著者
牛島 秀暢 青木 俊介 西山 勇毅 瀬崎 薫
雑誌
研究報告高度交通システムとスマートコミュニティ(ITS) (ISSN:21888965)
巻号頁・発行日
vol.2020-ITS-81, no.1, pp.1-8, 2020-05-21

交通やインフラ,スマートフォンなどから得られる様々なデータを統合的に利活用し,都市計画の継続的な改善に役立てるという都市コンピューティングが注目されている.都市コンピューティングは少子高齢化と過疎化が進行する日本においても公共インフラを有効活用し都市を維持するためにも有効である.限られた公共インフラを活用するためには人々の移動目的を推定し,交通リソースを最適化する必要があるが,既存の IC カードなどの交通データでは推定粒度に限界があった.こうした状況の中,特定の返却場所を持たないドックレス型のマイクロモビリティが急速に普及している.ドックレス型マイクロモビリティは平均移動距離が 500m 程度と短く,直接目的地に向かうため,より詳細な移動行動が検出可能である.本研究では,マイクロモビリティが都市空間で離散的に分布する点に着目した.そして,細かく単発的な移動行動を大域的に分析することで潜在的な移動パターンがあることを,Non-Negative Tensor Factrization と呼ばれる教師なし学習を用いることで明らかにした.
著者
青木 孝志 足達 義則
出版者
国際生命情報科学会
雑誌
Journal of International Society of Life Information Science (ISSN:13419226)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.133-139, 2007-03-01

暗記や勉強を行うときは、室内を歩き回りながら行うと効果的であるといわれている。しかしパソコン作業などのデスクワーク中に歩き回ることはできない。デスクワーク作業中に可能な運動としては微小揺脚運動(貧乏ゆすり)が考えられる。しかし、これは歩行に比べだらエネルギー消費が非常に小さくなる運動規模の非常に小さい運動である。本研究では貧乏ゆすりが良導絡(電気的な経絡)の自律神経活動に与える効果をノイロメトリー法による皮膚電気反応測定により吟味した。被験者は22-23歳の健康な男子10人である。運動時間は4分間である。貧乏ゆすり前に4分間、貧乏ゆすり後に8分間のノイロメトリーを行った。貧乏ゆすり前に比べ運動後の初めの4分間は良導絡の皮膚電気伝導が上昇した。次の4分間に大略元に戻る傾向があった。従って貧乏ゆすりのような小規模な運動といえど、統計的有意に良導絡自律神経活動を活性化することが示唆される。また、良導絡自律神経情報系LH_2およびLH_3に影響が大きく現れる傾向が見られた。逆に、 LH_5およびLH_6への影響は比較的小さい傾向があった。
著者
長谷川 雄太 青木 尊之 小林 宏充 白﨑 啓太
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集 (ISSN:21879761)
巻号頁・発行日
vol.85, no.870, pp.18-00441, 2019 (Released:2019-02-25)
参考文献数
18

We implement and perform large-scale LES analysis for running groups of cyclists. The mesh-refined lattice Boltzmann method (LBM) and coherent-structure Smagorinsky model (CSM) are adopted for the simulations to achieve a high performance computing on the recent GPU supercomputer. In the simulation with 16 cyclists, the mesh spacing around cyclists is 4 mm, and the total number of the mesh is up to 8.1×108 and the number of GPUs utilized is up to 64. Each calculation took 4 or 5 days for the 8~11 seconds of physical duration. The flow around 16 cyclists in various arrangement is calculated, and the results show that the in-line arrangement is more effective than the rhomboid arrangement in the viewpoint of the total aerodynamic drag of the group; however, a specific person in rhomboid arrangement can obtain larger drag reduction and save the endurance. Results on two groups also suggest that the frontal group in rhomboid arrangement will be exploited as the wind protection of the backward groups.
著者
小村 良 青木 正則 中田 将風
出版者
一般社団法人 国立医療学会
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.45, no.9, pp.845-850, 1991-09-20 (Released:2011-10-19)
参考文献数
13

1982年より1990年までの8年間に末梢性顔面神経麻痺204例に対して高気圧酸素療法を行い, その効果を検討した. 症例の内訳はベル麻痺185例, ハント症候群19例であった. 発症後2週以内に治療を開始した新鮮例の治癒率は, ベル麻痺82%, ハント症候群81%と高率で, 治癒までに要した日数の平均は, ベル麻痺28.3日, ハント症候群27.3日と短かった. また, 初診時の麻痺程度が軽いほど, 年齢が低いほど, 治療開始までの期間が短いほど治癒率は高かった. ベル麻痺陳旧例の治癒率は47%で, 前医の治療で回復しなかった症例に対しても有効であった. 本療法は, 特別な合併症はなく, 基礎疾患の有無や年齢にかかわらず安全に行うことができるため, 末梢性顔面神経麻痺に対してきわめてすぐれた治療法であるといえる.
著者
皆川 泰代 山本 淳一 青木 義満 檀 一平太 太田 真理子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2019-06-26

