著者
星 翔哉 佐藤 成登志 北村 拓也 郷津 良太 金子 千恵
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0076, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】加齢に伴い筋内脂肪は増加するとされている。高齢者における筋内脂肪は,身体機能と負の相関を示すと報告があることからも,わが国の高齢化社会において,体幹筋の筋内脂肪を把握することは重要であると考えられる。また,体幹筋の筋量低下は高齢者のADL低下の大きな要因であると報告もある。このことから,体幹筋の評価において,量と質を併せて検討することが必要であると考えられる。近年,筋内脂肪の評価方法として,超音波エコー輝度(以下,筋輝度)が用いられており,脂肪組織と筋輝度との関連性も報告されている。しかし,加齢による筋厚と筋輝度の変化に着目した報告の多くは,四肢筋を対象としており,体幹筋についての報告は少ない。本研究の目的は,健康な成人女性を対象に,若年者と高齢者における体幹筋の筋厚および筋輝度を比較し,加齢による量と質の変化を明らかにすることを目的とした。【方法】対象者は,健常若年女性(以下,若年群)10名(年齢20.6±0.7歳,身長159.9±5.4cm,体重51.4±4.8kg,BMI20.1±1.5)と,健常高齢女性(以下,高齢群)10名(年齢68.6±3.9歳,身長152.6±8.1cm,体重51.2±3.9kg,BMI22.4±1.7)とした。使用機器は超音波診断装置(東芝メディカルシステムズ株式会社)を使用した。測定肢位は腹臥位および背臥位。測定筋は,左右の外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋,多裂筋,大腰筋とした。得られた画像から各筋の筋厚を測定し,画像処理ソフト(Image J)を使用して筋輝度を算出した。なお筋厚は量,筋輝度は質の指標とした。得られたデータに統計学的解析を行い,有意水準は5%とした。また筋厚および筋輝度の信頼性は,級内相関係数(以下,ICC)を用いて,検者内信頼性を確認した。【結果】ICCの結果,筋厚と筋輝度は0.81以上の高い信頼性を得た。筋厚における若年群と高齢群の比較では,左右ともに外腹斜筋,内腹斜筋,大腰筋で高齢群が有意に小さく(p<0.05),腹横筋,多裂筋は有意な差は認めなかった。筋輝度においては,左右ともに外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋,多裂筋,大腰筋で高齢群が有意に高かった(p<0.05)。【結論】本研究の結果より,外腹斜筋,内腹斜筋,大腰筋は加齢に伴い筋厚は低下し,筋輝度が高かった。一方,腹横筋と多裂筋では,筋輝度は高くなるが,筋厚の低下は生じていなかった。すなわち体幹筋においては,加齢に伴い,筋厚が低下するだけではなく,筋内脂肪や結合組織の増加といった筋の組織的変化も生じていることが明らかになった。しかし,体幹深部に位置し,姿勢保持に関与している腹横筋と多裂筋は,加齢により筋厚の低下が起こりにくいと考えられる。以上のことから,加齢に伴い外腹斜筋,内腹斜筋,大腰筋は量と質がともに低下するが,腹横筋と多裂筋は質のみが低下し,量の変化は生じにくいことが示唆された。
著者
三浦 萌 福田 稔彦 植木 淳史 池ヶ谷 あすか 池田 亜耶 阿南 智顕 竹鼻 一也 山口 英一郎 金 檀一 佐藤 繁 山岸 則夫
出版者
日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会
雑誌
日本家畜臨床学会誌 (ISSN:13468464)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.8-11, 2009-04-30 (Released:2013-05-16)
参考文献数
9
被引用文献数
2 2

4ヵ月齢の黒毛和種牛が、2ヵ月齢時より発症した左後肢の跛行を主訴に来院した。症例は患肢を後方に過伸展し、蹄を着地せずに振り子状に動かす特徴的な歩様を呈していたが、疼痛反応はなく、X線所見においても異常は見られなかった。以上の所見から痙攣性不全麻痺を疑い、脛骨神経切除術を行ったところ、速やかに症状の改善が見られ、その後再発もなく治癒に至った。
著者
金南 咲季
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.98, pp.113-133, 2016-05-31 (Released:2017-06-01)
参考文献数
23

本稿は,地域社会における外国人学校と日本の公立学校の相互変容過程を,接触によって立ち現れる教育実践に着目して描き出すものである。そのうえで,従来の研究が看過してきたミクロな地域的観点から「外国人学校」を捉え直す視座と,ローカルな地域的実態を踏まえた支援の在り方について示唆を提示することを目的とする。 具体的には新興のコリア系外国人学校T校と校区の公立2小1中を事例に,その接触の様相を「コンタクト・ゾーン」を視点として記述した。 本稿の知見は以下に纏められる。第一に,T校と校区の公立学校は非対称な力関係のもとで出会うが,既存の実践を問い直していくなかで双方に主体化し交流をもつようになっていた。第二に,接触の継続のなかでは,授業実践や構成員の変容,新たな軋轢とそれを契機とする連携強化,進学制度の創出と活用といった展開がみられた。第三に,その背景には社会的不利益層のエンパワメントを重視する校区の地域教育組織と,構造的な窮状に直面しつつも教育理念の実現を見据えて地域社会との関係構築を進めるT校の主体性が重要な役割を果たしていた。 以上より,所与の環境や固有の構造的制約に規定されつつも,単に受動的に対処するだけでなく,既存の実践を問い直し相互に教育資源と位置づけ合うなかで,双方の教育実践を発展的に展開する外国人学校と校区の公立学校の姿が明らかとなった。踏まえて最後に学術的示唆と政策的示唆を論じた。
