著者
森田 綽之
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.203-216, 2011 (Released:2011-07-20)
参考文献数
7
被引用文献数
1

日本の「道路構造令」に関わる解説書である「道路構造令の解説と運用」は初版の昭和35年から3回改訂されている.本稿ではその変遷の経緯,位置づけ,解釈を整理,体系化している.その結果,道路の構造の全国的統一を意図した当初の趣旨から地域に適した道路構造を実現するために政令の規定を弾力的に適用する思想へ変遷していること,道路分類において必ずしも階層性が明確でなく,利用者に提供すべき目標サービス水準やこれを実現する具体的な設計法が未確立であること,日交通量で需要と容量を取り扱うことで生じる矛盾を解消する必要があること,車線幅員や設計速度などの設定の経緯やその意味を改めて確認し,現在の道路の作り方や運用に対して適切な基準を検討する必要があることなどを明らかにした.
著者
蔦森 英史 宇野 彰 春原 則子 金子 真人 粟屋 徳子 狐塚 順子 後藤 多可志 片野 晶子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.167-172, 2009 (Released:2010-04-06)
参考文献数
20
被引用文献数
6 2 7

発達性読み書き障害は複数の認知的要因が関与しているとの報告がある (Wolf, 2000;宇野, 2002;粟屋, 2003) . しかし, 読み, 書きの学習到達度にそれぞれの情報処理過程がどのように影響しているのかはまだ明確になっていない. 本研究では全般的な知能は正常 (VIQ110, PIQ94, FIQ103) だが漢字と英語の書字に困難を示した発達性書字障害例について報告する. 症例は12歳の右利き男児である. 要素的な認知機能検査においては, 日本語での音韻認識力に問題が認められず, 視覚的記憶力のみに低下を示した. 本症例の漢字書字困難は過去の報告例と同様に, 視覚性記憶障害に起因しているものと考えられた. 英語における書字困難の障害構造については, 音素認識力に関しては測定できなかったが, 日本語話者の英語読み書き学習過程および要素的な認知機能障害から視覚性記憶障害に起因する可能性が示唆された.
著者
森 まり子
出版者
東京大学東洋文化研究所
雑誌
東洋文化研究所紀要 (ISSN:05638089)
巻号頁・発行日
vol.167, 2015-03

This paper gives an introduction to The Proceedings of the Provisional Government Meetings Vol.1., 16 to 30 May 1948 and gives a review of its main contents, primarily, the Arab question. As a follow-up of my previous paper published in this journal in March 2014, it is also intended to be a preliminary step toward revisiting the formative years of Israel, this time focusing on the critical two weeks after the Declaration of Independence on 14 May 1948, during which the state authority was formed, various institutions founded, and most importantly, the ideals and future directions of the new-born state seriously discussed. A close examination of the proceedings clarifies that, at least during these two weeks, both the possibility of Israel’s becoming a “civil state” embracing Arab citizens who would return after the war and the possibility of the establishment of the Arab state within the boundaries determined by the United Nations Partition Resolution on 29 November 1947 were still considered realistic. At least at the level of the cabinet meetings until the end of May 1948, with an alternative of a “civil state” still alive and the institutional orientation of the state largely undecided, the Zionist ideal model of a “Jewish state” was not so self-evident as the conventional wisdom suggests. Judging from this situation, it can be concluded that there was no systematic policy to expel the Palestinians at least at the level of the cabinet until the end of May, even when taking into consideration the deleted portions of the proceedings. The reason is as follows: although there was a long-standing aspiration to create an ethnically pure “Jewish state” among some Zionists, including Ben-Gurion, an expulsion policy was no more than a politically unfeasible option within the coalition government at that time, where the argument for Jewish-Arab coexistence in the “civil state” based on the assumption of the return of the refugees, and the argument for parliamentary democracy open to Arab citizens, were sufficiently effective to block the adoption of such an extreme policy by voting.
著者
森脇 優紀 床井 啓太郎 安形 麻理 福田 名津子
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では、明治期日本の洋式帳簿製本と、明治期に製本技術を習得した技術者による1950年代の修復痕が残る西洋稀覯書の現物調査を中心に、聞き取り調査による情報収集や記録資料の解析も並行して行い、製本の歴史的変遷を再検討した。その結果、帳簿製本については、技術導入以降、需要が高まり民間での製造が急増したことで、西洋由来の技術は試行錯誤が繰り返されて変容し、現在の日本特有の形に至ったことが分かった。稀覯書の修復痕調査からは、明治の導入期以来の技術や知識が基本的な部分で継承されていることが確認できた。資料保存の面では、現在の「原形保存」の淵源となる考え方が既に1950年代に存在していたことが分かった。
著者
森川 敏彦
出版者
日本計量生物学会
雑誌
計量生物学 (ISSN:09184430)
巻号頁・発行日
vol.29, no.Special_Issue_1, pp.S15-S32, 2008-07-01 (Released:2011-12-02)
参考文献数
25
被引用文献数
4 3

