著者
舟山 直治 為岡 進 佐藤 一志
出版者
北海道開拓記念館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究課題は、北海道における民俗芸能の伝承者や伝承・保存会の活動など無形民俗資料について調査し、それぞれのデータを集積し、分類した。また、民俗芸能に係わる道具類など有形民俗資料調査を道内の神社および博物館で実施した。これら道内の民俗芸能にかかわる有形・無形のデータを時系列に整理し、伝承の系統図を作成するための基礎資料を作成した。あわせて成果を公開するためのデータベース構築に向けて調査を行った。
著者
篠田 知和基
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

ヨーロッパ文学で頻繁に再利用される蛇女メリュジーヌ伝承が他の国の文学ではどう扱われるかを、まず各国の民間伝承し、および古説話からしらべて比較対照、ついで、ロレンス、アルフ ランクネールやルクトクに従って、中世フランス説話にその変容を求めた。ウォルター・マップシェルクユ、バティルビュリー、ジョクロワ・ドセールらの記録した説話がグラエランのL、ギンガエールのL、ラングァルのLなどを通して、特〓一白鳥説話と接合しながら発展してゆき、また妖精のみならず、悪魔の女との関係、あるいは、男性の精霊との関係も含んで語られるところから、のちの幻想文字の「悪魔の〓」(カゾント)などを準備していることが確認された。日本にはトヨタマヒメ説話の他、道成寺説話、近隣の女性などがあるが、それらをトヨタマヒメとヒメかヒメの二型に分類、ヨーロッパのメリュジーヌとレイシアあるいは「見知らぬ美青年」伝承と対比させた。さらには母神信仰や始祖伝承との説話から、トヨタマヒメやメシュジーヌの〓地を冥界に規定することもできた。ルイトゥの論文の翻訳もあわせておこなった。
著者
長島 弘明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

3年間にわたる研究の最終年として以下の知見を得、また上田秋成の作品の新目録や秋成の新年譜、新出の資料等を、成果報告書にまとめた。1.秋成の和歌については、これまた新出の『毎月集』(二本)を、従来知られる断簡類と詳細に比較し、自撰歌集『藤簍冊子』以後の、晩年の歌風を明らかにした。2.狂歌については、『海道狂歌合』の現存する全ての稿本、および多数の版本を調査し、諸稿の成立順を明らかにした。また、試みに、序跋を含む『海道狂歌合』の校本を作成し、秋成の狂歌や文章の推敲時における様々な特徴を明らかにした。3.俳諧については、俳諧活動を年次順に整理し、秋成と当時の俳壇との関係を考察した。その結果、若い頃は都市風の俳諧グループと関係が深く、特に小野紹廉やその門人たちとはもっとも深い交流を結んでいること、また、中年期の、蕪村およびその門人たちとの交友が、画賛制作に手を染める大きな契機となっていることを明らかにした。4.随筆については、晩年の一見国学的著述と見られる『神代がたり』が、晩年の秋成の意識に即す限り、国学研究書ではなく、歴史随想とでも呼ぶべきものであることを『胆大小心録』等との比較を通じて明らかにした。5.伝記に関しては、秋成の書簡を網羅的に収集・検討し、それぞれの書簡の年次を考証して明らかにするとともに、今まで書簡の年次が未詳であったために年譜に記載できなかった事項を、相当数、年譜に書き加えることができた。また、最晩年の山口素絢あて書簡2通を新たに発見し、晩年の転居の理由を知ることができた。
著者
伊藤 裕久
出版者
東京理科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究は、中世段階に宗教都市として大きく発展した伊勢国宇治山田を主な対象として現存する都市遺構と文献史料によって復原的分析を行い、中近世移行期の都市空間の成立・変容過程について考察したものである。分析の観点として注目したのは、都市共同体を組織し都市建設の主体となった御師集団の居住形態であり、御師屋敷の空間構成と都市空間との関係性について検討を加えている。また同様に御師町を構成した山梨県の上吉田・河口など、他の宗教都市についても比較検討を行っている。御師屋敷の空間構成については、前屋敷をもつ引込路型の御師屋敷群によって構成される中世的な集住形態から、接道型の御師屋敷が街道の両側に並列的に配置され両側町を構成する近世的な集住形態へと移行する過程が解明された。また、前屋敷を構成する町家型を主とした零細御師の集住形態が具体的に復原することで、零細御師の主家-家来関係などの点から、近世において町共同体を越えた広域的な御師集団のネットワークが形成されたいることが明らかとなった。以上から、宇治山田においては、中世郷村から自然形成的に生成された独立性の高い集落群(郷)が連結されることで、中世末には都市の居住領域を濠・木戸門などの構によって明確に区画した中世都市空間としての発達をみせること。そうした中世的達成を前提として、近世初までに中世末の有力御師家を核とした同心円的な空間領域が再統合されることで、表と裏で階層的な住み分けが計られた街道沿いの両側町を基本単位とする並列的な都市空間構造が成立することが判明した。中近世移行期の都市空間構造のもっとも大きな変化はこの点に求められると言える。
著者
栗原 敦 上野 英子 棚田 輝嘉 西澤 美仁 渡辺 守邦 野村 精一 佐藤 悟
出版者
実践女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

