著者
浜渦 康範 飯島 悦子
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.10, pp.645-651, 1999-10-15 (Released:2009-05-26)
参考文献数
29
被引用文献数
7 12

リンゴ果実の果肉抽出物およびその画分について,ポリフェノール組成とSDSミセル内のリノール酸の酸化に対する抗酸化活性を調べた.(1) 果肉抽出物より酢酸エチルで抽出されるポリフェノール画分(画分B)において,主要な成分はクロロゲン酸,(+)-カテキンおよび(-)-エピカテキン,プロシアニジンオリゴマーおよびフロリジンであり,水溶液に残留したポリフェノール画分(画分A)においてはプロシアニジンポリマーが主要成分であった.(2) リンゴの果肉ポリフェノールにおける主要成分はカテキン類とその重合体であり,中でもプロシアニジンポリマーが占める割合が最も多かった.(3) 果肉抽出物のポリフェノール濃度と抗酸化活性の関係は標準(-)-エピカテキン溶液のそれと同程度であったが,画分ごとでみると画分Bの活性が画分Aの活性をやや上回る傾向があった.(4) 抗酸化活性およびDPPHラジカル消去能は,カテキン類よりもプロシアニジンオリゴマーの方が高かった.プロシアニジンポリマーを含む画分はカテキン類および二~三量体のプロシアニジン画分に比べて抗酸化活性が低かったが,DPPHラジカル消去能は最も高かった.
著者
東 知宏 長田 恭一 相倉 悦子 今坂 浩 半田 正之
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.184-192, 2013-04-15 (Released:2013-06-04)
参考文献数
38
被引用文献数
1 7

一般に,りんごは中心果実を肥大させるために摘果される.摘果された未熟果実はプロシアニジン化合物を多く有するが,ほとんど利用されていない.りんご未熟果実の有効利用法を考えるために,4週齢のSprague-Dawly (SD)系雄性ラットに10 %の脂肪と0.17 %のりんご未熟果実由来ポリフェノール(UP)を含む飼料を62日間与え,UPによる脂肪蓄積抑制作用と血糖値上昇抑制作用を検討した.その結果,白色脂肪組織重量は,対照(C)群と比べてUPを摂取したラット(UP群)は有意に低くなった.血漿と肝臓のトリグリセリド濃度はC群よりもUP群は有意に低くなった.空腹時血糖値と血漿インスリン濃度は,C群と比べてUP群は有意に低くなり,血漿アディポネクチン濃度は,C群よりもUP群は高くなる傾向にあった.脂肪酸β酸化酵素のCPTIIとACOXのmRNA発現量は,両者ともにC群と比べてUP群は有意に高くなり,さらに,脂肪酸β酸化系酵素のmRNA発現に関連する核内受容体のPPARαのmRNA発現量も,C群と比べてUP群は有意に高くなった.また,in vitro試験で,UPの脂肪と糖質の吸収に与える作用を調べたところ,リパーゼと種々の糖質加水分解酵素の活性は阻害され,ミセル形成も阻害された.UPによる糖質と加水分解した脂肪の吸収阻害作用が反転腸管法でも確認された.以上のことから,UPの摂取により肝臓の脂肪酸β酸化が促進され,かつ,小腸からの脂肪と糖質の吸収が阻害されることで,生体内の脂肪蓄積が抑制されると考えられる.よって,ポリフェノールを多く含むりんご未熟果実は肥満予防食材として,有効利用できるのではないかと考えられる.
著者
山下 麻美 加藤 陽二 吉村 美紀
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.178-181, 2013-04-10 (Released:2014-05-31)
参考文献数
16

