著者
栗原 良将 加藤 潔 石川 正 藤本 順平 近 匡
出版者
高エネルギー加速器研究機構
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
1999

本グループにより開発されている、GRACEと呼ばれるファインマン振幅の自動生成プログラムを改良し、QCD(強い相互作用を記述する場の量子力学的理論)の高次補正効果を取り入れたイベント・ジェネレータ(仮想事象生成プログラム)を作成するための研究を継続して行った。平成14年度までに、QCDの高次効果を含む計算を効率よく行うためのGRACEの改良を行い,3点相互作用までのループ補正を含んだ実効相互作用関数をGRACEに加えるとともに、QCDに特有の赤外発散を取り除き安定した数値計算を行うための「主要対数項差し引き法」を開発した。引き続き,平成15年度においては4点ループ補正(ボックス・グラフ)の計算を行うための開発を行った。4点ループ積分では,次元正規化法により赤外発散を取り除く方法を採用し,そのための積分公式を用意した。これは,複雑な分子を持つループ積分を解析的に行い,超幾何関数で表現するもので,この超幾何関数を次元正規化法による特異点(極)の周りで展開することにより,必要な積分の値を得ることができる。従来の方法に比べ、計算時間が短く、数値的に安定となる利点がある。また,GRACEによる散乱振幅の生成も,次元正規化法に適合するように改良し,ボックス・グラフを含むループ補正の振幅を自動的に生成できるようになった。現在,この方法を,格子+ジェット生成反応や重いボソン(Wボソン・Zボソン)+ジェット生成反応に応用し,ループ補正を含んだイベント・ジェネレーターの開発を行っている。また,ツリー近似によるイベント・ジェネレーターであるGR@PPAにおいても,取り扱うプロセスの数を増やして,より実用的なものにして,広く実験グループに公開した。
著者
淺間 一 太田 順 土屋 和雄 伊藤 宏司 矢野 雅文 青沼 仁志 大須賀 公一 高草木 薫 太田 順
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

計画班および公募班が,本領域の特徴とする生工連携がスムーズにかつ効果的に行えるように,班間の連携を促進した.また,国際シンポジウム,ワークショップの開催,非公開シンポジウムの開催,内部評価の実施,国際会議・国内学会講演会などでのオーガナイズドセッションの企画,移動知教科書シリーズ出版企画,若手の会の支援,ホームページの更新,研究成果・活動記録に関するデータベースの作成などの広報,報告書の作成などを行った.
著者
小林 康
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

これまで解剖学的、あるいは断片的な生理学的知見より脳幹のアセチルコリン作動性ニューロンの核である脚橋被蓋核(PPTN)が報酬に基づく学習や動機付けの形成に必要であることが明らかにされてきた。眼前のいくつかの場所に一定時間、光点を順番に呈示すると、ヒトやサルは光点を一定時間注視し、新しい光点があわわれると、その光点を標的として衝動性眼球運動(サッカード)とよばれる非常に速い眼球運動で視野移動を行う。注視中に新しい標的が現れてからサッカードが起きるまでの反応時間は空間的注意や動機付けと関係していることが良く知られているが、たとえばサルが「どの点に向かって」、あるいは「いつサッカードするのか」ということは誤差信号や報酬による学習によって系統的に修正され得るものと思われる。学習には外部から与えられる誤差信号、報酬と内的状態(報酬や誤差信号の履歴による動物の動機付けや空間的注意)が重要な要素となるはずであるが、これら要素の相互関係は明らかにされていなかった。サルの視覚誘導性サッカード課題において、課題成功後に与えられる報酬量を増加させると課題の成功率が上昇すると同時に課題開始時に点灯する注視点へのサッカードの反応時間が減少すると同時にPPTNニューロンの注視点点灯時の持続的応答が上昇するという実験結果を得た。この反応は課題の遂行度合い〔成功率〕という動機付けや課題に対する注意を反映する指標と密接に関係していると思われる。さらにこれらのニューロンはサッカード運動時や課題後の報酬に対して直接あるいは予測的に反応することを明らかにした。この結果は単一PPTNニューロン上で誤差信号、報酬信号、動機付けに関する情報が収束することを示しており、誤差信号や報酬に基づく学習の際に必要な、異種感覚情報の統合にPPTNを含む神経回路が重要な役割を果たしていることを示していると思われる。
著者
木村 昭郎 原田 浩徳 大瀧 慈
出版者
広島大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

