著者
宮川 重義
雑誌
京都学園大学経済経営学部論集
巻号頁・発行日
no.5, pp.31-52, 2017-11-30

本稿では知的巨人と称されるミルトン・フリードマンについて論じるが、彼のこれまでの著作を紹介したり、それを系統的に分析することではない。そのような仕事はジョン・バートンがいみじくも述べたように「(フリードマンの業績を評価することは)ナイアガラの滝の水量を小さな計量カップではかるに似たり」ということになり、到底本稿の及ぶ範囲ではない。フリードマン理論がどのようにアメリカの金融政策、経済の発展に関わってきたかを今日的観点より論じた。
著者
井口 淳子
出版者
日本音楽学会
雑誌
音楽学 (ISSN:00302597)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.73-85, 2017

A. ストローク(Awsay Strok)とは、1910年代から日本敗戦後にいたるまで、およそ30年にわたり上海に居住し、ヨーロッパ、ロシア、米国から演奏家、歌手、オペラ団、バレエダンサーなどを招聘し、日本公演を含む「アジアツアー」をプロデュースしたユダヤ人興行主である(1876年2月27日、ラトヴィア、ドヴィンスク Dvinsk 生、1956年7月2日、東京没)。<br> 「A. ストローク」の名は、演奏家の評伝や東アジアの洋楽受容に関する文献のなかに「impresario、インプレサリオ、興行主、ディレクター、マネージャー」として数多く見出せるものの、彼自身の経歴や活動についての本格的な研究はいまだなされていない。<br> 日本国内では、彼が企画した興行があたかも「日本のみを目的地」としていたかのように記述されがちであった。つまり、日本においては、ストロークは「世界的に著名な演奏家を、日本にはじめて招来した興行主」、との認識がなされてきた。しかし、彼が手がけた興行は、日本を目的地とするものではなく、広くアジアの諸都市、日本、中国、東南アジアの植民地都市を巡業(ツアー)する興行であった。そして日本と上海は一組のセットになってツアーに組み込まれていた。<br> 筆者は、上海で発行された英字新聞や仏語新聞にストロークの名前が公演広告や記事に数多く掲載されていることに着眼し、英字新聞データベース及び、それを補完する仏語新聞 Le Journal de Shanghai により、彼がプロデュースした上海公演を抽出し、その全体像を明らかにすることを試みた。<br> その結果、ストロークは東京、大阪、上海で、ほぼ同時に同一のアーティストが公演を行う、国境をこえた演奏家、舞踊家のアジアツアーを1918年から1940年までの23年間にわたり、50回以上実施していたことが明らかになった。
著者
高田 峰雄
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.357-362, 1967 (Released:2007-07-05)
参考文献数
21
被引用文献数
3 1

1. カキとトマトの果実について, 生育ならびに成熟と関連させて, 呼吸量の変化を調べた。2. 植物体上における果実の呼吸量とみなされる採取24時間後の呼吸量を生育段階的にみると, トマトではきわめて典型的な climacteric を示したが, カキではかならずしも明らかでなかつた。3. カキ, トマトともにすべての生育段階の果実において, 採取後に呼吸の上昇が見られた。4. カキ, トマトともに若い果実においても採取後に成熟様現象が起こり, その時に呼吸のピークが現われた。しかし, 成熟様現象の進行速度および呼吸曲線の様相においては, 両者の間に大きな差異が見られた。5. カキの開花後約2か月までの若い果実では採取後にヘタの脱落現象が見られたが, 生育がさらに進んだ果実では見られなかつた。この現象は種子の有無とは直接関係がないように思われた。
著者
安田 淑子 下村 道子 山崎 清子
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
家政学雑誌 (ISSN:04499069)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.107-110, 1976-04-20 (Released:2010-03-10)
参考文献数
3

湯取り法と普通炊による米飯を炒め飯にし, その性状を比較することにより, 湯取り法の検討を行った. 結果を要約すると次の通りである.1) 米飯の炒め操作については, 湯取り法の方がはるかに炒めやすい.2) 炒め操作中に湯取り法の米飯は水分の蒸発がより多い.3) 炒め飯のノルマルヘキサンによって抽出される油脂は湯取り法の方が多く, 表面に付着している割合が多い.4) 顕微鏡によって, 普通炊の米飯粒のまわりにはおねばが付着している状態が観察され, 湯取り法ではほとんどなかった. また, 炒め飯のバターの付着状態は, 湯取り法の米飯に均一に付いているのに反し, 普通炊ではむらであった. 米飯が高温の方がバターの浸透が多い.5) テクスチュロメーターによる測定では, 湯取り法による米飯の炒め飯は付着性がみられず, 硬さが普通炊にくらべて大きく, 凝集性は小さかった.6) 炒め飯の官能検査では, 湯取り法と普通炊による差はみられなかった.
著者
田中 敏博
出版者
日本小児呼吸器疾患学会
雑誌
日本小児呼吸器疾患学会雑誌 = Japanese journal of pediatric pulmonology (ISSN:09183876)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.141-146, 2002-12-01
参考文献数
6
被引用文献数
1

