著者
上岡 克己
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究「レイチェル・カーソンと緑の伝統」は『沈黙の春』(1962)出版により人々の世界観や自然観を一変させ、その後の環境保護運動に大きな影響を与えたアメリカの作家レイチェル・カーソン(1907-64)について、ネイチャーライティングの視点から考察しようとする試みである。 カーソン研究はもっぱら彼女の代表作『沈黙の春』を中心に論じられ、しかもそのアプローチは化学物質の危険性といったような、きわめて理系的発想で行われてきた。しかしながら「環境」そのものが私たちの生活や生き方と密接に関連している以上、理系的方法論には限界がある。「環境の問題」は、究極的に「人間の問題」、「文化や文明の問題」である。本研究では、例えば『沈黙の春』は殺虫剤や除草剤汚染を告発した書というよりは、私たち人類の生き方や文明を問い直す書として捉えていきたい。そこに文学研究の意義があると思う。本研究は、彼女の著作に英米の緑の伝統(ネイチャーライティングが持つ文学性、自然保護思想、エコロジー思想、自然教育)を認め、2年間の研究期間内で主にカーソンとネイチャーライティングの系譜について考察し、成果として共編著書『レイチェル・カーソン』(ミネルヴァ書房、2007)と論文「カーソンが愛した作家ヘンリー・ベストン」(『国際社会文化研究』8号、2008)に結実した。
著者
井ノ口 淳三
出版者
追手門学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

チェコ、ドイツ、オランダなどヨーロッパ各地の図書館で文献調査を行い、『世界図絵』の様々な異版本を閲覧した。『世界図絵』の挿絵が初めてカラーで印刷された1883年版の特徴を明らかにしたことも重要な成果であるが、とりわけ「第3章 天空」の挿絵が1658年に発行された初版では、回転するものであったことを確認できたことは、きわめて大きな成果である。その結果『世界図絵』が世界で最初の挿絵入り教科書であるということにとどまらず、世界で最初の手でさわって動かせることのできる教材であることを明確に指摘することができた。
著者
亀谷 義浩
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

既存の螺旋スロープに点字ブロックを敷設し、視覚障害者(全盲者)とアイマスクをした健常者を被験者として、螺旋スロープの空間把握や探索行動の調査をした。結果、点字ブロックは、周回数の把握において役立つが、方向の把握においては効果が低いことがわかった。点字ブロックの敷設は、1/4周毎とし1カ所あたりに2枚が最適と結論付けられた。ただし、点字ブロック以外の手がかりも同時に複数必要であると考えられた。また、全盲者は、周回数から方向を割り出そうとする傾向はなく、音や歩いた感覚等によって方向の把握をする傾向があった。
著者
内山 繁樹 塚田 尚子 若狭 紅子 池邉 敏子 塚田 尚子
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

EBP プログラムである IMR(Illness Management and Recovery:疾病自己管理とリカバリー)と FPE(Family Psycho Education:家族心理教育)を並行して実施することで,家族間の負担感の軽減や自己効力感など相補的・相乗的な効果を実証的に示すことを目的とし,当事者とその家族を対象に介入を行った。 リカバリーゴールの達成に向けて前向きな行動変容が見られることで QOL の改善傾向や再発予防として示唆された。また,家族はエネルギーの使い方が減少し,体験の共感や苦労の分かち合いから心理的サポートの実感が得られていた。
著者
井上 櫻子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

18世紀後半のフランスで発達した描写詩は、自然の事物のさまざまな姿と自然の中に生きる人間の多様な情緒的経験を歌うものである。本研究は、描写詩における自然描写の変容に博物学的著作がどのように影響を与えているか明らかにした。さらに、描写詩、とりわけサン=ランベールの人間論とルソーやディドロの著作、さらには『百科全書』との関連性についても検討した。そして、長い間等閑視されてきた描写詩というジャンルを再評価する必要性を強調した。
著者
綾部 園子 平方 千裕
出版者
高崎健康福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