原爆被爆者の高令化に伴い骨髄異形成症侯群(MDS)の増加がみられているが、広島市内の4病院において過去15年間に診断されたMDSをリストアップし、87例の被爆者MDSを集積した。被爆者情報は研究代表者の所属する広島大学・原医研が構築した被爆者データーベース(13万人)によって確認し、個人骨髄線量は当研究所が構築したABS93Dによって検索し、放射線被曝による発症相対リスクの統計学的解析をすすめている。予備的結果としては、以前院内統計によって得られた1Svあたり2.5よりさらに高い値が得られている。次に、被爆者MDSでは白血病関連遺伝子AML1遺伝子のラントドメインに高頻度に点突然変異を認め、変異を認めた例の被ばく線量は比較的低線量と考えられた。そこで、標本等の試料を過去にさかのぼって収集し、被爆者10例を追加して解析をすすめた。また、AML1遺伝子のラントドメインよりC末端側についても、非被爆者を含めて点突然変異を5例に見出した。ラントドメイン以外に変異を見い出したのは最初であり、このうちの1例は点突然変異により発現されるAML1分子は正常のものよりも大であった。AML1の変異は放射線誘発MDSに特異的である可能性を有しておりAML1変異と被爆との関係を明らかにすることで、放射線誘発MDSの発症機構を解明することが出来ると考えられる。
著者
広田 亨
出版者
(財)癌研究会
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

動原体は、細胞分裂期に染色体に形成される構造物で、正確な染色体分配監視機構の、いわば最終検問である「紡錘体形成チェックポイント」の起点として中心的な役割を担っている。本研究では、がん細胞の特徴の一つである「染色体不安定性」の病態を明らかにするために、生細胞の顕微鏡的解析によって本チェックポイントの定量化を目的とし、がん細胞におけるチェックポイントの脆弱性と染色体不安定性との関連性を検討することに繋げることを目標としている。動原体が紡錘体により牽引されたことをどのようにして感知するのか、古くよりそのセンサーの存在が目されているものの、その本体は全く分かっていない。われわれは、この命題にアプローチすべく、動原体にかかる力によって動原体の形の変化をモニターすることから開始した。即ち、動原体の内側よりに存在するCENP-Aとそれより外側に局在するMis12を、それぞれ緑色、赤色蛍光で標識した、"張力センサー細胞"なる細胞を作成した。この細胞を観察した結果、動原体中のCENP-AとMis12の蛍光は極めてダイナミックに別れたり重なったりすることが観察され、動原体は弾力性を有する構造体であり、中期の間、伸張をくりかえしていることが判明した.われわれは、染色体構築因子コンデンシンIのノックダウン細胞では、後期開始が遅延することを報告したが(Hirota, et. Al.,2004)、この細胞を調べると、動原体の伸張頻度が著しく低下していることが分かった。コンデンシンIのノックダウンによるセントロメアの脆弱化が、動原体にかかる張力の発生を妨げてために、紡錘体チェックポイントが稼働していると考えられた。これらの観察結果は、張力を検出するセンサーは動原体の中に存在していることを示唆しており、現在、チェックポイント機能との関連性を調べている(Uchida et a1.,未発表)。
著者
中嶋 隆藏
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

