著者
井田 喜明 田中 良和 西村 太志 小屋口 剛博 谷口 宏充 岡田 弘
出版者
兵庫県立大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

本特定領域研究の目的は、火山爆発の素過程や発生機構について学術的な理解を深め、火山災害の軽減に寄与することである。その基礎として、火山爆発の性質を詳細に調べるために、「火山探査移動観測ステーション」が開発され、火口近傍での観測や試料採取、機器の設置を遠隔操作で行うことが可能になった。広帯域地震計や空振計などを用いた観測が、小爆発を繰り返す複数の火山で実施され、爆発に先立って特徴的な膨張や収縮が存在することがつきとめられ、爆発直前に進行する物理過程が明らかにされた。地下のマグマの上昇過程については、室内実験や理論的な考察によって、脱ガスやマグマ破砕の機構が究明された。また、シミュレーションによって、噴火の爆発性を決める原理が見出され、地殻変動の加速性がそれを予測する手段になりうることが示された。地表で進行する爆発現象については、火口から噴出する噴霧流の3次元シミュレーション手法が開発され、噴煙や火砕流を生む物理過程が究明された。また、爆発強度のスケーリングや、爆風に伴う衝撃波のシミュレーションなど、火山爆発の影響を見積もる有力な手法が得られた。本領域の各分野にわたる研究成果を基礎に、噴火現象に関連する各種の知見やデータを集めて、データベースが構築された。このデータベースは、現象の体系的な理解に役立つ。また、本領域で開発された計算コードと合わせて、噴火過程の総合的なシミュレーションをする基本的なツールになり、噴火や火山災害の予測に寄与する。噴火現象の評価や予測のためには、WEBサーバーを用いた合議システムも開発され、専門家の合議を迅速かつ能率的に進めることが可能になった。火山爆発に関する知識を広く普及する目的には、一般向けの講演会が催され、観測や野外実験の一部が公開された。また、研究成果を平易に解説する一般向けの書籍が出版される。
著者
武田 洋幸 工藤 明
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

2006年までに、メダカドラフトゲノム(2007)、および詳細なSNP地図、BACライブラリー等の情報が充実し、メダカ突然変異体から原因遺伝子同定の労力と時間は飛躍的に減少した。2005から2009年の間に、武田研究室および工藤研究室において、それぞれ9系統(肝臓、体軸形成、原腸形成、左右軸変異体、内耳形成)と15系統(心臓、血球、血管、椎骨、頭蓋・ヒレ骨形成、ヒレ形成変異体、ヒレ再生)の原因遺伝子を特定し、目標を達成した。
著者
本間 道夫 小嶋 誠司 柿沼 喜己 村田 武士 滝口 金吾
出版者
名古屋大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

細菌べん毛モーター回転のエネルギー源は、電気化学的ポテンシャル差によるイオンの流入である。海洋性ビブリオ菌Vibrio alginolyticusは、ナトリウムイオンで動く極べん毛を持つ。これまでに固定子内のイオン透過経路については、ほとんど研究が進んでいなかったが、ATR-FTIRを用いた測定によりNa^+結合部位をはじめて実験的に明らかにした。また、固定子タンパク質膜貫通部位への変異導入により、イオン透過経路を推測した。固定子構成タンパク質にGFPを融合させて、それらの局在の条件を調べたところ、Na^+依存的な局在を明らかにした。固定子のダイナミックな集合解離の重要性を示唆した。固定子タンパク質のペリプラズム側断片の結晶構造を解明しすることにより、大きな構造変化がイオンチャネルの活性化に必要であることを示唆することができた。
著者
鶴田 健二 小山 敏幸 尾形 修司 兵頭 志明
出版者
岡山大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

本特定領域研究を通して, 複数の空間スケールをつなぐ新しいシミュレーション手法・アルゴリズムを開発・高度化し, 機能元素材料科学の学理構築に資する新しい計算科学手法・ツール開発を大きく進展させた。また, ナノ計測班ならびにプロセス班との連携において, 本領域における共通試料であるアルミナの転位・粒界構造の微視的構造と電子状態, 元素偏析の安定性と局所電子状態の定量的解明に上記新規手法を適用し, その適用性を実証した。
著者
竹中 繁織
出版者
九州工業大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

