著者
上杉 雄大 伊原 良明 野末 真司 林 皓太 髙橋 浩二
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.70-74, 2020-06-30 (Released:2020-07-23)
参考文献数
12

緒言:今回,進行性核上性麻痺(PSP)の既往を有し,食道癌放射線治療後の摂食嚥下障害によって全量経管栄養管理となった患者が,複合的な嚥下訓練が著効し,全量経口栄養摂取可能となった症例を経験したので報告する。 症例:患者;76歳男性。既往歴;PSP。現病歴;2016年4月,胸部食道癌に対し,陽子線化学療法を実施。2016年9月,胸部食道の狭窄を認め,内視鏡下バルーン拡張を三度施行するも,食道裂創を認めた。胸部食道の狭窄は残存。以降誤嚥性肺炎を繰り返したため,嚥下訓練目的より当科紹介受診。現症;体重:52.7 kg,modified Rankin Scale 4,舌振戦あり,栄養摂取状況:藤島の嚥下Lv1。VF検査よりかき込み食い,口腔期の運動障害,上部食道狭窄を認めたが,咽頭期には大きな問題は認められなかった。当科診断;食道癌放射線治療後,PSPによる摂食嚥下障害。 経過:上記診断の下,口腔衛生指導,頸部ストレッチ,咀嚼訓練と並行し,嚥下調整食学会分類2013の1jより直接訓練開始した。食事ペースに注意するよう指導し,段階的に食形態の調整を続け,藤島の嚥下Lvは7まで改善した。 考察:本症例における誤嚥性肺炎の原因として,ペーシング障害,口腔期の運動障害,上部食道狭窄が原因と考えられる。各原因に対し,複合的な摂食指導・嚥下訓練を継続したことから,藤島の嚥下Lvが1から7まで改善したと考える。
著者
原田 和宏 佐藤 ゆかり 齋藤 圭介 小林 正人 香川 幸次郎
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.263-271, 2006-08-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
36
被引用文献数
4

本研究は,在宅で生活を続ける自立高齢者における機能低下の実態を地域ベースで把握することをねらいに,ADL(歩行,入浴,トイレ動作,食事,着替え)および活動能力(老研式活動能力指標)の自立者を1年半後に追跡し,ADLまたは活動能力障害の新規出現に対する転倒既往と閉じこもりの関与を縦断的に検討することを目的とした。調査は中国地方の某町の在宅高齢者全員を対象に2002年12月と2004年6月に行い,ADL障害の出現では1,085名,活動能力障害の出現では525名のデータを分析した。その結果,在宅で生活を続ける自立高齢者のうち1年半でADL障害は4.7%に生じ,手段的自立の障害は9.0%,知的能動性は13.3%,社会的役割は15.4%,後者3指標いずれかの活動能力障害は25.9%に生じた。また,障害の新規出現は高年齢と併せて転倒既往や閉じこもりによってその割合が高まることが認められた。自立高齢者から機能低下のハイリスク者を選定するにあたり,転倒経験や外出しようとしない閉じこもり状況を考慮することは意義があると推察される。
著者
大島 清 林基治 能勢尚志 横井義之 可世木辰夫
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科学会雑誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.31, no.10, pp.p1853-1861,図4p, 1979-10

