著者
三尾 和弘
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

イオンチャネルやトランスポーター等の膜タンパク質の構造情報を得ることは、神経伝達や筋収縮、心拍のペースメーキング等に関する機構を理解し、関連疾病に対する画期的新薬を開発する上で不可欠である。我々は難結晶性タンパク質の構造解明に向けて、精製タンパク質の電子顕微鏡画像から情報学的に3次元構造を再構築する単粒子解析法の技術開発と構造解析を推進してきた。単粒子解析法を用いて、Ca^<2+>放出活性化Ca^<2+>(CRAC)チャネルの本体として近年同定されたOrai1陽イオンチャネルの構造解析を行った。動物細胞発現系を用いてOrai1タンパク質を発現・精製し、生化学検討から生理機能単位が四量体であることを突き止めた。電顕画像を元に三次元構造を21Å分解能で再構成し、高さ150Å、幅95Åの水滴形構造を持ち、小胞体膜上でCa^<2+>枯渇を感受するSTIM1と相互作用可能な細長い細胞質ドメインが示された。更に、細胞内で酸化ストレスセンサーとして働くKeap-1の構造解析を行い、サクランボ形の2つの房にβ・プロペラの数Å径の穴に相当する小さな貫通部分が見出された。周囲に存在するSH基で酸化ストレスを感知する機構が推察された。またタンパク質構造解析にもとづく薬物の作用機序解明も重要である。我々は喘息治療薬として開発が進められていたピラゾール化合物をリードにTRPC3チャネルを特異的に抑制する誘導体を見出し、その作用機序を電子顕微鏡を用いて検討した。光架橋と金粒子ラベルを組み合わせてTRPC3に結合したピラゾール誘導体を観察することで、単分子レベルでの薬物結合の可視化に成功し、細胞膜直下部を標的としていることを証明した。
著者
丹羽 仁史 山中 伸弥 升井 伸治 中尾 和貴
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

これまでに本研究において同定と機能解析を進めてきた遺伝子群について、マウス胎児性ならびに成体性線維芽細胞における多能性誘導能を網羅的に解析した。この結果、Oct3/4,Sox2,Klf4,cMycの4因子の組み合わせにより、これらの線維芽細胞に多能性を誘導することが可能であることを明らかにし、報告した(Takahashi, K. and Yamanaka, S., Cell, 2006)。さらに、これら4因子のうち、マウスES細胞における機能が明らかでなかったSox2とKlf4について、その解析を進めた。まず、Klf4については、これがES細胞に於けるLefty1プロモーターの活性化においてOct3/4およびSox2と協調的に働くことを明らかにした(Nakatake, Y. et al., Mol.Cell.Biol., 2006)。また、Klf4の強制発現が、マウスES細胞のLIF非依存性自己複製を維持しうることも見出している。一方、Sox2については、その機能がマウスES細胞の自己複製に必須であり、Sox2機能喪失は栄養外胚葉への分化を誘導すること、そしてSox2のマウスES細胞における主たる機能はOct3/4の転写活性維持にあることを明らかにした(Masui, S. et al., Nat.Cell.Biol., in revision)。さらに、マイクロアレイ法を用いた解析により、Oct3/4の標的遺伝子候補を網羅的に同定し(Matoba, R et al., PLoS One, 2006)、Klf4ならびにSox2の標的遺伝子についても同様の解析を進めることにより、マウスES細胞に於ける遺伝子発現制御の全体像を明らかにすることを現在試みている。
著者
江口 浩二 大川 剛直
出版者
神戸大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

情報爆発時代と呼ばれる今日、インターネット上に発信された情報は, 発信者にも制御不能な形で流通することが少なくなく、一旦流通したこれらの情報はアンドゥーすなわち発信される前の状態に戻すことは通常不可能である。また、これらは膨大な他の情報に埋没しがちであるため、既存の手段で探し当てるのは容易でない。本課題では、とくに、人物や組織等に対する誹謗中傷、ならびに、災害、事故、事件などの風評に着目し、それらの発見を支援するための技術基盤として、情報検索および情報追跡手法を開発する。平成20年度は主に以下の基本技術の開発に取り組んだ。1.逐次的に配信される文書系列に対するトピック追跡問題のため、情報理論に基づく語の重みづけ法を開発し、従来手法と比較して有意な改善を実現した。2.ブログポスト間のハイパーリンクとブログボストの潜在トピックに着目して、ブログ空間における情報伝搬を解析する手法を開発し、現実のプログデータを用いた評価実験によって有効性を示した。3.人物名や地名などのエンティティ(固有表現)がタグ付けされた文書の集合から、エンティティ間の関係を示すネットワークを推測する手法を実現した。4.タグで構造化された文書の集合から推定した潜在トピックに基づいて、構造化文書を効果的に検索する手法を実現した。Wikipediaデータを用いた評価実験によって提案手法の有効性を示した。5.マルコフ確率場モデルに基づく語間依存性のモデルにより、自然言語文で表現された質問から構造化クエリを構築し、高精度なWeb検索を実現した。
著者
肥前 洋一 船木 由喜彦 河野 勝 谷口 尚子 境家 史郎 荒井 紀一郎 上條 良夫 神作 憲司 加藤 淳子 井手 弘子
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

