著者
荒木 希和子 福井 眞 杉原 洋行
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.169-180, 2017 (Released:2017-08-03)
参考文献数
54
被引用文献数
2

質を示すのは良性腫瘍である。また、悪性腫瘍(ガン)は、自らゲノムを改変したサブクローンを作り、そのニッチ幅もしくは環境収容力を広げることによって、周辺組織や他臓器に適応し、浸潤・転移する。これは細菌以外の生物個体レベルでは知られていない特異的な進化メカニズムである。マクロな生物の成育環境と同様、ガン細胞も変動環境下に存在し、治療や免疫は生体内での細胞に対する攪乱と捉えられる。そして、腫瘍細胞に突然変異等の遺伝的変化が蓄積するに伴い、ゲノム構成もサブクローン間で異なってくる。この遺伝的変化の時間的進行は、クローン性進化の分岐構造として、系統樹のような分岐図として示すことができる。組織内でのガン細胞の空間的遺伝構造は、組織内や成育地内で環境の不均一性とサブクローンの限られた分散距離を反映し、サブクローンがパッチ状に分布した構造になっている。このように、細胞レベルのクローン性の特性を生物のクローン性と比較することで、両分野に新たな研究の進展をもたらすことが期待される。
著者
梶原 洋一
出版者
公益財団法人 史学会
雑誌
史学雑誌 (ISSN:00182478)
巻号頁・発行日
vol.128, no.4, pp.34-58, 2019 (Released:2021-08-26)

一三世紀以来ドミニコ会は大学と緊密な関係を保っていたが、一四世紀半ばはその転機となった。従来ごく限られた大学にしか設置されなかった神学部が各地で新設され、ドミニコ会士の学位取得が格段に容易になったためである。結果、適性に欠ける学位保持者や取得を巡る不祥事の増加に直面したドミニコ会は、修道士の学位取得を厳密かつ中央集権的に管理する体制を一五世紀を通じて構築した。本稿ではこうした新しい制度的環境における、ドミニコ会士による学位取得に関わる規範と実践の関係を解明することを試みた。このためアヴィニョン大学神学部に注目し、学位取得のための修道士の大学派遣を記した修道会総会の決議記録や総長の書簡記録簿といったドミニコ会史料と、アヴィニョン大学の会計簿を対照することで、学位取得を目指した修道士たちについてプロソポグラフィ的分析を行った。一五世紀末のアヴィニョン神学部は、北フランスに広がっていたフランス管区出身のドミニコ会士をとりわけ引きつけたが、アヴィニョンでの学位取得を修道会から命じられた修道士の多くが、より格式の高いパリ大学における取得を望み、この任命を辞退した。修道会が指定する派遣先に不満を抱いたとき、修道士たちは上層部と積極的に交渉し、より有利な任命を引き出そうとした。フランス管区の修道士たちにとってアヴィニョンでの学位取得は、必要な課業について大幅な免除が受けられるという意味において安易である反面、パリでの取得と比べれば魅力に欠けていた。しかし反対に、アヴィニョン修道院を包摂するプロヴァンス管区のドミニコ会士たちにとっては、重要な出世コースとして機能し、修業の期間も長期化した。地方大学が代表するこうした多面的な役割、修道会や地域の情勢に応じ揺れ動く一つの神学部に対する評価は、中世末期の社会ヒエラルキーの中に大学学位が深く埋め込まれていた証左である。
著者
田原 洋樹
出版者
立命館アジア太平洋研究センター
雑誌
APU言語研究論叢 (ISSN:24321370)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.62, 2016 (Released:2022-03-23)
参考文献数
5

いわゆる『ベトナム戦争』は 1975 年 4 月に終結し、その後に南北統一国家としてのベトナム社会主義共和国が成立した。終戦、そして統一国家成立の一方で、ベトナム南部にあったベトナム共和国が消滅した。 このベトナム共和国で行われていたベトナム語と、現在のベトナム社会主義共和国のベトナム語には、語彙選択や「好ましいとされる話法」、および正書法に差異が認められる。 本稿は、主としてアメリカ・南カリフォルニアに居住するベトナム系住民の言語生活を観察することで得られた、旧ベトナム共和国のベトナム語『動態』について、わけても語彙レベルの考察を試みたものである。
著者
澤田 晶子 栗原 洋介 早川 卓志
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第32回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.57, 2016-06-20 (Released:2016-09-21)

食物の消化吸収に密接に関連する腸内細菌叢は、長期の食事パターンの影響を強く受けることでも知られている。本研究では、季節に応じて様々な食物を食べる屋久島の野生ニホンザル(Macaca fuscata yakui)の腸内細菌叢が、葉食、果実・種子食、昆虫食といった採食パターンに応じてどのように変化するのか検証した。調査期間は2012年10月から2013年9月、調査対象であるオトナメス3個体から糞を採取し、次世代シークエンサーで網羅的に細菌種を同定した。エンテロタイプ(3種の細菌の比率に基づき区分される腸内細菌叢の型)に着目したところ、どの採食パターンにおいてもプレボテラタイプ(高炭水化物食と関連するエンテロタイプ)になり、採食時間の70%近くが昆虫食であった昆虫食期においても変化はみられなかった。一方、プレボテラタイプでは同じであっても、採食パターンによって細菌叢の構成が異なることがわかった。たとえば、葉食期にはセルロース分解菌を含むことで知られるトレポネーマ属の細菌種の増加がみられるが、これによりニホンザルは繊維含有量の高い葉を効率よく消化・吸収しているのではないかと推測する。
著者
木原 太史 梅崎 英城 平山 英子 西嶋 美昭 森 清 前原 洋二 吉田 健治
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C1006, 2005 (Released:2005-04-27)