This paper discusses various multiplicity issues arisen in clinical trials and possible statistical approaches to these issues. We especially stress the importance of the closed testing procedures (CTPs) in the setting of clinical trials: They include various modified Bonferroni procedures, e.g., step-down Dunnett procedure, hierarchical procedure, and Williams test. Moreover they can be even applied to adaptive designs in clinical trials. We illustrate the basic CTP procedures in detail.
著者
森川 隆司
出版者
日本英学史学会
雑誌
英学史研究 (ISSN:03869490)
巻号頁・発行日
vol.1979, no.11, pp.77-106, 1978-07-01 (Released:2009-09-16)
参考文献数
31
著者
大槻 貴司 尾羽 秀晃 松尾 雄司 森本 壮一
出版者
一般社団法人 エネルギー・資源学会
雑誌
エネルギー・資源学会論文誌 (ISSN:24330531)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.115-125, 2023-05-10 (Released:2023-05-10)
参考文献数
14

The authors’ previous assessment indicated that the marginal electricity cost in 2050 in Japan is more than doubled in an energy system based on a 100% renewable power supply compared to the cost-optimal system. However, some assumptions may be conservative given the recent developments, including the cost of variable renewable energy (VRE) and energy storage technologies and the availability of dispatchable renewable power generation (such as biomass-fired). Therefore, to test the robustness of the previous assessment, this study conducts a sensitivity analysis with a focus on these factors, using an energy system optimization model with a detailed temporal resolution. Simulation results imply that the high marginal electricity cost in the “100% renewable power system” is partially due to the costs of managing VRE’s seasonality. Low-cost energy storage and dispatchable renewable power plants can curb the marginal electricity cost. However, the results also suggest that the marginal cost in these sensitivity cases remains high compared to the cost-optimal system, still posing economic challenges to the system based on a 100% renewable power supply.
著者
安斎 勇樹 森 玲奈 山内 祐平
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.135-145, 2011-11-01 (Released:2016-08-08)
参考文献数
23
被引用文献数
2

本研究の目的は,協同制作を課題とした大学生向けのワークショップにおいて,創発的コラボレーションを促すためのプログラムデザインの指針を示すことである.本研究では,創発の源泉としての「矛盾」の効果に着目し,「作品の制作課題に,相反するイメージを持ちながら多様な解釈の可能性を持った2つの条件を設定する」というデザイン原則を仮説として設定した.デザイン原則に基づく実践を4回(全15グループ),比較対象としてデザイン原則に基づかない実践を4回(全11グループ)行い,各グループの制作プロセスを質的に分析した.その結果,デザイン原則に基づく実践においては,制作中に提案されたアイデアや制作物に対する視点に揺さぶりがかかり,創発的コラボレーションが促されることがわかった.ただし,参加者が設定した2条件を「相反するもの」として解釈しなかった場合は,視点の揺さぶりがかからないために創発的コラボレーションは起こりにくいことがわかった.その点に留意すれば,本研究で提案したデザイン原則は有効であることが示された.
著者
森口 眞衣
出版者
日本医療大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は20世紀初頭の日本で創案された森田療法(Morita Therapy)を主対象とした成立史研究である。森田療法は明治近代化期のドイツ医学導入により精神医療が神社仏閣や民間施設などでの対処から精神病院での医療へと変化する時期に成立しており、その過程では仏教との関連がしばしば指摘された。しかし森田療法の成立には仏教だけではなく当時の社会的動態としての宗教との関連が想定されるものの、未整理の部分が残存する。そこで本研究は主に仏教史研究との連関を視野に入れつつ、精神療法と宗教の影響関係について、成立背景という側面から分析を試みる。
著者
市原 浩司 舛森 直哉
出版者
一般社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科学会雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.107, no.2, pp.126-128, 2016-04-15 (Released:2017-04-21)
参考文献数
5
被引用文献数
1

