著者
日置 尚之 来栖 可奈 島 瑞帆 増田 絢 松本 淳
出版者
神奈川県立生命の星・地球博物館(旧神奈川県立博物館)
雑誌
神奈川自然誌資料 (ISSN:03889009)
巻号頁・発行日
vol.2019, no.40, pp.1-4, 2019 (Released:2019-09-01)

Myxobolus nagaraensis (Myxozoa: Myxosporea) was first reported in 2007 in freshwater gobies (Rhinogobius sp.) from Nagara River in the Gifu Prefecture, Japan. Although freshwater gobies are common fish species found in rivers of the Kanagawa Prefecture, infection of these fishes with M. nagaraensis has not been reported. Therefore, this study surveyed for M. nagaraensis infection in freshwater gobies from Sakai River, which runs through the Kanagawa Prefecture. Freshwater gobies were captured using hand nets at different locations along the Sakai River in November 2017 and February 2018. Diseased fish displaying enlarged abdomens and nodules in the caudal peduncle were caught from 2 locations which were 20 km apart. Cysts excised from these diseased fish contained parasitic spores resembling the morphology of M. nagaraensis. DNA was extracted from the cysts and the small subunit ribosomal RNA gene was amplified (SSU rDNA). Based on homology search, the amplified partial product was 99.6% identical with M. nagaraensis SSU rDNA (Accession no. AB274267). This is the first report of M. nagaraensis infection in freshwater gobies from a river in Kanagawa. Since prevalence of the parasite and its pathogenicity to the goby populations are still unclear, continued examination of other rivers in the prefecture is crucial.
著者
藤部 文昭 松本 淳 釜堀 弘隆
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.67, no.10, pp.595-607, 2020 (Released:2020-11-30)
参考文献数
32
被引用文献数
1

区内観測資料を利用して,令和元年東日本台風(台風1919)による降水量分布を過去の大雨事例と比較し,また,極値統計手法を使って大雨の再現期間を評価した.東日本台風による総降水量の分布は1947年のカスリーン台風のものと類似し,関東山地から東北地方の太平洋側にかけて降水量が多かった.これらの台風による2日間降水量の再現期間は,一部の観測地点では数百年以上と計算されるが,多降水域の領域平均降水量については100年前後と見積もられる.
著者
松本 淳
出版者
日本アニメーション学会
雑誌
アニメーション研究 (ISSN:1347300X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.17-26, 2018-03-01 (Released:2021-05-07)
参考文献数
16

日本の商業アニメーションの世界で CG作品が存在感を増している。 2013年10月に放送された『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』がその起点となり、 2017年現在も1月より放送された『けものフレンズ』と、4月より放送されている『正解するカド』が話題となっている。これらに共通するのが、3DCGを作品制作に用いている点となる。3DCGがアニメーションに及ぼす影響は、単に制作手法に留まらず、アニメーションのビジネスひいては産業構造にも至る。本論文では、各作品のプロデューサーらへのヒアリングと先行研究を用いて、その考察を行いたい。

1 0 0 0 OA はじめに

著者
小坂 優 松本 淳 高橋 洋
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.17-18, 2019 (Released:2019-02-28)
著者
松本 淳太郎 大知 正直 山下 雄大 榊 剛史 森 純一郎 坂田 一郎
雑誌
研究報告知能システム(ICS) (ISSN:2188885X)
巻号頁・発行日
vol.2017-ICS-187, no.1, pp.1-4, 2017-03-22

本研究では,現在急速に成長しつつある C2C 事業,オンラインフリーマーケットサービスの 「メルカリ」 について,商品情報から消費者の購買行動が予測可能かどうかの検証を行う.Convolutional Neural Network および Random Forest を組み合わせることで,消費者の行動を予測する手法を提案する.また,評価実験より消費者の購買行動には画像情報が影響することを示す事ができた.本研究は急成長しているオンラインフリーマーケット事業の消費者行動について新たな知見を提供するものである.
著者
松本 淳 石崎 直人 小野 公裕 矢野 忠 山村 義治
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.779-784, 2004-11-01 (Released:2011-03-18)
参考文献数
14