本研究は自閉スペクトラム症(ASD)を主とする発達障害のリスクを持つ乳児と定型発達児を対象として,新生児期,月齢3ヶ月時期から3,4歳までの脳機能,知覚・認知機能,運動機能を縦断的に計測するコホート研究である。特に言語コミュニケーションに障害を持つASDリスク児と定型児の発達過程を比較することで,言語やコミュニケーション能力の獲得における脳,認知,運動の機能発達の関係性,発達障害を予測する生理学的,行動学的因子の2点を解明する。これまでの研究で非定型発達の脳機能結合特性等を明らかにする等,成果をあげたが,本研究は,貴重な本リスク児コホートを継続追加し,より詳細な検討を行うための研究である。
著者
寺内 文雄 久保 光徳 青木 弘行 橋本 英治
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.45-52, 2005-03-31
被引用文献数
3

近年の環境問題において、モノを長く使うことに対する意識の低さが、問題解決に向けた障害の一つとなっている。本研究においては、モノの長期使用を念頭に置き、生活者の意識面における問題を解決するための方策として、モノに対して抱く愛着に着目した。そして、モノが有する様々な感性要素と愛着の発生に関わる因果モデルを、構造方程式モデリング手法を用いることにより構築した。また、モノに対する生活者の志向態度を因子分析とクラスター分析手法を用いてに四タイプに分類し、各タイプの因果モデルを検討することにより、その特徴と特質を明らかにした。最後に、これらの検討結果を踏まえて、愛着を誘発するための人工物設計指針6項目 : 完成度の高い造形処理、素材の特性を生かした質感表現、頭に馴染む使い勝手のよい機能、使い込むことによって見いだされる新たな仕組みの導入、愛着感構成要素の実現、本物感を満たすブランド価値の確立、を導いた。
著者
青木 弘行 久保 光徳 鈴木 邁 後藤 忠俊 岡本 敦
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.1993, no.96, pp.47-54, 1993-03-01 (Released:2017-07-25)

エレクトリックギター用材料に適した新しい材料選択基準を求めるため、音色に強い影響を与えるヤング率、振動損失、密度、そして周波数スペクトル分布に代表される物理特性と、エレクトリックギターの音色としての「ふさわしさ」に対する評価尺度である感覚特性との相関関係について検討した。木材、プラスチック、金属に対する打撃振動、および振動音測定実験を行い、物理特性および音響特性の解析を行った。感覚特性は、これらの振動音の、エレクトリックギターに対する、相対的な「ふさわしさ」であるため、一対比較法を用いた官能評価実験により解析を行った。本研究によって解析された物理特性と感覚特性との関係を明確にするため、典型的な楽器用材料選択基準による評価を行うと同時に、これらの特性の相関式を、重回帰分析法に従って求め、エレクトリックギター用材料選択基準の検討を行った。これらの検討より、選択基準の説明因子である密度、特にその値の対数値とヤング率の影響が重要であることが明らかとなった。さらに、密度やヤング率を操作できる材料である繊維強化複合材料(GFRP、CFRP)の、エレクトリックギター用材料としての有効性について検討し、高剛性、低密度であるCFRPの利用可能性を確認した。
著者
須田 義大 青木 啓二
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.57, no.11, pp.809-817, 2015
被引用文献数
7

現在,2020年までの自動運転の実用化を目指して日本,米国および欧州において技術開発が進められている。自動運転は人間に代わり認知,判断,操作を行う必要があり,高度な情報処理や走行制御が求められる。このため自動運転として,数台の車両が車群を構成して走行する隊列走行システムが開発された。この隊列走行システムを通じ,白線に沿って自動操舵する車線維持制御技術や車車間通信技術を用いた車間距離制御技術が開発された。隊列走行システムの後,現在一般道での自動運転を目指した技術開発が行われており,キー技術として,制御コンピューターの故障時における安全を確保するフェイルセーフ技術や障害物を確実に認識するためのローカルダイナミックマップ技術およびAI化を中心とした自動運転アーキテクチャーが開発されている。
著者
長岡 優 西田 究 青木 陽介 武尾 実 大倉 敬宏 吉川 慎
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

