著者
交野 好子 佐藤 啓造
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.448-457, 2001
被引用文献数
1

本研究は妊娠期の妊婦および胎児の父親を対象に, 妊娠の期待度や受け止め方, 胎児に対する思向等の胎児認知のあり方を明らかにするものである。その上で本研究は妊娠期の心的ハイリスクから, 将来の育児不安, 育児放棄, 虐待等の素因を, 早期診断できる測定具の開発を目指した基礎研究として位置づけられるものである.研究方法は質問紙を用いた自記式調査である.調査対象は妊婦429名, 回収率100%, 有効回答は418名 (98.1%) , 父親は230名, 回収率80.0%, 有効回答182名 (99.5%) であった.質問内容は (1) 年齢, 初妊・経妊別, 妊娠週数, (2) 妊娠の期待度および喜びの度合い, (3) 妊婦は父親となる夫が妊娠を喜んでいると感じているか, また逆に, 父親は妊婦が妊娠を喜んでいると感じているか否かである.さらに, (4) 妊婦および父親がどのように胎児・新生児ならびに出産後の育児等の状況イメージを描いているかについての質問22項目で構成されている.研究結果は妊娠の期待度, 妊娠の喜びの有無ならびに程度は, 妊婦と父親では異なるこが判明した.妊婦は妊娠の期待度・喜び度が高く, さらに父親になる夫が妊娠を喜んでいると感じている場合には, 胎児ならびに新生児の状況イメージが豊かに描けていた.それに対して父親は, 妊娠の期待度や妊婦が喜んで妊娠を受け止めているか否かでは平均得点に差は認められなかった.妊娠を喜んでいる場合のみ, 想像項目の中でも体内胎児および出産場面では想像の平均得点に開きが認められた.想像は妊婦の胎児認知の様相を表すには, 有効な方法であるが, 父親については今後検討していく必要性が示唆された.妊娠を父親が喜んでいると感じるか否かが想像得点を左右する点では, 妊婦が胎児を喜んで受け入れ, 愛情を注ぐことができるには夫の感情が大きく影響していると言える.鈴木の「子どもの虐待リスク因子」によれば, 虐待者は実母 (67%) が実父 (24%) をはるかに上回っている.一般的には, 「お腹を痛めて産んだこどもを母親は何故虐待するのか」と問われる.しかし, 本研究結果からみると, 妊婦の胎児認知は自分はもとより, 夫が妊娠を喜んでいるか否かに依拠していることが明らかになった.妊婦と胎児との関係にはその空間に夫の感情や夫婦関係が胎児認知のあり方に影響していることが推測される.妊娠中の心的ハイリスク因子は (1) 何らかの理由により妊娠を期待しない, (2) 自分も夫も妊娠を喜んでいないに加え, (3) 体内胎児や新生児ならびに出産後の育児等の状況イメージが描けないことにある.これらの妊婦に対応した場合, 継続的な心理的支援が必要であると考える.
著者
苅部 智恵子 佐藤 啓造 丸茂 瑠佳 丸茂 明美 藤城 雅也 若林 紋 入戸野 晋 米山 裕子 岡部 万喜 黒瀬 直樹 島田 直樹
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.349-358, 2012 (Released:2013-03-14)
参考文献数
19
被引用文献数
2

