著者
三木 健寿
出版者
奈良女子大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

恐怖や不安記億の再生は交感神経活動の変化を伴うがその詳細は不明である。睡眠REM期には記憶の再生と固定が行われており、睡眠REM期の海馬神経活動と交感神経活動の関係は、記憶の再生と交感神経活動変動との因果関係を検討するモデルとなる。本研究は、睡眠REM期における海馬CA1領域の神経活動と地域血流量の変化の定量化し、睡眠REM期と覚醒運動時の行動ステージとの差を検討し、睡眠REM期の特徴を明らかにすることを目的とした。また、腎および腰部交感神経活動との相関性について検討した。Wistar系の雄ラットを用い、脳波、海馬CA1神経活動、海馬CA1領域血流量、動脈圧、中心静脈圧、心電図、筋電図測定のための電極、プローブ、カテーテルを慢性留置した。海馬CA1神経活動は、4極のステンレススティールMicro-wire arrays電極によリ計測した。海馬CA1神経活動は、REM機が最も低く他の行動ステージに比べて有意に低かった。一方、睡眠REM期の海馬CA1領域血流量は、ノンレム期に比べて増加した。以上、睡眠REM期の海馬CA1神経活動は、睡眠-覚醒の行動サイクルの中で最も低い値を示すが、血流量は最も高い値を示すことが明らかになった。本研究は、睡眠REM期海馬CA1領域の血流量は神経活動低下時に増加していることを明らかにした。脳神経細胞では、一般に神経活動とその領域の血流量は同じ方向に変化する(neuro-vascular coupling)と考えられている。しかし、睡眠REM期にはneuro-vascularのuncouplingが生じている。従って、睡眠REM期には海馬の錐体細胞以外の代謝(グリアなど)の細胞の代謝亢進が考えられる。すなわち、睡眠REM期には記憶情報処理自体の活動が抑制され、その周辺機能の亢進が生じている可能性を示唆する。
著者
原島 秀吉 紙谷 浩之 山田 勇磨 畠山 浩人 馬場 嘉信 秋田 英万
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

我々が独自に開発したin vivoがん送達型多機能性エンベロープ型ナノ構造体(PPD-MEND)に、がん細胞で選択的に発現している遺伝子に対するsiRNAを搭載し、抗腫瘍効果を誘起することができ、かつ、安全性の高い人工遺伝子デリバリーシステムを開発し、がん治療へと応用することを最終目標とした。その結果、shGALA修飾PEG-MENDは、静脈内投与により腫瘍組織でmRNAをノックダウンし抗腫瘍効果を誘起できることがわかった。
著者
中村 太郎
出版者
大阪市立大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2010

spo4^+が胞子形成にどのような役割を果たすか調べるために、Spo4の調節サブユニットであるspo6変異株の形質を多コピーで相補する遺伝子をいくつか取得した。そのうちの1つのAce2についてさらなる解析を進めた。Ace2は細胞分裂に重要なはたらきをする転写因子であることが知られている。また、Ace2は栄養増殖時にはM期に核に局在することが知られている。胞子形成時のAce2の局在を調べたところ、間期には局在が見られなかったが、減数分裂時に核に局在することがわかった。興味深いことに、第二減数分裂前期から中期にかけては核内でも特にSPB(紡錘極体)付近に多く局在がみられた。この時期にはSpo4もSPB付近に来ることが示唆されている。また、Spo4欠損株では、栄養増殖時にはM期に核局在が見られたものの、減数分裂時には核やSPBに局在が見られないことがわかった。ウエスタン解析により、この時期にAce2のタンパク質量の減少はみられなかった。Ace2欠損株では、前胞子膜形成には大きな欠損は見られなかったが、胞子壁の形成の遅れがみられた。実際に、胞子壁の合成に関係すると思われるいくつかの遺伝子の発現が、Ace2欠損株でほとんど見られなかった。以上のことから、Spo4がAce2の有性生殖特異的な局在制御を通して胞子壁形成に関わっている可能性が示唆された。これまで、Spo4は減数分裂の開始と前胞子膜形成に関与していることが知られていたが、今回の解析により、Spo4が転写因子Ace2を介して胞子壁形成に関わっている可能性が示唆された。
著者
田口 文広 松山 州徳 森川 茂 氏家 誠 白戸 憲也 座本 綾 渡辺 理恵 中垣 慶子 水谷 哲也
出版者
国立感染症研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

