著者
寺尾 裕
出版者
東海大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

船体は波浪中向かい波航行時において、波漂流力を受ける現象があり、これは波浪中の抵抗増加として知られている。それに対して波浪推進という考え方がある。これは波浪推進器を用いて波浪中での船体の波浪中の抵抗減少と推力増加をはかるものである。波浪推進は船体前部に振動する水中翼を取り付けた構造をもつ新しい推進装置である。水中に置かれた翼は船体運動に対する大きな減衰力として働き、波浪中の船体運動を減少させる。これにより抵抗増加を押さえると共に、水中翼が波浪中より推力を発生させる。そのためにこの装置は船体の推進装置として働くばかりでなく、船の乗り心地の改善にも役立つ。ここではその波浪推進の基礎的な現象解明のための研究を行い、数値解析を行い船体と振動する水中翼の干渉問題について研究した。そのためにEWSを購入し、Fortran数値計算プログラムを開発し数値計算により現象解明をはかった。数値計算法は2次元の境界要素法プログラムとし、数値計算精度を高め、高速に計算できる事を主眼に置き開発を行った。船体と翼は単純な形状とし計算をおこなった。プログラムは今までのグリーン関数(Source singularity)法に、翼面の渦を表す渦特異項を組み入れプログラムを開発した。また自由表面境界は与えられた波ポテンシャルにより時間と共に変化し、それに従い境界条件も変化する。また船体の運動も時間に従い運動をするプログラムとした。船体と翼はそれぞれ波浪中で運動する。翼は船体とある相対位置で取り付け、その位置で船体とは独立に同じ周波数でピッチ運動をするものとした。また翼の発生する渦は時間と共に船体後方に流出させた。これらの方法で翼と船体の干渉効果について計算をおこない、翼水深により渦の発生に大きな異差があることがる事がわかった。
著者
宮腰 宏 今井 忠男 佐々木 久郎
出版者
秋田大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

地下空間は,地上の空間に比較し,その潜在的特性である恒温性,放射線遮断性,耐振動性などの特徴を有する。しかしながら,地上との換気経路が限定されるため,その閉鎖性が欠点として挙げられ,災害や火災などの事故対策の十分な検討を行う必要がある。これらのことから,地下空間の通気および換気状況の把握は,安全工学上重要と考えられ,地下空間の形状・容積等と換気係数との関係は空間の基礎設計資料となりうるものであり,数値計算による予測解析における妥当性の判定資料としても必要である。本研究においては,地下風道ネットワークに接して配置され,片側換気状態にある地下空間の漏洩ガスの対流拡散状況をモデル実験によって明らかにし,数値差分法による予測解析モデルの妥当性を調べた。その結果,換気流と密度の異なったメタンなどの可燃性ガスあるいは有害ガスが漏洩した状況下での,空間の形状,容積を種々に変化させ,総合的な地下空間内のレイヤ形成,3次元ガス対流拡散現象および換気特性を実験的に明らかにした。また,地下空間内の換気流量,換気回数,換気流の特性,ガス濃度の変動・周波数特性,非定常的なガスの漏洩に対する応答特性を調べ,地下空間の換気制御に必要なデータを総合的に示した。また、差分法による漏洩ガス対流拡散の数値シミュレーションを実施し,実験値との比較検討を行った結果,正方形に近い空間形状は比較的実験に近い結果となるが,浅い場合や深い空間形状の複雑なガス対流拡散状況に対しての相違が大きいことがわかった。
著者
金山 良春 根来 伸夫 岡村 幹夫
出版者
大阪市立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

自然発症高血圧ラット(SHl)およびWKYラットの大動脈由来の培養血管手滑筋細胞(VSMC)を用いて,各種成長因子,血管作働物質を作用させた場合のcーmyc protoーoncogene(cーmyc)の発現の程度を比較し,Ca培抗薬やα_1ブロッカ-により抑制されるかどうかを検討した。SHR由来のVSMCは,胎児血清PDGF,EGF,アンギオランシンII,エンドセリンー1,エンドセリンー2,エンドセンリンー3の刺激に対してWKY由来のVSMCに対し有意に高いcーmycの発現を示した。しかし,TGFーβに対してはcーmycの発現の増強は示さなかった。一方,SHR由来のUSMCの種々の成長因子やアンギオテンシンII,エンドセリンなどの血管作働物質によるcーmycの増強それた発現はCa拮抗薬である,ニフェジピン,ジルチアゼムによりWKY由来のVSMCのcーmycの発現の程度に抑制された。また,α_1ブロッカ-である塩酸プナソシンによっても抑制されることを認めた。cーmycの発現にはCa^<++>とプティンキナ-ゼCが関与すると考えられているが細胞内Ca^<++>の動員に重要とされているイノシト-ル1.4,5ー3リン酸(IP_3)のアンギオテンテンIIに対する反応性をSHR由来のVSMCとWKYのそれとを比較したが、SHR由来のVSMCのIP_3反応はWKYの4ー5倍の反応を示した。このことよりSHR由来VSMCのcーmyc発現の増強の要因の一つはアレギオテンシンIIに対するIP_3反応の増強とそれに続く細胞内Ca^<++>の上昇の増強が関与している可能性が考えられた。
著者
岡田 宣子
出版者
文化女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