2001/02シーズンに当科では, インフルエンザ・ウイルス感染症に罹患した小児に対して, ザナミビルを生理食塩水に溶解してネブライザー吸入の方式で治療に用いた。原則として, 一律1回5mgを, 入院では1日2回最大5日間, 外来では1日1回2日間, 投与した。有害事象の発生もなく, 安全に施行でき, 全身状態の改善という意味で速やかに効果を発揮した印象であった。しかし, 入院群, 外来群, 対照群の3群間における解析では, 解熱と再発熱を指標とした場合, 統計学的にこの治療法の有効性を示すことはできなかった。各群の背景因子が均一でなかったことや, 投与量の不足などが原因ではないかと思われた。一般にザナミビルは, 効果発現が速やかで, 安全性も高いとされており, インフルエンザの重症化が最も懸念される乳幼児こそよい対象である。この場合でも, ネブライザー吸入であれば, 簡便かつ確実に投与が可能である。今後, 投与方法の改良と平行して, 正確な評価法を用いてその効果を検討していく必要がある。
著者
ASKEW David
出版者
立命館アジア太平洋大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

リバタリアニズムとは、現代正義論を語る際に無視することのできない思想的立場であると同時に、民営化・規制緩和政策などを推進する「小さな政府」論の理論的基礎を提供する政治哲学でもある。これまで筆者は、個人の自由を非妥協的に擁護し、私有財産制度や自由競争市場を最大限尊重するリバタリアニズムの自由主義哲学を概観し、殊にリバタリアニズム陣営内の論争に着眼して、最小国家論と無政府資本主義との間の対立について論じてきた。今回の研究プロジェクトでは、近代国民国家の衰退と共に、戦争も含めて、かつて国家の正常な守備範囲内と目されてきた機能を果たすため、市場メカニズムをはじめ公共部門以外の部門が積極的に活用されるようになったことに着眼し、環境問題に取り組む市場メカニズムを分析することとした。市場原理の導入で公共財などの財やサーヴィス供給の改善や効率化、合理化がはかられている中で、環境問題や絶滅の危機に瀕している動植物の保護など、市場があたかも公共部門によって解決することのできない多種多様な問題を解決する万能薬と看做すことができるかどうかを検討してきた。そのためにも、従来注目されてきたエコ・ツーリズムなどといった事例ではなく、国立公園の民営化および絶滅の危機に瀕する植物の繁殖・販売を請け負う民間企業のような事例を取り上げることとした。研究の結果は、リバタリアニズム理論という理論枠組を更に展開する形で研究論文としてまとめられてきた。近刊のものを含めて、今年、来年に数本の学術論文が公になる予定である。
著者
本城 昇
出版者
日本有機農業学会
雑誌
有機農業研究 (ISSN:18845665)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.19-28, 2017-12-25 (Released:2019-05-21)

学会において2005年に法案検討タスクフォースが設置され,筆者を含むそのメンバー注29)は,「生産者と消費者の分断」,「人間生活と自然の分断」という市場経済の構造的問題を見据えたバランスある総合的な施策の束を打ち出すことができる法律の試案をつくる起草作業に着手した.この「生産者と消費者の分断」,「人間生活と自然の分断」を見据えた総合的な施策の束を打ち出すという考え方は,2001年の「有機農業と緑の消費者運動政策フォーラム」の提言をつくるときに辿り着いたものであるが,筆者は,この考えた方に基づけば,これまでの日本の有機農業やその運動の成果を尊重し,進展させる優れた試案がきっとつくれるであろうと思った.勿論,そのような総合性のある有機農業法制は,外国には存在しない.起草に着手したときは,うまくつくれるか心配であった.しかし,法案検討タスクフォースの構成メンバーで力を合わせ,2005年8月18日,「有機農業の基本法」にふさわしい試案を完成させることができた.そして,この試案が踏まえられて,有機農業推進法が成立した.有機農業関係者の方々からは,歓迎され,大変喜んでいただいた.今もそのときの光景と熱気が忘れられない.上記の考え方に辿り着き,試案を完成することができたのは,外ならぬ,日本の有機農家や有機農業関係者の地道なそれまでの取組の積み重ねと優れた日本の有機農業思想,それと有機農業やその運動に寄り添う研究者の方々の存在があったからこそである.有機農業推進法は,その成果である.今後も,一層充実した有機農業法制が積極的に構想され,その実現により,有機農家が安心して楽しんで有機農業に取り組むことができ,有機農業の持つ魅力が遺憾なく発揮され,地域の自然や社会がいのち輝く持続性のあるものとなっていくことを切に願っている.
著者
水本 正晴
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

