魚の生息条件が著しく破壊されることは既に知られている。ダムが低い場合にはしばしば魚道が作られるが、通常建設費がかかるので設置しない。また、魚道を通過する流量は発電に利用できない。しかだって、もし魚が運転中の水車内に自由に通過することができれば河川に棲む魚族の生態系を破壊することなく、河川のいたるところに低落差の水車を設置することができる。現在の高性能反動型水車ランナーはキャビテーション寸前の高負圧下で運転され、ランナー内流速も速い。負圧は魚の内蔵破裂を引き起こし、高速では魚がさかのぼれない。このような条件を考慮して、著者らの研究目的は、落差が1〜2mで、ランナー内流速が遅く、負圧にならない水車ランナーを開発することである。上記の目的に沿って次のような研究を行った。1.水車ランナーを通過する魚の挙動をビデオカメラおよび写真撮影により観察した。(1)、上流から下流へ移動する場合、(2)、下流から上流へさかのぼる場合。2.水車ランナーを通過する魚にランナーが与える損傷、その他生物学的打撃を検討した。3.水車ケーシングの圧力分布を測定し、水車内圧力分布と魚生存の関係を検討した。4.水車ランナー入口および出口直後の速度分布を測定し、魚が水車ランナーを下流から上流へさかのぼりうる流速の条件を明らかにした。5.魚と水車の関係を研究する研究用水車設備を開発した。
著者
越後 多嘉志 竹中 哲夫 江沢 真
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.148-153, 1975-04-15 (Released:2010-01-20)
参考文献数
9
被引用文献数
1

蜂蜜を加熱することによって生じる糖含量,酸度,色および細菌生育阻止力の変化について調べた。(1) 加熱温度,時間の増加に伴い,フラクトースとグルコースの含量比およびシュークロースとフラクトース,グルコース含量との比は小さくなる。総酸度にはほとんど変化ないが,ラクトン酸度と遊離酸度の比は大きくなる。(2) 蜂蜜を加熱するとHMFが増加し,褐変反応によって蜂蜜は着色する。この反応の1経路としてHMFを経由する反応系が考えられ,蜂蜜のような酸性液中ではグルコースよりもフラクトースが反応しやすく,容易にHMFを生成し,しかもこの反応はアミノ酸なしでも進行する。しかしHMFからの反応は進行しにくい。(3) Staphyloccus aureusに対する蜂蜜の生育阻止作用は高糖濃度,酸成分および過酸化水素によると考えられ,特に過酸化水素は蜂蜜中のグルコース・グルコースオキシダーゼ反応系によって生成している。蜂蜜を加熱して阻止作用が失われるのはグルコースオキシダーゼが失活して過酸化水素が生成しなくなるためと考えられる。(4) 上記結果の実際の裏づけとして,工場での加熱工程における蜂蜜の品質変化を調査した。
著者
藤井 誠 関 隆教
出版者
日本商業学会
雑誌
JSMDレビュー (ISSN:24327174)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.57-63, 2018 (Released:2019-10-29)
参考文献数
41

本稿では,サービス組織における現場従業員(Front-Line Employees:FLE)のクリエイティビティがもたらす負の側面について,探索的事例研究を行う。具体的には,塚田農場の事例を通じて,FLEがクリエイティビティを発揮する顧客を選別してしまうことで,企業が当初想定していたターゲットとの乖離が生じるという現象を「クリエイティビティの意図せざる結果」と概念化することで,クリエイティビティが引き起こす負の1つの側面を見出した。今後の研究の展望として,FLEのクリエイティビティを財務成果へと着実に結びつけるには,FLEのクリエイティビティがどのような局面において財務成果に正の影響を与えるのかを深耕していく研究が必要となることを提起した。
著者
杉田 聡
出版者
明石書店
雑誌
福沢諭吉朝鮮・中国・台湾論集 : 「国権拡張」「脱亜」の果て / 杉田聡編
巻号頁・発行日
2010-10-25

『福沢諭吉朝鮮・中国・台湾論集』に付した解説「福沢諭吉と朝鮮・中国・台湾」のうち「一『時事新報』論説は誰の思想を表しているか : 本書を福沢の論集とするゆえん」、その「後記」(付記)、『論集』自体の「あとがき」、『論集』の目次および文献一覧を登録したもの。
著者
奥野
雑誌
自動車技術,講演会前刷集, 1992
巻号頁・発行日
vol.924, pp.117-120, 1992
被引用文献数
1
著者
高原 滋夫 小倉 義郎 岡崎 英生 千葉 和夫 三谷 恭夫 前田 剛志
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.135-138, 1969-02-20

I.はじめに 現在わが国において普及発展の途上にある難聴学級についてまずその歴史と概要について簡単に述べたいと思う。 従来,普通児における普通小学校とろう児におけるろう学校とは,種々の面で一応完備の状態にあるが,第1図に示すように,普通児とろう児の中間的な存在である中等度難聴および一部の高度難聴児で,しかも現在の医学では治療の困難な難聴児については長い間教育上の何らの対策も講じられないままに放置されていた。
著者
川上 晋一郎 赤木 成子 松本 憲明 木村 守 水河 幸夫 東川 俊彦 増田 游 小倉 義郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.169-175, 1987-03-20