出版物としての嘉興大蔵経が、(1)どのような目的のもとどのような計画で出版されるようになったのか、その出版費用はどのようにして工面されたのか、出版を推進した人物は表面的には誰であり、実質的には誰であるか、(2)出版に至るまでの具体的経過(定本の確定、浄書、刻印、校正、刊行)はどのようなものか、頒布方法はどのようなものか、刊行された大蔵経が事後どれほどの影響を持ったのか、こういった様々な事情を具体的に跡づけることを研究の目標とした。(1)の諸問題については『刻蔵縁起』所収の諸文献がが有力な資料を提供してくれる。これによって検討した結果、次のような事実が明らかになった。末法のただ中を生きるすべての人々にくまなく真の仏教を認識させそれぞれの情況と資質に応じて仏法の実践を勧め悟りの境地へ向かわせるために、廉価で扱いやすい方冊版大蔵経を提供するというのが刊行の目的である。出版費は協賛者の醸金によるとされたが、有力信者の大口寄付を主として早期刊行を目指すか、無名信者の貧者の一燈を主とし刊行の遅延もやむを得ないとするかで見解が分かれた。表面上の推進者と実質上の推進者との意見・方針の不一致が顕在化した。(2)の諸問題については、『嘉興蔵目録』と各典籍巻末の刊記が有力な資料を提供してくれる。これによって検討した結果、次のような事実が明らかになった。定本の確定に至るまでの過程は、当初、厳密な規約によって統一的に処理されるべきであるという共通認識がされていたようであるが、その意識は時に弛緩したようで、少なくとも三度にわたって規約の確認が行われたにも拘わらず、結局一貫されなかった模様で、そのため大蔵経全体としての形式上の統一性を欠く結果を招いた。刊行には莫大な費用がかかったが頒布に際しては紙代、印刷代、製本代などの些少の印刷実費を負担すれば購入できるということで所期の目的は達成された。刊行された大蔵経がその後、中国の各種仏典刊行に際して必ずしも底本の役割を果たさなかったが、日本では、鉄眼の黄檗版大蔵経刊行において底本として採用された。
著者
畠山 昌則
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

ヘリコバクター・ピロリはIV型分泌機構を介して病原タンパク質CagAを胃上皮細胞内に注入する。本研究では、胃上皮細胞内に侵入したピロリ菌CagAが、SHP-2がんタンパク質ならびに細胞極性レギュレーターPAR1/MARKを脱制御することにより細胞を悪性化させることを明らかにした。さらに、ピロリ菌cagA遺伝子をゲノムに組み込んだ遺伝子改変マウスを用い、ピロリ菌CagAが初の細菌がんタンパク質であることを他に先駆けて証明した。さらに、CagAの分子多型と発がん活性の連関を試験管内ならびに個体レベルで明らかにした。
著者
上田 広美 三上 直光 岡田 知子 鈴木 玲子
出版者
東京外国語大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

研究代表者及び分担者は、定期的な研究会を開き、言語調査票作成のための基礎資料を選定した。調査地の公用語であるタイ、ラオス、カンボジア、ベトナムの4言語の基礎語彙に関して、意味的な差異の重要性についても検討し、また調査票の作成・公開方法についても協議した。その成果は、『東南アジア大陸部言語調査票』として平成15年3月に公開した。この調査票をもとに、3か所において危機に瀕した言語の調査を実施した。まず、2001年12月に、カンボジア、コンポンサオム州ヴィアルレニュ郡にて、サオチ(自称チュウン)語の基礎語彙の調査を行った。サオチ語はモン・クメール語族ペアル語派に属し、話者は統計では総数70名以下とされていたが、調査時にはサオチ語話者を含む世帯はわずか26世帯であり、その26世帯においても、家庭内の日常言語はクメール語であった。次に、2002年8・9月に、ラオス、ルアンナムター県ルアンナムター郡ルアン村において赤タイ語(タイ・カダイ諸語南西タイ語群)の基礎語彙を調査した。同村で赤タイ語を日常話す話者は約200名で、その数は減少の一途をたどっている。また赤タイ文字を書ける者は68歳の男性1名のみである。現在、ラオスの公用語であるラオ語の影響を強く受けてラオ語化が進んでいる。次に、2002年9月、ベトナム、ソンラー省にてカン語(1989年センサスによる話者数は3,921人)の調査を行った。カン語は系統上、モン・クメール諸語に属するが、タイ系言語(特に黒タイ語)の影響を強く受けており、基礎的語彙もその多くをタイ系言語から借用している。調査をもとに作成した基礎語彙表では、借用の可能性のある語彙については、できるだけそのことを明記するよう努めた。また、カン語の音韻分析も行った。以上の3言語の調査結果は、平成15年3月に『東南アジア大陸部諸言語に関する調査研究』として公開予定である(印刷中)。
著者
菅野 純夫 羽田 明 三木 哲郎 徳永 勝士 新川 詔夫 前田 忠計 成富 研二 三輪 史朗 福嶋 義光 林 健志 濱口 秀夫 五條堀 孝 笹月 健彦 矢崎 義雄
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

