著者
三上 俊介 杉谷 貞男 山口 光代 土井 幸雄 黒木 哲徳 下村 宏彰
出版者
福井大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

緩増加な不変固有超関数(IED)の場合に成立する指標等式,Weyl群の表現およびstableな緩増加なIEDのliftingの間に成り立つ関係を緩増加の条件を外した場合への拡張を目指した。Gをコンパクトカルタン部分群T_0を持つ実半単純Lie群(R上定義されたreductive線形代数群の実点全体として実現されるものに限る)とする。t,〓をT,GのLie環の複素化,μ〓t^*に対し,Gのcoーadjoint表現によるμ〓t^*〓〓^*のstabilizerをL,μより定まるC上のθーstable放物型部分環をqとする。πをLの1次元表現(λ=dπ:微分表現)とし、三つ組(q,L,π)に対応してcohomological parabolic inductionで定まる(〓,K)ー加群をA(λ)と書く。(KはGの極大コンパクト部分群)また,Wを(〓,t)のWeyl群とするとWが自然に三つ組(q,L,π)に作用し,w(q,L,π)=(q_w,L_w,π_w)と書く。いま表現とその指標を同じ文字で表すと,{A(wλ),w〓W}は,それらが生成する有限次元部分空間V(λ)内にstableなIEDが存在するような拡張されたLーpacketになるので,最初に掲げた問題をこのV(λ)に限定して考えた。そして階数の低い群(SU(p,q);p+q≦3,Sp(2,R))の場合に次の結果を得た。定理次の(1),(2)は同値である。(1)Θ〓V(λ)がGの極大splitカルタン部分群上恒等的に0に等しい。(ΘはG'={Gの正則元全体}上の実解析関数とみなせることを用いる。)(2)L_wの極大splitカルタン部分群T_w(これはGのカルタン部分群にもなる)およびT_o上でΘ(w_ot)=ーΘ(t)(tはT_w〓G'またはT_o〓G'の元)が成り立つ。ただしw_oは(〓,t_w)あるいは(〓,t_0)のimaginary Weyl群の最長元である。これは緩増加な場合に自然な拡張になっている。これまで得られてきた事例をもう少し発展させ一般化できることを期待しており、その時点でまとめて公表するべく考えている。
著者
佐藤 和彦
出版者
東京学芸大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

1987年度から、1989年度にかけて、日本中世の民衆運動に関する史料の蒐集と研究をおこなった。日本中世の民衆生活・思想などに関する研究は、西岡虎之助、林屋長三郎氏らの段階を経て、近年、横井清・三浦圭一、網野善彦らの仕事によって多くの成果を生みだしている。本研究は、これらの成果に学びつつ、日本中世における民衆の生活、生産、思想、芸能、宗教、闘争などを民衆運動として総合的に把握し、その特質を解明しようとした。作業の第一歩は、民衆運動に関する史料を調査し、それを蒐集することからはじめられた。東京大学史料編纂所、京都府立総合資料館などにおいて史料を調査した。ついで、民衆運動の展開した地域におもむき、文献史料の残存状況、伝承などの残存状況を調査した。1987年度は若狭国太良荘(現福井県小浜市)、備中岡上原郷(現岡山県総社市)などの調査をおこない、1988年度は、若狭国太良荘、1989年度には、京都府、および、近紀岡葛川(現滋賀県大津市)などの調査をおこなった。その結果、太良荘地域において3点の新史料を発見した。なお、各年度ともに、中世民衆運動についての関連文献リストを作成し、1989年度において研究報告書を作成した。なお、今後、このような研究を深めるためには、つぎのようなアプロ-チが必要となろう。すなわち、中世民衆の武装の問題、対領主意識の変化、闘争参加のさいの「いでたち」(服装)、当該段階の権力の本質などを追究することである。さらに、アジア諸国やヨ-ロッパ諸国の封建社会における階級闘争と対比させつつ、日本中世の農民闘争のもつ階級闘争としての成果と現限とを明らかにすることが必要である。このことは、日本中世の民衆運動の本質を解明するための基礎作業となるであろう。
著者
坂元 宗和 高木 幹雄
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

