著者
田中 公介
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.53-62, 2022-03-01 (Released:2022-03-07)
参考文献数
23

本論文では,これまでの生成文法理論の枠組みで研究されてきた文法的対比の一つである,Wh疑問文における前置詞残留の項と付加詞の対比を,近年のミニマリスト統語論におけるラベル付与アルゴリズム(Labelling Algorithm: LA)と,LAを基にした外的Pair-Merger分析を用いることによって説明する.更に,Wh疑問文と同様の統語特性を示すものの,項と付加詞の対比が生じない重名詞句転移(heavy DP shift: HDPS)構文における文法性については,上記の分析と,フェイズ理論における各種仮定のもとで適切に説明されることを示す.最後に,一見本論の枠組みにとって経験的な問題となる可能性がある寄生空所(parasitic gap: PG)構文の文法性については,空オペレータ(null operator: NOp)分析が有用となることを示す.
著者
松尾 龍平 山本 雄平 姜 文渊 田中 ちひろ 中村 健二 田中 成典 鳴尾 丈司
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.980-991, 2023-05-15

我が国では,競技力向上を目的としたスポーツ情報科学に関する研究支援が求められている.中でも,フィールドスポーツでは,選手の位置情報を取得することで,選手のStats情報の獲得や戦術分析を補助する活動が実施されている.選手の位置情報の取得方法は,映像に対して深層学習を用いた物体検出手法を適用する方策が採用されている.しかし,物体検出手法では,対象物が未学習の場合や,学習時とかけ離れた特徴を有する場合,検出精度が低下する.これに対して,アノテーションシステムによる自動アノテーション機能を用いて学習データを作成することが考えられるが,精度良く検出することができず作業効率化が望めない課題が残存する.そこで,本研究では,フィールドスポーツにおいて,学習データを簡易に作成することができるアノテーションシステムの開発を目指す.システムの開発にあたり,データ分析にかかわる専門家へのヒアリングを通じ,選手を精度良くまた効率良く検出することが重要であると明らかになった.そして,そのニーズに対して,フィールドスポーツに特化した検出モデルを搭載することで,既存システムと比べ,作業時間を2分程度短縮することに成功した.
著者
田中 祐輔
出版者
言語文化教育研究学会:ALCE
雑誌
言語文化教育研究 (ISSN:21889600)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.219-239, 2018-12-31 (Released:2019-05-12)

中国における日本語の学習は,戦後複数回にわたってさまざまな緊張状態に置かれた日本と中国との関係を日本理解という形でつなぐ役割の一端を担うものであった。そして現在及び将来においても,日中関係を担う人材育成の重要な場であることは疑い得ない。また,突出した学習者数と,高度な日本語人材育成という量・質の両面から,中国における日本語教育は世界の日本語教育全体を牽引する立場にあるといえる。本研究は,これまで詳しく知られてこなかった国交正常化以前の中国で日本語による情報発信や交流に多大な貢献を果たした放送局・新聞社・雑誌社のアナウンサーや記者のオーラルヒストリー調査を通じて,中国の日本語教育において日本語メディアがどのような役割を果たし,それはいかにして実現したかについて考察し,両国の相互理解と文化交流の歴史の新たな側面に光を当てるものである。
著者
池見 陽 筒井 優介 平野 智子 岡村 心平 田中 秀男 佐藤 浩 河﨑 俊博 白坂 和美 有村 靖子 山本 誠司 越川 陽介 阪本 久実子
出版者
関西大学大学院心理学研究科心理臨床学専攻
雑誌
Psychologist : 関西大学臨床心理専門職大学院紀要
巻号頁・発行日
vol.9, pp.1-12, 2019-03

自分の生きざまを動物に喩えて、その動物は何をしているのかなどと形容しながらペアで話し合うワークを考案し、それを「アニクロ」(Crossing with Animals)と命名した。本論では、その理論背景として実存哲学、メタファー論やジェンドリン哲学を含む体験過程理論について論じたあと、その実践を3つの側面から検討した。それらは、アニクロ初体験者に対するアンケート結果について、産業メンタルヘルス研修でのアニクロの応用について、そしてゲシュタルトセラピーにおけるアニクロの実践についてである。アニクロは多用な実践が可能であるが、その基本原理はフォーカシングであり、本論は最後に、アニクロを通してみたフォーカシングの基礎理論を考察した。
著者
田中 敬幸
出版者
日本経営倫理学会
雑誌
日本経営倫理学会誌 (ISSN:13436627)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.117-128, 2023-03-30 (Released:2023-05-04)

