著者
山井 成良 岡山 聖彦 河野 圭太 中村 素典 民田 雅人
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

よく用いられている迷惑メール対策手法として,宣伝や詐欺のためのURL(誘導先URL)に着目したフィルタリング技術がある.ところが,最近では誘導先URLの頻繁な変更など,同技術を回避する手法が横行し,その対処が急務となっている.本研究では誘導先URLに含まれるドメインの登録日やそのドメインを管理するDNS(ドメイン名システム)サーバの挙動など,迷惑メール送信者が本質的に回避しにくい特徴に基づく迷惑メール対策手法を確立した.
著者
小牧 幸代
出版者
高崎経済大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

南アジアのムスリム多住地域で観察されるイスラームの聖遺物の複製化・商品化現象は、前近代的で呪術的な信仰の残滓ではなく、9.11以降のインド・パキスタンでよりいっそう激しくなった異なる宗教運動間の対立状況と、近隣諸国・欧米諸国などとの政治経済外交関係の変化という文脈において捉え直すべきものである。したがって、「マテリアル・イスラーム」の傾向は、イスラームの「原理主義」的傾向に対抗して顕在化すると考えられるのである。
著者
佐々木 建昭 櫻井 鉄也 加古 富志雄 稲葉 大樹
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

近似イデアルに基づいて近似グレブナー基底の理論を構築し、部分終結式様の理論を作成して厳密用算法を浮動小数で実行する場合の不安定性を解明し、ブッフバーガー算法を安定化して近似グレブナー基底の構成算法を呈示した。微小摂動のため多変数多項式イデアルの次元が減少した系として近似特異系を定義し、次元を元に戻す操作として近似特異系の特異化の算法を考案し、近似特異型の悪条件代数方程式系の良条件化法を与えた。線形制御理論で近似無平方分解・有効浮動小数・近似因数分解の有用性を示した。モデルに基づく開発への利用を念頭に、パラメータ係数の疎な線形方程式系の誤差低減解法と系の特徴抽出法などを提案した。
著者
木村 凡
出版者
東京海洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

日本では、最近、明太子、イクラなど非加熱で食べる水産食品の一部がL.monocytogenesにより汚染されている実態が報告され、申請者らの最近の研究でも確認されている。本研究では、非加熱喫食水産食品に絞り、L.monocytogenesの分布検出調査を実施し、分離した食品分離株の諸性状および水産食品中での増殖性や生存性を調べることにより、水産食品での本菌のリスクに関する基礎知見を得ることを目的とした。平成18年度研究では、汚染実態調査、菌株の分離とともに、基本的な菌株情報を得ることを目的とした。市場流通している水産食品のなかから、すでに実施した調査により高頻度でL.monocyto-genes汚染が認められた明太子、いくら、ネギトロなどについて、網羅的に分布調査、および、菌株の分離を実施した。また、L.monocytogenesの検出は、minividas法(AOAC公認法、免疫法にもとづく)により検出された陽性サンプルについて、鑑別培地塗抹→典型コロニーの同定(公定法に準じた試験に加えてAPI,PCR確認)を実施した。さらに、分離株について血清型、基本的遺伝性状をあきらかにした。平成19年度研究では、平成18年度に引き続き、菌株の病原遺伝子性状等の精査や菌株のタイピング識別法の開発を行なうとともに(病原遺伝子inlAの精査、リステリアの簡易遺伝子タイピング法の開発等)、L.monocytogenesの水産食品中や製造環境等での増殖(ネギトロで5℃保存での増殖試験)や生存性評価(環境でのバイオフィルム形成能試験)への基礎データを得た。これらの結果を踏まえて、水産食品中におけるリステリア・モノサイトゲネスのリスクについての基盤的な知見を整理した。
著者
畑野 相子 北村 隆子 安田 千寿
出版者
滋賀医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、認知症高齢者の行動・心理学的症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia :以下 BBPSD とする)に対する非薬物療法として、赤ちゃん人形を用いたケア(以下人形療法とする)を展開し、その効果を科学的に実証することを目的とした。様々な BPSD を有する高齢者に人形療法を行い観察した結果、焦燥感や暴言・暴力の緩和に最も効果があった。人形に対する態度や言葉を分析した結果、人形の意味として(1)現在と過去の自分の存在をつなげる役割(2)気持ちの移行対象(3)高齢者自身が能動的に働きかけができる存在であることが示唆された。また、療法のポイントは、(1)高齢者が好みの人形を選択できること(2)導入は、自尊心に配慮して、対象者のために人形を準備したのではなく、セラピストの人形として提示すること(3)人形と高齢者の目線をあわせること(4)人形を渡し放しにするのではなく、療法として人形を用いることである。共通して好まれた人形は、目が開眼しているまたは開閉することであった。
著者
三町 祐子 齋藤 公明 久保田 富雄
出版者
名城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