領域全体の主題である実験社会科学の確立に向け、政治学分野の実験研究を発展させた。具体的には、実験室実験・fMRI実験・調査実験を実施して「民主主義政治はいかにして機能することが可能か」という課題に取り組むとともに、政治学における実験的手法の有用性を検討する論文・図書の出版および報告会の開催を行った。
著者
加藤 徹 上田 望 竹本 幹夫 細井 尚子
出版者
明治大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

本研究は、特定領域研究「東アジアの海域交流と日本伝統文化の形成」の中の「演劇班」として、日本と中国に残存する演劇・芸能の調査研究を行った。具体的には、(1) 古代(7c頃)以降の散楽の源流(2) 中世(14c頃)以降の寧紹地域の演劇の伝播(3) 近世(18c頃)以降の明清楽の日本伝来の三つを中心に調査研究を行い、東アジアの芸能が「いつ、どのようなルートで、どのような要因によって伝播したか」を考察した。
著者
西條 辰義 下村 研一 蒲島 郁夫 大和 毅彦 竹村 和久 亀田 達也 山岸 俊男 巌佐 庸 船木 由紀彦 清水 和巳
出版者
高知工科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007-07-25

特定領域「実験社会科学」の研究者のほとんどがその研究成果を英文の学術雑誌に掲載するというスタイルを取っていることに鑑み, 社会科学の各分野を超えた領域形成が日本で始まり, 広がっていることを他の日本人研究者, 院生などに伝えるため, 和書のシリーズを企画し, 勁草書房の編集者と多くの会合をもち『フロンティア実験社会科学』の準備を実施した. 特定領域におけるステアリングコミッティーのメンバーと会合を開催し, 各班の内部のみならず, 各班の連携という新たな共同作業をすすめた. 方針として, (1)英文論文をそのまま日本語訳するというスタイルは取らない. (2)日本人研究者を含めて, 高校生, 大学初年級の読者が興味を持ち, この分野に参入したいと思うことを目標とする. (3)第一巻はすべての巻を展望する入門書とし, 継続巻は各班を中心とするやや専門性の高いものにする. この方針のもと, 第一巻『実験が切り開く21世紀の社会科学』の作成に注力した. 第一巻では, 社会科学の各分野が実験を通じてどのようにつながるのか, 実験を通じて新たな社会科学がどのように形成されようとしているのかに加えて, 数多くの異分野を繋ぐタイプの実験研究を紹介した. この巻はすでに2014年春に出版されている. 継続の巻も巻ごとで差はあるものの, 多くの巻で近年中に出版の見込みがついた. さらには, 特定領域成果報告書とりまとめを業務委託し, こちらも順調にとりまとめが進んだ. 以上のように本研究は当初の目標を達成した.
著者
早川 由紀夫 小山 真人
出版者
群馬大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

