著者
白井 睦訓 三浦 公志郎 東 慶直
出版者
山口大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

肺炎クラミジアの冠状動脈硬化部における感染状況を調べたところ、軽度、高度狭心症計50人の冠動脈硬化部の平滑筋細胞組織の100%で動脈壁平滑筋細胞に肺炎クラミジアの高密度感染を検出し、局所炎症の惹起に関与していた。肺炎クラミジアの約100遺伝子は真核生物の遺伝子に類似する。これら主要な病原因子と相互作用するヒト大動脈遺伝子を2ハイブリッド法を用いてcDNAライブラリーから検出した。肺炎クラミジアset遺伝子(ヒトクロマチン関連因子ホモローグ)やmpg1遺伝子は肺炎クラミジア自身か宿主のクロマチン構造に関連すると考えられ、ある種の細胞外マトリックス蛋白質(大動脈壁平滑筋層で弾性を制御している細胞外マトリックスタンパクファミリーフィブリンのEGF様Ca結合ドメイが相互作用ドメインであった)との相互作用が同定された(クラミジア感染患部で、大動脈弾性繊維の断裂病変形成に関与?)。この肺炎クラミジアのキネシン/ミオシン類似因子であるKhc蛋白質や封入体膜構成蛋白質であるIncA2をベイトにすると、それぞれミトコンドリア膜に局在する蛋白質ATP6,NADH dehydrogenaseとamine oxidaseが同定された(大動脈平滑筋細胞の増殖や脱分化制御に関与?)。この封入体膜遺伝子をHeLa細胞に導入・発現させたところ、発現タンパク質の局在はミトコンドリアに一致しており同膜電位を変化させて透過性に関与することがわかった。同遺伝子導入細胞はアポトーシスを起こしやすいことを解明した。これら相互作用因子の結合ドメインも解明した。それらの相互作用による宿主細胞変化をさらに解析中である。その他約80の全く新しい肺炎クラミジア菌?宿主間タンパク相互作用を検出している。50種程度の薬物スクリーニングの結果、アスピリンなど数種の薬物が肺炎クラミジア感染排除に働くことも判明した。肺炎クラミジア近縁種のクラミジア・フェリスの全ゲノム構造を決定したので両菌遺伝子の比較解析により動脈硬化関連因子探索の手がかりとなることが期待される。ヒト正常大動脈由来平滑筋細胞とHEp2細胞(対照)それぞれに肺炎クラミジア、クラミジア・フェリス菌を感染させて、ヒト3万遺伝子発現をマイクロアレイ解析して動脈硬化・心筋梗塞関連遺伝子データベースと比較することにより、肺炎クラミジア感染大動脈由来平滑筋にユニークな動脈硬化症関連遺伝子16コと新たな動脈硬化関連候補遺伝子合計224個を検出した)。
著者
土井 正晶
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2009

これまでに強磁性ナノコンタクト磁気抵抗(NCMR)素子(強磁性層にFe_<50>Co_<50>、スペーサー層にAlO_xNOL(Nano-Oxide-Layer)を用いたスピンバルブ素子)についてスピントルク励起型マイクロ波発振を測定した結果を報告した。測定試料の膜構成はunderlayer/lrMn15nm/COFe3.3nm/Ru0.9nm/Fe_<50>Co_<50>2.5nm/Al-NOL/Fe_<50>Co_<50>2.5nm/Cappinglayerであり、素子サイズは0.4×04μm^2、MR比は4~5%、面積抵抗(RA)は0.7~1.6Ωμm^2である。その結果、磁壁の閉じ込め方によってマイクロ波発振の周波数が異なることが示され、さらにフリー層の磁化方向がリファレンス層の磁化方向と完全に反平行であるときには発振が観測しにくいといった本系独特の特徴ある実験結果が得られた。また、18GHzを超える高いQ値=2300(f/△f:△f=8MHz)のシャープな発振を観察している。この結果は狭窄磁壁とそれに接したフリー層強磁性体を考慮したスピントルク発振シミュレーションの発振周波数とほぼ一致する。さらに、磁化反平行状態を0deg.と定義して印加磁場を膜面内方向で回転させ、ネットワークアナライザを用いたナノ狭窄構造薄膜のスピントルク強磁性共鳴(ST-FMR)による直流電圧スペクトルを測定した。ST-FMRスペクトルと発振スペクトルはともに9GHz付近で共鳴および発振を示した。ST-FMRスペクトルではフリー層磁化の共鳴と考えられる周波数以外に複数の共鳴ピークを示した。一方、発振スペクトルは線幅の狭い単一のスペクトルのみである。この両者の差異を周波数の磁場変化のキッテル式を用いたフィッティング解析から強磁性ナノコンタクトに幾何学的に閉じ込められた磁壁のスピントルク振動に基づいて考察を行った。
著者
寺田 努
出版者
神戸大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2009

