著者
吉村 伸一
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木史研究 (ISSN:09167293)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.469-474, 1997-06-05 (Released:2010-06-15)
参考文献数
12

肥後の石工・岩永三五郎が建造した甲突川の5大石橋 (1845-49年築) は、1993年8月6日の豪雨 (以下「8・6水害」) によって、武之橋と新上橋の2橋が流出。鹿児島県は、河川改修の支障になるとして、残った3橋 (玉江橋, 高麗橋, 西田橋) の「解体移設」を決め、5大石橋はついに甲突川から姿を消した。筆者は、甲突川の石橋群を治水システムとして評価することを提起したい。5大石橋を治水システムとしてとらえたならば、甲突川の治水戦略も違ったものになったであろうし、江戸期最大級の石橋群を現地に生きて保存する道が選択されたであろう
著者
北田 隆
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.7-16, 1981-08-20 (Released:2010-11-26)
参考文献数
26
被引用文献数
3

本研究の主目的は, Deci (1975) とRoss (1976) の両仮説を検討することを通じて, 成績に基づく報酬が内発的動機づけに及ぼす効果に関する機制を明らかにすることにある.54名の女子大学生が, 2つの独立変数より成る6つの条件に, 各々9名ずつ無作為に割り当てられた. 独立変数は, 報酬 (成績に基づく報酬と無報酬条件) と成績 (高成績, 低成績, そして統制条件) であり, 2×3の要因配置の実験計画がとられた. 成績の水準は, 課題に対する被験者の能力に関する偽のフィードバックを与えることによって操作された.各被験者は, 上記6条件のいずれかの条件の下で, 課題として射撃ゲーム (T.V. ゲームの一種) を120回遂行した. 続いて, 従属変数として, 課題遂行に対する楽しさや興味等の評価と, 8分間の自由選択時間 (無報酬事態) に再びゲームに取り組まれる持続性とが測定された.主な実験結果は次のようであった.(a) 統制条件において, 報酬は内発的動機づけに影響を及ぼさなかった.(b) 高成績, 低成績の両条件において, 報酬は内発的動機づけの水準を低下させた.(c) 無報酬条件において, 高成績と低成績の両条件における内発的動機づけは, 統制条件のそれに比較して, 増大を示した.(d) 上記の効果は, 課題評価においてはみられず, 持続性においてのみみられた. また, 両従属変数の間には, 全く相関が認められなかった.(e) 更に, 上記の効果は, 実験試行時の疲労や飽和によるものでないことが明らかにされた.以上の結果に基づいて, 外因性報酬と成績が内発的動機づけに及ぼす効果に関する図式 (Fig. 1) が提案された. その図式は, 報酬が内発的動機づけに及ぼす効果を説明するのに際して, 成績の水準のみならず, その確実性をも重要な変数として考慮すべきことを主張するものである. 例えば, 克服不能な確実な失敗は, 内発的動機づけを損うが, 克服が期待される失敗は, むしろ, 内発的動機づけの水準を高めるであろう.
著者
森岡 耕作
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.87-110, 2009-04

論文マーケティング研究における重要な研究領域と見なされるブランド論で先駆的研究を展開したAaker(1991)は,「同種の製品であっても,そのブランド名が付いていることによって価値に差異が生じる」という興味深い命題を提唱した。しかしながら,それに続く既存研究は数多く存在するものの,消費者があらゆる点について同種であると見なす製品を前提にして,その製品に付与されるブランド価値の生成について議論を展開することはなかった。このことを問題視する本論は,消費サイドにおけるブランド価値の生成と変容というダイナミックな現象について,前半部ではN. Luhmannの社会システム理論に依拠しつつ,補完的にLeibenstein(1950)のバンドワゴン効果/スノッブ効果,およびGranovetter(1978)の閾値モデルを援用して,「ブランド価値はバンドワゴン効果を伴う消費者間コミュニケーションよって生成し,他方,スノッブ効果を伴う消費者間コミュニケーションによって崩壊し,さらに,それらの組み合わせによってブランド価値は生成・変容する」ということを説明した。他方,後半部においては,その現象を理解するために,マルチエージェント・シミュレーションを設計・実行した。その結果,既存のブランド論が捨象してきた議論領域においても,ブランド価値が生成・変容しうることを明らかにした。そして,このように展開される本論は,一方では,Luhmann の社会システム理論が既存のブランド論の問題ないし限界を克服するために有用な理論枠組であることを示し,他方においては,ブランド価値の生成・変容という具体的な現象を吟味することによって,それまで一般的かつ抽象的な議論に留まっていた社会システム理論の発展可能性を示唆した。Prior research on brand equity or brand value has assumed that all products are the same in their functions but different in their marketing activities. However, we can assume that products are the same in not only their functions but also their marketing activities, and this assumption has been paid little attention. So, this paper aims to explore how the emergence and collapse of products' brand values resulting in their up-and-down market shares can be possible when all products are same in all aspects. At first, we use Niklas Luhmann's social system theory to explain the emergence and collapse of brand values. Then, we get a constructive understanding of market share dynamics by conducting experiments using multi-agent simulation model. This is the way we imply the frontiers of brand research by suggesting that the social system theory is useful in analyzing the emergence and collapse of brand value.
著者
野崎 隆之
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.7-19, 2019-07-01 (Released:2019-07-01)
参考文献数
22

