- 著者
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猪原 章
- 出版者
- 一般社団法人 人文地理学会
- 雑誌
- 人文地理 (ISSN:00187216)
- 巻号頁・発行日
- vol.69, no.2, pp.229-247, 2017 (Released:2017-07-07)
- 参考文献数
- 27
- 被引用文献数
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本稿では,営農状況や市街化の状況が異なる地区における,ため池と住民との関わり方が異なることを示し,農家・非農家を含む異なる住民集団間ならびに地区間でのため池に対する意識の多様さとその要因を解明する。調査対象地域は,ため池灌漑が営まれている,大阪府の南部に位置する和泉市である。和泉市では1970年代以降,大規模開発や宅地化が農家と農地の減少を引き起こし,それに伴って,潰廃されるため池と,非農家住民とが増加している。宅地化の度合いが異なる5地区で聞き取り調査と,3地区でアンケート調査を行った。その結果,以下の4点が明らかになった。第一に,営農状況や市街化の状況,集落規模といった要素が,ため池の利用や周辺住民との関わり方に影響を与えているが,その作用のしかたは地区によって多様である。第二に,住民の間では現在でも,ため池の用水機能が重視されている。第三に,現農家はため池と灌漑の維持への関心が高い一方で,非農家はため池の自然的な価値は認めているものの,ため池に対する関心が表面的である。この住民間の意識の差異には,日常的なため池との関わりや知識が影響している。第四に,地区間の意識の差異には,ため池に関する住民協働事業だけでなく,ため池の管理・整備状況や住民構成も影響している。