著者
中溝 寛之 橋本 淳 中村 真里 金谷 整亮 信原 克哉 中村 康雄
出版者
日本肩関節学会
雑誌
肩関節 (ISSN:09104461)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.355-358, 2004-08-30 (Released:2012-11-20)
参考文献数
5
被引用文献数
1

The purpose of this study was to investigate the characteristics of baseball pitching motion in young pitchers. Sixty-five asymptomatic pitchers were analyzed with a motion capture system. The subjects were classified into two groups according to their age: A: 34cases (10-15 years old), B: 3lcases (19-34 years old). Kinematic and kinetic parameters were used to compare the differences between the two groups. Abduction and horizontal adduction angles of the upper arm were smaller in group A at ball release. The trunk was less flexed and twisted, but was bent much more toward the non-throwing side in the group A. There were no significant differences between the two groups with regard to the elbow angles, the wrist angles and the interval from arm-cocking phase to ball release. Our results showed that the young pitchers tend to put their pitch arm behind their trunk at ball release. That position is not close to “Zero Position”. It causes stretching the anterior structure of the shoulder. Furthermore, the shoulder is overloaded by the rotational stress from the end of armcocking phase to ball release. Repetition of this stress might cause epiphyseal damage for young pitchers. The young pitchers should be taught proper pitching mechanics. Limitation on pitches might be able to reduce the risk of epiphyseal damage in young pitchers.
著者
喜友名 翼 安里 英樹 比嘉 勝一郎 新垣 寛 知念 弘 金谷 文則
出版者
西日本整形・災害外科学会
雑誌
整形外科と災害外科 (ISSN:00371033)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.326-329, 2014

高齢者でBankart病変を伴わず肩関節前方脱臼を生じ,腱板広範囲断裂を認めた2例について報告する.症例1,79歳,女性.転倒し右肩関節を脱臼し,近医で整復後,就寝中に再脱臼した.MRIでBankart病変は認めなかったが腱板広範囲断裂を認めた.受傷後3ヵ月で自動挙上が不能であったため手術を施行した.鏡視にてBankart病変は認めず,腱板広範囲断裂を認め,腱板の一次修復が困難であったため,棘下筋移行術を施行した.術後12ヵ月で,自動可動域は屈曲/外転/外旋/内旋:140°/150°/60°/Th12,JSS-SISは術前16点が62点,JOA scoreは術前8点が81点に改善し,再脱臼を認めない.症例2,73歳,女性.転倒し右肩関節を脱臼し,近医で整復後,外固定が行われた.MRIでBankart病変は認めず,腱板広範囲断裂を認めたため当院に紹介された.腋窩神経領域の麻痺は認めなかったが,受傷後12週においても自動挙上が不能であったため,鏡視下腱板修復術を施行した.術後12ヵ月で,自動可動域は屈曲/外転/外旋/内旋:140°/150°/60°/L1,JSS-SISは術前16点が67点,JOA scoreは術前15点が81点に改善し,再脱臼を認めない.腱板の再建・修復を行うことで再脱臼を防止し,肩関節機能は改善した.