日本学術振興会未来開拓研究事業(平成16年度終了)、文部科学省特定領域研究「応用ゲノム」(平成16度-平成21年度)と合同で、国際シンポジウム「ゲノム科学による疾患の解明-ゲノム科学の明日の医学へのインパクト」及び市民講座「ゲノム科学と社会」を平成18年1月17日-1月21日に行なった。国際シンポジウムの発表者は未来開拓5人、本特定領域6人、応用ゲノム3人、海外招待講演者9人であった。市民講座は、科学者側6名に対し、国際基督教大学の村上陽一郎氏に一般講演をお願いし、最後にパネルディスカッションを行なった。参加者は延べ550人であった。また、文部科学省特定領域「ゲノム」4領域(統合、医科学、生物学、情報科学、平成16年度終了)合同の一般向け研究成果公開シンポジウム「ゲノムは何をどのように決めているのか?-生命システムの理解へ向けて-」を平成18年1月28,29日に行なった。本シンポジウムの構成は、セッション1:ゲノムから細胞システム(司会:高木利久)講演4題、セッション2:ゲノムから高次機能(司会:菅野純夫)講演6題、セッション3:ゲノムから人間、ヒトへの道(司会:小笠原直毅)講演7題を行い、さらに、小原雄治統合ゲノム代表の司会の下、門脇孝、小笠原直毅、漆原秀子、藤山秋佐夫、高木利久、加藤和人の各班員、各代表をパネリストとしてパネルディスカッションを行なった。参加者は延べ700人であった。また、本領域の最終的な報告書を作製した。
著者
小原 雄治 菅野 純夫 小笠原 直毅 高木 利久 五條堀 孝 吉川 寛 笹月 健彦
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

4領域全体の調整・推進、わが国のゲノム研究の機動的・有機的な研究推進のシステム作り、ピーク研究を支えるための基盤研究事業の支援、すそ野を広げるための研究支援事業、社会との接点などの活動をおこなった。主なものとして以下をあげる。研究支援委員会:シーケンシングセンター委員会では、4領域のゲノム/cDNAシーケンシングについて全面的に請け負った。原始紅藻、ホヤ、ゼニゴケY染色体、メダカゲノムについてホールゲノムショットガン法をベースにプラスミド、フォスミド、BAC配列を加えて決定した。また、日本産由来のマウス亜種MSM系統についてB6標準系統との比較のためにホールゲノムショットガンを1Xまで進め、1%程度のSNPsを見出した。cDNAについては、ミジンコ、線虫C.elegans、近縁線虫、ホヤ3種(カタユウレイボヤ、ユウレイボヤ、マボヤ、ヌタウナギ、メダカ、シクリッド、ドジョウ、アフリカツメガエル原始紅藻、細胞性粘菌、ヒメツリガネゴケ、ゼニゴケ、コムギ、オオムギ、アサガオをおこなった。リソース委員会では、本特定領域研究で作成された遺伝子クローンの維持・配布支援をおこなった。対外委員会:広報委員会では、ホームページ、メールニュース、シンポジウムなどの活動をおこない、対社会、対研究コミュニティへの情報公開・発信をおこなった。社会との接点委員会では、ゲノム科学と社会との双方向のやりとりの場として「ゲノムひろば」を3年にわたり計8回(東京、京都、福岡)開催し、高校生、一般市民との交流の実をあげた。また、医科学倫理問題の検討を進めた。
著者
小曽戸 洋 町 泉寿郎
出版者
(社)北里研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