高齢者・障害者には、脱ぎ着しやすく着心地の良い被服の提供が必要なので、重心動揺を指標として快適被服設計の原則をとらえた。高年17名の実験はフィールドワークで、若年33名には衣服圧測定や官能検査も含め着用実験を行った。椅座位動作時の重心動揺、所要時間に着目し解析した。1.服種別に検討した所、高年女子ではワンピースより2部式被服の方が楽で、ソックスは生体負担が大きく、前あき上衣が一番扱いやすい。高年男子では障害者が好んで着用する服種は、生体負担が少なかった。着衣時には患側を先に操作しかばっていた。かぶり式シャツは頭髪の汚れを気にすると扱いが大変になる。2.バストライン(BL)上のゆとり量・アームホール(AH)下げ寸法を変化させたブラウスの着脱実験から、ゆとり量の多い方が有意に着脱しやすく、機能低下の顕著な人には(AH)を2cm下げると生体負担が有意に減少した。若年のかぶり式被服の腕入れ腕ぬきに必要なゆとり量は、厚みのある体型で20cm、普通体型で20cm〜24cm、偏平体型で24cmである。(BL)上のゆとり量は、衣服圧及び全体・肩部・上腕部の着用感に、(AH)下げ寸法は肩の着用感に有意に関わっていた。着用者からみた適切ゆとり量は、高年については厚みのある体型で20cm、普通体型で24cm、偏平体型で28cmである。若年では高年よりいずれも4cm少ない。着用者のこの好みの結果は実験結果と矛盾しないが、若年では偏平体型以外は、腕ぬきでないゆとり量である。機能の低下している人にはゆとり量を増やし負担を軽減する必要がある。3.パターンとの関わりをみると、更衣動作の難易には左後腋点〜右肩峰点までの体表長(AB)と上腕長(BC)が深く関わり、(AB)のバイヤス方向のゆとり量が重要な要因として働く。袖山の高さは着脱性の難易や着心地に大きく関わり、機能低下の著しい人には、袖山の高さを低くし袖の被覆面積にゆとりを持たせ、上腕部の運動適応性を高めることが有効である。
著者
米山 喜晟 米山 喜晟
出版者
大阪外国語大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