安楽死・尊厳死について国民の意識がどうなっているか調査した報告は少なく,特に大学生の意識を報告した論文はほとんど見当たらない.少数ある報告も限界的医療全般について調査したものであり,安楽死について賛成か否かを表面的に調査したに留まっている.本研究では同じ生物学を中心に学んでいるが将来,安楽死・尊厳死に関わる可能性のある医学生と特にその予定はない理系学生を対象として同じ内容のアンケート調査を行った.アンケートでは家族に対する安楽死・尊厳死,自分に対する安楽死・尊厳死,安楽死・尊厳死の賛成もしくは反対理由,安楽死と尊厳死の法制化,自分が医師であるとすれば,安楽死・尊厳死について,どう対応するかなど共著者間で十分,協議をしたうえで,新しい調査票を作成し,これを用いた.医学生は安楽死・尊厳死について,ひと通りの理解をしているはずの99名から無記名のアンケートを回収した(回収率:87.6%).理系学生は医学生のほぼ同年輩の生物学系の博士前期課程学生に対し,第二著者が安楽死・尊厳死について,ひと通り説明した後,69名から無記名で回収した(回収率:71.9%).前記5つの課題について学部間,性別間の意識差について統計ソフトIBM SPSS Statistics 19を用いてクロス集計,カイ二乗検定を行い,p < 0.05を有意差ありとした.その結果,家族の安楽死については学部間で有意差があり,医学生は理系学生より依頼する学生の比率が低く,依頼しない学生の比率が高いことが示唆された.医学生,理系学生ともに家族の安楽死希望理由で「本人の意思を尊重したい」が過半数を越え,自己決定権重視の一端を示していた.尊厳死では両学部生とも希望しない学生より希望する学生が多く,特に理系学生で希望する比率が高かった.性別では自分の尊厳死を希望する比率で有意差があり,女性の方が多かった.家族の尊厳死でも希望する比率は女性の方が多かった.家族の尊厳死,自分の尊厳死を家族の安楽死,自分の安楽死と比較したところ,安楽死より尊厳死を希望する学生が両学部生とも多かった.家族の尊厳死希望理由で医学生,理系学生ともに「本人の意思を尊重したい」が60%以上を占めた.安楽死・尊厳死について法制化を望むか否かを調べると,学部間では有意差があり,医学生は大多数が安楽死・尊厳死の法制化を望んでいるのに,理系学生は両方とも法制化を望まない学生も26%を示した.性別間では女性で尊厳死だけ法制化を望む人が31%を占めた.自分が医師の立場になった場合,安楽死・尊厳死を実施するか否かを調べると,学部間で有意差があり,要件を満たせば積極的安楽死を実施するとしたのが理系学生で41%を示したのに対し,医学生では16%に留まった.性別間では積極的安楽死を実施するのは男性が10%上回ったのに対し,尊厳死を選択するのは女性が10%上回った.以上の結果から医学生は理系学生に比べ,安楽死・尊厳死の実施に慎重であり,両方とも法令のもとに実施を希望していることが明らかとなった.
著者
根本 紀子 佐藤 啓造 藤城 雅也 西田 幸典 上島 実佳子 米山 裕子 渡邉 義隆 佐藤 淳一 栗原 竜也 長谷川 智華 浅見 昇吾
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.76, no.5, pp.615-632, 2016 (Released:2017-03-16)
参考文献数
24