ディオファンタス近似理論においてLittlewoodの予想というものがある.n個(n【greater than or equal】2)の任意の実数の,ある種の同時近似問題である.さて,Littlewoodの予想は,n=2の場合に帰着されることがわかっている.そこで,2つの実数が共に2次無理数であるときに,上記の予想に近づくことが本研究の目標であった.平成10年度は,H.Dickinsonの方法(1993,1994)を用いてのアプローチを試みた.同時あるいは非同時の1次形式についてのある種のディオファンタス不等式とエルゴード理論でいうnatural extension, skew pruduct, substitution等を組み合わせるものであったが,これはうまくいかなかった.平成11年度は,Minkowskiのconvex body theoremに基づいた類似の不等式を用いてのアプローチを試みた.この不等式はMinkowski,W.M.Schmidt等によって提示され,さらにCassels, Davenport, Mahler等によってその評価が改良されている.本研究では実数を2次無理数に限定することにより,両者のある種の展開における周期性を用いることができた.このことと,既に得られている結果によって,同不等式の評価を改良することができると思われる.
著者
若松 昭子
出版者
聖学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

アメリカの図書館学者ピアス・バトラーについての研究は、従来、シカゴ大学時代の彼の著作を中心に考察されてきた。本研究では、バトラーの書誌学者としての実践にも注目しその意義を考慮しつつ、彼の図書館学をメディア論の観点から再考した。バトラー図書館学の具体的・実証的な裏づけのために、シカゴ・ニューベリー図書館において彼が構築したインクナブラコレクションを分析した。その結果、バトラーが収集した当該館のインクナブラは、15世紀ヨーロッパにおける印刷術の出現と普及、ならびに近代的書物の形成過程を示す代表例であったことがわかった。即ち、バトラーは、15世紀後半のヨーロッパの様々な印刷所の代表的図書を集めるとともに、活字体の変遷を示す様々な活字の実例、あるいは標題紙、ページ付け、目次、索引などの印刷本特有の機能の発展段階を示す実例などを優先的に収集し、体系的コレクションを構築した。また、バトラーは印刷術発明と普及の影響を、書物形態の変化という分析書誌学的な興味からばかりではなく、多様な思想の表現、近代科学の発展、学術出版の広がり、著作者の権利意識の高揚、母国語出版物の普及による言語の標準化、等々の社会的・文化的な変化としてより広範な視野から捉えようとしたことがわかった。バトラーの図書館学の基礎にあるこの書物観は、20世紀後半のメディア論、つまり印刷術発明の社会的・文化的な影響を人間精神や社会構造の変化として解明しようとする視点と共通する。バトラーによる書物の社会史的な論考は、今日の研究と較べると論証性や実証性に不十分さが見られるものの、書物を社会史との関わりで捉え、印刷術の発明をメディアコミュニケーション革命として位置づけようとした今日のメディア研究と同様の視座を持つ、先駆的存在と位置づけることができる。
著者
小林 恵美子
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、未成年大学生が飲酒、喫煙をするか否かを合理的に判断する背景について、次のことを実証した。飲酒に対する社会的制裁と非飲酒に対する社会的報酬の推定値は抑止要因として、そして、飲酒に対する社会的報酬と非喫煙に対する社会的制裁は促進要因として作用していることが明らかになった。さらに、飲酒、喫煙に対する「制裁>報酬」となった時にこれら違法行為を自重すること、また、非飲酒に対する「制裁<報酬」となった時に飲酒を自重することが示された。
著者
堀田 政二
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本課題では,あるサンプル集合(陽サンプル)と,その原点対象となる鏡像サンプル(陰サンプル)を一つのガウス分布で表現する分布を提案し,これらから導かれる統計的パターン認識手法を開発し,これまで発見的に拡張されてきた相互部分空間法や複数サンプルの同時クラス分類を効率的に行う手法を統計的に導くことを可能とした.これらの手法を画像認識,音声認識,動画像認識などの大規模データに適用して,その有効性を確認した.
著者
池田 哲夫 斉藤 和巳 武藤 伸明
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は、画像や映像などのマルチメディアデータの効率的な類似検索方法を開発することである。具体的にはBustosらのピボットによる類似検索方法を土台として類似検索方法を開発することである。類似検索方法として、Bustos法でのピボット集合要素の交換方法を改良した方法と、マンハッタン距離に基づく一般化ピボット法の2方法を提案した。2方法とも従来方法に比較して、類似検索性能、ピボット集合選択時間が優れていることを実験で確認した。さらに、実験対象データの性質を効率的に解析可能とすることを目的として、ネットワーク内のコミュニティ抽出方法と、ネットワーク可視化方法を複数考案した。
著者
中島 伸介 張 建偉
出版者
京都産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では,精度および詳細度の高いブロガー分析手法の開発を行った.さらに,情報発信者および情報受信者としてのブロガー分析に基づく,信頼性の高い情報の判定技術,トレンド情報の抽出技術,情報発信者のプロファイリング技術とこれに基づく情報推薦技術の開発に取り組んだ.成果としては,研究協力を頂いている企業において,本研究の成果の一部を実サービスにて活用していただくなど,技術の実用化という意味でも成果を上げている.特に,流行トレンドの早期発見方式に関する研究では,難関国際会議での論文採択や推薦論文としての学会論文誌への採択を受けると共に,国内研究会発表にて3度受賞するなど,学会においても高く評価された.
著者
本間 道則
出版者
秋田県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

