著者
田島 典夫 畑中 美穂 青木 瑠里 井上 保介
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.442-448, 2019-06-30 (Released:2019-06-30)
参考文献数
11

本研究では,高齢者福祉施設職員を対象にBLS(basic life support;BLS)に伴うストレス反応を調査し,ストレス反応およびその後の救助意欲を規定する要因を検討した。A市内の全高齢者福祉施設職員に対して悉皆調査を行い,利用者の心停止現場に遭遇した経験をもつ360名を分析対象としたところ,約9割から何らかのストレス反応が回答された。BLS経験後のストレス反応の規定因を重回帰分析によって検討した結果,BLSの手技に関する不安と非救命例でのBLS実施事案がストレス反応を規定していた。また,BLS経験後の救命に対する態度の規定因をロジスティック回帰分析によって検討した結果,BLSへの関与人数が2人以下の場合,また,BLS後のストレス反応が重い場合ほど,その後の救助意欲が消極的になることが示された。これらの結果を踏まえ,バイスタンダーのストレス対策の重要性が議論された。
著者
青木 健
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.81, no.3, pp.653-674, 2007-12-30 (Released:2017-07-14)

ゾロアスター教研究の資料には、六-一〇世紀に執筆された内部資料であるパフラヴィー語文献と、その他の言語による外部資料がある。外部資料の研究としては、ギリシア語・ラテン語、シリア語、アルメニア語、漢文、近世ヨーロッパ諸語などの資料ごとに纏まったコーパスがあるものの、アラビア語資料を用いた本格的な研究は依然としてなされていない。本論文は、アラビア語資料を完全に網羅した訳ではないが、ある程度の資料に当たって、アラビア語資料によるゾロアスター教研究の方向性を示した試論である。暫定的な結論として、サーサーン王朝時代のペルシア帝国領内のゾロアスター教は一枚岩ではなく、各地方ごとのゾロアスター教が存在したこと、パフラヴィー語文献は、そのうちのイラン高原南部のゾロアスター教を代表するに過ぎないこと、メソポタミアやイラン高原東部のゾロアスター教の実態は、却ってアラビア語資料から類推できることが判明した。
著者
青木 敬士
出版者
日本大学
雑誌
日本大学芸術学部紀要 (ISSN:03855910)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.A31-A36, 2007

「Web2.0」の時代は、ユーザの参加と情報の共有によって実現する「アクティブな生きた情報網」の実現によって打ち立てられた。しかし同じ環境を享受しながら、日本におけるコミュニケーション形態は、場の空気を読んだ馴れ合いがずっと主流であり続けている。その原因はどこにあるのか?この第一章では、対話を消滅させ、並行する「独白」同士の共感を浮かび上がらせる作風で支持を得た、新海誠のアニメーション作品を採り上げて、日本の若者が抱えているコミュニケーションの問題に迫る。
著者
青木 敬士
出版者
日本大学
雑誌
日本大学芸術学部紀要 (ISSN:03855910)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.A93-A103, 2005

細密画の技術が極限まで上がって写真と見分けがつかなくなった時、逆に細密画はその「リアルさ」という価値を失ってしまう。それはカメラという「装置で写し取ることができる」別種のリアリティに変容してしまうからだ。そのようなパラダイムシフトは、ネットワーク上の表現にも起こりつつある。コンピュータの高速度・大容量化が実現しつつあったマトリックス的ヴァーチャル・リアリティとは異質の、掲示板上に書き込まれる普通のテキストから生まれた『電車男』というストーリーが、真の意味でのリアリティを具現化してしまったのだ。パラダイムシフト前後を象徴する一九九八年のアニメ『serial experiments lain』と、二〇〇四年にネットから生まれた小説『電車男』をとりあげ、リアルを支えるものは何なのかを探る。
著者
青木 賢人 林 紀代美
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.3, pp.243-257, 2009-05-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
27
被引用文献数
2 4

2007年3月25日に発生した能登半島地震の被災住民である石川県輪島市と志賀町の中学生およびその保護者に対して,地震発生時の意識と行動に関するアンケート調査を行った.あわせて,地震発生以前の災害に対する知識,認識や経験,すなわち防災に対するレディネスを調査し,これと被災時の意識・行動との関係を,被災前後の比較が効果的に行える津波に焦点を当てて分析した.その結果,避難訓練や防災情報などから学んだ内容がとっさの行動として表出したり,直接・間接の被災経験が津波からの適切な避難行動に結びついたりするなど,被災以前のレディネスが適切な被災時の意識・行動の励起を強く規定していることが確認された.その一方,災害に対する警戒感が低かった能登では住民のレディネスは十分ではなかったため,住民の多くが適切な想起や行動が行えなかった課題も浮き彫りとなった.これらを踏まえ,今後の地域防災力強化のためには,学校教育,社会教育などのチャンネルを通じた防災教育の充実と,地域環境に応じた防災へのレディネスの構築が必要であることを指摘した.
著者
新井 克明 青木 洋平 雨宮 貴洋 倉田 なおみ
出版者
一般社団法人 日本老年薬学会
雑誌
日本老年薬学会雑誌 (ISSN:24334065)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.59-63, 2023-09-30 (Released:2023-11-01)
参考文献数
10

The purpose of this study was to evaluate the potential benefits arising from pharmacists accompanying doctors during their rounds in long-term care insured facilities for the elderly. Based on the medical records, the pharmaceutical content provided to physicians, medication history of residents, and residents’ level of care were analyzed. There were 157 interventions related to drug reduction that contributed to polypharmacy decrease. These interventions were maintained for six months and led to a cost reduction of approximately 1.67 million yen. Furthermore, one year after these interventions, a trend toward positive correlation was recorded between the improvement in residents’ level of care and the decrease in the number of medications taken. Overall, this study highlighted that pharmacists attending consultant-led rounds at long-term care insured facilities for the elderly was advantageous with regards to reducing polypharmacy and pharmaceutical costs.
著者
青木 茂治
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.175-188, 2009 (Released:2018-04-12)
被引用文献数
1