[目的] 胃内視鏡検査の際には、胃運動抑制を目的に抗コリン薬やグルカゴンなどの前投与を行う。今回、これらの薬剤の代替手段として、中院穴 (CV12) への鍼刺激を行い、その有用性を検討した。[方法] 鍼刺激群は19例で平均年齢66.1±9.9歳、薬剤投与群は41例で平均年齢64.3±12.9歳であった。鍼刺激群は、内視鏡検査前に10分間の中〓穴の雀啄刺激を行い、内視鏡挿入後も刺激を続けた。検査後、内視鏡医が蠕動運動抑制の程度と検査への支障の評価を2種類のVASとカテゴリ分類したスコアを用いて行った。薬剤投与群は、通常の前処置を行い、同様の評価を行って鍼刺激群と比較した。[結果とまとめ] VAS評価及びカテゴリ評価において鍼刺激群が薬剤投与群に若干劣るものの両群に有意差は無かった。このことから中〓穴への鍼刺激が、胃内視鏡検査における薬剤投与の代替手段として有用であることが示唆された。
著者
松本 淳 浅田 晴久 林 泰一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.237, 2008

<BR> バングラデシュは、日本の4割弱程度の国土面積に日本以上の1億3千万人の人口を抱える世界有数の高人口密度国である。夏に雨が集中する南アジアのモンスーン気候下にあって、ヒマラヤ山脈に源を発するガンジス川・ブラマプトラ川という南アジア有数の大河川下流部にあり、世界最多雨地であるメガラヤ高原を流域にもつメグナ川も国内で合流してベンガル湾へと注いでいることから、しばしば大洪水に見舞われている。またベンガル湾に発生するサイクロンによる被害も大きく、高潮を伴うと数十万人規模の死者が出ることもある。国土の大部分が標高10m以下の低平な平野であることから、今後の地球温暖化の進行による海面上昇によって、洪水や高潮災害がいっそう拡大することも懸念されている。本報告では、バングラデシュにおける洪水およびサイクロン災害の状況に関して述べる。
著者
三根 恵 松本 淳 加藤 卓也 羽山 伸一 野上 貞雄
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine = 日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.101-104, 2010-09-01
参考文献数
17

2006年~2007年に,神奈川県逗子市および葉山町で捕獲されたアライグマ<I>Procyon lotor</I>から直腸便と消化管内容を採取し,消化管内寄生蠕虫相を調査した。検出された寄生蠕虫種は合計8種で,その内訳は,不明線虫が2種,棘口吸虫科の吸虫類が2種,鉤頭虫類が<I>Southwellina hispida</I>,<I>Porrorchis oti</I>,<I>Sphaerirostris lanceoides</I>,不明鉤頭虫の4種であった。調査地域のアライグマの寄生虫相は比較的単純であり,アライグマの原産地(北アメリカ)で認められる寄生虫種は確認されなかった。
著者
松本 淳 奥田 綾子 内田 佳美 小儀 直子 小儀 悦子
出版者
一般社団法人 日本獣医麻酔外科学会
雑誌
日本獣医麻酔外科学雑誌 (ISSN:21896623)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3+4, pp.52-57, 2020 (Released:2021-02-16)
参考文献数
12

5歳、日本猫、避妊済みの雌猫が食欲不振と開口障害を主訴に来院した。一般身体検査で、左側頭部に硬性の腫瘤性病変を認め、FeLV検査は陰性であった。その腫瘤性病変に対し、診断と減容積を目的とする切除生検を行い、骨軟骨腫と病理組織診断された。その後、2回の外科的切除を実施したが、完全切除には至らず、開口障害の改善にとどまった。切除生検後53ヶ月目から腫瘍病変の増大速度の低下とレントゲン透過性の亢進像が認められ、最後の59ヶ月間では1.3 mmの増大にとどまった。16歳時に骨軟骨腫とは別の要因により死亡した。約10年間の長期的経過観察中、腫瘍は存在したものの、転移はなく、開口障害もなく、通常の摂食行動が可能であった。
著者
松本 淳
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.156-178, 1990-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
49
被引用文献数
8 9

熱帯におけるグローバルな風系の季節変化を主に850 mb面について解析し,気象衛星観測による赤外長波放射量を用いた雲分布の季節変化との関係を明らかにした。 850 mb面での赤道西風が,急激に位置や分布を変えることが,季節推移のなかで,しばしば認められた。広域でその変化が起こる時期は,3月上旬・3月下旬・4月中旬・5月中旬・6月中旬・7月下旬・9月上旬・10月初旬・10月下旬・ll月中旬・12月下旬に認められた。これらの時期には,雲分布においても大きな変化が認められることが多く,グローバルな熱帯地域の自然季節が,11に区分できた。 これらの各季節の850mb面の風とOLR分布の季節合成図を作成し,各季節の特徴を記載した。各大陸毎の季節変化過程における違いが明らかにされ,雲分布の季節変化とは時期がずれることが多いことがわかった。また,各経度帯によって,赤道西風が出現する季節は異なっており,季節変化過程を3つの型に類型化した。年間を通して赤道西風がみられるのは,インド洋地域のみであった。さらに,赤道西風の北限・南限・分布最小期におけるグローバルな分布域が示された。
著者
江口 卓 松本 淳 北島 晴美 岩崎 一孝 篠田 雅人 三上 岳彦 増田 耕一
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.43-54, 1986-06-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
10
被引用文献数
3 3