最終年度にあたる本年は、これまでの共同研究の集成として『伊東夏子関係田辺家資料』(調査報告)を編集・刊行した。この概要はI短冊の部翻刻(付脚注)II書筒の部翻刻(付脚注・解説)III田辺家資料リスト、の三項目からなる。このうちI・IIIについては本学文芸資料研究所「年報」を通じて報告したものをふまえて,補訂を加えて収録しているので,ここではIIについて概要を記す。ここでは、伊東祐命発信のもの三通・中島歌子発信十九通・三宅花圃発信三通・伊東夏子発信二通の,計二十七通の書筒について,翻刻と注・解説を行った。執筆年が不明であること,私的な内容であること等から分析は困難を極めたが、歌会や吟行・添削等の連絡や,借家や手伝い人の斡旋、裁裁の依頼等の日常的なつきあい,更には中島歌子周辺のごく親しいグループの存在を物語る記述にあふれていた。以上は、萩の舎に学んだ女流作家樋口一葉の日記の背景をなす,萩の舎塾の具体相の理解の一助となることであろう。
著者
木舟 正 吉越 貴紀 吉越 貴紀
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

約半世紀にもわたる努力の結果、最近になって漸く確立した超高エネルギーガンマ線による宇宙観測の全体像を把握すべく考察を試みるために、これまでに検出されたガンマ線天体についてのレビユー論文を作成し、宇宙の超高エネルギー現象についての今後の発展方向を展望した。銀河系内超高エネルギーガンマ線源の位置、広がりの大きさなどについて、ガンマ線強度の観測データが銀河河円盤内宇宙線による拡散ガンマ線などによって受ける影響の大きさ、データの取り扱い方の違いが解析結果に与える不定性があることを示した。
著者
田中 隆昭 陣野 英則 新川 登亀男 小林 保治 吉原 浩人 高松 寿夫 蔵中 しのぶ 松浦 友久 丹羽 香
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

2000年12月、研究所発足。2001年3月、周以量氏(現在中国首都師範大学副教授)、林忠鵬氏(現在客員研究員)を招聘、田中所長が加わり、早稲田大学で講演会。参加者約50名。2001年9月、二日間にわたり国内・海外研究員全員と北京大学の韋旭昇氏、北イリノイ州立大学のジョン・ベンテリー氏等を招聘して早稲田大学にて国際シンポジウム「古代日本・中国・朝鮮半島文化交流の新展開」。参加者約150名。この成果は近刊の『交錯する古代』(勉誠出版)に反映される。2002年7月、シンポジゥム「21世紀に向けての日中比較文学」を中国・長春市にて東北師範大学で共催。研究発表者日本側20名、中国側28名。参加者約200名。この成果の一部が2003年2月の『日本学論壇』に反映された。2002年11月、二日にわけて王宝平氏(浙江大学)・高文漢氏(山東大学)・孟慶枢氏(東北師範大学)・林嵐氏(東北師範大学)を招聘して、田中所長と石見清裕氏(教育学部)が加わり講演会。参加者約80名。こうした海外との学術交流と平行して、毎月一回『日蔵夢記』講読会を開催。本文整理・訓読・語釈・現代語訳を確定。この成果に関連する学術研究論文を加えて、近刊の『日蔵夢記大成』(勉誠出版)に反映される。また一方では日中比較文献目録の作成も進めているが、まもなく一定の成果を公表することが可能である。
著者
藤岡 穣 古谷 優子 森實 久美子 鈴木 雅子 三田 覚之 山口 隆介
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