1)SARSコロナウイルス(SARS-CoV)に関する研究SARS-CoVは通常エンドゾーム経由で細胞内へ侵入することが報告されているが、我々はSARS-CoVのS蛋白の融合活性を誘導するプロテアーゼ(trypsin, elastase等)存在下では細胞膜径路で侵入することを明らかにした。更に、この径路による感染は、エンドゾーム径路感染より100-1000倍感染効率が高いことが判明した(PNAS,2005に発表)。SARSの重症肺炎の発症機序は、ウイルス感染を増強する様なプロテアーゼの存在が重要ではないかと考え、マウスに非病原性細菌感染で肺elastaseを誘導し、SARS-CoVを感染させることにより、ウイルス増殖及び肺の組織障害が高くなることを観察した。今後、更に重症肺炎に至るウイルス側及び宿主側因子の同定を進めたい。2)マウスコロナウイルス(MHV)に関する研究神経病原性の高いMHV-JHM株は受容体発現細胞に感染し、その細胞から受容体を持たない細胞に感染することが知られている。我々は、JHM株を直接受容体非発現細胞へ吸着させることにより、感染が成立することをspinoculation法(ウイルスが接種された細胞をウイルスと共に3000rpmで2時間遠心)により証明した。また、受容体非依存性感染にはJHM株のS蛋白の自然条件下で融合能が活性化されるという性質によることも明らかにされた(J.Viro1.2006発表)。
著者
井樋 慶一
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

脳内最大のノルアドレナリン(NA)作動性神経核である青斑核(LC)を選択的に破壊する方法を開発しこのマウスモデルを用い不安様情動応答を対照動物と比較検討することにより、LCが不安情動の成り立ちに関与するという仮説を検証した。ドパミンベータ水酸化酵素プロモーター-ヒトインターロイキン2受容体(hIL2R)トランスジェニックマウスの青斑核にイムノトキシン(抗hIL2R-緑膿菌体外毒素)を微量注入することにより青斑核のみで選択的にNAニューロンを破壊した。このマウスのLC内イムノトキシン注入1週後にLC-NAニューロンの細胞体は消失し主要な投射領域でのTH免疫陽性軸索も著明に減少した。3週後にLC破壊マウスでは高架式十字迷路でopen arm滞在時間、open arm進入回数/総進入回数比が有意に減少したがclosed arm進入回数は対照群と有意差を認めなかった。open-fieldでは中央区画滞在時間、中央進入回数/区画間総横断回数比が有意に減少したが区画間総横断回数には対照群と有意差を認めなかった。強制遊泳試験ではLC破壊群で顕著に無動時間が延長した。実験終了後脳部位毎にカテコールアミン含量をHPLC-ECD法で定量したところ、嗅球、大脳皮質、海馬、小脳では対照と比較し90%以上のNA含量低下が認められた。視床下部では有意の変動が認めらなかった。その他の部位では領域により様々な程度のNA含量の減少が認められた。ドパミン、セロトニン含量に関してはいずれの領域においてもLC破壊群と対照群の間に著しい差異は認められなかった。これらの結果から、LC破壊3週後のマウスで不安様行動とうつ様行動が増加することが明らかとなった。マウスを用いた実験によりLC-NAニューロンが不安やうつ病と深く関わることがはじめて明確に示された。
著者
清水 慶子
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