降水量は,世界の気候を明らかにする上で重要な気候要素であるが,全球の降水量分布の詳細な解析は,月より短い時間スケールではこれまで行なわれていない.著者らは, FGGE特別観測中の日降水量資料をもとに作成した旬降水量資料を用い,特に無降水域に着目し,全球の大陸上の降水量分布の季節内変動および季節間の相異を明らかにすることを試みた。そして,無降水域からみた世界の:気候区分図を提示し,大陸の西岸・東岸の気候区界について論.じた。 無降水域の季節重ね合わせ図にもとついて3種類の無降水域,「極小無降水域」・「平均無降水域」・「極大無降水域」を定義した.北半球では, DJF季(12~2月)には,平均無降水域がアフリカ北部からチベット高原にかけて広く分布する.一方, JJA季 (6月中旬~8月中旬)には,それはアフリカ北部から西アジアにかけて分布する.南半球では, DJF季には,平均無降水域は各大陸の西岸に限られて分布するが, JJA季には各大陸に広く分布し,また,極小無降水域が南アメリカの北東部に出現する.無降水域の季節内での変動は, DJF季の北アメリカ北部とオーストラリアで特に大きい. 以上2季節の無降水域の分布の解析結果から, 4つの季節無降水域を設定した。それらは,冬と夏の極小無降水域 (mNPA), 冬と夏の平均無降水域 (wsNPA), 冬のみの平均無降水域 (wNPA) と夏のみの平均無降水域 (sNPA) である.大陸の西部ではmNPAとwsNPAが広く分布し,かつすべての無降水域型が帯状に並列している.各大陸の西部では,各無降水域型がアリソフやヶッペンの気候型とよく対応している.しかし,大陸の東部には, wNPAが現われるか,または無降水域はまったく出現せず,アリソフやケッペンの各気候型との関連も良くない。無降水域の分布からみると,各大陸の東部と西部との境は,各大陸上でもっとも高い山脈の西側に位置することが明らかになった.
著者
野方 紀史 篠原 敦 新藤 和廣 松本 淳志 三好 安 三好 正堂
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.3, 2016 (Released:2016-11-22)