当該研究の目的・計画にもとづき、平成15年度においては、平成14年度に引き続き、北里研究所・東洋医学総合研究所医史学研究部の管理下にある大塚修琴堂文庫・橋本龍雲文書・森枳園(立之)文書の書籍・文書類の修復を行った。冊子では約200冊、巻子・一枚物では50数点に及ぶ修理を終えた。修復技術は研究の結果、損傷の状態に適切に対応すべく新たな技法(糊噴霧法・表打ち法など)を開発し、道具・手法の改善によって作業能率も格段に向上した。目録作成作業としては、従来の資料群に加え、杉山検校遺徳顕彰会の杉山真伝流古医書、名古屋市立大学薬学部図書館大神文庫の整理を終え、目録データをコンピューターに入力した。また本年1月に当研究所に移管された(財)日本漢方医学研究所石原保秀文庫(東亜医学協会旧蔵書)の目録整理と補修作業にも着手した。前年度より行ってきた岡田昌春文書の名家自筆をはじめとする書簡・墨蹟資料の解読・翻字については主要なものは作業を終え、画像とともにコンピューター処理を行った。3月末には平成14〜15年度の研究成果を包括し、下記のような内容を含む報告書を作成・出版する。(1)修琴堂文庫、(2)岡田家文書、(3)多紀家文書、(4)森家文書、(5)浅井家文書、(6)橋本家文書、(7)長谷川文庫、(8)大神文庫、(9)杉山検校遺徳顕彰会古医書。以上については、それぞれ目録と調査所見および全体にわたる総合索引(著者名・書名)を付す。(10)伊藤鹿里文庫、(11)石黒不円文庫については調査所見を記す。この報告書に平成14〜15年度当該研究の成果は集約される。
著者
高田 礼人
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

フィロウイルスは霊長類に重篤な出血熱を引き起こし、その致死率は90%近くに及ぶこともある。マクロファージや樹状細胞および肝細胞はウイルスの生体内における標的細胞であり、これらの細胞への感染が病原性発現に関与していると考えられている。フィロウイルスの表面糖蛋白質GPはこれらの細胞に発現しているC型レクチンと結合してウイルスの侵入効率を上げることが知られている。本研究では、フィロウイルスのプロトタイプであるマールブルグウイルス(MARV)のC型レクチン介在性細胞侵入機構について、病原性の異なる2つの株を用いて解析を行った。MARVのGPを持つシュードタイプウイルスを、ヒトのガラクトース型C型レクチンhMGLまたは樹状細胞に発現するC型レクチンDC-SIGNを発現させたK562細胞に接種し、フローサイトメーターを用いてGFP陽性のウイルス感染細胞数から各細胞に対する感染価を測定した。霊長類に強い病原性を示すAngola株のGPを持つシュードタイプウイルスは、比較的弱い病原性のMusoke株のGPを持つものよりもレクチン発現細胞への感染性が高いことが判明した。また、547番目のアミノ酸(Angola株 : グリシン、Musoke株 : バリン)がレクチン介在性の細胞侵入効率を決定していることが明らかとなった。MARVの病原性とレクチン発現細胞への感染性との間に相関が見られたことから、C型レクチン介在性の細胞侵入効率はMARVの病原性に関与する因子の一つである可能性がある。同定された547番目のアミノ酸は細胞への吸着に重要とされているレセプター結合領域とは離れているが、fusion peptideの近傍である。したがって、レクチン介在性細胞侵入において、このアミノ酸がfusion peptideが露出するための立体構造変化や膜融合活性に重要であることが示唆された。
著者
新澤 秀則 大島 堅一 高村 ゆかり 橋本 征二 島村 健 羅 星仁 久保 はるか 松本 泰子 亀山 康子 亀山 康子
出版者
兵庫県立大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

気候変動枠組条約や京都議定書の締約国会議や補助機関会合にオブザーバー参加することによって, 交渉の進捗をつぶさに, かつ総合的に把握し, 合意の評価と, 今後の課題とその選択肢の比較評価をリアルタイムに提示することに一定の貢献をした。京都議定書の運用, 欧州連合, ドイツ, アメリカの政策動向を調査分析し, 国際枠組みに対する意味合いを考察した。政府以外のアクターとして, 欧州連合, 自治体, NGOを取り上げ, 条約交渉や合意したことの実施に関して果たす役割を, 具体的な事例にもとづいて明らかにすることができた。
著者
武藤 多津郎 山本 紘子 宮地 栄一
出版者
藤田保健衛生大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