誤り訂正符号はディジタル情報に生じる誤りを訂正する基礎技術であり,信頼性が高い情報システムを実現する.消失訂正符号は誤り訂正符号の一種であり,ディジタル情報の消失を訂正する技術である.噴水符号は消失訂正符号の一つであり,ネットワークにおける一対多同報通信であるマルチキャストの信頼性を向上させることができる.本稿では,消失訂正符号と既存の噴水符号を概説した後に,筆者が提案したシフト演算を利用した噴水符号について説明し,その性能を比較する.
著者
宇野 宏司 高田 知紀 辻本 剛三 柿木 哲哉
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B2(海岸工学)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.I_1609-I_1614, 2016
被引用文献数
3

太平洋に直面する徳島・高知沿岸では,繰り返される南海トラフ地震によって,大きな津波被害を受けてきた.同沿岸域では,2011年の東北地方太平洋沖地震で津波被害の大きかった三陸地方沿岸と同じリアス式海岸となっている区間も多く見られる.一方,東日本大震災では多くの神社が津波からの被災を免れたことが知られている.古い歴史を有する神社は地域とともに歩んできた重要な公共空間であり,現在の分布は,過去の大災害等によって淘汰された結果を示しているとも考えられる.こうした社会背景を踏まえ,本研究では徳島・高知沿岸神社の空間分布と南海トラフ地震の津波被災リスクについて検証した.
著者
皆川 裕樹 増本 隆夫
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.25, 2012

気候変動の影響により豪雨規模の強大化が予想され、特に排水が困難な低平地域においては将来的に洪水や農地湛水等の被害リスク増加が懸念される。対応策の検討に向けて、これらの影響を定量的に評価することが重要である。一方、実際の豪雨被害の発生リスクやその度合いには、雨量とともに降雨波形の違いも密接に関係すると考えられる。そこで、解析の入力豪雨について様々な内部波形パターンを想定することで、被害の発生リスクの変化を定量的に評価した。本手順では、影響を評価するために構築した排水モデルに、模擬発生法によって作成した様々な降雨波形を持つ豪雨を入力することで影響を評価する。現在と将来の総雨量値は、これまでの成果より220 mm/3dおよび270 mm/3dと仮定した。それぞれの雨量値について、総雨量は一定で降雨波形の異なるデータを300パターン模擬発生させ、そのすべてを入力し解析を行った。得られる300個の解析結果のうち水位がある基準を超える割合を抽出し、その雨量に対する被害の発生リスクとして評価する。これを現在と将来で比較することにより、気候変動による影響を評価した。対象地区内の排水が集中する潟のピーク水位に注目すると、将来は現在と比較し大きな水位の出現頻度が増加しており、同地点で規定されている氾濫危険水位を超過する確率は現在で17%であるのに対し将来では32%と、15%のリスク増加となった。また、水稲の減収に関連する水田の湛水時間(30cm以上)を指標として農地被害の発生リスクを評価した。各水田の平均湛水時間を比較した結果、雨量の増加に対して脆弱な水田地区が推定でき、特に潟周辺や干拓により造成された低標高部の水田において湛水時間の増加が予測された。 このように、模擬発生法を活用することで様々な降雨パターンを想定でき、内部波形に注目した低平地排水への気候変動影響評価が可能となった。今後は、排水計画の見直しも視野に入れ、想定される対応策の検討とその効果を具体的に評価することが課題となる。
著者
鈴木 廣志 谷川 昇 長友 隆行 津田 英治
出版者
日本甲殻類学会
雑誌
Crustacean research (ISSN:02873478)
巻号頁・発行日
no.22, pp.55-64, 1993-11-10
被引用文献数
2

1986年5月,1987年6月および1990-1991年に,鹿児島県本土からトカラ列島にかけて,陸水産コエビ類の分布調査を行った.また,本土内を流れる川内川,万之瀬川および肝属川では,流程分布調査も行った.採集されたコエビ類は,ヌマエビ科が4属8種,テナガエビ科が2属9種であった.これら17種のうち13種が南方系の種類であったが,北方系の種も4種類出現し,本調査地域は両系の混棲する地域と考えられた.また,今まで沖縄島が北限とされていた,スベスベテナガエビMacrobrachium equidens,コツノテナガエビM. latimanus,およびツブテナガエビM. gracilirostreが大隅諸島(種子島,屋久島,口永長都島)でも採集された.したがって,これら3種の北限は大隅諸島まで引き上げられると考える.3つの河川における流程分布は,従来報告されているように河川形態,ダム,自然の滝などに影響されていることがわかり,河口から傾斜の緩やかな流域にかけては,両側回遊型のミゾレヌマエビCaridina leucostictaやミナミテナガエビMacrobrachium formosenseなどが分布し,ダムや滝などの上流域には,陸封型のミナミヌマエビNeocaridina denticulataやスジエビPalaemon (P.) pauddensのみが分布していた.
著者
国民図書株式会社 編
出版者
国民図書
巻号頁・発行日
vol.第24巻 (川柳狂歌集), 1928
著者
古山 周太郎 和田 浩明
出版者
The City Planning Institute of Japan
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.621-626, 2014
被引用文献数
2