中学1年で学ぶ「大地の変化」のうち、火山に関する部分の学習プログラム(全9時間)をつくって授業実践した。1時間目:火山噴火とは2時間目:火山噴出物とマグマ3、4時間目:火山の形、溶岩の色、噴火の様子とマグマ5時間目:火山がつくる地形・地層と人間生活6、7時間目:火成岩と鉱物8時間目:火山の災害と恵み9時間目:火山について調べよう当初計画していた地震と地層については、教材をいくつか作成するに留まり、学習プログラムをつくるまでには至らなかった。作成した火山学習プログラムには、ITを利用したデジタル教材を多用した。デジタル教材はリアルでわかりやすい表現を可能にしただけでなく、これまでできなかった新しい表現方法も生み出した。しかし、デジタル教材だけで学習プログラムを作成してもよい授業ができないことがわかった。従来のアナログ教材にも捨てがたい長所がある。古くからある教材に工夫を加えて使ったり、独創的なアイデアで新しい教材を開発するなどしてアナログ教材も使い続けるべきである。両者を併用して、バランスの取れた学習プログラムを作成するのが望ましい。本研究で新規作成あるいは改良した教材のうち主なものは次のとおりである。アナログ教材:コーラ噴火、減圧発泡、カルメ焼き、弁当パック立体模型、かざんきっずデジタル教材:カシミール3D、ウェブ紙芝居(立体地形編、自然史編、おはなし編)、噴火勤画、かざんくいず、噴火カタログ、噴火史料データベース、浅間山の北麓地質図、浅間山の火山灰を測ろう、オーロラカメラ、地震波シミュレーション
著者
石村 真一 平野 聖
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

本研究の対象は、電気扇風機、テレビの2機種とする。電気扇風機に関しては、明治期から昭和40年代初頭までの文献史料、特許及び意匠権資料調査、日本国内及びヨーロッパのフィールド調査、テレビに関しては、松下電器産業株式会社の社史編纂室等の社内資料を通して調査した結果、次の内容が明らかになった。(1)電気扇風機の開発と発達日本の電気扇風機は、従来主張されてきた芝浦製作所が第1号を製作したのではなく、別の小規模の会社が先に開発したことが、明治10年代の新聞広告より確認された。明治末期あたりから芝浦製作所が量産体制に入るが、モーターは輸入品であった。大正中期になると三菱等の他のメーカーも電機扇風機の開発に乗り出し、海外のメーカーと提携してモーターの国産化を進めていく。大正後期にはレンタルの電気扇風機も出現し、国産電機扇風機の割合が増加する。それでも海外からの輸入品の方が多かった。昭和初期からガードの意匠権申請が多くなり、戦後までこの傾向が続く。電気扇風機のカラー化は戦後間もない時期から始まり、昭和20年代後期には定番化する。昭和30年代前半には高さの調節できる機能が加わり、電気扇風機の基本的な機能はこの時代に確立される。(2)テレビの開発と発達日本のテレビは昭和20年代後半に開発され、当初はブラウン管を輸入して17インチから出発した。また全体の形態は台置き型であった。ところが、昭和30年代前半には、4本脚型で国産のブラウン管を使用した14インチのテレビが主流になる。昭和30年代中葉には、カラーテレビも開発される。しかし、高価であったため、昭和30年代後半になっても普及しなかった。昭和40年あたりからコンソールタイプの家具調テレビが開発され、昭秘40年中葉には和風のネーミングと共に、カラーテレビとして広く普及した。
著者
大塚 秀高 高田 時雄 原山 煌 樋口 康一 牧野 和夫 森田 憲司 庄垣内 正弘 浅野 裕一 赤尾 栄慶 高山 節也
出版者
埼玉大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

(1)研究集会の開催:班の研究テーマである「出版文化論研究」を念頭に、班長の筆者により、複数回研究集会が企画・開催された。ちなみに、平成16年度の研究集会の概要は以下のようになっている。平成16年5月14・15の両日、14日は京都国立博物館の講堂、15日は京大会館の会議室を会場とし、C班と共催で企画・実施(七条学会)。七条学会のテーマは、京都国立博物館で開催中の「南禅寺展」にちなんだ仏教関係の研究と、班員共通の研究対象であるアジアの特殊文庫とした。D班の発表者は、計画班で牧野和夫と筆者大塚秀高、公募班で西村浩子と中見立夫であった。七条学会の開催をきっかけに、班員の間に、相互の研究テーマに対する認識が一層深まった。そもそもD班とC班は、平成13〜14年度に筆者大塚が代表を兼ねていたため、メンバー相互間に交流があり、D班公募班の高橋章則・高倉一紀・西村浩子などは、現C班代表の若尾政希が主催する研究会「書物・出版と社会変容」研究会で報告をしている。また、G班公募班の松原孝俊が開催した第4回海外所蔵日本資料データベース会議に、D班の高田時雄・中見立夫ならびに大塚が参加し、高田と大塚は報告を、中見は司会をつとめた。(2)調整班会議の開催:後半2年間にあっては、第1回調整班会議を平成15年11月28目におこなわれた第3回「東アジア出版文化に関する国際会議」にあわせて開催し、上記の七条学会につき協議した。第2回は七条学会の当日に開催し、第3回は6月26・27の両日、沖縄那覇で開催された平成16年度第6回研究集会のおりに開催した。(3)その他:班長である大塚は総括班会議に出席し、必要な情報についてはメールで班員に伝達した。また、総括班会議でニューズレターを班ごとの特集号とするよう提案し、第6号をD班特集号とした。第6号に各自の研究テーマに関する文章を寄せた者は、計画班で大塚秀高・原山煌・牧野和夫・森田憲司の4名、公募班で蔵中しのぶ・高橋章則・中見立夫・西村浩子の4名の、あわせて8名であった。また調整班の成果報告書を作成し、班員に配布した。
著者
福島 甫
出版者
東海大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2009