いわゆる「環境ホルモン」、内分泌撹乱物質による生殖能力や次世代への影響は、人類を含めた数多くの生物の存続を危ぶむ問題であり、基礎的な研究の必要性が高まっている。これらの原因として考えられているものは主に人工の化学物質であるが、これ以外にも約20種類の植物由来のエストロゲン様物質(Phytoestorogen)がその作用を持つといわれている。本研究では、これらの植物由来のエストロゲン様物質のサルの生殖内分泌系に及ぼす影響を、発生生物学的、内分泌学的に調べた。カニクイザルに植物由来のエストロゲン様物質を30日間連続投与した。これらのサルにおいて、経時的に採尿を行い、ステロイドホルモンの代謝産物である尿中E1C,PdGおよび尿中FSHについて酵素免疫測定法を用いて測定した。その結果、生殖関連ホルモン動態の変化や月経周期の遅延、卵胞期の延長、LHサージの抑制が観察された。これらにより、ダイゼイン投与後、これらのサルは発情持続状態となり、結果として排卵が抑制されることが分かった。また、妊娠マカクザルにイソフラボン50mg含有飼料を妊娠初期から90日間連続給餌した。これらのサルから得られた児を、4%パラホルムアルデヒドにて潅流固定し、組織切片を作成した。これらの切片を用いて免疫組織化学法により、エストロゲンレセプター(ERαおよびERβ)の局在を調べた。同時に、妊娠ザルから経時的に採血、採尿をおこない、血液イソフラボン濃度および血中、尿中生殖関連ホルモン濃度を測定した。その結果、ERαおよびERβはいずれも、オス、メス新生児ともに、視床下部の腹内側核に発現していた。これらにより、植物由来のエストロゲン様物質がマカクザルの性周期に変化を及ぼす可能性、および、視床下部におけるエストロゲンレセプターの発現が胎生期における植物由来のエストロゲン様物質により影響を受ける可能性が示唆された。
著者
榛葉 繁紀
出版者
日本大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

近年、生活リズムの乱れが、肥満やメタボリックシンドロームのリスクファクターであることが疫学調査より明らかとなってきた。我々は、サーカディアンリズムのマスターレギュレーターである転写因子Brain and Muscle Arnt like protein1(BMAL1)が脂肪細胞の機能を調節することを報告した(Shimba et al PNAS 2005)。また、メタボリックシンドローム患者の脂肪組織においてBMAL1機能の異常が報告されており、さらにはSNP解析によりBMAL1機能不全と糖尿病ならびに高血圧発症との関係が疑われている。これらの結果は、BMAL1が代謝調節に積極的に関与していること、さらにはその機能異常がメタボリックシンドローム発症へと通ずることを示唆している。そこで本研究ではBMAL1機能の異常とメタボリックシンドローム発症との関係を明らかとすることを目的として、BMAL1ノックアウト(KO)マウスの解析を行った。雄性C57B1/6JマウスならびにBMAL1 KOマウスを通常あるいは高脂肪食下において5週間飼育した。常法に従い、インスリン感受性、耐糖能ならびに血液生化学検査を行った。遺伝子発現の変化はGeneChipを用いて解析した。通常餌飼育下においてBMAL1 KOマウスは野生型マウスに比較して低体重の傾向を示したが、高脂肪食給餌により野生型マウス以上に著しい体重の増加を示した。またそれに伴い脂肪肝、高コレステロール血症ならびに顕著な皮脂の分泌を示した。またBMAL1 KOマウスの耐糖能は、通常ならびに高脂肪食飼育下のいずれにおいても低下を示した。また各組織における遺伝子発現の変化はこれら表現系を支持するものであった。以上の結果よりBMAL1の機能異常が、メタボリックシンドローム発症へのリスクファクターとなることが示唆された。
著者
小原 雄治 近藤 滋
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

1)モデル多細胞生物発生の遺伝子システムの全体像解明と計算機モデル化・EST配列12万本からエキソン・イントロン構造を確定した12000遺伝子についてwhole mount in situハイブリダイゼーションによる発現パターン解析をおこないクラスタリング解析により共通制御候補遺伝子群を同定した。NEXTDB<http://nematode.lab.nig.ac.jp>で公開し、これをもとにした共同研究を世界中で進めた。・glp-1母性mRNAの翻訳制御メカニズムについて、gld-1,pos-1、spn-4などの複数遺伝子の組み合わせとポリA鎖の伸長によるfine tuningの機構を解析した。・初期発生の細胞配置パターンがC.elegansとは異なる近縁線虫Diploscapter sp.についてcDNAライブラリーを構築し、EST約7万本から約10,000種に分類でき、約5,800種についてC.elegans, C.briggsaeとのオルソログが見出された。初期発生に重要な遺伝子をそろえるために、薄い(1X)ホールゲノムショットガンシーケンシングをおこない、追加約1,000のホモログを得た。発現パターンについてC.elegansとの比較を進めている。・細胞の形状を力学モデルによって構成した胚発生シミュレータ(原腸陥入期の26細胞期まで)を構築し、中心体の動きなどをより正確に再現するような条件を求めた。2)生物発生のコンピュータシミュレーション・模様形成遺伝子のひとつレオパードをクローン化した。
著者
近藤 滋
出版者
名古屋大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