不妊治療を含めた生殖に関わる医療を生殖補助医療(assisted reproductive technology:ART)と呼ぶ.第三者が関わるART〔非配偶者間人工授精(artificial insemination with donor's semen:AID),卵子提供,代理出産など〕には種々の医学的,社会的,倫理的問題を伴うものの,規制もないままなしくずし的に行われつつある.第三者の関わるARTについて国民の意識調査を実施した報告は少数あるが,大学生の意識調査を行った研究は見当たらない.本研究ではある程度の医学知識のある昭和大学医学部生と一般学生である上智大生を対象として第三者が関わるARTに対する意識調査を行った.アンケートに答えなくても何ら不利益を被ることのないことを保証したうえでアンケート調査を行ったところ,医学部生235名,上智大生336名より回答を得た(有効回収率94.5%).統計解析は両集団で目的とする選択肢を選択した人数の比率の差をχ二乗検定またはFisherの直接確立法検定で評価し,P<0.05を有意水準とした.第三者の関わるARTの例としてAID,卵子提供,ホストマザー型(体外受精型)代理出産,サロゲートマザー型(人工授精型)代理出産を取り上げ,その是非を尋ねたところ,医学生と一般学生で有意差は認められなかったものの,前3者については両群とも70%以上の学生が肯定的な意見を示したのに対し,サロゲートマザー型代理出産については両群とも40%以上の学生が否定的な意見を示した.「自身の配偶子の提供を求められた場合」と「自身あるいは配偶者が代理出産を依頼された場合」の是非については有意に医学生の方が一般学生より抵抗感は少なかった.1999年の一般国民を対象とした第三者の関わるARTについての意識調査では7割から8割の国民が否定的な意見を述べたことに注目すると,この十数年間で第三者の関わるARTについての一般国民の考え方も技術の進歩と普及に伴い,かなり変化したといえる.今回,これからARTを受けることになる可能性のある若い世代に対する意識調査でAID,卵子提供,ホストマザー型代理出産について肯定的な意見が多数を占めたことは注目すべき結果といえる.本稿では上記三つのARTはドナーや代理母の安全を確保したうえで法整備を進めるべきであると提言したい.また,サロゲートマザー型代理出産は代理母に感染などの危険があるうえ,社会的,倫理的問題を多く伴うので,規制することも視野に入れたうえで法整備を進めるべきと考える.なお,第三者の関わるARTの実施に当たってはARTに直接関与しない専門医によりARTを受ける夫婦およびドナー,代理母に対し,利点,欠点,危険性が十分説明されたうえで当事者の真摯な同意を法的資格を有するコーディネーターが確認したうえでの実施が望まれる.ARTに関する法律が存在しない現在,医学的,倫理的,法的,社会的に十分な議論をしたうえでの一日も早い法整備,制度作りが望まれる.
著者
佐藤 啓介
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.86, no.2, pp.299-322, 2012-09-30

本稿は、世界における悪(とりわけ自然悪)の存在を考える思索について、神の正当化を目指す狭義の神義論から区別し、悪の存在に対する抗議をおこなう思索を広義の神義論として定義し、そうした抗議の声に含まれる宗教哲学的な原資を探るものである。私たちは、自然悪について、自然への謙譲には収まらない抗議や不満を覚える。バーガーによれば、その抗議や不満の根底にあるのは、神の義から切り離してもなお要求しうるような、悪の意味の要求である。だが、この悪の意味は不明確な概念であり、アンリによれば、悪の外的な意味と受苦の内的な意味を区別すべきであり、後者の受苦は、生そのものの成立に関わる超越論的構造に組み込まれるべきものである。他方、外的な悪に対する苦しみへの宛て先のない抗議は、ネグリに従えば、悪の意味の要求ですらなく、悪を不公平と感じる尺度そのものへの反抗であり、尺度を超えた尺度の主体と世界の存在論的生成の契機なのである。
著者
岩田 浩子:筆頭著者 佐藤 啓造:責任著者 米山 裕子 根本 紀子 藤城 雅也 足立 博 李 暁鵬 松山 高明 栗原 竜也 安田 礼美 浅見 昇吾 米山 啓一郎
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.156-167, 2018-04 (Released:2018-09-11)