微細な配向パターンを有する液晶セルの駆動電圧特性および応答特性を実験およびコンピュータシミュレーションにより詳細に評価し,駆動電圧および応答特性の改善効果について考察した。その結果,しきい電圧は配向の歪みの増加とともに減少する傾向が明らかとなり,配向パターンの周期のような構造的な因子によってしきい電圧が制御できることが確認された。さらに,微細なパターン配向は応答特性の改善にも寄与し,応答時間および回復時間がそれぞれ70%および50%改善されることが明らかとなった。
著者
足立 浩平
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

新たな母数モデル「データ=共通因子×負荷+独自因子×独自分散の平方根+誤差」に基づく同時因子分析を考案して,最小二乗法および重みつき最小二乗法のアルゴリズムを開発して,シミュレーションによる挙動の確認・実データ解析による有用性の例証と,高階数近似とみなせる数学的性質の考究を行った.開発したアルゴリズムの特徴は,データ・フィッテングの形をとりながらも,負荷行列と独自分散の推定には,データ行列がなくても標本共分散さえ与えられれば十分である点にある.以上に加えて,共通・独自因子得点の不確定性のあり方の研究と,それの推定値の算定法の提案も行った.
著者
赤嶺 依子
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

沖縄の老人福祉施設における高齢者の性に関わる問題についての対応を検討するための基礎資料を作成する事を最終目的として4つの研究課題に取り組んだ。その結果、保健学科学生を対象にした第1の研究では、男子学生、年齢の高い学生、看護コース学生、性体験のある学生の方がそうでない学生に比べ、高齢者の性に関する知識が多く、より積極的態度を示した。特別養護老人ホームのケアスタッフを対象にした第2の研究では、看護師は准看護師や介護士に比べ、高齢者の性に関する学習経験があるケアスタッフはそうでないスタッフに比べ、高齢者の性に対して肯定的イメージをもっていることが明らかになった。また、ケアスタッフにおける高齢者の性に関する知識、態度、イメージおよびそれらの相互関連を検討した第3の研究では、高齢者の性に関する学習経験がある者はない者に比べ、それに関する知識量が有意に多く、それに対する積極的態度を示し、肯定的イメージをもっていた。高齢者の性に関する知識量と積極的態度、知識量と肯定的イメージ、積極的態度と肯定的イメージの間にそれぞれ有意な関連性を認めた。最後に、高齢者の性に対する沖縄県老人福祉施設の認識と対応の実態調査の結果は、全国調査とほぼ同様であり、高齢者の性は肯定的に認識されていた。充実した性はQOL向上に役立つとし、性に関わる問題には高齢者の意思を尊重するなど理解ある対応が示された。しかし、性に関わる問題の発生率が全国に比べ若干高くなっている中にあって、高齢者の性の問題に対する教育や相談システムはまだ十分に整備されておらず、高齢者の性の問題に対しどのように取り組むべきか、具体的な検討をする段階にはまだ至っていないのが現状である。以上の結果から、高齢者看護および介護の専門教育現場においては性教育内容の検討と高齢者福祉施設においては高齢者の性の問題に対する相談システムの整備等検討していく必要性が示唆された。
著者
山本 眞理子 宮本 聡介
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