2変数の関数の格子点における値の剰余を取り,その剰余が一定の値である場合には単位格子の形でプロットすることによって,多様な形が得られる.これを剰余パタ-ンと名づけ,模様のデザインに応用するための理論と手法を研究した.1.剰余パタ-ンの性質:剰余パタ-ンの周期,対称性などの幾何学的特徴が剰余関数の代数学的特徴に基づくことを明らかにした.従って,パタ-ンの論理合成は剰余関数の解集合の論理合成に相当するが,人間の知覚はパタ-ンの論理合成に対する分解能力が劣っていて識別できないので,合成パタ-ンも価値がある.2.生成原理のアルゴリズム化とデザイン手法の開発:必要な幾何学的特性に見合う剰余関数を選んで剰余パタ-ンを作り,これをいくつかOR合成して,複雑かつ美的なパタ-ンを作る.モチ-フの自然さを高める平滑化輪郭と部分塗り潰しを工夫し,作品の質が向上した.この模様(単色模様)をビット・プレ-ンと見て,ビット組合せに対して色を割当てると,単なる色違いとは異なる新しいモチ-フが発現する(カラ-模様).以上をプログラムとして纏め,パラメ-タ選択の基準を経験的に求めた.3.模様の制作と評価:約200点を試作し,成果報告書に約80点を載せた.提案した模様デザインの手法は作品の質および多産性についても満足すべきものである.上記の知識を組み込めば無限のペ-ジをもつデザイン・ソ-スブックとして使うことができる.4.ディジタル・システムの特殊性の利用:ディジタル・システムの非線形性,別の観点から言えば類推困難性,は制御するには都合が悪いが,本研究はこの性質に発想の役割を担わせる点に独自性がある.
著者
田山 典男 浅利 英吉
出版者
岩手大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

本研究は, 筆者の提唱する『コンピュータ人体解剖技術CAT』を実現すべく, 人体のような3次元ディジタル物体像(3D像)をコンピュータ上に再構成し, 領域分割等の3次元処理を施し, 人体解剖のように3D像を実時間で任意に切出して立体表示するという技術の開発研究を行うものである.1.3D像の再構成実験:高分解能のX線撮影装置を一時借用してX線射影データの収集を行なった. それを特殊なサンプリング方法でコンピュータに取込み, 座標系統の変換処理を行ない, 3D像の再構成を試みた. 種々実験の結果, 対象物体が均質なボクセルから構成されている場合には, 理論に近づくことがわかった. そこで対象物体の周囲を細かなボクセルで扱えるように理論の修正が必要である.2.3次元並列処理コンピュータPIPE-IIのハードウェア増設:3方向からの平面状の並列アクセス機能と, ブロック組立てによるメモリ容量増設機能をもった4次元画像メモリQMUの方式設計を行ない, 64メモリモジュールからなるQMUを製作し, 所期の動作を確認した. 更に, アドレスレジスタを3D像処理向きに自動カウントするように改造した.3.PIPE-IIの図式マイクロプログラム作成ツールの拡張と命令開発:PIPE-IIは, 3次元データの並列処理をする特有のハードウェア機構をもっており, 対角型の語長が長いマイクロプログラムで制御される. 今回, 64ビットのマイクロフィールドを追加増設したので, そのマイクロプログラム作成ツールFADETの機能を拡張した. これで10個の専用命令を作成した.4.3D像の表示:従来のZバッファアルゴリズムを3次元生データの探査用に拡張する方法により, プログラムを作成し立体画像の生成を試みた. 一応の画像が得られたが, リアリティに乏しい. 高速化の面からも, もう少し工夫が必要と思われる.
著者
椿本 昇三
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

