著者
栗原 麻子
出版者
史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.99, no.1, pp.3-38, 2016-01

一九八○年代以降、古典期アテナイのオイコス(家) をめぐる研究は、父系的な氏族支配からポリスの支配へという発展論的理解を脱し、単婚小家族を基盤とするより小規模な世帯へと焦点を移した。本稿においては、そのような夫婦を中心とする世帯を、ポリス法制上の構成単位とみなしうるかどうかについて、とりわけ「空のオイコス(エレモス・オイコス) 」の概念を中心に検討する。その結果浮かび上がるのは、夫のオイコスに対する妻の権利の希薄さである。アテナイ法制上にオイコスの存在を確認できるとすれば、それは夫婦を中心とする世帯というよりは、直系によって継承される系譜上の存在であった。しかるに民衆法廷での家族をめぐる言説は、とりわけ女性を通じて形成される世帯の親愛を示すエピソードに事欠かない。民衆法廷は、法制上のオイコス概念と実態上の世帯の親愛とのあいだを調整する場であったといえる。
著者
佐川 敦子 笹原 由雅 鎌形 潤一 青木 仁史 大橋 きょう子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 2019年度大会(一社)日本調理科学
巻号頁・発行日
pp.96, 2019 (Released:2019-08-26)

【目的】減塩につながる調味方法としては,食品内部に塩味を拡散させず,食べる直前に食品表面に塩味をつける方法がある。これまでに,うま味や酸味を添加することで塩味強度が強まるという報告はあるが,油を添加した場合の塩味の感じ方についての報告は見当たらない。そこで,油添加に着目し,調製時における塩および油添加タイミングの違いによる塩味の感じ方について検討した。【方法】塩および油添加タイミングを変えた飯表面に塩味をつけた試料(塩味表面試料)と,塩水で炊飯した試料(塩味均一試料)の塩むすびモデル系試料を調製した。塩添加量は米重量の1.15 w/w%(飯の0.5w/w%),油添加量は米重量の2.0 w/w%とした。試料の形状測定(マイクロスコープVHX-6000),物性測定(レオナーRE2-33005C)を行った。また,官能評価により,同一塩分濃度下における塩味の感じ方について,呈味強度(塩味,甘味,うま味)および味の好ましさを5段階評点法により評価した。【結果および考察】1. 形状測定:米飯対角幅,周囲長,面積において,塩味表面試料は,塩味均一試料よりも高値を示した。2. 物性測定:硬さにおいて,塩味表面試料は,塩味均一試料よりも有意に低値を示した。3. 官能評価:塩味表面試料は,塩味均一試料に比べ塩味強度は有意に高かった。また,炊飯前油添加試料は,炊飯後油添加試料よりも塩味強度は有意に高かった。炊飯前に油を添加し炊飯後に飯表面に塩味を付与すると,塩味の感じ方は強くなることが示唆された。官能評価の塩味強度と物性測定の凝集性および付着性で負の相関が認められた。結果,米飯の凝集性,付着性が小さいほど,塩味強度は高くなることが示唆された。
著者
後藤 崇志 石橋 優也 梶村 昇吾 岡 隆之介 楠見 孝
出版者
The Japanese Psychological Association
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.86.13233, (Released:2015-01-15)
参考文献数
44
被引用文献数
4 7

We developed a free will and determinism scale in Japanese (FAD-J) to assess lay beliefs in free will, scientific determinism, fatalistic determinism, and unpredictability. In Study 1, we translated a free will and determinism scale (FAD-Plus) into Japanese and verified its reliability and validity. In Study 2, we examined the relationship between the FAD-J and eight other scales. Results suggested that lay beliefs in free will and determinism were related to self-regulation, critical thinking, other-oriented empathy, self-esteem, and regret and maximization in decision makings. We discuss the usefulness of the FAD-J for studying the psychological functions of lay beliefs in free will and determinism.
著者
吉本 治一郎 西田 隆義
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.446, 2004 (Released:2004-07-30)