友人関係の進展に肯定的な期待を抱いているか否かによって,友人関係の広がりの速さや深さが違ってくることは想像に難くない.友人関係の発展に対する期待に顕著な文化差が存在すると,異文化間交流に重大な影響を及ぼすことにもなる.本研究の目的は,友人関係の進展に対して人々が持っているイメージ(メタ期待)の文化差を明らかにすることであった.3年間の補助金交付期間に,主に2種類の調査を実施した.調査の主たる目的は,自分とは面識はないが自分の友人と親しい関係にある他者に対してどのようなかかわり方を期待しているかを明らかにすることであった.第1の調査(学生食堂パラダイム)では,自分とは面識はないが自分の友人と親しい関係にある他者(Aさん)と学生食堂で偶然対面するという場面想定法をもちた.このときどのような振る舞いをするかを回答者に尋ねた.分析の結果,アメリカ人は日本人よりもその相手と親しい関係を作りたいと回答する一方,日本人はアメリカ人よりもその相手を避けようとする傾向が強いことが明らかにされた.第2の調査では自分の友人の友人とは親しい関係を作りたいというユニット志向と,友人の友人と自分とは別々の関係であると考える自律志向の概念を提出し,友人関係のメタ期待を測定する尺度を作成・検討した.分析の結果,友人関係志向には,ユニット志向,関係配慮,自律志向の3つのメタ期待が存在することが示唆された.このうちユニット志向は日本人よりもアメリカ人のほうが強いことが示された.以上の点から,友人関係のあり様に対する明確な日米差が存在することが示された.今後は,友人関係の維持および崩壊過程で,その関係にたいする振る舞い方の日米差を明らかにすることが期待される.
著者
長岡 鉄太郎 守尾 嘉晃 高橋 史行
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

PDGF、FGF、VEGFを抑制するTKIであるNintedanibの肺高血圧症(PH)治療薬としての有用性を検証した。ヒト肺動脈の血管内皮細胞と平滑筋細胞を用いて、内皮間葉転換(EndMT)と平滑筋細胞増殖に対するNintedanibの抑制効果と、PAHラットへの慢性投与の効果を確認した。Nintedanibは、平滑筋細胞の増殖とリン酸化ERK/AKTの発現を減少させ、内皮細胞のEndMT誘導を抑制した。PAHラットへの慢性投与により、肺血行動態と肺動脈中膜と内膜の増殖が改善した。以上より、NintedanibはEndMTと平滑筋増殖の抑制を介して新規PAH治療薬になり得ると考えた。
著者
曽我部 春香 森田 昌嗣
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、既存の河川標識が抱えている課題の整理を行い、考察・分析を行うことで河川標識が果たすべき役割を明確化した。そして、河川標識として適切な役割を果たし既存の河川標識が抱える課題を解決する河川標識の基本的なデザインルールの策定ができた。また、このデザインルールに則りケーススタディを実施することで、策定したデザインルールの実践における有効性の検証を行うことができた。また、デザインルールをベースに河川標識ガイドラインを作成したことで、河川管理者がガイドラインに従い多くの河川標識を設置することとなり、このような経緯で設置された標識の調査を行うことでガイドライン上の再整理を行うことができ、より実践の場で役に立つ河川標識ガイドラインの改訂版を発行することができた。
著者
品川 哲彦
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究はグノーシス研究、生命哲学、未来倫理、ホロコースト以後の神学など多様な面をもつヨナスの哲学的経歴を統合的に理解することを目的とした。その生命哲学に含まれる目的論的自然観、存在と善を結びつける形而上学、グノーシス思想と近代哲学に自然からの離反という共通の欠陥をみる指摘、神学的思索はいずれもそれだけをとれば価値多元社会の現代では反時代的と批判されやすい。しかしその哲学は、人間以外の自然のみならず人間自身が技術的操作の対象と化している現状への危機感の表明である。本研究は、英独で発刊された書籍に収録された二編を含む七編の論文、依頼講演二回の学会発表を通じて上記のヨナスの現代的意義を示した。
著者
前田 富士男
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

