著者
渡辺 祐子
出版者
明治学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

近代以降の日中関係にキリスト教がどのように介入したのかという研究課題に関しいくつかのテーマについて考察を行ったが、論文公刊という形で成果を発表できたのは、「20世紀初頭の中国人学生留日事業とキリスト教のかかわり」および「日本人キリスト教宣教師の満州伝道」のふたつである。前者はキリスト教超教派組織YMCAが中国人留学生事業を通じ日中交流を積極的に担ったことを明らかにし、後者は戦後礼賛されてきた旧満州熱河地方における日本人宣教師による中国人・蒙古人伝道が、軍の宣撫活動の一端に明らかに位置づけられていたことを検証しつつ、この伝道事業を1860年代にはじまるプロテスタント満州伝道史にどのように位置づけるべきかを論じた。
著者
澤田 和彦
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究は以下の論点に沿って進めた。1 プチャーチン提督の秘書として長崎に来航した作家ゴンチャローフの『日本渡航記』にうかがわれる、ロシア人の観た幕末の日本及び日本人観 2 日本最初のプロのロシア語通詞・志賀親朋の生涯と活動 3 市川文吉、黒野義文、二葉亭四迷、川上俊彦など、東京外国語学校魯語科関係者のロシアとの関わり 4 コレンコ、グレー、ケーベルといったロシア人教師や、ピウスツキ、ラッセルのような亡命ロシア人、ポーランド人の日本における事跡と日本観 5 日露戦争 6 1917年のロシア革命後に来日した白系ロシア人の事跡調査最終年度に論文集『日露交流都市物語』(成文社)を刊行した。
著者
八幡 雅彦
出版者
別府大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

日本では北アイルランドの小説は演劇と詩に比べて研究されることが少ないが、ジョージ・A・バーミンガムとグレン・パタソンを中心に北アイルランド小説の研究を続け、その普遍的な意義と価値を解明した。バーミンガムの多くの作品は、深い意味を持たない軽いユーモア小説と見なされる傾向にあるが、実際には彼の深いキリスト教的寛容と博愛に基づいて、人間同士の融和に必要なものは何かを訴えかけている。一方、パタソンの小説は、北アイルランドのナショナリスト(アイルランド派)とユニオニスト(イギリス派)の対立というローカルな問題を描く一方で、北アイルランドの持つコズモポリタン的な普遍性を示しているということを実証した。
著者
伏見 譲
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

耐熱性T7RNAポリメラーゼを用いて1.4Mトレハロース存在下で50℃の等温過程でDNA/RNAを増幅する系を構築した。この系で、A, T, Gの3塩基からなるランダム領域を含み3SR増幅機構をコードしたライブラリーを初期プールとして、適応度を比増殖速度とする自然淘汰型進化リアクターを運転した。勝ち残る配列はランダム領域がAT-richとなる傾向を示す。また、以前からしばしば観測された、より速い増幅機構であるRNA-Z増幅機構をコードした突然変異体が進化してくることはなかった。また、T7プロモータの50℃の最適配列をRNA-Z法進化リアクターを用いたin vitro selectionで求めた。37℃の野生型プロモータとハミング距離2だけ離れた配列であった。in vitro virusのゲノムに載せるべき初期ランダムライブラリーは、終止コドンを含んでいてはならず、また、対象に応じてアミノ酸組成が自由に設計できることが望ましい。DNA合成機を3台並列に運転してスプリット合成するMLSDS法は配列多様性が10^<16>に達する。このライブラリーの実際の合成物を複数種いろいろな評価関数で評価しその高品質なことを確認した。また、長鎖化法を検討した。人為淘汰型や自然淘汰型の進化リアクター中で、富士山型やNKモデル型などの適応度地形を山登りするダイナミクスを理論的に研究した。突然変異率と集団サイズで決まるゆらぎの効果を「進化温度(T)」というパラメターで表す。いずれの地形でも、Tが高いときは、歩行者は適応度(W)最大を目指すのではなく、「自由適応度(G)」の最大をめざすというリャプノフ関数Gを定義できる。また、獲得したシャノンの意味の情報量(情報のextent)以外に、ΔW/Tは獲得した適応度情報量(情報のcontent)、ΔG/Tは進化の過程で獲得した生命情報の量、という解釈ができることがわかった。以上を統合して、生存アルゴリズムを自動的に創出する人工生命というべき自律的に進化するin vitro virusを実体として構築するまでには至らなかった。
著者
村瀬 延哉
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