The development and application of Artificial Intelligence (AI) has been progressing across a variety of domains. The rapid progress of AI has brought about benefits of technological development and expansion of application areas. On the other hand, it has also brought challenges, such as the lack of legal development and the emergence of ethical issues. Due to its impact on society, there is a growing interest in the ethical aspects of AI. In this study, we will focus on the ethical issues of concern when using AI in a business context. First, we will organize previous research on AI and ethics and identify what is at the center of the debate; second, through previous research, examine the ethical issues and challenges that arise when AI is used in business; and third, discuss the potential for future research.
著者
斎藤 豊 岡 志郎 河村 卓二 下田 良 関口 正宇 玉井 尚人 堀田 欣一 松田 尚久 三澤 将史 田中 信治 入口 陽介 野崎 良一 山本 博徳 吉田 雅博 藤本 一眞 井上 晴洋
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.62, no.8, pp.1519-1560, 2020 (Released:2020-08-20)
参考文献数
293
被引用文献数
3

日本消化器内視鏡学会は,新たに科学的な手法で作成した基本的な指針として,「大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン」を作成した.大腸がんによる死亡率を下げるために,ポリープ・がんの発見までおよび治療後の両方における内視鏡によるスクリーニングおよびサーベイランス施行の重要性が認められてきている.この分野においてはレベルの高いエビデンスは少なく,専門家のコンセンサスに基づき推奨の強さを決定しなければならないものが多かった.本診療ガイドラインは,20のclinical questionおよび8のbackground knowledgeで構成し,現時点での指針とした.
著者
竹島 克典 田中 善大
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.115-124, 2019-09-30 (Released:2020-06-25)
参考文献数
27

本研究の目的は、PPR(Positive Peer Reporting)と集団随伴性によるクラス単位の介入プログラムを実施し、児童の抑うつ症状に対する効果を検討することであった。介入プログラムは、児童が毎日の学校生活のなかで仲間の向社会的行動を観察して肯定的報告を行いそれを担任教師が賞賛するPPRと、クラス全体の肯定的報告が目標数に達した場合にクラスで特別な活動ができるという相互依存型集団随伴性の手続きによって構成された。介入プログラムの事前と事後を比較した結果から、児童の抑うつ症状の有意な低減が示された。最後に、抑うつの対人モデルに基づいて、児童の抑うつに対する介入研究における社会的環境へのアプローチの有効性と今後の課題について考察した。
著者
林 邦好 冨田 誠 田中 豊
出版者
日本計算機統計学会
雑誌
計算機統計学 (ISSN:09148930)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.89-101, 2008-01-31 (Released:2017-05-01)
参考文献数
11

主成分分析(PCA)は,変量の次元を縮約する多変量統計解析の代表的な手法である.主成分の意味付けをするために,固有ベクトルを解釈することになるが,特に主成分数を多くとる場合など,しばしば主成分の解釈が困難な状況に遭遇する.解釈を容易にするために,因子分析の場合のように軸を回転させることができれば便利である.先行研究では,主成分係数を回転対象とする方法と主成分負荷量を目転対象とする2つの立場がある.本論文ではPCAを次元縮約の方法と捉え,縮約された低次元空間の中で解釈し易いように座標軸を導入するという立場で,Jolliffe(1995)の提唱した3つの基準化の方法及び回転対象として主成分係数・主成分負荷量のどちらを選ぶかという問題を整理し,2組の実データ及び因子分析モデルに従って生成した人工データに適用して数値的検討を行った.その結果,基準化3(分散が1に等しくなるように基準化した場合)では,主成分負荷量を直交回転する方が対比が形成されにくく,く1つの軸に1つの意味が付与できることが明らかになった.
著者
田中 知音 渡部 圭一 Chion TANAKA Keiichi WATANABE
雑誌
人間文化研究 = Journal of Human Cultural Studies
巻号頁・発行日
vol.50, pp.73-108, 2023-03-31

和文要約 白鬚神社(滋賀県高島市鵜川)の沖合に立つ鳥居(湖中大鳥居)は,もともと伝説的な存在であったものが昭和12年(1937)に建造され,現在では琵琶湖を代表する観光スポットとして注目を集めている。しかしながら,これまでの琵琶湖観光の歴史的研究では,この湖中大鳥居が何のために建造されたかについて論じられてこなかった。 本論文では,観光客の土産物として大量に制作された絵はがきに基づき,湖中大鳥居の建設の意義を明らかにすることを目的とする。まず白鬚神社を含む絵はがきセットの内容構成の類型とその歴史的背景を検討し,つぎに白鬚神社において被写体として選ばれる光景の特徴,およびそこでの湖中大鳥居の位置付けを分析した。 その結果,白鬚神社をめぐる⽛まなざし⽜に幾度かの変転があったことが明らかになった。白鬚神社は近世から広域の信仰圏を有する著名な神社であったが,近代になると,大正年間に琵琶湖を汽船で周遊する湖上遊覧が活発化したことで,神社の沖を通過する観光船から眺める神社というまったく新しい属性が生み出されたことが,湖中大鳥居を出現させた動機であった。 湖中大鳥居は,当初から⽛沖からの眺め⽜の一部であり,沖の観光船に対して見せるものとして造られたものであったと考えられる。言い換えると,湖中大鳥居が⽛沖からの眺め⽜というまなざしを生み出したというより,船上からのまなざしのなかに湖中大鳥居の美しい朱の彩りが埋め込まれたのである。
著者
飯嶋 寿江 加瀬 正人 相良 匡昭 加藤 嘉奈子 清水 昌紀 西田 舞 友常 孝則 田中 精一 青木 千枝 城島 輝雄 鈴木 國弘 黒田 久元 麻生 好正
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.9, pp.707-714, 2015-09-30 (Released:2015-09-30)
参考文献数
30
被引用文献数
1