近年,モバイル技術および無線通信技術の発展により,人々が受け取る情報は飛躍的に増大しており,大量のデータから必要なデータのみを抽出する情報フィルタリング技術,必要なデータを的確にユーザに提示する情報提示技術の重要性が高まっている.本研究では,(1)ハードウェア・ソフトウェア連動型の低消費電力・高信頼な状況認識技術として,センサのサンプリングレートを動的に制御する低消費電力化方式や,センサ内で波形のピーク情報を抽出し送信データを削減することによる低消費電力化,(2)外部音の有無や明るさなどの周辺状況に応じて提示情報を適切にフィルタリングする機構およびそれらの機構を一般のアプリケーションプログラマが容易に記述できるモジュール化の実行,(3)上記の機構を容易に組み合わせてアプリケーションを記述できるエンジンであるWearable Toolkitの開発および拡張を行った.さらに,これらの基盤システム開発を応用し,ナビゲーションシステムや技術伝承システム,新たな文字入力システム,MCシステム,バイクレース支援システム,着ぐるみ装着者の支援システム,ダンスパフォーマンスの支援システムなどを開発し,枠組みの提案だけでなく提案機構が実際に運用に耐えるクオリティにあることを明らかにした.成果は学術論文誌やウェアラブルコンピューティング分野のトップカンファレンスであるISWC2010などで複数発表しており,高い評価を受けた.
著者
荒殿 誠 瀧上 隆智 松原 弘樹
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

1.全反射XAFS法による1-decyl-3-methylimidazolium bromide(DeMIMB)の表面吸着膜とミセル表面における対イオンの溶媒和構造単量体領域から臨界ミセル濃度以上の領域までの種々の濃度におけるスペクトルは等吸収点をもち、DeMIMカチオンとは相関のないfreeな状態と相関のあるboundである状態を表すスペクトルの和として表すことができることが示された。詳細な解析により、freeは6水和状態にあり、boundは4水和に水和数が減少し、第2配位圏でDeMIMカチオンの炭素あるいは窒素に配位した状態であることが示された。このことから臭化物イオンは、通常のカチオン界面活性剤系のように、イミダゾリウムカチオンから水溶液内部へ向かう電気2重層に分布していることが明らかとなった。BF4イオンの場合にはDeMIMカチオンとは同じ平面状にあると示唆されていることから、表面でのアニオンの位置したがって表面構造は、アニオンにより大きく異なることが示された。2.HMIMBF4と1-ブタノール混合系の水溶液表面吸着のシナジズム吸着の相図と吸着の剰余ギブズエネルギーから、HMIMBF4と1-ブタノールの分子間には有効なイオンー双極子相互作用が働かないことが明らかになった。この結果は次の対イオンの配置を支持している:イミダゾリウム陽イオンは対アニオンとほぼ同一平面上にあってイオンペアーを形成し、ブタノールヒドロキシル基の双極子との相互作用が有効に働かない。またの値は表面張力の低下に伴い正からゼロに近づくことから、吸着量が増加するとブタノールとイミダゾリウム陽イオンが有効になってくる。すなわちイミダゾリウム陽イオンは対アニオンとほぼ同一平面上にあってイオンペアーを形成し、通常のイオン性界面活性剤の電気2重層と異なる構造をもつという描像を支持している。
著者
上條 俊介
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2009

