著者
飯国 芳明 岩崎 貢三 櫻井 克年
出版者
高知大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

1.山地酪農の「塾畑化」の経営学的考察:経営の立ち上げ期にはシバ草地の「熟畑化」が伴わないため,濃厚飼料(購入飼料)に大きく依存した経営を強いられる。しかも この時期には牛の馴化の遅れによって搾乳量や乳脂肪の低下が起こるために収入が低下する。また,借入金返済の資金繰り等の問題も重複して現れる。このため,造成後3年から4年目までは通常の経営主体では維持できない水準にまで収益が低下することが明らかとなった。今後一層の普及をはかるためには「芝草地活用肉用牛放牧促進事業」型の数年にわたるシバ草地に対する政策的支援(補助体系)が不可欠である。また,今回の研究を通じて家畜を扱う有機農業の場合には「熟畑化」ばかりでなく,家畜の「馴化」の重要性も明らかになった。今後は「馴化」のプロセスについても学際的な研究を行う必要があると考えられた。2.山地酪農の「熟畑化」の土壌学的考察:高知県南国市の斉藤牧場において,造成10年後の新しい草地と25年後の古い草地を比較することによって以下の知見を得た。古い草地では表層・下層ともに,肥沃度および団粒構造の発達による保水性・透水性の向上が顕著であった。一方,新しい草地の表層での肥沃度の向上は下層にまでは及んでいないことに加えて,牛糞由来の有機物添加の履歴が短く表層での排水性がやや不良であった。低分子有機酸の蓄積量は排水性の不良な新しい草地の表層で最も多かった。新しい造成地の荷電ゼロ点が低いのは,非晶物質が少なく有機物や酸性の強い粘土が多いためであることがわかった。ただし,数十年後には低肥沃度でもバランスのとれた安定した草地へと変化するものと考えられた。また,草地内・外の水を分析した結果,系外よりも系内が,また古い草地よりも新しい草地のほうが溶存イオンの量が多くpHも高かった。しかしながら新しい草地においても,日本シバ利用の山地酪農は水系の富栄養化を引き起こしておらず,環境保全型畜産業であるといえよう。
著者
村岡 輝三
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

本研究は台湾の1989年の「調査」(中華民国経済部投資審議会『僑外投資事業運営状況調査及対我国経済発展貢献分析報告、民国78年』台北、1991年7月)資料を基本に、「華僑・華人」の企業投資と資金運営の実態について、統計的検証を通じて明かしするところに意図がおかれている。研究の内容構成は、さしずめ、つぎの8節に分けて把握される。すなわち(1)問題の提起、(2)統計的検証と限界、(3)全般的推移と業種別分布、(4)資産負債の構造、(5)財務収支の構造、(6)資本における産業の構造と市場の構造、(7)経営の効率と金融保険業の突出、(8)残された研究課題、がそれである。1993年12月現在、台湾に対する「華僑」投資は累計2,382件、26億889万ドルを記録。一方、台湾企業の中国大陸向け投資は60億ドルに達した。台湾がいわば「中継」基地として対中投資の重要な役割を演じていることがこの数字から十分推測できる。台湾における「華人・華僑」企業経営に焦点を合わせた理由のひとつはこの点にある。いまひとつは、「華人・華僑」の企業経営に関する統計的調査は台湾しかなく、ほかに選択肢がないことである。それだけに上記の台湾の「調査」報告は貴重な資料である。本研究がさしずめ台湾に焦点を合わせた理由は上記の二点にある。一方、1989年はバブル経済たけなわの局面にあり、その点で以上の作業は台湾における「華僑」系企業の「事業運営」の実態が明かにされると共に、バブル経済と「華僑」資本の「活動」との関係が一定程度浮き彫りできることも本研究の大きな成果である。このように本研究はいくつかの点において特色ある内容が期待できる。以上の研究はほぼ予定通り順調運ばれている。400字原稿用紙50枚程度にまとめて八千代国際大学の紀要特集号に載せることがほぼ決まっており、鋭意執筆中である。
著者
利谷 信義
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