妊娠末期のニホンザルにDHA-S2mg/kgを静注すると,投与後3時間から6時間の間に肉眼的にも明瞭に赤色化及び膨潤の変化を認めることができる.急性的に子宮筋電図を記録した実験では,子宮体,頚管ともにDHA-Sによる収縮作用を認めず,頚管熟化は筋電図不変ということと同義であると解釈できる、妊娠ザルにDHA-S投与後,時間を追ってDHA.E_1、E_2,E_3をRIAで測定したところ,E_2は投与後6時間のところで有意の差で上昇していた.妊娠ザルではDHA-SがDHAを経てE_2に転換されたことが立証でき,これは臨床結果とも一致する.以上の結果の基礎として,DHA-S投与4時間又は6時間後の妊娠子宮頚管部を部分切除して電子顕微鏡像を調べたところ,DHA-S投与後の頚管のコラーゲン線維の合成が促進されること,又,一方で破壊も同時進行していることが推論される結果を得た.頚管のコラーゲン代謝とE_2,また酸性ムコ多糖類,ヒアルロン酸やグリコーゲン顆粒の関与など,コラーゲン新生破壊の機序は今後の基礎的研究にまって解明されなければならないが,上記の結果は,DHA-Sのサル頚管熟化作用を示唆するものであると判断される.
著者
出村 慎一 山次 俊介 長澤 吉則 北林 保 山田 孝禎
出版者
金沢大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究では大転子及び仙骨を保護するエアバッグ式ヒッププロテクターを開発することを目的とした。最終年度では、エアバッグトリガー閾値および、転倒方向と外傷の関係について検討した。まず、エアバッグ開放のトリガーとして腰部加速度の有効性を検証するために、不安定台からの前後および左右方向の転倒動作時の3次元腰部加速度(右大転子部)を計測した。いずれの転倒方向の最大加速度、最大振幅とも同程度の値を示した。また、各転倒方向のx,y,およびz軸の加速度間の相関はいずれも有意であった(最大加速度:r=0.56-0.78,最大振幅:r=0.57-0.84,p<0.05)。T字台牽引時に転倒したケースと代償的ステップにより転倒を回避したケースの加速度を比較した結果、転倒したケースの加速度が大きい傾向にあった。しかし、前方向の場合、加速度に顕著な差は認められなかった。現在、設計しているエアバッグ式ヒッププロテクターはエアバッグ開放までに約0.2秒要するため、開放トリガーはそれより前に転倒を感知しなければならない。各転倒方向において、x,y,z軸のいずれかの最大加速度もしくは最大振幅のなかで最も早く出現するものを採用していくと着床前0.430~0.775秒の間であることが確認され、最大加速度、最大振幅はエアバッグ開放のトリガーとなりうることが示唆された。しかしながら、転倒時の最大加速度や最大振幅は個人差が大きく、開放閾値の設定にはさらなる検証が必要と判断された。次に、在宅高齢者1955名を対象に転倒発生時の外傷の有無と転倒方向について調査した。過去1年間で転倒した高齢者は386名(20.9%)で、そのうち257名(66.6%)が何らかの外傷を負い、37名(9.6%)が骨折した。転倒による外傷の有無と転倒の原因および転倒した方向に関する度数に有意差は認められなかった。一方で、転倒の方向と転倒の原因および外傷部位間に有意な関係が認められ(ψ=0.49と0.32)、骨折は側方の転倒において多く発生する傾向にあった。したがって、エアバッグ式ヒッピプロテクターは側方の転倒に対する防御を重視する必要性が示唆された。
著者
林 建二郎 宍戸 俊英 菅田 明子 中村 雄 板谷 直 原 秀彦 多武保 光宏 桶川 隆嗣 東原 英二 奴田原 紀久
出版者
日本泌尿器内視鏡学会
雑誌
Japanese Journal of Endourology (ISSN:21861889)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.137-141, 2015 (Released:2015-05-27)
参考文献数
10

【目的】高齢者におけるホルミウムレーザー前立腺核出術(holmium laser enucleation of the prostate:HoLEP)の治療成績を若年者の成績と比較検討した. 【対象と方法】2005年12月から2010年5月の期間にHoLEPを施行した患者168例を後期高齢者とされる75歳以上51例の群と74歳以下117例の群にわけ,自覚症状の変化や尿流動態および合併症を比較検討した. 【結果】両群でともに有意な自覚症状の改善,尿流動態の改善が認められた(p<0.001).合併症は74歳以下の群で一過性尿閉5例(4.3%),精巣上体炎5例(4.3%),後出血4例(3.4%)を認め75歳以上の群より多かった.両群間で術後のヘモグロビン減少や輸血率,尿失禁の合併に有意差はなかった. 【結語】HoLEPは高齢者の前立腺肥大症に対し,比較的侵襲の少ない有用な術式と考えられた.
著者
久保 宏紀 金居 督之 北村 友花 古市 あさみ 山本 実穂 小林 実希 野添 匡史 間瀬 教史 島田 真一
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11130, (Released:2016-03-29)
参考文献数
37

【目的】脳内出血患者における急性期病院退院時の機能予後およびその要因を検討すること。【方法】2013年4月~2015年3月に入院となった脳内出血患者88例(男性76%,平均年齢65.2 ± 11.2 歳)を対象に,退院時modified Rankin Scale を用い予後良好群と予後不良群に群分けし,機能予後に影響を及ぼす因子およびそのカットオフ値を検討した。【結果】Cox 比例ハザード分析の結果,退院時機能予後に影響を与える因子として年齢(p = 0.008),入院時NIH Stroke Scale(p = 0.001)および離床開始日(p < 0.001)が抽出され,各カットオフ値はそれぞれ66 歳(感度:0.758,特異度:0.582),7 点(感度:0.970,特異度:0.818),2病日(感度:0.788,特異度:0.836)であった。【結論】脳内出血患者の急性期病院退院時の機能予後は年齢,重症度,離床開始日が関連している。
著者
中林 紘二 松本 典久 水野 健太郎 藤本 一美 中川 佳郁 甲斐 悟
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.383-387, 2013 (Released:2013-07-16)
参考文献数
31