2011年1月の霧島山新燃岳の噴火に際し、地殻変動の圧力源が新燃岳の北西5km、深さ約8kmの位置に検出され、噴火に関わるマグマだまりであると考えられている(Nakao et al., 2013)。しかし、このマグマだまりを地震学的手法によってイメージングした研究例はまだない。マグマだまりの地震波速度構造を推定できれば、マグマ供給系に対して定量的な制約を与えられることが期待される。 本研究では、地震波干渉法により霧島山周辺の観測点間を伝播する表面波を用いて、マグマだまりの検出を試みた。地震波干渉法は脈動などのランダムな波動場の相互相関関数を計算することによって観測点間の地震波の伝播を抽出する手法である。相互相関関数は観測点間の速度構造に敏感であるため、地震波干渉法は局所的な構造推定に適している。 解析には、霧島山周辺の38観測点(東大地震研、京大火山研究センター、防災科研、気象庁)の3成分で記録された2011年4月~2013年12月の脈動記録を用いた。脈動記録の上下動成分どうしの相互相関関数を計算することにより観測点間を伝播するRayleigh波を、Transeverse成分どうしとRadial成分どうしの相互相関関数からLove波を抽出した。抽出された表面波の位相速度推定では、まず解析領域全体の平均的な1次元構造に対して分散曲線を測定し、次に各パスの位相速度を領域平均構造に対する速度異常として測定する、という2段階の手順を踏んだ。各パスの位相速度を用いて表面波位相速度トモグラフィーを行い(Rawlinson and Sambridge, 2005)、各グリッド点の位相速度から、S波速度構造(VSV, VSH構造)を線形化インバージョン(Tarantola and Valette, 1982)を用いて推定した。 海抜下4 km以浅の浅部では、VSV, VSH構造ともに標高に沿った基盤の盛り上がりに対応する高速度異常が見られた。VSV構造では、海抜下5 kmで霧島山の約5 km北西に強い低速度異常が現れ、海抜下10 kmにかけて深くなるにつれて、山体北西から山体直下にかけて広く低速度異常が見られたが、VSH構造ではこの低速度異常が現れず、radial anisotropyが確認された。2011年噴火の地殻変動源はこの低速度異常の北西上端に対応していることから、低速度異常は噴火に関わるマグマだまりであると推定される。さらに、この低速度異常の南東下端に当たる海抜下10 kmからさらに深部(海抜下25 kmまで)の山体下で低周波地震が発生している。以上を踏まえ、マグマは山体の真下からマグマだまり内へ供給され、北西の地殻変動源の位置を出口として浅部へ上昇する、という描像が得られた。 今後同様の手法を他の火山に適用し、マグマだまりやradial anisotropyの存在を系統的に調べることは、活動的火山のマグマ供給系を理解する上で重要だろう。

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著者
青木得三 [著]
出版者
大政翼賛会宣伝部
巻号頁・発行日
1943
著者
伊藤 勅子 小松 大介 小山 洋 坂井 威彦 藤田 知之 中田 岳成 熊木 俊成 青木 孝學 春日 好雄
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.63, no.8, pp.1853-1856, 2002-08-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
15

甲状腺癌のほとんどを占める乳頭癌は分化度の高いものが多く,早期発見および適切な外科治療により治癒が期待できる.今回われわれは, 1997年4月から2002年3月までの5年間の当院人間ドックにおける触診での甲状腺癌検診の成績および外科治療を含めた臨床的検討を行った.発見率は総受診者25,139人中58人(0.23%)で,男性は17,443人中11人(0.06%),女性は7,696人中47人(0.61%)であった.最大腫瘍径が1cm以下のいわゆる微小癌は25例(43%)であった.組織型は乳頭癌は56例(96%)で,濾胞癌,髄様癌はそれぞれ1例(2%)であった.リンパ節転移陽性は27例(47%)に認められた.いずれも手術時合併症はなく現在再発を認めていない.人間ドックでの早期発見により侵襲,合併症が少ない治療が可能で患者のQOLは向上することが期待され,検診の意義は十分にあると考えられる.
著者
青木 深
出版者
京都大学
雑誌
京都大学高等教育研究 (ISSN:13414836)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.65-74, 2015-12-01