本研究申請時に比べ物質輸送モデルの研究が進み、黄砂降下量が一定精度で推定できるようになったこと、また衛星データが蓄積され、「年々変動の解析」がやりやすくなったことを勘案し、研究の重点を「鉄供給源と見なされている黄砂の沈着量と植物プランクトン量(衛星によるクロロフィル濃度推定値)」の関係の解析に移した。併せて東アジア域における大気汚染に関連する指標として、過去12年間にわたる日本近海におけるサブミクロン粒子の増減傾向に関する衛星データ解析を行った。(1)北太平洋における黄砂沈着量分布とクロロフィル濃度の関係に関する解析九大・竹村俊彦らのエアロゾル放射伝達モデルSPRINTARSによる最近13年間の北太平洋黄砂沈着量データと、MODIS・SeaWiFSデータによるクロロフィル濃度データの比較解析を北緯20~69°における北太平洋域の各小海域(緯度・経度各4°幅)について行った。黄砂沈着量とクロロフィル濃度については月間平均値・週間平均値(1・2週間の時間遅れ含む)どうしの直接的な相関を見いだすことはできず、年度内に成果としてまとめることはできなかった。しかし解析を通じて新たな着想が得られたので、引き続き解析を続ける予定である。(2)日本近海における小粒径エアロゾル増加傾向の解析1998~2009の期間の日本近海におけるSeaWiFSデータの独自再解析を行い、Aqua/MODISデータと重複する期間については両者の解析結果がよく一致すること、さらにこの間の小粒径粒子の割合が2006年頃を境に増加から減少に転じることを確認した。SPRINTARSによるモデル計算結果および「立山におけるサブミクロン粒子の体積濃度」の時系列データとの比較検討に関して本特定領域研究のA01班内の九大・鵜野および名大・長田と討論し、共同の成果としてとりまとめつつある。
著者
石黒 浩 中村 泰 池田 徹志
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

本年度は体全体を表現メディアとした人間に親和的なアンドロイドシステムの開発を目指して, 親和的動作の生成メカニズムの実装と効果の検証, さらに状況の応じたアンドロイドの振る舞い変化による人間との親和的な関係構築について検証した. 動作の生成メカニズムとして, アンドロイドの動作の印象に大きな影響を与える体全体の振動を軽減する枠組みを提案した. 神経減衰振動子と呼ばれるパターン生成器を用いた制御法とその学習アルゴリズムからなる枠組みで, この手法により振動現象を軽減することができた. この手法は関節間の連動性を調整する枠組みとしても利用可能であり, 学習の目的により動作の印象を変えることが可能であることから, 体全体の自然な動作を生成する枠組みとして期待できる. また, リアルな環境における振る舞いの違いがコミュニケーションへ与える影響の検証を目的として, アンドロイドを病院の診察場面に陪席させる実験を行った. 患者の笑顔や頷きに同期してアンドロイドに笑顔や頷きを表出させた場合に患者の医師に対する印象や診察への満足度が向上するなど, アンドロイドの振る舞いを変化させることにより, 患者の診察への印象が変化することを示した. この研究は, 人間との親和的な関係を構築できる情報メディアとしてのアンドロイドを開発するだけではなく, 人間のロボットの関わるシステムの構成要素を明らかにするものである. すなわち, 三者間のコミュニケーションにおける親和的な関係構築への影響を調査したものであり, アンドロイドが今後, どのような社会的な役割を担い, 親和的なコミュニケーションの実現に寄与するかを検証するための重要な一歩となっている.
著者
塚原 修一 橋本 昭彦 鎌谷 親善
出版者
国立教育政策研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