〔目的〕外側広筋に対する選択的な振動刺激が,膝関節伸展運動時の筋活動に及ぼす影響について明らかにすること.〔対象〕下肢に整形外科的疾患および神経学的疾患の既往のない健常男性10名(平均年齢26.8±9.2歳).〔方法〕外側広筋に対して持続的な振動刺激の負荷を与え,膝関節伸展運動時の%iEMG(外側広筋,内側広筋,大腿直筋)および膝関節伸展筋力を計測し,振動刺激前後で比較した.〔結果〕膝関節伸展運動時の外側広筋の%iEMGは,振動刺激後に低値であった.外側広筋に対する内側広筋の%iEMG比は,振動刺激後に高値であった.〔結語〕外側広筋に対して選択的な振動刺激を負荷した膝関節伸展運動は,外側広筋の筋活動を抑制することで相対的に内側広筋の筋活動を促進する.
著者
杉林 堅次
出版者
The Japanese Society for the Study of Xenobiotics
雑誌
薬物動態 (ISSN:09161139)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.71-80, 1987 (Released:2007-03-29)
参考文献数
37
被引用文献数
1

Transdermal absorption of drugs, i.e. nitroglycerin and scoporamine, from marketed transdermal therapeutic systems (TTS) has been evaluated mainly according to T. Higuchi's theory. This theory, at first, was reviewed from the thermodynamic point of view. Much attention is paid to the enhanced transdermal absorption to expand the utility of TTS to many drugs and it becomes realistic by use of prodrugs as esters of viderabine, an antivirus drug, by the application of penetration-enhancers such as Azone, and/or by appearance of iontophoresis. Secondly, such enhancing systems were summarized theoretically and the differences between them and Higuchi's theory on the absorption rates were discussed. The route for transdermal absorption and its kinetic model might be modified in such enhancing systems, since the systems affect the skin barrier function. Reasonable absorption routes and skin model were discussed, thirdly. These three considerations could be useful for the development and evaluation of new TTS.
著者
岡林 輝親 山下 恵美 谷岡 真央 田所 彩
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1910, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】脳卒中治療ガイドライン2009では,脳卒中のリハビリテーションにおいて患者の機能的予後等を予測すること,またStroke Impairment Assessment Set(以下,SIAS)は総合評価尺度として用いることが勧められている。回復期リハビリテーション(以下,回リハ)病棟において理学療法士は,患者の機能・能力的予後,特に退院時歩行能力を予測し,退院へ向けて早期からのマネジメントが要求される。そこで,SIASを用いてカットオフ値を算出し,回リハ病棟へ入棟された患者様の歩行自立度の予測に活用することを目的とする。【方法】対象は,2012年8月から2014年10月まで当院回リハ病棟に入院されていた脳卒中患者(くも膜下出血を除く)79名(年齢:77.1±10.1歳,男性42名,女性37名,脳出血15名,脳梗塞64名)。除外項目は,病前の歩行能力が自立及び修正自立でない者,発症から2週間以内に退院した者,SIASが評価不能だった者とした。評価はSIASを用い,SIAS総点,SIAS-L/E(運動機能-下肢),SIAS-Trunk(体幹機能),SIAS-S(感覚機能)の項目に分類し,回リハ病棟入棟後1週間以内に評価した。歩行自立度は退院時歩行能力が完全自立もしくは補装具を用いた修正自立者を「自立群」,その他の見守りや身体的介助を要する者を「非自立群」として分類した。統計は,有意差の判定のためSIAS各項目の自立・非自立各群に対してWilcoxon符号付順位和検定を実施した後,歩行自立度とSIAS各項目のカットオフ値の算定を,Receiver Operating Characteristic曲線(以下ROC曲線)にて実施した。統計ソフトは,EZR(Saitama Medical Center,Jichi Medical University)を使用した。【結果】SIAS各項目の自立・非自立各群の間に有意差を認めた(P<0.01)。さらにROC曲線によるSIASカットオフ値を算出した結果,Area Under the Curve(以下AUC)はそれぞれ,入棟時SIAS総点で0.82,SIAS-L/Eで0.77,SIAS-Trunkで0.75,SIAS-Sで0.83となった。算出されたカットオフ値は,SIAS総点で59点(感度0.833,特異度0.744),SIAS-L/Eで9点(感度0.917,特異度0.558),SIAS-Trunkで3点(感度0.972,特異度0.512),SIAS-Sで9点(感度0.722,特異度0.767)となった。【考察】結果より,回リハ病棟退院時の歩行自立・非自立を予測するためのカットオフ値は,初期評価時のSIAS総点で59点,SIAS-L/Eで9点,SIAS-Trunkで3点,SIAS-Sで9点であることが示唆された。SIAS総点やSIAS-Sで運動機能項目より高いAUCを得たことは,歩行能力には機能回復により変動する運動機能よりも,感覚機能やその他の諸因子が残存しているか否かに依拠していると考えられ,歩行予後を推察する際にはSIASのような多面的評価を用いて要因を検討していく必要性があると考えられる。今後は高次脳機能障害や嚥下障害なども考慮し,予測精度の向上に努めたい。【理学療法学研究としての意義】回復期脳卒中患者様の歩行予後予測の一助として,ゴール設定,自宅復帰の可否予測などの判断材料として活用し,早期から退院時の患者様の移動様式を予測した包括的なアプローチを実施することに寄与するものと考えられる。