喫食者の咀嚼・嚥下機能に対応した粥を提供するために、各種副材料を添加した粥の性状とその変化を検討した。粥は、米・水・添加材料を加えて95℃60分真空調理した。10%粥は嚥下困難者用食品の許可基準に近く、ゼラチン、および一部のとろみ調整食品の添加は、遊離水分量、物性の変化を減じ、介護食用粥に適することが示唆された。冷凍保存後に解凍した粥の性状は、保存前の状態を保持していた。
著者
吉瀬 謙二
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では,ハードウェア記述言語を用いて現実的なCoreSymphonyマイクロアーキテクチャの開発と動作検証をおこなった.すなわち,マイクロアーキテクチャレベルの工夫により,CoreSymphonyの回路規模の削減を達成した.また,FPGAボード間の通信としてシリアルATAケーブルを用いた高速シリアル通信の評価をおこない,高いバンド幅のデータ転送が可能であることを確認するとともに,この高速通信ポートおよびFPGA,DRAMを搭載する計算機アーキテクチャ研究に適したボードの設計をおこなった.
著者
小川 宣子
出版者
岐阜女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

卵の調理特性である熱凝固性,乳化性および起泡性を利用した各種卵料理に及ぼす影響について、鮮度の影響,卵液のpH,卵液への食塩・乾燥卵白などの添加物および調理過程における加熱条件を物性および組織構造から中心に調べた。その結果、卵の熱凝固性では卵白の場合は鮮度の影響が大で、鮮度低下により凝固開始温度が高くなることがレオログラフより明らかになった。卵黄ゲルの物性には卵黄球の大きさおよび脂肪球の大きさが関わっていた。熱凝固性を利用した厚焼き卵では弾力のある厚焼き卵を得るためには濃厚卵白オボムチンの構造を維持する程度、卵液と調味料を攪拌することが望ましいことを明らかにすることができた。鮮度が新しい卵で作製した茶碗蒸しは弾力があり、この表面構造は鮮度が悪い卵で作製したものに比べ密な構造をしていた。さらには脂肪球が小さく分散していたことから口触りのいい茶碗蒸しになることが推定でき、これは官能検査の結果から裏付けることができた。種が異なる卵については名古屋コーチン種の卵のゆで卵の卵白,卵黄の硬さは白色レグホンに比べ硬く、弾力は大であった。また、名古屋コーチン種の卵黄を用いたエマルションは白色レグホンに比べ油滴が小さく、岐阜地鶏についても名古屋コーチン種と同様の結果であった。また、標準飼料にビタミンEとリノール酸を添加した飼料を摂取した鶏が産卵した卵は、加熱卵白ゲルの弾性,粘性いずれも普通卵に比べてあまり違いは見られなかったが、生卵黄の粘性は大きく、乳化性も優れ、卵黄ゲルの凝集性も大きかった。これは卵黄球中の脂肪球が小さいことが要因の一つではないかと推定した。
著者
上田 文
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

近代京都で活躍した日本画家、土田麥僊の人物画についての研究である。麥僊は人物画の中でも特に舞妓図を得意としたが、「美人画家」には分類されてこなかった。それはなぜか。本研究では肖像性と象徴性という観点から作品の分析を行った。写生を重視した麥僊の人物画からは、明らかにモデルの特徴が読み取れる一方、麥僊の残した記述からは麥僊が平安時代の仏画に注目し、信仰と優美の一致を目指していたことが明らかになった。舞妓と仏画という隔たりの大きい画題を融合させようとしたところに麥僊の特異性があったと結論づけた。これは京都画壇においても特異な位置を占めている。
著者
水光 正仁 榊原 陽一
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、生理機能の不明なオーファン硫酸転移酵素(SULT)のSULT4A1およびSULT7A1の生理機能解明と生体シグナルの変換・伝達への関与解明を目的に研究を行った。SULT4A1に関しては、ゼブラフィッシュ胚を用いた発生段階での遺伝子発現解析を行った結果、神経系の発生・発達において機能を担っていることを明らかにした。一方、SULT7A1に関しては、基質特異性を検討して、シクロペンテノン型のプロスタグランジン(PGA2や15d-PGJ2)の硫酸化を明らかにした。以上のことから、SULT4A1およびSULT7A1の生理機能と生体シグナルの変換・伝達への関与を明らかにすることが出来た。
著者
金泉 志保美 牛久保 美津子 牧野 孝俊
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