本年度は、着衣で泳ぐ時の生理学的影響をみるために心拍数を用いて、着衣で泳ぐときの運動強度を推定した。また、最終年度のまとめを行った。研究費で購入したキャノン製心拍計で着衣泳中の心拍数の変動をみた。実験で得られたデータの整理はされたが、その結果は、まだ学会誌等に発表されていない。水着泳と着衣泳との10分間における泳ぎの平均心拍数の間は、10分間泳いだ後で、水着泳127.8拍/分(±23.45)、着衣泳116.9拍/分(±23.81)であった。このことから、水着泳と着衣泳の平均心拍数の間には有意な差(p<0.001)本研究のまとめは、以下のようなものである。着衣で泳ぐ時には、水着泳よりも大きな抵抗を受け、そのために普段の泳ぎができなくなる。特に、着衣で泳ぐときには体幹から下肢にかけて沈む姿勢になるために非常に泳ぎ難いことが指摘された。また、心拍数からみた運動強度では、水着泳と着衣泳には大きな違いがみられなかった。このことは、今後の課題でもある。最後に、本研究結果から、水泳指導における示唆としては、以下のことがあげられる。着衣泳では、低速のスピードでは、浮力を利用した浮漂技術の習得が重要であると思われる。また、全力泳のような速いスピードでは大きな抵抗を作りだし、疲労を早めることになると思われるので、着衣では速いスピードでは泳がない方がよいと思われる。
著者
小嶋 一浩 日色 真帆
出版者
東京理科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

シーンのネットワークを、特に立体化した都市空間の特性を表す表現法とするために、他の表現法と並行して具体的な対象に適応しつつ検討した。ここでいうシーンのネットワークは、対象地を撮影したビデオ画像をコンピュータを利用して編集し、動きにつれ展開するシーンを網状につなぎ合わせたもので、一部をコンピュータ内に実現し、その概念モデルを模型として実現した。この他に比較に用いた表現法は、雑誌等の印刷メディアに掲載された写真と文章による表現、コンピュータを利用して合成や変形を加えた写真や組写真、ビデオで撮影し編集した数分の映像である。いずれも対象空間の特性をできるだけ表すように表現したものである。対象とした都市空間は、東京の東急文化村(渋谷)、フロムファーストビル(表参道)、代官山ヒルサイドテラス、銀座4丁目交差点、地下鉄乃木坂駅入口周辺、渋谷宮下公園十陸橋、池袋メトロポリタンプラザの合計7箇所であるその結果、都市空間の特性によって有効となる表現法が異なることがわかった。中でもシーンのネットワークは、立体的な視線のやり取りを含んだ複雑な空間の表現に有効であった。さらに、人の動線と相互にやり取りされる視線との絡み合った結節点を複数含んだ都市空間では、ネットワークが特徴的なねじれを示すことがわかり、そのような場合に中間のシーンを省略して簡潔にする方法を探った これらを通して、シーンのネットワークを空間デザインの方法として展開する可能性が示唆された シーンのネットワークをコンピュータ上で実現するには、オーサリングツールを用いて空間体験者がシーンの中で次の場面を選択しながら仮想空間を移動する方法に可能性があることが確認された。その完全な実現は今後の課題となっている。
著者
小熊 誠
出版者
沖縄国際大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

沖縄における民俗文化の中で、中国文化の影響を受けていると思われるものは少なくない。本研究では、風水思想と門中制度をとりあげ、その伝播と受容について調査研究することを目的とした。風水思想は、近世琉球において、琉球王府が中国から導入し、その政策に積極的に応用したことが、文献研究を通して明らかにされた。とくに、名宰相といわれた蔡恩が、沖縄本島北部の山林政策や村落経営に風水思想を取りいれていたことは、多くの文献に記されている。また、近世から近代初頭にかけて、村落が王府に願い出て村落風水を看てもらう事例もいくつか発見された。さらに、村落が、久米系士族出身の風水師を個別に頼んで、村落風水のみならず、個人の家屋風水をも看てもらっていた。こうして、沖縄における風水思想は、琉球王府の政治思想からしだいに一般の知識へと伝播していったものと予想される。現在でも、沖縄では家屋の建築や墓の造成の際に風水を看る慣習があるし、街角に多く見られる石敢當も風水の影響である。今日、沖縄の風水は、「気」の思想に欠けている点で中国の風水と大きく異なる。この点は、今後の研究課題となろう。門中制度については、やはり近世初期に、琉球王府が中国の宗族制度を模範として士族の間に取り入れたことから発展したと考えられる。その端緒は、身分制を強化するために、士族に家譜を作成させたことから始まる。家譜は、中国の族譜に倣って、父系出自に基づいて記載された。さらに、それが集団化し、共通祖先の祖先祭祀、門中墓の形成などを伴なって、門中が形成されていった。しかし、門中には中国姓を使用するが、中国における姓の原理までは導入しておらず、中国では禁止されている同姓不婚の原則が、沖縄では厳格に忌避されていたわけではなかった。中国文化の受容と伝播の研究には、歴史的視点と原理の比較が必要であり、この点が比較民俗学の視点となろう。
著者
佐藤 彰一
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