広葉樹の幹から滲出した樹液には多くの昆虫が吸汁のために集まることが知られている。そのような場所では穿孔性昆虫のボクトウガ科Cossidaeの幼虫も頻繁に観察されることから、これらが特に滲出に関係しているのではないかと考えられている(市川 私信)。そこで、本研究において、ボクトウガ類の幼虫が樹液資源の存在様式とそれらに集まる昆虫群集の構造にそれぞれどのような影響を及ぼしているのかについて調査を行った。2002年には全パッチ(滲出部位)の約61%で、2003年には約36%で、幼虫または幼虫の巣の存在をそれぞれ確認した。これらは幼虫の穿孔と樹液の滲出との関係が示唆されたパッチであると言える。幼虫個体数の季節変動は両年とも総パッチ数の変動とほぼ一致したが、後者で若干の時間的な遅れが見られた。また、2002年には、幼虫個体数の増加に伴って樹液食昆虫の種数と個体数が有意に増加した。翌年にも、巣が存在したパッチ(幼虫存在パッチを含む)において、樹液の滲出期間、樹液に覆われた面積(パッチ表面積)ともに幼虫および巣のないパッチを上回っていた。さらに、群集の属性(総種数・総個体数・多様度)に関しても同様の傾向が見られたが、種によってその傾向は異なり、特に、ケシキスイ類、ハネカクシ類、ショウジョウバエ類など、いわゆる樹液スペシャリストに属する種の個体数は、巣のあるパッチの方で顕著に多くなっていた。以上より、ボクトウガ類の幼虫は樹液の滲出を促進し、その分布とフェノロジーが樹液資源の存在様式を規定することが示唆された。さらに、これらは資源を介して群集構造にも間接的に正の効果を与えていることが明らかになった。だたし、これらの効果は種によって異なっていたことから、樹液に対する依存度などの種固有の生態学的特性が相互作用に反映されたのではないかと予想された。
著者
元吉 八重子 市川 家國
出版者
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.166-171, 2009-11-15 (Released:2010-05-31)
参考文献数
28

糸球体疾患において,高分子蛋白尿の量が多いほど末期腎不全へと移行するリスクが高く,蛋白尿は腎疾患の指標であるのみでなく,さらなる腎傷害の原因となる可能性がある。 糸球体から漏出した様々な蛋白質は,主にmegalinというレセプターを介したエンドサイトーシスにより管腔側から近位尿細管細胞へと取り込まれ,ライソソームへと運ばれて分解されるか,そのまま基底膜側へと運ばれる。それにともなって,MCP-1やRANTESなどの炎症に関わるメディエーターや,TGF-βなどの線維化に関わるメディエーターが尿細管間質に放出される。また,近位尿細管のアポトーシスも惹き起こされる。このように,漏出した蛋白質が直接的な尿細管傷害の起因となることによって悪循環を形成し,慢性腎不全を進行させている可能性がある。
著者
髙坂 康雅
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.101-103, 2008-09-01 (Released:2008-10-24)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

The relationship between feeling of inferiority and self-oriented perfectionism in adolescence was investigated. Adolescents (N5609) were asked to complete a questionnaire of 40-item feeling of inferiority scale and Multidimensional Self-oriented Perfectionism Scale (MSPS). Results of cluster analysis revealed four clusters of adolescents: (1) Low perfectionism, (2) High concern over mistakes, (3) High perfectionism, and (4) High personal standards. Results of analysis of variance indicated that adolescents with high concern over mistakes had significantly stronger inferiority feeling than other groups.
著者
小山 満
出版者
[出版者不明]
巻号頁・発行日
2008

制度:新 ; 文部省報告番号:乙2135号 ; 学位の種類:博士(文学) ; 授与年月日:2008/2/5 ; 早大学位記番号:新4677
著者
木股 三善 西田 憲正 村上 英樹
出版者
一般社団法人 日本鉱物科学会
雑誌
鉱物学雜誌 (ISSN:04541146)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.45-58, 1994-04-30 (Released:2009-08-11)
参考文献数
91
被引用文献数
1 1