終末期医療における治療の自己決定は重要である.終末期医療における自己決定尊重とそれをはぐくむ医療倫理教育に関する課題を,安楽死・尊厳死の意識から検討する.われわれが先行研究した報告に基づき医学生と一般人と同質と考えられる文系学生を対象として先行研究(医学生と理系学生)と同じ内容のアンケート調査を行った.アンケートでは1)家族・自分に対する安楽死・尊厳死,2)安楽死・尊厳死の賛成もしくは反対理由,3)安楽死と尊厳死の法制化,4)自分が医師ならば,安楽死・尊厳死にどう対応するかなどである.医学生は安楽死・尊厳死について医療倫理教育を受けている230名から無記名のアンケートを回収した(回収率91.6%).文系学生は教養としての倫理教育をうけている学生で,147名から無記名でアンケートを回収した(回収率90.1%).前記5項目について学部問の意識差について統計ソフトIBM SPSS Statistics 19を用いてクロス集計,カイ二乗検定を行いp<0.05を有意差ありとした.その結果,家族の安楽死については学部間で有意差があり,医学生は文系学生と比較し医師に安楽死を依頼する学生は低率で,依頼しない学生が高率で,分からないとした学生が高率であった.自分自身の安楽死について医学生は医師に依頼する学生は低率で,依頼しない学生は差がなく,分からないとした学生は高率であった.家族の延命処置の中止(尊厳死)では,医学生と文系学生間で有意差を認めなかった.自分自身の尊厳死は,医学生は文系学生と比較し,医師に依頼する学生は低率で,かつ依頼しない学生も低率で,分からないとした学生が高率であった.もし医師だったら安楽死・尊厳死の問題にどう対処するかは,医学生は条件を満たせば尊厳死を実施すると,分からないが高率で,文系学生では安楽死を実施が高率で医学生と文系学生との間に明らかな差を認めた.法制化について,医学生は尊厳死の法制化を望むが多く,文系学生では安楽死と尊厳死の法制化を「望む」と「望まない」の二派に分かれた.以上より終末期医療における安楽死・尊厳死の課題は医学生と一般人と同等と考えられる文系学生に考え方の相違があり,医学生は終末期医療における尊厳死や安楽死に対して「家族」「自分」に関して医療処置を依頼しない傾向がある一方,判断に揺れている現状が明らかとなった.文系学生は一定条件のもとで尊厳死を肯定する意識傾向があった.医学生の終末期医療に関する意識に影響する倫理的感受性の形成は,医学知識と臨床課題の有機的かつ往還的教育方略の工夫が求められる.「自己」「他者」に関してその時に何を尊重して判断するかを医学生自身が認識することを通して,倫理的感受性を豊かにする新たな教育の質を高める努力が必要である.文系学生においても終末期医療の現実を知ることや安楽死・尊厳死を考える教育が必要であると思われた.
著者
佐藤 啓介 大島 一郎 中野 久松
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 B (ISSN:13444697)
巻号頁・発行日
vol.J106-B, no.12, pp.797-804, 2023-12-01

本論文は,28 GHz帯用の高利得マルチビーム誘電体ロッドアンテナシステムを提案している.本アンテナは,扇形に配置された四つの誘電体ロッド部と,4素子リニアパッチアレーによる励振部とから構成されている.4方向高利得マルチビームの27 GHz~29.5 GHzにおいてVSWR = 2以下,利得19 dBi以上のアンテナ特性が得られるように設計する.試作機のVSWRと指向性はシミュレーションと良く一致する特性を示している.
著者
小俣 元美 原野 崇 佐藤 啓輔 横山 楓 片山 慎太朗 定金 乾一郎 小池 淳司
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.7, pp.22-00023, 2023 (Released:2023-07-20)
参考文献数
10

本稿では,道路整備のストック効果把握の一環として,空間的応用一般均衡(SCGE)モデルを用いて,最初の開通から半世紀を経た全国の高規格幹線道路整備が地域経済に与えた長期的な効果とその変遷を検証する.分析の結果からは,これまでに段階的にネットワーク整備がなされた結果として,付加価値額変化では,関東・甲信越から中国地方にかけての本州エリアを中心に大きな効果が帰着している傾向にあることが分かり,このような地域の産業活動の日本経済全体の成長への貢献が確認された.一方,便益をみると,全国に広く正の効果が帰着しており,国土の均衡ある発展に高規格幹線道路が貢献していることが確認できた.
著者
中野 貴文 中村 智美 仲村 佳彦 入江 圭一 佐藤 啓介 松尾 宏一 今給黎 修 緒方 憲太郎 三島 健一 神村 英利
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.137, no.7, pp.909-916, 2017-07-01 (Released:2017-07-01)
参考文献数
34
被引用文献数
3 4