著者
源 宣之 湯城 正恵 杉山 誠 金城 俊夫 高田 純一
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.41, no.7, pp.497-501, 1988-07-20 (Released:2011-06-17)
参考文献数
21
被引用文献数
4 4

DNAおよびRNA型動物ウィルスに対するグルタールアルデヒド (GA) の不活化効果を塩素剤およびヨウ素剤での成績と比較検討した. GAのロタウイルスに対する不活化効果は感作温度の上昇によって強まったが, 22℃と37℃との間では大きな差を認めなかった. また, その効果は蛋白質の存在によって強い影響を受けなかった. GAは用いたすべてのウィルスに対して塩素剤やヨウ素剤と同等またはそれ以上の効果を示し, なかでもロタウイルスを他の2剤より速やかに不活化した. また, 希釈したGAの不活化能は室温解放放置しても75日間にわたり維持された.
著者
髙橋 省吾 真鍋 誠司 本橋 永至 岸本 重雄 萩原 亨 金 垠憲
出版者
特定非営利活動法人 産学連携学会
雑誌
産学連携学 (ISSN:13496913)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.1_35-1_43, 2020-01-31 (Released:2020-03-06)
参考文献数
11

海外特許取得に関連する費用は非常に高額であり,間接費として企業収益に大きな影響を及ぼすため,各企業は海外特許費用を管理し,次年度以降にかかる費用を予測して経営戦略に織り込む必要がある.しかるに,費用が発生する時期や回数も発明案件により区々であり,その予測は極めて困難である.このため,各企業は,例えば,前年度の実績を参考に当該年度の海外特許費用を予想するなどの単純な方法に頼らざるをえない.そこで,本研究は,海外特許費用,特に米国における特許費用を,より正確に推定する方法を見出すべく,複数の統計的予測手法を比較検討し,企業実務への適用を図ることを目的とし,研究を行なった.その結果,所定のアルゴリズムを用いて,複数の予測手法の中から状況に最も適した手法を選択することで,将来の海外特許費用をより高い精度で予測する方法を見出し,予測システムの開発に着手することができた.
著者
関 恭子 岸井 加代子 久永 文 平手 ゆかり 長島 章 的場 是篤 金丸 太一 神前 雅彦 三好 真琴 宇佐美 眞
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.865-870, 2017 (Released:2017-04-20)
参考文献数
31

【目的】がん化学療法施行時にシンバイオティクスを併用することで、消化器症状が軽減しさらにがん化学療法のコンプライアンス保持に繋げられるのではないかと考え検討を行った。【対象及び方法】肺、胃、大腸がん患者のうちがん化学療法を行った患者を対象として、シンバイオティクス服用群9例と非服用群9例間で、消化器症状の発現頻度、がん化学療法の減量および延期の有無、体重、エネルギーと栄養素摂取量、血中 DAO活性を比較した。【結果】服用群では Grade2以上の食欲不振の発現頻度が有意に低下した (p = 0.041)。服用群では、血中 DAO活性の低下が抑制され、コース終了時の体重が維持され (p = 0.048)、がん化学療法の減量および延期症例が少なかった。【結論】がん化学療法施行時にシンバイオティクスを併用することは、食欲不振の軽減、体重の維持、がん化学療法時のコンプライアンス保持に有用であると考えられた。
著者
本江 朝美 金井 和子 土屋 尚義
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.1_61-1_68, 1996-04-01 (Released:2016-03-31)
参考文献数
12