本年度の研究実積はI.3年間の研究成果を中心に、従来の研究代表者の論文その他を収録した『イタリア・ノヴェッラの森』の刊行、II.論文1点と研究ノート1点、III.I.のために書き下ろした解説と要約3点である。まずII.について記し、その後I.とIII.について記す。本年度発表した論文は「G.セルミーニの心の中の障壁」と題したもので、シエナのノヴェッラ作者セルミーニのノヴェッラ集を素材として中世イタリアのコムーネの市民の心性を探究し、イタリア・ノヴェッラに頻出する悪戯のモチーフは、領域民に対する「差別と排除」のテーマを基盤としていることを論じた。研究ノートは、「ノヴェッラの起源と『ノヴェッリーノ』と題したもので、セグレやツムトルの近年の研究成果を紹介しながら、ノヴェッラというジャンルの定義と成立について論じている。同時に『ノヴェッリーノ』の新しい評価を紹介した。研究代表者が『イタリア・ノヴェッラの森』のために新しく書き下ろした解説は、1.「イタリア.ノヴェッラの森への案内」、2.「ジェンティーレ・セルミーニの人と作品」、3.「(ジラルディ・チンツィオの)『百物語』のノヴェッラの要約」で、1.はわが国で初めて試みられたイタリア中世・ルネサンス期のノヴェッラの通史であり、極めて不十分なものではあるが、これによってほぼ流れの全貌を把握することが可能となった。2.は『ロミオとジュリエット』の源流とされる作品を含んでいる作品集の全作品の要約、3.は『オセロ』や『以尺報尺』の原作を含むことで名高いが、わが国ではほとんど知られていない作品集の全作品の要約である。以上の成果を中心として、研究代表者の論文その他12点、それにイタリア口承文学研究に関してすでに定評のある気鋭の研究者鳥居正雄Gの論文3点を加えて現在刊行予定中で、すでに原稿を印刷屋に引き渡し済みの資料集が『イタリア・ノヴェッラの森』である。
著者
山下 恭弘 山岸 明浩
出版者
信州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究は,長野市に位置する一戸建て住宅について,築後年数の経た住宅(I分類)と新築住宅(II分類)において経時的な室内温熱環境と居住者意識およびエネルギー消費量に関する調査をおこなった。本研究により得られた成果の概要は,以下の通りである。1.住宅の室内環境の測定結果より,室内温熱環境では,外界条件の影響もあり,冬季のみ他の季節とは異なる結果となった。室内環境に対する居住者意識では温熱環境に関わる項目で季節による違いが認められた。2.環境条件の測定値と居住者の評点について検定を行うことにより差を明らかにし,各々の温熱環境条件と居住者意識の季節変化および移転による変化について考察を行った結果,I,II分類の住宅とも室内温熱環境測定値および居住者意識において季節による有為な差が認められた。3.判別分析を用い季節変化が居住者の意識に与える影響について考察を行った。その結果,季節変化は室内温熱環境に関わる居住者意識への寄与が高く,他の環境に対する寄与は低いことが明らかとなった。4.温熱環境の物理環境測定値と居住者意識の対応について検討した結果,季節による変化は明確に捉えられた。5.筆者らの冬季における既往データとの比較を行った結果,気温の絶対値のみならず,気温の空間における分布性状や放射熱が温冷感に影響を与えていることが推察された。6.住宅の暖房器具については,I分類の住宅では,ストーブ,ファンヒ-タ,およびこたつを使用しており,II分類の住宅では,エアコンを使用しこたつの使用が減少傾向にあることが推測された。7.電気とガスの消費量についてみると,電気の消費量は1月に最も大きくなり,消費量で500〜600kwh程度,料金で13,000円前後となった。5月や10月の中間期では約6,000円程度の電気料金であった。
著者
松原 斎樹 松原 小夜子 蔵澄 美仁 富田 道男 飯塚 英雄
出版者
京都府立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

5年度に行った冬季調査結果のまとめと反省をもとに夏季調査の項目を決定して昨年冬季と同じ住戸を対象にして夏季のヒアリング調査と熱環境測定を行った。また,吹き抜けを持つ住戸を5戸(内1件はソーラーハウス)を選定し6年度夏期.冬期のヒアリング調査および熱環境測定を行った。また,昨年度ヒアリング調査の対象住戸と同一構造の住戸約50件の郵送調査を夏季・冬季に行った。室温の実測データから実生活における体感温度の推定を行うためにはより正確な熱収支量を知る必要があるため,正座位人体と周囲壁面との有効放射面積と形態係数を求める実験を行い,姿勢の違いに体感温度の差を推定をした。一般住戸の夏期の調査結果ではクーラー使用を控えて通風によって生活したいという要求が満たされない住戸が多い。また冬期調査では30m^2を上回る広いLDK空間でも直接的な寒さの不満は少ないが,こたつ・ホットカーペットで足元寒さに対処する住戸は多く,開放式器具による空気汚染の問題も予想されるが今回は空気質の測定は行っていない。吹き抜け住戸では夏の通風は有利であるが設計によってはあまり涼しく住めていない。また冬期は電気床暖房により採暖的に生活している2例,かなり寒い1例など十分に寒さを意識した計画はなされているとはいない。空気集熱式のソーラーハウスでは床暖房方式であり,足元の冷えがないために起居様式の季節差も少ない。今回の知見では初歩的な配慮によって熱環境を改善する手段が見いだされる例が多いので,そのような設計指針を設計者に啓蒙することによる改善が重要であると考えられる。
著者
菅原 文子 吉沢 晋 諸岡 信久 角野 猛
出版者
郡山女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