40代male to female(MTF).2013年に性別適合手術(sex reassignment surgery:SRS)を施行した.SRSは両側精巣摘除,陰茎切断,陰核・外陰部形成および造膣を施行し,造膣には約20cmのS状結腸を腹腔鏡下に遊離して用いた.総手術時間8時間45分,出血量920ml,輸血は施行しなかった.術後8日目に合併症なく退院した.術後3カ月目の診察では外陰部所見に異常なく,膣は幅4cm,深さも10cm以上確保されていた.以上より,腹腔鏡下にS状結腸を遊離して造膣を施行したMTFに対するSRSは良好な経過であった.
著者
森 槙子 平島 徳幸 大津 正和 古場 慎一 藤﨑 亜紀 藤﨑 伸太 三砂 範幸 成澤 寛
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.555-561, 2014-12-01 (Released:2015-04-16)
参考文献数
18

われわれは,2005 年から 2013 年の 8 年間に 5 例の aquagenic palmoplantar keratoderma (以下 APK) を経験した。全症例が 3 歳から 17 歳までの若年女性であった。入浴時や運動時などの手掌や足底の過度な浸軟という主訴や問診をもとに手部浸水試験を施行し,「hand in the bucket」 徴候を認め APK と診断した。診察時には特に症状を認めない例や,一見手湿疹や掌蹠角化症 (palmoplantar keratoderma) 様の症状を呈する例を経験した。症例 1,2 では皮膚生検を施行し,病理組織学的に過角化と角層内汗管の開大を呈していた。全例,塩化アルミニウム溶液の外用にて加療したところ,1 例では改善に乏しかったが,他 4 例では効果を認めた。掌蹠における難治性の湿疹性病変や過角化を有する若年の患者をみた際には病変部が浸軟しやすいかを確認し,わずかにでも APK を疑う場合,積極的に手部浸水試験を行うことが望ましい。
著者
高山 範理 藤澤 翠 荒牧 まりさ 森川 岳
出版者
公益社団法人 日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.565-570, 2012 (Released:2013-08-09)
参考文献数
25
被引用文献数
4 5

The purpose of this study was to clarify; 1) the psychological stress reduction effect (PSRE) that "sunshine filtering through foliage (SFTF)" brings visually, 2) the relation between the effect and the subjective appraisal (SA) of the forest environment otherwise the personality and other traits (PAOT), 3) the system of PAOT- SA- PSRE based on Lazarus’s acting stress model. We showed 2 images such as photos with and without SFTF in the forest as a simulation for 17 subjects, and examined the change in the psychological feelings (POMS; 3-times) by some indexes (PSRE and SA (SD Method; twice)) for each stimulation before and after the experiment in an artificial weather room. As a result, in comparison the presence of SFTF stimulation with the control, it was clarified that "Tension-Anxiety" and "Fatigue" significantly decreased with the control. In comparison the presence of SFTF stimulation with the other, "Vigor" was significantly higher than that of the absence of SFTF otherwise "Tension-Anxiety" was significantly lower. Furthermore, some evaluation indexes of the SA related to PARE received from the both of SFTF, and those evaluation indexes were affected by the respondents’ PAOT such as “Extraversion” and so on.
著者
元森 絵里子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.28-40, 2021-04-30 (Released:2021-05-26)
参考文献数
42
被引用文献数
1

家族の多様化は,ライフコースの選択性の増大という観点から肯定的に捉えられがちだが,子どもというアクターを考えると問題は複雑になる.近年,子どものケアを視野に入れると家族の脱制度化は難しく,標準的家族の理想や制度的制約が入り込んで複雑な現実が生じていると指摘されてきている.だが,子どもの能動的権利やウェルビーイングという論点までは,日本の社会学は組み込みきれていないのではないか.80年代に盛り上がった学際的子ども研究の潮流も,この点の考察に失敗している.他方で欧州子ども社会学では,近代/脱近代,抑圧/尊重,既存の子ども観/新しい子ども観という二項対立的理解を反省し,ANTや統治性論などの社会学理論と接合しながら子ども観の歴史と現在を記述する提案がなされている.このような流れに棹さし,家族・教育・子ども家庭福祉領域の子ども観・子ども期のエスノグラフィーや系譜学的記述を積み重ねていく必要がある.