Hitotsubashi University, which specializes in the humanities and social sciences, has provided both academic and professional career support to graduate students since April 2011. This article discusses the content, characteristics, and problems associated with academic career support, particularly with regards to the school's academic career seminars, which are held approximately seven times yearly. These seminars cover topics such as the submission of articles, publication of dissertations, applying for research grants and academic jobs, academic career and life events, tips for teaching undergraduates, and overseas education and research. Speakers at the seminars are generally young faculty members and postdoctorates who earned a Ph.D. at Hitotsubashi University. A variety of graduate students attend the seminars, wherein lecturers impart attendees with knowledge concerning academic job-hunting, while also addressing study skills, the diversity of career paths in academia, and the mental preparation required to write persuasive job applications and grant proposals. These academic career seminars are managed by a "young researcher, " who attempts to internalize the viewpoints of graduate students and postdoctorates. The support system facilitating this, however, is complex given that the aforementioned young researcher, who is in charge of academic career support, is also applying for tenure status in a manner similar to "supported" graduate students and postdoctorates.
著者
青木 武信 アオキ タケノブ Takenobu AOKI
出版者
総合研究大学院大学
巻号頁・発行日
2001-03-23

本研究の目的はインドネシアの大衆芸能、クトプラ(kethoprak)について、現地調査から得られたデータをもとに、その公演形態、公演内容、および芸人と彼らの社会生活について民族誌的記述を行い、1990年代半ば、スハルト政権最末期のインドネシアにおけるクトプラについて考察するものである。事例としてはジョクジャカルタを中心に活発な公演活動を行っているクトプラ劇団、ペーエス・バユ(PS Bayu)をとりあげる。 クトプラはインドネシア、中部ジャワの大衆芸能であり、笑いとアクションを中心としたドタバタ喜劇である。クトプラは中部ジャワー帯で人気が高く、ジョクジャカルタを中心に各地で公演が行われているが、最近ではテレビでの放映も行われている。 クトプラで演じられる物語の主要なテーマは女性、領土、財物の奪い合いである。クトプラの人気を支えているのは、人々の情動に直に訴えかける通俗性である。この通俗性は自身の欲望に忠実な登場人物の姿に由来する。つまり、クトプラでは誰もが少ながらず持ってはいるが、日常的には抑圧されている欲望が舞台の上で鮮明に提示されるのである。そのために、観客は深い共感をもって観劇を楽しむことになる。 クトプラのもうひとつの特徴は、必ずしも単純ではない物語の筋を簡略化し、格闘シーンや笑いのシーンを適宜挿入しながら、柔軟に舞台を構成してゆくやり方にある。クトプラの芸人たちは、公演地における観客の嗜好を考慮し、かつ観客の反応をみながら、公演内容を臨機応変に組み立ててゆく。格闘シーンは舞台の進行にアクセントをっけ、弛緩した観客の注意を舞台に引き戻す効果をもっている。また、クトプラは笑いのシーンをふんだんに挿入することで、深刻さをさけ、観客に気晴らしの娯楽を提供している。理想と現実との垂離に日常的に直面し、緊張を強いられている観客は、笑いのシーンで、このズレを提示されて、それを笑うのである。 このように、人々の心に潜む欲望を的確にとらえて表現する技術や、観客の舞台に対する反応を鋭敏に感じとり、舞台を柔軟に構成してゆく技術にたけていることが人気クトプラ芸人の条件となっている。こうした能力は彼らの豊富な社会経験に由来する。クトプラの公演が行われる地理的範囲は広く、公演をおこなう機会も多様である。