我々はこれまで遺伝性アルツハイマー病(FAD)の原因遺伝子の一つであるプレセニリン1(PS1)の突然変異がもたらす脂質とくに糖脂質代謝への影響を明らかにし、それが神経細胞の情報伝達に如何なる影響を与えるのかを主に脂質ラフトの観点から研究を展開してきた.その結果現在まで下記のような事実を明らかにした.1)変異PS1の発現する神経芽細胞腫では、グルコシルセラミドのsteady state levelが著減しており、したがって全ての種類のガングリオシドもまた著減している.2)この異常は、同じ変異PS1を発現するトランスジェニックマウス脳組織を用いた解析でも確認された.3)これら異常の原因を詳細に調べたところ、グルコシルセラミド合成酵素蛋白量が変異PS1の発現により著明に減少することが明らかとなり、この変異PS1の有するγ-セクレターゼ活性が前記酵素を切断・分解している可能性が示唆された.4)さらに、最終年度ではこうした変異PS1を発現する神経芽細胞腫を用いてパッチクランプ法でイオンチャネル機能を及ぼす影響を調べたところ、変異型細胞ではNaチャネル機能大きな異常が存在することを見出した(論文作成中)5)また、上記のグルコシルセラミドの本症病態発現に於ける意義を探るため、この中性糖脂質に対する自己抗体を有する疾患を同定するためのスクリーニングを神経患者血清を用いて実施し、陽性となる疾患を同定した.これら疾患は何れも亜急性の記憶・認知機能障害を呈する疾患であった(FEBS Lett 2006)
著者
畠山 昌則 東 秀明
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

ヘリコバクター・ピロリ菌由来cagA遺伝子を胃上皮細胞に一過性導入・発現させる系を樹立した。発現されたCagAタンパク質は細胞内で細胞膜近傍に局在し、Srcファミリーキナーゼによりチロシンリン酸化を受けた。CagAはチロシンリン酸化依存的にSHP-2チロシンホスファターゼのSH2ドメインと特異的に結合し、この結合を介してSHP-2のホスファターゼ活性を増強した。また、CagA-SHP-2相互作用の結果、胃上皮細胞には細胞質の著しい進展で特徴付けられる形態的変化(hummingbird表現型)が誘導された。CagAのチロシンリン酸化に関わるEPIYAモチーフは単離される菌株ごとにその数ならびに周辺アミノ酸組成が変動する。欧米諸国で単離されるピロリ菌由来CagAのSHP-2結合活性ならびにhummingbird表現型誘導活性はEPIYAモチーフの数に比例した。一方、胃癌の多発する日本、韓国など東アジア諸国で単離されるピロリ菌CagAは、欧米型CagAと周辺アミノ酸を異にするEPIYAモチーフを有し、この東アジア特異的EPIYAモチーフは欧米型EPIYAモチーフに比べはるかに強いSHP-2結合能ならびにhummingbird表現型誘導活性を示した。CagAとチロシンリン酸化特異的に結合する第二の細胞性蛋白としてCskを同定した。CskはCagAとの結合により活性化され、Srcを抑制することによりCagAのリン酸化レベルを低下させた。CagAによるSHP-2の構成的活性化は胃上皮細胞のapoptosisを誘導することから、CagA-Csk相互作用はCagAの細胞毒性を現弱させるフィードバック制御に関与するものと推察された。
著者
片峰 茂
出版者
長崎大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