本研究では,シカ肉の機能性食品としての活用を目的として,シカ肉の加熱調理によるカルニチン含有量の変化について検討を行った.加熱調理により,親水性であるL-カルニチンは,煮る調理加熱とスチーム加熱において,肉汁とともに溶出したため損失傾向を示した.疎水性であるアシルカルニチン類は,揚げる調理加熱を除いて,加熱調理により濃縮し,増加傾向を示した.アセチルカルニチンにおいてのみ,ヘキサノイルカルニチン,ミリストイルカルニチン,パルミトイルカルニチンほどの増加傾向は示さず,損失傾向を示す調理加熱方法もあった.アセチルカルニチンは,疎水性ではあるものの低分子であることが影響していると推察される.腸内細菌による代謝物を介して,アテローム性動脈硬化を引き起こす可能性が示唆されているL-カルニチンが,加熱調理により損失することで,疾病の予防につながることも考えられる.また,脳機能向上などの機能性が示唆されているアセチルカルニチンが加熱調理により損失せず,生肉の状態と同程度の含有量を保持する調理方法が望ましいと考えられる.これらの事より,本実験の加熱調理方法の中では,スチーム加熱がシカ肉の機能性食品としての活用を促進する上で,最も有効であると推察される.
著者
門間 美千子 齋藤 昌義 千国 幸一 斎尾 恭子
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.12, pp.938-942, 2000-12-15 (Released:2009-02-19)
参考文献数
23
被引用文献数
2 2

米胚乳部の主要な貯蔵タンパク質であるプロラミンは層状の堅固な構造をもつ難消化性のプロテインボディに蓄積される.本研究では,胚乳に含まれる貯蔵タンパク質の組成や,そのうちのプロラミンのポリペプチド組成がPB-Iの構造に与える影響を検討するために,貯蔵タンパク質組成の異なる変異体米の胚乳組織の微細構造を透過型電子顕微鏡で観察した.プロラミン組成の変異体のうち,esp-1(13kd-b減少変異体)の組織構造およびPB-Iの構造は,これまでに報告した通常の米とほぼ同様であった.しかし,esp-3(13kd-a,10kd減少変異体)では,PB-Iの層状構造の密度が低く,輪郭が不明瞭であり,Esp-4(10kd,16kdプロラミン増加変異体)では,高密度の層状構造をもったPB-Iが数多く観察された.これらPB-I構造の差異は,プロラミン構成ポリペプチドに含まれるシステイン含量の変動によると推定された.一方,グルテリン増加変異体の胚乳細胞では,PB-Iと見られる顆粒は,小型で層状構造もほとんど観察されず,グルテリンの増加が,PB-Iの形成に影響を与えることが示唆された.
著者
木村 俊之
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.57-62, 2010-02-15 (Released:2010-03-31)
参考文献数
24
被引用文献数
5 6

Epidemiological evidence indicates that postprandial hyperglycemia is an independent risk factor for cardiovascular disease. Improved postprandial glycemic control is promising for decreasing morbidity and mortality of cardiovascular disease in pre-diabetic and diabetic individuals. Recently, clinical trials such as the STOP-NIDDM Trial and Voglibose Ph-3 Study demonstrated that α-glucosidase inhibitor (αGI) reduces progression to type 2 diabetes from impaired glucose tolerance. Much attention has, therefore, been focused on αGI as a preventive and therapeutic agent for type 2 diabetes and its complications. Mulberry leaves have been known to prevent diabetes in Asian countries as traditional medicine. According to a previous study, mulberry leaves have strong αGI activity and its activity is caused by 1-deoxynojirimycin (DNJ), a glucose analogue. We developed an HPLC method to accurately quantify DNJ in mulberry leaves and optimized the process to achieve a DNJ-enriched (1.5%) mulberry leaf extract. We evaluated the effect of the extract on postprandial glycemic control by oral sucrose tolerance test and by a 38-day dietary trial. A dose above 0.8g of the powder (corresponding to 12mg DNJ) per, the elevation of postprandial blood glucose and secretion of insulin were suppressed significantly. Hypoglycemia, abnormal lipid profiles, or any other adverse events were not observed during and after the study period. DNJ-enriched mulberry extract may be useful in improving postprandial glycemic control in pre-diabetic or mild diabetic individuals.
著者
田原 康玄 植木 章三 伊藤 美香 渡部 智美 菅 忠明 平岡 芳信 中島 滋 土屋 隆英
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.93-99, 1998-02-15 (Released:2009-05-26)
参考文献数
7
被引用文献数
1 4