This paper reviews on crystal chemistry of plagioclases and geochemical roles of their megacrysts including native coppers and hydrocarbons, discussed in two parts.Part I. Structural classification of feldspar compositions can be allocated into four types; feldspar, paracelsian, hexacelsian and hollandite structures. Though the phase relation between the first and the second types has been open to question, recent probing of their isotropic temperature factors and bond-valence theory to the M-sites intensifies that feldspars are in the wide stability field from low to high temperatures under low pressures, and that high pressure and low pressure are the preference field for paracelsians. Though very common in north-east part of Japanese island and Izu-Bonin arcs, anorthite megacrysts have never been found in other districts in Japan and have been rare in world-wide occurrences. Native coppers, verified by chemical shift method of EPMA and X-ray microdiffraction, are found to be included by anorthite megacrysts from Japanese island arc and by labradorite ones from the continental margin of North America. These anorthites in the basaltic lavas are of approximately 1 to 3 cm size and often contain several corroded Mg-olivines scattering as single crytals less than a few mm long. The plagioclase megacrysts show no chemical zoning, but the anorthites with the Al/Si ordered state have partings developed in places whereas the labradorites are of the AUSi disordered structure indicative of high temperature type. Each role in their plagioclase structure establishes Mg, Fe, Al and Si cations as a few minor endmembers of CaFeSi3O8, CaMgSi3O8, AlAl3SiO8 and_??_Si4O8 for the solid solutions. Furthermore micro-inclusions of native zinc, copper and brass scattering in the red-clouded anorthite megacryst frozen by the supercooling environment could have an implication for a precusor to Kuroko deposits. Review (1) discusses both structural tolerance of plagioclases and their megacrysts including native coppers.
著者
水出 靖 藤井 亮輔 近藤 宏 和田 恒彦 岡田 富広 柏木 慎太郎 栗原 勝美 西村 みゆき 柴田 健一 高澤 史 古川 直樹 長谷部 光二
出版者
日本理療科教員連盟
雑誌
理療教育研究 (ISSN:13498401)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.9-17, 2016 (Released:2019-02-04)
参考文献数
16

【目的】慢性膝痛に対するマッサージ療法の有効性を検証するため多施設間連携による ランダム化比較試験を行った。 【対象】施術所・通所介護事業所5 施設の利用者で一定の基準を満たす膝痛を有し、本 研究の趣旨に同意の得られた29 例(平均年齢67.9 ± 7.7 歳)を対象とした。 【方法】介入群(膝周囲の軟部組織に対するマッサージと運動療法、以下M 群)と対 照群(安静臥床、以下C 群)に乱数を用いて無作為に割付け、膝関節屈曲可動域、殿 踵間距離、膝窩床間距離、疼痛出現しゃがみ込み角度、TUG test、5 m 歩行時間・ 歩数、疼痛のVAS について介入前後で比較した。 【結果】両群間の介入前後の変化は、膝屈曲角度、膝窩床間距離、疼痛出現しゃがみ 込み角度において交互作用を認め(すべてp<0.05)、M 群で有意に改善した(各 p<0.01、p<0.05、P<0.01)。また、すべての被験者に明らかな有害事象は認めなかっ た。 【考察・結語】慢性膝痛に対するマッサージ療法は、関節機能の改善に有効かつ安全性 の高い方法であることが示唆された。

2 0 0 0 OA 鉄道構造物

著者
高木 芳光
出版者
公益社団法人 日本コンクリート工学会
雑誌
コンクリート工学 (ISSN:03871061)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.61-64, 1995-01-01 (Released:2013-04-26)
参考文献数
1

2 0 0 0 OA 武田三代軍記

著者
[片島深淵] [著]
出版者
国史研究会
巻号頁・発行日
vol.1, 1916
著者
青地 忠浩
出版者
日本LCA学会
雑誌
日本LCA学会誌 (ISSN:18802761)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.256-266, 2018 (Released:2018-12-01)
参考文献数
13
被引用文献数
2