本研究の課題は、約20年前に「発見」されたメロヴィング末期の7世紀末にフランスのトゥールのサン=マルタン修道院で作成された所謂「会計文書」を可能な限り多角的に解析し、史料的にきわめて限られているこの時期の西欧における社会構造を明らかにし、また農業生産の具体的な水準などを確定することであった。作業の手続きとして、まず第一にこの文書の書冊学的、古書体学的分析を行い、これがおそらくはローマ後期の租税関係文書の系譜を引く、トゥールの市政文書に由来するものであろうという仮説を提示した。第二に、「文書」に記載されている地名の比定を行った。これはフランス国土地理院から発行されている地誌図ならびに18世紀に作成された「カッシ-ニの地図」を用いた。続いて農民一人ひとりが納付している穀物貢租の種類と量から、その生産量を割り出し、更に貢租と翌年の種播き用の種籾などを控除した消費可能な穀物の扶養力を、カロリー計算とパンによる摂取形態とで総合的に判断すると1世帯当たりの家族成員が約4人で平均値であったことが知られる。農民の家族形態は、明らかに核家族形態が中心であった。第四に、穀物の栽培形式と生産量から、三圃農法の実践如何の点を検討し、トゥール地方では夏穀の大麦が播種期を徐々に繰り下げる形で春穀に転化し、三年輪作システムが中規模経営の農民層から始められたらしいことが窺われる。
著者
河村 祐治 西村 龍夫
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

流路壁が正弦波状をなす波状流路内に生じる2次流れ及び物質移動特性におよぼす影響について実験的な検討を行った.1.2次流れは遠心力の不安定性よって形成ささるTaylor-Goertler渦であり, 幾何形状パラメータ(振幅・波長)にかかわらず, 流路間隔が壁面振幅の2倍以下では必ず発生することがわかった. したがって従来ほとんど問題とされなかった2次流れは, 流れのはく離と同様, 波状流路における流れの性質の一つとみなされる. また, 特殊な流動パラメータを用いることによって波状流路内の流れの不安定性を表す中立安定曲線を得た.2.波状流路内に生じるTaylor-Goertler渦は曲率の方向が周期的に変化するため, 曲率一定の長方形曲りダクトとは異なり, 上・下壁面に渦を生じる. その配列は2つあり, 一つはどちらか一方の壁面だけに渦が形成される安定型と, 上・下壁面に同位相で形成される不安定型である. 特に後者の配列が渦の崩壊をみちびき, 乱流遷移を促進させることが明らかとなった.3.2次流れの発生は局面からの物質移動速度を増進させる. 特に2次流れの特質によって流れが一波長毎に更新されるため, 物質移動の助走区間が短くなることが, その原因の一つであることが明らかとなった.
著者
赤澤 計眞
出版者
新潟大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究はイギリス中世後期社会の歴史的特質を明らかにすることを目的とし、平成6年度の研究課題は、中世後期のイギリス社会に視点を特に定め地域支配の行政(ローカル・アドミニストレーション)面に関する史料を分析対象に設け、領主権と地域支配組織との社会的・政治的関連を明らかにすることを研究の主たる目的としつつ、同時に裁判権をふくむ領主支配を明らかにすることに目標が置かれた。具体的には、この場合の中世後期のイギリス社会は大きな時代の変動期を内にもっている移行期で、中世後期とは主として13世紀から15世紀の時代を意味しているが、研究のねらいをしぼって、成果をできるだけ生産的にみちびき出すことが大切であるためこの課題を具体的に効果あるように深化させるために、平成6年度は13世紀から14世紀前半にわたる時期にほぼ限度に研究を進めることにした。交付額230万円のほぼ50パーセントを備品費に配合する計画を立てて研究の素材をととのえることに本年度は努力の目標を置くこととし、主として研究書および史料集の購入にあてて図書費として支出し、結果的に約60パーセントの金額が研究文献・史料集の購入に支出された。また、神戸大学・広島大学・東北大学・名古屋大学・東京大学等の研究室・図書館・資料室において史料収集をおこない、必要不可欠と思われるものについて複写・写真撮影をおこなった。平成6年度は土地訴訟・新侵奪訴訟など具体的な訴訟過程に注意を払い、また権原開示訴訟(プラキタ・デ・イオ・ワラント)との関連を解明することにもつとめている。これと共に領主権の基盤をなす土地所有関係と相続関係に研究の重点を置いた。
著者
山岬 正紀
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究では、申請者がこれまでに開発してきた数値モデルを基にして、熱帯低気圧の発生のメカニズムをも従来より適切に表現できるようにモデルを改善し、また熱帯低気圧の発生過程をより深く理解するための数値実験を行った。とくに改善のポイントとしては、このモデルではメソスケールに組織化した対流をあらわに表現していることが特徴であるが、その中で用いている積雲対流スケールのパラメター化の方式において、放出される熱の鉛直分布や雲の微物理過程の効果の取り入れ方を改善することによって、メソスケールに組織化した雲の振舞いを改善することができた。この改善にあたっては、計算時間をできるだけ有効に使うために、非静力学2次元モデルも併用し、対流の組織化のメカニズムなど問題の本質を理解しつつ、その結果を3次元モデルに組み込んで現実的な熱帯低気圧のモデルヘと改善した。一方、熱帯低気圧の発生過程のメカニズムの理解については、とくに、メソスケールに組織化された対流がどのような振舞いをすることによって、さらに大きな渦へと組織化するのか、風や温度場のメソスケール構造がどのように変化して、熱帯低気圧の発生に至るのか、など基本的なことを明らかにすることができた。また、熱帯収束帯における熱帯低気圧の発生やケルビン波の中の雲システムがまとまって熱帯低気圧に至る過程についても新たな知見が得られた。
著者
大石 親男 吉本 玲子
出版者
石川県農業短期大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1985