日本酒、醤油、藍、硝石などを製造する醸造/発酵技術は、日本国内において独自に発展を遂げた代表的な在来技術のひとつである。これらは江戸末期に相当な水準にあり、明治期にもいくつかの重要な改良が行われた。本研究では、博物館、製造業者などが所蔵する醸造/発酵技術関係史料を調査し、史料の体系化とともに、在来技術の発展過程における蘭学(当時の先端科学技術)との接点を明らかにする。本年度は日本酒の補足調査を行うとともに、硝石と藍を中心に史料の探索と複写を行った。(1)硝石は火薬、花火、それに硝子の主原料であり、金属加工にも欠かせない存在であって、肥料の主成分のひとつでもある。史料が残されている富山県五箇山の製造技術(硝石培養法)は戦国時代に始まり、のちに改良されて製品は国内で最高の品質と位置づけられていた。(2)当時の日本の硝子は中国に由来する鉛カリ硝子であり、硝石・鉛・硅砂を原料としていた。長崎に始まった硝子の製法は、江戸中期には京都、大坂、江戸など各地に広がった。蘭書の輸入解禁(1720年)により、品質が優れた輸入の洋硝子はソーダ硝子であって原料と製法が異なることが明らかにされた。(3)外国語を理解する研究者集団(蘭学者、洋学者)の周辺には、そこで得られた西洋科学技術の知見をもとに、既存技術の発展を企図する集団(彼ら自身は蘭書や洋書は直接読めない)が生まれた。彼らは既存技術と新規に得られた知識を折衷させて試行錯誤をおこなったり、新たな主張を提示して技術の向上を達成させた。しかし、日本酒や藍などの有機化学分野では、日本と西洋の自然環境のちがい、原料となる穀物や植物のいちじるしい差異のため、この時点で西洋の技術を受容することはできなかった。これら日本の在来技術は、明治期に行われた化学技術の体系的な摂取によって再編へ向かうこととなった。
著者
永田 知里 江崎 孝行
出版者
岐阜大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

エクオール産生能の規定因子を明らかにするため,尿中エクオール排出と食習慣を中心とした生活環境因子との関連性を評価した。対象は乳がんのケース・コントロール研究参加者の内コントロール424名である。生活習慣に関する質問票および食物摂取頻度調査票により回答を得た。午後2時に部分尿を採取し,尿中ダイゼイン,ゲニスタイン,エクオール,クレアチニンを測定した。エクオールの先駆物質であるダイゼインは大豆食品に含まれるが,soy challenge testを行っていない状態では,エクオール産生能を有しても大豆を摂取していない場合,尿中にエクオールが検出できない。そこでsoychallengeを行った状態に相当すると考えられる尿中ダイゼイン量(10nmol/mg CRE以上)の163名に限定した解析も行った。尿中エクオール検場者は20.0%であった。エクオール排出と体格,婚姻状態,閉経の有無,喫煙,飲酒,運動との関連性は認められなかった。食物摂取頻度調査票をもとに推定した各種栄養素,食品群のうち,乳製品摂取のみ全体および限定した対象で尿中エクオールとの有意な関連性が認められた。尿中エクオール排出者は乳製品摂取量が低かった。エクオール産生と腸内細菌に関する研究では便サンプルを用いて,マイクロアレイによる腸内細菌解析を行い,尿中エクオール産生との関連を調べた。腸内細菌解析は16名が終了した。尿中エクオールが検出された者はこのうち11(68.8%)である。96種類の細菌のうち,尿中エクオール排出と有意な関連性を示した菌はBifidobacterium adlescentis,Clostridium cocleatum,Clostridium perfringenS,Ruminococcus hansenii,Bacteroides fraglisでどれもエクオール排出者に多く検出された。
著者
手塚 恵子
出版者
京都学園大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