新鮮なマアジ,メイタガレイ,シロギス,ハマグリ,アカガイ及びホタテガイの貝柱を材料とし,温風乾燥や遠赤外線加熱乾燥,マイクロ波減圧乾燥によるEPA・DHAの割合に及ぼす影響を検討した.乾燥により,試料の水分量は経時的に減少し,それに伴い単位重量当たりの脂質量が増加した.しかし,脂質中のEPAやDHAの割合は変化しなかったため,干物は生鮮品に比べて単位重量あたりのEPAやDHAが多く,これらを効率よく摂取できる機能性食品であると考えられた.
著者
菅原 哲也 五十嵐 喜治
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.9, pp.516-520, 2013-09-15 (Released:2013-10-31)
参考文献数
14
被引用文献数
2 6

現在,国内で栽培されている日本ナシの主要な栽培品種である ‘幸水’,‘豊水’ について,結実から成熟まで主なポリフェノール成分を定量するとともに,その構成成分とDPPHラジカル消去活性との関係を明らかにした.日本ナシの主要なポリフェノール成分は,‘幸水’ および ‘豊水’ ともに,アルブチンとクロロゲン酸であり,結実時の果実ではポリフェノール含有量が顕著に高く,成熟にともない減少するものの,果実1個体あたりのポリフェノール量には顕著な増加が認められた.また,日本ナシ果実のDPPHラジカル消去活性は,ポリフェノール含有量に比例して増加し,今回分析した成分の中でクロロゲン酸の寄与率が最も高い値を示した.日本ナシ成熟果のDPPHラジカル消去活性はアルブチン,およびクロロゲン酸が多量に蓄積している果皮において最も高い値を示し,続いて果芯において高い値を示した.日本ナシ果実において,ポリフェノールの局在部位は,果実や種子において,紫外線や酸化ストレスに対する防御機構に関与している可能性が示唆された.
著者
本間 太郎 佐藤 謙太 篠原 菜穂子 伊藤 隼哉 荒井 達也 木島 遼 菅原 草子 治部 祐里 川上 祐生 野坂 直久 青山 敏明 都築 毅 池田 郁男
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.63-68, 2012-02-15 (Released:2012-03-28)
参考文献数
31
被引用文献数
4 5

CLAは抗肥満作用,抗がん作用など,多彩な生理機能を持つことが知られており,サプリメントとして市販されているが,日本人において摂取量や吸収代謝に関する報告はほとんどない.本研究では,日本人のCLA摂取における知見を得るため,日本人のCLAの日常的な摂取量,日常的な血中CLA濃度,CLAサプリメント摂取時の血中CLA濃度の変化について検討した.その結果,日本人は日常的に食事から37.5 mg/日のCLAを摂取していることが明らかとなった.また,日本人の日常的な血中CLA濃度は血漿中で6.4μmol/L,血球中で1.7μmol/Lであった.さらに,1日2.3gのCLAサプリメントを3週間摂取することで,血中CLA濃度は血漿中で7.7倍,血球中で8.7倍に増加した.外国人の報告と比べると,日本人は日常的なCLA摂取量や血中CLA濃度は少ないが,CLAサプリメントを摂取することでその濃度は飛躍的に上昇することが明らかとなった.以上より,日本人は1日2.3gのCLAサプリメントを長期摂取することで有益な生理作用を得ることができると考えられた.
著者
杉山 喜一 栗城 大輔 松岡 亮輔 増田 泰伸 久能 昌朗 大後 栄治
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.8, pp.245-256, 2020-08-15 (Released:2020-08-26)
参考文献数
58
被引用文献数
1

According to previous studies surveying dietary supplements for sports athletes, proteins and amino acids are mainly utilized to decrease post-training fatigue. Additionally, peptides as an intermediate product, composed of two or more amino acids, are well known as an anti-oxidative supplement that shows high absorbency. Egg White Peptide (EWP), produced by hydrolyzing egg white with a neutral protease, has strong anti-oxidative effects, and is anticipated to be useful as a functional ingredient for improving endurance training and maintaining physical conditioning. The results of three human studies suggest that EWP is effective and applicable to decrease muscle damage following physically demanding training sessions. Moreover, it is expected that administration of EWP would be highly effective for the treatment of muscle fatigue during prolonged strenuous exercise (marathon running) and/or overtraining. This overview of the effect of EWP dietary supplementation for daily endurance activities indicates its utility in improving physical conditioning of athletes and citizen runners.
著者
早見 功 元村 佳恵 西沢 隆
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.247-252, 2007-06-15 (Released:2007-10-04)
参考文献数
27
被引用文献数
2 4