はじめに 昭和34年岡山市で難聴児調査が行われ中等度難聴児が全児童の約0.1%に認められた1)。彼らは普通児とろう児の中間的存在であったため教育的配慮がなされず放置されていた。昭和35年4月高原ら2)により中等度難聴児に聴能訓練,言語指導と学習指導を目的として岡山市内山下小学校にわが国で最初の難聴学級が開設された(図1)。その成果が発表されると難聴学級の必要性が痛感され日本全国でつぎつぎと開設された。そして現在小学校311校,中学校92校の難聴学級が開設されている。内山下小学校難聴学級開設以来25年が経過し,いろいろな点で変化が起きてきた。その歴史を振り返り今までの成果と難聴学級が現在抱えている問題点について検討した。
著者
増山 幹高
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.1_79-1_109, 2009

Why do opposition parties propose votes of no-confidence they know will not pass? Although there is an extensive literature on the confidence relationship between parliament and the executive, it tends to focus solely on the vote of no-confidence as a mechanism for the parliamentary majority control of the executive. This article fills a gap in the literature by exploring the vote of no-confidence as a tool of the opposition, focusing on its use in the Japanese Diet. I suggest two possible reasons for the vote of no-confidence to have utility to the opposition, even when they know it will not pass. The opposition might use the no-confidence vote for legislative gains, using the no-confidence vote as a delay tactic or filibuster. Or the opposition might use it for electoral gains, using the no-confidence vote as an opportunity to publicize unpopular government policies or actions. Although the traditional literature on the Japanese Diet has suggested that the opposition uses the no-confidence vote for legislative gains, the evidence presented in this article suggests that electoral gains hypothesis better explains no-confidence votes in postwar Japan.
著者
筧 一彦 広瀬 友紀
出版者
日本音声学会
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.23-28, 1997-12-30 (Released:2017-08-31)

In languages such as Japanese, hearers often encounter a sequence of more than two identical vowels. We investigated how, and to what extent a hearer can successfully segment each mora in such consecutive vowel series. In the following experimental reports, we particularly discuss effects of prosodic information such as pitch pattern and rhythm of speech. We argue that various kinds of information (pitch, rhythm, duration, lexical information) contribute to the segmentation of three or more consecutive vowels.
著者
森田 剛仁 日笠 喜朗 芹川 忠夫 島田 章則 佐藤 耕太 竹内 崇
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