中華人民共和国文化部、国家民族事務委員会、中国民間文芸研究会は、『中国民間故事集成』『中国歌謡集成』『中国諺語集成』(「三套集成」)の編集と出版に関する通知」を、1984年に連名で発表した。この通知は、(1)全国各地で民間文学についての調査を普く行うこと、(2)民間文学の採録あたっては、科学的な方法をとること、(3)県を単位とした資料本を編集し印刷すること、(4)各省、自治区、直轄市は編集委員会をそれぞれ設置し、県や市の作成した印刷本をもとに、全国編纂委員会の方針に基づいて、故事、歌謡、諺語の各本を編集し、全国編纂委員会の審査を経た後に各々公開出版する、ことを各省(自治区・直轄市)に求めていた。広西壮族自治区ではこれを受けて、自治区レベルの編纂委員会である中国民間文学集成広西巻編纂委員会を設置し、(1)全ての郷や鎮にいたるまで調査をすること。(2)語り手(歌い手)の名前や地域を明記する他、可能なかぎり語られたままの形を記録するなど、科学的な方法による採集を、各県に求めた。各県では、文化局や文化館が中心となって、採集をすすめ、その成果を、故事、歌謡、諺語の三分冊にまとめ、中国民間文学集成広西巻編纂委員会へ提出した。中国民間文学集成広西巻編纂委員会は、故事、歌謡、諺語の各本を編集する三委員会を新たに設け、資料本などをもとに、『中国民間故事集成広西巻』『中国歌謡集成広西巻』『中国諺語集成広西巻』を編集し、中国民間文学集成全国編纂委員会と連名で、新華書店から刊行した。(『中国諺語集成広西巻』は刊行準備中)本研究では、広西壮族自治区各県で作成された故事編資料本を70冊複写するとともに、中国民間文学集成広西巻編纂委員会の編纂に関わる通達資料を入手し、さらに編纂に関わった編集者に聞き取り調査を行うことによって、広西壮族自治区における「三套集成」プロジェクトに関する基礎的な資料を整備した。
著者
大塚 哲平
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

放射性トリチウムによって汚染された金属材料の保管・廃棄にかかるハンドリングや除染時において、外部被爆や経口摂取による内部被爆を防止する観点から、金属表面および内部のトリチウム挙動を理解することは極めて重要である。金属材料表面には極めて高密度にトリチウムが偏在することが知られているが、この表面に偏在したトリチウムが及ぼす材料内部からのトリチウム放出に及ぼす影響は必ずしも明らかになっていない。本研究ではトリチウムトレーサー技術を利用し、金属中のトリチウム吸・放出挙動に及ぼす表面に偏在したトリチウムの影響を解明することを目的としている。水素溶解度や拡散係数が既知である各種金属にトレーサーレベルのトリチウムを含有した水素を高温気体吸収法(400℃,4kPa)により溶解し、これら金属の表面水素濃度をトリチウムイメージングプレート(IP)法により、また材料からの水素放出速度を液体シンチレーション計測法により測定し、両者の関係を調べた。この結果、表面に偏在した水素と内部に溶解した水素との存在量比によって、金属からの水素放出挙動が整理されることがわかった。ニッケル(Ni)のようなFCC金属では、内部に溶解した水素量が表面に偏在した水素量よりも多いため、金属からの水素放出は、見かけ上、内部に溶解した水素の拡散によるものである。表面に偏在した水素は、金属表面酸化膜に-OH基や吸着水として存在しており、深い捕獲サイトに捕獲されたものであると考えられる。このような表面捕獲水素の室温付近における脱捕獲速度は小さい。このため、内部に溶解した水素が放出されてしまえば、相対的に存在量が多くなった表面に偏在した水素の脱離が見えるようになる。同様に、表面酸化膜が水素を捕獲しやすい銅(Cu)やBCC金属からの水素放出は、内部に溶解した水素量が表面に偏在した水素量よりも少ないため、表面に偏在した水素の脱離によるものであるといえる。
著者
高田 秀重 熊田 英峰 高田 秀重
出版者
東京農工大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

鳥島で採取されたアホウドリの雛の吐瀉物10試料をプラスチックとそれ以外の内容物(大部分は魚介類;以下非プラスチックと略す)に目視により分け、それぞれについて重量の測定並びにPCBs、DDEおよびアルキルフェノール類の分析を行った。10試料中9試料からプラスチックが検出された。吐瀉物中のプラスチックの割合(乾燥重量比)は最大66%であった。プラスチックから数十ng/gのPCBsが検出された。この濃度は非プラスチック吐瀉物中の濃度と同程度あるいは一桁低かった。吐瀉物中のPCBs全量に占めるプラスチック由来のものの寄与は10試料中2試料で21%および55%と大きく、プラスチックが生物へのPCBsの輸送媒体になる可能性を示した。しかし、他の8試料ではプラスチックからの寄与は数%程度であった。DDEについても同様の傾向が認められた。プラスチック中のノニルフェノール濃度は数十ng/gであった。一方、非プラスチック吐瀉物からもノニルフェノールは検出され、その濃度はプラスチック中の濃度よりも高かった。特に、プラスチックが含有されていなかった試料からもノニルフェノールが検出されたことから、アホウドリが摂食する魚介類のノニルフェノール汚染が示唆された。吐瀉物中のノニルフェノール全量に占めるプラスチック由来のものの寄与は12%〜36%と有意な寄与が明らかとなった。しかし、非プラスチックからの寄与が全般に大きく、魚介類からのノニルフェノールの取り込みの寄与が大きいことが示唆された。
著者
横田 恭子 竹森 利忠 大西 和夫 高橋 宣聖 大島 正道 藤猪 英樹 高須賀 直美
出版者
国立感染症研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