ピエール・コルネイユの中・後期の戯曲を検討し、作劇法の特質と変遷を明らかにした.所謂四大傑作に比して、それ以後特に1660年頃までの作品に目立つのは、ロマネスクなものへの強い志向である.つまり、作者は、傑作悲劇の長所である人間心理の正確かつ迫真の描写を犠牲にしても、観客を驚愕、感嘆させるストーリーの展開、山場の設定にドラマツルギーの重点を置いた.その典型的な例が『ロドギュンヌ』であって、最終幕の毒杯の生み出す視覚的サスペンス等によって大成功を収めるが、登場人物の心理面には明らかな不自然さが存在した.また、『ニコメード』などのフロンド期の作品では、こうしたロマネスク性に加えて、現実の事件、人物を作中て暗示する時事性が、観客の好奇心に大いに訴えた.劇壇復帰作となる『エディップ』においても、自由意志の尊厳を認めるコルネイユ的世界と宿命の悲劇であるオイディブス伝説の間に存在する本質的な矛盾を、悲劇を,サスペンスをメインに据えた娯楽作品に仕上げることで解消し、成功を博した.晩年の特に『オトン』以降の作品では、「政略結婚劇」とでも呼ぶべき構成が主流を占めるようになり、先祖返りつまり初期喜劇の手法への回帰現象が見られる.また、一種のリアリズム志向が『ソフォニスブ』、『オトン』等で顕著となる.加えて最晩年の作品に至ると、ラ・ロシュフーコーの『箴言集』を思わすペシミスティックな世界観が戯曲を支配するようになって、それが作劇法にも影響を与える.古典演劇理論の観点から言えば、コルネイユは「真実らしさ」より「真実」を重視する異端派である.彼はこうした立場に立つことで、『ロドギュンヌ』など中期作品でのバロック的異常美の追求や、後期作品におけるリアリズムの追求を正当化しようとした、と考えられる.
著者
和田 信 明智 龍男 柳原 一広 大西 秀樹
出版者
埼玉医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

外来にてがん化学療法を受ける患者の必要としている支援(ニード)を把握するため、質問票を用いた調査を行った。SCNS-SF34(ニード評価尺度)、EORTC QLQ-C30(QOL 評価尺度)、HADS(不安抑うつ評価尺度)の各日本語版を含む質問票に対し、埼玉医科大学国際医療センター通院治療センターで222 名、名古屋市立大学外来化学療法室で216 名の患者から、有効な回答を得た。
著者
前田 英樹 長田 佳久 鈴木 清重
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は、映像の鑑賞者が被写体の身体動作を表現する動画像系列を視聴した際にどのように美しさを認識するか検討することであった。実験的研究の結果より、各動画像提示の開始と終了時に画面枠が被写体を遮蔽する割合に応じて鑑賞者の知覚する事象が変化することが示唆された。画面枠の被写体遮蔽率に起因する被写体の未完了動作に応じて、動画像間に見え方のまとまりが生じる。この動画像間の知覚的群化(動画像群化)が、身体動作表現の映像美に影響すると考えられた。
著者
奥野 拓 伊藤 恵 大場 みち子
出版者
公立はこだて未来大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