分節パターンを決定するメカニズムを解明する目的で、以下の2つの研究を行った1)ニワトリ胚の分節現象が反応拡散波の性質を有することを示す実験反応拡散系の特徴として、外科的なかく乱に対して修正作用を持つことがあげられる。体節形成に反応拡散の原理が働いているのであれば、胚を変形させても同じ大きさの体節を作れるはずであり、そのような現象が起きれば、他のモデル(clock and wavefront model)と区別をつけることができる。体節形成期のニワトリ胚をピンセットで物理的に伸張させ、細長い中はいようにしたところ、伸張度合いにかかわらず同じ大きさの体節ができることを確認した。これは、体節形成に反応拡散の原理が働いていることの傍証である。2)ゼブラフィッシュの模様形成遺伝子の探索ゼブラフィッシュの皮膚模様も自発的に成立する等間隔パターンである。同じ分子メカニズムが働いている可能性があると考え、模様形成遺伝子のクローニングを行った。これまでに、模様形成に関係する2つの遺伝子のポジショナルクローニングに成功している。Obelix変異は、縞の幅が広くなる変異を示す。原因遺伝子はKir7.1というKチャンネル分子であった。この遺伝子は色素細胞でのみ発現しており、また、変異体の遺伝子はKの透過性を失っていることがわかった。縞が斑点に変わる変異遺伝子レオパードのクローニングも行ったが、これはGAP JUNCTION関連の遺伝子をコードしていた。現在これら2つの遺伝子の変異がどのような機構で模様を替えているのか計算機によるモデル化を行っている。
著者
近藤 滋 渡邉 正勝
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

動物における自律的なパターン形成の基本原理がTuring波であるとの仮説を検証するため、ゼブラフィッシュの模様形成機構を分子レベルで解析した。その結果(1)ゼブラフィッシュの模様は、Turing波と一致する動的な性質を持つこと、(2)色素細胞間の相互作用がTuring波形成の条件を満たすこと、(3)Turing波形成にかかわる分子が、ギャップジャンクション、Notch-Delta, Kirチャンネルであることを突き止めた。目標の90%は達成されており、Turing波形成の完全解明も、目前に迫ったといえる。
著者
仲村 春和 田中 英明 岡本 仁 影山 龍一郎 笹井 芳樹 武田 洋幸 野田 昌晴 村上 富士夫 藤澤 肇
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
1998

「脳のパターン形成研究」班は平成10-15年の6年にわたって、最新の分子生物学的手法、遺伝子改変のテクニックなどを駆使して、脊椎動物の脳・神経系の形態形成に焦点を当て手研究を行ってきた。本研究プロジェクトでは、特に(1)発生初期の神経としての分化の決定、(2)その後中枢神経内でのコンパートメントの形成、(3)コンパートメント内での位置特異性の決定、(4)神経回路の形成の機構についての各班員が分担して研究を行った。本研究領域は6年間にわたり展開され、これまでの研究成果の項に記すように各研究班ともに成果をあげている。そこで本研究領域の成果をとりまとめ広く公表するとともに、今後の展開、共同研究の道を開くため公開シンポジウムを開催する。本年度はその成果公開のため国際公開シンポジウムを開催した。シンポジウムには海外からMarion Wassef, Andrea Wizenmann, Elizabeth Grove博士を招待し、国内講演者は本研究班の班員を中心とし、関連の研究者を加え、13人の演者による発表が行われた。シンポジウムでは、脊椎動物脳のパターン形成に関して様々な視点からの講演と討論が行われ、これまでの各演者の成果を交換するとともに今後の研究の展開、共同研究の可能性についても意見が交換された。
著者
笹井 芳樹
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