西洋絵画は近世以降、物語性に即して線描・明暗・色彩を統合して自然主義的な再現を実践してきた。しかし、1800年頃に始まる近代では、19世紀後半の印象主義の登場や20世紀初頭の抽象絵画の成立が告げるように、色彩表現が圧倒的に重要な役割を演じるようになる。しかし、こうした問題を絵画作品の構造問題として追究する試みは、従来なされていない。われわれが本研究で「色彩メディア」概念をあえて使用するのは、作品構造の変革に対応する色彩表現の変容を追究するためにほかならない。その意味で、本研究では、「オーバーラップ」をキー概念として提示する。印象主義時代に始まる点描やクロワゾニスムは、本質的には、色彩を重層化、オーバーラップする方法以外の何ものでもない。点描やクロワゾニスムについて、画面平面内のある色相と他の色相とのコントラストや視覚混合がこれまで重視されてきた。しかし、そうではない。ある画面層内における色彩の関係づけにとどまらず、その画面層と別種の関係づけをもつ他の画面層とを重ねることが重要なのだ。つまり、色彩の関係化の関係化が問題なのである。それをオーバーラップと呼ぶ。この方法は言い換えれば、画面層そのもののオーバーラップ、つまり、画面のポリフォーカス化を含意する。セザンヌからピカソに連続する表現革新は一般に、色彩とは無関係に論じられるが、そうではない。また、開かれた作品として特徴づけられる近代美術の特性も、色彩とは別次元で理解されてきたが、そうした理解も不十分なのである。本研究は、19世紀後半からの色彩研究の一次資料をドイツ・スイスにて実証的に調査し、その資料の分析にもとづき、色彩メディアのもつ絵画における特性を「オーバーラッブ」と統括し、色彩のオーバーラップこそ、近代絵画の作品構造の変革をも照らしだすとの、新しい視座を提起する。
著者
澁谷 治男 渡辺 明子 融 道男
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

パニック障害におけるコレシトキニン(CCK)の関与が、とりわけCCKB受容体の関与が推察される。その根拠としては、(1)CCKB受容体アゴニストを投与すると健康人、パニック障害患者で通常の発作に非常によく似たパニック発作を誘発し、その誘発率は患者群で高い。(2)CCKB受容体アンタゴニストをラットやサルに投与すると抗不安作用を示す。(3)パニック障害患者では脳脊髄液に含まれるCCK8が減少している。(4)in vitroの研究でパニック障害患者のリンパ球をCCK4で刺激すると細胞内Caの増加は健常人の場合より大きい。(5)第1度親族のパニック障害罹病危険率は健常人が0.9%であるのに対してパニック障害患者では13.2%、女性の発現率は男性の2倍であるなど遺伝要因が大きく関与する疾患である。このような所見はパニック障害がCCKB受容体の機能亢進にもとずく病態であることを推察させる。そこで本研究ではパニック障害患者のCCKB受容体遺伝子をセカンドメッセンジャ系に直接関与する細胞内第3ループを重点的に遺伝子解析を行った。解析に用いたパニック障害患者81人(男性41人、女性40人)である。血液10mlからDNA抽出キットを用いてDNAを得た。CCKB受容体のエクソン2、3、4の各部位のついてそれぞれオリゴヌクレトチドプライマーを設計しPCRを行った。PCR産物は1.5%アガロースゲルを用いた電気泳動によって増幅を確認した。PCR産物はフロムフェノールブルーおよびキシレンシアノールを含む色素バッファーにて2-5倍に希釈し、95Cで5分間の熱変性の後、直ちに氷冷し、アクリルアミドゲルにアプライした。4Cあるいは18Cの2条件で電気泳動を行った後、アクリルアミドゲルに銀染色を行いバンドを検出した。その結果、SSCPによってエクソン2において2例、エクソン3で9例、エクソン4で3例にバンドシフトを認めた。すなわち、これらの部位でのDNA塩基配列の違いがあることを示唆しており、今後ダイレクトシークエンス法によってゲノムDNAの塩基置換を検索する予定である。さらに変異のある遺伝子頻度をパニック障害者と健常対象者と比較検討する予定である。