東北地方の中部の郡山市において,集合住宅,一戸建住宅の床麈埃の収集を行い,麈埃中のカビコロニー数,ダニアレルゲン量を測定した。測定対象建物の一年間の季節的変動,両者の比較,カビコロニー数とダニアレルゲン量との関係,温湿度とカビコロニー数,ダニアレルゲン量との関係を求めた.平成三年度の二月,九月の集合住宅のアレルゲン量の測定では,二月に比して九月は,非常に大きな値を示すが,DerI,DerIIにその特徴が著るしく,DerpIは,ばらつきが大きく,九月が必らずしも大きな値を示していない。同時に行ったカビコロニー数の測定に関しては,特に大きな特徴を示してはいない。平成四年度の一戸建住宅,平成五年度の集合住宅の測定では,年間消長は,ダニアレルゲン,カビコロニー数共に冬期に少なく,春季〜秋季特にカビでは夏季に,ダニアレルゲンでは,秋季に大きな値を示しているが,各戸必らずしも同一の傾向を示していない。ダニとカビは,その増殖の温湿度の範囲が似ていることから,平成三年,四年,五年度の測定結果を用いて両者の相関関係を求めたが,いづれの場合にも,相関関係は認められなかった。また,室内の温湿度,床面温湿度と,ダニアレルゲン量,カビコロニー数との関係も明らかな結果は,認められなかった。床仕上材とダニアレルゲン量,カビコロニー数との比較では,一戸建住宅の中では,差は認められないが,集合住宅と一戸建の比較では,一戸建の畳,集合住宅のカーペットにアレルゲン量が多く,住い方の相異によるものと思われる.韓国ソウル近郊の住宅での同一の測定では,ダニアレルゲン量は,郡山市より低く,建物の構造,暮し方の相異によると思われる.
著者
磯田 則生
出版者
奈良女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

本研究では,実際の住宅における居住者の日常生活(家事,団欒,睡眠など)時の温熱境条件の生理的・心理的反応への影響を測定すると共に,人工気候室を用いて温熱環境の人体影響に関する基礎的実験を行い,主に冷暖房時の至適温度条件に関するデ-タを収集し,住居の高齢者や幼児を考慮した冷暖房設備および室別の設定室温を検討した。住宅の実態調査では,冬期および梅雨期に,戸建住宅における室内温熱環境条件の実態を測定し,温熱環境条件温熱的快適性に及ぼす影響を検討した。また,住居に関する特性(構造・断熱性態・平面図),居住者の生活行動,冷暖房器具に関する使用方法,住居や生活環境に関する評価などをアンケ-ト調査した。その結果,冬期の使用暖房具はエアコンが最も多く,居間ではエアコンやファンヒ-タと共に電気カ-ペット・こたつの併用が75%を占め,平均室温は約20℃となる。梅雨期では室温が30℃近くになるとエアコンのドライ運転での使用がみられ,室内温湿度は25〜28℃,60〜70℃になることを明らかにした。人工気候室での基礎実験では,高齢者や青年を対象に冷暖房時の室温や床暖房温度の人体影響について測定し,至適温熱条件を検討した。冬期床暖房実験では,床座の場合は床温の影響が大きく,室温20〜24℃で床温26〜32℃が快適な温度であり,椅子座では気温の影響大きい。また,高齢者では末梢部皮膚温の変動が青年に較べ遅く,温度適応能力が低下している。夏期の床暖・床冷却実験では,室温30℃床温23℃より室温26℃床温31℃の方が満足度が高く,快適温度条件は黒球温度25〜29℃で床温25〜32℃であり,頭寒足熱の考えは夏期でも有効と言える。さらに,睡眠実験では、夏期の睡眠快適室温は26〜28℃であり,30℃では部分冷却設備が必要となり,前額・末梢部皮膚温が睡眠と関係することなどを明らかにした。
著者
境田 清隆
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