ヒトテロメアDNA配列を有するオリゴヌクレオチドの両置換基末端にピレンを導入したPSO4を用いて、K^+添加に伴うゲル電気泳動、吸収、円二色性、蛍光、蛍光偏光スペクトル変化等の解析によってヒトテロメアDNAの4本鎖構造(最近になってbasket、chahr、propeller、hybrid I、hybrid II型の五つ)のうちchair型の時だけ効果的なFRETが見られると予測された。そこで前年度はG-リッチオリゴヌクレオチドにトロンビン結合アプタマー(TBA)配列を導入することによってより高いFRET効率を示すPSO2の合成に成功した。しかし、細胞内へ導入すると導入された細胞の73%が細胞死を起こすことが明らかとなった。これは、TBA配列が核内に存在するヌクレオリンタンパクが結合したためと考えられた。そこで当該年度では二つのFRET色素に加えビオチンを導入したPSO5を合成した。これをストレプトアビジンと結合させ同様に細胞へ導入することによって細胞毒性を軽減することに成功した。PSO5をアビジンに結合させることによってヌクレオリンの相互作用が阻害されたものと考えられたが、このような条件によってもPSO5の核への移行が観察されたが、一部は細胞質に留まっていることがわかった。そこで細胞内のK^+濃度を減少させることが知られているAmphotericin Bの添加に伴う蛍光変化を調べた。その結果核内のK^+濃度の上昇がみちれた。これは、核内のK^+をモニターできた最初の例と見られる。しかしながら、PSO5の合成収率は低く、また、精製も困難であった。そこで、ペプチド-オリゴヌクレオチドコンジュゲートを利用してPSO6の設計を行い、その合成に成功した。予備的検討では、PSO5よりも感度良くK^+濃度の蛍光イメージングが可能なことが明らかとなった。
著者
小池 貴久
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

理論的に存在し得るK中間子原子核の中で最も基本的なものは"K-pp"系の束縛状態であると予想されているが、その存在は未だ実験的に確立されていない。茨城県東海村のJ-PARCにおいて、ヘリウム3標的の(飛行K-, n)反応を用いたK-pp探索実験が進行中であるが、K-ppの束縛エネルギーや幅の値を実験データから引き出すためには、理論計算によるスペクトルとの比較が必要である。そこで同反応スペクトルを理論的に十分な信頼性をもって計算できるチャンネル結合DWIA(歪曲派インパルス近似)計算の枠組みを完成させることが本研究課題の目的である。本年度の主な成果は、1. K-pp単一チャンネルDWIA計算の枠組において、K-ppのpoleの位置は複素エネルギー平面内で固定された点ではなく、実軸上のどのエネルギー点から見るかによってその位置が変化するという"moving pole"の考え方を提唱し、スペクトルの形は"moving pole"の動き方と関係づけられることを明らかにした。これは実験データの解釈に影響を及ぼす重要な結果である。この成果はPhysical Review Cで公表した。2. K-p―πΣ間チャンネル結合DWIA計算の枠組にさらにπAチャンネルの効果を加えた結果、これまでよりも詳細なsemi-exclusiveスペクトルの記述が可能になった。定量的議論のためにはまだ相互作用のモデルに改良の余地が残されているものの、適当な相互作用ポテンシャルさえ与えればチャンネル結合DWIA計算が可能になったことは大きな成果である。今後、他の様々な反応への応用も期待できる。以上の成果は日本物理学会、及び多数の研究会等において公表した。
著者
松野 健治
出版者
東京理科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