リョクトウモヤシの胚軸細胞壁多糖類が持つAsA酸化抑制効果について評価し,合わせてペクチン主鎖のエステル化度と抗酸化活性との関係を調査し,以下の知見を得た.(1)AsA酸化抑制効果は,胚軸の成長とともに活性が低下した.(2)AsA酸化抑制効果は,低いエステル化度を持つHWSP画分で最も高い活性を示した.(3) AsA酸化抑制効果とペクチン主鎖のエステル化度の間には負の相関が見られた.(4)以上の結果,リョクトウモヤシ胚軸の細胞壁多糖類には,抗酸化活性が見られ,特にペクチン性画分に比較的高い活性があることが明らかとなった.
著者
野村 知未 松井 元子 大谷 貴美子 村元 由佳利 古谷 規行
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.10, pp.464-469, 2016-10-15 (Released:2016-11-30)
参考文献数
21

栽培温度の異なる3つの試験区でエダマメ2品種を栽培し,マルトース生成量に関与するβ-アミラーゼ活性およびデンプンの糊化温度の影響を検討した.‘富貴’ は,子実肥大期の温度が低い25°C区がほ場区に比べて,β-アミラーゼ活性の強さが有意に(p<0.01)高くなったが,‘新丹波黒’ の場合,栽培温度の違いにより活性の強さは変化しなかった.一方,デンプンの糊化温度は両品種供に3つの試験区で有意に(p<0.01)異なり,子実肥大期の温度が高いほど大きく上昇した.これらのことから,エダマメ加熱後のマルトース生成量は,子実肥大期の温度に大きく影響を受けることが認められた.
著者
三星 沙織 田中 直義 村橋 鮎美 村松 芳多子 木内 幹
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.528-538, 2007-12-15 (Released:2008-02-01)
参考文献数
24
被引用文献数
2 2

ミャンマーには伝統的な大豆醗酵食品でペーポ(Pe pok, またはペーガピ,Peegapi)と呼ばれる,農家が小規模で製造している一種の納豆がある.我が国にはない,新しい納豆の生産に適した菌株を取得するためにミャンマー東北部で現地調査を実施しペーポの採集を行った.(1)採集したペーポ試料29点の食塩濃度は0.14-13.7%であった.食塩濃度3%未満が11点,3%以上6%未満が8点,6%以上9%未満が5点,9%以上12%未満2点で,12%以上は3点であった.(2)試料から197株を分離し,137株をBacillus subtilisと同定した.そのうち42株を蒸煮大豆に生育したコロニーの糸引きから納豆菌として選別した.(3)分離菌の最適生育温度は,33℃が1株,35℃が1株,37℃が5株,39℃が9株,41℃が19株,43℃が6株,45℃が1株であり,温度域に幅があった.(4)小規模の納豆製造を行って,我が国の糸引納豆にも適する株として10株を選別した.それらの株で製造した納豆は,我が国の納豆に類似した性質を有するものもあったが,臭いまたは糸引き,苦味などの改良が必要なものもあった.これらは,さらに製造法を検討することによって現存する我が国の納豆とは異なる新しい納豆を製造する菌株として使用できる可能性がある.
著者
佐藤 恵美子 三木 英三 合谷 祥一 山野 善正
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.10, pp.737-747, 1995-10-15 (Released:2009-05-26)
参考文献数
28
被引用文献数
8 6

