著者
長田 啓隆
出版者
愛知県がんセンター
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

小細胞肺癌等の高悪性度肺癌では、神経内分泌分化と増殖とが密接に関連していると考えられる。本研究では、このような肺癌の分子特性に注目し、神経内分泌分化の癌発症・進展における意義を検討すると共に、この神経内分泌分化を標的とするRNAi法を用いた新規肺癌治療法の開発を目指した。神経内分泌分化のマスター遺伝子ASCL1に注目し、ASCL1の発現を肺癌細胞株パネルで検討したところ、神経内分泌分化を高頻度に示すことが知られている小細胞肺癌や大細胞肺癌で高発現が見られた。又、最も多い肺腺癌でも低頻度ではあるが高発現が見られた。一方、正常肺では殆ど発現が無く、発現パターンからASCL1は癌治療の標的となり得ると考えられた。このASCL1遺伝子を強制発現したところ、神経内分泌分化マーカーの誘導が起こることが確認されると共に、細胞周期の負の制御因子群の発現が抑制される結果が得られ、ASCL1が転写抑制により細胞周期を促進的に制御している可能性が考えられた。又、RNAi法によりASCL1発現を抑制することで、細胞周期停止及び細胞死が誘導され、ASCL1を発現する肺癌細胞特異的に著明な細胞増殖抑制作用を示すことが判明した。更にこのASCL1-RNAiを臨床応用へと発展すべく、アデノウイルスベクターを用いたASCL1-RNAiシステムを作成し、増殖抑制効果を現在検討している。このようなRNAi法を用いた癌遺伝子治療は癌細胞に特異的で、副作用の無い安全な治療法となり得ると考えられ、本研究は癌治療に非常に大きな貢献をすると期待される。
著者
金 惠淑
出版者
岡山大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

クロロキンをはじめとする既存抗マラリア薬に対する耐性熱帯熱マラリア原虫が出現し、既存の抗マラリア薬では治療できない状況になりつつある。そのために新しい抗マラリア薬の開発研究はマラリアに関する最優先研究事項である。私は、薬用天然資源の中から薬剤耐性マラリアを克服できる新規マラリア治療薬を開発し、マラリア制圧に寄与することを研究目的として本研究を進める。本研究では今までの研究で得られた新規構造を有する天然生薬成分、及び天然薬用資源中の薬効成分をリード化合物とし、熱帯熱マラリア原虫における抗マラリア薬候補の最適化、薬効を示す分子標的の同定、及び、その遺伝子機能を解析する。また、アフィニティ法とプロテオミクスを用い、高い確率で抗マラリア薬のターゲットになりうる分子標的を選抜する。さらに、薬剤耐性のメカニズム解析を行い、薬剤耐性を克服するための基盤研究を行う。平成17年度の研究成果を下記に示す。1.メフロキン高度耐性熱帯熱原虫(R/24株)を用い、pfmdr-1遺伝子の変異ヵ所が実際のマラリア流行地の患者でも見られるかどうか、マラリア流行地の血液サンプルを用いて解析した。タイのマラリア患者、及びタンザニアの患者由来のサンプルを用いてR/24株で見られる変異ヵ所を調べた結果、変異ヵ所は見られなかった。今後、メフロキン耐性が流行する地域の患者サンプルを増やして検討する。また、プロテオミックスとトランスクリプトームを駆使してメフロキン耐性メカニズムの解析を開始した。2.生薬天然資源由来の租抽出分画由来のサンプルを用いて校マラリア活性を検討した結果、6種類の天然資源由来より強い抗マラリア活性が見られた(EC_<50>=<1μg/ml)。現在これらサンプルを更に分画して活性化合物を見出す研究を進めている。3.生薬アルテミシニン誘導体の研究を行い、10^<-8>M程度で強い抗マラリア活性を示す種々の抗マラリア活性を示す誘導体を得たので、構造-活性の関連性を検討している。
著者
戸谷 友則
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2010