我々はこれまでにフィーダー細胞を用いずに、ES細胞の細胞塊を無血清下に浮遊培養ですることで、効率よく神経細胞に分化させる系をまず樹立した(SFEB法)。マーカー解析の結果、SFEB法でES細胞から産生された神経細胞はこれまで産生が困難であった大脳の前駆細胞であることが明らかになり、さらにShhを作用させることにより、この大脳前駆細胞から大脳基底核などの細胞を試験管内で分化誘導することに成功した。この研究により、従来不可能であった試験管内での大脳神経細胞の大量産生が可能なり、大脳の変性疾患(ハンチントン病やアルツハイマー病など)の発症機序の解明や大脳疾患の治療法開発に大きく貢献することが期待される。SFEB法によりES細胞からの前脳の分化誘導は確認されたが、小脳、橋などへの分化効率は低い。小脳、橋などを含む変性疾患に関連する後脳吻側部に着目し、細胞外シグナルによる分化誘導系の樹立を目指し、条件検討を行い、マウスES細胞からの10%程度での小脳主要ニューロンの安定した分化誘導法を確立した。一方、ヒトES細胞分化にSFEB法を応用するにあたっては、ヒトES細胞特有の問題として、細胞死による細胞生存の低さがあった。今年度、この細胞死をROCK阻害剤が抑制することを発見し、大量培養を効率よく行うことが可能となり、これを用いてヒトES細胞からの大脳の分化誘導にも成功した。ヒトES細胞の技術をさらに広く再生医療や創薬に用いるために重要な基盤技術が確立された。
著者
笹井 芳樹
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
1998

神経予定外胚葉はまず中枢神経系原基である神経板と末梢神経原基である神経堤細胞とに分画化される。中枢神経原基・神経板は発生のごく初期に吻尾方向と背腹方向の2軸に沿って大きく分画化され、いわゆる領域特異性を獲得する。吻尾方向には大脳・間脳、中脳、後脳、脊髄が大きく区分され、背腹軸では背側(翼板)、腹側(基板)、中間部に区分される。それぞれの領域には特異的な分子マーカー(ホメオボックス遺伝子など)が既に同定されており、それらを用いて神経細胞がどの領域特異性を獲得したかを判定することが原則的に可能である。しかし、この領域特異性の上流にあって、その個性付け獲得を制御している因子については多くが不明のままである。そこで、領域特異性の上流にある神経分化の個性付け因子を系統的に遺伝子スクリーニングすることを行った。まず初期神経板で働く領域特異的分泌タンパクを系統的にシグナル・シーケンス・トラップ法によって用いて、アフリカツメガエルの系で神経管の背側に位置する非神経外胚葉に早期から発現する新規の分泌因子Tiarinを単離に成功した。H15年度は単離したマウスおよびニワトリホモローグを用いて、これちの種での機能について強制発現を用いて解析し、神経提細胞の産生促進効果を観察した。また、現在2種類のマウス関連遺伝子に関して遺伝子破壊法で機能阻害研究を進めている。研究の促進のため、ES細胞から神経前駆細胞を分化させ、これを用いた試験管内神経パターン形成のアッセイ系を確立した。この系を用いて末梢神経系を含む神経提細胞のES細胞からの分化に世界で初めて成功した。
著者
細田 耕 木村 浩 辻田 勝吉 井上 康介 田熊 隆史
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

生物のさまざまな適応的行動の中から特にロコモーションに注目し,反射やCPGなどによってもたらされるリズミックな制御系と,振る舞い全体を修飾する調整制御系の相互作用によって適応性の実現を試みた.これらの実現には生物のような筋骨格系が大きな役割を果たしているとの仮説のもとに,二足,四足,ヘビ型とさまざまなロコモーションについて筋骨格からなる新しいロボットを多数試作し,リズミック制御系と調整制御系の役割を実験的に検証した.
著者
戸津 健太郎 江刺 正喜
出版者
東北大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

極薄のL字形カンチレバーをアクチュエータに用いて光で駆動することで超小形の2次元光スキャナを実現することを目的とした。直径125μmの光ファイバ先端にアクチュエータを搭載させるため、カンチレバーの長さは100μmとした。カンチレバーを構成するバイメタルの材料として、これまで厚さ100nmのポリイミドおよび厚さ100nmの金を用いていた。カンチレバーにレーザ光を周期的に照射したとき、カンチレバーが駆動することを確認した。本年度は、測定装置、およびカンチレバーの改良を主に行った。効率よくレーザ光を照射するため、ファイバ先端に光ファイバ融着器を用いて球形のレンズを形成し、ファイバ端から出射するレーザ光を絞ることができるようにした。ポリイミドを再現性よく薄くすることが困難であること、材料がやわらかいため、共振周波数が比較的低い問題があり、カンチレバーを構成するバイメタルの材料として、厚さ100nmのシリコンと厚さ100nmの金を用いた。埋め込み酸化膜構造(SOI)のシリコンウェハを用いることで、極薄のシリコン構造体を実現した。ウェハ上に接着層となる厚さ30nmクロム薄膜および厚さ100nmの金薄膜を真空蒸着で形成後、パターニングした。このとき、ミラー面においてレーザ光を吸収させるため、クロム薄膜をミラー面に形成した。その後、シリコンをエッチングによりカンチレバーの形にパターニングし、最後にカンチレバー構造体をウェハからリリースした。膜の残留応力によりカンチレバーが立ち上がり、ミラーが傾いた構造を得ることができた。
著者
末次 大輔 東野 陽子 山田 功夫 深尾 良夫 坪井 誠司 大林 政行 竹内 希 田中 聡 深尾 良夫 坪井 誠司 大林 政行 竹内 希 石原 靖 田中 聡 吉光 淳子
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