近代以後現代にいたる日本の司法制度は、陪審制度のつよいインパクトの下にあったことが改めて確認された。明治初期においては、すでに参坐制度の実施があった。これは、司法省の陪審法導入政策の一環であったことは明らかである。井上毅が陪審制度の導入につよく反対したことは、この参坐制度の経験によっている面もあると推測するが、残念ながら今の所確証を得ていない。ボアソナ-ドは陪審法の導入を、日本の司法制度の近代化と、条約改正に資するとの理由から推進した。これは井上毅の反対によって実らず、明治憲法下の裁判所構成法、刑事訴訟法も認めなかったが、明治30年代に入り、日本経済の発展と法体系の整備の下で、在野法曹の陪審制度の導入の動きが始まった。これが政友会の政治綱領の一つとなり、大正デモクラシ-の下で陪審法の成立に結実した。昭和初年の司法制度は、陪審法の実施によって、とくに捜査と立件の面においては影響された。もっとも、治安推持法などの陪審除外がその効果を減殺した。さらに戦時体制がその停止に追いこんだ。戦後の司法の民主化は陪審法の復活・改善を要求したが、司法部は参審の方向を推進し,しかしついにこれをも実現せず,裁判所法3条3項において、その将来の導入の可能性を認めたにすぎなかった。しかしその条項の存在は、その後の刑事訴訟法の改正や臨時司法制度調査会の審議において,つねに陪審問題を思い起させる役割を果した。とくに寃罪事件が明らかになると、日本の司法の民主制が、つねに国民の司法参加の観点から問題となり、最近では、各種の団体が陪審法草案の試案を発表するに至っている。このように、日本の司法制度における陪審制度のインパクトは、人々が一般に思っているよるも、ずっと深くつよいものがある。
著者
利谷 信義
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

検察審査会は、戦後司法制度改革の一環として設置された。GHQ内部には、公判陪審制度、大陪審制度、裁判官・検察官の公選制度導入の動きも一部見られたが、現実化したのは最高裁判官の国民審査制度と検察審査会の制度であった。検査審査会制度の立法過程については、日本側の資料ではほとんど分らず、GHQ資料についても不明点が多い。但しGHQ担当官マイヤーズの論文により、GHQとしてはこの制度の教育的意義に重点をおいたことが明らかになっている。そのことは、検察審査会制度が、大陪審の逆の制度であって国民が訴追を決定するものでなく、検察官の不起訴処分を審査するものであること、しかも不起訴不当と起訴相当の議決に拘束力がないことによる。後者の点は、戦前の日本の陪審法の影響を認めてよいと考える。検察審査会に期待された教育機能は、おおむね充たされたと言ってよい。検察審査員OBは、この制度の意義を在任中に十分に認め、任期終了後自主的な協会を組織して広報活動にあたっている。この協会は、ほぼ検察審査会の所在地の大部分をカバーし、全国組織をもつに至っている。このような活動が、検査審査会の活性化を助けていることは疑いない。検査審査会事務局からの聞取りによれば、検察審査員達は、始めは就任にちゅうちょするが、任期終了時にはもっと続けてもよいというのが一般的なパターンであり、そのことが協会活動に接続している。また一般人のこの制度の周知度は、総理府の調査によれば、ほぼ20%を上まわる程度で推移している。もっとも昭和62年に東京検察審査協会が実施したアンケートによれば、周知度は38.3%となっており、都民の周知度は全国に比して格段に高いことが分かる。聞取調査の結果は、40年間大きな改正のなかったこの制度も、任期、候補者選定方法、議決の効力等再検討が必要であることを示している。
著者
渡辺 覬修
出版者
神戸学院大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

関西所在の裁判所で、甲山事件はじめ大小の事件の裁判傍聴を行い、手続の様々な段階における被告人の手続からの疎外状況を把握した。その中で、逮捕勾留中の取調べが病理を生む大きな原因であることを、実例を通じて確認する作業を続けた。また、これを克服する弁護活動の実情調査等について、理論面の検討を含めて、まとめた。各地で継続する聴覚障害者被告事件を積極的に傍聴するとともに、担当の弁護士、手話通訳者と研究交流会を各傍聴の毎にもつように務めた。裁判所サイドが考えている公正な手続・公正な通訳保護のあり方と、聴覚障害者の側なり手話通訳の側からみたそれとの食い違いがあるか・ないか、実務がどのあたりで落ち着こうとしているのか、検討結果を論文にまとめた。外国人事件の傍聴と、事件関係者、弁護士などとの面接・調査などもすすめた。とくに、外国人事件と量刑のありかたを巡り、刑罰の意味を含めた検討作業を実例を通じて進めた。全体として、被疑者・被告人の権利の主体性を法解釈面から支えるまとめの作業を行った。
著者
村井 隆文 内藤 久資 千代延 大造 小沢 哲也 舟木 直久 青本 和彦
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