大規模銀河分光サーベイによる赤方偏移歪み測定は、宇宙物理的な系統誤差が少ないダークエネルギー問題へのアプローチとして世界的に期待されている。すばるの新観測装置FMOSは、直径30分角の領域で一度に400天体の近赤外スペクトルが取得できるという大変ユニークな装置である。日英のFMOSチームを中心に、このFMOSを用いた大規模銀河サーベイ(FastSound計画)が現在検討されている。すばる望遠鏡で40晩程度の観測時間を使い、30平方度の領域で1万もの銀河のスペクトルを取得し、これによりz>~1という最遠方の赤方偏移歪みを検出し、構造形成速度を測定することで宇宙論的スケールでの重力理論の検証を行う。いよいよ23年度から、このFastSound計画が本格的にスタートし、観測が開始されてデータも取得できた。本研究費は主に旅費として使用し、日英豪に分散する研究者の相互交流と準備研究の推進が行われた。最初の試験観測データを吟味し、サーベイデザインを最終的に確定した。初期データをさらに吟味して、輝線検出法の確定など、本格的な解析作業も始められた。すでに全体の1/4ほどのデータが取得され、パワースペクトルを計算するための準備も進めた。このFastSoundプロジェクトは、実現すれば初の日本主導の宇宙論目的大規模銀河分光サーベイとなる。それを通して経験蓄積や人材育成も目指し、さらなる次世代サーベイでも日本が大きな貢献ができるような形を目指していきたい。
著者
永福 智志
出版者
富山医科薬科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

サルにおける神経生理学的研究から,上側頭溝前部領域には「顔」に選択的に反応を示す「顔」ニューロンが存在し,これら「顔」ニューロンは顔や視線の方向に選択性があり,一部は「声」などの聴覚刺激にも反応性があることが報告されている.しかし,「顔」や「声」に基づいたアイデンティティの認知(その「顔」や「声」の主が誰なのかの認知)における同領域の機能的役割に関する研究はほとんどない.われわれは,アィデンティティ認知における同領域の機能的役割をニューロンレベルで解明するため,「顔」に基づくアイデンティティ認知を要求する遅延見本会わせ課題(I-DMS課題)を用い,課題遂行中のサルの行動と同領域(および下側頭回前部領域)ニューロンの反応を記録・解析した.また,同領域における「顔」ニューロンの分布を組織標本および核磁気共鳴(MR)画像に基づき検索し,同領域内での「顔」ニューロンの反応性の相違を検討した.その結果,上側頭溝前部領域吻側部と尾側部には機能的な差異があることが明確になった.すなわち,(1)顔の方向に対する反応選択性が同領域吻側部と尾側部で異なり,吻側部「顔」ニューロンは斜め向きの「顔」に選択性を有するものが多いが,尾側部「顔」ニューロンは横顔に選択性を有するものが多いこと,(2)吻側部「顔」ニューロンは顔の方向に対して一峰性のチューニングを有するものが多いが,尾側部「顔」ニューロンは左右方向の「顔」に対して鏡像関係のニューロン応答を示し,二峰性のチューニングを有するものが多いこと,(3)吻側部「顔」ニューロンは,尾側部「顔」ニューロンより「顔」のもつ視線の方向による反応の修飾を受けやすいこと,などが示された.したがって,同領域吻側部「顔」ニューロンにはアイデンティティの認知に有利な斜め向きの「顔」が主に表現されており,視線の方向など,「顔」のもつ生物学的意味による反応の修飾を受けやすいこと,一方,尾側部「顔」ニューロンには横顔を含めあらゆる方向の「顔」が表現される一方,単なる「顔」の方向だけでなく,「顔」のパーツの包含関係なども反応性に影響を与えることが示唆された.解剖学的には,同領域吻側部は視覚記憶と密接な関係のある下側頭皮質前部(とくに前腹側部)と強い相互神経結合がある一方,尾側部は下側頭皮質後部,視覚前野(とくにV4野),頭頂間溝および海馬傍回後部(TF/TH野)など,種々の視知覚関連領域から線維投射を受けるなど,入出力様式に違いがあることが知られている.われわれの結果はこのような解剖学的知見と一致するものであり,上側頭溝前部領域吻側部と尾側部における「顔」情報処理に機能的階層が存在する可能性を示唆している.
著者
片岡 直行
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