症例は70歳,女性.1型糖尿病,うつ病にて加療中,自殺企図のためインスリンデグルデク300単位,インスリンリスプロ300単位を皮下注射し,注射3時間後に意識障害で家族に発見され,当院救急外来に搬送となり,入院となる.簡易血糖測定では,測定感度以下(30 mg/dl未満)を示し,血清インスリン値は2972.1 μU/mlと極めて高値を示した.直ちに,ブドウ糖の静脈投与を開始した.低血糖は大量注射30時間後を最後に認めなかったものの,大量投与36時間後の血清インスリン値は1327.0 μU/mlと依然として高く,低血糖の予防のため,第6病日まで経静脈的ブドウ糖投与を継続した.本症例の経過より,インスリンデグルデクの大量投与症例では他のインスリン製剤以上に長時間にわたる注意深い観察と対応が必要であると思われた.インスリンデグルデク大量投与による遷延性低血糖の症例は極めて稀であり,文献的考察を加え報告する.
著者
田中 聡 山本 一徹 権藤 学司 渡辺 剛史 堀田 和子 田中 貴大 田中 雅彦
出版者
日本脊髄外科学会
雑誌
脊髄外科 (ISSN:09146024)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.312-315, 2021 (Released:2021-12-28)
参考文献数
13

Calcification of ligamentum flavum (CLF) is a degenerative spinal disease in which calcium crystals deposit in the ligamentum flavum. The CLF may cause spinal cord compression, and the patient may need decompressive surgery. However, CLF can spontaneously regress with some medications as well as no treatment. Here, the authors reported a case in which small CLF remaining after cervical decompression surgery markedly enlarged during the follow-up period and spontaneously regressed after pregabalin administration. Therefore, pregabalin might be involved in the spontaneous regression of CLF.  A 66-year-old female complaining of right upper limb pain and numbness was diagnosed with CLF at C5/6 and C6/7 by computed tomography (CT) and magnetic resonance imaging (MRI). The symptoms improved after removal of the CLF at C5/6 with C5 laminectomy and C4, C6 laminoplasty. Postoperative CT showed small residual CLF at C6/7. Six years after surgery, she suffered pain and numbness in her right arm. Her cervical MRI showed a marked increase of CLF at C6/7. The pain disappeared after the administration of pregabalin. Six months later, a marked reduction of CLF was observed on MRI.  It has been reported that the administration of cimetidine or etidronate resulted in the regression of CLF. Cimetidine affects calcium metabolism via parathyroid hormone (PTH), and etidronate has an inhibitory effect on calcification. It was reported that the serum PTH was markedly reduced in a uremic patient after the administration of pregabalin. The efficacy of pregabalin was also reported for a case with refractory paroxysmal kinesigenic choreoathetosis whose parathyroid glands were removed. It is presumed that pregabalin was involved in calcification regression via PTH metabolism in this case.
著者
渡辺 剛史 権藤 学司 田中 雅彦 山本 一徹 堀田 和子 玉井 洋太郎 田中 聡
出版者
日本脊髄外科学会
雑誌
脊髄外科 (ISSN:09146024)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.170-174, 2019 (Released:2019-09-10)
参考文献数
12