本研究は,睡眠障害を把握し対応を考察するために,セルフケア可能な23例を対象とし,起床前後の心電図変化と睡眠に関するアンケート調査結果との関連を検討した。その結果,以下の知見を得た。① 不眠感,不満感は,52.2%で認められた。不眠感を訴える人は,就床時および中途覚醒時のねつき時間が長く,早朝覚醒後起床に至るまでの時間が長い傾向があった。不満感を訴える人は,むしろ不快症状を有し,それらは夢を伴う場合が多い傾向があった。② 起床前後の心拍数の変動は,起床前2時間から1時間では夜間睡眠安定時の平均心拍数より3.63±3.54bpmの増加がみられ,その後起床30分前から徐々に増加しはじめ起床後10分でピークに達した。これらの心拍数の変動は,不満感の有無では差は認められなかったが,不眠感の有無で比較すると,不眠感がない人は起床30分前から徐々に心拍数が増加するのに対し,ある人は起床10分前になって急激に心拍数が増加した。また起床に至るまで30分以上目覚めている人は,起床前90~70分で心拍数が増加しており,6時以降に起床した人は起床5分前から急激な心拍数が増加した。③ 起床前後の不整脈の出現については,不眠感不満感との関連を認めなかった。
著者
Matsumoto David 金野 潤 Ha Hyoung Zoo
出版者
日本武道学会
雑誌
武道学研究 (ISSN:02879700)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.17-26, 2006

柔道に関してよく掲げあげられている信念のひとつに、柔道は人格形成に寄与するというものがあるが、実際にそれを実証する学術的文献は今のところ存在しない。本研究はこのような先行研究の不足を補うため、柔道の実践が、自己統制、情動制御、誠実、勇敢、規律、敬意などにわたる人格特性と関連するかを検証した。アメリカ人柔道実践者、約160名を対象に、これらの人格特性、ならびに柔道実践の程度を測定する質問紙調査を実施した。柔道の実践とこれらの人格特性には正の相関が示された。年齢の影響を統計上取り除いたうえでも同様の結果が得られた。本研究は、これら特定の人格特性における柔道の効果をはじめて示唆する研究結果を報告したものである。
著者
横山 憲文 金澤 有紘 青島 貞人
出版者
公益社団法人 高分子学会
雑誌
高分子論文集 (ISSN:03862186)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.360-364, 2017-07-25 (Released:2017-07-25)
参考文献数
16

Graft copolymers were synthesized via grafting-through method by the quantitative synthesis of macromonomers via living cationic polymerization using vinyloxy group-containing alcohols as quenchers and subsequent cationic copolymerization of these macromonomers and an alkyl vinyl ether. The quenching of living cationic polymerization of isobutyl vinyl ether (IBVE) using methanol, ethanol, 2-propanol, and tert-butyl alcohol indicate that the primary alcohols are suitable for end functionalization due to the stability of the acetal ω-ends. Thus, macromonomers were prepared by the end-capping method using vinyloxy-containing primary alcohols as quenchers for the living cationic polymerization of IBVE under appropriate conditions. The spacer structure adjacent to the vinyloxy group of the macromonomer is highly important for the efficient cationic copolymerization that proceeded without side reactions. A macromonomer prepared from 1,4-butanediol monovinyl ether was successfully copolymerized with IBVE using an appropriate catalyst, yielding graft copolymers in high yields.