真核生物の核にコードされる遺伝子の多くは、イントロンと呼ばれる介在配列によって分断化されている。このことにより、核内で合成されたmRNA前駆体が、細胞質において蛋白質合成の鋳型として機能するためには、イントロンを取り除きエクソン同士を連結するRNAスプライシングが必須である。スプライシングにより切り出されたイントロンは核内にとどまり、スプライシング因子が除去された後、分解されると考えられている。ヒトではイントロンはmRNA前駆体の実に95%を占めている。またイントロン上にはsnoRNAやmicroRNAなどの遺伝子発現調節に関わるnon coding RNAがコードされていることからも、イントロンの代謝は高等真核生物において重要だと思われるが、ほとんど解析されていない。本研究では、核内でのイントロンの代謝とそれに伴うスプライシング因子のリサイクル機構を解明することを目的としている。そこでこれまでに同定されている二つの因子、hDBR1とhPRP43に注目した。hDBR1と複合体を形成している因子を同定するため、培養細胞でFlagタグを付けたhDBR1とその不活性化変異体を発現させ、Flagタグに対する抗体を用いて免疫沈降を行った。その結果、新規のタンパク質因子を同定した。またin vitroでの結合実験より、この因子はhDBR1と特異的に結合することを確認した。またheterokaryon実験により、hDBR1が核と細胞質を往復する活性があることがわかり、細胞質での機能が示唆された。またRNAヘリケース様タンパク質であるhPRP43のヘリケースモチーフに変異を導入し、変異体をin vitroスプライシング反応に用いたところ、切り出されたラリアット型イントロンが安定化し、変異体タンパク質とともに沈降するのがみられた。
著者
田中 光一
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

成人の脳では、γ-アミノ酪酸(GABA)はGABA_A受容体に結合し、神経細胞を過分極する抑制性神経伝達物質として知られている。しかし、幼弱な脳、あるいは成人の脳でも視交叉上核、外傷後の神経細胞に対しては、脱分極作用を示し、興奮性神経伝達物質として働くことが知られている。このGABAの持つ脱分極作用は、神経系の発達、概日リズムの形成、外傷後の脳損傷および回復過程になんらかの役割を果たしていると考えられているが、その機能的役割は不明である。最近、GABAにより脱分極する神経細胞には、Cl^-を細胞外へ汲み出すK^+-Cl^-共輸送体(KCC2)が発現していないため、細胞内Cl^-濃度が高く保たれ、Cl^-の平衡電位が静止膜電位より脱分極側にシフトしていることが示された。本研究では、K^+-Cl^-共輸送体を過剰発現させることにより、細胞内Cl^-濃度を制御し、GABAの脱分極作用のみを抑制するマウスを作成し、いままで全く実験的証拠のなかったGABAの神経興奮性作用の機能的役割を個体レベルで解明する。本年度は、平成13年度に作成した生後直後からK^+-Cl^-共輸送体(KCC2)を過剰発現しているマウスの表現型を解析した。KCC2過剰発現マウスは,野生型に比べ、自発運動量の低下が観察された。また、概日リズムの光による同調能にも異常が観察された。現在これらの表現型が、KCC2を過剰発現させたことによる抑制性ニューロンの抑制能の増強によるものかどうか、形態学的、電気生理学的により詳細な解析を進めているところである。
著者
木俣 行雄 都留 秋雄 河野 憲二
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