目的:本研究では、SARS-CoVに対する有効なワクチン開発のための基礎的研究を行うことを目的とする。成果:ヒトに即時に応用することが可能なワクチンとして、マウスモデルにおいてUV照射不活化ウイルス粒子ワクチンを皮下に2回接種し、これにより誘導される免疫応答を解析した。その結果、中和活性のあるIgG抗体がUV照射不活化ウイルス粒子のみで誘導可能であり、しかも長期に存続すること、アラムアジュバントを使うことにより抗体価は更に10倍以上高まることを明らかにした。安全性を更に高めるためにUV照射にホルマリン処理を加え、UV照射のみの不活化ウイルス粒子により誘導される免疫応答との比較を行った。ホルマリン処理したUV照射不活化ウイルス粒子免疫群と未処理のUV照射不活化ウイルス粒子免疫群とで血中のSARS-CoVに対するIgG抗体価を比較すると、ホルマリン処理をすることにより血中抗体価が多少低下する傾向はあるものの、中和活性のある抗体の誘導は十分可能であった。これらのマウス骨髄中のSARS-CoVのNucleocapsidに対する抗体産生細胞数は両群ともに増加しており、その数に有意差は認められなかった。また、ワクチン接種部位の所属リンパ節(腋下)のT細胞はウイルス粒子抗原に反応していくつかのTh1/Th2タイプのサイトカインを産生するが、ホルマリン処理群では非処理群と比較してIFN-の産生量がやや高く、IL-5産生量はむしろ低い傾向にあった。一方、投与部位に関しては、石井孝司博士(感染研ウイルス2部)が開発したSARS抗原を発現する弱毒ワクシニアウイルス(DIs)ワクチンを用いて皮下接種と経鼻接種における感染防御効果を比較した。経鼻免疫で誘導される鼻腔粘膜IgA抗体は皮下免疫ではほとんど誘導されないにもかかわらず、高濃度の血中IgG抗体に依存してSARS-CoVの呼吸器感染に対する防御効果が認められた。従ってUVとホルマリンで不活化したウイルス粒子によるワクチンは、即座にヒトに応用可能な安全性の高いSARSワクチンとしてのみならず、今後の新興感染症への緊急対策として有効であることが示された。
著者
少作 隆子
出版者
金沢大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

<目的>内因性カンナビノイドは、脳の様々な領域において逆行性シグナルとして働いている。シナプス後ニューロンから放出され、それがシナプス前終末に存在するカンナビノイド受容体を活性化し、神経伝達物質の放出を抑制する。また、シナプス可塑性の誘導にも関与していることが報告されている。本研究では、培養海馬ニューロンを用い、内因性カンナビノイドの放出メカニズムについて詳しく検討した。<方法>ラットおよびマウスの海馬ニューロンを単離培養し、ニューロン・ペアよりIPSCを記録し、IPSCの振幅の変化を指標にしてシナプス後ニューロンからの内因性カンナビノイドの放出量を測定した。また、phospholipase C(PLC)産物であるジアシルグリセロールにより活性化されるTRPC6チャネルを強制発現させ、生きた細胞1個のPLC活性をリアルタイムでモニターした。<結果および考察>(1)Gq共役型受容体(group I代謝型グルタミン酸受容体など)の活性化と脱分極が同時に起こると内因性カンナビノイドが多量に放出された。(2)受容体活性化による内因性カンナビノイドの放出はPLCβ1欠損マウスでは消失していた。(3)受容体活性化により引き起こされる内因性カンナビノイドの放出は、細胞内Ca^<2+>濃度に強く依存していた。(4)TRPC6電流を指標としてPLCβ1活性を調べたところ、受容体を介するPLCβ1の活性化が細胞内Ca^<2+>濃度に強く依存し、また、脱分極によるCa^<2+>濃度上昇により著しく増強されることが示された。以上より、内因性カンナビノイドの合成・放出の律速酵素と考えられるPLCβ1が、生理的範囲において強いCa^<2+>依存性を示すため、細胞内Ca^<2+>濃度上昇と受容体活性化が同時に起こると強く活性化され、多量のカンナビノイドが放出されると考えられた。
著者
田辺 由幸 中山 貢一
出版者
岩手医科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