Notch情報伝達系は、細胞間の直接的接触を介した情報伝達に機能しており、細胞運命決定、形態形成、恒常性の維持に重要な機能をはたしている。ショウジョウバエdeltex遺伝子は、Notch情報伝達系を正に制御しており、その遺伝子産物は、Notchの細胞内ドメインに結合する。我々は、これまでに、Notch情報伝達系を構成する新規な遺伝子の同定を目的として、deltex突然変異体と遺伝的相互作用を示す新規突然変異体を、遺伝的スクリーンによって検索した。その結果、Notch情報伝達系を構成する新規遺伝子候補の突然変異体として、narutoを同定した。narutoの原因遺伝子をクローン化した結果、narutoは、DEAH-box RNAヘリカーゼをコードしていることを明らかにしている(未発表)。本研究では、Narutoの発生過程における機能を明らかにするために、まず、narutoをホモにもつ突然変異体胚の表現型を解析した。naruto突然変異ホモの胚では、中枢神経系の発生異常が観察された(未発表)。また、UAS/GAL4システムを用いた、Narutoのin vivo強制発現系の作出に成功している。いろいろな組織で、Narutoを過剰発現させた結果、複眼や翅脈細胞に特異的な異常が誘発されることを明らかにできた(未発表)。DEAH-box RNAヘリカーゼによる特異的な細胞分化プロセスの制御は、本研究で始めて見出された。Narutoの生化学的機能を明らかにするために、大腸菌を用いて、組換え型Narutoタンパク質断片を合成し、これを精製した。Narutoタンパク質断片を抗原として、抗Naruto血清を調製した。抗Naruto抗体を用いた免疫染色法を用いて、ショウジョウバエ培養細胞やin vivoのNarutoタンパク質を検出したところ、Narutoが細胞質タンパク質であることを明らかにできた。
著者
竹蓋 幸生 水光 雅則 土肥 充 高橋 秀夫 竹蓋 順子 水町 伊佐男 田中 慎 西垣 知佳子 大木 充 大塚 達雄 村田 年
出版者
千葉大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

顕著な教育効果が期待できる教育方法の一つとして、CALLはすでに1960年代から外国語教師の間で知られていた。しかし、いわゆるLLと呼ばれる教育機器がそうであったように、CALLも長い間その期待に応えられる教育効果を示すことができなかった。それは、どちらも「教材の提示システム」としては素晴らしい可能性を持っていながら、妥当な「教材がない」からだと言われてきた。しかし教材不足の原因をさらに探っていくと、聴解力を中心とした基礎力及び総合力の教育法に関する「理論の不在」が原因であることが明らかとなった。我々はこの問題点を直視し、まずCALL教材の制作にも活用できる、「三ラウンド・システム」という緻密な指導理論を独自に開発した。特定領域研究の計画研究として行われた我々の研究はこの理論をベースにCALL教材を高度化し、外国語によるコミュニケーション能力の真に効果的な養成を可能にすることを目指したものである。本研究は、英語、独語、仏語、日本語の4言語グループでそれぞれのニーズに応じたCALL教材の高度化の研究を行ったが、開発された教材は、実験的試用の結果、どのグループのものも学習者、教師に好評であったと報告されている。英語グループは高度化された複数のCD-ROM教材を大学の通常の英語授業で約5ヶ月間試用し、学習効果を客観的な外部テストであるTOEICで測定した。その結果、上位群で大きなスコアの上昇が見られ、教材を試用しなかったクラスの成績との有意差も認められた。英語教材はすでに東京大学、京都大学をはじめ23大学での通常の授業への導入が予定されている。また日本語グループは国際学会での報告でも高く評価されたと聞いており、日本語教材は現在、米国、台湾を含め、5カ国で実験的試用が計画され、独語教材も北海道大学、都立大学、九州大学、立命館大学での導入が予定されている。
著者
月本 昭男 置田 雅昭 山我 哲雄 市川 裕 杉本 智俊 牧野 久実 桑原 久男 置田 雅昭 市川 裕 桑原 久男
出版者
立教大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

現在のイスラエル国ガリラヤ地方にあるテル・レヘシュ遺跡にて、5次にわたる考古学調査を行った。これによって、同地域における青銅器時代から鉄器時代にかけて見られる都市の発達とその文化的特性を明らかにすることができた。またアマルナ文書をはじめとする文献研究においては、上記テル・レヘシュが前2千年紀後半のエジプト碑文に言及されるアナハラトと同定されることが明らかになった。またこれまで発信地が不明であったアマルナ書簡237~239番がテル・レヘシュから発信された可能性が高いことを突き止めた。
著者
永渕 昭良
出版者
熊本大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