本研究では、公共空間における歩行者監視および道路空間における安全運転支援をアプリケーションとして、実価値のあるセンサーネットワークを開発することを目的としている。歩行者監視のための画像センサーネットワークの開発では、人物監視においては、挙動不審人物を検出し、画像センサーネットワークに渡って自動追跡するための自律分散型の画像センサーネットワークを開発することを目的としている。今年度は、まず時空間MRFモデルを適用してオクルージョンに頑健な人物の領域分割およびトラッキングを行い、その結果から人物の歩行軌跡を得る技術を開発した。オクルージョンの際には、システムが学習した画像上での人物の高さ情報から、足元を推定して正確な軌跡を得ることができた。次に、人物領域のシルエットを画像の水平および垂直軸に投影することで16次元データ化し、これらをクラスタ分類することで、人物のシルエット識別を行う手法を開発した。同じ姿勢を取っている人物でも撮影する方向によってシルエットが異なる問題を解決するため、光軸を90度異なる方向に設置した2台のカメラで撮影されたシルエットを比較することで、正しい人物姿勢を推定する手法を開発した。カメラ間の同一人物マッチングについては、4点マーカーを用いた簡便なカメラ間座標キャリブレーションにより、人物座標変換を行うことで、マッチングが可能となった。最後に、人物の軌跡および姿勢の時系列変化、ならびに複数人物間の相関関係をシナリオ化することで、酔客、けんか、病気、荷物置き去り等の様々な事象を検知するためのフレームワークを開発した。これにより、様々なシーンに汎用的に適用可能な人物行動把握技術が開発されたと考えられる。
著者
橋本 健夫 川上 昭吾 戸北 凱惟 堀 哲夫 人見 久城 渡邉 重義 磯崎 哲夫
出版者
長崎大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

社会の成熟に伴って多様な価値観が存在するようになった。その中で一般に勝ち組、負け組と言われる二層が存在するようになり、それが教育格差をも生じさせている。また、学校教育においては、いじめ、不登校などの問題が深刻になるとともに、数学や理科における学力の低下という新たな課題も生まれてきている。特に後者は、科学技術創造立国を掲げる日本社会にとって憂慮すべき課題である。本研究は、それらの指摘を踏まえた上で、科学技術創造立国を支える学校教育のあり方を追究したいと考えた。平成17年度は社会が学校に何を期待するかや諸外国の学校事情等を調査し分析した。本年度においては次の調査等を行い、研究テーマに迫りたいと考えた。(1)子ども達の理科に対する意識調査(2)韓国や中国等における自然科学教育の実態調査(3)日本・中国・韓国の研究者を招いてのシンポジウムの開催これらを総合的に討議した結果、自然科学をバックボーンにした従来の理科学習に代わって職業観の育成等を組み込んだ理科学習や、現行の小・中・高の学校制度を見直す時期に来ているとの認識で一致した。この認識の是非を小中学校の教員に尋ねたところ、半数以上の教員が賛同を示した。二年間の研究期間ではあったが、学校教育の中における自然科学教育の課題を浮かび上がらせ、その解決に向けた提案をすることができたと考えている。
著者
岡本 浩二
出版者
東京工業大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

【平成21年度】マイトファジー・タンパク質Atg32とAtg8およびAtg11との相互作用の解析1. Atg32のドメイン解析マイトファジーに必須なタンパク質Atg32の膜貫通型タンパク質のトポロジー、マイトファジーに働くドメイン、ミトコンドリア標的化シグナル等を、生化学的アッセイ、蛍光顕微鏡観察等の手法により解析した結果、Atg32はN末端側のドメインを細胞質側に露出したトポロジーをとること、C末端近傍の膜貫通ドメインとC末端側ドメインがミトコンドリア標的化に必要であることがわかった。また、マイトファジー活性には、細胞質側ドメインが必要かつ十分であることが示唆された。2. タンパク質間相互作用を特異的に破壊するatg32, atg8およびatg11変異の単の離と変異タンパク質の機能能解析部位特異的変異導入法と免疫共沈降アッセイにより、Atg32-Atg11のタンパク質間相互作用が特異的に阻害されたatg32の変異を単離した。この変異タンパク質を発現した細胞では、マイトファジーが顕著に抑制されることから、Atg32-Atg11間相互作用がAtg32の機能発現に重要であることが示唆される。
著者
藤田 一郎
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