日本の仏教美術に関する研究は、従来、絵画や彫刻といったジャンル別の研究が主流であった。本研究は、それに対して、異なるジャンル間の相互の影響関係、ジャンルによる表現の異同の様相などを明らかにしながら、ジャンルの枠を超えた総合的な研究を目指すものである。こうした研究は、短期間のうちに容易に達成されるものではなく、本研究ではまさにその端緒に着いたばかりであるが、今後も引き続きジャンルごとの研究成果の共有化をはかり、より総合的な研究を目指していきたい。
著者
黒野 弘靖 菊地 成朋 伊藤 裕久
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

日本の伝統的な街路や水路沿いの景観である、上越市高田の「雁木通」、柳川市の「掘割水路」、国分寺市の新田村「並木道」を対象とし、その景観を、住まいと公的空間との間で利用と所有の関係が調整された結果もたらされたものと捉え、それが現在まで持続してきた住み手の側の論理を把握した。屋敷地の利用、建物や樹木の配置に、住居と共用空間の相補関係が表れている。
著者
杉浦 隆
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

酸化チタンは、光触媒などの光機能材料として様々に応用されている。以前の研究において焼結体や単結晶の酸化チタン電極にフォトエッチング処理を行うことで結晶配向に依存した特徴的なエッチングパターンが形成されることを見出している。しかしその場合、表面処理の効果は数百マイクロメートルの厚さの電極の表面のみに限られ、薄膜電極をフォトエッチング処理できれば、光触媒などへも応用も可能となると考えられる。そこで本研究では、酸化チタン薄膜を作製する方法としてチタン板を熱酸化する方法を試み、薄膜の評価を行った。さらに作製した酸化チタン薄膜電極にフォトエッチング処理を行い、その表面構造や光誘起親水特性を評価することで酸化チタン薄膜の作製条件が及ぼすこれらの特性への影響についての検討を行った。フォトエッチング処理をした電極の表面SEM像から、薄膜電極の場合においても酸化チタンの結晶配向に依存したエッチングパターンが形成可能であることを見出した。フォトエッチング処理前後の電極の光誘起親水特性評価を行ったところ、ブラックライト照射下でフォトエッチング処理前の試料は2500分間の照射で限界接触角が70°であったのに対し、処理後の試料は120分間の照射で0°と超親水性を示し、短い照射時間で限界接触角が大きく減少したことがわかった。これはフォトエッチング処理により光誘起親水化しやすい酸化チタンの(100)面が選択的に露出したためであると考えられた。
著者
内田 吉昭 足利 正 鳥巣 伊知郎
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.内田は(1)三次組み紐と三橋結び目上分岐する三次元球面分岐被覆空間を結び目のダイアグラムを利用しで決定ずる方法を発見した。そしてそれらの空間がそれぞれレンズ空間L(n,1)とL(n,m)となる事を示した.(2)三次元球面内のトーラス結び目上分岐する分岐被覆空間の研究で次の結果を得た.非正規三重分岐被覆空間を持つトーラス結び目はT(2x,3y)(x,yは互いに素な整数)の型であり、その被覆空間はザイフエルトファイバー空間になる.そして、2xβ_2+3yβ_1=±1となる整数β_1とβ_2に対して M(β_1/2x,β_1/x, β_2/y) となるザイフェルトレファイバー空間が被覆空間となる事を示した.また、トーラス結び目T(2,x)、T(3,x)の族に対しては結び目のダイアグラムだけを使用する証明方法でM(β_1/2x,β_1/x,β_2/y)となる事を示した.2.足利は(1)リーマン面の退化族の局所不変量、位相モノドロミー、分裂族やLefschetz fibrationの大域的性質に関する進展についての概説を論文にまとめた.(2)退化代数曲線束のファイバー芽に対するエータ不変量を経由する局所符号数に対しては、その安定還元芽め持つ同種の符号数との比較公式を与えだ.(3)負型連分数を用いてDedekind和を明示する新公式を提示し、これからDedekind相互律が導かれることを示した.3.鳥巣は(1)Howards-Lueckの定理を絡み目に拡張した. また、二橋絡み目のstrong trivialityについて研究を行い、(自明でない)すべての二橋絡み目はn≧1に対してstrongly n-trivialとならないことを示した. (2) strongly 1-trivial Montesinos結び目の族を与え、もし、有名なSeifert surgery予想が有効ならば、この族はすべてのstrongly n-trivial Montesinos結び目を含む事を示した.また、(3)Legendrian twist knotの分類、写像類群とcontact open bookなどの研究を行った.
著者
土井 健司 宍戸 栄徳 柴田 久
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、成果論文「都市基盤整備におけるコンフリクト予防のための計画プロセスの手続的信頼性に関する研究」において、先ほど最高裁判決の出された小田急線高架化事業取消請求事件を事例検証している。さらに都市基盤整備を巡る訴訟判例の経年的整理よりコンフリクトを巡る問題の構図が明らかにされている。特に小田急線問題に象徴される環境アセス手続主体間の独立性を巡る課題やコンフリクトの象徴を明らかにし、長い計画期間を有する都市基盤整備が留意すべき公益性とリスク評価の捉え方を提示している。結論として、実体関係に基づく手続審査とソーシャルキャピタル論からの手続的信頼性の意義を再考し、アセスメント手法などの改善の必要性を示している。これに基づき成果論文「イギリスの政策評価におけるQoLインディケータの役割と我が国への示唆」において、コンフリクト予防のための政策アセスの取り組みについて先進事例を紹介している。またコンフリクト予防に対する実践的研究として、成果論文「QoL概念に基づく都市インフラ整備の多元的評価手法の開発」を行い、生活の質(QoL)の向上という長期的な目標設定と、市民の価値観の多元性を組み込んだQoL評価(総合アセスメント)の仕組みについて、その重要性が示唆されている。ここでのQoL評価は、総合アセスの骨格に過ぎないものの、相互の価値観の違いをQoL要素の重みの違いと理解したうえで、共通利益としての公益を探ることこそが市民相互の互酬性を育み、ソーシャルキャピタルの醸成、さらに結果として都市基盤整備をめぐるコンフリクト予防に繋がるという論証結果が一連の研究成果として示されている。なおこれらの研究活動は、土木計画学研究委員会 政策重点課題プロジェクトの研究成果として位置づけられるものである。
著者
古屋 充子 田中 玲子 米満 吉和 木村 定雄
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