平成20年度にはカドヘリン分子と相互作用せずにPAR-3複合体とのみ相互作用する特殊なβカテニン・カドヘリン融合タンパク質の作製に成功した。本年度はこの融合タンパク質の性質とこの分子がPAR-3複合体とカドヘリン・カテニン複合体の相互作用を阻害するドミナントネガティブ因子として機能できるかどうか、解析を進めた。先ずこの融合タンパク質はカドヘリン非存在下でも内在性のαカテニンの発現増強を行うことを明らかにした。野生型のβカテニンではこの発現増強は見られず、融合タンパク質内のカドヘリン細胞質領域、特のそのC末端領域がαカテニンの発現状況であることも明らかにした。次ぎにこの融合蛋白質を通常の培養細胞に発現させたところ、目立った異常は見られなかった。しかし、上皮分化誘導をかけると上皮細胞接着装置複合体形成に微妙に影響を与える可能性が示唆された。より高い発現状態で上皮組織構築における影響を調べるために、ニワトリ初期胚においてこの分子の過剰発現を試みた。その結果、神経管上皮組織構築に異常が見られた。現在これが融合タンパク質によるドミナントネガティブ効果であるかどうか、詳細な検討を進めている。miRNA依存的な遺伝子発現抑制をカドヘリン、PAR-3などについて試みた。しかし用いたF9細胞では有効な発現抑制効果が見られなかった。miRNAの発現量が低い可能性が考えられるが、発現量を上げる手だてがなく、この計画は中断している。
著者
加藤 茂明 武山 健一 北川 浩史 高田 伊知郎 大竹 史明 武山 健一 北川 浩史 大竹 史明
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

乳癌、子宮内膜癌、卵巣癌などのホルモン依存性癌の治療薬として用いられている「選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)」は、組織特異的な転写制御能を発揮するがその分子機構は明らかではない。我々は、SERM依存的にエストロゲン受容体ERαに結合するタンパク質群の精製を試み、ブロモドメインを有するBRD4を同定した。BRD4はpositive transcription elongation factor b(P-TEFb)と共に転写伸長反応を促進する因子であることから、SERMによる転写制御は、転写伸長の促進/抑制による可能性が示唆された。
著者
加藤 茂明 武山 健一 高田 伊知郎 北川 浩史
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

ステロイドホルモン核内受容体の転写制御機能を分子レベルで理解する目的に、性ステロイドホルモン受容体の転写促進能及び新たな核内受容体転写共役因子の検索・同定を試みた。多くの前立腺癌や乳癌の発症は、アンドロゲンやエストロゲンといった性ステロイドホルモンに依存する。性ステロイドホルモンが標的細胞内において機能を発揮する主要な経路は、核内受容体を介した転写制御である。このような転写制御には転写共役因子複合体群が必須であり、クロマチンリモデリングやヒストン修飾といった様々な異なる機能の複合体群が同定されてきている。性ホルモン依存性癌の発症メカニズムを解明するためには、未知の複合体群の同定とその複合体機能の解明が必要である。そこで我々はエストロゲン受容体α(ERα)と機能的に相互作用する複合体の同定を試み、スプライソソーム主要構成因子複合体を同定した。更に、この複合体とERαとの結合はMAPキナーゼによるERαのリン酸化に依存することを見出した。またこの複合体はERαの標的遺伝子群に対してスプライシング効率を調節する機能をもつ。このような機能は、乳癌に関わりの深いエストロゲンシグナルと成長因子シグナルとのクロストークがmRNAスプライシングの調節を介して乳癌発症に関わる可能性を示唆する。
著者
柳澤 純 武山 健一 加藤 茂明
出版者
筑波大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