V4野において、相対視差の検出と両眼大域対応の計算がなされており、また個々の細胞の活動が、動物の示す奥行き判断と相関すること、背景からわずかに手前に飛び出した視覚特徴を検出するのに適した性質を持つことを見出した。また、下側頭葉皮質の細胞の活動発火頻度が、「形の見え」という意識的な知覚と相関して変動することを見出した。これらの発見により、物体および奥行きの知覚に関わる神経機構の理解が大きく進展した。
著者
喜多 千草
出版者
関西大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

研究二年目の19年度も、前年度に引き続き、(1)聞き取り調査および一次資料の電子化と、(2)事例の分析と報告のふたつの柱をたてて研究を行った。1.国鉄のみどりの窓口システム開発については、設計を行った大野豊氏、実装を行った谷恭彦氏、国鉄の事務部門から開発を支えた石原嘉夫氏に聞き取り調査を行い、特に大野氏・石原氏からは貴重な資料をお借りすることができたので、これを電子化した。また、JR総研の図書館等をご紹介いただき、情報技術の導入に関する資料を閲覧することができた。こうした研究の進捗により、みどりの窓口システム開発の初期の動きに関して、従来の研究をさらに深める意義深い資料収集が行えた。2.研究実施計画に挙げていた国際学会での論文発表を、2007年秋には二件行うことができた。特定領域研究の第三回国際シンポジウム(2007年12月14日から15日)では、自分の研究課題についての発表に加え、資料の電子化やOCRでの情報処理の経験を生かして、パネルディスカッション「技術革新研究における情報技術活用」のコーディネートおよびモデレートを行った。3.さらに、本特定領域で行った研究をもとにモデル化を行い、その成果を情報処理学会論文誌に発表することになった。(査読を経て採録が決定し、最終校正も済み、4月に発行される。)本特定領域では、公募研究を行っている研究者間の交流の場がたびたび設けられ、互いの研究成果を発表し合う中で刺激を受けることができた。特に、上記3に挙げたシンポジウムでは、この領域内で情報技術活用を行っている研究者と、領域外で情報技術活用を進めている研究者を合わせてのパネルディスカッションをコーディネートすることができ、大変有意義であった。
著者
笹月 健彦 石川 冬木 野田 哲生 鎌滝 哲也 伊東 恭悟 丹羽 太貫 中村 祐輔
出版者
国立国際医療センター(研究所)
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
1999

本領域は、発がんの分子機構の解明を第一の目標とし、第二に細胞のがん化防御およびがん化した細胞の排除機構の解明を目指し、併せてがん研究の最終目標であるがん克服のための道を拓くことを目的とした。発がんの分子機能の解明のために、研究対象を分子・細胞レベル、臓器・個体レベル、家系・集団レベルにそれぞれ設定し、遺伝子および染色体の構造の安定性と機能発現のダイナミクスに関する恒常性維持機構、内的外的発がん要因によるこれらのゲノム維持機構の破綻と細胞のがん化の関連、新しい発がん関連遺伝子の同定および既知遺伝子も含めたこれら遺伝子群の変異に引き続く多段階発がんの分子細胞生物学的機構、を解明することを目指した。一方、発がん防御の分子機構の解明に当たっては、生体が備え持つ数々の恒常性維持機構によるがん化の防御、免疫系によるがん細胞の排除機構を分子レベルで解明することを目指した。DNA二本鎖切断によるチェックポイントの活性化、二本鎖切断の相同組換え機構と、それらの破綻と発がんの関係が明らかにされた。ヘリコバクター・ピロリ菌と胃がんとの関係が確立され、そのがん化機構の鍵となる分子が発見された。動物個体を用いてのがん関連遺伝子の機能解析により、Wntシグナル、Shhシグナル、PI3-Akt経路といったシグナル伝達系が生体内において果たしている役割と発がんにおけるこれらの活性化の重要性も明らかとなった。胃がん発症に関与する遺伝子の候補領域が同定され、21番染色体候補領域から胃がん感受性遺伝子が同定された。多数の癌関連抗原を同定すると同時に、NK細胞活性制御に関与する分子同定の分野やTヘルパー細胞の癌排除における役割、NK細胞やマクロファージなどの自然免疫系の特異免疫誘導における役割の分子レベルの解明も行われ、これら基礎研究成果の臨床応用のための探索的臨床研究の進展もみられた。
著者
中内 啓光 丹羽 仁史 横田 崇 須田 年生 岡野 栄之 石川 冬木
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