石川県能登地方における本病の伝染経路は、黒根立枯病による枯死クリ樹枝幹上に形成された本菌の柄胞子、或は子のう胞子による肥大期のイガへの風媒伝搬であることがわかった。従って本病の防除対策は、伝染源としての黒根立枯病による枯死クリ樹の撲滅と、肥大期のイガへの薬剤散布の実施にあると考えられる。本菌は28〜32℃の高温での生育が良好であり、感染後の果実の腐敗の進展も高温条件下で著しい。従って感染後の8〜9月に高温が予想される異常残暑の年には特に感染防止のための薬剤防除に留意する必要がある。本菌に対する有効薬剤の第1次スクリーニングの結果、供試した45種類の薬剤のなかからベンレート,トップジンM,ダイホルタン,オキシン銅などが有効薬剤として選抜された。本菌の106分離菌株を供試して有効薬剤に対する耐性菌の検出を行ったところ、ベンレート,トップジンMは感性菌に対する最低生育阻止濃度(MIC)が低い反面耐性菌の数も多く、これに対してダイホルタンはMICはより高いが耐性菌の数は少ないことがわかった。しかもベンレート或はトップジンM耐性菌はおおむねダイホルタンに対して感性であることから、ベンレート或はトップジンMとダイホルタンの混用散布が、薬剤防除上最も有効な手段であると考えられる。このことは実際の圃場試験においても確かめられ、トップジンMとダイホルタンの混用がそれぞれの薬剤の単用よりも高い防除効果を示した。収穫果並びに貯蔵果の被害調査並びに接種試験の結果、本病に対するクリの抵抗性品種は有磨であることが確認された。従って本病の激発地では栽培品種として有磨の導入が被害回避のための有効な手段であると考えられる。
著者
阿部 隆 石澤 孝
出版者
宮城学院女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