【目的】肩関節の激痛を訴え来院する患者の中で、石灰沈着性腱炎は日常よく遭遇する疾患である。従来、保存療法として、急性期には局所安静、非ステロイド系消炎鎮痛剤の内服、局麻剤やステロイドの局注、沈着した石灰の穿刺・吸引を行った。疼痛が持続した慢性期には、関節拘縮防止のための関節可動域訓練や観血的に石灰沈着物を摘出する方法がとられていた。しかし、局注を多用することによる腱・軟部組織の変性や、穿刺、吸引による腱板の医原性の断裂などの問題が起こる危険性があった。近年、体外衝撃波治療(extracorporeal shock wave therapy)(以下ESWT)による石灰沈着性腱炎に対しての治療法がヨーロッパを中心に行われている。今回、当院でも石灰沈着性腱炎に対し、ESWTを施行し、疼痛緩和、機能向上に対し効果が得られたため、若干の知見と考察を加えてここに報告する。【方法】当院外来患者のうち、石灰沈着性腱炎と診断された7名(男性3名、女性4名)に対し、ESWTを施行した。平均年齢60±9.9歳(50-79歳)、発症から治療までの平均日数37±67.4日(1-182日)であり、患者に説明と同意を得てESWTを施行した。機器は低エネルギー体外衝撃波治療機器「Orthospec(オルソスペック)メディスペック社」を用い、X-Pにて石灰の沈着部位を確認し、その沈着上の皮膚に機器の外膜を直接当てて衝撃波を照射した。照射は約1回/Wの間隔で、平均1.7+1.1回(1-4回)行った。患者の満足が得られるか、医師の中止指示が出るまで行い、治療期間の平均は5.7±5.6日(1-15日)であった。評価は疼痛(4ポイントスケール)、機能(日本整形外科学会肩関節評価表)(以下日整会表と略す)を用いた。【結果】ESWTを1回施行後、4ポイントスケールは有意に低下した(p=0.0465)。機能面では、日整会表の合計点が有意に改善した(p=0.0291)。日整会表の中でも、肩関節可動域の屈曲、外転は有意に改善した。(屈曲:p=0.03、外転:p=0.0053)。ESWT実施後、発赤など副作用の訴えはなかった。【考察】当院では、現在までに、92例の疼痛性疾患に対しESWTを試行してきた。その中でも、今回は7名の石灰沈着性腱炎に着目し報告したが、疼痛緩和、機能改善に対し効果を得ている。疼痛緩和後のX-Pにて確認すると、沈着していた石灰像が粉砕、縮小化されており、このために疼痛緩和、機能改善が得られたと思われる。さらに治療期間の短さや、ESWT終了後1ヶ月での副作用なども見られていない事などから、ESWTは石灰沈着性腱炎に対して有効な治療法であるといえる。
著者
田原 洋樹
出版者
日本地域政策学会
雑誌
日本地域政策研究 (ISSN:13485539)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.84-93, 2021-03-31 (Released:2022-02-25)
参考文献数
27

The exodus from suburban urban areas is mainly due to the declining birthrate and an aging population, along with the outflow of young people to urban areas and large suburban commercial facilities. The situation is becoming increasingly serious due to environmental changes. Against this background, it is important to develop communities, preserve landscapes, and maintain local communities. Attention must be focused on place attachment as a psychological factor that has an important effect to this end. On the other hand, research on how place attachment is cultivated is still scarce, and thus, it is hard to say if it has been sufficiently verified. Therefore, in this study, the brewing process will be examined, focusing on “consumption behavior” in daily life as shown in the survey results. It is clear that the more people are in contact with the community, the greater is their attachment to the community.
著者
組原 洋
出版者
沖縄大学
雑誌
沖大法学 (ISSN:03891909)
巻号頁・発行日
no.19, pp.33-89, 1997
著者
原 洋之介
出版者
The Association for Regional Agricultural and Forestry Economics
雑誌
農林業問題研究 (ISSN:03888525)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.371-381, 2011 (Released:2012-04-06)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

In the first half of the paper the author draws the readers’ attention to the usefulness of Fernand Braudel’s views of history as the basic theory of discussing the relations between capitalism and agriculture. Then he introduces Yanagida Kunio’s works related to the rural economy and society in Japan and tries to identify their relevance to the days of economic globalization in the 21st century. In the latter half the author reviews the two researches focused on the formation of cooperative activities in the rural societies, which adopted the different methods such as econometric approach and in-depth case study. Then he emphasizes the urgent task of fuse or unite these two different approaches for achieving future development and globalization of Meso-Economics.