医療的ケアを必要とする小児の親が在宅療養を選択し意思決定する過程およびその影響要因を明らかにすることを目的とし、両親11名への半構成的面接のデータを質的帰納的に分析した結果、母親への面接データからは53のカテゴリが生成され、様々な不安や葛藤から、児の状態を受け入れ、児に対して感じる愛情から在宅養育の決定に至る過と、影響要因が明らかとなった。父親への面接データからは44のカテゴリが生成され、そのうち28カテゴリが母親と共通していた。
著者
松山 雅子 土山 和久 住田 勝 井上 博文 畠山 兆子 香山 喜彦 羽田 潤
出版者
大阪教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

現職教員向けメディア学習実践理論書と学習ソフトをセットした『自己認識としてのメディア・リテラシーPARTII』(学習ソフトDVD付)(松山雅子編著・香山喜彦プログラムデザイン、畠山兆子、羽田潤、粟野志保、増田ゆか、松尾澄英、土居安子分担執筆)』(教育出版、2008年8月20日、全262頁)を刊行し実践現場に寄与するべく、平成18年度から継続的行ってきた学習プログラム試案とそれに基づく小中学校および大学におけるパイロット授業、学習者反応の検討、現職研修ワークショップと指導者反応の考察を行った。
著者
西海 理之
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

高圧処理によって筋肉内結合組織は軟化し、特に筋周膜および筋周膜-筋内膜接合部のコラーゲン線維の脆弱化が明らかになった。また、高圧処理に伴うコラーゲン分子の分解は認められず、コラーゲン分子の会合もしくはコラーゲン細線維同士の接着の解離が示唆された。したがって、高圧処理は、コラーゲン分子を分解するのではなく、コラーゲン分子やコラーゲン細線維の会合状態を脆弱化させ、筋肉内結合組織の軟化に結びつくことが推察された。
著者
前田 英雄
出版者
鳴門教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究では家庭科の食物分野の4つの教材を開発し、授業実践を行った。また、社会人に対して教材を用いて公開講座を行った。平成16年度は2つの教材開発を試みた。1)小麦粉のドウに油をつけてのばす麺教材:食用油以外、材料は通常の麺の材料である小麦粉、塩、水であり、食用油を用いて麺をのばした。この教材の大学生への授業実践は興味をもって取り組んでいたが、技術の習得には経験を要することが明らかになった。2)カラギーナンによるブラマンジェの教材:この教材開発ではこれまの教科書にあるプリンやブラマンジェでは見られない市販に近いものを作るため、プラステチックカップ容器を用意し、その上にアイロン熱でフィルムをシールしてラベルをつけたもの考案した。材料にはカラギーナン、牛乳、砂糖、コーンスターチを用い、フィルムにはパソコンで品名、原材料名、内容量、保存方法、賞味期限等をカラー印刷した糊付きラベルを自作した。これまでには見られない画期的なブラマンジェを試作できた。平成17年度は2つの教材開発を行った。1)温泉卵の教材:温泉卵の教材は実生活に実践できる教材であり、授業時間の中で温度計と時計をみながら、卵白と卵黄の熱変性温度の差を利用して行った。この教材は大学で授業実践を行った。2)簡単な十割ソバ打ちの教材:この教材の特徴は、ソバ粉と水を混合する際の水回しと均一に麺をのばす教具にある。水回しには安価な市販の竹ばさみを用い、麺を1.5mmにのばすために2本のアクリル横板を用いて学部、及び大学院の授業、及び現職の小学校、中学校、高校教諭を対象に授業実践及び研修会を行った。この教材は高く評価された。しかし、ソバを切る道具が高価である点やソバを細く切るのに技術を要する点が課題として残された。平成18年度は、附属中学校で授業実践を行った。生徒が簡単にソバを切れる道具の開発が必要とされた。そこでステンレス棒にステンレス板の薄い板とスペーサを用いて簡単に押し切りする道具の試作を行った。しかし、ソバ板は水分が少ないため、試作したそば切りの道具についてはさらに改良の余地が残された。以上、3年間の教材開発の成果と問題点を要約した。
著者
太田 正穂
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