気象庁技術報告第34号「積雪累年気候表」には、1963年までの約800地点における最深積雪深と積雪日数の累年値が掲載されている。本研究では、各県の気象月報等を用いて、1931年まで遡ることが可能で、かつAMeDASデータにより現在まで接続可能な地点の積雪データを収集した。その結果、435地点について、1931〜1991年の最深積雪深および積雪日数の累年値を収集した。しかし、気象官署以外の観測点では欠測年が多く、また明らかに異常なデータも散見され、データの均質性をチェックすることは容易ではなかった。本研究では、そのうちほぼ均質なデータの得られた、北海道17地点、東北地方43地点の積雪日数のデータを用いて、地域毎の気候変動と都市の影響とを分離する方向で、解析を行なった。北海道と東北地方でそれぞれ、地点間のクラスター分析を行ない、積雪日数の年々変動の類似性の観点より、北海道で4地域、東北地方で5地域に区分した。そして地域内平均値の経年変化によって地域の気候変動を明らかにし、地域内の都市と非都市との比較から、積雪に及ぼす都市の影響を検討した。その結果、1)北海道は南部で減少、中北部で変化なしであるが、札幌は減少が著しく、地域平均との差は約6日である、2)東北地方太平洋岸は、地域としては積雪日数の増加が顕著であるが、仙台は増加しておらず、地域平均との差は約8日に及ぶ、3)盛岡など県庁所在地クラスの都市においても、地域平均に比べ8〜10日程度減少している、4)札幌・仙台・県庁所在地など都市規模により都市の影響が顕在化する時期がずれていること、などが明らかになった。
著者
近江 隆 北原 啓司
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

大都市圏及び地方中心都市に立地する区分所有集合住宅(マンション)において、所有と利用の不一致、すなわち、所有者の不在化の進行状況、背後にある所有権の流動化、マンションの立地・供給動向、不在者の離散プロセスとその意味等について分析した。調査対象は札幌、仙台、大宮、千葉、名古屋、堺、広島、福岡である。分析結果の概要を以下に述べる。1.大都市圏のベットタウン都市は不在化が抑制され、逆に所有権の移動が激しい。これは中古住宅の流動性の高さ、定住の為の住宅需要が支配的であることを示す。2.地方中心都市では不在化が4割水準に達し、賃貸住宅需要、業務需要マルテハビテーションの需要が大きい。従って、投資的要素が強く、それだけ所有権の移動が抑制されている。3.不在化はオイルショック後に完成した物件で特に進行し、ストックとしての不安定な状態が益々深刻化してゆくと考えられる。4.不在化は立地、建設年代、開発・販売主体等の要因でかなり左右される。但し、これらの作用は地域の市場関係の特殊な条件とも関連し、各々の都市で独自な傾向をもつくりだしている。5.不在・賃貸化した住宅は市場において一定の社会的役割をはたしている。特に、着工レベルの小規模賃貸住宅への偏りが、市場レベルではマンションの賃貸化により、定住可能型と云える中・大規模の需要を吸収している。6.持家政策の中でつくりだされたマンションが、社会的な借家需要に応えるという矛盾を内在させている為、分譲持家としての限界性と共に、借家としても社会的ストックとして位置づけための問題性、要件の欠落と有している。所有者不在とその空間的離散は、マンションの社会的、政策的な位置づけの方向転換を迫る結果を示した。
著者
奥田 眞夫 桑原 俊也 丸山 剛郎
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

平成3年度、4年度に正常者と顎口腔機能異常者を対象として収集した咬合、咀嚼筋活動および咀嚼時下顎運動のそれぞれのデータを分析し、咬合異常による異常な歯牙接触と咀嚼運動の関連性を検討することにより、顎口腔機能異常の発症のメカニズムを考察した。咬合については、臼歯部におけるクロスバイトおよび平衡側干渉、前歯部のクロスバイトあるいあインターロッキングにより下顎が偏位し、顎関節内部障害や咀嚼筋における筋膜疼痛機能障害症侯群に至ったものと考えられる結果が明らかとなった。すなわち、ナソマット咬合器におけるファンクショングラフの分析結果に基づき、歯列模型で下顎運動をシュミレートすることにより、各種咬合異常に起因する機能時の歯牙接触の異常が、顎関節や咀嚼筋に与える影響が3次元的に考察できた。咀嚼筋活動については、顎口腔機能異常者では、正常者にみられるような左右側のバランスあるいは各咀嚼筋における協調性が認められず、異常な歯牙接触による下顎の偏位をコントロールしようとする補正がなされており、これは咀嚼時下顎運動経路上に筋活動量を色表示として同時描記する方法で診断可能であることを、平成5年度日本補綴歯科学会関西支部学術大会で発表した。下顎運動については、約10年間に大阪大学歯学部附属病院第一補綴科に来院した顎口腔機能異常者の咀嚼時下顎、運動の分析により、発症原因となる咬合異常の診断が可能となっているが、3次元的な下顎のトランスレーションのみならず、軸回りのロ-テーションも考慮に入れる必要性があることを、第89回および第90回日本補綴歯科学会学術大会において発表した。今後さらにこれらを統合し、より詳細な顎口腔機能異常診断システムの開発を目指すものである。
著者
磯田 則生 久保 博子
出版者
奈良女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