本特定領域研究により得られた海底・陸上地震観測データと既存観測データにより、西太平洋マントル遷移層に滞留するスラブの鮮明なP波、S波速度イメージや相転移面の深さ分布を推定した。その結果、スラブが滞留する前に断裂していること;沈み込むスラブ内部にはプレート生成時の異方性が保存されているが、滞留スラブではそれが見られないこと;滞留スラブの主要部分の温度は周囲より500度低く、水はほとんど含まれていないこと、などが明らかになった。
著者
黒崎 知博 疋田 正喜
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

申請者らが樹立してきたPLC-γ2欠損マウス(Hashimoto et al.J.Immunol., 165, 1738-1742, 2000)は、著しいTI-II応答性の低下を示しており、このシグナル分子がB細胞の成熟、または、成熟後抗体産生細胞への分化障害が生じていることを強く示唆している。本年度は、著しいTI-II応答性の減弱にも関わらず、PLC-γ2欠損マウスがほぼ正常なT-D応答性を示すことに着目し、この奥に潜むメカニズムの解明に努めた。すなわち、この一見正常に見える免疫応答性が、B細胞の活性化低下にも関わらず、他の免疫担当細胞(T細胞、樹状細胞)がその機能低下を代償しており、結果的に正常に見えるのではないかという仮説を構築し、この仮説の検証を試みた。まず、この仮説の検証の第一歩として、B細胞がIgMからIgGIにクラススイッチしてはじめて、PLC-γ2が欠損するようなマウスを作成した。このマウスでは恒常状態における血清IgGIの含量がコントロールマウスに比して非常に低下していた。このことは、IgMからIgGIにクラススイッチした後、PLC-γ2がIgGI positive B細胞に必須であるか。生存には必須ではないが、IgGIを分泌する細胞への分化に必須であることを示している。当然ながら、このマウスでは、T-D応答性の低下が予測され、現在この可能性を検討中である。また、B細胞以外の免疫細胞の関与も検討する必要があり、ノックアウトマウスを放射線で処理し、このマウスに正常マウス及びノックアウトマウスから得た骨髄細胞を注入して、その効果を調べている。
著者
加藤 菊也 石井 信
出版者
地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター(研究所)
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

研究代表者のグループは大阪大学医学部病態制御外科及び腫瘍外科、京都大学医学部脳神経外科、大阪府立成人病センターのグループと共同で固形癌の遺伝子発現プロファイル解析を行ってきた。対象とした固形癌は乳癌、大腸癌、肝細胞癌、胃癌、食道癌、甲状腺癌、神経膠腫、肺癌である。測定遺伝子数は1500-3500個で、1500症例以上癌組織の解析を行った。本研究ではこのデータベースについて改良と更新を行った。Cancer Gene Expression Database (CGED, http://cged.hgc.jp)は、検索機能とデータ表示方法に特徴がある。データ検索は、通常の遺伝子名やGenBank accession numberなどのID番号のほか、同一機能グループに属する遺伝子をまとめて検索できるように、Gene Ontology termとSwissProtの機能アノテーション中のキーワードで検索できるようにした。また、遺伝子発現量は赤から緑のグラジエントで、臨床データはそれ以外の色を使ってモザイクプロットで表示した。異なる遺伝子の発現パターンを並べて表示できるだけではなく、発現パターンの類似した遺伝子を検索して表示できるようにもしている。さらに、発現パターンの表示を特定の遺伝子の発現量や臨床パラメータでソートして再表示する機能も備えている。これまでのCGEDには、乳癌(予後関連遺伝子探索用のデータ)、大腸癌、肝細胞癌、食道癌のデータが収納されているが、収録していないデータの標準化を肺癌以外のデータで終了し、データベースに収録した。
著者
真柳 誠
出版者
茨城大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