著者
長谷川 治 金井 一暁 弓永 久哲
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1269, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】頭蓋脊椎角(以下CV角)は,C7棘突起を通る水平線とC7棘突起から耳珠を通る線が成す角度とされ,CV角の減少は頭部の前方への移動を指す。本研究の目的はCV角の違いで呼吸筋や換気能力の影響を検討することである。頸部制御不良は,廃用のほか神経筋疾患などで幅広くみられる容態である。臨床では座位不良や臥位姿勢不良などの影響で頸部周囲筋から腰背部筋の緊張を高めた症例を多く経験する。特に頸部筋の緊張が高まることで誤嚥やこれによる重篤な肺疾患をきたす症例も少なくない。これは頸部体幹部の不良姿勢による影響であることを多くの報告から散見する。しかし,このような不良姿勢者の呼吸筋力への影響や換気能力についての報告,特に頸部角度について検討した報告は少なく頸部姿勢介入への方法について検討する必要があるため今回の検討に至った。【方法】CV角を他動的に設定するため自作の固定器具を被験者の背部から当て頭部および上腕部で固定を行った。固定は正中位をCV角90°としてそこからCV角60°,45°,30°位とした。検査肢位は体幹の運動を排除するため全例背臥位とした。なお被験者の両上肢を固定し,頭部は固定器から浮かさないように口頭で説明し,動いたものは測定値から除外した。次いで,各肢位における呼吸筋力および最大換気能力をスパイロメーター(ミナト医科学社製AS507)によって,最大換気量(以下MVV),最大吸気圧(以下PImax)と最大呼気圧(以下PEmax)の測定を被験者ごとに各2回行った最大値を採用し,得られた値をDuboisの式を用いた体表面積(BSA)の値で除した。各肢位における測定の順序はランダムとし,測定の間隔も十分に休息を取って行った。各被験者の測定値の平均を算出し,それぞれの角度間のMVV,PImax,PEmaxの変化を比較検討した。統計には対応のある一元配置分散分析を用い,各角度間の比較にはBonferroniの多重比較法を用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,研究の概要,倫理的配慮,公表の方法などについて本校倫理委員会で審査を受けその承認のもとに実施した。被験者は本実験の趣旨を十分に説明し書面によって同意を得られた健常な男性12名(平均年齢±標準偏差;20.3±1.7,平均身長±標準偏差;172.4±4.0,平均体重±標準偏差;63.7±8.0)とした。【結果】MVV/BSAがCV角90°(61.4±13.6L/min)に対して,60°(65.5±14.8L/min)で有意に増加し,逆に45°(64.1±14.2L/min)と30°(61.5±11.6L/min)では60°に比べて減少した。PImaxではCV角90°(77.3±17.7cmH2O)に対して有意差はなかったが60°(82.0±23.7cmH2O)と45°(83.9±26.6cmH2O)で増加した。しかし30°(79.5±29.0cmH2O)では減少した。PEmaxではCV角90°(70.5±14.6cmH2O)に対して有意差はなかったが60°(70.0±15.0cmH2O),45°(67.6±15.6cmH2O),30°(66.6±11.8cmH2O)とCV角の減少に従って減弱した。【考察】換気機能は頸椎の屈曲角度の増大に伴い減弱する傾向にあるが,CV角が60°となる,つまり背臥位姿勢からわずかに頸部を屈曲した姿勢では,屈曲しなかった姿勢に比べて有意に換気し易くなる結果となった。このことから背臥位姿勢では,枕などを使用したわずかな頭部挙上位が換気しやすい姿勢であることが示唆される。また,CV角60°では吸気補助筋である胸鎖乳突筋や斜角筋の走行を上位胸郭の引き上げ方向に一致させ筋活動を起こしやすくし最大吸気筋力の増大につながったと考える。しかしCV角45°以下になると,その走行が上位胸郭の運動方向より逸脱するため筋活動が起こし難くなると考える。またCV角45°以下は上位胸郭の前上方への運動制限,上気道抵抗の増大などを引き起こすため,過剰な頸部屈曲姿勢を保持し続けることは廃用的に換気不全に陥る可能性が示唆される。このことから,背臥位での過剰な頸椎屈曲姿勢は,換気機能や呼吸筋力を低下させる可能性があるため,背臥位姿勢でのポジショニングを考える際には,枕などを使用して軽度屈曲姿勢をとらせることを検討する必要性があることを示唆した。【理学療法学研究としての意義】臨床における座位不良やポジショニング不良による頸部周囲筋から腰背部筋の緊張が高まった症例に対し,呼吸筋力や換気能力の低下を予防するために,姿勢介入の重要性を考える一助になると考える。