炎症性背景をもつ発癌モデルとして内膜症と明細胞腺癌とにおける炎症性微小環境変化を解析した.G蛋白質共役受容体CXCR3を解析したところ,3つの変異体がヒト組織で確認された.定性解析の結果,CXCR3Aは内膜症,癌両者で上昇していた.CXCR3-altは癌で特異的に発現し,CXCR3Bは抑制されていた.CXCL11,CXCL4の発現パターンは各々CXCR3-alt,CXCR3Bと相関した.局在解析では,CXCR3-altは腫瘍血管に,CXCR3Bは正常血管や内膜症血管にシグナルが認められた.以上の結果,G蛋白質共役受容体CXCR3は変異体により発現組織・細胞が異なり,そのリガンド環境も疾患によって異なることが示唆された.CXCR3Bでは抑制性,CXCR3-altでは亢進性シグナルが作動すると予想された.今回期間内では変異体依存性シグナルと4回膜貫通蛋白(TM4)との関連を明らかに出来なかったが,今後は細胞レベルでG蛋白質共役受容体シグナルを介した浸潤・移動能調節機構にインテグリン/TM4がどう応答するか解析する予定である.
著者
渡部 幹夫 酒井 シヅ 杉山 章子 鈴木 晃仁 永島 剛
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

第二次世界大戦後占領下の日本において行なわれた、行政制度の法的な改正は多岐にわたる。GHQ公衆衛生福祉局サムス准将の主導により行なわれた保健医療制度の変革は、占領国の法律を超える積極的な予防医学的な法の精神で作られたようである。しかし今回の研究により、その法を実際に施行した日本の混乱と新たな問題の発生が明らかとなった。
著者
喜納 育江
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、アメリカ南西部における米墨国境地帯の文化的「境域」におけるチカーノとアメリカ先住民の文学について、これらの文学が、国境線で分断された故郷や大地とのつながりを求める先住民としての想像力を共有していることを明らかにした。特に、国内の研究成果が皆無に等しかったチカーナ文学の文学的想像力に注目し、チカーナと先住民文化の関係を明らかにする複数の研究論文を発表した。
著者
中垣 通彦 松本 龍介 堀江 知義
出版者
九州工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