「煮つめ法」,「滴下法」を用いて調製した胡麻豆腐の調製時における攪拌速度と加熱時間の影響について,テクスチャー測定,クリープ測定,走査型電子顕微鏡による構造観察を行って検討したところ,次のような結果が得られた.(1) 「煮つめ法」により調製した胡麻豆腐のクリープ曲線は四要素モデル(E0, E1, ηN, η1)として解析可能であった.硬さおよび瞬間弾性率,フォークト体弾性率(E0, E1)は,どの攪拌速度においても加熱25分(谷の部分)で最も軟らかくなり,その後加熱時間の増加とともに硬くなった.また,その加熱25分の調製条件が構造的にも均一な蜂の巣状構造を形成した.「滴下法」によるテクスチャーと加熱時間における一次式の傾きは,加熱45分までの時間依存性を示すもので,攪拌速度が高くなる程,大きくなり,付着性には攪拌速度による依存性が認められた.ニュートン体粘性率,フォークト体粘性率(ηN, η1)は加熱時間にともなう変化がテクスチャーの付着性と類似していた.(2) 走査型顕微鏡観察の結果,加熱15分では不均一な部分があり,加熱25分で均一な空胞が形成され蜂の巣状を示した.さらに加熱攪拌を続けると蜂の巣状構造は崩壊し始めた,250rpm 25minの試料が空胞の形成がよく,最も均一な蜂の巣状の空胞の集合体が観察された.(3) 胡麻豆腐は葛澱粉を主体とするゲルであり,胡麻の蛋白質と脂質が関与している相分離モデルであると推察される.
著者
谷本 昌太 甫出 一将 川上 晃司
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.11, pp.531-536, 2011-11-15 (Released:2011-12-31)
参考文献数
37

無洗米処理時の副産物であるアリューロン糠(NTWPおよびSJR)を有効利用する目的で,アリューロン糠の全アミノ酸組成,タンパク質濃縮物のタンパク組成および食品機能特性を米糠および白米のそれらと比較した.アミノ酸分析の結果,NTWPとSJRのアミノ酸組成に有意差は認められなかった.GABA含量は,SJRで米糠および白米と比べて有意に高い値を示した.タンパク質濃縮物のタンパク質含量は,白米,NTWP,米糠,SJRの順に多かった.SDS-PAGEの結果,NTWPおよびSJRのタンパク濃縮物は,米糠と白米のタンパク質濃縮物のそれらの中間的な泳動パターンを示した.NTWPのタンパク質濃縮物の起泡力および気泡安定性は米糠のタンパク質濃縮物と同様に白米およびSJRのタンパク質濃縮物と比べて有意に高い値を示した.タンパク質濃縮物の乳化力は,アリューロン糠,米糠,白米でほぼ同等の値を示し,有意差が認められなかった.タンパク質濃縮物の乳化安定性において,アリューロン糠は米糠と比べて有意に低く,白米と比べて高い値を示したが,有意差は認められなかった.以上の結果は,NTWPのタンパク質濃縮物は米糠または白米のタンパク質濃縮物と同等の食品機能特性を有し,SJRのタンパク質濃縮物は起泡性に劣るものの,米糠または白米のタンパク濃縮物と同等の乳化性を示すことが明らかとなった.
著者
野坂 千秋 星川 恵里 足立 和隆 渡邊 乾二
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.11, pp.857-863, 2000-11-15 (Released:2009-02-19)
参考文献数
5

「ジャガイモの裏ごし操作」における経験の異なる熟練者と非熟練者の違いを明らかにすることを目的として,運動解析法を用い実験を行った.さらにこの解析によって得られたヘラが裏ごし器を押し付ける力,そしてヘラの角度と裏ごしされたジャガイモの性状との関連を観察した.(1) 熟練者の裏ごしは,力の各成分の最大値・力積が非熟練者に比べ有意に小さく,かつヘラの押し付け時の角度も10°以下のこすりつけ状態をとらない操作であることが明らかとなった.一方,非熟練者の動作は,力の各成分の最大値・力積が熟練者と比較して有意に大きく,かつヘラの押し付け時の角度が小さく,こすりつけ状態の長い操作であることが明らかとなった.(2) 裏ごしされたジャガイモの性状を比較すると,非熟練者のジャガイモ細胞の状態は,熟練者のものに比べ細胞外へ流れ出た澱粉が多く,細胞の損傷が観察された.このことから,裏ごし時の力のかけ方やヘラ角度の状態がジャガイモの細胞壁の損傷に影響することが示唆された.
著者
田中 福代 庄司 靖隆 岡崎 圭毅 宮澤 利男
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.34-37, 2017-01-15 (Released:2017-01-24)
参考文献数
8
被引用文献数
2 2