小胞体ストレスと総称される外的および内的要因により、小胞体における分泌系タンパク質の高次構造形成が阻害されたとき、細胞は様々な生体防御反応を引き起こす。それら小胞体ストレス応答のための細胞内シグナル情報伝達経路の出発点は、Ire1に代表されるいくつかの小胞体膜貫通タンパク質である。1型膜タンパク質であるIre1、C末端にRNaseドメインを持ち、これがエフェクターとして機能していると考えられる。出芽酵母Ire1の標的はHAC1 mRNA前駆体であり、Ire1依存的なスプライシングにより生じた成熟型HAC1 mRNAは転写因子タンパク質に翻訳され、小胞体内在性分子シャペロン等の発現を転写レベルで誘導する。本研究において我々はまず、非ストレス条件下で培養された細胞内でも、僅かながらこのスプライシングが起きており、生成するHac1タンパク質はいくつかの栄養状態応答遺伝子の発現を抑制していることを見いだした。栄養状態の変化により全くスプライシングが起きなくなると、この抑制が解除されると考えられる。次に我々は、小胞体ストレスによりIre1が活性化される機構として、小胞体内在性分子シャペロンであるBiPの関与を明らかにした。我々の確立したモデルでは、非ストレス条件下の細胞では、BiPがIre1に結合していて、Ire1の活性化を抑えている。一方、小胞体ストレスに応じて構造異常タンパク質が蓄積すると、BiPはそれと結合するためにIre1から解離し、自由となったIre1は活性化して小胞体ストレス応答を引き起こす。最後に我々は、哺乳類に存在する2種類のIre1パラログのうち、Ire1βは、従来から報告されている転写因子XBP1 mRNAスプライシングや28SrRNA切断の他に、未同定の新規RNAを標的として、その結果アポトーシスを誘起することを見いだした。
著者
定兼 邦彦 稲葉 真理 今井 浩 徳山 豪
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

ゲノムデータベースからの知識発見のためのアルゴリズムとデータ構造に関する研究を行った.まず,ゲノム配列データベースからの高速パタン検索のアルゴリズムとデータ構造を開発した.索引としては既存の圧縮接尾辞配列を用いたが,新しいアルゴリズムにより従来の30倍の速度での検索が可能になった.次に,2つの長いゲノム配列のアラインメントを計算するための手法である,MUM(Maximal Unique Match)を列挙する省スペースなアルゴリズムを開発した.配列の長さをnとすると,既存手法ではO(n log n)ビットのスペースが必要であったが,本研究ではこれをO(n)ビットに圧縮した.これにより,ヒトの全DNA配列2つのMUMの計算がメモリ4GBのPC1台を用いて約6時間で計算できた.また,ヒトとマウスの間の共通部分については約24時間で計算できた.データベースからの知識発見のために,データベース中の複数の属性間の最適相関ルールを求める高速アルゴリズムを開発した.最適とは,支持率を固定した場合の最大確信度ルールまたは確信度を固定したときの最大支持率ルールを表す.従来手法では2値属性のみしか効率良く扱えなかったが,本研究の手法では数値属性に対して効率良く動作する.また,数値属性間の最適相関ルールを拡張し,様々な確信度に対する最適領域をピラミッド型の図形で表現する方法を提案し,その効率の良い計算法を提案した.これを最適ピラミッドによる相関ルール表現と呼ぶ.これを用いることでデータベースから抽出した知識を簡潔に表現することができ,過学習の回避もできる.また,ピラミッドを用いてデータの可視化を行うこともできる.
著者
矢崎 一史
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

ABCトランスポーターは高等植物において大きな遺伝子ファミリーを形成し、シロイヌナズナでは123種の遺伝子が見いだされている。本研究においては、シロイヌナズナに22種類存在するABCBタイプのトランスポーターの内、AtPGP4(AtABCB4)とAtPGP21(AtABCB21)を取り上げ、これらが植物体におけるオーキシンの軸方向への移動にどのように関与しているか、分子レベルでその輸送能を解明することを目的とした。これまで、AtPGP4が根端と根の表皮細胞で強く発現し、IAAの根端からの求基的輸送に関与することを明らかにした。今年度は、AtPGP4と最も相同性の高い類似遺伝子AtPGP21に関して解析を行った。Promoter::GUS植物体の解析により、AtPGP21はAtPGP4の発現が全く見られない根の中心柱で発現していたが、それが内鞘細胞特異的であることが明らかになった。根以外では、葉や花弁など側方器官の付け根で強く発現していた。また幼植物体に限っては葉肉細胞でも強い発現が認められた。このタンパク質に特異的なペプチド抗体を作製して、膜の分画とウエスタンブロットにより局在膜を調べた所、細胞膜局在であることが明らかとなった。シロイヌナズナの膜画分を用いて検出されたバンドは140kDaであり、糖鎖などの修飾はないものと思われた。IAA感受性の酵母変異株を用いて、AtPGP21を発現させ、AtPGP21のオーキシン輸送機能の解析をIAAの感受性試験にて行った。その結果、コントロールに比べ、AtPGP21を発現させた形質転換酵母株は、それぞれIAAおよびIAAアナログの5-FI存在下でより高い感受性を示した。このことは、AtPGP21がAtPGP4と同様、取り込み方向にIAA分子を輸送していることを示唆している。
著者
高橋 秀幸 宮沢 豊
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