プリオン病病原体の実体にせまる手がかりとして多様なプリオン株(strain)の存在がある。プリオン株を遺伝的背景が同一の動物に接種した場合、それぞれの株に特異的な病態が惹起される。株の分子機構解明が病原体の実体解明に直結すると考えられる。先行するプリオン株感染が後続の異なるプリオン株感染を阻止するという現象が動物実験では報告されている。しかし免疫系の関与などその詳細は不明である。複数のプリオン株に感受性を示す培養細胞(GT1-7)を用いてプリオン株間の干渉現象を種々の株の組み合わせで検討した。とくに、感染細胞中にほとんどプロテアーゼ抵抗性の異常プリオンタンパク(PrP^<res>)の蓄積を来たさない弱毒株(SY)による強毒株(Chandler,22L, Fukuoka-1)感染阻止効果も検討したChandler感染細胞は後続のFukuoka-1感染に感受性であったが、22L感染はFukuoka-1感染を完全に阻止した。このことは、感染阻止現象が所謂ワクチン効果によるものではなく、感染細胞中での干渉機構によるものであることを強く示唆している。また、この干渉が株の組み合わせに規定されることも判明した。さらに、感染細胞中にほとんどPrP^<res>の蓄積を来たさないCJD由来弱毒株(SY)が強力にChandler,22L, Fukuoka-1など複数の強毒株(高レベルのPrP^<res>を有する)の感染を干渉することが明らかとなった。このことはPrP^<res>が干渉を規定する因子ではないことを意味している。干渉の分子機構解明を通してプリオン病原体の本体を明らかにすることが今後の課題となる。また、無毒化プリオン株を用いたBSEなどの強毒プリオン感染予防方策開発への途を開いた成果でもある。
著者
丹羽 仁史
出版者
特殊法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

我々は、未分化ES細胞からの栄養外胚葉およびtrophoblaststem (TS)細胞分化における転写因子Cdx-2の機能を解析するために、テトラサイクリンでOct-3/4の発現を制御可能なZHBTc4 ES細胞において、内在性Cdx-2遺伝子を、2回の相同遺伝子組み換えによって破壊した。この結果得られたCdx-2-null ES細胞は、親株のZHBTc4細胞と同様に、テトラサイクリン投与によって栄養外胚葉に分化し、FGF-4存在下にフイーダー細胞上でTS細胞に分化した。しかし、このCdx-2-null TS細胞は安定に自己複製できず、速やかに全て最終分化してしまった。そこで、これがCdx-2の発現に依存した現象であることを確認するために、このCdx-2-null ES細胞に、Tamoxifenで活性を調節できるCdx-2(Cdx-2ER)を導入し、これを安定に発現するES細胞株CNCRを樹立した。CNCR ES細胞は、Tamoxifen非存在下にテトラサイクリンを投与した場合では、TS細胞化したあと自己複製できなかったが、Tamoxifen存在下では、安定に自己複製出来るようになった。さらに、この条件でTamoxifenを除去すると、これらのTS細胞は速やかに分化してしまった。一方、このCNCR ES細胞にテトラサイクリン非存在下にTamoxifenを投与すると栄養外胚葉に分化し、さらにFGF-4/フィーダー細胞が存在するとTS細胞にも分化した。これらの結果は、Cdx-2の機能が、栄養外胚葉やTS細胞への分化に十分ではあるが必要ではないこと、しかし、その機能はTS細胞の自己複製には必須であることを示す。我々はさらに、Cdx-2非存在下にあって栄養外胚葉分化を制御する転写因子の候補としてTbr-2/Eomesodeminを同定し、現在その機能解析を進めている。
著者
丹羽 仁史
出版者
特殊法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

テトラサイクリンで転写因子Oct-3/4の発現を調節することが可能なES細胞ZHBTc4において、テトラサイクリン投与後0,24,48、72、96時間目の細胞からそれぞれRNAを精製し、これを始原生殖細胞由来cDNAマイクロアレイで解析し、全ての結果の収集を完了した(理化学研究所・阿部博士との共同研究)。一方で、これらのサンプルをNIHの洪博士との共同研究により、23K cDNAマイクロアレイを用いても解析を進めている。今後、全てのデータの収集が完了次第、その解析に着手する予定である。テトラサイクリンで転写因子Gata6の発現を調節することが可能なES細胞G6SKOについては、その発現によって誘導される細胞が壁側内胚葉であることを最終的に確認した(Fujikura J et al.,Genes Dev.,2002)ので、現在マイクロアレイ解析用の時系列RNAサンプルを収集している。また、最近ES細胞における遺伝子マーキングによる解析から、従来均一と考えられていたOct-3/4を発現する未分化細胞集団が、さらに遺伝子発現パターンの異なるサブグループに分離可能であることを見出した。現在、これらのサブグループを系統的に純化する方法の開発を進めており、その進捗を見た後に、マイクロアレイを用いた系統的遺伝子発現解析に進む予定である。マイクロアレイ法による遺伝子発現解析の有効性は、洪博士との共同研究によるES細胞とTS(trophoblast stem)細胞の遺伝子発現比較検討により確認することが出来ているので(Tanaka, TT et al., Genome Res.,2002)、今後同様の手法を用いた上記サンプルの解析結果から、細胞分化のメカニズムの一端が明らかにされるであろう。
著者
加藤 修雄
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