コンパクトリ-マン多様体上の調和写像に関連して現れる非線型楕円型方程式及び古典力学的ハミルトン系流体現象から現れる同種の非線型方程式を解析し、その幾何学的構造、確率論的解釈及び方程式自身の吟味を試みることが目標である.特に、これらの方程式の泡沫現象、爆発現象、安定性、境界条件の吟味等に焦点を合わせて研究を行っている.これらの幾何学的構造を明らかにし、確率論的意味付けを与えることは純粋数学としての重要性のみならず、応用の立場からも不可欠である.自然現象と照らし合わせながら問題設定、結果の吟味を行う必要がある研究代表者は、方程式の基本構造はその再生的構造が本質的であると考え、この立場から文献1、2(報告書欄11、上から順)をまとめた.楕円型方程式の基本構造は、対応する境界特異積分方程式と境界値問題に帰着する.この立場から、境界上のヒルベルト変換を導入しその構造と境界値条件の関連を調べた.青本氏は方程式の代数化を試みgー解析的立場から文献3,4,5を発表した.舟木氏は確率論的観点から流体力学的方程式(特に、ランダウ型方程式)の吟味とその考察を行い文献6をまとめた.小沢氏は幾何学的立場から、軌跡や安定性についての問題を量子的に定式化した.さらに多様体の埋蔵についての議論も行った.千代延氏は確率論的立場から、ラプラス型方程式の漸近挙動を解析した.内藤氏は微分幾何学的立場から、多様体上の熱力学的調和写象の安定性を議論した.
著者
太田 健一郎
出版者
横浜国立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1985

溶融炭酸塩燃料電池は第二世代燃料電池として注目され、我国においては通産省におけるムーンライト計画等で精力的な開発が進められている。ここでは高温,溶融塩という厳しい条件下での各種材料の劣化が問題であるが、特にカソードとして用いられている酸化ニッケルの溶解,アノード近傍での析出が電池の長期運転の大きな障害となっている。本研究ではまず現在用いられている酸化ニッケルの溶融炭酸塩中への溶解度を測定した。リチウム一カリウム二元系炭酸塩中への酸化ニッケルの溶解度は650℃、二酸化炭素1気圧下で40×【10^(-6)】(モル分率)であり、高温ほど溶解度は小さくなった。また、二酸化炭素分圧が大きくなると、溶解度は比例して増大した。これらは酸化ニッケルが溶融炭酸塩中へ酸性溶解しているとして説明できた。酸化ニッケルの安定性を向上させるために、他の元素を添加することを試みた。添加元素としては酸化鉄を選び、これと酸化ニッケルの固溶体であるニッケルフェライト(Ncx【Fe^(3-x)】【O^4】)に注目した。このニッケルフェライト中の鉄、ならびにニッケルの溶解度は純酸化ニッケルに比べてかなり小さく、リチウム一カリウム二元系炭酸塩中、650℃、二酸化炭素分圧一気圧下で、いずれも2〜2.5×【10^(-6)】(モル分率)と15分の1ないしは20分の1の値を得た。二酸化炭素分圧が大きくなると溶解度は増大するが、圧力に対する依存性は酸化ニッケルより小さく、溶融炭酸塩燃料電池の作動条件下ではカソード材としてのかなりの安定性の向上が期待できる。以上より、酸化ニッケルを単独で用いるよりは、これに他の元素を添加することにより、炭酸塩中での溶解度は減少し、溶融炭酸塩燃料電池のカソード材料としての安定性が向上する例のあることが判った。
著者
阿部 彰
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究の萌芽的特性を発展させ、次年度以降の本格的な調査研究への取り組みを目指して、本年度は、第一にこれまでの研究成果をまとめ、第二に、研究方法の改善のため活動を継続発展させ、第三に、総合研究体勢の確立のための事前調査、連絡調整を行った。各作業項目の研究概要と成果は、下記のとおりである。1. 関連文献資料および映画フィルム等の補充調査と整理文学作品、学校沿革史から運動会に関する記事を選び、時代における特色をとらえるとともに過去および現在の運動会プログラム、運動会の場面を描写した既存の映画フィルムを全国規模で収集し、整理した。2. 映像収録の継続と分析方法の改善本年度は、従来の豊中市内の小中学校2校(豊中市立庄内小学校、豊中市立第四中学校)のほか、大阪府下2校(大阪府南河内郡太子町立山田小学校、大阪府南河内郡美原町立みはら大地幼稚園)をあらたに収録対象とし、9月下旬から10月初旬にかけて収録を行った。いずれも、3台のカメラによる同時撮影を行いそれぞれ分析・編集業務(解説字幕を挿入)を経て、ダイジェスト版を制作した。収録映像の分析を通じて、視点と分析枠組みを吟味し、次年度以降に予定している本格調査に備えた。3. 総合的研究体勢の確立のための準備次期計画による本格調査研究に備えて、全国の研究者と共同研究を進めるための連絡、調整を深めると共に、調査・収録対象地域設定のための事前調査と関係情報の収集を積極的に行った。(以上、約800字)
著者
政宗 貞男 押山 宏 飯田 素身
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