前報でリンゴみつ入り果の嗜好性の高さは2-メチル酪酸エチル,ヘキサン酸エチル,チグリン酸エチルなどのエチルエステル類と関連すると推定した.これを検証するために,リンゴ非みつ果の加工品(混濁果汁,ピューレ)とリンゴ風味の加工食品(果汁飲料,キャンディ)に対し,みつ入り果の香気成分プロファイルを再現した7種のエチルエステル類からなるみつ香フレーバーの添加実験を行った.その結果,リンゴ非みつ果の加工品においてみつ風味および嗜好性が高められたことから,エチルエステル類はみつ入り様風味を与え,リンゴの嗜好性を高める主要な成分であることが確認された.また,リンゴ風味食品にこのフレーバーを添加した場合も,みつ風味と嗜好性を強化する効果があり,特に清涼飲料とキャンディにおいて顕著であった.
著者
三浦 靖
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.242-256, 2013-05-15 (Released:2013-06-30)
参考文献数
25
被引用文献数
2 1

Visualization is defined as any technique for creating images, diagrams or animations to communicate a message. Visualization through visual imagery has been an effective means of communicating both abstract and concrete ideas since the dawn of man. There is great interest in quantifying the various aspects of structure, and in many cases, this involves imaging the structure and performing measurements on the images by image processing and analysis. The images may be simple macroscopic or microscopic light images, including confocal laser scanning microscopy (CLSM), but may also include images from either transmission or scanning electron microscopes (TEM and SEM), atomic force microscope (AFM) images of surfaces, magnetic resonance imaging (MRI) or computed tomography (CT) images of internal structure. The topics covered are the acquisition and processing of the images, the measurement of appropriate microstructural parameters, and the interpretation of these numbers, particularly with regard to the issues that the structures are generally three-dimensional while the images are usually two-dimensional.I hope that this article is able to usefully summarize the basic procedures, and that it will be of use to researchers in food science fields.
著者
内山 成人
出版者
日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.7, pp.356-363, 2015
被引用文献数
5

日本人女性の平均寿命は86.4歳(2012年)と世界一であるが,介護なしで過ごせる健康年齢は73.6歳と12.8年の差があり,いかに健康年齢を維持するかが問題である。一方,女性の閉経年齢は50歳前後であり,閉経後のQOLが健康年齢にとって重要になってくることは言うもでもない。これまで大豆イソフラボンの女性ホルモン様作用(エストロゲン様作用)が着目され,種々の研究結果が報告されてきたが,その結果が一致していないため,十分なエビデンスがないと結論付けられているのが現状である。そこで,2002年にセッチュルらは大豆イソフラボンの活性本体が代謝物のエクオールではないかとの仮説,つまり"エクオール仮説"を提唱し,エクオールが着目されるようになった。最近我々は,エクオールを直接摂取可能な食品(SE5-OH)を開発したので,その開発背景と有用性について紹介する。
著者
橘田 和美
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.399, 2006-07-15 (Released:2007-07-15)
参考文献数
2

