著者
岡野 敏明
出版者
一般社団法人 日本自殺予防学会
雑誌
自殺予防と危機介入 (ISSN:18836046)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.25-29, 2019-03-31 (Released:2022-06-30)

我が国の自殺死亡率(2015年)は19.7人で、32.7人のリトアニア(2015年)や28.3人の韓国(2015年)などに続き183か国の中でワースト18位となった。自殺予防対策において様々な関係機関が発表する自殺白書などの数字は、非常に大きな意味を成しており、関係各機関は数値目標を立てて対策に取り組んでいる。しかし自殺死亡率は、人口も違えば統計の信頼性や更新頻度が国によって異なるため、単純な比較が難しいとされる。このように視点や要件などが変われば様々な数字が出てくることもあり、一体どの数字を評価対象とすればよいのか、そもそも数字がどこまで現状を反映しているのか、結局自殺死亡率は本当に減少しているのか。統計に影響を及ぼす様々な背景を現場の検案医師の視点から問題提起をする。
著者
村上 栄一
出版者
日本腰痛学会
雑誌
日本腰痛学会雑誌 (ISSN:13459074)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.40-47, 2007 (Released:2008-01-22)
参考文献数
24
被引用文献数
3 2

仙腸関節由来の痛みの腰痛に占める頻度は約10%で,若年者から高齢者までの男女に発症する.MRI,CTで特異的な画像所見が得られず見逃される例が多い.その自覚疼痛部位は仙腸関節裂隙の外縁部を中心とした腰殿部が多く,鼡径部の痛みも特徴的である.多くの例でdermatomeに一致しない下肢の痺れや痛みを伴う.また圧痛が上後腸骨棘およびその周辺,仙結節靱帯,腸骨筋部で多くみられる.患者自身に疼痛の最も強い部位を1本指でささせるone finger testで上後腸骨棘およびその腸骨側の近傍がこの痛みに特異的な指さし部位である.仙腸関節由来の疼痛の診断は自覚疼痛部位,仙腸関節への疼痛誘発テスト(Newton テスト変法, Gaenslen テスト, Patrick テスト)を参考に仙腸関節ブロックの効果で決定する.治療は骨盤ゴムベルトの装着や仙腸関節ブロックの保存療法が効果的であるが,これらの保存療法に抵抗し,日常生活や就労に著しい障害を伴う例には仙腸関節固定術が有効である.
著者
下司 忠大 吉野 伸哉 小塩 真司
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.94.21234, (Released:2023-02-01)
参考文献数
44

The purpose of this study is to translate the Courage Measure (CM) into Japanese and to examine the validity of the Japanese version of the CM (CM-J). Study 1 (N = 1,000) showed that the CM-J has a one-factor structure similar to previous studies and that it has sufficient measurement accuracy and good reliability based on item response theory. Study 2 (N = 366) confirmed the convergent and criterion-related validity of the CM-J in relation to optimism, pessimism, subjective well-being, Big Five personality traits, and the behavioral indicator. Study 3 (N = 200) confirmed the convergent validity of the CM-J in relation to resilience, bravery, authenticity, and grit. The CM-J is useful to the research of individual differences in courage and, in the future, for screening the clients who potentially drop out in exposure therapy.
著者
高橋 幾 小野島 昂洋 梅永 雄二
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.41-49, 2021-02-28 (Released:2022-02-28)
参考文献数
12

移動スキルは発達障害者の充実した地域生活にとって重要であり、運転免許取得は公共の交通機関が整っていない地域においては活動範囲の拡大につながる。しかし、日本では発達障害者の運転免許取得に関する研究は少なく、その実態は未だ明らかでない。そこで、本研究は発達障害者が運転免許取得の際に抱える困難と必要とされる支援を探索的に検討することを目的に、発達障害に特化したコースを設置しているA自動車教習所の教習データの分析、および同コースの指導員への聞き取り調査を行った。教習データの分析から発達障害者は(1)技能教習・卒業検定では、定型発達者より多くの時間を要する人の比率が高いこと、(2)技能教習では、不器用さや般化の困難などの発達性協調運動症(以下DCD)の特性との関連が指摘された。また、聞き取り調査からは、(3)指導員が技能教習で問題と感じていることは、視野・操作・般化の3つの「運転技能」の領域および「指示理解」「運転への不安」であったこと(4)支援の工夫では、運転技能への課題と併せて「指示方法の変更」「情報収集・連携」「心理面への配慮」の対応がとられていること(5)定型発達群も技能教習で問題となるところは発達障害群と変わらないことなどが明らかとなった。これらの結果に基づき発達障害者の運転免許取得において求められる支援を議論した。
著者
成島 朋美 Noraini Azlin Binti Mohd Amin 志村 まゆら 野口 栄太郎
出版者
Japan Society of Neurovegetative Research
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.54-62, 2023 (Released:2023-04-03)
参考文献数
24