絶縁ギャップを有する金属放電管の内面を利用した新しい静電的ヘリシティー入射法の可能性を探るために、STE-2装置においてRFPおよびULQプラズマを用いて基礎実験を行い、以下の結果を得た。結果(3)は、この方法の有効性を示唆している。(1)非円形断面放電管内に生成されたRFP(セパラトリクスはない)において、周辺部から電極を挿入してヘリシティー入射を試みた。放電管の形状などから電極は8mmφの円筒構造、入射位置は同一ポロイダル断面内に制限されている。電極間電圧を400Vまで印加し、電極間電流として100A程度を得ている。最大電流密度はRFP放電の平均トロイダル電流密度と同程度である。電極近傍ではヘリシティー入射に伴うトロイダル磁束の増加(5%程度)が観測された。この磁束増加は入射ヘリシティーの極性によらない。従って、入射ヘリシティーの極性に応じてプラズマの応答が異なるのか、あるいは局所的なジュール加熱によるβ値の増加が重要なのか、のいずれかである。周辺トロイダル磁場およびポロイダル磁場にはヘリシティー入射の影響は観測されなかった。(2)トロイダル磁場に空間的な変調をかけて2分割放電管を共通に貫く磁束をつくり、これがRFP放電におよぼす影響を調べた。変調磁場が元のトロイダルバイアス磁場と逆向きの場合、RFP放電に悪影響を与える変調レベルは同極性の場合より低い。この原因の解明を進めているが、RFPの異常放電抵抗の機構と関連する可能性がある。(3)低電流ULQ放電において、本研究で提案している方法を基づいてヘリシティー入射を行った。放電管ギャップ近傍の局所的な測定では最大20%程度のトロイダル電流の増加が観測された。この基礎実験に続いてギャップ部分に局所的シェルを取り付けて誤差磁場を減らし、特性が改善されたRFPプラズマにおいて同様の実験を進めている。
著者
疋田 努 太田 英利
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