この研究では、高自由度の挙動が可能な人工筋肉を実現させるため、微小アクチュエータを駆動要素とする知的複合材料の創成を目的とする。知的複合材料を構成する機能性材料として形状記憶合金、ピエゾ素子、イオン交換樹脂、液晶などが挙げられるが、後二者は出力が小さい。一方、前二者は比較的高出力を引き出す事が可能であり、実際に駆動素子として利用されている。ここでは駆動力の大きい形状記憶合金およびピエゾ材料を駆動材料として利用する。一般の駆動素子では、駆動の自由度は1自由度であり、それらを組み合わせたとしても数自由度に留まる。本研究では人工筋肉体に高自由度性を持たせるため、駆動素子を繊維化し、その体積分率と配向性を任意に分布させた柔軟複合材料として考えた。現在では機能材料素子そのままの発生ひずみは0.3%程度に留まり、生体筋肉などの100%近いひずみを発生させるには到底及ばない。本課題のもう一つの重要な要素としてひずみ増幅方法を考案する事が必須である。そこで本研究者らの構想である駆動素子を用いたユニモルフ/バイモルフばねを用いた。数値計算モデルによれば、ピエゾひずみの数十倍のばねひずみを発生させる事が可能となる。これにより自由度が高く大ひずみを発生する人工筋肉の構築が可能となった。本研究で最適な人工筋肉の設計が可能となる解析計算システムを開発した。これにより人工筋肉の創成のための労力、時間と予算を大幅に削除し、最適な材料仕様を決定する事が出来る。ソフトウェア本体には、知的複合材料のモデルを構築するために、微小なバイモルフ/ユニモルフばね素子を任意の体積分率と配向をもって分散させる事を可能とする、SCC-LRM粒子分散構成則モデルを用いた。本システムを用いて、より生体のシステムに近く血栓の発生の可能性が低い脈動収縮型の人工駆動動脈め基本動作の挙動を計算力学的に実施して示した。本研究の結果と関連する研究成果を国内外の学会において発表した。
著者
宮脇 博巳
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

遺伝子資源として,現在生物多様性は重要視され,かつて役に立たないと考えられていた生物にも注目されるようになった.しかし,皮肉にも急速に地球上から,不自然な形つまり,人間の活動により急速に絶滅が進んでいる.かつて,汚染源近くでの環境変化についての研究は多くなされたが,近年では人里の地衣類にも急速に異変が現れてきた.しかし,定量的な調査はなく,個々の研究者の体験的な発言が中心であった.今回の奨励金により1983年頃まではLecanora muralisの生存が確認された11箇所のうち,鳥取県若狭町と広島市旧広島大学キャンパス理学部一号館の屋上だけであった.そのうち,活力の指標とされる生殖器官である子器が確認されたのは後者だけであった.広島市以外は,近くに汚染源がなかった.一方,1945年の原爆投下にも耐えた広島大大学旧理学部1号館に大量のサンプルが採集されたのは,予想外であった.赤レンガ上ではなく,赤レンガを埋める戦前のセメントに限って生育している点は興味が持たれた.一方,共生菌の胞子発芽様式も研究した.基礎的なデータを蓄積し,分類群ごとに発芽様式に共通性があることが判明した.推察の段階であるが,この約20年間の間に大陸からの酸性雨等の影響により全国的に人里の地衣類であるLecanora muralisの生育が減少した.一方,旧式のセメントの上は,pHなど何らかの原因で共生菌の発芽を助長している仮説を得るまでにとどまった.
著者
近藤 勝直 西井 和夫 衣笠 達夫 長峰 太郎
出版者
流通科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