MIZ1遺伝子に関して、MIZ1-GFP融合タンパク質を発現するシロイヌナズナ形質転換植物体の作出を行い、miz1変異を相補する系統を得た。これを用いMIZ1-GFP融合タンパク質の発現部位および細胞内局在を解析した結果、根においてMIZ1-GFPは水分屈性に必須の役割を果たすと考えられるコルメラ細胞とその周縁部、ならびに屈曲部位の皮層細胞の細胞質に存在することが明らかになった。さらにMIZ1の機能解明を進めるために、MIZ1過剰発現系統を作出して、その表現型を解析した結果、MIZ1遺伝子発現レベルの改変により水分屈性能の亢進がもたらされることが示された。また、miz2の変異原因遺伝子がARF-GEFをコードするGNOMであることを明らかにし、他のgnom変異体との比較解析から、水分屈性の発現にはGNOMのGEF活性が必要であること、水分屈性は重力屈性と比べGNOM機能の要求性がより高いことを明らかにした。これに加え、ヒメツリガネゴケに見いだされるMIZ1相同遺伝子の解析を行った。その結果、ヒメツリガネゴケゲノム上にはMIZ1相同遺伝子は3つ存在し、それぞれPpMIL1-3と名付け、それらの発現を確認した。また、シロイヌナズナMIZ1では見いだされないイントロンが、ヒメツリガネゴケにおいてはMIZドメインコード領域に近接した5'側に存在すること、miz1で変異の生じていたグリシン残基は、PpMIL1-3のいずれにおいても保存されていることもわかった。また、PpMIL1およびPpMIL2のノックアウト個体の作出に成功した。さらに各PpMILsがシロイヌナズナmiz1変異を相補するかを明らかにするためのコンストラクションを行った。
著者
田口 文広 松山 州徳 氏家 誠
出版者
日本獣医生命科学大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2009

SARSコロナウイルス(SARS-CoV)は細胞に感染する時、宿主細胞のプロテアーゼを利用することが知られている。細胞に吸着したウイルスにトリプシンなどのプロテアーゼが作用し、スパイク(S)蛋白が解裂されることにより、直接細胞膜から侵入する。また、プロテアーゼにより感染細胞は融合することも報告されている。プロテアーゼの非存在下では、エンドゾーム経由で感染するが、プロテアーゼ存在下と比べると、感染効率は低い。コロナウイルスの中ではSARS-CoVのみならず多くの種がプロテアーゼ依存性に感染し、細胞融合を引き起こす。その中でも、豚の下痢症ウイルス(PEDV)はプロテアーゼ依存性が高く、トリプシンなどのプロテアーゼが存在しないと感染拡大が極めて弱い。今年度は、PEDV感染におけるプロテアーゼの役割について検討した。トリプシン存在下或いは膜貫通型プロテアーゼTMPRSS2発現Vero細胞では、感染性ウイルス粒子が細胞外に効率よく放出され、プロテアーゼ非存在下と比べ、その感染性は100-1000倍高かった。我々は、トリプシン非存在下のVero細胞とプロテアーゼ阻害剤を加えたTMPRSS2発現細胞では、電子顕微鏡による観察で、ウイルス粒子が細胞表面に付着してクラスターを形成しているが、トリプシン付加により、また、プロテアーゼ阻害剤のないTMPRSS2発現細胞では、細胞表面のウイルス粒子のクラスターは消失していることを観察した。これらのことから、PEDV感染におけるプロテアーゼの役割は、細胞外へのウイルスの放出であり、それは、感染細胞外で細胞膜に付着しているウイルス粒子を細胞膜から剥がすのに重要であることが判明した。今後、どのような細胞分子がウイルスと細胞膜との結合に関与しているのかを検討したい。
著者
村田 茂穂 千葉 智樹
出版者
(財)東京都医学研究機構
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