台湾から琉球列島にかけて分布するアオスジトカゲ、イシガキトカゲ、オキナワトカゲの3種は小さい島々にまで広く分布し、種内の形態的な変異も知られている。泳動データからは,これら3種のうち八重山諸島のイシガキトカゲは台湾のアオスジトカゲよりも,沖縄諸島,奄美諸島のオキナワトカゲにより近縁であることが,示された.従来,八重山諸島の動物相は,沖縄諸島よりもむしろ台湾のものに近いと考えれており,この結果はこの地域の生物地理をどのように考えるかに大きな影響を与えるものとなった.また,トカラ列島の中之島,諏訪之瀬島,口之島からには,ニホントカゲ分布すると考えられていたが,これらがむしろオキナワトカゲに近いことが明らかとなった.それぞれの種内でも,島毎に大きな変異が認められた.まず,アオスジトカゲでは,尖閣列島の集団が台湾のものと大きく異なることがが示された.つぎにイシガキトカゲでは波照間島のものが他の八重山諸島のものと異なっていることがわかった.オキナワトカゲ集団は,従来基亜種のオキナワトカゲと奄美諸島亜種のオオシマトカゲに分けられてきたが,その地理的変異はもっと複雑で,さらに細分する必要があることが示された.形態的な形質では,とくに体色や模様の変異が認められ,体鱗列数等の計数形質にも地理的変異が認められた.しかし,これらの形態的な違いは変異の重なりがかなりあり,十分な識別形質とはならなかったが,島毎の傾向が明らかとなった.
著者
本間 弘次 中村 栄三 加々美 寛雄
出版者
岡山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

1。薩南諸島海域の火山島・海底火山の岩石のRb・Sr・NdとSmの含量、およびSrとNdの同位体比を分析・測定し、一連の火山岩の成分変化の主要部分がマグマの分化によるものであること、島弧横断方向における微量元素を中心とする化学的変化が、マントルペリドタイトの部分溶融度の差にもとづく初生マグマの違いを反映するものであること、Sr-Nd同位体システマティックスは単なる2成分混合モデルでは説明できず、MORB源-堆積岩源スラブ成分からなるマントル源混合と島弧型マグマ-地殻岩石からなる地殻内混合の組み合わせ=2段階2成分混合モデルを考えなければならないことを明らかにした。2。琉球島弧系の新生代火山岩類では、後期更新世以降の、火山前線と背弧海盆の火山岩類はマントル配列を右上側に離れしかも高^<87>Sr/^<86>Sr低^<143>Nd/^<144>Nd比で特徴づけられる。硫黄鳥島の含石英安山岩はマントル配列のやや近くに位置する。一方第三紀のもの(トカラ列島平島のものを含む)はマントル配列に近い組成をもつ。尖閣諸島の現世アルカリ岩類はホットスポット型で、マントル配列上ないしその左下方に位置する。高苦土安山岩は比較的に海嶺玄武岩に近い同位体組成をもつ。これら同位体的特徴とその多様性は、1次的なものであり基本的にマグマ源物質の性質を反映している。マグマ源の性格は古第三紀から現世まで、それぞれの地質セッティングによって変化している。現世島弧-背弧系火山岩類のSr-Nd同位体システマティックスでの2成分混合モデルによれば他の島弧火山岩に比べ琉球系火山岩の^<87>Sr/^<86>Sr比が高く^<143>Nd/^<144>Nd比が低いのはスラブを構成する堆積物が大陸起源成分に富むことおよびマグマの変化の1部に地殻岩石が関わっているためである。これらは琉球島弧系が大陸縁にある若い沈み込み帯であってしかもやや厚い地殻をもつことと密接な関係にある。
著者
中島 路可 柴田 彩 水谷 義 上田 那須雄 山本 二郎
出版者
鳥取大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

沈香の生成に微生物が関与していることに着目し、沈香生成菌と考えられているカビ及びバクテリヤ51種類を選び、デヒドロアビエチン酸、ファルネソ-ル、ネロリド-ル、テトラリン、ヌ-トカトン、カウレンなどを基質として微生物変換を行った。デヒドロアビエチン酸では2ー位、7ー位、16ー位の水酸化がそれぞれ高収率で起こることを見出した。ファルネソ-ルではIFO7706(Fusarium oxysporumf)により3,7,11ートリメチルー2,6,10ードデカトリエン酸が、IFO3521(Pseudomonas aureofaciens)により3,7,11ートリメチル2,10ードデカトリエン1,7ージオ-ルが高い選択性で得られ、合成法としても利用できることを示した。ネロリド-ル、テトラリン、カウレンについては良い結果は得られなかった。テトラリン、カウレンについては基質が水に溶けないことに問題があり、水酸化、リン酸エステル化によって水溶性として変換を行いたいと考えている。ヌ-トカトンについては現在生成物を分離、構造決定を行っている。またデヒドロアビエチン酸の液晶としての利用の可能性を見るためにデヒドロアビエチン酸の化学変換を行い、デヒドロアビエチン酸の13ー位のアミノ基への変換及び各種置換フェノ-ル類とデヒドロアビエチン酸のエステルを合成し、液晶性を検討している。また、資源開発の目的で松柏類の樹脂成分の検索をコウヤマキ、白松について行い、とくにコウヤマキについては日本列島の日本構造線と成分の相関について調査を行っている。
著者
牛田 憲行
出版者
愛知教育大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