当教室では突発性に全身性発作を生じ、それが数日から数ヵ月の寛解期を経て発作を反復する特発性家族性てんかん犬の家系を獲得・維持している。本家系のてんかん発生メカニズム解明を最終目的とし,以下のような結果得た。【材料と方法】1)脳波検査(家系犬6例):国際式10-20法により、生後経時的にキシラジン(1.0mg/kg,I.M.)鎮静下で実施。2)脳内アミノ酸の検討:(1)脳脊髄液内(家系犬6例、正常犬4例):混合深麻酔下,大後頭孔より採取。高速液体クロマトグラフィー電気検出器(HPLC-ED)によりグルタミン酸,グルタミン,アスパラギン酸,アスパラギン,アルギニン,グリシン,タウリン,GABA,スレオニン及びアラニンを定量。(2)in vivo脳実質内(家系犬5例,正常シェルティー犬4例):深麻酔下にて,過換気状態で前頭葉皮質からマイクロダイアリシス法によりサンプル採取。HPLC-EDによりグルタミン酸,グルタミン,アスパラギン酸,アスパラギン,アルギニン,グリシン,タウリン及びGABAを測定し,各アミノ酸の変動を検討。脳波測定を同時に実施。(3)免疫組織化学的検討:グルタミン酸、グルタミン酸代謝に関連する蛋白質およびグルタミン酸レセプターに対する抗体を用いた免疫染色を実施した。【結果】1)脳波検査の結果、発作初期には鋭波及び棘波が前頭葉優位に確認され,発作を長期間反復した症例では,程度に差はあるもののそれらが頭頂葉および後頭葉にも検出された。2)家系犬の脳脊髄液内スレオニン値が高値を示した(家系例:549.35±72.94nmol/ml、対照例:301.71±87.51nmol/ml)。3)家系犬2例において正常換気から過換気状態(血中PCO2:15-25)に移行した時に高振幅鋭波の群発および棘波の散発が記録された。1例で過換気状態でグルタミン酸、グルタミン及びGABAの値が上昇した。他の1例では過換気状態でアスパラギン酸の値が上昇した。他の家系犬および対照例では各アミノ酸の著明な変動を認めなかった。4)てんかん重責後死亡例では、大脳全域におけるグルタミン酸トランスポーターの発現の低下が観察された。壊死した神経細胞周囲に顆粒状にグルタミン酸陽性を示した。【考察】家系犬1例の大脳前頭葉における異常脳波出現と一致し,前頭葉皮質のグルタミン酸あるいはアスパラギン酸の変動が認められた。また、免疫組織化学的にグルタミン酸の代謝に関係するグルタミン酸トランスポーターの発現の低下が観察された。今後、他のレセプターの発現を含め検討する必要がある。
著者
徳永 由太 高林 知也 稲井 卓真 中村 絵美 神田 賢 久保 雅義
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.I-106_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに】膝関節周囲の悪性腫瘍による大腿四頭筋の広範囲切除によって膝関節伸展筋力は大幅に低下し,椅子からの立ち上がりや歩行などの日常生活動作に影響を及ぼすことが報告されている.一般的には,大腿四頭筋が膝関節伸展作用を発揮すると考えられているが,一部の先行研究ではハムストリングス(HAM)が膝関節伸展作用を発揮する可能性が提示されている.しかし,どのような姿勢でHAMが膝関節伸展作用を発揮するのかは明らかとなっていない.そこで本研究は,数理モデルを用いてHAMが膝関節伸展作用を発揮できる姿勢を明らかすることを目的とした. 【方法】身長1.8 m,体重80 kgの対象者を仮定し,体幹,大腿,下腿から構成される矢状面リンクモデルを構築した. HAMの膝関節屈曲および股関節伸展モーメントアーム(MA)はOpenSimのGait2392モデルで報告されており,HAMの筋張力を決定すれば,HAMによる膝関節屈曲および股関節伸展モーメントは一意に決定できる.本研究では10Nmの膝関節屈曲モーメントが発揮されるようにHAMの筋張力を設定した.膝関節を屈曲0度~90度,股関節を伸展30度~屈曲90度の範囲内で変位させ,順動力学シミュレーションを実施した.なお,純粋なHAMの作用を確認するため重力の影響がない姿勢を仮定した.HAM機能の判定には,シミュレーション開始時と終了時の膝関節屈曲角度の差を用いた.先行研究において,HAMが膝関節伸展作用を発揮するためには,HAMの股関節伸展MAが膝関節屈曲MAに比較して大きい必要があると報告されている.そのため,股関節伸展MAを膝関節屈曲MAで除した値(MA比)も算出した.上記の解析はScilab 6.0.0によって実施した. 【結果】HAMは膝関節屈曲7~0度かつ股関節屈曲2~62度(条件1),膝関節屈曲44~90度かつ股関節伸展30~屈曲50度(条件2),の2つの条件下で膝関節伸展作用を発揮した.条件1では膝関節角度が小さいほど,条件2では膝関節屈曲角度が大きいほど膝関節伸展作用が強くなる傾向にあった.また,MA比が大きい場合でも,HAMが膝関節伸展作用を発揮しないこともあった. 【考察】本研究の結果より,HAMの膝関節伸展作用の発揮はMA比の大小だけでは説明できないことが明らかとなった.先行研究において,筋の力学的作用はリンクシステムの姿勢により変化することが報告されている.本研究においても,姿勢の影響によりHAMの力学的な作用が修飾されている可能性が考えられた. 【結論】本研究は2つの条件下においてHAMが膝関節伸展作用を発揮する可能性を提示した.この結果から考えると,条件1・2におけるHAMの膝関節伸展作用をうまく活用することが出来れば,大腿四頭筋の機能不全を有する者であっても,椅子からの立ち上がりや歩行などの日常生活動作を円滑に遂行できる可能性が考えられた. 【倫理的配慮,説明と同意】本研究は数理モデルを用いた順動力学シミュレーションによる検証のため,倫理的配慮および説明と同意に該当する内容は含んでない.数理モデルに必要なパラメータは先行研究で報告されたものや既存のモデルを参照しているため,個人を特定する内容は含まれていない.
著者
羽貝 正美
出版者
東京都立大学都市研究センター
雑誌
総合都市研究 (ISSN:03863506)
巻号頁・発行日
no.58, pp.73-96, 1996

本稿は近代都市計画の先駆として19世紀以降の世界の諸都市に様々な影響を及ぼしたパリ都市改造に素材を求め、その歴史的意義を再考することを課題とする。はじめに、近年のフランスの都市研究の特質を検討し、その中に、パリ改造研究の新しい視点を探ってみたい。その上で、パリ改造推進の最も重要な法的手段であった公用収用権限、超過収用、地帯収用制度に焦点を合わせ、その導入の背景を考察する。具体的には、1840年代の都市状況とこれらの実施をめぐる議論を検討し、こうした制度が導入されるに至った多様な要因を整理したのち、1852年3月26日のパリの街路に関するデクレの意義を検討する。最後にこのデクレの斬新性と限界とに注目し、近代都市計画の先駆としてのパリ改造の歴史的意味、その二面性を再考する。