1.各種公益サービス事業の価格・組織制度の理論的整理:事業形態およびサービスの質,公共財と私的財の性格,そして事業展開エリア(国,文化)等の違いにより価格制度が異なる.また事業の目的関数(利益最大か収支均等か)によっても違いがある.本研究ではこれら各種の道路料金理論について総括的にレビューした.日本の高速道路の場合は基本的には公設公営であり,償還制度の元で価格(料金)が設定されるが,国際的にはバライエティがある.ただ,償還に用地費や建設費や資本費を含めると,償還後に矛盾が露呈する.これらを償還からはずしたとき料金水準はいくらになるか,またいくらにすればよいのかについて慎重な検討が必要である.本研究では,建設主体,資金提供者,運営主体,さらに建設後あるいは供用開始後一定期間後の移管,等々の形態についても考察した.2.新しい理念下での価格づけ:料金改定がままならない現在,かといって価格が低いと潜在需要が顕在化し「高速道路」はなくなる.では高速サービスを維持してゆくための水準を求めるために混雑料金や環境税の概念も導入する必要がある.そして,その理念が公共的であれば公的助成が正当化される.しかし高速サービスはあくまでも私的財であるので受益者負担原則が適用される.ここではTDMの観点からいくつかのプライシングについて理論的検討と計算による効果について検証した.(計算例については機会を見て公表の予定である.)
著者
野村 亜由美 本田 純久
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は, 2004年スマトラ島沖地震によって津波の被害を受けたスリランカ南部地区において, 60歳以上の被災住民25人を対象に,認知症を主眼とした津波被災後の日常生活の変化,健康状態などに関する聞き取り調査を行った.また被災地区に住む医師,担当政府官らから,津波被災前後の住民の精神被害の状況,経済状況や人口変動などに関する情報を収集するとともに,高齢者を対象とした地区活動に参加しながら,当該地区が抱えている問題と課題について分析を行った.分析の結果,被災地区の60歳以上の認知症発症率は1パーセントから2パーセント程度,認知症有病率については,津波後の人口流出などもあり数値にばらつきがあるが, 70歳以上の認知症テストMMSE(Mini-Mental State Examination)では,軽度の認知症疑いが15パーセントから17パーセントであった. MMSEの検査項目の内,特に得点が低かったのが月日や計算式の問いであったが,これらには文化的背景(教育歴,経済状況等)がバイアスとなって影響を及ぼしていると考えられるため,総得点だけから認知症疑いと結論付けるには注意が必要であり,更なる研究が必要であると思われる.津波被災前後の認知症の発症率・有病率の変化については,被災前のデータがないため明らかではないが,被災後の発症率については津波被災による心的外傷が原因となる明らかな増加は認められず,自然増加内に留まっていると考えられた.また本調査を開始した2006年以降,津波被害を要因とした住民の精神的健康度や身体的健康度には顕著な影響は認められず,心的外傷と認知症との間には関連がないと現段階では推測している.
著者
宮下 規久朗
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、1600年前後に初期キリスト教文化がいかに再評価されたかをあきらかにし、それが聖堂装飾をはじめとする当時のローマの美術活動に主題上・様式上いかに反映されたか、そしてそれが聖年における教皇庁や宗教団体の教義や政策、プロパガンダとどう関係したかを考察し、主要な画家の動向を追いながら、新たなバロック美術の誕生を促したメカニズムを総合的に解明しようとするものである。こうした調査によって、後期マニエリスムから初期バロックにいたる、イタリア美術史上もっともダイナミックな転換点の美術に、従来と異なる角度から光を当てることができ、また筆者が継続して行ってきたカラヴァッジョ研究にも、裏付けと深みを与えることができた。平成14年度は主として教皇庁における反宗教改革期の美術政策について研究を行った。反宗教改革期には、教皇庁の美術が当時の公的な美術様式と認定され、各教団の美術政策や個人の美術嗜好に強く影響していたからである。具体的には、16世紀から17世紀にかけての教皇権が、当時の欧米の歴史情勢の中でどのような政治的・社会的位置をしめていたのか、またそれが公的な聖庁であるヴァチカン宮殿と一族の居城であるパラッツォの美術装飾にどのように反映しているかについて調査した。平成15年度は、反宗教改革の国際的広がりという視点から、イタリア以外に普及した反宗教改革期の美術様式に注目した。また、わが国の禁教下から今日にいたるまでのいわゆる「隠れキリシタン」の美術については、その聖像(イコン)が存在するにもかかわらず、美術史上の研究対象となったことはほとんどなかった。しかし、キリスト教主題を持つ原図が閉ざされた社会でいかに変容し、異種の図像にいたるかというきわめて興味深い問題を提示しており、長崎県生月島で今も信仰されている聖画(納戸神・御前様)について若干の調査研究を行い、小論文を執筆した。平成16年度は著書『カラヴァッジョ 聖性とヴィジョン』をまとめるため、今までに書いた諸論文を点検して書き直す作業に従事した。とくに第二章「1600年前後のローマ画壇とカラヴァッジョ」は、かつて書いた論文をほぼ全画的に書き直し、大幅に加筆してほとんど新しい論文にしてしまった。このように、1600年前後の混沌とした美術の状況と、反宗教改革とキリスト教考古学の流行に鼓舞されて起こった新たな潮流を、カラヴァッジョの革新という座標軸を設定することであきらかにすることができた。