本研究の目的は、実際に被災した山間地域を対象に、複数の集落における避難行動や災害対応の実態を把握することである。また、被災体験に基づく集落住民の防災意識をまとめている。研究対象地紀伊半島大水害で被災した五條市大塔町地区の集落とし、集落住民へのアンケート調査と、集落単位での防災地区懇談会で出された意見を分析した。その結果、被災地域の集落は、被災集落、避難集落、孤立集落、通常集落にわけられ、避難時には、行政や消防の支援の下、状況に対応しながら行動しており、避難しない集落でも、集落単位での安否確認や情報取得などに取り組んでおり、集落同士の協力関係もみられた。また、被災経験により災害に対する不安は高まり、早めの避難を意識する傾向がみられるが、孤立した経験をしていても自宅待機を望む住民もおり、体験の仕方によって防災意識に差が見られた。集落ごとの課題と対策においても、被災時の経験が影響しており、特に被災体験した集落では、直面した課題を現実的に捉えそれに対して実行的な対策を求めている。
著者
林 茂
出版者
一般社団法人 日本エネルギー学会
雑誌
燃料協会誌 (ISSN:03693775)
巻号頁・発行日
vol.31, no.8, pp.382-386, 1952-08-31 (Released:2010-06-28)

筆者は, 第2次大職前後を通じての米国におけるガソリン製造法の推移, すなわち, その職時態勢への切替え, 終戰に伴う平時への転換並びに最近のリフオミング法について述べ, この間の進歩により溜分とオクタン価の関係に異つた傾向のみられること, さらに, これらの進歩が隠れた多くの基礎的調査研究の成果によつてなされたものであることを指摘している。
著者
中島 久男
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.63, no.514, pp.225-232, 1998
参考文献数
134
被引用文献数
1 1

This paper studies the history of the Building and Repairs Organization affiliated with the Ministry of the Imperial Japanese Navy (MIJN) from 1872 through 1920, and the building engineers of MIJN. This paper shows the process of the Building and Repairs Organization expanding according to the Naval armament expanding plan since 1883. It shows the engineers' names, service period at the department, and personal histories. And it highlights the middle-ranked engineers who had come from the Building and Repairs Organization in each office, such as the Ministry of the Public Works, which assisted the architectural activities of MIJN.
著者
角田 由美子 吉村 圭司 中島 健 岡村 浩
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, pp.213, 2003

<b>目的</b> 市場には様々なデザインの婦人靴が出回っており、ヒールの形状も多種多様である。これらの中にはファッション性を重視するあまりにヒールの強度を考慮せずに設計されているものも認められる。ヒールの破損による事故は数多く報告されているものの、ヒールの強度と形状との関係について検討したものは見当たらない。したがって、現在流行しているスティレットヒールの強度についてヒールの高さ、太さ、補強芯の有無等から検討を行った。<b>方法</b> 実験には高さ約8cmで形状の異なる3種類のヒールを試料とした。ヒールの高さの影響を検討するために各ヒールの高さを1cmおよび2cm短くして試験を行った。ヒールの補強芯は鋼製パイプを用い、焼入れをしたパイプと焼入れをしていないものを用いた。また補強芯の入っていないヒールも試料とした。ヒールの素材はABS樹脂を用い、射出成型の条件は一定とした。これらのヒールについて、歩行で受ける強い衝撃に対する耐久性や柔軟性を評価する、婦人靴ヒールの衝撃試験を行った。また小さな衝撃を繰り返し加え、疲労破壊を評価する婦人靴ヒールの疲労試験を行なった。<b>結果</b> 1)ヒールの高さが低いほど衝撃を受ける位置がヒールのシート部近くになるため強度は強く、たわみや変形も少なかった。2)補強芯が入っているヒールは入っていないものよりも強度は強く、補強材としての効果が認められた。3)焼入れをした補強芯は焼入れをしていないものよりも強度は強く、たわみや変形も少なかった。4)ヒールが太いほど強度は強く、ヒール中央部のカーブが小さいものほど強い傾向が認められた。以上の結果から同一素材におけるヒールの強度はヒールの高さ、太さ、ヒール中央部の形状、補強芯の有無および焼入れの有無等が影響していることが認められた。