2020年度の国際会議Cross-Linguistic Disagreement の計画を、研究協力者と共に議論し、会議の要旨を作成した。それをもとに、会議の基調講演をColiva Annalisa (University of California, Irvine)、Jennifer Lackey (Northwestern University)、John MacFarlane (University of California, Berkeley)に依頼し、幸い3人とも引き受けてもらえた。また、その会議の理論的基礎となる論文集Epistemology for the Rest of the World をオックスフォード大学出版から出版した他、その続編となる論文集Ethno-Epistemologyを編集、世界的な出版社と出版について交渉し、現在査読中である。すでに非常に好意的なレビューが一つ返ってきている。また、ニュージーランドで開催された実験哲学の会議では、「知っている」と「分かっている」についてのさらなる詳しい研究を発表し、両者の使用の判断についての大きな違いを報告すると共に、それらが異なる知識概念を表しているという水本の従来の主張を補強した。さらに、他者の感情についての判断について日本人、中国人、アメリカ人の間で極めて興味深い違いがあることを発見し、それをオーストラリアで開催された心理学の哲学の会議で報告した。これらはcross-linguistic disagreement を具体的に考察するためのさらなる具体例を与えることになる。
著者
池田 圭佑 榊 剛史 鳥海 不二夫 栗原 聡
雑誌
情報処理学会論文誌数理モデル化と応用(TOM) (ISSN:18827780)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.21-36, 2018-03-14

東日本大震災や熊本地震において,Twitterなどのソーシャルメディアが重要な情報源として利用された.一方,デマ情報のような誤った情報の拡散も確認されており,デマ情報の抑制手法の確立は災害大国日本において急務である.しかし,デマ情報がどのように拡散するかは明らかになっておらず,そのため有効な抑制手法も確立されていない.本稿では,これまでに提案した口コミに着目した情報拡散モデルにおいて「人の生活パタン」および「複数の情報源からの情報発信」を考慮した新たな情報拡散モデルを提案する.本モデルを用いて,これまで再現性に課題のあった実際のデマ情報を再現し,本モデルの妥当性を確認した.また,デマ情報の抑制手法の検討および評価もあわせて行った.その結果,デマ情報を否定する訂正情報をより多く拡散させるための手法が明らかになった.During the Great East Japan Earthquake and the Kumamoto Earthquake, people used social media such as Twitter as an important information source. On the other hand, misinformation such as false rumor was diffused. There are many disasters in Japan, we need methods to suppressing false rumor. However, it is not clear how false information diffuses, then an effective suppression method has not been established. In this paper, we propose a novel information diffusion model considering "life pattern" and "information dissemination from multiple information sources". We confirmed the validity of our model by reproducing the actual false rumor that was not reproducible before. We also evaluated the method of suppressing false rumor. As a result, we revealed methods to spread more "correction information".
著者
池田 圭佑 榊 剛史 鳥海 不二夫 栗原 聡
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
JSAI大会論文集
巻号頁・発行日
vol.2017, pp.3P1NFC00a1, 2018-07-30

<p>東日本大震災時Twitterなどのソーシャルメディアが重要な情報源として積極的に利用された.一方でTwitter利用にはデマが拡散してしまうなどの問題がある.我々はこれまでデマ収束を行うための前段階として情報拡散モデルを構築し, デマの拡散メカニズムの同定を目指してきた.CHIDRIは本年で卒業とのことより,これまでの研究成果から得た知見をまとめ,今後の情報拡散制御手法構築へ向け考察を行う.</p>
著者
峰時 俊貴
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.109, no.1, pp.11-20, 2014 (Released:2018-02-16)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

清酒醸造の副産物である酒粕には,血圧降下作用が確認されているアンジオテンシン変換酵素阻害活性を有するペプチドやアルコール性肝機能障害,うつ病などの疾病への効果が認められているS-アデノシルメチオニン(SAM)など多くの機能性成分が含まれており,様々な生理機能を有することが報告されている。また,酒粕は栄養価が高く,食物繊維やビタミン類,アミノ酸を多く含む天然の食品素材,調味料としての特長を有しているが,品質保持が難しい食品素材である。今回,レジスタルプロテインをはじめとする酒粕の機能性について,さらに酒粕の利点を強化し,ハンドリングの良い品質重視の新しい酒粕調味料の開発について解説していただいた。