世界で唯一最多のニュ-トリノ・エマルジョン(νEm)反応(FNAL E531)を解析しその荷電カレント(C.D)反応における終状態二次粒子(SHOWER Ns,GREY Ng,BLACK Nb)の多重度、角分布、エネルギ-分布、各粒子相互の相関を調べた。W依存性とKNO scalingの様子から〈Ns〉はPROJECTILE粒子の種類によらず、むしろ標的に依ることがわかった。Nbの角分布、エネルギ-分布からこれが核からの蒸発粒子であることが明確となった。Ngについては、陽子・EMULSION(pEm)反応と比べ多重度の低い所ではνEmの方が多く、逆に高い所では逆になっていて、νEmとpEmとでPROJECTILEの核内相互作用の違いによるNgの頻度の差が浮き彫りにされた。〈Ns〉はW^2に依存して漸次増加するのに対して〈Ng〉も〈Nb〉もW^2の値によらずほぼ一定となった。NbとNgとの間には強い相関があり、これらはUNIVERSALな勾配をもつが、Nsと無関係である。Ngの角分布はpEmに比べ前方への傾きは緩やかで、Ngの前後方の放出比はpEmよりも小さく、pEmの場合よりも多く後方に放出される。νEmにおける核効果を解く鍵がNgであり特に後方に出るNgが重要で(核子標的の場合後方放出は禁止される)、さらに300MeV/c以上の後方放出Ng(CUMULATIVE PROTON;CP)生成について約700例のC.C反応を完全解析してCUMULATIVE EFFECTを調べた。CPの運動量自乗分布の勾配は他のνNeやハドロン実験での値と良い一致をし〈A〉=80の場合でもNUCLEARE SCALINGが成立していることがわかった。CPの生成率はA^αに依存し他の泡箱実験と本研究のデ-タから20≦A≦80にたいしてα=0.68となりA^<2/3>に依存することがわかった。また10≦Eν≦200GeVにわたってCPの生成率にエネルギ-依存性がないことがわかった。後方放出Ngと前方放出Ngの間には相関があり、核内のSUCCESIVEなREINTERACTIONの過程から前方陽子が増えると後方陽子も増えるというCP生成模型が有効であると考えられる。
著者
河瀬 斌 山口 則之 清水 克悦 三谷 慎二 堀口 崇 荻野 雅宏
出版者
慶応義塾大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

【目的】低温による脳保護作用のメカニズムを検討し、脳のみの局所低体温法を確立する。【方法】(1)スナネズミ一過性前脳虚血モデルを用い海馬における遅発性神経細胞死を算出する一方で、オートラジオグラフィー法により蛋白合成能を、また免疫組織化学により各種蛋白の生成を、常体温と低体温とでそれぞれ比較した。(2)ラット一過性前脳虚血モデルを用い、線条体におけるdopamine・ adenosineとその代謝産物の生成を、虚血中低体温と虚血後低体温とで比較した。(3)成猫に低温人工髄液を脳室脳槽灌流し、脳冷却の程度と脳内温度較差を測定した。また、臨床使用目的にて脳温測定用センサーを組み込んだ脳室脳槽灌流用ドレナージチューブを作成した。【結果】(1)低体温により海馬CA1領域の遅発性神経細胞死は抑制されるが、これに先立ち(i)同部の蛋白合成能の回復が促進される。(ii)ストレス蛋白発現が抑制される一方で、即初期遺伝子c-Junが正常より強く発現する。c-Fosの発現は変化しない。以上より、低体温は虚血ストレスそれ自体を減弱する一方で、蛋白代謝を早期に回復させ、細胞の生存に影響を及ぼす即初期遺伝子の発現を促す。(2)(i)虚血中低体温はdopamineの放出を抑制する一方、adenosineの放出には影響しないが再灌流時のadenosineの減少は抑制する。(ii)虚血後低体温はadenosineの代謝を抑制して細胞外液中の濃度を高く保つが、dopamine代謝には影響しない。(3)低温人工髄液灌流により成猫において脳深部に2〜3℃の冷却効果が見られたが、皮質ではその冷却効果は少ない。脳血流量は一過性に減少するがその後回復し、血圧や血液ガスには影響はない。脳温測定用センサーを組み込み、かつ従来のものと材質・外径に差がない脳室脳槽灌流用ドレナージチューブが完成した。【総括】以上より(3)の脳虚血に対する局所低体温療法は(1)(2)の補助治療法を組み合わせることで臨床応用が更に期待できる。
著者
志村 正子
出版者
鹿屋体育大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