本特定領域研究では1)細胞の初期化の機構の解明、2)幹細胞の未分化性維持機構、3)幹細胞の多様性と可塑性の三つの柱を中心に5年間にわたり研究を進めた。ES細胞、組織幹細胞のそれぞれにおいて研究が大きく進展したが、最近2年間に本特定領域研究の分担研究者である山中伸弥教授らによって遺伝子導入によって体細胞を多能性幹細胞に変換する技術が開発され、再生医療・幹細胞研究に大きな転換を迎える事態となったことは特筆すべきことである。厳しいガイドラインのため本邦においてはヒトES細胞研究が諸外国と比して進展に遅れていたが、倫理的問題を含まないiPS細胞技術の登場により、多能性幹細胞の分野にも今後大きな研究の進展が見込まれる。そこで昨年度は新しく開発されたiPS細胞産生技術を中心に「幹細胞研究を支える新しいテクノロジー」というテーマのもとでシンポジウムを開催した。産業界を含む300名近い研究者が参加し意見を交換することにより、本研究領域における研究で得られた知見を速やかに共有することができた。また、総括班メンバーを中心に今後の幹細胞研究の進め方などについても討議がなされた。
著者
鶴尾 隆 笹月 健彦 高井 義美 中村 祐輔 田島 和雄 谷口 維紹
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
1999

総括班:研究期間内の毎年2回のがん特定領域6領域合同での研究代表者会議、夏、冬のシンポジウムを行った。また、がん、ゲノム、脳のミレニアム3領域合同でのシンポジウム、トランスレーショナルリサーチワークショップ、がん特定国際シンポジウムを開催した。総括班会議を開催し各領域の研究調整及び推進を行った。平成17年度には、「特定領域研究がん」の主要な成果を、次代を担う学生、若い研究者などを対象とした「がん研究のいま」シリーズとして、「発がんの分子機構と防御」「がん細胞の生物学」「がんの診断と治療」「がんの疫学」の4冊にまとめた本を刊行した。研究資材委員会:総分与数9300に達する腫瘍細胞株の供給を行ってきた。DNAバンクを設立し発足させる準備が進んでいる。スクリーニング委員会:9種の異なるスクリーニング系からなる抗がん活性評価系によって、これまでに約1500個の化合物を評価した結果、様々な特徴を持つ新規抗がん剤候補物質を見出した。研究交流委員会:290件の派遣を行い、日独、日仏、日韓、日中のワークショップを開催した。若手支援委員会:若手研究者ワークショップを開催し、延べ542名の参加者を得、18件の共同研究を採択した。がんゲノム委員会:臨床がん検体988症例、ヌードマウス移植腫瘍85検体(9臓器由来)、がん細胞株39株について遺伝子の発現情報解析を終了し、データベース化を行っている。腫瘍バンクについては、合計8000症例近い腫瘍組織とDNAが収集されて、平成14年度より研究者に配付している。動物委員会:末分化リンパ球NKT細胞の核を用いてのクローンマウスの作製に成功した。また、新しい遺伝子トラップベクターを開発した。分子標的治療委員会:耐性克服の研究を進めるとともに、イマチニブ、ゲフィチニブについては、その臨床効果と遺伝子発現パターンについての研究が進展し、臨床効果予測に有効な遺伝子群の同定に成功した。
著者
八木 清
出版者
山梨大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2010