Warfarin (WF) shows a number of interactions with other drugs, which alter its anticoagulant effects. The albumin binding interaction is one such pharmacokinetic mechanism of drug interaction with WF, which induces a rise in the free WF concentration and thus increases the risk of WF toxicity. Teicoplanin (TEIC) is an anti-methicillin-resistant Staphylococcus aureus drug, which also binds strongly to albumin in the plasma. Therefore, co-administration of TEIC may displace WF from the albumin binding site, and possibly result in a toxicity. The present study was performed to investigate the drug-drug interaction between WF and TEIC in comparison with controls treated with vancomycin (VCM), which has the same spectrum of activity as TEIC but a lower albumin binding ratio.The records of 49 patients treated with WF and TEIC or VCM at Fukuoka University Hospital between 2010 and 2015 were retrospectively reviewed. These 49 patients consisted of 18 treated with TEIC in combination with WF, while 31 received VCM in combination with WF. Prothrombin time-international normalized ratio (PT-INR) showed a significant increase of 80.9 (52.0-155.3) % after co-administration of TEIC with WF. In contrast, the rate of PT-INR elevation associated with VCM plus WF was 30.6 (4.5-44.1) %. These observations suggested that TEIC can cause a rise in free WF concentration by albumin binding interaction. Therefore, careful monitoring of PT-INR elevation is necessary in patients receiving WF plus TEIC.
著者
小林 正人 佐藤 啓太 佐藤 和紀
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会構造系論文集 (ISSN:13404202)
巻号頁・発行日
vol.87, no.802, pp.1123-1132, 2022-12-01 (Released:2022-12-01)
参考文献数
10
被引用文献数
1

In 2016, a countermeasure against the Nankai trough long-period and long-duration ground motions (LPGMs) was announced. However, the response spectrum method (RSM), indicated by the Ministry of Construction notification Vol. 2009 (MCN), is out of the countermeasure. An RSM that considers characteristic changes due to repeated deformation has also been proposed, but since the damping correction formula of MCN is used, its applicability to LPMGs has not been sufficiently investigated. In this paper, we proposed a method for evaluating the influence of characteristic changes due to repeated deformation using RSM for LPGMs and seismically isolated buildings using LRB.
著者
木村 亜矢子 堀 匠 佐藤 啓子 佐藤 智美 先崎 章
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.421-427, 2017-12-31 (Released:2019-01-02)
参考文献数
4

記憶障害と発動性低下のため日常生活の遂行が難しい患者 1 例に対し, SNS (social networking service) を用いた支援を行った。症例は 40 代, 男性の運転手で前交通動脈瘤破裂によるくも膜下出血を発症した。身体, 言語機能はほぼ問題ないが, 重度記憶障害, 発動性の低下を中心とした高次脳機能障害を認めた。入院当初メモリーノートや, アラーム機能による行動指示を試みたが, 活用は困難であった。 本人が使い慣れていた SNS (LINE のトーク機能) を使用し, 多職種チームが連携して支援を行った結果, 病棟生活では標準意欲評価法 (CAS) による評価が改善し, 退院後もLINE を用いて屋外での単独行動が安全に可能となった。家族にとっても行動を遠隔に確認し見守ることができ, 退院後の安心や省力化につながった。SNS (LINE) による行動指示や記憶を補完する支援は, 患者が自立した生活を送るために有効であった。
著者
佐藤 啓介
出版者
日本ミシェル・アンリ哲学会
雑誌
ミシェル・アンリ研究 (ISSN:21857873)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.25-49, 2014 (Released:2019-07-12)
参考文献数
16