女性ホルモンであるエストロゲンの低下は、女性において骨量の低下を招くことから、エストロゲンは、骨量維持に極めて重要な役割を担っているものと考えられている。エストロゲンは、細胞内に存在するα、βの2つのサブタイプのエストロゲンレセプター(ERα、β)によって受容される。これらのレセプターはリガンド誘導性の転写因子であり、エストロゲン結合によって活性化される。近年、レセプターのユビキチン化とプロテアソームでの分解が、転写活性化に重要であることが示唆され、注目を集めている。本研究では、ERαがエストロゲン存在下でも非存在下でも、ユビキチン・プロテアソーム系によって分解を受けることを明らかにした。エストロゲン非存在下では、ERαはCHIPと呼ばれる蛋白質によってユビキチン化を受け、分解されることが示された。CHIPはhsp70/hsp90/hsp40などのシャペロン蛋白質と複合体を形成し、フォールディングに異常のあるレセプターを選択的にユビキチン化し、分解へと導くことにより、レセプターの品質を向上する役割を担っていることが明らかとなった(EMBO J.Y.Tateishi et al.,2004)。一方、ERβは、ERαと同じくエストロゲン依存的分解を示すものの、その分子機構はERαと異なることが判明した。ERβの分解には、N末端に存在する領域が必須であり、この領域を持たないERβ変異体は、エストロゲン依存的な分解を示さなくなる。本研究者らは、すでにこの領域を認識して結合するユビキチン・リガーゼの単離に成功しており、解析を進めている。また、エストロゲン依存的な分解を示さないERβ変異体も転写活性を示すことから、レセプターの転写活性に分解は必要でないことが示唆された。今後、レセプターの分解と骨代謝制御について研究を進める予定である。
著者
高野 光則
出版者
早稲田大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

アクチンフィラメントに沿ったミオシン分子の1方向的な滑り運動は,ミオシンとアクチンフィラメントとの間の相互作用エネルギー地形の特徴によって説明されることが示された(名古屋大・寺田,笹井氏との共同研究)。エネルギー地形はフィラメントに沿って非対称的であり,さらに,大局的にはファネル状になっていることがわかった。アクトミオシンの分子モーターとしての機能それ自体とカップルした,いわゆる"機能ファネル"がエネルギー地形に形成されているようである。また,分子間相互作用に関与すると推測されている一群のアミノ酸について置換の影響を調べたところ,過去のin vitro motility assayの実験結果と符合した。アクトミオシンの分子間相互作用の詳細に探りを入れるため,水分子をexplicitに取り入れたアクチン,ミオシンの全原子MD計算も本格的に開始した。まず,アクチン,ミオシンそれぞれ単体のアロステリーに注目した。現在のところ,結晶構造で示唆されているようなヌクレオチド結合状態の変化にともなう顕著な立体構造変化はみられない。また,アクチンの重合・脱重合過程の分子機構の解明にも取り組んだ。フィラメント構造の安定性には分子間の2種類の静電相互作用,および分子間の接触面の柔らかさが重要であることが分かった。関連研究として,プリオンの重合・脱重合過程についてMD計算による研究を行い,プリオンの脱重合過程のシミュレーション結果をもとに,プリオン重合の新たなメカニズムを議論した(岐阜大・中村,桑田氏との共同研究)。またアクトミオシンの滑り運動機構の研究成果をふまえ,キネシンー微小管系におけるキネシンの1方向的な滑り運動の計算機実験と理論解析を行った。
著者
塩見 美喜子
出版者
徳島大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

脆弱X症候群は最も高頻度に精神遅滞を伴うヒト遺伝病であり、その発症率は新生児の約四千人に一人である。精神遅滞以外には、自閉症的症状や睡眠障害、その他特異な身体的特徴を示す。病理学的には、神経シナプス形成の場であり、脳高次機能に直接関わることが確実視されている樹状突起状スパインの形態異常を示す。1991年、脆弱X症候群の原因遺伝子FMR1が同定された。FMR1の5'非翻訳部位に位置するCGGリピートの異常伸長と過剰なDNAメチル化によるFMR1遺伝子の転写阻害が発症原因であることがわかっている。私は、FMR1というたった一つの遺伝子の発現(機能)欠失が精神遅滞発症へと至る分子機序に興味を持っている。現在は、FMR1側系遺伝子をもたないショウジョウバエをモデル生物として選択し、ショウジョウバエFMR1(dFMR1)の機能解析をすすめている。主に生化学的手法を駆使することによって、交尾制御因子lingererがdFMR1と特異的に結合する事を突き止めた。lingerer欠損変異体ショウジョウバエ交接器には形態変化が観察されないため、神経筋系の異常が交尾接合異常の原因であると考えられる。dFMR1欠損変異体では神経筋結合のシナプス末端に異常が観察される事をふまえ、これら2つの遺伝子の相互関係を遺伝学、生化学両面から解析しつつある。lingererはUBAドメインを有することから、ユビキチン経路において何らか役割を担う因子であると推測された。最近、lingererはRNA結合性タンパク質であり、dFMR1/lingerer複合体はsmall RNA分子を含む事を見出した。現在、このRNA分子の配列決定を進めている。ヒトlingerer相同体もFMR1と結合する事を見出した。今後、ショウジョウバエに限らず、哺乳細胞も扱うことによって、FMR1とlingererの相互関係を解析する。
著者
塩見 春彦 岡野 栄之 塩見 美喜子
出版者
徳島大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