一塩基多型(SNP)は法医DNA鑑定で利用価値が高い。本研究は識別能の高い3対立遺伝子性(Tri-allelic) SNPsを25種類選出し、ダイレクトシーケンスにより各アリルの遺伝子頻度を求めた。多型情報はPDが0.99999999999997、PEは0.99885を示し、高度な鑑定能力を示した。SNaPShot法によるmultiplex を用いた検出では、判定の条件設定、エレクトロフェログラムの判読の煩雑さから、法医実務での実用性が得られなかった。また次世代シーケンサーを用いた混合試料のTri SNPs解析は、定性・定量性において精度の高い結果を示し、混合試料解析における有効性を示唆した。
著者
安田 彰
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では,従来の3相モータの各コイルを複数に分割し,この分割したコイルを我々が提案しているデジタル調節駆動技術を用いて駆動することにより,低電圧電源で高出力・高効率なモータを実現した.また,分割した各相のコイルをノイズシェーピング・ダイナミック・エレメント・マッチング法(NSDEM)を適用することで,コイル間の素子値や位置ばらつきの影響の低減を実現した.さらに,回転磁界を発生させる際に,各相全てのコイルすべてを選択対象とする新しいNSDEMを提案し,各相間のばらつきの影響も低減することを実現した.これらにより,低トルク変動のモータを実現することが可能となった.
著者
石澤 公明 菊田 淳 高橋 知美 岡 唯理 内山 晃司 佐藤 愛湖 鈴木 亮介
出版者
宮城教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

小学校から大学までの共通植物教材として,ファストプランツ(FP)を使用した学習プログラムを開発した。それには、FPの自家不和合性を利用した他家受粉と自家受粉の種子形成率の違い及びアニリンブルーやコットンブルーで染色された花粉管が花柱から胚珠に達する様子の顕微鏡観察等から受粉と受精の違いを学習すること,また,主根成長に対する塩ストレスや重金属イオンの効果,紫外線による子葉成長の阻害効果,植物栄養と成長の関係等の解析が含まれる。小・中学校でのFPを使った授業実践では,生徒が自分の手で短い期間で栽培できることから,植物の成長や生殖に理解を深めることが出来る優れた教材であることが示された。
著者
今江 禄一 中川 恵一 山下 英臣 芳賀 昭弘 竹中 重治
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では放射線治療中の対象内の治療中のcone beam CT(CBCT)画像を取得可能であるガントリ回転型の強度変調放射線治療法を用いることによって,簡便かつ低侵襲に治療中の対象内の構造を同定し,治療装置の照射記録を用いることによって実際に標的に与えられた吸収線量および対象内の線量分布(実線量分布)を構築することを研究期間内目標とした.本研究の達成により実線量分布の評価法が構築され,放射線治療による腫瘍制御や正常組織のリスクの正当な評価につながる.
著者
藤井 恵子 藤井 智幸
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

近年日本人に不足しがちなミネラルや食物繊維を豊富に含み、また、食物アレルギーの主要原因食物(小麦、牛乳、卵など)を含まないパンが求められている。本研究ではアマランサス粉、ホワイトソルガム粉、もち粟粉とうるち粟粉をブレンドしパンを調製した。製パン性を検討した結果、ホワイトソルガム粉にアマランサス粉を25%混合したところ、ホワイトソルガム単独パンに比べ軟らかく内相にべたつきが認められた。もち粟粉とうるち粟粉の混合割合を変化させるとパンの比容積はほとんど変わらなかったが、もち粟粉の比率が高いほど軟らかいパンとなった。官能評価においても、イヌリンや豆乳を添加したパンは有意に好まれた。
著者
黒須 充
出版者
福島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

日本とドイツは今、共通の社会的課題を抱えている。本研究の遂行に当たり、日独の様々なスポーツ団体や組織を訪問し、現場の担当者や研究者と多くの話し合いを持つ機会を得た。そこで得られた知見は、日独のスポーツクラブとも、公的な補助金・助成金を受ける権利、税制上の優遇措置、公的施設をわずかの使用料で利用できる権利などが認められている一方、それに対してスポーツクラブが社会のために果たすべき義務も有している。スポーツクラブは会員の利益のために活動するだけではなく、同時に参加しない「第三者」あるいは社会全体に対しても公共の福祉を促進するために活動していかなければならないということである。