足底を対象とする手技療法は,「リフレクソロジー」や「足ゾーン・セラピー」など様々な名称で呼ばれ,補完代替医療の一つとして世界各国で行われている.しかし,その効果の機序となる基礎医学的検討はほとんど行われておらず,名称の由来となる反射の存在も確認されていない.そこで我々は,足底の限局した部位への圧刺激の血圧・心拍数および胃内圧に対する反応を指標に,その神経性機序と特異的な反射区の存在を確認する目的で実験を行った.求心路および遠心路の神経切断結果から,足底点状圧刺激は体性感覚神経から入力され,複数の自律神経を遠心路とした反射性反応を誘発することが明らかとなったが,反射区の存在を明らかとすることは出来なかった.
著者
西堤 優
出版者
The Philosophy of Science Society, Japan
雑誌
科学哲学 (ISSN:02893428)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.1_31-1_44, 2010 (Released:2010-09-26)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

The Somatic Marker Hypothesis (SMH) proposed by A. R. Damasio has brought forward a new framework for understanding our decision-making based on the latest findings of neuroscience, and holds that emotion is an essential factor in any decision-making. However, the “Iowa Gambling Task” (IGT), which is the evidence to confirm the hypothesis, has unclear points about how to interpret its results. The present paper makes clear the interpretative problem of the IGT results, suggests some additional tasks to solve the problem, and then, clarifies the contents of SMH.
著者
服部 英雄
出版者
公益財団法人 史学会
雑誌
史学雑誌 (ISSN:00182478)
巻号頁・発行日
vol.92, no.8, pp.1304-1331,1419-, 1983-08-20 (Released:2017-11-29)

Among those diplomatics during Japan's medieval period, there exist several items which have been dated with an era name before the official change to that era name, it was called mirainengo 未来年号 ; and conversely, there are those items which have been dated with an era name despite the official change to a new era. In this report, the author carries out an investigation of such items from five diplomatics related to the following proprietary estates (shoen 荘園) : Kuroda-no-sho 黒田荘 owned by the temple, Todaiji 東大寺, Yamamoto-no-sho 山本荘 owned by the Matsuo Shrine 松尾神社, Kagado-no-sho 香登荘 owned by the temple, Negoroji 根来寺, estates directly managed by the temple, Eizanji 栄山寺, Kono-makuni-no-sho 神野真国荘 owned previcusly by Jingoji 神護寺, and then Koyasan 高野山. As a result of his investigation, the author has been able to make clear the fact that these items are diplomatics which have been falsified for the purpose of deceiving their recipients out of personal interest. Therefore by means of this type of historical material textual criticism, it is hoped that researchers can use obviously falsified diplomatics (gimonjo 偽文書) to ferret out those true facts of manorial history which have heretofore escapednotice by scolars.
著者
台湾総督官房企画部 編
出版者
台湾総督官房企画部
巻号頁・発行日
vol.昭和10年末, 1939

13 0 0 0 OA 最新国防叢書

出版者
科学主義工業社
巻号頁・発行日
vol.第1輯, 1938
著者
樽見 博
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.63, no.8, pp.335-339, 2013-08-01 (Released:2017-04-18)
参考文献数
3

書物の誕生と同時に古書は生まれ,書物の流通の歴史が始る。書店の初期の形態は,新刊書の制作から販売,さらに古書の売買も伴うものであった。書物の刊行が増えるに従って新刊書店と古書店は分離し,流通の仕方も変わった。古書業界は業者間の交換市を経営し,需要と供給の関係から販売価格を決めるシステムを確立した。全国組織を作り貴重な古書を掘り起こし,古書の後世への伝達という役目を果たしてきた。21世紀に入り,書物の世界にもデジタル化の波が押し寄せてきた。書物という形態に大きな変革が起きようとしているが,1冊1冊に個性が備わる古書の価値を見極める仕事として,今後ますますその専門的な知識と経験が問われるようになってきた。
著者
亘 悠哉
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.27-38, 2011 (Released:2011-07-27)
参考文献数
91
被引用文献数
2

外来種の侵入による生物多様性・生態系機能の低下,および経済被害はきわめて甚大で,各地域特有の自然や暮らしを脅かす切実な問題となっている.こうした問題を解決するために,各地で外来種駆除が実施されており,近年では根絶成功例や在来種の回復など,駆除による対策の有効性が成果として現れてきている.一方で,たとえ外来種を減少させることができたとしても,インパクトを受けていた生態系が必ずしも回復するとは限らず,時には状況がさらに悪化してしまう場合もある.このような知見は個々の論文で報告されてきたものの,全体像が整理され示されたことはこれまでになかった.本総説では,このような知見を整理し,外来哺乳類の影響の環境依存性や非線形性,ヒステリシス,外来種間の相互作用などを,意図しない現象の理由として挙げ,そこには,食性のスイッチングやアリー効果,外来種の侵入と生息地改変の複合効果,メソプレデターリリースなどのプロセスが関わりうることを紹介した.また,それぞれのプロセスに応じた対処法として,在来種の回復の評価プロセスの導入や生息地管理,他の生物の管理などをリストアップした.以上のような対処法が取り入れられた総合的な外来種対策の実践例は,近年報告が増えはじめてきた段階である.このような個々の実践例を積み重ね,対処法の有効性を検証していくことは,個々の地域の問題を解決するだけでなく,さらなる実践例を生み出す上でも重要な役割を果たしていくであろう.