This article investigates Henry’s transcendental Interpretation of John critically. The ideas on God and Jesus which John tells are close to the structure of Life in Henry’s phenomenology in that God, Jesus, Truth, Life and Logos are identical and they preexist in God himself together. It is not the case, however, that John changes Henry’s philosophy, but rather that the method of his biblical interpretation can be called “check for the correspondence”. Moreover, his correspondence-method fails on that it cannot cover the death of Jesus John tells as “death in God’ glory”. This failure appears clearly in Henry’s interpretations of John 10:1-18 (parable of the Good Shepherd and His Sheep) as Henry’s interpretation cannot include the phrase “lays down one’s life” (in 11, 15, 17 and 18) which Jesus declares. Jesus which Henry tells doesn’t die, contrary to John’s narrative.
著者
江頭 沙織 福田 真人 佐藤 啓 藤本 顕治 都築 雅年 島田 忠明
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.37-48, 2014 (Released:2017-03-02)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

1970年以降,我が国では地熱資源開発の促進が進められ,旧地質調査所や新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) による全国的な地熱資源調査が行われ,地熱発電所の建設が進められたが,1999年の八丈島の地熱発電所を最後に新規の発電所の建設はない。この要因として,地熱資源の多くが自然公園内に存在すること,地下に特有なリスクに起因するコスト高などがあげられる。しかしながら2011年の震災以降,地熱資源の見直しが行われ,地熱開発の促進は重要な課題のひとつとなった。   2012年8月の法律改正により,石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (JOGMEC) に地熱資源の開発促進の機能が追加となった。この機能には,地熱開発事業者が実施する地質構造調査における助成金の交付,探査における出資,開発における債務保証などの支援,また自主的な調査による情報提供があり,さらに2013年度から技術開発事業も加わった。   本稿では,JOGMECが開始した支援事業および調査事業,ならびに技術開発の方針について紹介することとしたい。
著者
平沼 直人 藤城 雅也 佐藤 啓造
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.72, no.6, pp.628-636, 2012

医療訴訟においては,いかにして適切な医学的知見や意見を取り込むかということが重要な課題である.従来,医療過誤を理由とする損害賠償請求訴訟においては,裁判所の選任した鑑定人による裁判上の鑑定がその中核をなしてきた.ところが,近年,裁判上の鑑定に代わり,訴訟当事者すなわち原告ないし被告の提出する,いわゆる私的意見書が重要な地位を占めるようになった.本研究では,医学的意見を訴訟に反映させる方法として,鑑定,私的意見書,専門委員,付調停,事故調査報告書,死体検案書,後医の診断書,ドクターヒアリング,聴取書を取り上げ,その運用の実態と優劣を検討する.筆頭著者が医療側被告訴訟代理人として一審判決を受け確定した直近の12件につき,事案の概要・争点,診療科目,裁判所所在地・医療集中部と通常部の別,判決年月日,患者側原告代理人の有無,患者側原告私的意見書提出の有無・有の場合の意見書作成者に対する証人尋問実施の有無,医療側被告私的意見書提出の有無・有の場合の意見書作成者に対する証人尋問実施の有無,鑑定実施の有無,判決結果,控訴の有無,特記事項をまとめて表にした.わが国の民事訴訟制度は,利害の鮮明に対立する当事者が主張・立証を闘わすことによって真実が明らかになるという当事者主義の訴訟構造をとっている.裁判上の鑑定が白衣を着た裁判官とも言うべき鑑定人による職権主義的な色彩を持つのに対し,私的意見書は当事者主義の訴訟構造によく適合している.また,鑑定には,公平・中立性を十分に担保する仕組みがない,時間がかかるといった問題があり,これを解決すべく創設された複数医師によるカンファレンス方式鑑定にも法律上の疑義が呈されており,やはり私的意見書を審理の中心に据えることにより解決すべきであることが12件の実例の検討により明らかとなった.このように訴訟は私的意見書を巡る攻防となるべきであるから,原告患者側は訴状提出の際は私的意見書を添付すべきであり,これに対し,被告医療側はまず,反論と医学文献による反証をなし,それで不十分な場合には私的意見書の提出を検討すべきである.双方から私的意見書が提出された場合,裁判所はこの段階で心証に従って和解を試みるべきであるが,和解不成立の場合には集中証拠調べに移行し,原・被告本人尋問に加え,原告側協力医の証人尋問を実施すべきである.鑑定はこうして万策尽きた際の伝家の宝刀たるべきである.このような私的意見書の役割に即して,今後はこれを当事者鑑定と呼称すべきことを提言する.
著者
高野 恵 佐藤 啓造 藤城 雅也 新免 奈津子 梅澤 宏亘 李 暁鵬 加藤 芳樹 堤 肇 伊澤 光 小室 歳信 勝又 義直
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.387-394, 2009-10-28 (Released:2011-05-20)
参考文献数
24