名古屋市の都心ならびに都心周辺地域の既知利用の分布について、全市域的に修正ウィーバー法による土地利用の組合せの分析を行なって都心地域を画定し、画定された地域については、その中の建物の用途と階数を悉皆調査した。そして建物階数の分布や街区を代表する建物用途の分布の分析などを総合すると、名古屋市の都心ならびに都心周辺地域の土地利用の分布構造とその変化は、一部の用途に特化した核心地域と、それらの用途の周辺への拡大ならびにそれらの用途との機能的関係にもとづく土地利用変化によってもたらされていると考えられる。その用途による核心地域とは名古屋市の場合には、次の5種類が考えられる。1、シビックセンター(三の丸地区)、2、ビジネスセンター(名駅、錦、栄地区)、3、コマーシャルセンター(名駅、栄地区)、4、エンターテインメントセンター(錦、栄地区)、5、トランジットセンター(椿、金山、今池地区)次に近年の都心地域の土地利用の分布ならびにその混合構造の変化について建物用途現況図を資料として分析した。混合構造分析の結果は、ほとんどの用途の組合せにおいて、有意な混合・分離関係が認められず、名古屋市の都心地域の土地利用の分布が非常にランダムであることが明らかとなった。しかし、1967年と1986年には娯楽と教育との間に、1976年には官公庁と教育との間に弱い分離関係がみとめられた。また1986年には工業と工業的サービス、1986年には工業ならびに工業的サービスと公園との間に弱い結合関係が認められた。カナダのトロント市の中心地域の土地利用分布についても混合構造分析を適用した結果、住居を中心とする居住系の土地利用グループと工業を中心とする生産系の土地利用グループについて、グループ内の強い混合関係とグループ間の分離関係が明らかとなった。
著者
魚住 二郎 上田 豊史 徳田 倫章 安増 哲生 〓住 二郎
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

シスプラチン(CDDP)は各種の悪性腫瘍に優れた抗腫瘍効果を示す薬剤であるが、腎毒性が用量規定因子となっている。より有効かつ安全なCDDPの投与を目的として、メチルプレドニゾロン(MP)によるCDDP腎毒性の軽減作用を検討した。ラットを用いた動物実験おいてCDDP投与の2-4時間前にMPを皮下投与するとBUN、血中クレアチニン(Cr)の上昇は有意に抑制された。その機序としてMPがCDDPの尿中排泄を促進し、腎組織プラチナ濃度を有意に減少させることを示した。また腎皮質スライス法を用いた実験により、MPはCDDPによる腎尿細管上皮細胞における糖新生能の抑制を軽減することによりCDDPの腎毒性発現を阻害する可能性が示唆された。これらの基礎研究の成果を基にMPのCDDP腎毒性軽減作用を臨床的に検討した。CDDPを含む化学療法としてMVAC療法を行った尿路上皮腫瘍14症例を対象とした。1コース目はMPを投与しないで対象群とし、2コース目はMP2,000mgをCDDPの数時間前に投与して治療群とした。腎毒性の指標として、尿中NAG、 GGTP排泄、血中Crの変化、クレアチニンクリアランス(Ccr)の変化を評価した。尿中酵素はCDDP投与翌日に有意に上昇し、その程度はMP群と対照群で有意な差は認められなかった。CDDP投与の1週後にみられた血中Crのわずかな上昇に関してもMP群と対照群で有意な差は認められなかった。しかし、CDDP投与1-2週間後のCcrは、対照群では約25%低下したのに対して、MP投与群においてはCcrの低下はなく、対照群と比較して有意差が認められた。MPのCDDP腎毒性に対する腎保護作用は、臨床的にも明らかにされた。MPとの併用によってCDDPの大量投与が可能になり、抗腫瘍効果の増強が期待される。
著者
児玉 正憲 中井 達 岩本 誠一 時永 祥三
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

平成5年度の研究においては企業におけるマルチメディア環境の実態調査とマルチメディア理論などの従来の研究成果を収集することに力点を置いた。更に日本企業の活動が国際化している現状から情報通信ネットワークによる日本の本社と海外生産拠点とのデータ伝送の実態についてもアンケート調査などを実施した。これらにデータ収集と平行して理論解析も行ってきた^<(1)、(2)>。この結果基本的な枠組としては種々の要因をもつ社会システムの解析方法として有効である動的システムの理論が適用可能であること情報産業などの影響を分析する数理経済的な方法により生産のネットワークにおけるデータや画像など設計や研究開発に密接に関連した情報の役割を分析できる見通しを得ている。平成6年度は更に多量の実証データを収集することにつとめ豊富化することができた。研究推進の上で生産・物流システムの最適構成の検討が重要であるので平成5年度〜平成6年度の2年間を通じて動的計画法の基礎理論^<(9)、(10)、(11)、(12)>、信頼性・待ち行列システムの解析^<(5)、(6)>、確率システムの最適政策^<(7)、(8)>、および確率的多段決定問題の解析^<(13)、(14)、(15)、(16)>などの理論的研究を行った。またマルチメディア環境における新しいデータ解析法の構築の必要性からニューラルネットワークによる企業倒産予測システムの設計^<(3)>および時系列データの検索・予測の理論的・実証的研究^<(4)>を並行して行った。
著者
岩井 善郎
出版者
福井大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