高齢者に対する温熱環境基準や好ましい冷暖房設備のあり方について提案するために、高齢者住宅を対象に温熱環境に関するアンケート調査、実態測定を実施すると共に高齢者を被験者に人工気候室実験により温熱環境要素の人体影響を測定し、総合的に検討した。1.住宅温熱環境における青年・中年・高齢者の住まい方対応に関するアンケート調査では、住宅の熱特性や高齢者の体質・体格により冷暖房器具の使用や住まい方に違いがみられた。夏季には高齢者の方が他の年代に比べ着衣量が多く、冷房器具としてはクーラーより扇風機の使用率が増加し、睡眠時の使用は減少する。冬季には高齢者の着衣量が増え、高齢者・中年ではストーブが使用され、睡眠時には中年・高齢者で寝床内暖房器具の使用が増加し、特に高齢者で多く、トレイ回数も増加する。2.高齢者住宅の温熱環境の実態測定では、冬季の温熱環境が悪く、暖房設備を改善する必要がある。夏季の居間の平均室温は29℃程度で、寝室では27℃であり、通風や扇風機の利用が多い。冬季の居間室温は15℃〜18℃と推奨室温より3〜5℃低く、寝室では8℃程度とさらに低く、着衣や炬燵で寒さに対応し、夜間のトレイ時には皮膚温が低下する。3.高齢者・青年を被験者とした人工気候室実験では、高齢者の温熱環境に対する生理・心理反応の特徴を明らかにした。夏季実験では高齢者は青年に比べ躯幹部皮膚温が低下するが、末梢部の変化が少なく安定するのに時間を要し、気温や気流の影響を受ける。冬季実験では寒冷暴露時の高齢者の前額皮膚温が気温の影響により低下するが、下腿部では青年に比べ低下が少ないことから血管収縮機能の低下が示唆される。推奨室温としては夏季には26℃〜29℃で、室温30℃では気流が必要であり、冬季には21℃〜25℃の室温が推奨され、放射暖房方式が望ましい。
著者
中込 四郎
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

スポーツ競技者の現役引退並びに運動部集団からの離脱後の適応過程について、主に、自我同一性の再確立に着目して以下のような側面から研究を行った。(1)部離脱に関する相談事例の提示:研究者が心理相談室で担当した運動部離脱に関する6事例をまとめ、部離脱が危機的状況あるいは同一性再確立の困難な状況もたらしていることを示した。(2)退部後の再適応に寄与する要因:退部後かなりの時が経過し、現在、比較的適応状態にある元大学スポーツ競技者10名ドロップアウトならびにトランスファー者)への面接調査により、再適応を促進したと考えられる心理社会的要因を明らかにした。(3)引退後の再適応過程の統合モデルの構築:わが国を代表する元アマチュア競技者8名への面接調査を行い、具体的な事例提示並びに、それらの資料から再適応過程を説明する一般化された「統合モデル」を提示した。(4)各同一性再体制化のタイプごとの特徴:T大学時代に活躍し、さらに卒業後何年か引き続き現役競技者としての競技経験を有する元スポーツ競技者115名に対して調査を試みた。ここでは、それまでの事例研究で主張したことを中心に、操作的な方法により確かめた。(5)再適応への心理的援助の方法:本研究の一貫として行った文献研究の中から、すでに開発されているいくつかの心理的援助プログラムの紹介を行った。今後は、プスポーツ選手に対象を拡げ,同種の研究を試みる予定である。また、それまでの研究成果を踏まえて、再適応を促進するための援助プログラムの開発を行いたい。
著者
細川 淳一 田神 一美
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