当該研究部門ではCDK(サイクリン依存性キナーゼ)インヒビターであるp57^<Kip2>の作用についてマウスやラットから分離した骨芽細胞における機能解析を進めてきた.その結果,申請者らは(1)p57^<Kip2>がTGFβの刺激で速やかに分解すること(J.Biol.Chem.,1999)と(2)TGFβ依存的なp57^<Kip2>の分解が,TGFβシグナル系の仲介因子Smad依存的な転写を介していることを明らかにした(J.Biol.Chem.,2001).その後の研究から,もう一つのCDKインヒビターであるp27^<Kip1>の動態と併せて解析した結果,TGFβ刺激はp57^<Kip2>の分解を誘導したが,、p27^<Kip1>の分解を誘導しないこと,さらにp57^<Kip2>の分解消失は細胞の増殖開始とは関係しないことを突き止めた.次に骨分化を誘導するBMP (bone morphologic protein)刺激を加えたところp57^<Kip2>の分解消失は認められない事を見い出し,さらにp57^<Kip2>がTGFβ刺激によって分解されるとBMP刺激による骨分化誘導が阻害されることを明らかにした(論文投稿中).これらの結果から,p57^<Kip2>のノックアウトマウスで報告された骨形成異常の生理的意義を説明することが可能となった.即ち,p27^<Kip1>とp57^<Kip2>のユビキチン化依存的な分解は,骨芽細胞の増殖と分化の制御に重要な役割を果たしていることが明らかになったのである.我々は以前にSCFユビキチンリガーゼの必須な制御因子であるUba3のノックアウトマウスでp57^<Kip2>が蓄積していることを明らかにしており,現在TGFβ刺激によって誘導される新たなユビキチンリガーゼ(E3)がp57^<Kip2>特異的なユビキチンリガーゼである可能性について解析を行っている.そして骨芽細胞にTGFβ刺激したさいに発現が誘導されるE3の同定に成功した。さらにこのE3がp57に特異的に結合すること、in vitroでp57のリン酸化特異的にユビキチン化を行うことを見いだし、p57特異的なE3であることを明らかにした。
著者
三崎 義堅 川畑 仁人
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体γ (Peroxisome proliferator-activated receptor-γ : PPARγ)は、主に脂肪細胞分化と糖代謝に関わると考えられているステロイドホルモン核内受容体スーパーファミリーに属する核内転写因子である。リンパ球にもこの分子が発現しているが、その機能は明確でなかった。我々は、このPPARγ欠損マウスを作成し、そのヘテロ接合体(以下PPARγ+/-)(変異アリルのホモ接合体は致死)脾臓B細胞において、NFκBの核内移行が亢進し、増殖応答亢進、アポトーシス遅延を示すことから、B細胞機能にPPARγが深く関わっていることを見出した。また抗原特異的免疫応答はT細胞増殖試験で8-15倍、特異的抗体価で3-4倍と増強されていた。そこでPPARγ機能を修飾することにより、抗原特異的免疫応答を増強する手法が開発可能であると考えられ、免疫系細胞におけるPPARγの役割を検討することにした。PPARγ+/-由来T細胞は、in vitro抗原刺激培養すると、+/+由来T細胞と比較して、それぞれPPARγ+/+由来脾樹状細胞上においては約2倍、+/-由来上では約5倍のインターフェロンγ(以下IFNγ)を産生することが認められた。なお、IL-2、IL-4産生については明確な変化は認められない。従って、PPARγ発現量の減少は、T細胞においてINFγの誘導を増強することが明かとなった。現在、今後IFNγレセプター信号伝達系にPPARγが及ぼす影響を中心に解析を進めていく。以上の結果は、細胞障害性T細胞誘導も期待できるTh1型免疫応答で、かつ抗体産生も増強されるという、感染症に対するかなり理想に近い抗原特異的免疫応答増強法が、PPARγという一つの分子を標的にすることで、達成可能であることを示唆すると考えられる。
著者
土井 正男 奥薗 透 山上 達也 山口 哲生
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