ソフトウェア開発においては多くのドキュメントが作成される.しかし,ワードプロセッサ等で作成した場合,トレーサビリティの低下,メンテナンスコストの増大という問題が発生する.この問題を技術文書向けの XML 標準である DITA を導入することにより解決している.ソフトウェアドキュメントを DITA の構成要素であるトピックとして記述するために, 標準的なソフトウェアドキュメントの構造化モデルを作成し, トピック粒度の検討を行った.また,意味的な関連性によりトピックを検索する手法を構築し,DITA に基づいた統合ソフトウェアドキュメンテーション環境を汎用ウェブ CMSを拡張して構築した.
著者
宮原 三郎 湯元 清文 廣岡 俊彦 河野 英昭 リュウ フイシン 渡辺 正和 吉川 顕正
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

中性大気の変動と電離圏変動の関係を,九州大学中層大気大循環モデルで得られたデータと九州大学が展開している全球的な地磁気観測データや,中性大気再解析データを用いて研究を行った。成層圏突然昇温の後に顕著な電離圏電流の変動が起こることが,観測データとモデル計算によって明らかとなった。また,成層圏突然昇温の後に電離圏電流が流れる高度領域の温度が全球的に降下することがモデルにより明らかとなった。この原因は半日大気潮汐の急激な変動によることも解明された。中性大気変動にみられる超高速ケルビン波の変動による電離圏電流の変動は赤道から低緯度域に限定され,大気潮汐波変動によるに変動の25%以下であることが判った。
著者
宇野 力 平田 賢太郎 鈴木 正明
出版者
秋田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

統計的な推測の問題の中には、あらかじめ定めた標本の大きさでは解決できないものがある。例えば、ある母集団の平均に対する信頼度95%の幅一定の信頼区間を構成する問題がそれに該当する。この場合には、標本の大きさを確率的に与える逐次標本抽出法により問題を解決できる。本研究では、分散の下限情報が与えられたとき、二段階法という推定方式の性能を評価することに取り組み、先行研究よりも精確に評価する理論を構築できた。
著者
鈴木 健司 松田 康伸 山際 訓
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、クローン病患者のQOLを著しく損なう原因である腸管狭窄症に対する新規治療法として、究極の分子標的治療と呼ばれるRNA干渉技術を用いたsiRNAの腸管粘膜下注入療法を、動物実験モデルに対する実験により開発した。研究成果として、消化管狭窄症の原因遺伝子に対する特異的RNA干渉薬「STNM01」によるクローン病狭窄症新規治療法をステリック再生医科学研究所と共同で確立し、平成24年1月より第I相臨床試験を開始するための基礎データを得ることができた。
著者
菊池 聡
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

適応的な機能持つ認知バイアスの影響によって疑似科学や超常現象への信奉が強化されるという仮説を、実験的方法と質問紙法で検証した。その結果、確率的な現象に対するコントロール幻想と超常信奉の一部に正の関連性が示されたが、課題や対象群により、結果は一貫したものではなかった。また、高校生では科学への好意的な態度が超常現象信奉と正の関連があったが、学校教員では負の関係になることが示された。これらの結果を批判的思考の教育現場に還元するために書籍にとして出版した。
著者
田北 廣道
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、ドイツ化学工業を舞台とした認可闘争において参加主体とゲーム・ルールの双方で1880年代が一大分岐点をなすことを明らかにし、Uekotter(2007)やBayerl(1994)が主張する「環境史の分水嶺としての第二帝政期」や「大工業の序曲」の所説を再確認した。主要な成果は、1)科学技術の素人集団である「地区委員会」が審査窓口となったこと、2)現地状況に代わり科学技術が審査基準となったこと、3)認可闘争は下火に向かったこと、の3点に要約できる。
著者
桝 飛雄真 東屋 功
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究は、有機結晶における結晶多形現象を積極的に利用し、結晶のキラリティー制御を実現することを目的とした。水素結合性部位を有する芳香族スルホンアミド等を合成し、キラルな結晶多形が生じる例を見出した。また嵩高いアダマンタン骨格をコアに持つフェノール性分子とピリジン誘導体を共結晶化し、らせん型連鎖構造の形成を行った。またイミダゾリウム系イオン液体において、冷却時に発現する準安定結晶構造と、その熱的挙動を明らかにした。
著者
佐藤 進 内田 勝 河村 希典
出版者
秋田県産業技術センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