The purpose of this article is to analyze the characteristics of spinal magnetic resonance images (MRI) in multiple myeloma patients. Two hundred and eighteen patients were diagnosed with multiple myelomas at the Shonan Kamakura General Hospital from January 2009 to April 2018. Spinal MRIs were evaluated in 66 cases. Initial symptoms, spinal MRI findings, and blood sample test findings at the time of diagnosis were investigated. There were 37 males and 29 females analyzed. Mean age at the time of diagnosis was 70.1 years (42 to 87 years). Main initial symptoms were low back pain (n=23), back pain (n=15), neck pain (n=1), lower limb weakness (n=6), lower limb pain/paresthesia (n=4), cranial nerve palsy (n=2), respiratory symptoms (n=6), renal failure (n=4), anemia (n=3) and asymptomatic (n=6). Spinal MRI revealed vertebral fracture (n=42), intravertebral tumor (n=35), epidural tumor (n=9), diffuse spotty signal (n=13), and diffuse low signal (n=4). There were only five cases where no abnormality was observed beyond the vertebral body fracture. Dural sac compression was observed in 16 cases, of which 12 cases were co-localized with the tumor and 4 cases were by a fractured bony fragment. The results of the blood sampling were confirmed in 65 patients. Anemia, decreased albumin/globulin ratio, hyperproteinemia, hypercalcemia, and increased alkaline phosphatase were observed in 57, 44, 29, 13, and 12 patients, respectively. Only 9 cases showed normal blood test results. The most common symptom of multiple myeloma was lower back pain. As such, half of the patients had visited an orthopedic or spinal surgery clinic. Spinal MRI findings were classified as intervertebral focal lesion, epidural mass, diffuse spotty signal, or diffuse low signal. The presence of an abnormal finding was observed in 92% of patients by spinal MRI and in 86% by blood sampling. Spinal MRI and blood sampling examination should be considered in cases of vertebral fracture in order to prevent the misdiagnosis of multiple myeloma as an osteoporotic vertebral fracture.
著者
和田 浩志 村上 孝夫 田中 信壽 中村 昌司 斎木 保久 陳 秋明
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.106, no.11, pp.989-994, 1986-11-25 (Released:2008-05-30)
参考文献数
23
被引用文献数
5 8

From the fronds of Pseudocyclosorus subochthodes CHING and P. esquirolii CHING, a new flavanone glycoside (2S)-eriodictyol 7-O-methylether 3'-O-β-D-glucopyranoside (I) and maltol 3-O-β-D-glucopyranoside (V) were isolated. Besides them, from the former a new glycoside 5-hydroxymaltol 5-O-α-L-rhamnopyranoside (II) and (2E, 6E)-(10S)-2, 6, 10-trimethyl-2, 6-11-dodecatriene-1, 10-diol (12-hydroxynerolidol) (III) were isolated and from the latter astragalin and shikimic acid were isolated. Their structures were elucidated by chemical and spectroscopic methods.
著者
安積 一平 西田 英高 田中 美有 桑村 充 嶋崎 等 田中 利幸 山本 卓矢 秋吉 秀保
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.76, no.5, pp.e75-e80, 2023 (Released:2023-05-02)
参考文献数
12

7歳齢の避妊雌のトイプードルが,右前肢の跛行を主訴に受診した.初診時のX線検査では右肩甲骨の骨増生及び皮質骨の不整が認められた.病変部位の組織の一部を採取したところ,非感染性の骨の炎症が疑われた.プレドニゾロン内服によって臨床徴候の改善が認められ,休薬によって血中C反応性蛋白(CRP)の高値及び両後肢不全麻痺が認められるようになった.核磁気共鳴画像(MRI)検査によって,第1-2胸椎,第4-5胸椎の硬膜外脂肪の炎症が認められ,特発性無菌性化膿性肉芽腫と診断した.免疫抑制量のプレドニゾロン及びシクロスポリンの内服によって,両後肢の神経徴候は改善し,血中CRPは正常範囲内まで低下し,MRI検査では病変は消失していた.本症例では,無菌性化膿性肉芽腫が肩甲骨及び硬膜外脂肪に発症したと考えられた.
著者
渡辺 徹 稲田 厚 三浦 克己 吉田 暁 田中 敏春
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.523-527, 2018-06-30 (Released:2018-06-30)
参考文献数
6

急性左心不全による心原性肺水腫に対して救急隊員が実施可能な処置は,酸素投与とバッグバルブマスク(BVM)による補助呼吸である。今回,病院前救護においてBVMを用いて1名が両手でマスクを顔面に保持密着させ,もう1名がバッグを圧迫し換気を行う二人法補助呼吸によりSpO2値の改善を認めた疾患例を経験した。心原性肺水腫では呼気終末の気道内圧を高めることで低酸素血症を改善させることができるため,近年医療機関ではNPPVが実施されるようになっている。BVMのマスクを顔面に確実に密着させることができる二人法補助呼吸は,適切に実施すればNPPVに近い効果が期待できる。また,起坐呼吸や不穏状態の傷病者にも有効な換気が可能になる。病院前救護で呼吸困難感を訴え急性左心不全が疑われる例において,高流量酸素投与でもSpO2値が改善しない場合,呼吸原性心停止への移行を予防するためにBVMを用いた二人法補助呼吸を考慮してよいと思われる。