14-3-3タンパク質は、真核細胞生物に普遍的に高い保存性を持って存在し、Ser/Thr kinaseが関与する細胞内信号伝達経路上にあって、標的タンパク(200種以上)とリン酸化依存的に会合体を形成することで信号伝達を制御している。本課題においては、この14-3-3タンパク質複合体にさらに会合し、機能モデュレータとして働くジテルペン配糖体・コチレニン(CN)およびフシコクシン(FC)類を用いて信号伝達系を解析・制御することを主たる目的にした。CNおよびFCは、いずれも14-3-3たんぱく質とリン酸化たんぱく質(H^+-ATPase)の会合状態を安定化することで強い植物ホルモン様活性を示すことが知られているが、動物細胞に対する活性は異なり、前者のみがヒト前骨髄性白血病細胞(HL-60)に対して分化誘導活性を示す。この活性の相違が、14-3-3たんぱく質とその共通認識配列であるRSXpSXPとの会合状態に対するCNとFCの効果の相違に起因すると考え、等温滴定熱量(ITC)測定によって評価した。14-3-3たんぱく質とRSHpSVPの2者会合体に対してCN/FCを滴下し、ITC測定を行ったところ、CNは3者会合体を形成することで2者会合体を安定化するが、FCはさらなる会合体を形成しないことが明らかになった。この結果をdocking studyによって考察した結果、FCの12位水酸基が3者会合体形成を阻害していることが予想された。以上を踏まえ、12-デオキシFC誘導体を合成し、HL-60に対する分化誘導活性を評価したところ、予想通りCNに匹敵する分化誘導活性が認められ、12位水酸基の有無が活性発現に決定的な要因となっていることを明らかにした。
著者
長谷 俊治 有賀 洋子
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

マラリア原虫には、植物のプラスチドと類似のアピコプラストがある。マラリアゲノム中に植物Fdとその還元酵素であるFNRと相同な遺伝子があり、アピコプラストは光合成に依存しない還元力の供給系として、植物の非光合成プラスチドと類似したNADPH→FNR→Fdの電子の流れをもつはずである。組換え蛋白質の発現手法でマラリアFdとFNRを調製し、電子伝達活性及び特異抗体によるマラリア原虫細胞中での存在を確認した。結晶化と構造解析がFdについては完了、FNRについては進行しつつある。マラリアFdの主鎖構造は、トウモロコシの根Fdと類似性が非常に高いことが判明した。また、マラリアFdとFNRとの間には、強い分子間相互作用があることも判明した。これらの結果は、原虫細胞でこのレドックスカスケードが機能していることを示唆しており、このマラリアFdとFNRは、電子伝達複合体を形成してNADPHからの電子を種々の化合物に伝達する機能をもつと考えられる。そこで、この複合体から効率良く電子を受容し、しかもラジカル種のような細胞毒性を発揮できる薬剤をスクリーニングできれば、新たな抗マラリア薬の開発につながるのではないかとの着想に至った。大腸菌をモデル細胞として用いて、マラリアFdとFNRの遺伝子を導入し、菌体外に加えた酸化還元剤に対する増殖感受性を測定する系を構築した。Fd遺伝子、FNR遺伝子を各々単独に発現する株と共発現する株を作製し、酸化還元剤を含むプレートに播種し大腸菌の生育の阻害を調べた。その結果ビオローゲン系の薬剤が生育阻害に有効であることが判明した。この薬剤の効果は熱帯熱マラリア原虫のヒト赤血球の培養系でも有効であった。これらの結果は、NADPH/FNR/Fdのレドックスカスケードが、抗マラリア戦略の標的になることを示すものである。