花粉症をはじめとする様々なアレルギー症状を持つ人が年々増加し,今や我が国の国民の3人に1人が何らかのアレルギーを持っているといわれている.このアレルギーを引き起こす物質をアレルゲンと呼ぶが,アレルギー症状を引き起こす免疫システムと,アレルゲンのもつ化学構造のインターフェースとなっているのが抗原決定基(エピトープ)である.即ち,アレルゲンのみならず,ある物質がそれに対する抗体を誘発する場合,免疫システムによって認識される部位がエピトープである.アレルゲンをはじめとし,抗体産生を誘発する抗原はその分子内にいくつものエピトープを持っている.これらエピトープは生体内で抗体産生に携わるT細胞によって認識されるT細胞エピトープと,B細胞によって認識され,また抗体の結合部位になるB細胞エピトープとに分類されている.抗体等によって認識される構造単位であるエピトープであるが,タンパク質中の特定のアミノ酸配列だけでなく,糖鎖の一部,低分子物質なども含まれる.糖鎖抗原としてはABO式血液型抗原が有名であり,アレルゲンに関してもミツバチ毒ホスホリパーゼA2,オリーブ花粉アレルゲン等のB細胞エピトープは糖鎖部分であることが示唆されている.T細胞に抗原が認識される場合,まず抗原はマクロファージ,B細胞等の抗原提示細胞に取り込まれペプチドまで分解される.処理されたペプチドは抗原提示細胞上に発現するMHCクラスII分子とともにT細胞レセプターに提示され,これによって抗原情報がT細胞へと伝達され,T細胞の活性化が起きる.このとき,T細胞レセプターはMHCと複合体を形成した線状のエピトープとしか反応しない.従って,T細胞エピトープは熱変性など一次構造に影響しない処理に対しては安定であるが,酵素処理のような一次構造を切断するような処理に対しては影響を受けやすい.一方,B細胞エピトープは,線状に並んだ一次構造から形成されるエピトープだけでなく,タンパク質の立体構造に依存したエピトープを形成する場合もある.従って,B細胞エピトープの場合,T細胞エピトープのように一次構造の変化を伴わない処理に対して影響を受け難いものもある一方,立体構造に依存するエピトープは加熱変性のように三次元構造に変化を引き起こす処理によっても容易に影響を受け,B細胞及び抗体から認識されなくなってしまう.卵一つとってみても,卵白中のオボムコイドは加熱処理に対して安定であるが,オボアルブミンは不安定であるなど,エピトープの構造の違いが調理などによるアレルゲン性の消長に影響を及ぼしている.ところで,花粉症や食物アレルギーなどのアレルギー患者の増加に伴い,その治療法も多くの研究の対象となっている.アレルギーの治療法としては,抗アレルギー剤,ステロイド等,種々の薬剤による対症療法が一般的である.また,少量の抗原をアレルギー患者に長期にわたり繰り返し投与する減感作療法は,花粉,動物,ダニ等の吸入性アレルギーの治療に長く使われてきた.しかし,現行の減感作療法はIgE結合部位を含む抗原を投与することからアレルギー症状を惹起する危険性も否定できない.そこで,ペプチド免疫療法など新たな治療の試みも検討されている.これは完全長のタンパク質分子を用いるのではなく,T細胞エピトープを含むペプチド断片を用いて行われるものである.これらのペプチド断片はアレルギー反応の惹起に必要なIgEの結合及びその架橋形成はできないが,T細胞の不応答を引き起こすとされている.実用化には至っていないが,花粉症のアレルギー症状の緩和を目指したスギ花粉症緩和米はこの現象を利用したものである.具体的には,遺伝子組換えの技術を利用し,スギ花粉症抗原タンパク質の中から7種の主要なT細胞エピトープを選び,これらを連結したエピトープペプチドをコメの胚乳部分に特異的かつ高度に蓄積させたものである1).その他にも,B細胞エピトープのアミノ酸を一つ置換したリコンビナントペプチドを用いた変異タンパク免疫療法も研究されている.T細胞活性化能を保持しながらもIgE結合能が減弱したアミノ酸置換リコンビナントをモデルマウスに投与した実験では,アナフィラキシー発症の頻度及び程度の軽減が認められている2).このようにエピトープの解明は非常に重要であるが,一部の主要アレルゲンを除き,多くのアレルゲンにおいてはエピトープの解明は十分ではない.今後のエピトープ解析の進展が強く望まれる.
著者
時友 裕紀子
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.279-287, 1995-04-15 (Released:2009-05-26)
参考文献数
28
被引用文献数
7 11

スライスタマネギと球のままのタマネギを各種調理条件下で加熱し,それらのSDE法によるにおい抽出物とヘッドスペースガス成分についてGCおよびGC-MS分析し,比較検討した.スライス加熱タマネギのにおい成分として特徴的なジプロピルトリスルフィドは,球のまま加熱タマネギではわずかであった.一方,プロペニル基を有するスルフィド類は存在していた.甘いにおいの強い焼きタマネギにはフルフラールを始めとするフラン類が多く存在し,加熱タマネギの甘いフレーバーには糖由来の加熱香気成分が寄与していると考えられた.