サプライチェーンリスクマネジメント(SCRM)とは、サプライチェーンに影響を及ぼす様々なリスクを体系的に特定・分析・評価し、リスクを低減するための戦略と対策を策定・実行し、継続的に管理していくためのプロセスのことである。本稿では、SCRMの基本的な考え方と、自然災害、政治・地政学リスク、情報セキュリティ、枯渇性資源や紛争鉱物、環境問題、人権問題といった注目すべきサプライチェーンリスクを紹介する。また、SCRMの実践において重要なレジリエンスの考え方と、それを踏まえてSCRMを体系的かつ継続的に行うために必要な要素を整理する。さらに、基本方針の策定および現状分析から、リスク戦略の策定、監視・検知・対応計画、実施・運用・改善に至るまでのSCRM構築のフレームワークを解説する。

2 0 0 0 OA のりもの

著者
木俣武 著
出版者
鈴木仁成堂
巻号頁・発行日
vol.1, 1948
著者
難波 光義 岩倉 敏夫 西村 理明 赤澤 宏平 松久 宗英 渥美 義仁 佐藤 譲 山内 敏正 日本糖尿病学会―糖尿病治療に関連した重症低血糖の調査委員会―
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.12, pp.826-842, 2017-12-30 (Released:2017-12-30)
参考文献数
34
被引用文献数
6

糖尿病に対する薬物治療の進歩の一方で,患者の高齢化などを背景とした低血糖リスクの増大が憂慮されている.このため,わが国の糖尿病実臨床における治療に関連した重症低血糖の調査を行った.日本糖尿病学会学術調査研究等倫理審査委員会の承認のもと,2015年7月に同学会認定教育施設631施設の研修責任者に対して調査への参加を依頼した.参加意思を表明した施設には,倫理審査の必要書類を送付し,各施設の倫理審査委員会での承認後,Web登録システム(症例データは匿名・非連結)を利用してデータ登録を依頼した.本調査研究は,同学会学術調査研究委員会の予算で行った.施設実態調査(施設データ)および,個々の症例から同意取得後に症例調査(症例データ)を実施した.重症低血糖の定義は,『自己のみでは対処できない低血糖症状があり,発症・発見・受診時の静脈血漿血糖値が60 mg/dL未満(毛細管全血50 mg/dL未満)が明らかにされていることが望ましい』とし,調査期間は2014年4月1日から2015年3月31日としたが,施設データは193施設から,症例データはそのうち113施設から総数798症例の登録があった.回答を得た193施設中,149施設(77.2 %)に救急部が併設されており,1施設あたりの同部への年間総救急搬送件数(中央値)は4962件,このうち重症低血糖は17.0件(0.34 %)をしめた.回答施設における重症低血糖による年間受診総数は2237人であり,1施設あたり6.5人であった.重症低血糖による年間入院総数は1171人で,1施設あたり4.0人であり,重症低血糖による年間受診数の52.3 %を占めていた.798例の症例データをまとめると,病型は1型240人,2型480人,その他78人,年齢は1型54.0(41.0-67.0)歳,2型77.0(68.0-83.0)歳であり,2型が有意に高齢で(P < 0.001),BMIは1型では21.3(18.9-24.0)kg/m2,2型では22.0(19.5-24.8)kg/m2で,2型の方が高値であった(P = 0.003).推算糸球体濾過量(eGFR)は1型73.3(53.5-91.1)mL/min/1.73 m2,2型50.6(31.8-71.1)mL/min/1.73 m2となり,2型の方が低値であった(P < 0.001).重症低血糖発生時点のHbA1cは全体で7.0(6.3-8.1)%,1型7.5(6.9-8.6)%,2型6.8(6.1-7.6)%であり2型で低値であった(P < 0.001).重症低血糖の前駆症状の有無に関しては全体で有35.5 %,無35.6 %,不明28.9 %,前駆症状の発現率は1型で41.0 %,2型で56.9 %となり,1型の方が前駆症状の発現率は低かった(P < 0.001).2型の治療薬はインスリン使用群(SU薬併用29人含む)292人(60.8 %),SU薬群(インスリン未使用)159人(33.1 %),インスリン・SU薬未使用群29人(6.0 %)であった.調査対象798例のうち296例(37.2 %)は,過去にも重症低血糖で救急受診した既往を有していた.以上のようにわが国の糖尿病治療に関連する重症低血糖の実態が初めて明らかになった.今後は重症低血糖の高リスク者や既往者に対し,低血糖の教育と治療の適正化による発症予防対策が急務であることが明確となった.