固体基板上の高分子溶液の乾燥過程における薄膜形成のメカニズムおよび乾燥後の薄膜形状の予測・制御に関する実験および理論・シミュレーションによる研究を行い、以下の成果を得た。蒸発速度に対する弾性効果を考慮し、乾燥時に溶液の表面にできるゲル状の皮膜の形成条件を明らかにした。薄膜形状の初期条件依存性および気相中の蒸気の影響を明らかにした。薄膜形状の制御に関するいくつかの方法を提案した。
著者
原島 文雄 金田 輝男 柳父 悟 永田 宇征
出版者
東京電機大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

電気関連7学会が連携して67名の碩学に対するオーラルヒストリーを実施してその記録を残すことができた。また、このオーラルヒストリーを通じて、インタビュイーの選定から成果のまとめに到る一連のプロセスについて方法論を学び、ノウハウを蓄積することができ、更に、各学会においてオーラルヒストリーに対する理解が深まり、自主的継続の機運が生じたことも本計画研究のもうひとつの成果であった。
著者
馬渕 一誠 細谷 浩史 沼田 治 浜口 幸久 田中 一馬 北山 仁志 渡辺 良雄 丸山 工作 石川 春律 木下 専
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
1998

収縮環の形成機構を様々な細胞を用いて解析した。分裂酵母においては収縮環は、核分裂の間に細胞中央部に蓄積するF-アクチンケーブルから形成されることが分かった。アフリカツメガエル卵で星状体微小管が分裂溝直下で連結することを見い出した。これまで細胞質分裂のシグナルに関連していると思われていたCaイオンについて、分裂後半あるいは分裂後にCa waveの発生はあるものの、分裂溝先端ではCa blip, Ca puffといった微小なシグナルでさえ見られなかった。ウニ胚第4卵割で、中心体から近い表層ではアクチンが少なく、遠い部位ではアクチンが増えて分裂することを確かめた。即ち不等分裂する植物極側割球では、赤道面に収縮環ができる前に、植物極の表層からアクチンが減少し表層が膨らんだ後分裂溝ができた。テトラヒメナのEF-1αが2量体を形成してアクチン繊維を束ね、Ca^<2+>/CaMはEF-1αを1量体にしてアクチン繊維束形成を阻害すること、フィンブリンのアクチン結合性やアクチン繊維束形成能はCa^<2+>非感受性であり、フィンブリンが収縮環と同様に分裂構でリングを作ることを明らかにした。HeLa細胞のRhoキナーゼが、アクチン結合タンパク質であるフィラミンAと結合したので両者は収縮環中で結合して存在する可能性がある。分裂シグナル伝達に関し分裂酵母の新規のRhoファミリータンパク質Rho3を見い出した。Rho3は細胞膜に局在した。Rho3とCdc42の下流に共通の標的として新規のフォルミンFor3があってアクチン細胞骨格と微小管を支配し、細胞形状や分裂位置の決定に関与することが分かった。出芽酵母のRhoファミリータンパク質Cdc42の標的であるCla4(PAK)とBnil(フォルミン)が協調的に働き分裂部位でのセプチンリング形成を制御すること、この過程にアクチンが重要な働きをすることを示唆した。
著者
中畑 龍俊 依藤 亨 足立 壮一 林 英蔚
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

造血幹細胞の発生、性状、増殖・分化機構とその異常、サイトカイン受容体の異常と白血病発症との因果関係、白血病発症の分子機構が明らかにすることを目的に研究を行い以下の成果が得られた。(1)ヒト造血幹細胞を容易に受け入れるNOD/SCID/γ_c^<-/->(NOG)マウスを開発した。このマウスに移植したヒト臍帯血CD34+細胞からサイトカインの投与なしに顆粒球、赤芽球、マクロファージ、巨核球、血小板、T, B, NK, NKT, DC,肥満細胞を含む全てのヒト型血球分化が認められた。ヒトT細胞の初期分化は主に胸腺内で行われ、一部胸腺外分化も認められ、血清中にヒト型のIgM, IgG, IgAが観察された。(2)造血幹細胞増殖支持能を持つストローマ細胞株を樹立した。このストローマ細胞株上でサルES細胞を培養すると非常に多くの血球が出現することから造血幹細胞を生み出すのに必要な分子も発現している可能性が示唆された。(3)G-CSFR遺伝子異常を持ちKostmann症候群のモデルとなる2種類のTgマウスを作成した。変異G-CSFR-TgマウスへG-CSFを1年間連日皮下すると、3血球系とも著明に増加した状態が続いたが、白血病の発生は見られなかった。(4)サルES細胞から胎児型の血液細胞と成体型の血液細胞の両者および血管内皮細胞を誘導することが可能となった。サルでもマウスと同様、血液と血管内皮の共通の母細胞であるhemangioblastの存在が明らかとなった。
著者
阿部 広明 嶋田 透 三田 和英
出版者
東京農工大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