本研究課題は非調和振動理論を開発し,水素結合系の動的挙動の解明を目的としている。これまでに我々は孤立分子系に対する振動理論として振動擬縮退摂動論や瞬間振動状態解析法を開発してきた。本年度は,これまでの理論を周期系へ拡張した。エネルギーがサイズに対して無矛盾となる条件を見出し,それに基づき理論を定式化した。この方法をプログラムに実装し,高分子(ポリエチレン,ポリアセチレン)へ応用した。この方法により高分子の赤外スペクトルを高精度に求めることが初めて可能となった。また,非調和ポテンシャルを効率的に構築する方法論を新たに開発した。3次,4次の非調和定数からカップリングの強い振動モードを重点的に構築することで高精度かつ高効率に非調和性を評価することができる。この評価により,カップリングが強いと判断されたカップリング項は高精度な手法で構築し、一方、弱いと判断されたカップリングはレベルの低い手法で構築、あるいは無視することで、全体の精度を損なうことなく、効率よく計算することが可能となった。また,振動モードを局在化させることで効率的にポテンシャルを構築できることを理論的に明らかにした。系が大きくなるに従い基準振動モードは一般的に非局在化する傾向にある。これは系の様々なモードが偶然縮退するためであるが,このような広がった振動モードを用いてポテンシャルを多体展開すると収束が遅く不利であることを指摘した。この解決方法として,局在化した振動モードを用いることを提案した。従来の方法では異性体間におけるIRスペクトルの変化の方向性すら記述できず、定性的に破綻していたが、新しい方法は変化の方向性を正しく再現し、さらに実験精度に迫る計算が可能であることが分かった。
著者
福田 敦夫
出版者
浜松医科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2009

1.タウリン作用へのリン酸化/脱リン酸化の関与の検討と細胞内情報伝達分子の同定:すでにリン酸化酵素阻害剤でタウリンによるKCC2機能抑制の解除が起こることを確認していたので、想定されるリン酸化部位に変異を導入したKCC2 mutantを作製して実験に供した。ラットを用い、in vitroでのタウリンによるKCC2蛋白機能抑制は消失し、in vivoではwildでは起こらない細胞移動の抑制を示した。タウリンが活性化するリン酸化酵素と基質であるKCC2のリン酸化部位を同定した。2.Ca^<2+>振動を指標としたモーダルシフトの発生部位の解析:胎齢17.5日のマウス大脳皮質スライスでタウリントランスポーター阻害剤(GES)、GABAトランスポーター阻害剤(ニペコチン酸)を投与して、移動中の細胞(電気穿孔法でmRFP導入)の示す自発的Ca^<2+> transientsに対する影響を比較した。皮質板ではニペコチン酸が、サブプレートではGESがよりCa^<2+>振動の頻度を上昇させる傾向を示したが、中間帯ではCa^<2+> transientsそのものが少なくGESも作用しなかった。GABAイメージングでGABA放出部位は脳室下帯と中間帯に多く、これらの場所に少なくサブプレートに多いタウリンの空間分布とは相反的であった。上の結果から、タウリンとGABAはCa^<2+>振動の変調と移動モードのシフトに各々異なる役割で関与する可能性が考えられた。3.母体拘束ストレスが胎仔脳タウリン量とモーダルシフトに与える影響:妊娠15日目のマウスに、拘束・光刺激ストレスを一日に3回、妊娠17日目まで3日間続けた。胎仔大脳皮質のタウリン含有量がストレス群で減少傾向にあった(p-0.077)。しかし、GABA、グルタミン酸の含有量に変化はなかった。さらに、皮質板細胞の発生や細胞移動を観察したところ、全く影響を受けていなかった。その一方で、GABA細胞は有意にその発生数が減少していた。
著者
高木 淳一 岩崎 憲治 禾 晃和 禾 晃和 安井 典久
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

細胞が細胞外環境を認識する際の反応について、X線結晶構造解析による原子分解能構造と、電子顕微鏡イメージングによる分子分解能解析を組み合わせて研究を行った。我々の脳を形作るのに必要なリーリンシグナルや、骨の形成やがんに関わるWntシグナル授受のしくみの理解がすすみ、ニューロン同士が連絡するシナプス結合の本当の姿や細胞同士が接着するメカニズムの詳細が明らかになり、ウイルスがイネに感染する様子をそのまま可視化することなどにも成功した。
著者
小室 一成 瀧原 圭子 松原 弘明 斉藤 能彦 室原 豊明 福田 恵一
出版者
千葉大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