本稿では,これまで研究事例として取り上げられなかった地方都市とその周縁地域における落書きの実態と特徴について提示することを目的とし,茨城県北部のトンネル内にみられる落書きの観察と分析を試みた。それにより,落書きはその描写内容から,表現型・記念型・イタズラ型・縄張り型に分類され,これらのうち,表現型と縄張り型の落書きが最も多くみられることが明らかとなった。表現型の落書きでは,監視性が高い大都市ではあまりみることのできない形態のものがみられることがわかった。落書きの描かれる場所や位置の検討から,落書きは「暗闇の空間」に対する行為者の意識の違いによって弁別的な分布を呈することが示された。落書きの発生はトンネルの構造的要因や周囲の環境などによって左右されることについても言及した。さらに,類似性を有する落書きが広範囲にわたってみられることから,行為者の移動性の高さをうかがうことができた。
著者
岡 隆史 青木 秀夫
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.234-242, 2012-04-05 (Released:2019-10-19)
参考文献数
48
被引用文献数
1

非平衡強相関系について解説する.これは強相関電子系の光誘起相転移や非線形伝導などの研究に発し,冷却原子気体における光格子中の非平衡ダイナミックスなどとも関連して,実験・理論が急速に進展している分野である.QEDにおけるシュウィンガー機構など強電場中の場の理論における概念が,物性物理において多体効果を舞台として発展している様子を,物性版"strong field physics"として解説する.
著者
矢野 悠久子 上田 愼治エジウソン 寺内 文雄 青木 弘行
出版者
Japanese Society for the Science of Design
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集
巻号頁・発行日
pp.293, 2012 (Released:2012-06-11)

牛乳を原料としたプラスチックを家庭でも楽しめる造形材料として、生成方法と造形表現の可能性を検討した。牛乳に含まれるタンパク質であるカゼインを原料としたカゼイン樹脂は一般家庭でも作ることができる。同じく牛乳に含まれるタンパク質であるホエイプロテインからもプラスチックの生成が可能である。2つのプラスチックは食べられるもののみでできることから子供でも安心して扱える。まずこれらのプラスチックについて文献に基づいた生成実験を行い、さらに材料の混合比や加熱方法、膨張剤・食用色素の添加など条件を変えた実験を行った。カゼイン樹脂は皺ができ凸凹した見ためと感触が、ホエイプロテインを使ったプラスチックはツヤがありなめらかな感触が特徴的なものになった。また小学生に制作を体験してもらい、フィードバックを得た。これを基にそれぞれのプラスチックの特徴を活かした造形作品例を制作した。小学生を対象にしたワークショップや上級生が難しい作業をサポートできる縦割り活動などへの取り入れが期待できる。
著者
川崎 寛也 赤木 陽子 笠松 千夏 青木 義満
出版者
一般社団法人日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.334-341, 2009-10-20
被引用文献数
2

本実験では,サーモグラフィ動画像の自動色分解処理技術を用い,中華炒め調理における具材及び鍋の温度変化を詳細に把握するための新規システムを構築し,プロ調理と家庭調理の比較によりあおり操作の調理科学的意義を考察した。さらにあおり操作の回数も自動取得した。回鍋肉(豚肉とキャベツの味噌炒め)調理を例とし,サーモ動画像と可視動画像を同時に取得した後,サーモグラフィの動画像から鍋領域と具領域を分離して鍋と具材の表面平均温度を経時的に把握した。終点具材温度に家庭調理とプロ調理では大きな差が見られなかった。プロ調理では,あおり操作が定期的連続的に行なわれているのに対し,家庭調理では不定期であった。各あおり操作の前後におけるプロ調理の具材温度上昇は家庭調理よりも大きい傾向があった。鍋温度はプロ調理では家庭調理よりも顕著に大きく上昇した。本システムにより,動きを伴うプロの炒め調理においても,具材や鍋の平均温度変化を計測する事ができた。
著者
青木 聡子
出版者
環境社会学会
雑誌
環境社会学研究
巻号頁・発行日
no.11, pp.174-187, 2005-10-25

ヴァッカースドルフ反対運動は,使用済み核燃料再処理施設建設計画を中止に追い込み,連邦政府に国内での再処理を断念させ,ドイツの脱原子力政策を導く契機となった代表的な原子力施設反対運動である。この運動の展開過程を現地調査に基づき内在的に把握してみると,当初は外部に対して閉鎖的だったローカル市民イニシアティヴと地元住民が,敷地占拠とその強制撤去を契機に,オートノミー(暴力的な若者)との乖離を克服し対外的な開放性を獲得し発展させていった点が注目される。国家権力との対峙を実感し,「理性的に社会にアピールする私たち」という集合的アイデンティティを否定され「国家権力から正当性を剥奪された私たち」という集合的アイデンティティを受け入れざるをえなくなった地元住民は,「自らの正当性をめぐる闘争」という新しい運動フレームを形成することで,国家権力による正当性の揺さぶりを克服しようとした。このような集合的アイデンティティと運動フレームの変容こそ,ローカル抗議運動に開放性を付与し,地域を越えた運動間のネットワーク形成を可能にした条件であった。日本の住民運動との対比のなかで,ドイツの原子力施設反対運動の特徴とされてきた「対外的な開放性」は,ドイツの市民イニシアティヴの本来的な性格ではなく,運動の展開過程で市民イニシアティヴや地元住民によって意識的に選択され獲得されたものである。