これまでに集積したデータを分析し、今年度は特に運動が精神状態に及ぼす影響とその個人差に関する研究の学会報告を行った。一方、運動の対精神影響に関する実験を評価テストを一部交換して続行し、音楽の効果に関してもジャンルの異なる曲を用いてさらに実験を重ねた。音楽が精神状態に及ぼす影響は、これまでの検討でも概して曲の性質によく対応していたが、躍動的な音楽としてロック音楽を、静かで明るいクラシック音楽としてヴォルフ・フェラーリのマドンナの宝石を用いても、不安・緊張・抑うつ・攻撃・混乱などのネガティブな気分の低減はマドンナの宝石で著しく、活動性の高まりはロック音楽の方でやや大きかった。また、マドンナの宝石による抑うつの低減は、内向性格あるいはタイプA傾向のもので大きい、音楽を聴いて集中度が高まったのは特性不安の低いものであった等、効果の個人差も認められた。2カ月間程度の有酸素的運動の精神影響としては、不安と抑うつの低減が再認され、新たに検討したCMIにおいても身体的・精神的自覚症がともに減少傾向にあった。さらに、2年度にわたる実験的検討の結果、運動の対精神影響は、身体的影響よりも認めやすいだけでなく、それらの効果は、性別、年齢の高低、性格、心理・行動傾向などの個人的特性によっては異ならないことが明らかになった。種々の運動種目毎に、短期的・即効的な対精神影響を評価しても、ネガティブな気分の低減と爽快な気分の増大という精神影響は著明であり、かつ運動種目による差異は認め難かった。運動・音楽いずれにも著明な好ましい精神影響を認めたが、音楽の効果が曲や聴く側の性質に依存しやすいのに対して、運動の効果は、運動の種類や人を選ばず認められる傾向にあった。運動はメンタルヘルスを目的として処方できる可能性が大きいと評価された。
著者
中原 精一
出版者
明治大学短期大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

本研究は1909年の南アフリカ連邦憲法の前史もふくめて、おおよそ100年間の南アフリカ憲法史を展望し、南アフリカ憲法とアパルトヘイト法体系とのつながりを考察したものである。南アフリカ憲法はアパルトヘイトをぬきにしては考えられないのである。南アフリカ共和国の憲法史は、巧妙にカムフラ-ジュされたアパルトヘイト史といえる。したがって、南アフリカ共和国憲法には、近代憲法の要請する基本的人権の保障を定める条項を、遂に掲げることがなかった。1983年憲法でカラ-ドやインド人を参加させた国会を実現させたが、全人口の5分の4を占めるアフリカ人が直接国政に参加することはできなかった。そのためアフリカ人を差別する法律が大量に制定されて、彼らを苦しめたのである。いってみれば南アフリカ共和国憲法史の底流にはアフリカ人の受難史が存在していたということである。しかし、1976年のソエト事件をきっかけに、アパルトヘイト政策に対する国際的批判が高まり、1980年代に入ると単に批判するだけではなく、国際的経済制裁によって、アパルトヘイト政策に反省を促すようになった。1983年憲法はそれに応えるものとして制定されたものであったが、もちろん不十分なものであった。そして、政府は1985年以降から不道徳法や雑婚禁止法など主要なアパルトヘイト法を廃止するようになった。さらに反アパルトヘイト法闘争を続けてきたアフリカ人政党を合法化し、ANC副議長のN.マンデラを釈放して、これらの政党と話し合いの場をつくる努力をはじめた。そして、本年2月1日にデクラ-ク大統領は集団地域法、土地法及び人口登録法の廃止を宣言した。これら一連の政策変更によって、アパルトヘイト法体系は消滅して、新しい憲法が誕生するのが間近かとなった。この研究はいまもっとも動いている南アフリカ憲法史を展望しているということがいえるのである。
著者
和田 安彦 菅原 正孝 三浦 浩之
出版者
関西大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