脆弱X蛋白質のショウジョウバエ相同体dFMR1タンパク質がRNAi分子経路と相互作用することを明らかにし、「RNAi分子装置の異常による疾患」という新しい領域を開いた。さらにdFMR1複合体(dFMR1-RNP)の精製を進め、この複合体にはRNAi関連因子AGO2とDmp68のみならず、性行動関連因子Lingererが含まれていることを明らかにした。また、この複合体には約20塩基長の小分子RNAが含まれていることも判明した。クローニングを進めた結果、約20塩基長の小分子RNAは内在性siRNAであると考えられた。そこで、AGO2と相互作用するは内在性siRNAのクローニング法を確立し、それらの配列情報を得た。また、Lingererにはヒト相同体(AD-010とNICE-4)が存在し、これらがヒトFMR1と相互作用することを確認した。一方、Musashi1 (Msi1)に結合する共役蛋白質の濃縮・精製を行い、MALDI-TOF MS法でPoly (A) Binding Protein 1 (PABP1)を同定した。Msi1はPABP1のeIF4G結合部位(PABP1のN末部位)に結合し、eIF4GとPABP1の結合を積極的に解除または弱めていることをin vitroの結合実験で明らかにした。またMsi2単独欠損マウスの個体の解析を行ったところ、背側神経節の発達不全のために脊髄との線維連絡が低下していることが明らかとなった。さらに、Msi2の標的遺伝子の解析を行ったところプライオトロピン(ptn)が同定され、ptnのmRNAの3'非翻訳領域に特異的に結合し、その発現を転写後調節していることが明らかになった。
著者
塩見 美喜子
出版者
徳島大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

脆弱X症候群は最も頻度の高い遺伝性精神遅滞症でありFMR1遺伝子内CGGリピートの伸長によるFMR1遺伝子の転写阻害を起因とする。FMR1はRNA結合蛋白質であり、特定のmRNAを細胞質loci(Stress Granule様)に集積することによってその翻訳抑制を促していると考えられている。翻訳抑制の標的mRNAや分子メカニズムは未だ解明されていない。我々は、脆弱X病態モデル動物として、ショウジョウバエFMR1相同遺伝子(dFMR1)の欠損体を作製し、この変異体が概日リズムの異常、記憶障害、性行動異常を示すこと、生化学的な解析から、dFMR1がRNAi必須因子AGO2や、性行動調節遺伝子lingererと相互作用することを明らかにした。最近、ヒト細胞において、RNAiやmicroRNAによる遺伝子発現抑制はP-bodyと呼ばれる細胞質lociで起こることが示された。ショウジョウバエ細胞においてもAGO2やlingerer、dFMR1が細胞質中の特定の同一lociに局在する事を明らかにした。これがショウジョウバエStress Granule様lociあるいはP-bodyに相当するか、現在解析している。ヒトP-bodyマーカー分子として知られるGW182のショウジョウバエ相同体はmicroRNA機構必須因子AGO1に特異的に結合する。GW182はUSBドメインとRNA結合性ドメインを一つずつ有する。Lingererも、GW182とのアミノ酸配列上の相同性は低いもののUSBドメインとRNA結合性ドメインを一つずつ有する。今後、dFMR1による標的mRNAの翻訳抑制と、AGO2-RNAi機構による遺伝子発現抑制の関係やmicroRNA依存的遺伝子発現抑制との相違性などを明らかにする。
著者
佐々木 あや乃 羽田 正 枡屋 友子 佐々木 あや乃
出版者
東京外国語大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
1999