本研究の目標である心不全の病態解明と新たな治療法の確立について多角的に研究を推進できたと考えられる。特にマウスの心機能解析法(心臓カテーテル検査、心臓エコー検査)を確立させたことは、我が国全体における心機能解析技術の飛躍的な向上に寄与できだと思われる。また、本研究代表者や研究分担者らがこれまで世界的にもリードしてきた研究対象であるナトリウム利尿ペプチド、アンジオテンシンII、サイトカイン、三量体G蛋白質、などに着目し、これらの遺伝子改変マウスを作製し実験に用いることができた。心機能に関与する遺伝子をターゲットとした遺伝子改変マウスの解析をおこなうことで心不全の病態を分子レベルで解明した。さらにこれらのマウスに胸部大動脈の縮窄または冠動脈の結紮などの手術を施し、圧負荷心肥大モデル、心筋梗塞モデル、虚血再灌流モデルなどを作製した際の心不全の発症・進展に対する影響も検討した。得られた知見は心不全の発症機序のみならず、心筋細胞が正常機能を維持するための機序についても新しい概念を与えた。心不全発症の分子機序を明らかにすることで心不全の新たな治療基盤を打ち立てることができた。また、心筋細胞の分化・発生の機序に関する研究をおこない、心筋細胞の分化に必須の転写因子や成長因子などを同定した。複数の転写因子を同時に発現させることにより心筋細胞の分化が誘導されることを明らかにした。細胞治療に関する研究では幹細胞生物学と再生医学、心臓病学の領域において先駆的な業績をあげ、国内外における心筋細胞の再生研究に大きな進歩をもたらした。
著者
永井 美之 審良 静男 菅村 和夫 柳 雄介 吉開 泰信 堀井 俊宏 光山 正雄 山本 直樹
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

本特定領域は感染と宿主応答の分子論的な最高度の基礎研究を推進し、感染症制御のための技術を開発することを目的とする。総括班は本特定領域研究の目的を厳正かつ遅滞なく達成するために組織された。総括班は班員に理論的、実質的なガイドラインを提示し、且つ、彼らの成果を評価したが、単に研究の質を問うのみではなく、微生物学と免疫学のように異なる研究分野の研究者間の共同研究を支援してきた。そのため、総括班は毎年全体班会議を開催した。会議では各班員が各年度の研究成果を報告し、その評価を受けた。さらに、総括班は、遺伝子操作マウスの作成、霊長類を用いた研究の支援を行うとともに、若手研究者を育成するために、沖縄フォーラムをはじめとする種々の会議を主催した。平成16年、17年度は顕著な研究成果を上げつつある45研究課題を計画研究とし、公募研究課題は100課題を採択した。研究期間中に審査制度のある国際的学術雑誌に3,993編の掲載または掲載確定の論文が公表された。特にImpact Factor (IF)が高いとされるNatureに27編、Scienceには17編が掲載または掲載確定された。その他、IF 10.000以上の一般学術誌では、EMBOに35編、JEMに101編、PNASに87編が掲載または掲載が確定された。これらの研究業績には微生物学者と免疫学者の共同研究による優れた業績も少なからず含まれている。また、これらの業績は総括班が共催する「あわじしま感染症・免疫学国際フォーラム」(平成14年、15年)において発表された。平成17年度には国際シンポジウム「Molecular Bases Underlying Microbial Infections and the Host Responses」を開催し、5年間の成果を発信した。さらに、基礎研究の成果を社会に還元するため、抗マラリア薬N86化合物とDNA/センダイベクター骨格のAIDSワクチンの前臨床試験及び、SE36マラリアワクチンと抗エイズ薬CCR5阻害剤(AK602)の第I相臨床試験を実施した。
著者
前川 喜久雄 山崎 誠 松本 裕治 傳 康晴 田野村 忠温 砂川 有里子 田中 牧郎 荻野 綱男 奥村 学 斎藤 博昭 柴崎 秀子 新納 浩幸 仁科 喜久子 宇津呂 武仁 関 洋平 小原 京子 木戸 冬子
出版者
大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