平成元年度の研究においては、昭和62年度の非特定汚染源負荷の調査・解析結果と昭和63年度に開発した非特定汚染源からの流出負荷量予測モデルをもとにして、雨水流出抑制施設等による非特定汚染源負荷の制御方法を確立し、実用化を検討して、3か年の研究成果のとりまとめを行うことが主な研究内容である。非特定汚染源からの流出負荷量の抑制方法には、非特定汚染源負荷の堆積量の削減と、雨天時流出量の抑制がある。そこで、流出水量系モデルと流出負荷量系モデルで構成されている数値モデルによって、下水道に種々の雨水浸透・貯留施設を有機的に結んだ広域的な雨水流出制御システムの効果を検討した。この雨水流出制御システムは、各種対策施設をユニット化することで、様々な流出形態に対応できるものである。都市型水害が発生しているある都市の排水区(排水区画積;211.35ha、不浸透域率;63.7%)において、広域雨水流出制御システムを導入した場合の効果を検討した。制御システムは道路下の浸透連結管、貯留池、管内貯留、雨水滞水池を組み合わせたもので、排水区全域の道路下には、すべて浸透連結管を設置する場合を検討した。この結果、雨水制御システム導入により、降雨初期の汚濁物質のファ-ストフラッシュ現象の発生を防止でき、越流の発生を大幅に抑制できることが明らかとなった。また、総降雨量80mm、時間最大降雨強度10mm/hr程度の降雨時においても、広域制御システムを導入すれば、公共用水域への流出負荷量を半減できることも明らかになった。今後、都市域での非特定汚染源負荷の流出制御には、各種の雨水制御施設を効果的に運用することが重要であり、最適な運用方式の確立、適切な施設規模の選定、降雨情報や流出情報に基づく施設制御等が必要になる。
著者
三原 信一
出版者
佐賀大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

(1)CAI教材導入前の学習過程の分析:被験者を大学生とした中学校技術・家庭科の教科書を参考にした内燃機関の分解組立学習を行い、作業分析を行った。この結果をもとに、まず、簡易型燃焼実験装置の製作、ビデオによる気化器の学習教材の製作を行った。簡易型燃焼実験装置についてはその結果を産業技術教育学会全国大会に報告した。さらにこれらの教材開発をもとに、CAIの導入効果が得られる内容を検討し、その第一段階として内燃機関の機構学習につながるリンク装置のCAI教材を開発することにした。(2)CAI教材の作成技法の開発:開発の理念として、単にリンク装置の動きを理解するという基本的な学習としての、一方向的な内容にするのではなく、基本的な学習内容をさらに応用化する能力を養うために自主的に教材に参加できる双方向的な内容にすることとした。具体的には、生徒にリンクの動く範囲をマウスを用いて入力させると、その動きを満足するリンク装置がディスプレイに動画表示され、ついで、このリンク装置の各リンクにマウスを用いて絵を重ねさせると、これらの絵がリンクの動きに従ってシミュレーション表示されるソフトになる。この内容は、産業技術教育学会情報部会において報告した。この中で用いた動画技法は、非常に簡便にかつ容易に複雑な絵(モジュール)を任意の関数で動画出来るものであり、リンク機構の学習以外の教材に広く応用できるので、今後開発を続行していきたい。(3)授業実践:2項で述べた開発ソフトを用いて初任者教師による授業実践を行い、開発教材の検討を行った。個性的で創造性の高い学習結果が得られ、CAI教材が学習効果の質を高めるのに非常に有効であることが明らかになった。この結果は来年度の産業技術教育学会で報告する。