そのために、芸人たちはジョクジャカルタを中心に、中部ジャワの各地を訪れ、さまざまな人々と接触し、見聞を広め、広範な人的なネットワークを構築する。これらのことがクトプラ芸人の演技者や演出者としての能力を培っているのである。 こうした能力は舞台の外でもきわめて重要な役割を果たしている。このことを示す端的な例はペーエス゜バユの座長であるギトとガテイである。彼らは舞台の上で卑猥で低劣なジョークを連発し、ドタバタ喜劇を演じる。だが、舞台の外では強い倫理観を持った好人物とみなされている。こうした舞台の上でのパフォーマンスと非常にかけ離れた人物像は舞台外での芸人の「演技」から作られるところが大きい。彼らは、人に何を期待され、何が求められているかを鋭敏に感じとり、それを舞台の外においても自身の「演技」に生かしているのである。 そして実際に、ギトとガティは地域社会において名士やリーダーとしての役割を期待され、そうした期待にこたえている。また、ガティは集落長という公職についている。ギトとガティが居を構えている集落にすむ村人の大多数はあまり裕福とはいえない農民である。彼らは、何らかの事情で、まとまった額の現金を必要とする場合、ギトやガティのもとを訪れることが多い。あるときは、手持ちの装飾品などを質草にして現金を借り、またあるときは、所有する農地や水田を彼らに買ってもらう。これに加え、集落が共同で使用する水場の新設や整備、共同墓地の拡張、道路の舗装、青年団の活動などに際しても、ギトとガティは経済的援助を求められる。 こうした期待と要求に応えることは、とかくマイナスのイメージを付与されがちな芸人という存在が地域社会で生活していく上で、必要に迫られて行っている戦術ともいえる。たしかに、仮設の小屋掛けでおこなう巡回公演を中心とするクリリガンと呼ばれるクトプラ劇団の芸人の生活は、売春まがいの行為をおこなう等の理由から、ジャワ人の一般的倫理観から大きくずれている。そうしたこともあり、ギトとガティは自己の社会的イメージを大変重視している。それは人気クトプラ劇団のリーダーであり、ジャワ芸能界の人気者にして重鎮、かつ温厚で、人当たりのよい人物というイメージである。彼らはジャワ社会における期待されている人物像を舞台の外で演じているといってよい。 以上のように、ギトとガティがになう役割と彼らの行為を見てくると、彼らは地域社会(村)とその外にあるジャワ社会を結びつけ、情報、金銭、人的コネクションを地域社会にもちこむ存在だということである。ジャワ社会でトコ・マシャラ力(tokoh masyarakat)と呼ばれる地域社会における名士あるいはリーダー的存在にはさまざまな種類の人物がいる。それは篤農家であったり、宗教的指導者であったり、富裕な商人であったりする。ギトとガティはこうした多様なトコ・マシャラカの一例なのである。 ギトとガティは政治的、宗教的に特定の勢力と深く関係することなく、中立的な立場を保持してきた。そうすることが多方面からの公演依頼を可能にすると判断したためである。だが、クトプラ芸人のなかには公演依頼を増やすために、積極的に特定の政治団体、特にスハルト政権下の与党、ゴルカル党に参加し、活動を行う者もいた。ギトとガティの場合にもいえることだが、芸人たちは生き残りをかけて、ときには利用できるものは何でも利用するしたたかさを顕わにする。そのとき、芸人は豊富な経験に裏打ちされた彼ら独特の「嗅覚」あるいは現実的感覚を大いに働かせているのである。こうした生々しい現実的感覚をもつからこそ、クトプラ芸人はジャワ社会の変化に巧みに適応しながら、クトプラの人気を長きにわたり保持しつづけることができたのだと考えられる。 そして、1990年代、テレビの普及と並行してジャワ社会は大きく変化してきている。ペーエス・バユの公演活動から、こうした変化へ適応していく様子を窺うことができる。公演は儀礼的な要素が小さくなり、娯楽としての要素が中心となってきた。公演機会も村清めのようなジャワ固有の信仰に基づくものは少なく、インドネシアの独立記念日を祝う催しやムスリムが断食月明けを祝うサワラン儀礼が多くなっている。公演日の選択にあたっても、ジャワ暦よりも土日を優先するようになっている。舞台の内容も笑いとアクションの要素を強調する傾向にあり、漫才のみの公演も増えている。公演機会や公演内容はよりいっそう世俗化し、インドネシア化しつつある。その一方でテレビを通じてクトプラはジャワ王朝時代劇としてイメージを鮮明にしている。また、ムスリムにとって聖なる月である断食月と儀礼には適さないとされているジャワ暦のポソ月は、公演機会として現在でも避けられている。このように完全に世俗化し、ジャワ的なものがインドネシア的なものに置き換わってしまっているわけではない。1990年代の現代インドネシアにおいて、ジャワとインドネシアの間でクトプラ芸人は巧みに両者の要素を取り入れ、使い分け、生き残ろうと努めている。
著者
坂井 威彦 藤田 知之 草間 啓 熊木 俊成 青木 孝學 工藤 道也 春日 好雄
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.1155-1158, 2000-05-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
17

1家系, 3世代に, 5例の甲状腺乳頭癌を認めた家系を経験したので報告する.発端者は21歳の大学生であり,その母親が8年前に甲状腺乳頭癌で,他医にて外科治療をされていた.発端者と同時期に, 25歳の実兄が甲状腺乳頭癌にて当科を紹介されて受診したので,家系調査を行った.その結果,母親の妹と,母方の祖母の2人に甲状腺乳頭癌が認められた.発端者の母親は,甲状腺内再発と両側肺転移を認めた. 5人の患者のうち4人に当科で外科治療が施行された.外科治療は甲状腺全摘が望ましいとされているが,合併症を防ぐため,準全摘とした.今後は他の発症していない家族の検診を続けるとともに,手術患者の局所再発,遠隔転移に注意していく必要があると考えられた.