耐摩耗設計における材料選択と摺動条件選定の指針を得るために、シビヤ摩耗一マイルド摩耗の遷移条件および摩耗率に及ぼす材料の含有成分と摺動環境の影響を研究した。1.成分含有量の異なる種々の銅合金についてピン・ディスク形式の摩耗試験を行った。その結果、Niの含有率が大きい銅合金では、シビヤ摩耗一マイルド摩耗の遷移がみられるが、Ni含有率が30%以下のCuーNiーZu合金(洋白)ではいずれの摩擦条件でもシビヤ摩耗を生じる。洋白材の耐摩耗性はNiとZnの含有率の増加にともなって向上する。その程度はNiのほうが著しいが、Znの含有率が増加するとNiの影響は小さくなる。このような成分含有率と摩耗量の関係を立体座標上にプロットして耐摩耗性を平面で表示することによって、最適な耐摩耗性材料の選択や創製の指針を提示できることが明らかになった。2.空中、イオン交換水中、食塩水中で炭素鋼どうしのすべり摩耗試験を行った。液の腐食性が増すとマイルド摩耗を生じる領域は高荷重側にシフトする。また液中のマイルド摩耗率は低荷重域では荷重によらずほぼ一定値を示すが、高荷重域では比例して増加するので、マイルド摩耗と荷重の関係は折れ線で示される。前者は表面の腐食疲労破壊による摩耗、後者は疑着摩耗に支配されているが、いずれも液の腐食性にともなって増加することが明らかになった。3.食塩水中の軟鋼の摩耗では、カソ-ド防食を施すと自然腐食下に比べてマイルド摩耗を生じる領域は低荷重側にシフトするが、マイルド摩耗率は小さくなることが明らかになった。4.前項の2、3の結果をから、腐食環境下の鋼の耐摩耗性はシビヤ摩耗一マイルド摩耗の遷移条件と摩耗率から評価すべきことの重要性が一層明らかになった。このような観点から、腐食摩耗に及ぼす成分元素の影響を引続き研究する予定である。
著者
高橋 康夫
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

固相接合過程は接合圧力や接合温度だけでなく接合表面凹凸(表面あらさ)に大きく影響される。接合面同士を押しあてると、表面凹凸に起因して接合界面に空隙ができ、即座には完全な密着が出来ない。本研究では、この空隙が消失していく過程を数値計算により解析し、広範な条件に対して、予測できるアルゴリズムを試作している。すなわち、拡散によるボイド収縮過程のシミュレ-ションを行い、さらに、表面あらさのばらつきの接合過程への影響を考慮して、接合条件設定アルゴリズムを試作している。得られた主な成果及び概要を以下に示す。1)空隙収縮過程は、圧力・温度に影響される。その活性化エネルギ-はln(T/tv)-(1/T)プロットによって得ることができる。ここで、Tは絶対温度、tvはあるボイド収縮量Vsを達成させるに必要な時間である。2)拡散機構支配であると、時間tvに対する応力指数n(tvαP^n)は-1又は、-1〜-0.3となる。ここで、Pは接合圧力である。3)空隙収縮過程は、空隙の配列間隔に大きく影響される。4)細かい凹凸の表面を導入すると接合道程は促進される。5)表面凹凸のばらつきによる接合中のボイド間隔は、表面凹凸形状のかさね合せの手法によって正確に推定できる。6)推定した接合中のボイド間隔を考慮して、接合予測をすると、接合終了時をかなり正確に推定予測しうる。7)本研究で試作した接合条件設定ウルゴリズムは、接合条件を最適化させる上で、大きな力となることがわかった。8)実験によりこのアルゴリズムの適用範囲を確認している。
著者
藤重 宣昭
出版者
宇都宮大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