競技スポーツ選手として、思春期から成人に至るまで激しい運動を続けてきたことが、その後の健康状態にどのような影響を及ぼすかを衛生学的観点より研究した。競技スポーツ選手は、現役引退に際して永続的な運動量減少を体験する。この時期の一般人は、成人病リスクが高まり運動を推奨されるが、この時期に運動量を低下させる競技スポーツ選手の場合、その後の健康にマイナスの要因となっているか否かを動物実験モデルにより細胞性免疫機能の一つであるナチュラル・キラー細胞の活性を指標として検討した。水泳運動中止13週間後では、対照群との間に細胞性免疫能に明かな違いは認められなかった。つまり、運動の有無にかかわらず、健康な状況下では細胞性免疫機能に検出可能な差異は現れないと考えられる。そこで、免疫抑制剤(シクロスポリン)を投与し、この負荷に対する耐性をナチュラルキラー細胞の活性を指標として測定することにした。運動トレーニングとして、ラットに穏やかな流水遊泳(30分/日、4回/週)を17週間(7週齢から24週齢まで)負荷した。負荷中止後9日目に50mg/kgのシクロスポリンを腹腔投与し、10日目にネンブタール麻酔下に開腹して無菌的に脾臓を摘出、ホモジナイズした後、これをコンレー・フィコル液に重層して比重遠心分離する方法で白血球を得た。この白血球と^<51>CrでラベルしたK562細胞とを混ぜ合わせて4時間培養し、この間に破壊された標的細胞から培地中に流出した^<51>Crをガンマー線カウントする方法で測定した。比較は運動負荷を行なっていない対照群との間で行なった。この結果、運動はナチュラル・キラー細胞に対する免疫抑制剤の作用を緩和することが分かった。この作用を通じて運動は、腫瘍などの成人病から防護していることを示唆するものと考えられる。
著者
神川 康子
出版者
富山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

現代社会におけるストレスや疲労の蓄積の実態を把握し、それらを解消する重要な手がかりや指標ともなる睡眠や生活行動について研究を進め、健康な暮らしの実現をはかる一助としたいと考えた。そこで研究計画に従い、1993年は現代人の睡眠と生活に関する実態調査、1994年は一夜断眠により生活リズムを乱した時の心身への影響を分析する実験を行った。そして1995年は効果的な睡眠を得るための睡眠環境と生活行動を検討したいと考え、応用実験と学生7名の睡眠日誌の分析を行った。研究の成果の概要はつぎのとおりである。1.睡眠調査の結果(1)1982年と1993年の調査の比較から、現代人は睡眠時間が短縮し、夜更かしの朝寝坊タイプが増加していた。(2)女性の社会進出により生活リズムの性差は少ないが、女性の方がやや睡眠時間は短く不満を感じていた。(3)精神的疲労が睡眠の質を低下させていた。(4)高齢者介護の担当者の疲労や睡眠に関する不満は大きく、特に介護者の高齢化とともに夜間の介護負担と自分の中途覚醒が夜間睡眠を妨げていた。2.断眠実験の結果(1)一夜断眠後の睡眠は質も量も最も良くなる傾向が認められたが、被験者9名中2名は寝つきが悪くなり睡眠も浅くなった。(2)断眠の疲労は断眠直後に現れるタイプが5名、一夜睡眠後に現れるタイプが4名であった。(3)断眠の疲労は3夜後に回復した被験者が5名、3夜後も疲労が残っていた者が4名であった。3.睡眠環境と生活行動(1)睡眠評価が最も良くなった環境温度は20〜24℃で、30℃以上になると著しく低下した。(2)騒音や香りが睡眠や覚醒レベルに与える影響は個人差や慣れの違いが大きかった。(3)入浴は入眠前1〜3時間前が寝つきに効果的であった。(4)学生の場合、日中の活動量が少ない方が睡眠評価は良かった。(5)コーヒーは確実に覚醒レベルを高め、アルコールは覚醒レベルを低下させた。(6)精神的疲労、特に心配事が睡眠評価を低下させた。
著者
鈴木 参朗助 佐賀 正道 成田 正弥 安藤 靖恭 真島 行彦
出版者
慶応義塾大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

難治性網脈絡膜炎、特にヘルペスウイルス性ぶどう膜炎におけるPCR法の診断的意義および病態との関連性を解明するために、以下の研究を行った。家兎を用いて実験的単純ヘルペスウイルス性網脈絡膜炎を発生させ、その網脈絡膜炎の病態、病期とPCR法の検出感度およびウイルス抗体価の変動を検討した。抗体価の上昇は硝子体内へのウイルス接種後7日より上昇し始め、21〜28日にピークを示した後、低下した。PCR法による前房水中のウイルスDNAの検索では、接種後3〜7日に検出され、その陽性率は30%であった。ヘルペスウイルス性網脈絡膜炎の臨床症例の検討では、前房水におけるPCR法によるウイルスDNAの検出は、硝子体に比べ、検出率が低かった。しかし、2週間の抗ヘルペス剤投与後にも眼内液から検出することが可能であった。免疫抑制患者においては、眼内液のウイルス抗体価よりもPCR法によるウイルスDNAの検出が有用であった。免疫抑制患者における水痘・帯状ヘルペスウイルス性網脈絡膜炎の検討から、免疫能の低下が網脈絡膜炎の病態に関与していることが示唆された。ヘルペスウイルス性網脈絡膜炎の診断における眼内液のPCR法によるウイルスDNAの検出率は、必ずしも高率ではなかった。生体の免疫能を考慮し、眼内液のウイルス抗体価と併せて評価すべきと考えられる。免疫抑制患者では、健常者と比べ免疫能の低下していることから、眼内液のウイルス抗体価は低く、PCR法によるウイルスDNAの検出率が高くなると考えられた。ウイルス性網脈絡膜炎患者においては、その免疫能を考慮し、ウイルス学的検索結果と臨床所見を詳細に検討する必要がある。
著者
赤石 義紀
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