11世紀に成立した、フェルドゥスィー作の『シャーナーメ(王書)』は、イラン人が自らの文化を強く意識した代表的作品であり、ペルシア語世界屈指の古典である。栄耀栄華を誇っていたペルシアが7世紀中葉にアラブに征服された後、沈黙の2世紀を経て、シュウービーヤと呼ばれる文化的ナショナリズムのうねりが起こってきた中で、ペルシア語文化圏に伝わる神話や伝説・語りを通して、フェルドゥスィーがまとめあげたのが、この『シャーナーメ』なのである。これまで、11世紀の成立時から現代に至るまでの各時代において、『シャーナーメ』の有した社会的意義を明らかにすることを目的とした研究を行ってきた。14年度はイラン本国に焦点を絞り、イラン文部省(高等教育省)、イラン国会図書館、フェルドウスィー大学(在マシュハド)等の協力を得て、以下の調査を行った。(1)イラン国内の『シャーナーメ』写本の所在についてのデータをまとめる。(2)イラン・イスラーム革命(1979年)の前後で、イランの国語教科書にとりあげられた『シャーナーメ』に変化がみられるか、変化があるとすればいかなる変化がみられるのかを探る。イラン文部省(高等教育省)で、革命前・後、革命後現政権が落ち着きを見せ始めた1990年代、及び現在の4期にわたり、小・中・高校の国語教科書を閲覧、調査にあたる。(3)イラン国内のマイノリティー(ペルシア語を母語としない人々)にとっての『シャーナーメ』とは何かについての研究を進めた。A.エンジャヴィー氏の『フェルドゥスィーの書』3巻をもとに分析を進め、現地での各マイノリティーヘのインタビュー等も含め、『シャーナーメ』とマイノリティーとの関わりを探索する。(4)『シャーナーメ』らしさが表れている物語の翻訳を試みる。中学・高校の教科書に必ずとりあげられている「ロスタムとアシュクブースの物語」では、戦闘場面の勇壮さが鋭い音とリズムの組み合わせ、スケールの大きな比喩表現を用いて描かれている。勇士たちの言葉の掛け合い、嘲笑や挑発までもが見事に表現しつくされた物語であり、傑作中の傑作であるといえよう。
著者
大和 雅之 秋山 義勝 小林 純 飛田 聡 菊池 明彦
出版者
東京女子医科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

電子線重合法により種々のモノマー濃度で温度応答性高分子のナノ構造体をガラス表面に固定化し、そのナノ構造体の特性をXPS、AFMや新たに開発したラマン分光イメージングを用いて詳細に調べるとともに、構造体の特性が細胞接着および脱着に与える影響についても調べた。その結果、ナノ構造体の厚みが薄ければ薄いほど、再表面の高分子鎖は脱水和され細胞接着性を示すのに対し、厚い構造体の場合は相転移以上の温度でも水和しやすく細胞非接着性を示すことを見出した。
著者
入來 篤史
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

行動経済学はバブルを引き起こすと考えられるヒトの非合理的な行動の一部について説明することを始めている。たとえば、「貨幣錯覚」と呼ばれる現象は、インフレーション下で名目所得が増加すると実質所得は減っていても所得が増えたように錯覚することであり、購買行動を誘発することでバブルを引き起こすと考えられる。一方、神経経済学はバブルに関わるヒトの非合理的な行動を支持する神経基盤を明らかにしつつあるが、バブルが発生しているときに取引しているヒトの脳活動はこれまでに計測されていない。我々は、実際にバブルの様相を呈し破綻に至った投資会社の株式価格データを用いて、実際に株取引を行っているときの脳活動を計測した。被験者は取引により収益を最大化するよう求められ、参加の謝金が収益に依存することを理解して実験に参加した。実験の結果、バブル期の買い注文に関わる脳活動のなかで被験者の収益に相関するのは腹内側前頭前野(BA32)であった一方、売り注文に関わる脳活動のなかで被験者の収益に相関するのは外側前頭前野(BA10)であった。これらは我々の仮説を支持する。また、fMRI実験後に行った時間展望尺度アンケートの結果と相関するバブル期の買い注文の脳活動が左下頭頂小葉(BA40)に見られた。これらの結果から、下頭頂小葉で計算される株価の見通しが認知バイアスとして働くことで腹内側前頭前野の非合理的判断を誘導したのではないだろうか。もしそうであるならば、下頭頂小葉がヒトで大きく発達したことが、経済的な予測を可能にするのと同時にバブルという病理を生み出しているのかもしれない。