根菜類を円筒形のロックウールを用いて養液栽培を行うと、円筒空間に貯蔵根を形成する。この方法を用いて根菜の養液栽培を確立するため、ゴボウを用いて検討した。まず給液法を検討した。間断給液では地上部の生育は良好であったが、地上部に比べて根部の肥大が劣り、さらに岐根の発生が多かった。連続給液では岐根の発生が著しく減じた。根菜の水耕での給液法は連続給液に近い方法が望ましいと考えられた。円筒形ロックウール内の夏期の高温下での温度経過を測定した。90cm高の円筒において、1/2高の円筒空間の温度は底面の温度に比べて、高温で経過したのは6〜10時の間であり、最大で+1℃であった。それ以外の時間は低温で経過し、その差の最大は-5℃に達した。すなわち、円筒空間は昼は涼しく、夜は暖かくなり、他の部位に比べて温度較差が小であった。貯蔵根の直接観察をファイバースコープを用いて試みた。ゴボウでは主根の肥大が他の根菜に比べてそれほど大きくない上に、細根が主根に絡んで主根の正確な計測が困難であった。主根の肥大が著しい他の根菜を用いて、引続き検討する予定である。
著者
片山 英雄 林 喜美子
出版者
川崎医療短期大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

研究の目的看護婦養成においてロールプレイは患者の心情の共感的受容という「理念」を「行動的に理解」させることができる優れた教授法であると一般に言われている.これを終末期老人患者の援助場面へ適用し,その効果を実証することを目的とした.研究の実施と結果1.臨床実習で学生が実際に体験した,終末期患者の援助の事例を収集した.学生の報告の中より終末期肝臓癌患者の援助に苦心した事例を選定した.これをもとにロールプレイの紙上シミュレーションの設計を試みた.その要点は,もし終末期の患者から「もうすぐ死ぬのでは?」と話しかけられたら,担当看護婦としてどう答えるか考えて記述させるものである.そして,学生の回答を共感的理解受容を基準として4段階に評価するように計画した.2.終末期老人患者の援助場面のロールプレイを,学生の実際に上演させた.その前後に紙上シミュレーションを実施して効果の確認をした.その結果,著しい向上が確認できた.すなわち,上演前でが「そんな弱気を言ってはいけませんよ」と否定したり,「元気を出して頑張りましょう」と励ましたりするなどの応答が中心であったが,上演後では「もうダメだと感じられているのですね.本当に大変ですね」など理解・受容を示す者がほとどになり学生の意識の変化が確認できた.3.これらの研究成果は今後の学生指導にも活用するとともに,第3回国際保健医療行動科学会会議,第9回日本健康心理学会などで発表する予定である.
著者
鈴木 光太郎
出版者
新潟大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究では,月の錯視を両眼視および眼位の点から検討した。夜間に野外(新潟大学人文学部屋上)で,被験者から50度上方向と水平方向3mの距離にある2枚の平面鏡(80×80cm)上に実際の月を映し,被験者に上方向の月に対する水平方向の月の大きさ(直径)のマグニチュード推定を行なわせた。1.その結果,両眼視の場合には,月の錯視(直径比が1.5倍程度)が生じた。一方,被験者に最初に単眼視で観察させた場合には,月の錯視はほとんど生じなかった。2.しかし,最初に両眼視条件を行なわせたあとの単眼視条件では,月の錯視が両眼視条件と同様に生じた。3.上方向の月を観察する際に,頭を傾け目が月に水平になるようする条件(水平視条件)と頭を垂直に保ち目だけを上に向ける条件(仰視条件)も設けた。その結果,両眼視条件では,水平視条件に比べ仰視条件での錯視量のほうが有意に大きく,眼位の効果が観察された。しかし,この効果は,単眼視条件では観察されなかった。4.以上の結果は,これまで問題視されることの多かったTaylor & Boring(1942)の知見を支持した。以上より,両眼視では,動眼系の状態(レンズ調節,輻輳,瞳孔)が上方向を見る時と,水平方向(地平方向)を見る時とで異なり,その違いが月の錯視を生じさせている可能性が示唆される。一方,単眼視では,上方向と水平方向とでは動眼系の状態に差がないため,錯視が生じない可能性がある。5.しかし,なぜ両眼視条件のあとの単眼視では月の錯視を生じるのかについては,今後さらに検討を行なう必要がある。