培養細胞レベルでは、周期的ストレッチ刺激により脂肪細胞の分化が抑制されるとともに、成熟脂肪細胞では幾つかのサイトカインの発現が一過的に誘導される。更に個体レベルの実験として、マウス腹部への局所バイブレーションの効果を調べた。高脂肪食を負荷したddY系雄性マウスを、無麻酔での30分間の物理的拘束に馴化したのち、片側の精巣周囲脂肪の真上の腹部に、皮膚の上から100Hz、30分間の振動刺激を1日2回与えた(n=16)。経過期間の体重と摂餌量の推移、16日後に摘出した各種脂肪組織重量/体重比、血中グルコース濃度には差が見られなかったが、バイブレーション負荷群では血漿中トリグリセリド(TG)濃度は僅かに低下する傾向があり、血漿中遊離脂肪酸(NEFA)濃度は有意に低値を示した。更に、振動刺激直下の精巣周囲脂肪組織では、刺激と反対側の脂肪組織に比べてTG/タンパク質比、ならびにPPAR-γ_2やSREBP-IcのmRNAレベルが有意に低下していた。同組織ではレプチンの発現も低下し、これに伴い血漿中レプチン濃度も低下傾向を示した。これらのことから、中・長期にわたる局所バイブレーション刺激を受けることにより、幾つかの遺伝子発現が抑制され、脂質代謝や一部のアディポサイトカインの発現分泌低下にまでつながる脂肪細胞の機能変化が生じることが示唆された。この際、刺激側の脂肪組織では、IL-6やIL-1βのmRNAレベルが増大する傾向にあり、軽度の前炎症性変化が生じていると考えられた。本研究から、局所バイブレーション刺激は体重減少につながる脂肪組織の減少効果はもたらさないが、刺激部位直下の脂肪組織の中・長期的な遺伝子発現および代謝内分泌機能の変化を介して、肥満に付随する高レプチン血症などが改善される可能性が示唆された。前炎症性反応の意義や功罪については今後の課題として更に検討を進める。
著者
田中 光一
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

中枢神経系の興奮性シナプス伝達は主にグルタミン酸により担われており、グルタミン酸シグナル伝達の解明は脳機能解明の基礎となる。我々の分野では、神経回路網の形成・脳高次機能におけるグルタミン酸シグナリングの機能的役割を分子、細胞、個体レベルで明らかにすることを目指す。また、過剰なグルタミン酸は神経毒性を示し、様々な精神神経疾患の原因と考えられている。精神神経疾患におけるグルタミン酸シグナル伝達の病態生理学的役割を解明し、それら疾患の新しい治療法の開発を目指す。グルタミン酸トランスポーターは、神経終末から放出されたグルタミン酸を取り込み、神経伝達物質としての作用を終わらせ、細胞外グルタミン酸濃度を低く保つ機能的分子である。現在まで脳のグルタミン酸トランスポーターには、グリア型2種類(GLT1, GLAST)と神経型2種類(EAAC1, EAAT4)の計4種類のサブタイプが知られている。本年度は、グルタミン酸トランスポーターのうち、GLASTまたはEAAC1をノックアウトしたマウスでは眼内圧の上昇を伴うことなく網膜神経節細胞が脱落し視神経が変性するという、正常眼圧緑内障と同様な症状が生ずることを見出した。GLAST欠損マウスではミューラー細胞内のグルタチオン含量が減少しており、グルタミン酸受容体阻害薬を与えると神経節細胞の減少が抑えられた。一方、EAAC1欠損マウスでは神経節細胞の酸化ストレスに対してさらに脆弱化していた。これらの事実からこれらのグルタミン酸トランスポーターはグルタミン酸による興奮毒性の抑制に加えてグルタチオンの合成にも必要であることが示唆される。このマウスは正常眼圧緑内障の始めてのモデルであり、今後のこの種の疾患の治療法の探索に有望なモデルであるとしている。