死後変化が進んだ死体において時に歯が長期にわたりピンク色に着染する現象が知られており,ピンク歯と呼ばれ,溺死や絞死でよく見られる.ピンク歯発現の成因として歯髄腔内での溶血により,ヘモグロビン(Hb)が象牙細管内に浸潤していくことが推測されているが,生成機序も退色機序も十分明らかになっていない.先行研究において実験的に作製したピンク歯では一酸化炭素ヘモグロビン(COHb)や還元ヘモグロビン(HHb)によるピンク歯は6か月以上,色調が安定であったのに対し,酸素ヘモグロビン(O2Hb)によるピンク歯は2週間で褐色調を呈し,3週間で退色することを既に報告している.ピンク歯の生成・退色機序を解明するうえで,O2Hbによるピンク歯が早期に退色する現象を詳細に検討することは意義のあることと考えられる.う歯がなく,象牙細管がよく保たれた歯の多数入手が不可能であるため,本研究では象牙細管のモデルとして内径1mmのキャピラリーを用い,O2Hbによるピンク歯の退色について詳細に検討した.実際の歯とキャピラリーを用いてO2HbとCOHbの退色を比較したところ,キャピラリーはピンク歯のよいモデルとなることが分かった.キャピラリーを用いた詳細な実験で,O2Hbは酸素が十分存在し,赤血球膜も十分存在するという限られた条件において早期に退色することが明らかになった.このことはO2Hbに含まれる酸素が赤血球膜脂質と反応してHbの変性を来し,Hbの退色をもたらすことを示唆している.この退色は温度の影響をほとんど受けず,防腐剤の有無にも影響を受けなかった.死体では死後に組織で酸素が消費され,新たに供給されないので,極めて嫌気的な環境にあり,死後産生されたCOHbを少量含む主としてHHbによる長期的なピンク歯を生じやすいといえる.溺死体のような湿潤な環境で象牙細管へのHHbやCOHbの侵入と滞留があれば,ピンク歯はむしろ生じやすい現象といえるであろう.
著者
植木 正明 深澤 高広 伊藤 達也 伊藤 淳 大内 聖士 佐藤 啓三
出版者
南江堂
巻号頁・発行日
pp.727-730, 2021-06-01

は じ め に Simunovicら1)は2010年に大腿骨近位部骨折の早期手術は肺炎や褥瘡発症が少なく,死亡率は低いと報告した.その後,欧米のガイドラインでは,大腿骨近位部骨折は整形老年病医が参加した集学的プログラム管理下に入院後36~48時間以内の早期手術が推奨されている2).しかし,大腿骨近位部骨折手術は早ければ早いほど予後がよいのかという問題がある.この問題に対して,国際多施設共同研究によるaccelerated surgery versus standard care in hip fracture(HIP ATTACK)trialの研究成果3)が報告された. 一方,わが国のガイドライン4)では,できる限り早期の手術が推奨されている.欧米とは違う医療体制のわが国でどこまで早く手術を行えばいいのかという問題に対して,本研究では,大腿骨近位部骨折患者の救急外来受診後,手術まで6時間未満の超早期手術と6時間以降24時間未満の早期手術後の30日死亡率,術後合併症および入院期間を比較・検討したので報告する.