^4_ΣHと^4_ΣHeの束縛状態の存在可能性を私たちは4体計算によって理論的に示した。^4_ΣHeは、スピン・パリティO^+でアイソスピン1/2(99%)の束縛状態であり、結合エネルギーが3.7〜4.6MeV、幅が4.5〜7.9MeVであった。1989年、早野氏たちは、静止K^-吸収実験によってシグマ・ハイパー核の束縛状態が存在しうる証拠を得た。それは、上の理論計算と良い一致を示した。^4_ΣHeの束縛状態は間違いなく存在するのか?これはDalitz博士によって投げかけられた問いである。これに答え切るには、新たなデータが必要である。私たちは、450MeV/cの飛行K^-吸収のデータをとるのがよいと指摘した。早野氏たちはブルックヘブン国立研究所で600Meiの実験を行い、^4_ΣHeの存在について肯定的な結果を得つつある。シグマ・ハイパー核の存在が軽い核の領域に限られるのか、或いは、もっと普遍的であるかは、興味ある問題である。重い核とシグマ粒子の間のポテンシャルを調べてみると、核表面近傍に付力の山が現われるという特異な振る舞いをしている。この付力の山は、もともとのΣN相互作用の付力と引力の強さが均衡していることから来るもので、重い核から軽い核まで普遍的にあらわれることが分った。^<208>Pb核におけるh_<11/S>のシグマ粒子は、クーロン引力と遠心力とで核表面付近に閉じこめられその上に特異な形の強い相互作用を受ける幅の狭い状態として存在しうることを私たちは示した。飛行K^-吸収反応が無反跳の条件で行われれば、この状態が強く励起される。このように私たちは、重いシグマ・ハイパー核の存在は可能であることを示した。
著者
山口 泰雄 野川 春夫
出版者
神戸大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

平成7年度は、まず、平成6年度に実施した「ふるさと創生一億円事業」に関する質問紙調査によって回収したデータ分析を行い、内容を検討した。その結果、ふるさと創生一億円事業の社会効果と経済効果が明らかになった。続いて、市町村における「体育の日」のスポーツ行事の実施状況および都道府県民「スポーツの日」の設定資料を文部省生涯スポーツ課から入手した。さらに、体力つくり優秀組織として表彰(内閣総理大臣賞、総務庁長官賞、体力つくり国民会議議長賞)を受けた自治体に関する資料を(財)健康・体力づくり事業財団から入手した。平成六年度に続き、スポーツ都市づくりを積極的に進めている都市に対して、現地調査とヒアリングを行い、関係資料を収集した。また、スポーツ都市宣言を行っている自治体に関する資料を集めた。この資料は、平成元年度までのデータであったため、47都道府県の教育委員会に対して「スポーツ・健康都市宣言」に関する質問紙調査を実施した。調査の結果、スポーツ・健康宣言都市は351市町村あり、全国の自治体の10.7%が宣言を行っていることが解明された。また、スポーツ・健康に関する自治体宣言の内容を分析し、それぞれ8つのタイプに分類した。これらのデータを総合的に分析し、スポーツ都市の類型化を行った。すなわち、1)イベント型、2)施設・キャンプ型、3)スポーツリゾート型、4)スポーツ種目型の4つのタイプである。これまでの研究成果をもとにして、4つのタイプに類型化される代表的な市町村を抽出し、一覧表を作成した。平成6年度と平成7年度の研究成果を総合して、研究報告書を発行し、関係団体・機関へ送付した。これらの研究成果は、学会発表をするべく準備を行った。