当初の予定どおりに、5000万語規模の現代日本語書籍均衡コーパスを構築して2011年に公開した。同時に構築途上のコーパスを利用しながら、コーパス日本語学の確立にむけた研究を多方面で推進し、若手研究所の育成にも努めた。現在、約200名規模の研究コミュニティーが成立しており、本領域終了後も定期的にワークショップを開催するなど活発に活動を続けている。
著者
溝口 博
出版者
東京理科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は,実時間の動画像処理と音響信号処理とを融合させることにより,対象とする人の周りでのみ局所的に音のやりとりができる,新しい自然で非束縛型のヒューマンインタフェースを実現することにある.具体的には,「人の存在を認識」してその人に注意を向け,「聞き耳をたてる」形で音声を拾い,「耳元で語りかける」形で音を聴かせる技術の確立を目指す.今年度は,昨年度に続き「耳元で語りかける」技術に注力すると共に,「人の存在を認識」する技術にも着手した.「耳元で語りかける」技術に関しては,昨年度,直交2軸16台(8×2)スピーカー(SP)アレイを用いスポット状高音圧分布の生成に成功した.ただし,これは一カ所のみであった.この成果を踏まえて,今年度はSP128台(32×4)の大規模SPアレイを構築し,別内容音声の複数箇所同時送出に成功した.すなわち,同時に複数の人の耳元で「それぞれ別の内容を語りかける」ことを可能とした.「人の存在を認識」して注意を向ける技術に関しては,複数台のTVカメラと実時間顔追跡視覚とを組合せ,対象とする人が広い範囲で動いてもそれに追従してその人の位置座標を得ることに成功した.今年度の具体的内容は次のとおりである.1)128チャンネル大規模SPアレイの構築,2)これを用いた別内容音声の複数箇所同時送出実験,および3)複数台カメラと顔追跡視覚との組合せによる広範囲実時間顔追跡実験.1)と2)は「耳元で語りかける」技術の一環である.正方形状配置の128ch大規模SPアレイにより,別内容音声のサウンドスポットを4カ所同時に生成できた.一方,3)は「人の存在を認識」する技術の一環である.複数台カメラと実時間顔追跡視覚とを用いることで,対象人物が動いても,広い範囲でその人の顔を追跡,顔位置の情報を得ることができた.
著者
宮本 元 眞鍋 昇 宮川 恒 杉本 実紀 眞鍋 昇 九郎丸 正道 奥田 潔 木曾 康郎 宮本 元
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

人類が200年以上にわたって創り出してきた農薬、食品添加物等の多くの化合物が、生体の内分泌系のシグナル伝達を攪乱する内分泌攪乱物質として人類の生存を脅かすことが分かってきた。新規な原理に基づいた非侵襲的かつリアルタイムに生殖毒性を評価できる技術システムを構築し、従来法とは比較できない精度で速やかに生殖毒性を評価できる先端技術を確立することで、化合物の生殖毒性を的確に評価できる未来を開拓する基盤技術を開発することが本研究の目的である。本年度は、内分泌撹乱物質とホルモン受容体の結合様式、受容体分子の立体構造変化等を解析し、環境系に存在する様々な化合物の生殖毒性をリアルタイムに評価するシステムの確立を目指して研究を進めた。麻酔下の生きている動物をNMRシグナルを定量検出できる特殊な生体NMRプローブに保定し、胎児におけるNMRシグナルを部位特異的にリアルタイムに観測して、このデータをワークステーションにて3次元立体画像データに再構築して解析できる測定アプリケーションの作成と最適測定条件の決定を行った。毒性発現機構の生殖生理学的解明のため、遺伝子工学的にオーファン受容体に様々な構造変異を誘導し、化合物と受容体の相互的結合特性をNMRにて観測して分子構造学的に毒性を予測する技術を開発している。加えて、卵母細胞を包み込んで保育する卵胞は遺伝子に制御された細胞死によって選択されているが、これを調節している細胞死受容体のシグナルを制御している細胞内アポトーシス阻害因子(cFLIP)を新たに見いだし、これを介した細胞死シグナル伝達機構を解明し、分子レベルで化合物を評価する系を開発した。