【はじめに】脳卒中片麻痺患者の歩行回復にどのような因子が関与するかの研究は多いが,Brunnstrom Stage(以下,Br.st)Ⅱ以下の重度片麻痺患者は,最初から歩行不能として除外されていることが多い.しかし当院では,起立-着席運動(以下,起立運動)を反復して行い,非麻痺側・麻痺側の下肢筋力を徹底的に強化し,重度麻痺でも歩行が回復する例は少なくない.今回,Br.stⅡ以下の重度片麻痺患者に限定し,歩行回復に関与する因子を分析した.【対象・方法】2010年から2015年までの6年間で当院に入院した初発脳卒中片麻痺患者549例のうち,発症前の歩行が自立し(FIMで6点以上),当院でのリハビリテーション(以下,リハ)後,退院時下肢Br.stⅡ以下の重度麻痺患者53例を検討した.年齢は70.8±10.4歳,右麻痺31例,左麻痺22例,深部感覚障害「あり」26「なし」27,下肢筋力の指標として非麻痺・麻痺側膝伸筋力をIsoforceGT-330(OG技研)を用いて測定し,その値を健常者平均値で除した値(健常者平均値比)を用いた.発病から入院まで48.1±62.1日,当院の在院日数は67.5±31.9日であった.治療方法は,理学療法は起立運動を重視し,主にこれを行った.介入時は全例で介助・促しを要したが,可能な限り自発的に行えるように指導し,1日500~600回以上行った.作業療法も体幹・下肢筋力を重視し,起坐,ベッド上移動,車椅子やトイレへの移乗,車椅子駆動,時には理学療法と同じ起立運動を行った.1日の治療時間は自主訓練も含めて約4時間であった. 歩行は,介入時,全例不能であったが,平均67.5±31.9日間のリハ後に自立4例,監視12例,介助30例,不能7例となった.これを自立・監視群16例と介助・不能群37例の2群に分け,後方視的に対応のないT検定,Mann-Whitney検定を用いて比較検討した.またPearsonの相関係数分析でFIMと下肢筋力の相関を調査した.なお,統計解析は,SPSS 11.5J for Windowsを用い,有意水準は5%未満とした.【結果】自立・監視群/介助・不能群の順で記載する.年齢は65.9±9.7歳/72.8±10.1歳で自立・監視群が有意に若かった(p<0.05).性別は男7,女9/男19,女18で差はなかった.麻痺側は右13,左3/右18,左19で,自立・監視群で右麻痺が有意に多かった(p<0.05).深部感覚障害は「なし」12,「あり」4/「なし」15,「あり」22例で自立・監視群に有意に少なかった(p<0.05).非麻痺側下肢筋力は43.5±26.3%/32.5±19.6%で自立・監視群は有意に強かった(p<0.01).麻痺側下肢筋力は2.8±3.7%/1.1±2.5%で差はなかった.FIMは87.3±17.6/57.2±22.3で差は有意であった(p<0.01). またFIMと非麻痺側下肢筋力との間に相関(r=0.598,p<0.01)を認めた.【考察】従来,片麻痺患者の歩行回復を阻害する因子として,高年齢,重度麻痺,感覚障害などが挙げられている.今回われわれは,重度麻痺者について検討した.結果は高年齢,左片麻痺,感覚障害,非麻痺側下肢筋力低下は有意に歩行回復を阻害していた. Hirschbergや三好は片麻痺患者において健側下肢筋力を強化することにより,たとえ麻痺が重度であっても歩行は可能になると述べ,非麻痺側下肢筋力の重要性を報告している.また川渕も片麻痺患者での移動能力には非麻痺側下肢の代償が不可欠であると述べている.これらの事実から非麻痺側下肢筋力の強化を行うことが歩行回復をもたらすことが示唆され(p<0.01),起立運動は効果的であり,歩行の回復・廃用性筋力低下の予防が行えることを強調したい.【倫理的配慮,説明と同意】本研究の計画立案に際し,所属施設の倫理審査員会の承認を得た.また対象者に研究について十分な説明を行い,同意を得た. 製薬企業や医療機器メーカーから研究者へ提供される謝金や研究費,株式,サービス等は一切受けておらず,利益相反に関する開示事項はない.
著者
久保田 尚之 松本 淳 三上 岳彦 財城 真寿美
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

<b>1.はじめに</b><br>台風の長期変動を明らかにするには、台風経路や強度に関するデータが欠かせない。西部北太平洋地域では現在、気象庁、アメリカ海軍統合センター(JTWC)、香港気象局、上海台風研究所が台風の位置や強度に関する情報を1945年以降提供している。<br><br>過去の気象データを復元する「データレスキュー」の取り組みで、それぞれの気象局が1945年以前についても台風の位置や被害に関する記録を残していた(Kubota 2012)。過去の台風に関する情報を復元することで、100年スケールの台風の長期変動の解明に向けた研究を報告する。<br><br><b>2. 台風経路データの整備</b><br><br>現在台風は最大風速から定義されている。台風の正確な位置や強度を特定するには、航空機の直接観測や気象衛星からの推定が必要である。このため現在と同精度で利用可能な台風データは1945年以降に限られている。一方でデータレスキューにより、各気象局から台風情報を入手し、これまで台風の位置情報をデジタル化してきた(Kubota 2012)。香港気象局と徐家匯(上海)気象局の資料は1884年まで遡ることができる(Gao and Zeng 1957, Chin 1958)。ただし、当時は台風の定義がなく、船舶や地上の気象台のデータから台風の位置を推定しており、精度の面で現在の台風データと同等に扱うのが難しいという点があった。<br> 台風の最大風速と中心気圧には関係がある(Atkinson and Holiday 1977)ことを用いて、台風の中心気圧を用いて台風を再定義する品質検証を行った(Kubota and Chan 2009)。気圧データは陸上に観測点が多く入手が容易なため、日本に上陸した台風に着目し、解析を進めた。北海道、本州、四国、九州に上陸した台風を対象とする。現在の台風の定義である最大風速35ktは中心気圧1000hPaに対応しており、陸上で1000hPa以下を観測した場合を台風上陸と定義し、全期間統一した定義を適応して台風データを復元した(熊澤他 2016)。気圧値だけでなく、上陸時両側の観測点の風向変化が逆になる力学的特徴も考慮した。<br>日本の気象台は1872年に函館ではじまり、全国に展開し、1907年には100地点を超えた。ただ、19世紀は地点数が少なく、地域的な均質性に問題があった。一方で、日本には1869年以降灯台が建設され、気象観測も行われるようになった(財城他 2018)。1880年には全国で35か所の灯台で気象観測が行われ、1877-1886年の灯台の気象データが収集できており、台風データの復元に利用した。<br><br><b>3. 結果</b><br>図に日本に上陸した1881-2018年の年間台風数を示す。年間平均3個上陸し、1950年は10個、2004年は9個上陸した。1970年代から2000年代は上陸数が少なく、上陸数なしの年も見られた。それに対して、1880年代から1960年代は上陸数が多い傾向が見られ、19世紀においても毎年2個以上の台風が上陸した。19世紀の台風データの復元には1883年から気象庁の前身の天気図が、1884年から台風経路データが利用できたが、それ以前は利用できる気象資料が少ない。最近、江戸時代末期からの外国船が気象測器を搭載しながら日本近海を往来した資料が見つかっている。より長期の台風データの復元には、外国船の航海日誌に記録された気象データの活用が期待される。
著者
赤坂 郁美 財城 真寿美 久保田 尚之 松本 淳
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