カイコの性染色体型は雄はZZ,雌はZWで、W染色体が1本でもあれば、その個体(細胞)は雌になる。カイコのW染色体上に存在していると考えられる雌決定遺伝子(Fem)をクローニングすることを目的とし、W染色体の分子生物学的ならびに遺伝学的解析を行った。W染色体は遺伝的組み換えを起こさないため、これまでに得られている分子マーカーのマッピングは不可能であった。しかしW染色体に放射線を照射して作製したW染色体の変異体は、いろいろな程度で欠落が生じていることが明らかとなり、deletionマッピングが可能となった。これらの変異体を利用したマッピングにより、雌決定遺伝子はW染色体の中央付近に座位していると考えられた。また、雌の繭だけ色が黄色くなる「限性黄色繭W染色体」では、通常のW染色体で12個あるDNAマーカーのうち、わずか1個(W-Rikishi RAPD)を保有するだけであった。すなわち計算上ではW染色体が1/12の長さにまで削られていると考えられる。このマーカーを出発点として、BACライブラリーよりW染色体特異的クローンを得てDNA塩基配列の解析を行った。その配列の特徴は、これまでに得られているW染色体の塩基配列と同様に、レトロトランスポゾンが複雑に入り込んだ「入れ子」構造であり、解析そのものが大変困難である。しかしごく最近、カイコ(雄を使用)の大規模ゲノム解析が行われ、レトロトランスポゾンの詳しいデータも得られるようになった。これらのデータを使用することにより、以前よりW染色体の解析は効率的に行えるようになった。現在までのところ、雌決定遺伝子と考えられる塩基配列の特定には至っていないが、その存在領域を確実に絞り込むことには成功し、現在も絞り込まれた領域を解析している。
著者
檜山 武史
出版者
基礎生物学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

Naxナトリウムチャンネルの個体における生理機能を解析し、体液ナトリウム濃度検出中枢を特定する目的で、野生型マウスとNax遺伝子ノックアウトマウスについて塩分摂取行動を調べた。通常状態と脱水状態それぞれのマウスに水と食塩水を同時に提示し、各摂取量を調べた。複数の濃度の食塩水について検討したところ、通常状態においてはいずれのマウスも0.3Mを超えると、水に対する食塩水摂取量の割合が減少した。脱水状態においては、野生型マウスは、より低濃度の食塩水に対しても回避行動を示したが、ノックアウトマウスは絶水前と同様に0.3M付近まで水と食塩水を区別無く摂取した。次にマウスの脳室へ高張食塩水を注入し、脳室周辺部の体液Na濃度を上昇させると、野生型マウスは脱水時と同様の塩分回避行動を示した。一方、ノックアウトマウスでは脱水時の塩分回避行動が失われており、Naxによる体液Naレベル検出は、脳室周囲器官の内のいずれかの部域において行われていることが明らかとなった。そこで、Nax遺伝子を組み込んだアデノウィルス発現ベクターを作成し、ノックアウトマウスの脳室周辺へ導入し、塩分摂取行動を観察した。その結果、CVOsの内、脳弓下器官(SFO)にウィルスが感染した場合にのみ野生型と同様の、脱水時における塩分回避行動が回復した。SFOは過去の脳部分破壊実験から体液Na濃度検出への関与が指摘されており、Naxが発現する部位である。同じく第三脳室前壁に位置する終板脈管器官(OVLT)も、これまで体液Na濃度検出に関与すると考えられていたが、本実験においてNax遺伝子を導入しても行動は回復しなかった。以上より、体液Na濃度検出及び水と塩分の摂取行動制御中枢はSFOであり、その機能にNaxが必須の役割を果たしていることが初めて証明された。