中国周縁国は過去から現在まで中国医学を受容・消化し、自国固有の伝統医学を形成してきた。これまで実施した現存古医籍の調査分析により、およその形成過程と特徴が明らかになってきた。日本・韓国とも初期は唐宋代医学全書の影響で、中国書から自国に適した部分を引用した臨床医学全書を編纂している。日本の『医心方』(984)、朝鮮の『医方類聚』(1477)などである。同時に固有の医薬も集成し、日本の『大同類聚方』(808)、朝鮮の『郷薬集成方』(1433)などが編纂された。中期は主に明代の臨床医書を引用しつつ、日本の『啓迪集』(1574)、朝鮮の『東医宝鑑』(1611)、ベトナムの『医宗心領』(1770)など自国化した医学全書が編纂される。かつ各国とも明代の各種医学全書を19世紀後半まで復刻し続けたが、そうした流行は中国にない。また漢字交じり自国語訳本も周縁国に共通する現象だった。一方、日本だけに特異的な現象が見出された。すなわち中国医学古典と、それらの中国における研究書が日本では100回以上復刻されたが、朝鮮では1点、ベトナム・モンゴルにはひとつもなかった。また中国医学古典の日本における研究書が江戸時代だけで760種ほど現存するが、朝鮮におけるそうした研究書は1点のみ、ベトナム・モンゴルにはひとつもなかった。なぜ日本だけかくも中国医学古典を研究したのだろうか。これは日本のみ島国という因子に由来しよう。つまり日本は中国との往来が極めて困難につき中国人から直接学べず、書物のみを師とし、難解な古典まで自ら研究した。かつ日本だけ中国との戦争や被支配の経験がなく、その強い影響を意識的に排して自国文化を強調する必要がなかった。それゆえ中国文化の深くまで親近感を持ち、古典を研究した。他方、朝鮮・ベトナムでは中国臨床医書は利用するが、臨床にあまり関係もない別国の古典研究などありえなかっただろう。他分野の漢籍でも類似現象が見出される可能性は高い。
著者
椛 秀人 奥谷 文乃 村本 和世 谷口 睦男
出版者
高知大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

雌マウスに形成される交配雄フェロモンの記憶のシナプス機構、鋤鼻ニューロンと副嗅球ニューロンの共培養によるニューロンの成熟分化、シナプス形成、及び幼若ラットの匂い学習機構を解析し、以下の結果を得た。1.フェロモン記憶の基礎過程としてのLTPの入力特異性と可逆性スライス標本を用いて、副嗅球の僧帽細胞から顆粒細胞へのグルタミン酸作動性シナプス伝達に誘導される長期増強(LTP)に入力特異性と可逆性が認められた。2.僧帽細胞から顆粒細胞へのシナプス伝達のalpha2受容体を介した抑制のメカニズムノルアドレナリンは僧帽細胞のG_<i/o>を活性化して電位依存性Ca^<2+>チャネルを抑制するほか、Ca^<2+>流入後の放出過程をも抑制することが判明した。3.alpha2受容体の活性化によるシナプス伝達のハイ・フィデリティの達成alpha2受容体の活性化は副嗅球の僧帽細胞から顆粒細胞へのシナプス伝達のハイ・フィデリティを達成させた。これがLTP誘導促進の鍵となっているものと考えられる。4.副嗅球ニューロンとの共培養による鋤鼻ニューロンの成熟と機能的シナプスの形成副嗅球ニューロンとの共培養によって鋤鼻ニューロンが成熟分化し、3週間の共培養により両ニューロン間に機能的なシナプスが形成されることが判明した。5.幼若ラットにおける匂いの嫌悪学習とLTPとの相関匂いと電撃の対提示による匂いの嫌悪学習の成立には電撃による嗅球のbeta受容体の活性化が不可欠であった。スライス標本を用いて、嗅球の僧帽細胞から顆粒細胞へのグルタミン酸作動性シナプス伝達に誘導されるLTPもbeta受容体によって制御された。この知見は、このLTPが匂い学習の基礎過程であることを示唆している。