<b>1. </b><b>はじめに</b><br> <br>マニラでは、1865年からスペインのイエズス会士により気象観測が開始され(Udias, 2003)、戦時中を除き現在まで150年近くの気象観測データを得ることができる。20世紀前半以前の気象観測データを時間的・空間的に充分に得ることができない西部北太平洋モンスーン地域において、降水量とモンスーンの関係とその長期変化を明らかにする上で、貴重な観測データであるといえる。そのため、著者らはこれまで19世紀後半~20世紀前半の気象観測資料を収集し、データレスキューを進めてきた(赤坂,2014)。また、データの品質チェックも兼ねて、19世紀後半~20世紀前半の降水量の季節進行とその年々変動に関する解析を行っている(赤坂ほか,2017など)。そこで、本調査では風向の季節変化に関する調査を追加し、マニラにおける19世紀後半の降水量と風向の季節変化及びそれらの年々変動を明らかにすることを目的とした。<br><br> <br><br><b>2. </b><b>使用データ及び解析方法</b><br><br> 19世紀後半のマニラ観測所では、多くの気象要素の観測を時間単位で行っていた。そのため、降水量は日単位であるものの、風向・風速や気圧に関しては時間単位のデータを得ることが出来る。本調査では、日本の気象庁図書室やイギリス気象庁等で収集した気象観測資料(Observatorio Meteorologico de Manila)から、1890年1月~1900年12月の日降水量と風向・風速の1時間値を電子化して使用した。1870年代のデータも入手済みであるが、1870年代は風向・風速が3時間値のため、本稿では風の1時間値が得られる1890年代を対象とした。欠損期間は1891年10月、1893年6月である。<br><br> まず、降水と風向の季節変化を示すために、風向の半旬最多風向、半旬降水量を算出した。また、赤坂ほか(2017)と同様に雨季入りと雨季明けを定義し、半旬最多風向の季節変化との関係を考察した。<br><br> <br><br><b>3. </b><b>結果と考察</b><br><br> 1890~1900年の平均半旬降水量と半旬最多風向を図1に示す。大まかにみると、乾季における最多風向は北よりもしくは東よりの風で、雨季には南西風が持続している。乾季である1~4月(1~23半旬頃)の最多風向をみると、1月は北風であるが、2~4月には貿易風に対応する東~南東の風がみられる。この時期の降水量は特に少ない。5月中旬頃(27半旬)になると、降水量が年平均半旬降水量を超え、雨季に入る。最多風向は5月初旬(26半旬)に南西に変わり、5月下旬(29半旬頃)以降、南西風が持続するようになる。これは南西モンスーンの発達に対応すると考えられる。降水量は、6月中旬(34半旬)に一気に増加し、9月中旬(53半旬)にかけて最も多くなる。この期間の最多風向は南西のままほぼ変化しない。降水量は9月下旬(54半旬)に急激に減少し、その後、変動しながら年末にかけて徐々に減少していく。最多風向は9月下旬にはまだ南西であるが、10月初旬(56半旬)になると急激に北よりに変化し、1月まで北よりの風が持続する。この時期が北東モンスーン期に対応すると考えられる。<br><br> 最多風向の季節変化はかなり明瞭であるが、雨季と乾季の交替時期との間には2~3半旬の遅れがみられる。この時期に関しては最多風向だけでなく、風向の日変化も含めてどのように風向が変化していくのかを把握する必要がある。<br><br> 本稿では1890年代の半旬最多風向と降水量の季節変化について気候学的特徴のみを示したが、発表では19世紀後半の風向と降水量の季節変化における年々変動についても議論する。