新規液晶光学デバイスの実現を目的として、インピーダンス回路網モデルによる液晶分子配向のシミュレーション法を開発し、様々な液晶光学デバイスにおける光学特性のシミュレーション解析を行った。また、サブ波長強誘電体ナノ粒子の分散配置を行い、電極と液晶層間に誘電率やインピーダンスが分布している層を形成した液晶セルを構成した。電極間に電圧を印加した時に液晶層に誘起される実効屈折率分布や光学特性を測定し、プリズムやレンズ効果等を得ると共に、種々の光学デバイスを提案することができた。
著者
西尾 信彦
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

データセンターにおいてホストの台数を増やすことでその分だけ性能を向上できるグラウド技術を、クライアントホストのLAN内にホストを増やすだけでプロセッサ性能とメモリ容量を容易に向上できるように拡張することを目標に、近年需要が爆発的に拡大しているWebアプリケーションをターゲットとしてそのタブを傍らのホストの台数に応じていくら増やしてもプロセッサ性能、メモリ性能が低下しないような実行環境をChromeブラウザを拡張することによって実現した。またこのブラウザの拡張機能を用いてWebブラウズの履歴を分析可能にし、Web閲覧時の個人特化された機能の実現にも寄与させた。
著者
宮崎 育子 浅沼 幹人 中村 一文
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

農薬でミトコンドリアComplex I阻害剤であるロテノンを慢性皮下投与したラットを用いた検討により,ロテノン神経毒性は中枢よりも末梢神経の方が脆弱であること,また中枢神経系と同様に,腸管神経叢周囲にもGFAP陽性アストログリアが存在し,ロテノン神経障害発現に伴って,GFAP陽性アストログリアの活性化が惹起されることを明らかにした.初代培養細胞を用いた検討により,ロテノン神経毒性発現にはアストログリアが関与しており,とくに中枢神経系においては,ロテノン曝露により中脳アストログリアから特異的に分泌される何らかの因子がドパミン神経障害を惹起すること,さらに抗酸化分子メタロチオネインがこのドパミン神経障害を阻止しうる分子であることを見出した.
著者
荒牧 草平
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

教育達成に対する拡大家族(祖父母やオジオバ)の影響について、全国規模の社会調査データを用いて分析を行った。その結果、性別や年代にかかわらず、親の影響をコントロールしても、拡大家族の直接効果が観察された。これらの効果が、日本の伝統的な家族制度を背景とした、拡大家族成員から子どもへの直接的な影響(経済資本や文化資本の伝達)をとらえているという理解は分析結果とは整合しなかった。むしろ、彼らが親の準拠集団となり、子どもに対する親の教育期待形成に影響することを表していると解釈するのが妥当だと考えられた。
著者
永沼 充 横山 章光
出版者
帝京科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

動物を模したエンタテインメント用ロボットを遠隔操作することにより、高齢認知症患者のリハビリテーションをメンタルな側面からサポートするシステムを提案し評価した。療法士が操作するシステムではタイムリーなレスポンスにより患者との間に関係性を築くことにより生き物感を醸成し、患者自身が操作するシステムではリハビリに対する患者の自発性を誘発することに狙いがある。いずれも、高齢者施設での試行によりその有効性が示された。
著者
西川 郁子
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

タンパク質の代表的な翻訳後修飾であるリン酸化を対象に、サポートベクターマシンを用いた機械学習により修飾部位を予測した。対象部位をドメインと天然変性(ID)領域に分けて取り扱った点が新規であり、ドメインではアミノ酸配列情報のみで十分予測可能だが、IDでは部位特異的な進化的保存度情報が有効であった。配列保存性が低いIDにおいては部位ごとの保存度は非一様であり、リン酸化部位、その中でも機能性が明確なリン酸化部位での保存度が髙いことが分かり、翻ってそれらの予測に有効であった。