著者
前嶋 篤志 金子 秀雄
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】昨今,全身振動刺激(Whole body vibration:WBV)は身体に様々な運動効果をもたらすという報告があり,振動マシンを用いたWBVトレーニングが高齢者や様々な疾患に対して試みられている。WBVによる効果として,先行研究では下肢の筋力増強効果が得られたとしたものなどがあるが,これらの先行研究では,トレーニング中の肢位として膝関節を軽度屈曲した立位姿勢で行われているものが多い。しかし,膝関節伸展位でWBVを行うことにより,下肢関節での振動吸収が減少し振動刺激が体幹筋活動を高め,体幹筋に対するトレーニングに応用できる可能性が考えられる。また振動刺激の強度も筋活動に影響することが知られているが,WBV中の姿勢や振動強度が体幹筋活動へ与える影響を調査した研究は見当たらない。そこで本研究では健常成人男性を対象にWBV中の膝関節角度,振動周波数の違いが体幹筋活動に与える影響を調査することを目的とした。【方法】対象は運動に支障をきたす整形外科的疾患,神経疾患を有さない成人男性14名(平均年齢26±5歳,平均BMI19.9±1.4kg/m<sup>2</sup>)を対象とした。測定方法として対象者には,WBVトレーニング装置(Novotec Medical社製Galileo G-900)の振動板上で,2種類の振動周波数(20Hz,30Hz)および膝関節角度(屈曲0°,20°)の組み合わせによる4条件で立位を保持させた。足部の接地位置は,振動板の中心軸から左右に6.5cm離れた位置に足部の中心がくるように接地させ,振幅が1.2mmになるように統一した。足底全体に均等に荷重をかけ,安全のため前方のハンドルを軽く触れさせ,測定中は前方を注視するように説明した。各条件においてWBVを1分間行い,その時の右側の外腹斜筋(EO),内腹斜筋(IO)多裂筋(MF)の筋活動を表面筋電図(Delsys,Bagnoli-8)により測定した。各条件の測定順序はランダムに設定し,各条件間には1分間の休憩を入れた。WBV時の筋活動の計測前に,各3筋それぞれの最大等尺性随意収縮(MVC)を計測した。いずれも随意収縮を5秒間行ってもらい,中央3秒間の積分値(IEMG)を求めた。4条件における筋活動は振動前の5秒間とWBV中の安定した筋活動5秒間を抽出し,それぞれ中央3秒間を解析に用いた。分析に用いた筋電図は,バンドパスフィルター(10~400Hz)にてフィルター処理を行った後,WBV時の筋電図データはバンドストップフィルターにて振動による特定周波数をそれぞれ1.5Hzの範囲で選択的に除去した。その値を整流化し,IEMGを求め,WBV前のIEMGを差し引いた値をWBV中のIEMGとした。最終的にこの値をMVCで除して%IEMGを分析に用いた。統計方法として,WBV前の膝関節角度の違いによる%IEMGを比較するために対応のあるt検定を用いた。WBV中のデータは膝関節角度と振動周波数の2要因について反復測定の分散分析を行った。いずれも有意水準は5%とし,それ未満のものを有意とした。【結果】WBV前の膝関節角度の違いによる立位姿勢の各筋活動に有意差は得られなかった。膝関節角度と振動周波数における比較では,WBV中のEO,IOの筋活動にて膝関節角度要因に主効果を認めたがMFには認められなかった。膝関節角度の違いによる%IEMGの平均値は,EOが膝屈曲0°で19.1%,膝屈曲20°で14.7%,IOが膝屈曲0°で17.5%,膝屈曲20°で13.2%となり,膝屈曲0°の%IEMGが有意に増大した。振動周波数の主効果,交互作用は認められなかった。【考察】今回,WBV前の姿勢の違い,WBV中の振動強度の違いにおける%IEMGに有意差はみられなかった。WBV中の膝関節屈曲角度の違いにおいて屈曲20°と比較し屈曲0°のEOの%IEMGが約5%,IOの%IEMGが約4%大きく,それぞれ有意差がみられた。これは膝関節角度が小さくなるほど身体上部への振動強度は増加するとするAbercrombyらの報告を支持する結果となった。一方でMFの%IEMGには各条件間で有意差はなく立位姿勢条件による影響はないことがわかった。また周波数の違いは3筋の%IEMGに影響がないことがわかった。WBV上での立位姿勢の保持は,EO,IO,MFに対して低強度の筋活動を生じさせ,EO,IOに対しては膝屈曲0°位をとることで相対的に高い筋活動が得られることがわかった。【理学療法学研究としての意義】WBV上での立位姿勢,特に膝伸展位での保持が低強度の体幹筋活動を同時に生じさせること示した本研究は,WBV上での立位姿勢保持が体幹安定性を高めるトレーニングの一つとして活用できる可能性を示唆するものと考える。